説明

海洋生物リン脂質及びゲニステインを含有する抗血管新生組成物

【課題】ゲニステインの抗血管新生作用を増強した組成物を提示する。
【解決手段】海洋生物リン脂質及びゲニステインを含有する抗血管新生組成物。この組成物は、相乗的な抗血管新生作用を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海洋生物リン脂質及びゲニステインを含有する抗血管新生組成物に関する。
【0002】
また、本発明は、上記抗血管新生組成物を用いた、血管新生を抑制することが有効な疾患や心身機能障害の治療法または予防法にも関する。
【背景技術】
【0003】
血管新生とは、新しい血管の増殖、成長のことを意味する。血管新生は、様々な生理的、病的な状態で重要な役割を果たしている。
健康体においては、創傷治癒における細胞の増殖期に、受傷後の組織への血流回復のために、そして女性の月経期や妊娠期に血管新生が起こる。
健康体では、血管新生の促進や抑制は、「on」「off」の切り替えにより制御されている、「on」のスイッチは、血管新生刺激因子であり、「off」スイッチは、血管新生抑制因子と呼ばれている。
通常の健康体においては、血管新生の促進や抑制を制御するために、血管新生因子と血管新生抑制因子のバランスがとられている。
【0004】
血管新生のコントロールの欠如は、多くの深刻な疾患を引き起こす。いわゆる「血管新生過剰」が引き起こす疾患は数多く知られている。これらの疾患には、乾癬、関節炎、網膜症、黄斑変性症およびがんなどがある。例えば、がんは、正常な成長や臓器と比べて高い代謝効率を有している。従って、がんはより高い栄養供給を得る為に、より多くの血液を必要とするので、血管形成の抑制は、腫瘍の成長を抑制または制御する1つのメカニズムとなりうる。このように、血管新生抑制因子はこれら疾患の進展を遅延させることができる。
【0005】
脂質ベースの製剤を含む、数多くの抗血管新生組成物や製剤(非特許文献1、2)が知られている。これらの1つに、様々な種類のサメの筋肉組織由来のものがある(特許文献1)。
【0006】
ゲニステイン(Genistein、4',5,7-trihydroxyisoflavone)は大豆イソフラボンの一種類である。分子構造 C15H10O5 、分子量 270.24 daltons。
【化1】


日本をはじめアジアの人々は性別特有のガン(乳ガン、前立腺ガンなど)や大腸ガン、更年期障害、骨粗鬆症などの罹患率が低いことが疫学的調査から知られている。アジア人は大豆食品を日常的に多く摂取するため、その中に含まれるイソフラボンがその健康に大きく関わっていると考えられてる。イソフラボンの中でも特に、ゲニステインは血管内皮細胞増殖と生体内の血管新生形成を抑制することが知られている。ゲニステインは生体内の血管新生形成の抑制作用機序としては、それぞれvascular endothelial growth factor 165, platelet-derived growth factor, matrix metalloprotease-2 やmatrix metalloprotease- 9 などの活性抑制を示す。(非特許文献3−13)。
【0007】
しかし、ゲニステインの作用は十分とはいえないので、その作用を増強することが要望されている。
【特許文献1】特表2004-516272
【非特許文献1】Scappaticci,Expert Opinion on Investigational Drugs,12:923-32.
【非特許文献2】Caceres and Gonzalez,Puerto Rico Health Sciences Journal,22:149-51.
【非特許文献3】Polkowski K, et al. Acta Pol Pharm. 57(2):135-55. (2000)
【非特許文献4】S. Kapiotis, et al. Arteriosclerosis, thrombosis, and vascular biology. 17:2868-2874 (1997).
【非特許文献5】Setchell, K, et al. J. Nutr., 131, 1362S-1375S (2001).
【非特許文献6】King, R. A, et al. J. Nutr., 126, 176-182 (1996).
【非特許文献7】Slavin, J. et al. Am. J. Clin. Nutr., 68 (suppl), 1492S-1495S (1998).
【非特許文献8】Xu, X. et al. J. Nutr., 125, 2307-2315 (1995).
