説明

海洋鋼構造物鋼部材の防食構造および防食方法

【課題】腐食環境の厳しい海洋環境における鋼部材を安価に防食し、海洋鋼構造物の延命化を図り、維持管理費用を低減する防食構造及び防食方法を提供する。
【解決手段】プラスチックまたは金属からなる第1層と、緩衝材からなる第2層と、防錆剤を含む第3層とからなる防食用保護カバーを、磁石を介して海洋鋼構造物の鋼部材に装着したことを特徴とする海洋鋼構造物鋼部材の防食構造。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海洋環境で使用される鋼部材に関して、耐食性に優れかつ施工性に優れた防食方法を提供または、それを達成するための保護カバーを提供するものである。
【背景技術】
【0002】
海洋環境で使用される代表的な鋼部材として、鋼矢板、鋼管杭、鋼管矢板などが挙げられる。これらの鋼部材は、護岸や港湾施設などの構造物を支える基礎として広く普及している。これらは構造物の性格上、50〜100年の使用を考えて設計、施工される。この場合、海洋環境では鋼部材が直接海水に曝露されるため、その腐食速度は大きく、一般には防食措置が必要とされている。
【0003】
防食措置としては電気防食、塗装、ライニング、繊維強化プラスチック(以下FRPと呼ぶ)カバーや金属カバーによる防食方法が広く使用されている。この中で電気防食は、ZnやAl、Mgなどの鋼に比較して卑な金属材料により鉄を電気化学的に防食する方法であり、海水中では極めて有効な方法であるが、干満帯や飛沫帯といった乾湿を繰り返す環境では有効でない。一方、塗装や有機ライニングといった方法は、干満帯、飛沫帯でも有効に作用するので海洋環境における鋼部材の防食方法として一般的に用いられており、特許文献1には、海洋構造物用の鋼矢板を下地処理後、海洋大気部から海中領域までを厚みを特定して塗装または有機樹脂被覆を施した海洋構造物用重防食被覆鋼矢板が開示されている。また、特許文献2には、海底地盤に打込まれる鋼矢板の少なくとも干満帯および飛沫帯を予め特定の引張弾性率を有する合成樹脂で被覆することにより、耐久性を向上させた重防食被覆鋼矢板が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4068756号公報
【特許文献2】特公平2−26013号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献記載の防食層は合成樹脂層であるので傷が付きやすく、材料自身の劣化や接着層の経年劣化により、防食寿命は長くても20〜30年と言われている。
【0006】
通常これらの防食処理は構造物を施工する前に、条件の良い工場などで処理された後に現地で施工されるのが通常であるため、初期はこれらの防食で十分であっても、30年経過後の防食が問題となる。塗装、ライニングは補修により、劣化後に再度処理することは技術的には可能であるが、構造物のまま再処理することは、膨大なコストがかかること、塗装やライニングには清浄な表面状態が必要になるため、実際の海洋でしかも構造物となった状態で、再処理をすることは技術上の困難が伴う。
【0007】
従って、構造物にFRPカバーや金属カバーを取り付けて干満帯や飛沫帯を防食する方法が有効であるとされている。しかしながら、これらのカバーを取り付けるためには、先に述べた鋼部材にスタッド溶接でボルトを設けて、カバーを固定する必要があり、海洋環境では、波浪による作業の制限や、水中溶接などの施工管理など極めて困難な作業となる。また、コストも膨大になり、海洋鋼構造物の維持・管理費の増加が懸念される。
【0008】
本発明は、腐食環境の厳しい海洋環境における鋼部材を安価に防食し、海洋鋼構造物の延命化を図り、維持管理費用を低減するとともに、水中溶接等を必要としない防食構造及び防食方法を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者等は、防食用カバーの鋼部材への取り付け方法の煩雑さを解消するため鋭意研究の結果、磁束密度の高い磁石を使用することにより、防食用カバーを固定するに十分な固定強度が得られることが判った。本発明は上記知見に基づくものであり、海洋環境での防食に供することができ、その要旨は以下の通りである。
【0010】
第一の発明は、プラスチックまたは金属からなる第1層と、緩衝材からなる第2層と、防錆剤を含む第3層とからなる防食用保護カバーを、磁石を介して海洋鋼構造物の鋼部材に装着したことを特徴とする海洋鋼構造物鋼部材の防食構造である。
