説明

海洋生物を原料としたヘパリン様物質の調製方法

【発明の課題】海洋生物から抗血液凝固活性を有するヘパリン様物質を調製し取得する方法、当該方法によって得られたヘパリン様物質、並びに当該ヘパリン様物質を用いた抗血液凝固剤を提供する。
【解決手段】ホヤの内臓、体壁または体表粘膜層を原料として、(a)グリコサミングリカンを取得する工程、及び(b)当該グリコサミングリカンの中からヘパリン様物質を単離する工程を有するホヤ由来ヘパリン様物質の調製方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海洋生物から抗血液凝固活性を有するヘパリン様物質を調製し取得する方法に関する。また本発明は、当該方法によって得られたヘパリン様物質、並びに当該ヘパリン様物質を用いた抗血液凝固剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ヘパリンはグリコサミノグリカンの一種であり、抗血液凝固剤として広く臨床の現場で使用されている。ヘパリンの抗血液凝固作用は、主にヘパリンに特徴的な5糖構造がセリンプロテアーゼインヒビターであるアンチトロンビンに結合することにより、凝固カスケードの最終的な段階であるフィブリノーゲンをフィブリンに変換する酵素トロンビン(ファクターIIa)やファクターXaを阻害することによって生じる。
【0003】
ところで、従来より臨床で使用されているヘパリンは、ブタの小腸粘膜やウシの肺を原料とするものである。しかしながら、ブタ由来のヘパリンは、宗教上の理由で用いることができない場合があるほか、ウシ由来のヘパリンについても、最近のウシ海綿状脳症(BSE)やこれと同様にプリオンが関与してヒトに感染・発症するクロイツフェルト・ヤコブ病の発生により、動物に由来するヘパリンの使用は厳しく制限されるようになっている。
【0004】
このため、抗血液凝固剤を必要とする医薬品業界では、ウシやブタなどの動物以外のものからヘパリンを供給することが急務とされており、動物に由来しないヘパリン原料の探索が世界中で精力的に行われている現状である。
【0005】
ウシやブタ以外の、例えば鯨や鮫などの海洋生物の軟骨や皮といった硬軟組織を原料としてヘパリン等のムコ多糖を製造する方法を開示する文献として特許文献1を挙げることができるが、具体的に抗血液凝固活性を有するヘパリンが得られることについては記載されていない。また、本件出願人は、七面鳥の腸管からヘパリン様多糖を発見したが、主なグリコサミノグリカンはヘパラン硫酸であり、硫酸基を殆どもたず、抗血液凝固活性を示さなかった(非特許文献1参照)。このように、ウシやブタなどの動物以外から、従来のヘパリンに匹敵する抗血液凝固活性を有するヘパリン様物質は未だ見いだされていないのが実情である。
【特許文献1】特開昭49-26234号公報
【非特許文献1】Warda, M., Mao, W., Toida, T., Linhardt, R.J., Comp.Biochem. Physiol., 134, 189-197 (2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ウシやブタなどの動物以外の海洋生物から抗血液凝固活性を有するヘパリン様物質を調製する方法を提供することを目的とする。さらに本発明は、かかる方法によって得られる海洋生物に由来するヘパリン様物質、及びこれを用いた抗血液凝固剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意検討を重ねた結果、海産の軟体動物であるマホヤの内臓及び体壁、並びにその体表の粘膜層に多くのヘパリン様ムコ多糖が含まれていることを見いだした。かかるヘパリン様ムコ多糖について構造解析をしたところ、従来医薬用途に使用されているウシやブタに由来するヘパリンと若干構造は相違するものの、それに匹敵する程度の抗血液凝固作用を有しており、医薬品(抗血液凝固剤)として十分に使用可能であることを確信した。本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
【0008】
すなわち、本発明は、下記に掲げるものである:
項1.ホヤの内臓、体壁または体表粘膜層を原料として、
(a)グリコサミングリカンを取得する工程、及び
(b)当該グリコサミングリカンの中からヘパリン様物質を単離する工程
を有するホヤ由来ヘパリン様物質の調製方法。
項2.(b)の工程が、グリコサミングリカンからデルマタン硫酸を除去することによって行われる、項1記載のホヤ由来ヘパリン様物質の調製方法。
項3.グリコサミングリカンからデルマタン硫酸の除去が、グリコサミングリカンをコンドロイチナーゼABCまたはコンドロイチナーゼBで処理することによって行われる、項2記載のホヤ由来ヘパリン様物質の調製方法。
項4.(a)の工程が、ホヤの内臓、体壁または体表粘膜層を脱脂する工程、除タンパク工程、及び陰イオン交換処理工程を有するものである、項1乃至3のいずれかに記載のホヤ由来ヘパリン様物質の調製方法。
項5.項1乃至4のいずれかの方法によって得られるホヤ由来ヘパリン様物質。
項6.分子量12〜30kDaを有し、抗血液凝固活性を有するものである項5記載のホヤ由来ヘパリン様物質。
項7.100 IU/mg以上の抗血液凝固活性(anti IIa活性)を有するものである項5記載のホヤ由来ヘパリン様物質。