【非特許文献9】T Akiyama, et al. J. Biol. Chem. 262:12, 5592-5595, (1987)
【非特許文献10】Y Matsukawa, et al. Cancer Research, 53:6 1328-1331, (1993)
【非特許文献11】J Markovits, et al. Cancer Research, 49:18, 5111-5117, (1989)
【非特許文献12】Y. Li, et al. J. Nutr. 132:3623-3631, (2002)
【非特許文献13】Fotsis T, et al. J Nutr. 125(3 Suppl):790S-797S.(1995)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、ゲニステインの効果を増強することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、海洋生物リン脂質とゲニステインとの混合物により、ゲニステインの抗血管新生効果を増強することを見出すことにより、本発明を達成した。
第一に、本発明では海洋生物リン脂質とゲニステインを含有する抗血管新生組成物を提供する。
本発明の1つ目の具体例として、海洋生物リン脂質はサメ肉抽出物および/あるいはイガイ肉抽出物である。イガイ肉抽出物はニュージーランド産の緑イガイ(Perma canaliculus)の肉の抽出物が望ましい。
【0010】
海洋生物リン脂質とゲニステインの抗血管新生組成物は、さらにオリーブ油のような食用油を含有することが望ましい。また、その抗血管新生組成物はビタミンEを含有することが望ましい。
抗血管新生組成物に含有される海洋生物リン脂質とゲニステインの重量に基づく比率は、相乗効果をもたらすならば、どのような重量比率でも良いが、海洋生物リン脂質:ゲニステインが、10:0.1〜10:10、好ましくは10:0.5〜10:5の範囲である。最適なのは10:0.7〜10:1である。
【0011】
第二に、本発明では、抗血管新生組成物を哺乳動物に投与することにより、血管新生を抑制することが有益な疾患もしくは障害の治療方法、または予防方法を提供する。
【0012】
また、本発明は、血管新生を抑制することが有益と考えられる疾患や障害を予防や治療するための、抗血管新生組成物も提供する。
【0013】
本発明の血管新生を抑制することが有益な疾患や障害は、関節炎、網膜症、黄斑部変性、及びがんである。治療や予防の対象は、哺乳動物、例えば、ヒト、犬、猫等の愛玩動物、ウシ、ブタ、ニワトリ等の家畜動物であるが、特にヒトであることが望ましい。
【0014】
また、本発明は、血管新生を抑制することが有益と考えられる疾患や障害を、予防及び治療するための医薬を製造するための、抗血管新生組成物の使用も提供する。
【発明の効果】
【0015】
驚くべきことに、本発明である、サメ肉抽出物やイガイ肉抽出物のような海洋生物リン脂質とゲニステインとの混合物は、ゲニステイン単独の場合と比較し、顕著に抗血管新生作用を増強する。
【0016】
よって、海洋生物リン脂質を、ゲニステインと組み合わせることによって、各々を単独で用いた時よりも抗血管新生作用を増強することができる。特に、サメ肉抽出物および/もしくはイガイ肉抽出物から製造した海洋生物リン脂質とゲニステインとの組み合わせは、各々を単独で用いた時よりもこれら抽出物の抗血管新生作用を増強することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明では、海洋生物リン脂質とゲニステインを含有する抗血管新生組成物を提供する。特に、サメ肉抽出物および/またはイガイ肉から海洋生物リン脂質とゲニステインを含有する抗血管新生組成物に関するものである。また、抗血管新生作用とは、血管形成抑制作用、すなわち、新しい血管の増殖や成長を阻害または抑制する作用を意味する。
【0018】
本発明における「海洋生物リン脂質」という用語は、海洋生物から抽出されたリン脂質を意味し、例えば、サメの肉から抽出されたリン脂質、イガイの肉から抽出されたリン脂質などが挙げられる。ここで、海洋生物とは、海に生息する動物、植物、微生物などの生物を意味し、海洋生物は、加工されていても、未加工であっても良い。
【0019】
