説明

海産魚のマダイイリドウイルスに対するDNAワクチン

【課題】海産魚のマダイイリドウイルス病に対する防御免疫を誘導するための魚類用DNAワクチンを提供する。
【解決手段】本願の前記DNAワクチンは、海産魚のマダイイリドウイルスに対する免疫原性ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含むDNA、又は前記DNAを含む発現ベクターを有効成分として含む。前記DNAワクチンにより海産魚でのマダイイリドウイルス病ウイルスの感染を予防できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マダイイリドウイルス(Res sea bream iridovirus;RSIV)の魚類への感染症に対する防御免疫を誘導するためのDNAワクチンに関する。
【0002】
本明細書における「マダイイリドウイルス病」とは、RSIVの感染により引き起こされるマダイイリドウイルス病を意味し、従って、マダイにおいて発症したマダイイリドウイルス病が含まれるだけでなく、マダイ以外の魚類、例えば、スズキ目に属する魚種(ブリ、カンパチ又はスズキ等)、カレイ目に属する魚種(カレイやヒラメ等)又はフグ目に属する魚種(トラフグ等)等において発症したマダイイリドウイルス病が含まれる。
【背景技術】
【0003】
魚介類を代表とする多くの水生生物の養殖産業において、閉鎖系である養殖領域でのウイルス性疾病及び細菌性疾病は、個体が高密度に存在していることから、それらの感染の影響は大きく、養殖産業において深刻な問題となっている。
【0004】
マダイイリドウイルス病は、1990年の夏から秋にかけて四国の養殖マダイに初めて発生し、翌1991年には西日本各地のマダイ養殖場で大規模な発生がみられた。また、1991年以降はマダイのみならずブリ、カンパチ、スズキ、フグなどの魚種でも発生し、本病は極めて強い伝染性を持つことから海産養殖を脅かす問題となってきている(非特許文献1)。
【0005】
マダイイリドウイルス病の原因ウイルスはイリドウイルス科に属し、六角形でエンベロープを持たない直径200〜240nmの大型DNAウイルスである。本ウイルスの増殖の至適温度は20〜25℃で酸(pH3)や有機溶媒に感受性を示す。マダイイリドウイルス病の症状は、体色の黒化、体表の出血、鰓及び囲心腔内の出血、諸器官の褪色、脾臓の腫大を特長とする。病理組織学的には細胞質が塩基性色素で均一に濃染あるいは顆粒状に染まる大型で類円形を呈する細胞(異形肥大細胞)が脾臓、心臓、腎臓、肝臓、鰓に多数観察される。それらの異形肥大細胞の細胞質に結晶配列をしたウイルス粒子が観察される(非特許文献1)。
ウイルス感染症の予防又は治療には、一般的にワクチンが使用されている。ワクチンには不活化ワクチン(日本脳炎、ワイル病など)、トキソイド(破傷風、ジフテリアなど)、弱毒ワクチン(BCG、ポリオなど)、遺伝子組換えワクチン(B型肝炎ウイルスなど)などがある。不活化ワクチン及び外毒素を無毒化したトキソイドは、これらに対する抗体を誘導する比較的安全なワクチンである。遺伝子組換えワクチンは、不活化ワクチンと比較すると、不純物を含まないので、より安全なワクチンと考えられている。
しかしながら、これらのワクチンでは抗体産生は誘導されるが、細胞性免疫は誘導されにくいという欠点がある。また、不活化ワクチン及び弱毒ワクチンは、抗原となるウイルスを産業的には大量に得ることが必要であり、適当な細胞の確保が必須である。更に、弱毒ワクチンで獲得した免疫効果は、長期間維持される場合が多いが、一方で副作用、危険性が指摘されている。不活化ワクチン及び遺伝子組換えワクチンは、抗原の持続性が宿主内において短いと考えられており、アジュバントなどを必要とする。これら従来型のワクチンは製造から被検体に接種するまでの間、冷蔵保存する必要があるため、コストの増加と効力の低下が生じる問題点があった。
開発されている魚介類用ワクチンの多くは細菌に対するものである。他方、ウイルス性疾患や寄生性疾患に関するワクチンは、サケ科魚類の一部及びスズキ目のイリドウイルスに対する不活化ワクチン(特許文献1及び特許文献2)のみである。このような不活化ワクチンは接種量が比較的多く、多くのウイルスを培養しなければならないため、コストが掛かる。また不活化で使用するホルマリンなどの不活化剤を中和や透析による除去の手間や不活化剤の添加量等の条件設定が煩雑になる欠点がある。