項8. anti Xa活性を有するものである、項5または6記載のホヤ由来ヘパリン様物質。
項9. 20 units/mg以上のanti Xa活性を有するものである、項8記載のホヤ由来ヘパリン様物質。
項10.項5乃至9のいずれかに記載するホヤ由来ヘパリン様物質を有効成分とする抗血液凝固剤。
【0009】
以下、本発明について詳細に説明をする。
【0010】
本発明のヘパリン様物質の調製方法は、原料としてホヤの内臓、筋肉層、または体表粘膜層を用いることを特徴とし、当該原料に対して下記の2工程の処理を施すことによって実施することができる:
(a)グリコサミングリカンを取得する工程、及び
(b)当該グリコサミングリカンの中からヘパリン様物質を単離する工程
ここで原料として用いられるホヤは、原索動物門、尾索綱、ホヤ目、壁性亜目に属する海洋生物であり、マボヤ、アカボヤ、エボヤ、シロボヤ、イタボヤなどを挙げることができる。好ましくはマボヤである。ホヤはその全てを丸ごとヘパリン様物質の原料として使用することができるが、好ましくは身体表面を包む硬い被のう部分を除いた筋肉層及び内蔵であり、更に好ましくは体表表面を覆う粘膜層である。特に、粘膜層はホヤの体表から常に産生分泌されるものであるため、ホヤを生かした状態で何度も取得することができ、有限資源の有効利用という観点から好ましい原料である。
【0011】
これらホヤの内臓、筋肉層、または体表粘膜層から、グリコサミングリカンを取得する方法は、特に制限されず、生体組織からグリコサミングリカンを取得する公知の方法を利用することができる〔例えば、Sakai S., Onose J., Nakamura H., Toyoda H., Toida T., Imanari T., Linhardt R. J.: “Pretreatment procedure for the microdetermination of chondroitin sulfate in plasma and urine.”Anal. Biochem., 302:169-174 (2002)参照〕。
【0012】
かかる方法(グリコサミングリカンの取得方法)は、基本的には、原料とする生体組織を脱脂する工程、除タンパクする工程、及び陰イオン交換処理工程を備えている。
【0013】
脱脂工程は、具体的には、ホヤの内臓、筋肉層、または体表粘膜層をアセトン、メチルエーテル、ヘキサン、クロロホルム・メタノール混液等の非極性または低極性の溶媒で抽出処理することによって実施することができる。
【0014】
除タンパク工程は、基本的に、上記の脱脂工程で得られた脱脂処理物をタンパク分解処理し、次いで分解されたタンパク質を除去することによって行われる。ここでタンパク分解処理に使用されるタンパク分解酵素としては、アクチナーゼE、パパイン、トリプシン、アルカラーゼ等を挙げることができる。好ましくはアクチナーゼEである。なお、アクチナーゼE(商品名)は3種類の特異性の異なるプロナーゼ混合試薬であり、例えば科研製薬(株)などから商業的に入手することができる。
【0015】
タンパク分解処理は、具体的には上記で得られた脱脂処理物を乾燥した後、使用するタンパク分解酵素に適したpHを有する緩衝液の下、タンパク分解酵素に適した温度条件下で実施される。例えば、タンパク分解酵素としてアクチナーゼEを用いる場合を例に挙げると、中性域、好ましくはpH7〜9、より好ましくはpH8前後に緩衝能を有する緩衝液中で、30〜60℃、好ましくは40〜50℃、より好ましくは43〜48℃で、1〜60時間、好ましくは24〜48時間消化処理する方法を挙げることができる。なお、使用する酵素量は、処理する対象物のタンパク質1gに対して1000〜1,000,000チロジン単位、好ましくは10,000〜100,000チロジン単位の範囲から適宜選択使用することができる。
【0016】
タンパク分解処理後、反応液を加熱処理して酵素反応を止め、固液分離して固体残渣を除去し、上清を取得する。かかる上清は必要に応じて水で透析することもできる。なお、透析に使用する透析膜としては、カット分子量が10,000〜50,000の範囲にあるものが好ましい。次いで、得られた上清(タンパク分解処理物)を除タンパク処理に供する。除タンパク処理も、特に制限されず、例えば界面活性剤や塩(例えば、塩化セチルピリジニウムや塩化セシウム)やアルコール(例えば、エタノール)などを沈殿剤として利用した、タンパク沈殿処理等の慣用方法を利用することができる。
【0017】
斯くして上清に、ホヤの内臓、筋肉層、または体表粘膜層に由来するムコ多糖類を取得することができる。次いで得られた上清を陰イオン交換処理に供することにより、ムコ多糖類から所望のグリコサミノグリカンを取得することができる。
【0018】
陰イオン交換処理に使用される樹脂としては、特に制限されることなく、慣用の例えばアミノ基、一級、二級、三級、四級アミンをリガンドとする塩基性陰イオン交換樹脂を挙げることができるが、好ましくは強塩基性の陰イオン交換樹脂である。強塩基性の陰イオン交換樹脂としては、DEAEセファデックス、DEAEセファセル、QAEセファデックス、QAEセルロース(以上日本ミリポア株式会社)、ダウエックスX8(ダウケミカル社)等を挙げることができる。
【0019】