本発明における「抽出」という用語は、固体および/または液体を特定の溶媒と混合した後の溶媒画分または溶媒画分から溶媒を除去した後の物質を意味する。抽出物は、クロマトグラフィーやろ過などの通常の方法にて分画、単離されたものも含む。
【0020】
抽出方法は溶媒抽出法を含むが、必ずしもそれに限定されない。適切な溶媒であればどのようなものでもよく、溶媒は、有機溶媒、水性溶媒、またはそれらの混合溶媒も考えられる。エタノールは有機溶媒(または、水性エタノール混合溶媒)としての代表的なものであるが、他の有機溶媒(例えば、メタノール、酢酸エチル、ジクロロメタン、または、これらの混合溶媒)を使用しても差し支えない。さらに、抽出溶媒として超臨界二酸化炭素のような、超臨界流体も使用されうる。
【0021】
本発明における「サメ肉抽出物」という用語は、上記の溶媒を用いてサメの肉から得られたりん脂質を意味する。特に、特許文献1において開示されているサメ肉から抽出されたりん脂質を意味する。ここで言う「サメ肉」とは、可食部を含めた全ての魚肉部分を指すが、誤解を避けるために、内臓部分は含まないものとする。
本発明のサメ肉抽出物は一般的に、およそ15℃〜25℃の範囲を指す環境温度で、一般的に油またはペーストのような油状の物質である。
【0022】
このサメ肉から抽出されたりん脂質の主要成分は、ホスファチジルエタノールアミン(PE)やホスファチジルコリン(PC)のようなリン脂質であることが分かっている(特許文献1)。リン脂質含有量は通常20〜40重量%の範囲である。さらに、通常ドコサヘキサエン酸(DHA)、アラキドン酸(AA)、エイコサペンタエン酸(EPA)等のリン脂質脂肪酸を含んでいる。他の魚類抽出物または製品と比較すると、サメ肉抽出物は総脂肪酸に対して高い濃度(20〜35重量%)のDHAを含有している。DHAサンプルは血管形成の強力な抑制剤であることが知られている(特許文献1)。サメ肉抽出物中のDHA濃度が高い事から、DHAはこの抽出物の血管形成抑制能力の一端を担っている成分であるという事が推察される。また、サメ肉抽出物は、トリグリセライド濃度が低い(10重量%未満)点でも他の魚類からの抽出物や製品と明らかに異なる。
【0023】
代表的な抽出法は、1種またはそれ以上のサメの肉片をブレンダーを使用して細かくし、フリーズドライ(または、風乾でもよい)した後、抽出溶媒(例えばエタノール)と混合する。通常、その混合物は室温で1〜24時間撹拌後、濾過によって抽出液と肉片を分離する。肉片と溶媒の混合は任意であるが繰り返し抽出を行う。その後、出来うる限り低温(50℃以下が好ましい)で濃縮することにより溶媒を取り除き、サメ肉抽出物を油又は油状物質として得ることができる。この油または油状物質は通常各種の遊離型脂肪酸およびグリセロール結合型脂肪酸を含む。
【0024】
本発明における「サメ肉」という用語は、ここに述べるものだけに限定されないが、リグ(rig、lemonfish)、スクールシャーク(school shark)、ゴーストシャーク(Ghost Shark)、アオザメ(mako)、ヨシキリザメ(blue shark)、ギンザメ(elephant fish)、ネズミザメ(salmon shark)、ツマグロ(blacktip reef shark)を含む、様々なサメまたはサメ様生物の肉のことを意味する。
【0025】
本発明における「イガイ肉抽出物」という用語は、上記の溶媒を用いてイガイの肉から抽出されたリン脂質を意味する。ここで言う「イガイ肉」とは、可食部を含めた全ての貝肉部分を指し、内臓部分も含む。本発明のイガイ肉抽出物は一般的に、およそ15℃〜25℃の範囲を指す環境温度で、一般的に油またはペーストのような油状の物質である。
【0026】
代表的な抽出法は、1種またはそれ以上のイガイ肉片をブレンダーを使用して細かくし、フリーズドライ(または、風乾でもよい)した後、抽出溶媒(例えばエタノール)と混合する。通常、その混合物は室温で1〜24時間撹拌後、濾過によって抽出液と肉片を分離する。肉片と溶媒の混合は任意であるが繰り返し抽出を行う。その後、出来うる限り低温(50℃以下が好ましい)で濃縮することにより溶媒を取り除き、イガイ肉抽出物を油又は油状物質として得ることができる。この油または油状物質は通常各種の遊離型脂肪酸およびグリセロール結合型脂肪酸を含む。
