説明

海浜の造成材料の流出防止方法

【課題】従来の海浜の造成材料の流出防止方法では造成材料の流出防止が完全でないばかりでなく、コストも高い欠点があった。
【解決手段】本発明の海浜の造成材料の流出防止方法においては、原地盤上に造成材料を造成して形成した海浜の原地盤上または造成材料上に複数個の潜堤を沖波設計波の1波長以下の間隔で沖方向に互いに離間して設置する。上記造成材料は砂,シルト,粘土の1つまたは1つ以上で形成される。上記潜堤は石材,コンクリート材,レンガ材,浚渫土を用いた人工固化材の1つまたは1つ以上から形成される。上記潜堤は断面台形状であり、その中心部に底質透過防止部分を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は海浜の造成材料の流出防止方法、特に、人工的に造成された海浜の造成材料が波浪や潮流により持ち去られるのを防止する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在,砂,シルト,粘土で人工的に造成されている干潟や砂浜では、波や流れなどの外力によって侵食を受けている場所が数多く存在する。外力による侵食から干潟や砂浜を守る従来の技術としては、離岸堤や人工リーフなどの構造物を築造し波浪の影響を低減させる方法が挙げられるが、漂砂を直接的に捕捉することで侵食を防ぐ方法もある。その方法の代表例としては突堤が挙げられる。これは沿岸漂砂を捕捉するものであるが、岸沖漂砂には効果が小さい。また、水面上に露出するため景観上あまり好ましくない。景観面では没水型の構造物が有効である。
【0003】
砂浜の周辺水域と沖合いを仕切る塀状の潜堤を用いて上記周辺水域からの砂の流出を防ぐようにしたものは特許文献1に記載されている。
【特許文献1】特開平11−247147号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
然しながら上記特許文献1に示されている方法では砂の流出防止が完全でないばかりでなく、コストも高い欠点がある。
【0005】
即ち、人工的に造成された干潟や砂浜は、圧密沈下や波や流れによる侵食によって完成時の形状を保てない場合がある。侵食による底質の流失は、造成に使用する底質材料の粒径を大きくし安定性を増すことで防ぐことが可能であるものの、粒径の大きな底質材料では底生生物の生育に適しない場合もある。底質の粒径を大きくせずに流失を防ぐためには(1)波浪を制御する方法、(2)移動する漂砂を捕捉する方法が挙げられるが、(1)の方法は一般的に大きな構造物が必要となるため概してコストが高くなる。一方(2)の方法については沿岸漂砂を捕捉する方法として突堤が既に実用化されているが、岸沖漂砂に対しては大きな効果が得られないのが現状である。
【0006】
また人工的な干潟やアサリ漁場の造成の際、底質材料の静的な流失を防ぐために、造成断面の最深部に石材による土留め堤を築堤することがあるが、波や流れによる動的な影響での底質流失に対してはほとんど効果を発揮しない。
【0007】
人工的な干潟や砂浜が本来の機能を有するためには、波や流れによる覆砂材の侵食を防ぎ、完成形状を長期間保つことが必要である。天然の干潟や砂浜は自然発生的に存在するが、人工的な海浜では従来存在しない水域に干潟や砂浜を造成するため、波や流れの条件によっては侵食を受ける可能性があり、また侵食された造成部が自然に再生することはない。波や流れによる外力から流失を防ぐには底質材料の粒径を大きくする方法が挙げられるが、干潟については粘土やシルトなどの細粒分を含有しないと保湿性が保てないため、底生生物の生育に適した環境を提供するにはある程度細かい粒径の底質を使用する必要がある。また、侵食された干潟や海浜を維持するためには再度土砂投入する必要があり、コスト面でも問題が生じる。
【0008】
本発明は上記の欠点を除くようにしたものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の海浜の造成材料の流出防止方法は、原地盤上に造成材料を造成して形成した海浜の原地盤上または造成材料上に複数個の潜堤を沖波設計波の1波長以下の間隔で沖方向に互いに離間して設置することを特徴とする。
【0010】
また、本発明の海浜の造成材料の流出防止方法は、互いに離間する上記複数個の潜堤間を沿岸方向に互いに離間して設置した補助の潜堤によって互いに接続したことを特徴とする。
【0011】
上記造成材料は、砂,シルト,粘土の1つまたは1つ以上で形成されることを特徴とする。
【0012】
また、上記潜堤が石材,コンクリート材,レンガ材,浚渫土を用いた人工固化材の1つまたは1つ以上から形成されることを特徴とする。
【0013】
上記潜堤は、断面台形状であり、その中心部に底質透過防止部分を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の海浜の造成材料の流出防止方法によれば、人工的に造成した海浜の波や流れによる侵食を抑制でき、底生生物の生育に適した環境を提供でき、かつコストの面からも有利になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下図面によって本発明の実施例を説明する。
【実施例1】
【0016】
本発明においては図1及び図2に示すように原地盤1上に砂,シルト,粘土の1つまたは1つ以上の造成材料2で人工的に造成して形成した海浜3の上記原地盤1上に、石材,コンクリート材,レンガ材,浚渫土を用いた人工固化材の1つまたは1つ以上から作成した、岸と沖を結ぶ方向に直交する沿岸方向に延びる例えば長さ数10m、海面4下に没する例えば1mの高さ、例えば1mの天端幅の断面台形状の複数の、例えば3列の潜堤5を沖波設計波の1/2波長の間隔で沖方向に互いに離間して設置せしめる。
【0017】
ここで沖波設計波とは例えば100m程度の十分に深い水深での波長を指し、波の周期Tと、水深hと波長Lは下記の数1によって示される。
【0018】
【数1】