陰イオン交換処理は、陰イオン交換カラムクロマトグラフィーを用いて行うことが好ましい。具体的には、上記で得られた上清(ムコ多糖類)を陰イオン交換カラムクロマトグラフィーに供して、一旦陰イオン交換樹脂に付着させた後、段階的NaCl濃度勾配溶出法により、所望のグリコサミノグリカンを含む画分を取得する。目的のヘパリン様多糖を含むグリコサミノグリカン画分の取得は、紫外部(波長204nm)における吸収、カルバゾール−硫酸法(Bitter and Muir, Anal Biochem. 1962 Oct; 4: 330-4)によるウロン酸の存在、および血液凝固時間の延長作用を指標とした抗凝固活性(例えばSchjetlein R., Sletnes K.E., Wisloff F., Thromb. Res., 69(2):239-50 (1993)等参照)を確認しながら行うことができる。
【0020】
斯くして得られるグリコサミノグリカン画分には、実験例で示すように、主としてデルタマン硫酸とヘパリン様物質が含まれている。よって、次いで当該グリコサミングリカン画分の中からヘパリン様物質を単離する工程を実施する。かかる工程は、グリコサミングリカン画分の中からデルタマン硫酸を除去することによって実施することができる。
【0021】
デルタマン硫酸を除去する方法としては、特に制限されないが、例えばコンドロイチナーゼABCまたはコンドロイチナーゼBを用いて消化除去する方法を好適に例示することができる。
【0022】
コンドロイチナーゼABCまたはコンドロイチナーゼBによる消化処理は、具体的には上記で得られたグリコサミングリカン画分を乾燥した後、使用するコンドロイチナーゼABCまたはコンドロイチナーゼBに適したpHを有する緩衝液の下、コンドロイチナーゼABCまたはコンドロイチナーゼB処理に適した温度条件下で実施される。具体的には、中性域、好ましくはpH7〜9、より好ましくはpH8前後に緩衝能を有する緩衝液中で、25〜50℃、好ましくは30〜45℃、より好ましくは35〜40℃で、
1〜72時間、好ましくは24〜48時間消化処理する方法を挙げることができる。なお、使用する酵素量は、処理する対象物のグリコサミングリカン1gに対して1,000〜1,000,000単位、好ましくは10,000〜100,000単位の範囲から適宜選択使用することができる。
【0023】
上記コンドロイチナーゼABCまたはコンドロイチナーゼBによる消化処理後、反応液を加熱処理して酵素反応を止め、固液分離して固体残渣を除去し、上清を取得する。かかる上清は必要に応じて水で透析することもできる。なお、透析に使用する透析膜としては、カット分子量が10,000〜50,000の範囲にあるものが好ましい。
【0024】
斯くして、ホヤからヘパリン様物質を取得することができる。得られるヘパリン様物質のゲル濾過クロマトグラフィー〔(Chaidedgumjorn A.et al., J.Chromatogr. A, 959, 95-102, 2002)、カラム:TSKgel G3000SWXL HPSEC column(内径4 mm長さ30 cmを望ましくは2本、より望ましくは3本を直列に連結)、溶離液:5 mM ホウ酸(pH 7.0に10 mM NaOHで調製)、検出器:電気伝導度検出器あるいは紫外部吸収検出器〕による分子量としては、12〜30kDaを挙げることができる。
【0025】
実験例で示すように、本発明の方法により得られるホヤ由来のヘパリン様物質は、抗血液凝固活性として、anti IIa活性およびanti Xa活性を有している。
【0026】
実験例において得られたホヤ由来のヘパリン様物質の抗血液凝固活性(anti IIa活性)は100〜120 IU/(ヘパリン様物質乾燥重量1mg)であり、ブタ小腸由来のヘパリンの抗血液凝固活性(anti IIa活性)170 IU/(ヘパリン乾燥重量1mg)に比して低いものの、米国及び日本において医薬品(抗血液凝固剤)として使用できるヘパリンの抗血液凝固活性(anti IIa活性)〔120 IU/(ヘパリン乾燥重量1mg)以上〕に匹敵するものであり、医薬品(抗血液凝固剤)の有効成分として十分に使用可能であると考えられる。
【0027】
よって、本発明は、上記方法によって得られるホヤ由来のヘパリン様物質を提供するとともに、それを抗血液凝固の有効成分として含む医薬組成物、具体的には抗血液凝固剤を提供するものである。
【0028】
本発明が提供する医薬組成物(抗血液凝固剤)は、上記方法で得られるホヤ由来のヘパリン様物質を、抗血液凝固のための有効量含むものであればよい。ホヤ由来のヘパリン様物質単独からなるものであっても、別途、薬学的に許容される担体または添加剤を含むものであってもよい。かかる担体及び添加剤として具体的には、例えばデキストリン、乳糖、粉末水飴の他、これらの製品に通常用いられる保存剤、安定剤、または酸化防止剤などの薬学的に許容される添加物を挙げることができる。
【0029】
またその形態を特に制限するものではなく、例えば粉末状、顆粒状、錠剤状などの固体状;液状、乳液状等の溶液状;またはペースト状等の半固体状などの、任意の形態に調製することができる。好ましくは注射剤の態様を挙げることができる。注射剤としては、凍結乾燥粉末を用時、注射用蒸留水、生理食塩水等に溶解して投与する形態が好ましい。投与部位としては、静脈内が適当である。なお、注射剤として製剤化する際には安定化剤として、例えばアルブミン、ゼラチン、マンニトール等を添加することができ、こうすることによって製剤化工程での分解、吸着等による失活が防止でき、また、製剤の保存安定性の向上を期待することができる。