【0027】
本発明における「イガイ肉」という用語は、ここに述べるものだけに限定されないが、緑イガイ(Perna canaliculus)や紫イガイ(Mytilus edulis)を含む、様々なイガイの肉のことを意味する。
【0028】
本発明における「ゲニステイン」という用語は、市販のゲニステイン製品または組成物を意味する。好ましくは、ゲニステインを組成物全体に対して90重量%、好ましくは95重量%含む、ゲニステイン製品または組成物を意味する。ゲニステインを含むイソフラボンの起源は、特に限定されず、植物(例えば、大豆)から得られる全てのイソフラボンを指す。例えば、大豆ゲニステインとは、大豆から作り出されるイソフラボンを含む、市販のイソフラボン製品または組成物であってもよい。
【0029】
本発明における「抗血管新生組成物」とは、抗血管新生作用を有する組成物を意味する。
【0030】
本発明の抗血管新生混合物は、混合物単体で用いることが可能な他、経口投与の為に食用油と混合し、カプセル化することもできる。また、抗血管新生組成物をシクロデキストリンのような固形キャリアと混合し、錠剤、顆粒、粉末などの形状にする事も有り得る。この顆粒や粉末、およびそれに類似した形状のものは、経口投与の為に、食品のような他の物質に包含されたり、混合されたりしてもよい。抗血管新生組成物が注射に対応する溶媒に溶解され得る事も考えられる。さらに、ビタミンEのような成分の追加も、処方に含まれ得る。または、抗血管新生組成物が化粧品に添加成分としても使えると考えられる。
【0031】
食用油には、オリーブ油、ごま油、綿実油、落花生油、パーム油、菜種油、コーン油、亜麻仁油、小麦胚芽油、ダイズ油、ヒマシ油、米油などが挙げられる。これらは、単独でも用いられても、組み合わされて用いられても良い。これら食用油は、市販のものであっても自分で調製したものであっても良い。好ましくは、オリーブ油である。
【0032】
オリーブ油とは、オリーブの実をすり潰したり圧搾して取り出した油を意味する。同様に、ごま油、綿実油、落花生油、パーム油、菜種油、コーン油、亜麻仁油、小麦胚芽油、ダイズ油、ヒマシ油、米油は、それぞれの種子や実をすり潰したり圧搾して取り出した油を意味する。
【0033】
ビタミンEとは、α−、β−、γ−、δ−トコフェロール(tocopherol)とα−、β−、γ−、δ−トコトリエノール(tocotrienol)を意味し、酸化防止のために用いられる。
【0034】
本発明の抗血管新生組成物には、さらに当業者に周知の甘味料、着色料、香料、酸化防止剤、および/または保存剤などを含んでも良い。
【0035】
血管形成は病気や障害の広範に関わっている。それ故に、本発明の抗血管新生組成物は血管新生に関わる病気や障害の治療及び予防のために有用である。血管新生に関わる疾患や障害は、これらに限るわけではないが、がん、網膜症、黄斑変性症、乾癬および関節炎が含まれる。
【0036】
よって、本発明における「血管新生を抑制することが有益な疾患もしくは障害」とは、血管新生を抑制することにより、疾患もしくは障害の進行が抑制されたり、または症状が改善もしくは軽減されたりする疾患もしくは障害を意味し、例えばがん、網膜症、黄斑変性症、乾癬および関節炎などが挙げられる。
【0037】
本発明における「治療」とは、既に発症している疾患もしくは障害の進行を抑制したり、または症状を改善もしくは軽減することを意味する。また、「予防」とは、疾患もしくは障害の発症を防ぐことまたは遅らせることを意味する。
【0038】
乾癬とは、例えば尋常性乾癬、 膿疱性乾癬、乾癬性紅皮症、関節症性乾癬、滴状乾癬などを意味する。
関節炎とは、例えば変形性関節症、顎関節症やリウマチ性関節症を意味する。好ましくは、滑膜炎を伴うリウマチ性関節症を意味する。
網膜症とは、例えば糖尿病網膜症、高血圧網膜症を意味する。
黄斑変性症とは、例えば加齢黄斑変性症を意味する。好ましくは、滲出型の加齢黄斑変性症を意味する
がんとは、悪性腫瘍を意味し、例えば肺癌、乳癌、胃癌、大腸癌、子宮癌、卵巣癌、喉頭癌、咽頭癌、舌癌、骨肉腫、軟骨肉腫、横紋筋肉腫、平滑筋肉腫、線維肉腫、脂肪肉腫、血管肉腫、白血病、悪性リンパ腫、骨髄腫などが挙げられる。
【0039】