【0011】
第二の発明は、前記防食用保護カバーの第1層の厚みが0.1〜6mmであることを特徴とする第一の発明に記載の海洋鋼構造物鋼部材の防食構造である。
【0012】
第三の発明は、前記防食用保護カバーの第2層が発泡ウレタン、第3層がペトロラタム系防錆材またはペトロラタム含浸シートからなることを特徴とする第一または第二の発明に記載の海洋鋼構造物の防食構造である。
【0013】
第四の発明は、前記磁石が、磁束密度7kG以上を示すアルニコ磁石またはネオジウム磁石であることを特徴とする第一乃至第三の発明に記載の海洋鋼構造物鋼部材の防食構造である。
【0014】
第五の発明は、プラスチックまたは金属からなる第1層と、緩衝材からなる第2層と、防錆剤を含む第3層とからなる防食用保護カバーを、磁石を介して前記海洋鋼構造物の鋼部材に装着することを特徴とする海洋鋼構造物鋼部材の防食方法である。
【0015】
第六の発明は、前記防食用保護カバーの第1層の厚みが0.1〜6mmであることを特徴とする第五の発明に記載の海洋鋼構造物鋼部材の防食方法である。
【0016】
第七の発明は、前記防食用保護カバーの第2層が発泡ウレタン、第3層がペトロラタム系防錆剤またはペトロラタム含浸シートからなることを特徴とする第五または第六の発明に記載の海洋鋼構造物鋼部材の防食方法である。
【0017】
第八の発明は、前記磁石が、磁束密度7kG以上を示すアルニコ磁石またはネオジウム磁石であることを特徴とする第五乃至第七の発明に記載の海洋鋼構造物鋼部材の防食方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明法による防食構造及び防食方法は、従来のカバー工法による防食構造及び防食方法と遜色がなく、しかも安価に防食できる防食構造及び防食方法を提供するものである。
【0019】
本発明の構成による防食用保護カバーを有する鋼構造物は、厳しい腐食環境において長期の耐久性を有する鋼構造物として使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の防食構造を鋼管矢板に適用した一例を示す図である。
【図2】本発明の防食構造を鋼矢板に適用した一例を示す図である。
【図3】本発明の防食用保護カバーの断面構造の一例を示す図である。
【図4】本発明の防食構造を鋼管矢板に適用した他の例を示す図である。
【図5】本発明の防食構造を鋼矢板に適用した他の例を示す図である。
【図6】本発明の防食用保護カバーの断面構造の他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明について図を用いて以下に詳細に説明する。
図1および図2に基本的なカバーの固定方法の1例を示す。図1は、本発明の防食構造を鋼管矢板に適用した一例を示す図であり、図2は、本発明の防食構造を鋼矢板に適用した一例を示す図である。磁石は、対象とする鋼部材の取り付けやすい部位に取り付けることを基本とするが、固定位置は、一例であり、これら以外の位置に取り付けても良い。磁石とスタッドボルトは、溶接やねじこみなどにより予め一体化した構造体としておくのが良い。
【0022】
この磁石部位を鋼部材に磁力により吸着させるのであるが、その吸着面には、スケールやさび層、海洋生物などが存在していると吸着力が低下するので、表面はきれいに磨き、凹凸もできるかぎり削って平らにするのが良い。また、一体化した磁石とスタッドボルトには、防食措置を施すのがより好ましく、溶融亜鉛めっきあるいは塗装などの有機被覆、あるいはその併用により防食措置を施すのが良く、より耐久性を向上させることに繋がる。
【0023】
磁石は、必要な磁束密度が得られれば何でも良いが、特に高い磁束密度を有している、ネオジウム磁石やアルニコ磁石が好適であり、磁束密度が7kG以上のものが好ましい。これは磁石の吸着力が高くないと、カバーのような重量物を支えるには不足で、7kG以下では、カバーを保持するためには、より広い面積の磁石が必要となるためである。
【0024】
このボルトを介してカバーと鋼部材を結合し、カバーの緩みをボルトを締め付けることにより調整する。カバーについては、図3にその断面図(例)を示した。第1層は最外層のカバー材であり、機械的に鋼部材を保護する保護層である。その材質は、繊維強化プラスチック(FRP)やステンレス、チタンなどが好適で、これはカバー材として流木などにある程度破壊されない強度を有している必要があるためである。カバー層の厚みは、0.1mm〜6mmが好ましく、この場合0.1mm以下では、機械的な強度の不足により、カバーをはめる場合の剛性が得られなかったり、流木などの衝突に耐え得ないからである。一方、厚みが6mmを超えると、カバーの重量や剛性が大きくなって、取り付けがし難くなったり、カバー材料のコストが上昇する等の問題が生じるからである。