【0030】
投与量は、疾患の重症度、患者の体重等により異なるが、ヘパリン様物質の乾燥重量に換算して、通常10μg〜10mg/Kg・dayの範囲を例示することができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明の方法によれば、海洋生物由来のヘパリン様物質を提供することができる。当該ヘパリン様物質は、医薬品の抗血液凝固剤として許容される程度の抗血液凝固(anti IIa活性およびanti Xa活性)を備えることができるので、医薬組成物(抗血液凝固剤)の有効成分として有用である。特に、本発明のヘパリン様物質によれば、ウシやブタなどの哺乳動物を原料としないことにより、BSE等の人畜共通感染症等といった問題が生じない安全性の高い医薬組成物(抗血液凝固剤)を提供することができる。
【0032】
また、従来より、ヘパリンには線維芽細胞増殖阻害作用(抗腫瘍活性)〔例えば、Bobek V., Kovarik J., Biomed. Pharmacother., 58(4):213-219 (2004)等参照〕、および血液清澄作用(リパーゼ活性増強効果)〔例えば、Hussain M.M., Obunike J. C., Shaheen A., Hussain M. J., Shelness G. S., Goldberg I. J., J. Biol. Chem., 275(38):29324-30 (2000)等参照〕の他、100以上のタンパク質と結合し、そのタンパク質の作用を増強あるいは阻害する作用があること〔例えば、Linhardt R. J., Toida T.: Z. J. Witczak & K. A. Nieforth eds., In "Carbohydrates in drug design". Marcel Dekker Inc., New York, pp. 277-341 (1997) 等参照〕等が知られている。特に血管内皮成長因子と結合することによるヘパリンの血管新生阻害作用は、抗腫瘍活性薬としての効果が期待されている。これらのことから、本発明のヘパリン様物質にも同様な効果が期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、実験例及び実施例を挙げて、本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0034】
実験例1 ホヤ内臓及び体壁からのグリコサミノグリカンの抽出
マホヤ160g(外皮を除く)を内臓とともに細断し、10倍量のアセトンを用いて2回ホモジナイズして脱脂処理した。得られたホモジネートを、シリカゲルを入れたデシケーター中で乾燥させた後、アクチナーゼE(科研製薬(株)製)(マホヤ体壁・内臓などのホモジナイズ物の脱脂残渣乾燥重量1g当たり10mgの割合で使用)を含む0.05Mトリス-アセトン緩衝液(pH8.0)中で45℃、48時間処理した。
【0035】
その後、タンパク質分解処理をしたホモジネートを100℃の水浴に30分間浸漬して酵素反応を停止し、4℃条件下で30分間遠心分離(1500xg)を行い、固液分離した。得られた上清をセルロース膜チューブ(Spectra Por dialysis tubing MWCO3500:Spectrum Medical Industries, Inc.)に入れて水で透析し、透析液を凍結乾燥した。次いで、得られた凍結乾燥粉末を、2mM MgCl2を含む20mM Tris-HCl緩衝液(pH8)に再懸濁して、エンドヌクレアーゼ(EC3.1.30.2)(2,500unit/g;Serratia marcescens由来) 0.1gで、37℃で12時間消化した。
【0036】
エンドヌクレアーゼ処理後、最終濃度が80容量%となるようにメタノールを添加して、グリコサミノグリカンを沈殿させた。沈殿物を回収し、脱イオン水10mLに溶解し、次いで脱イオン水に対して4℃で終夜透析をして、得られた透析液を凍結乾燥した。得られた粗精製グリコサミノグリカンを10mLの水に再懸濁して、これを強塩基性陰イオンカラムクロマトグラフィー〔カラム樹脂:SAX Dowex macroporous(Sigma Chemical Co.)、カラム径と長さ:2cm i.d.x30cm〕に供して、カラム(SAXカラム)に結合させた。なお、カラム樹脂は、予め、2倍容量の1M酢酸ナトリウム水溶液と水で洗浄して、活性化させておいたものを使用した。このカラムを、水、並びに0.05Mの塩化ナトリウム水溶液で洗浄して、低分子量の夾雑物を溶出除去した。次いで、0.3、0.5、1.25、1.5、2.0及び3.0Mの塩化ナトリウム水溶液を使用して、NaCl濃度勾配溶出法により、所望のヘパリン様物質を含むグリコサミノグリカン画分を溶出、回収した。具体的には、SAXカラムから溶出した各画分から、204 nmにおける紫外部吸収、カルバゾール−硫酸法(Bitter and Muir, Anal Biochem. 1962 Oct; 4: 330-4)によるウロン酸の存在、およびマウス血液を用いた血液凝固時間の延長作用(例えばSchjetlein R., Sletnes K.E., Wisloff F., Thromb. Res., 69(2):239-50 (1993)等参照)を指標として、ヘパリン様物質を含むグリコサミノグリカン画分を回収した。