【0019】
ここで、gは重力加速度(9.8m/s2)、tanhは双曲線関数、周期Tは波の波高値が単位時間、例えば1秒間で最大から最低迄に変化した回数として定められる。
【0020】
なお、上記数1は水深hが非常に深い場合には数2のように近似できる。
【0021】
【数2】

【0022】
また、水深hが非常に浅い場合には数3のように近似できる。
【0023】
【数3】

【0024】
上記潜堤5は例えば図3に示すように造成材料の複数個の固まりを断面が台形状になるように積み上げ、その中心部の幾つかをシートやマット等のカバー6で包むか、または、図4に示すように上記中心部を土壌7で形成せしめる。このような潜堤5を用いれば底質透過防止効果を向上することが出来る。
【実施例2】
【0025】
また、本発明においては図5に示すように上記潜堤5を上記原地盤1ではなく、造成材料2の層上に設置せしめても良い。
【実施例3】
【0026】
更に本発明においては図6に示すように互いに隣接する潜堤5間を、沿岸方向に互いに離間して配置した補助潜堤8によって互いに接続せしめても良い。
【0027】
以下、侵食に対する安定化に関する水理模型実験について説明する。
【0028】
(実験方法)
【0029】
図7に示すように、横50m,奥行0.6m,高さ1.2mの2次元造波水槽9中のマウンド10上に沖方向幅2mで沿岸方向に延びる帯状の砂質土11を設置し、この上に石材を積み上げて作成した台形の複数の構造物12を沖方向に互いに離間して設置し、造波板13で侵食性の波浪を造波させることで砂質土11の侵食量の比較を行った。なお、本実験での沖波波長は、1.5mである。また、14は消波材である。
【0030】
(実験例)
【0031】
構造物12の設置範囲は沖波設計波の1波長分(約1.5m)を基本とし、設置間隔が変化すると列数も変化するように表1に示す実験例を設定した。また、構造物12の内部に底質透過防止工がない場合とある場合の比較も行った。
【0032】
【表1】

【0033】
(実験結果)
【0034】
砂のみの比較対照の結果を1として、各実験例の相対侵食量を図8に示す。構造物12の設置間隔が1波長の場合には侵食防止効果は見られなかったが、1/2波長以下にすると効果が認められた。また、砂透過防止工がない場合には侵食量が増えるという結果になり、砂透過防止工の効果も確認された。
【0035】
ただし、この相対侵食量は実験領域全体の結果であるため、構造物の列数が増えるほど侵食量が低減されるのは当然の結果である。そこで、単位面積当たりの侵食量を算定した結果を表2に示す。
【0036】
【表2】

【0037】
構造物のない砂のみの比較対照の結果を1として、設置間隔が1波長の場合では同じく1.00、1/2波長では0.62、1/3波長では0.54となった。これは、設置間隔を1波長以下に設定すれば侵食防止効果を発揮することを示唆している。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の海浜の造成材料の流出防止方法の説明用平面図である。
【図2】図1のA−A線断面図である。
【図3】各潜堤の説明図である。
【図4】各潜堤の他の例の説明図である。
【図5】本発明の海浜の造成材料の流出防止方法の他の実施例を示す断面図である。
【図6】本発明の海浜の造成材料の流出防止方法の更に他の実施例説明用平面図である。
【図7】本発明の実験装置の説明図である。
【図8】各実験例の相対侵食量説明図である。
【符号の説明】
【0039】
1 原地盤
2 造成材料
3 海浜
4 海面
5 潜堤
6 カバー
7 土壌
8 補助潜堤
9 水槽
10 マウンド
11 砂質土
12 構造物
13 造波板
14 消波材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原地盤上に造成材料を造成して形成した海浜の原地盤上に複数個の潜堤を沖波設計波の1波長以下の間隔で沖方向に互いに離間して設置することを特徴とする海浜の造成材料の流出防止方法。
【請求項2】
原地盤上に造成材料を造成して形成した海浜の造成材料上に、複数個の潜堤を沖波設計波の1波長以下の間隔で沖方向に互いに離間して設置することを特徴とする海浜の造成材料の流出防止方法。
【請求項3】
互いに離間する上記複数個の潜堤間を沿岸方向に互いに離間して設置した補助の潜堤によって互いに接続したことを特徴とする請求項1または2記載の海浜の造成材料の流出防止方法。
【請求項4】
上記造成材料が砂,シルト,粘土の1つまたは1つ以上で形成されることを特徴とする請求項1、2または3記載の海浜の造成材料の流出防止方法。
【請求項5】
上記潜堤が石材,コンクリート材,レンガ材,浚渫土を用いた人工固化材の1つまたは1つ以上から形成されることを特徴とする請求項1、2、3または4記載の海浜の造成材料の流出防止方法。
【請求項6】
上記潜堤が断面台形状であり、その中心部に底質透過防止部分を有することを特徴とする請求項1、2、3、4または5記載の海浜の造成材料の流出防止方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−126941(P2007−126941A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−322467(P2005−322467)
【出願日】平成17年11月7日(2005.11.7)
【出願人】(000166627)五洋建設株式会社 (364)
【出願人】(591036631)社団法人マリノフォーラム二十一 (6)
【Fターム(参考)】