【0025】
第2層の緩衝材は、カバーをはめた場合に、防錆剤を含む第3層が鋼表面に密着するために設ける層で、発泡ウレタンなどの容易に変形、圧縮が可能な材料が好ましい。本層の厚みは、1mm以上20mm以下が好ましく、好適には10mm前後が良い。20mmを超えると厚くなりすぎ、コストの上昇を招くとともに、1mm以下の薄い領域では、防錆剤を含む第3層が鋼表面に密着しなくなる可能性が高いためである。
【0026】
第3層は、防錆剤を含有する。この層に使用される防錆剤は、粉末金属酸化物として、Zn、Al、Cr、V、Moなどの酸化物、リン酸系防錆剤としてリン酸亜鉛、リン酸アルミニウム、リン酸マグネシウム、トリポリリン酸アルミニウムなど、有機系の防錆剤として脂肪酸、脂肪族アミン、有機リン酸塩、また無機物としてシランカップリング剤、カルシウムの酸化物、モルタル、が使用できる。またエポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、などの有機樹脂も防錆剤としての役割があり使用できる。勿論、市販されているものを利用しても問題はない。また、第3層への防錆剤の含有方法は、以下に挙げた幾つかの方法が利用できる。
【0027】
(1)防錆剤を鋼材の防食対象面に塗布し、第3層を防錆剤そのものの層とする方法。
この方法の場合、層の厚みは、使用する防錆剤により変わるが、モルタルを使用する場合は、0.5mm以上、10mm以下とするのが望ましい。有機樹脂を使用する場合には、0.1mm以上5mm以下とすることが望ましい。有機系の防錆剤を使用する場合には、2g/m以上20g/m以下とすることが好ましい。
【0028】
粉末金属酸化物、リン酸系防錆剤、無機物などは単独で防錆剤層を形成することができないので、有機樹脂に混合して使用するのが良く、その樹脂中への含有量は、樹脂100質量部に対して、0.5質量部以上100質量部以下とするのが望ましい。またこれら防錆剤は複数混合して使用しても良い。有機樹脂に防錆剤を混合した場合においても、厚みは前述したように0.1mm以上5mm以下とすることが望ましい。
【0029】
(2)防錆剤を含有させたシートを第3層とする方法。
不織布に有機系防錆剤や燐酸系防錆剤の溶出液などを含浸させたシートやポリオレフィンシートに金属酸化物、リン酸系防錆剤を混合して成型したシートを使用することができる。シートの厚みは、使用する防錆剤により変わるが、不織布を使用する場合は、0.1mm以上、5mm以下とするのが望ましい。ポリオレフィンシートを使用する場合には、1mm以上、5mm以下が望ましい。その他、予めエポキシ樹脂やアクリル樹脂に金属酸化物、リン酸系防錆剤、有機系防錆剤などを含有するシートを予め形成し、防錆シートとして使用しても良い。その場合厚みは0.1mm以上、5mm以下が望ましい。これらシートは、望ましい厚みの範囲であれば積層しても良い。
【0030】
上記防錆剤の内、耐水性に優れる(油分により水の鋼界面への到達を抑制する)という点でペトロラタム系防錆剤を使用するのが、より好ましい。この場合は、以下の方法にて第3層を形成するのが好ましい。
【0031】
(3)ペトロラタム防錆剤を防食面に塗布し第3層として形成する方法。
ペトロラタム系防錆剤を塗布して、ペトロラタム系防錆剤のみで第3層を形成する場合、その厚みは任意であるが、好ましくは、0.1mm以上5mm以下である。0.1mm以下では、防食効果が小さく、5mm以上では防食効果は十分であるが、コスト上昇を招くためである。ペトロラタム系防錆剤は、石油分の潤滑油分を乾留して得られるものを主成分に使用しており広く市販されているが、この中に他の防錆剤を配合したものでも良い。例えばペトロラタム系防錆剤に上述した防錆剤(金属酸化物、リン酸系防錆剤、有機樹脂など)を混合しても良い。
【0032】
(4)ペトロラタム防錆剤を含有したシートを第3層とする場合。