【0037】
回収したヘパリン様物質を含むグリコサミノグリカン画分を、セルロース膜チューブ(MWCO 3500)に入れて、脱イオン水に対して4℃で終夜透析を行い、透析液を凍結乾燥した。ヘパリン様物質の回収量は200mg/(kg:出発湿組織重量)であり、ブタ小腸からのヘパリンの回収量250mg/(kg:出発湿組織重量)に匹敵する量であった。
【0038】
以上の方法で得られたヘパリン様物質を含むグリコサミノグリカン画分の凍結乾燥物を、下記の構造解析及び抗血液凝固活性測定に使用した。
【0039】
実験例2 ホヤ由来のヘパリン様物質の二糖組成分析
(i)酵素解重合処理
実験例1でマボヤから調製したヘパリン様物質を含むグリコサミノグリカン画分の凍結乾燥物を緩衝液(100mM NaCl含有50mM リン酸ナトリウム緩衝液、pH7.1)に溶解して5mg/ml濃度の試料に調製した。このヘパリン様物質を含む試料(グリコサミノグリカン画分)(5mg/ml)を、密封容器内で、Proteus Vulgaris由来のコンドロイチナーゼABC(EC4.2.2.4)(0.2units/100μg 50mM 酢酸ナトリウム、pH8.0)と、37℃で24時間反応させて消化処理した。
【0040】
(ii)電気泳動
上記のコンドロイチナーゼABC処理前のヘパリン様物質を含む試料と、コンドロイチナーゼABC処理後のヘパリン様物質を含む試料(グリコサミノグリカン画分)を、セルロースアセテート膜を用いた電気泳動に供した。電気泳動は、Separax(6x22cm, Jookoo Co.,)を用いて、泳動液として0.47Mの蟻酸と0.1Mのピリジン緩衝液(pH3.0)を使用して1mA/cmにて60分間泳動することにより行った。泳動後、セルロースアセテート膜上のグリコサミノグリカンを、70容量%エタノールに溶解した0.05%のアルシアンブルー(Alcian Blue)で染色した。
【0041】
結果を図1に示す。図1中、レーン1及び2はそれぞれデルタマン硫酸(DS:標準品)及びブタ小腸由来のヘパリン(HP:標準品)を泳動した結果であり、各々デルタマン硫酸及びヘパリンの単一バンドを示している。レーン3及び4はそれぞれコンドロイチナーゼABC処理後のグリコサミノグリカン画分、及びコンドロイチナーゼABC処理前のグリコサミノグリカン画分を泳動した結果を示す。図1から分かるように、コンドロイチナーゼABC処理前のグリコサミノグリカン画分には、デルタマン硫酸及びヘパリンに相当する二本の太いバンドが認められたが(レーン4)、コンドロイチナーゼABC処理後のグリコサミノグリカン画分には、コンドロイチナーゼABC処理によってデルタマン硫酸が二糖まで分解された結果、ヘパリンに相当する一本のバンドが認められた(レーン3)。
【0042】
(iii)二糖組成分析
コンドロイチナーゼABCによる消化処理後、反応液を沸騰水浴に5分間浸して反応を停止し、二糖組成分析に供した。具体的には、上記のコンドロイチナーゼABC消化試料(以下「ホヤ由来ヘパリン試料」ともいう)を80容量%エタノール水溶液で処理して、ヘパリン/ヘパラン硫酸を沈殿させ、得られた沈殿物をヘパリンリアーゼI(heparinase EC 4.2.2.7)、ヘパリンリアーゼII(heparitinase II)、及びヘパリンリアーゼIII(heparitinase I EC 4.2.2.8)(いずれも、Flavobacterium heparinum由来)で消化した(Griffin et al., Carbohydr Res. 1995 Oct 16; 276(1):183-97)。
【0043】
なお、ヘパリンリアーゼによる消化処理は、上記各ヘパリンリアーゼを、順次0時間(ヘパリンリアーゼI)、8時間後(ヘパリンリアーゼII)及び16時間後(ヘパリンリアーゼIII)に、それぞれの最終濃度が0.02mU/(mg:ホヤ由来ヘパリン試料乾燥重量)となるように加え、37℃で24時間インキュベーションすることによって行った。消化後、反応液を加熱、脱塩及び凍結乾燥処理して、当該凍結乾燥試料について二糖組成分析を行った。
【0044】
一方、コントロールとして、上記のマボヤに由来するヘパリン様物質を含むグリコサミノグリカン画分(5mg/ml)に代えて、ブタ小腸由来のヘパリン(Ceisus Laboratories, Inc.)を用いて上記と同様に処理した。
【0045】
上記で得られたホヤ由来ヘパリン試料の酵素処理物及びブタ小腸由来ヘパリンの酵素処理物を、それぞれポストカラム蛍光検出器を備えた逆相イオンペア高速液体クロマトグラフィー(HPLC)に供して、各酵素処理物に含まれる二糖の組成を分析した(Toyoda et al., J Biol Chem., 2000 Jul 21; 275(29): 21856-61)。
【0046】
なお、上記HPLC条件は下記の通りである:
<HPLC条件>
・カラム:Senshu Pak Docosil (4.6 i.d. x 150mm)
・カラム温度:55℃