本発明の抗血管新生組成物は、これら疾患もしくは障害の治療や予防のための医薬の製造のために用いることができる。抗血管新生組成物を含む医薬は、本発明の抗血管新生組成物を、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤などにして、経口投与されてもよいし、注射剤などにして注射されてもよいし、あるいは坐剤などにして経皮投与されてもよい。そのために、抗血管新生組成物を含む医薬は、医薬的に許容されている、当業者に周知なキャリアやアジュバントをさらに含んでいても良い。
【0040】
本発明について、以下の例によって更に説明する。ただし本発明は以下に示す例に限られたものではないことを理解されたい。
【実施例1】
【0041】
海洋生物リン脂質+ゲニステインの抗血管新生作用
【0042】
ヨシキリザメ(Blue Shark)肉抽出物の調製
凍結したヨシキリザメ(blue shark)の肉を2cmの厚さにスライスし、35℃、2mbar未満にセットされた真空オーブンに入れる。24時間後に肉片を取り出し、細かく砕いた後再び真空オーブンに3〜4日入れる。サメ肉の重量は通常、凍結乾燥の過程で元の20%にまで減少する。凍結乾燥された肉片は更に、手で細かくされた後ウォーリングブレンダーで粉砕され、粉と繊維質の混合物となる。
【0043】
サメ肉パウダー(900g)と溶媒(エタノール4.5L)を12時間以上攪拌する。効果的に撹拌する為には、溶媒(体積):パウダー(重量)の比が5:1となる事が必要であった。容器は、アルミホイルで覆う事によって遮光した。その混合物はSchleicher&Schuell 595濾紙を使って濾過し、濾過残渣は新しい溶媒(3L)と共に一晩撹拌され、濾過した。2回の濾過で得られた濾液は混合され、ロータリーエバポレーションによって溶媒を除去し、ヨシキリザメ(Blue Shark)肉抽出物をオイル状物質として得た(収率13.7%)。
【0044】
ゲニステインは、JF-NATURAL R&D Co., Ltd. China製の“ゲニステイン95%”を使用した。“ゲニステイン95%”は、天然大豆(非遺伝子組換え大豆)より抽出されたゲニステインで、その組成は、ゲニステイン95%、残り5%はその配糖体であるゲニスチン(Genistin)である。
【0045】
抗血管新生活性の測定
抗血管新生作用は大動脈リングアッセイ法(aortic ring assay)で測定された。実験方法はNicosiaとOttinettiの記述(Lab Invest. 63: 115-122(1990))およびBrownらの記述(Lab Invest. 75: 539-555(1996))に基づいている。
【0046】
脂肪および血管周辺の繊維状組織を取り除いたあと、ラット(Lewis rat, Charles River Laboratories、Wilmington, MA、USA)の大動脈を2mm厚の輪状にスライスする。フィブリノーゲン溶液0.4mL(フィブリノーゲン溶液は、150mgのフィブリノーゲン(Sigma Cat No. F-9754, Batch 041K7604)を溶解させた50mLのMCDB131培養液(Sigma Cat No. M-8537, Batch 064K8305)3mLに1mg/mLのトロンビン10μL(Serva Cat No. 36402. Batch 09309)を加えて作成された。)を24ウェル培養プレート(Costar(登録商標) 24 Well TC-Treated Microplates, Individually Wrapped (Product #3524) Corning Incorporated, USA)中の各ウェルに注ぎ、フィブリンゲルを作成した。スライスされた大動脈リングは各ウェルの中心部分に配置され、その上から別のフィブリンゲル(フィブリノーゲン溶液0.4mL)を注ぐことにより覆う。さらに、ゲルはMCDB131培養液(1.5mL)で覆われ、37℃、3%CO2/97%空気の条件下で培養された。独自製造した海洋生物リン脂質あるいはゲニステイン単独または独自製造した海洋生物リン脂質+ゲニステインがサプリメントとして培養液に添加する。以上のサンプルそれぞれについて3つのサンプルを用意し、分析を行った。また、培養液のみのサンプルをコントロールとした。
【0047】