ペトロラタム系防錆剤を単独に、または上記の他の防錆剤も合わせて不織布に含浸させた防食シートを積層したものを第3層としても、上記ペトロラタムによる耐水性に優れるという点では同様の効果が得られる。このような防食シートは、ペトロラタム含浸シートとして市販されており、本発明にて利用可能である。第3層として利用する際、その厚みは任意であるが、好ましくは0.1mm以上5mm以下である。0.1mm以下では、防食効果が小さく、5mm以上では防食効果は十分であるが、コスト上昇を招くためである。更に、ペトロラタム系防錆剤や上記他の防錆剤を一緒に不織布に含浸させたものに粘着剤を組み合わせた防食シートでも良く、垂直構造物にはこのほうが対象表面に貼り付けやすく好適である。これらシートは、1層である必要はなく、重ねて積層しても良い。
【0033】
本例では、初期にボルトを所定の鋼部材に取り付けた後にカバーをはめ込み、ナットによりカバーを固定していく。図1および図2はその断面例を示しているが、長手方向には、磁石によるボルト位置を20cm以上、1m以下の間隔で配置することが好ましい。20cm以下ではボルト部位による固定数が多くなり、固定に問題はないが、締め付け数が多くなりコスト上昇を招き、1m以上の間隔では、十分な締め付け効果が得られないためである。また、ボルトおよびナットも腐食の作用を受けるので、本方法で固定した場合には、ボルト、ナット部に防食用のボルトキャップ(中にぺトロラタム系防錆剤を含有)を被せるのが好ましい。
【0034】
図4および図5には、磁石の吸着力を利用し、カバー材と鋼部材を直接吸着させる方法の一例を示した。図4は、本発明の防食構造を鋼管矢板に適用したであり、図5は、本発明の防食構造を鋼矢板に適用した例である。この場合のカバーの構成例を図6に示した。カバーの一部に磁石を配置し、その他の部分にペトロラタム系の防錆剤を塗布した例である。この場合カバーの最外層には、磁石に吸着できる層として、フェライト系ステンレス鋼や塗装鋼板、あるいは両者の組み合わせが好ましい。その場合の厚みとしては、金属層になるので、2mm以下が重量軽減の点から好ましく、0.1mm以下では剛性がなくなるので、取り付け時の取り付けやすさが低下する点、流木などの耐衝撃性の点で劣ることが挙げられる。またステンレス鋼を使用する場合には、海洋環境という点に配慮が必要で、耐海水性を有するステンレス鋼の採用が好ましい。
【0035】
磁石の配置は、カバーの外縁部のみでも良いし、保護される内部にあっても良いが、全カバー面積の50%以下にすることが好ましい。これは50%を超えると、防錆剤の効果が阻害されるためである。ただし、カバー下全面に磁石を配置する場合には、磁石表面にペトロラタム系防錆剤を塗布するのが良く、その場合には磁力による吸着力と、ペトロラタム系防錆剤層との厚みに注意する必要がある。この場合には、予め磁石の吸着する部位については、表面付着物を除去し、平滑化しておくことが好ましい。また本方法では、磁石で鋼部材表面に吸着させカバーを固定化するので、カバーの保持力は磁石の配置面積に依存する。従って50%以下の範囲で、磁石の配置面積をできる限り大きくすることが必要である。
【0036】
また本仕様に使用する磁石は、先例と同様に防食措置を施すことが好ましい。例えば亜鉛めっきや塗装、あるいはその併用により磁石自体の防食を行うことが良い。また、磁石の配置は、分散させずにある幅を持って連続に配置しても良く、配置パターンはここに例示したものに限定しない。更に、先に示したボルトを介して固定する方法と、ここで示した例を組み合わせた固定法によっても良い。
【実施例1】
【0037】
以下、実施例にて本発明を、更に詳細に説明する。
【0038】
東京湾に打設した鋼矢板の防食カバーとして本発明を適用した。東京湾に打設された矢板の防食範囲を、LWL(最干潮海面)+30cm〜180cmの範囲と想定(海中部は電気防食を使用)し、それに合わせたカバーの製作を行った。カバーは、山型、谷型の2種類を、カバー材の種類各1枚ずつを作製した。
【0039】
カバーは、(A)フェライト系ステンレス鋼(26Cr−4.0Mo−Nb−極低C)の1.0mmtを、曲げ加工し、矢板形状に沿った形に成型したものを使用し、
(B)FRPカバーは、エポキシ樹脂と炭素繊維を固めたシートを温間成型にて、厚さ5mmの鋼矢板形状に成型したもの、
(C)塗装鋼板は、2.0mmtの冷延鋼板に、化成処理、およびフッ素樹脂系塗料を焼付け塗装(100μm)した鋼板を、曲げ加工したものを使用した。その後発泡ウレタンシート(厚み10mm)を、カバーの大きさに切ったものをカバーに粘着材で貼り付け固定した。その上にペトロラタム系防錆剤を厚み約1mmに塗布したものを、カバー層として準備した。磁石は、25mm×40mm×10mmtのネオジウム磁石(磁束密度10kG)を使用し、8mm深さのネジを切り,そこへ8mmφ×30mmのスタッドボルトをねじ込んで、固定用磁石とした。これに、溶融亜鉛めっき(約20μm)および簡易塗装(30μm)を施して部材とした。