・流速:1.1ml/min
・溶離液:溶液A:水、溶液B:0.2M 塩化ナトリウム、溶液C:10mMのテトラブチル硫化水素アンモニウム、溶液D:50%アセトニトリル水溶液
・溶離液のグラジェントプログラム:
0 -10分:溶液B1-4%、溶液C12%、溶液D17%、溶液A残部
10-11分:溶液B4-15%、溶液C12%、溶液D17%、溶液A残部
11-20分:溶液B15-25%、溶液C12%、溶液D17%、溶液A残部
20-22分:溶液B25-53%、溶液C12%、溶液D17%、溶液A残部
22-29分:溶液B53%、溶液C12%、溶液D17%、溶液A残部
29-49分:溶液B1%、溶液C12%、溶液D17%、溶液A残部。
【0047】
カラムから溶出した液に、ダブルプランジャーポンプを用いて、0.5%(w/v)の2-シアノアセトアミド溶液と0.25Mの水酸化ナトリウムを共に、0.35ml/minの流速で加え、これを125℃に設定した反応コイル(内径0.5mm、長さ10m)を通過させて反応させ、次いで冷却コイル(内径0.25mm、長さ3m)にて冷却して、この液を蛍光検出器により特定波長(励起波長:346nm、発光波長410nm)における蛍光強度測定した。
【0048】
結果を図2に示す。なお、図2は、ホヤ由来ヘパリン試料の酵素処理物(Halocynthia rotetz)、及びブタ小腸由来ヘパリンの酵素処理物(Porcin intestinal mucosa)の二糖組成を対比したものである。併せて他の生物〔ウシ小腸(Bovine intestinal mucosa)、ウシ腎臓(Bovine kidney)、Drosphila meranogasterCaenorhabditis elegance〕についても、上記と同様の方法によって調製したヘパリン/ヘパラン硫酸を、ヘパリンリアーゼ処理して二糖組成分析を行った結果を示す。
【0049】
なお、ヘパリンはアミノ糖(グルコサミン)とウロン酸(グルクロン酸あるいはイズロン酸)からなる二糖単位の繰り返し構造を持つ枝分かれのない直鎖の多糖である。これらのアミノ糖とウロン酸の水酸基は硫酸基で置換されており、これを前述するようにヘパリンリアーゼ〔へパリチナーゼI:硫酸基の多い部分(二糖単位当たり3個の硫酸基がある)を切断する酵素、へパリチナーゼIII:硫酸基の少ない部分(二糖単位あたり0あるいは1個の硫酸基)を切断する酵素、ヘパリチナーゼII:中程度の硫酸基を持つ部分(二糖単位あたり2個)を切断する酵素)で切断すると、この酵素がリアーゼであるためにウロン酸の4,5の部分に二重結合が生じて(その結果、グルクロン酸からもイズロン酸からも全く同じ構造の不飽和ウロン酸が生じる)不飽和結合をもつ二糖単位が生成する。図2に記載する「0S」は硫酸基を持たない不飽和二糖、「NS」はグルコサミンのアミノ基に1個硫酸基を持つ不飽和二糖、「6S」はグルコサミンの6位の水酸基に1個硫酸基を持つ不飽和二糖、「2S」はウロン酸の2位に硫酸基を1個持つ不飽和二糖、「NS6S」はグルコサミンのアミノ基と6位の水酸基に合計2個の硫酸基を持つ不飽和二糖、「2SNS」はウロン酸の2位とグルコサミンのアミノ基に合計2個の硫酸基を持つ不飽和二糖、「2S6S」はウロン酸の2位とグルコサミンの6位の水酸基に合計2個の硫酸基を持つ不飽和二糖、および「2SNS6S」はウロン酸の2位とグルコサミンのアミノ基および6位の水酸基に合計3個の硫酸基を持った不飽和二糖を示す。ヘパリンは、硫酸基を豊富に含むことが知られており、この硫酸基が抗血液凝固活性にとって非常に重要であることが明らかにされている。
【0050】
図2の結果からわかるように、「2S」(ΔUA2S-GlcNAc:Δは不飽和を意味する)と「2S6S」(ΔUA2S-GlcNAc6S)を除き、ブタ小腸由来のヘパリンに含まれる全ての構成二糖がマボヤ由来のヘパリン様物質にも含まれていた。また、二糖分析よるとGlcNAcの存在量は、マボヤ由来の精製されたヘパリン様物質に含まれる全ての二糖のうちの20%以下であった。これらのことから、マボヤから単離されるムコ多糖は、GlcNAc を51-79%も含んでいるヘパラン硫酸ではなく、ヘパリンと呼ぶべき構造をもつことがわかる(Toida et al., J Chromatogr B Biomed Sci Appl. 704(1-2):19-24.1997)。さらに、マボヤ由来ヘパリンの硫酸基を持たない不飽和二糖〔ΔUA-GlcNAc(図中「0S」と表記)〕、モノ硫酸化不飽和二糖〔ΔUA-GlcNS(図中「NS」と表記)、ΔUA-GlcNAc6S(図中「6S」と表記)〕、及び完全に硫酸化されているΔUA2S-GlcNS6S(図中「2SNS6S」と表記)の組成は、ブタ小腸由来のヘパリンの組成と類似していた。
【0051】
実験例3 ホヤ由来のグリコサミノグリカンの構造解析
(1)化学分析
カルバゾール法−硫酸法(Bitter and Muir, Anal Biochem. 1962 Oct; 4: 330-4)を用いて、実験例1で得られた、ヘパリン様物質を含むグリコサミノグリカン画分中のウロン酸量を測定した。具体的には、ヘパリン様物質を含むグリコサミノグリカン画分の凍結乾燥物をリン酸ナトリウム緩衝液に溶解した試料(5mg/ml)1mL、 1%カルバゾール−ホウ酸試薬2 mL、および濃硫酸2 mLの混合物を100℃で30分間加熱し、冷却後、波長525nmでの吸光度を測定し、その吸光度から、グルクロノラクトンを標準品として作成した検量線を利用して、上記グリコサミノグリカン画分中のウロン酸量を求めた。その結果、原料として用いたマホヤ湿重量1キログラム中に200 mg(200 mg/kg)のへパリン様物質が含まれていることが確認できた。