およそ5日後に微小血管がリング周辺(リングの外側、内側の両方)から生長しているのが確認され得るはずである。5日目から14日目までの間、一定の間隔でそれぞれのウェルの画像を記録した。撮影には、倒立顕微鏡(OLYMPUS CK-12 microscope)に取りつけたデジタルカメラ(Pixera PVC-100C digital camera)が用いられた。リング周辺の微小血管の成長範囲は画像ごとにNIH Image 1.59ソフトウェア(http://rsb.info.nih.gov/nih-image/about.html.)を用いて決定された。それぞれの時点で、成長率(検体A/ コントロールA×100=成長率、A=リングの外輪から伸びた血管新生面積+リングの内輪へ伸びた血管新生面積)÷リングそのものの面積)の平均を決定した。微小血管の成長率は、海洋生物リン脂質あるいはゲニステイン単独または独自製造した海洋生物リン脂質+ゲニステインについて決定し、血管新生成長率が計算された。
【0048】
表1は、海洋生物リン脂質(MPL)あるいはゲニステイン(Gen)単独または海洋生物リン脂質+ゲニステイン(MPL+Gen)の抗血管新生作用を示している。コントロールの成長率を100%として計算した結果による、海洋生物リン脂質単独での血管新生成長率は57.19%、ゲニステイン単独での血管新生成長率は54.7%、海洋生物リン脂質をゲニステインに添加した場合血管新生成長率は、それぞれの単独物の抗血管新生作用の2倍以上となる(血管新生成長率は24.67%)。このことは海洋生物リン脂質+ゲニステインが抗血管新効果に対し、相乗的な作用があることを示している。
【0049】
【表1】

【0050】
本発明について例を参考に述べたが、発明の範囲を逸脱しない限り、様々な応用または改善は可能である。さらには、同様の特徴を持つことが知られている物質については、この明細書にて詳述したものと同様に扱われるものとする。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の抗血管新生性組成物は幅広い様々な疾患に対する治療、予防に有益である。これらの疾患には、乾癬、関節炎、網膜症、黄斑変性症、乾癬、およびがんなどの血管新生が関与する疾患が含まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
海洋生物りん脂質及びゲニステインを含む抗血管新生組成物。
【請求項2】
海洋生物リン脂質がサメ肉抽出物および/またはイガイ肉抽出物である、請求項1に記載の抗血管新生組成物。
【請求項3】
イガイ肉がニュージーランド産の緑イガイ肉である、請求項2に記載の抗血管新生組成物。
【請求項4】
さらに、食用油を含有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の抗血管新生組成物。
【請求項5】
食用油がオリーブ油である、請求項4に記載の抗血管新生組成物。
【請求項6】
海洋生物りん脂質とゲニステインの重量比率が、海洋生物りん脂質10に対し、ゲニステイン0.5〜10の範囲である請求項1〜5のいずれか1項に記載の抗血管新生組成物。
【請求項7】
血管新生を抑制することが有益な疾患もしくは障害を治療または予防するための、請求項1〜6のいずれか1項に記載の抗血管新生組成物。
【請求項8】
疾患もしくは障害が、乾癬、関節炎、網膜症、黄斑変性症およびがんからなる群の中から選択される、請求項7に記載の抗血管新生組成物。
【請求項9】
血管新生を抑制することが有益な疾患もしくは障害を治療または予防するための医薬を製造するための、請求項1〜8のいずれか1項に記載の抗血管新生組成物の使用。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の抗血管新生組成物を哺乳動物に投与することを含む、乾癬、関節炎、網膜症、黄斑変性症およびがんからなる群の中から選択される疾患もしくは障害の治療または予防方法。

【公開番号】特開2008−88119(P2008−88119A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−272184(P2006−272184)
【出願日】平成18年10月3日(2006.10.3)
【出願人】(500452385)株式会社ハイマート (4)
【Fターム(参考)】