【0040】
打設した鋼矢板のつめ部(図2参照)を、スクレーパーおよびグラインダーを使用して手入れし、付着物をおとすとともに平滑に仕上げた。(鉛直方向に30cm間隔とした)所定の位置に磁石(スタッド付)を配置し、鋼矢板に吸着させ、上記3種類のカバーを、鋼矢板の山面、谷面を1組として、鋼矢板にはめ込み、ナットで鋼矢板に固定した。
【0041】
また、(A)および(C)のカバーについて、その外縁部に、上記と同様な亜鉛めっきおよび簡易塗装を施した2mm(厚み)×15mm(幅)×30mm(長さ)のネオジウム磁石をカバー上の外縁部に、隙間なく配置し、その他の部分をペトロラタム系防錆剤を塗布(厚み2mm)したものを、同様に山、谷を一組として配置した。
【0042】
比較として、先に作製されたFRP製カバーと同型のものを使用し、上記と同間隔にてスタッド溶接したボルトで固定したものを比較とした。
【0043】
上記について2年間の暴露試験を行い、鋼表面の腐食度合いおよびペトロラタム中の油分の測定を行い、その流出量を求めた。また、カバーを運搬して、2枚のカバーが設置できるまでの時間を計測した。
【0044】
その測定結果を表1に示す。
【0045】
【表1】

【0046】
表1の結果より、本発明例においては、概ね従来からのスタッド固定によるFRPカバー工法と同程度の耐食性を有するとともに、施工時間は短くなっており、より効率良く海洋鋼構造物の鋼部材を防食することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の防食構造、防食方法は、海洋環境において従来と同等の耐食性を有するとともに、実際の海洋構造物の鋼部材への適用を効率的に行うことが可能であり、既構造物の防食や、防食層が寿命を迎えた鋼構造物に適用が可能である。
【符号の説明】
【0048】
1 防食用保護カバー
2 磁石
3 第1層(カバー材)
4 第2層(緩衝材)
5 第3層(防錆剤)
6 ナット
7 スタッドボルト
11 鋼管矢板
12 鋼矢板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチックまたは金属からなる第1層と、緩衝材からなる第2層と、防錆剤を含む第3層とからなる防食用保護カバーを、磁石を介して海洋鋼構造物の鋼部材に装着したことを特徴とする海洋鋼構造物鋼部材の防食構造。
【請求項2】
前記防食用保護カバーの第1層の厚みが0.1〜6mmであることを特徴とする請求項1記載の海洋鋼構造物鋼部材の防食構造。
【請求項3】
前記防食用保護カバーの第2層が発泡ウレタン、第3層がペトロラタム系防錆材またはペトロラタム含浸シートからなることを特徴とする請求項1または2に記載の海洋鋼構造物鋼部材の防食構造。
【請求項4】
前記磁石が、磁束密度7kG以上を示すアルニコ磁石またはネオジウム磁石であることを特徴とする請求項1乃至3に記載の海洋鋼構造物鋼部材の防食構造。
【請求項5】
プラスチックまたは金属からなる第1層と、緩衝材からなる第2層と、防錆剤を含む第3層とからなる防食用保護カバーを、磁石を介して前記海洋鋼構造物の鋼部材に装着することを特徴とする海洋鋼構造物鋼部材の防食方法。
【請求項6】
前記防食用保護カバーの第1層の厚みが0.1〜6mmであることを特徴とする請求項5記載の海洋鋼構造物鋼部材の防食方法。
【請求項7】
前記防食用保護カバーの第2層が発泡ウレタン、第3層がペトロラタム系防錆剤またはペトロラタム含浸シートからなることを特徴とする請求項5または6に記載の海洋鋼構造物鋼部材の防食方法。
【請求項8】
前記磁石が、磁束密度7kG以上を示すアルニコ磁石またはネオジウム磁石であることを特徴とする請求項5乃至7に記載の海洋鋼構造物鋼部材の防食方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−32744(P2011−32744A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−180433(P2009−180433)
【出願日】平成21年8月3日(2009.8.3)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】