【0052】
次いで、アズール法(Templeton D.M., Connect Tissue Res.;17(1):23-32, 1988.)を用いて、実験例1で得られた、ヘパリン様物質を含むグリコサミノグリカン画分に含まれる硫酸基量を測定した。具体的には、1mLの重量濃度の明らかな試料溶液(ヘパリン様物質を含むグリコサミノグリカン画分の凍結乾燥物をリン酸ナトリウム緩衝液に溶解した試料(5mg/ml))に0.5%アズールA試薬を加えて、波長540 nmにおける吸光度の上昇(メタクロマジー)を測定し、グリコサミノグリカン画分に含まれる硫酸基量を求めた。その結果、二糖単位当たり2.2-2.4個の硫酸基が存在すると推定された。
【0053】
(2)核磁気共鳴(NMR)スペクトル
実験例1で得られたコンドロイチナーゼABC処理前のグリコサミノグリカン画分と、実施例2で得られたコンドロイチナーゼABC処理後のグリコサミノグリカン画分のそれぞれについて、一次(One-dimensional)1H-NMRを、NMR装置(JEOL GSX500a)にて測定した。具体的には、測定試料(凍結乾燥物)1mgを、D2O(99.6%)に溶解した後、0.45μ孔のシリンジフィルターに通し、これを凍結乾燥した。これを再度D2O(99.6%)に溶解し、凍結乾燥する操作を2回繰り返して、プロトンを除去した。これをNMR用サンプルチューブに移して、NMR測定を行った。コンドロイチナーゼABC処理前のグリコサミノグリカン画分の結果を図3Aに、コンドロイチナーゼABC処理後のグリコサミノグリカン画分の結果を図3Bに示す。
【0054】
図3Aの結果からわかるように、ホヤから調製したグリコサミノグリカン画分には高い硫酸化度を示すシグナルが多く観察された。特に5.5、3.25、及び4.03ppm附近にはそれぞれグルコサミン(GlcN)のH-1、H-2、及びH-5に相当するシグナルが、また4.33、4.2、及び4.1ppm附近にはそれぞれ2-スルホイズロン酸(IdoA2S)のH-2、H-3、及びH-4に相当するシグナルが観察された。また、4.6-4.8ppm附近には、例えばデルタマン硫酸のイズロン酸(IdoA)やGalNAcのH-1のプロトンに相当するアノマープロトンシグナルが観察された。これらのシグナルの存在は、ホヤから得られるグリコサミノグリカン画分には高い硫酸化度を有するデルタマン硫酸が含まれていることを示している。コンドロイチナーゼABC処理によって、これらのデルタマン硫酸を除去した試料の1H-NMRの結果(図3B)と対比して、ホヤに含まれるグリコサミノグリカンには、約6割の割合でヘパリン様物質が含まれていると考えられる。
【0055】
実験例4 ホヤ由来のグリコサミノグリカンの抗血液凝固作用
ヘパリンはそれ自体に抗血液凝固作用はないが、アンチトロンビンに結合することにより、凝固カスケードの最終的な段階であるフィブリノーゲンをフィブリンに変換する酵素トロンビン(ファクターIIa)やファクターXaを阻害することによって、抗血液凝固作用を発揮する。そこで、ファクターXaの不活性化活性を測定するアッセイキット(Heparin Assay Kit; Sigma)を使用して、実験例2(1)で調製したコンドロイチナーゼABC処理後のグリコサミノグリカン試料の抗血液凝固活性を測定した。このキットの測定原理は、ファクターXaとトロンビンが過剰に存在する反応系では、ヘパリンの濃度に依存してファクターXaが阻害されることから、反応系のファクターXaの残存活性をファクターXaに特異的に反応する発色基質で測定することで、反応系内のヘパリン濃度(抗血液凝固活性)を判定するというものである。
【0056】
その結果、実験例2で調製したコンドロイチナーゼABC処理後のグリコサミノグリカン画分の抗血液凝固活性(anti Xa活性)は、20〜35 unit/mgであり、ファクターXaを不活化する活性がある、すなわちヘパリンと呼ぶに相応しい多糖であることがわかった。
【0057】
また、実験例2で調製したコンドロイチナーゼABC処理後のグリコサミノグリカン画分の抗血液凝固活性(anti IIa活性)をChromozyme TH (Boehringer Mannheim, IN, USA)を基質として用いる方法(新鮮なヒト血漿をアンチトロンビン源として使用)により測定した。
【0058】
その結果、実験例2で調製したコンドロイチナーゼABC処理後のグリコサミノグリカン画分の抗血液凝固活性(anti IIa活性)は、100-120 IU/(ヘパリン様物質乾燥重量1mg)であった。ブタ小腸由来のヘパリンの抗血液凝固活性(anti IIa活性)〔170 IU/ヘパリン乾燥重量1mg〕には及ばないものの、米国及び日本で医薬品として認可されているヘパリンの抗血液凝固活性(anti IIa活性)の基準値〔(120 IU/ヘパリン乾燥重量1mg)以上〕を考えると、本発明の方法で得られるホヤ由来のグリコサミノグリカン(ヘパリン様物質)は、医薬組成物(抗血液凝固剤)として使用できる可能性があると思われる。
【0059】
実験例5 ホヤ体表粘膜層
ホヤ体表から粘膜をヘラで物理的にこそげ落として、上記実験例1(グリコサミノグリカン画分の調製)および実験例2(i)(コンドロイチナーゼABCでの消化処理)と同様にして、ホヤ由来ヘパリン試料を調製した。得られたホヤ由来ヘパリン試料を、実験例2(ii)および(iii)、並びに実験例4と同様に、電気泳動および二糖組成分析、並びに血液凝固作用の評価を行った。その結果、実験例1においてホヤの内臓及び体壁から調製したホヤ由来ヘパリン試料の結果と同様の結果が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】実験例1で得られたコンドロイチンABC処理前のホヤ由来グリコサミノグリカン画分(レーン4:GAG before digested by chondroitinase ABC)、実験例2(i)で得られたコンドロイチンABC処理後のホヤ由来グリコサミノグリカン画分(レーン3:GAG after digested by chondroitinase ABC)、デルタマン硫酸(DS)の標品(レーン1:DS(intact))、及びブタ小腸由来精製ヘパリン(HP)の標品(レーン2:HP(intact))の電気泳動像(セルロース−アセテート膜)を示す。
【図2】上から、ホヤ由来ヘパリン試料の酵素処理物(Halocynthia rotetz)、ブタ小腸由来ヘパリンの酵素処理物(Porcine intestinal mucosa)ウシ小腸由来ヘパリンの酵素処理物(Bovine intestinal mucosa)、ウシ腎臓由来ヘパリンの酵素処理物(Bovine kidney)、Drosphila meranogasterヘパリンの酵素処理物(Drosphila meranogaster)、Caenorhabditis eleganceヘパリンの酵素処理物(Caenorhabditis elegance)の二糖組成を対比したものである。図2中、(1)「0S」は硫酸基を持たない不飽和二糖、(2)「NS」はグルコサミンのアミノ基に1個硫酸基を持つ不飽和二糖、(3)「6S」はグルコサミンの6位の水酸基に1個硫酸基を持つ不飽和二糖、(4)「2S」はウロン酸の2位に硫酸基を1個持つ不飽和二糖、(5)「NS6S」はグルコサミンのアミノ基と6位の水酸基に合計2個の硫酸基を持つ不飽和二糖、(6)「2SNS」はウロン酸の2位とグルコサミンのアミノ基に合計2個の硫酸基を持つ不飽和二糖、(7)「2S6S」はウロン酸の2位とグルコサミンの6位の水酸基に合計2個の硫酸基を持つ不飽和二糖、および(8)「2SNS6S」はウロン酸の2位とグルコサミンのアミノ基および6位の水酸基に合計3個の硫酸基を持った不飽和二糖を、それぞれ示す。
【図3】A;コンドロイチナーゼABC処理後の、ホヤ由来のヘパリン様物質を含有するグリコサミノグリカン画分の1H-NMRスペクトル、B:コンドロイチナーゼABC処理前の、ホヤ由来のヘパリン様物質を含有するグリコサミノグリカン画分の1H-NMRスペクトル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホヤの内臓、体壁または体表粘膜層を原料として、
(a)グリコサミングリカンを取得する工程、及び
(b)当該グリコサミングリカンの中からヘパリン様物質を単離する工程
を有するホヤ由来ヘパリン様物質の調製方法。
【請求項2】
(b)の工程が、グリコサミングリカンからデルマタン硫酸を除去することによって行われる、請求項1記載のホヤ由来ヘパリン様物質の調製方法。
【請求項3】
グリコサミングリカンからデルマタン硫酸の除去が、グリコサミングリカンをコンドロイチナーゼABCまたはコンドロイチナーゼBで処理することによって行われる、請求項2記載のホヤ由来ヘパリン様物質の調製方法。
【請求項4】
(a)の工程が、ホヤの内臓、体壁または体表粘膜層を脱脂する工程、除タンパク工程、及び陰イオン交換処理工程を有するものである、請求項1乃至3のいずれかに記載のホヤ由来ヘパリン様物質の調製方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかの方法によって得られるホヤ由来ヘパリン様物質。
【請求項6】
100 IU/mg以上の抗血液凝固活性(anti IIa活性)を有するものである請求項5記載のホヤ由来ヘパリン様物質。
【請求項7】
anti Xa活性を有するものである、請求項5または6に記載するホヤ由来ヘパリン様物質。
【請求項8】
請求項5乃至7のいずれかに記載するホヤ由来ヘパリン様物質を有効成分とする抗血液凝固剤。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−89632(P2006−89632A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−277929(P2004−277929)
【出願日】平成16年9月24日(2004.9.24)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 
【出願人】(000175283)三栄源エフ・エフ・アイ株式会社 (429)
【Fターム(参考)】