【0006】
最近、ワクチンの研究開発が進み、免疫原性蛋白質をコードするプラスミドDNAの投与をすることにより、免疫誘発をもたらす新しいワクチン種(DNAワクチン)が開発され、次に述べるような従来型ワクチンの不備が改善されてきている。すなわち、DNAワクチンは、体液性免疫応答のみならず、細胞性免疫を強力に誘導できるので、感染症に対する防御能を賦与することが可能となること、また、高度に純化できること、室温又は高温下でも安定であり、冷蔵保存は必須でなく長期間の貯蔵が可能であること、遺伝子工学的手法によりDNAワクチンの迅速な改良がし易いこと、及びワクチン開発に費やす時間の短縮などの利点があるため、大量に安価なワクチンを製造することができる。
【0007】
ラブドウイルス(Rhabdovirus)の構成蛋白質のグリコプロテインをコードしている遺伝子を筋肉に注射することによって、ニジマスおよびヒラメの免疫応答を刺激することが知られている(非特許文献2)。また、ニジマスおよびヒラメについてはDNAワクチンの報告もある(非特許文献3)。
しかし、他の魚種によるDNAワクチンの報告はない。また、マダイイリドウイルス感染症に対する防御免疫を誘導するためのワクチンの報告はない。
【特許文献1】特開平9−176043号公報
【特許文献2】特開2002−003400号公報
【非特許文献1】室賀清邦、江草周三編集,「魚病学概論」,(恒星社厚生閣),1996年,p.39
【非特許文献2】ピー・ボウディノット(P.Boudinot)ら,「ビロロジー(Virology)」,(米国),1998年,249巻,p.297−306
【非特許文献3】マクラウクラン(McLauchlan)ら,「フィッシュ・アンド・シェルフィッシュ・イムノロジー(Fish and shellfish Immunology)」,(英国),2003年,15巻,p.39−50
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、マダイイリドウイルス病に対する防御免疫を誘導するための魚類用DNAワクチンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、海産魚のマダイイリドウイルス病に対する有効なワクチンを鋭意研究した結果、マダイイリドウイルス(RSIV)の主要キャプシッド蛋白質(MCP)あるいは未知の蛋白質をコードする遺伝子(ORF569)を有するプラスミドDNAをマダイに接種したところ、海産魚のマダイイリドウイルス病に対する免疫効果を有すること及び免疫関連遺伝子の発現量が増加することを見出し、本発明が完成した。すなわち、本発明は、
1.マダイイリドウイルスに対する免疫原性ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含むDNA、又は前記DNAを含む発現ベクターを有効成分として含むことを特徴とする、魚類用DNAワクチン、
2.前記免疫原性ポリペプチドが、マダイイリドウイルスの蛋白質又はその部分断片である、上記1に記載の魚類用DNAワクチン、
3.前記蛋白質が、配列番号2又は4で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド又はその部分断片である、上記2に記載の魚類用DNAワクチン、
4.前記免疫原性ポリペプチドが、(1)配列番号2又は4で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチド、(2)配列番号2又は4で表されるアミノ酸配列において、1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、しかも、マダイイリドウイルスに対する免疫原性を有する改変ポリペプチド、若しくは(3)配列番号2又は4で表されるアミノ酸配列との相同性が80%以上であり、しかも、マダイイリドウイルスに対する免疫原性を有する相同ポリペプチド、又はそれらの部分断片である、上記1に記載の魚類用DNAワクチン、
5.前記ヌクレオチド配列が、(1)配列番号1又は3で表されるヌクレオチド配列、若しくは(2)配列番号1又は3で表されるヌクレオチド配列との相同性が80%以上であり、しかも、マダイイリドウイルスに対する免疫原性を有するポリペプチドをコードするヌクレオチド配列、又はそれらの部分配列である、上記1に記載の魚類用DNAワクチン、
6.前記発現ベクターが、受託番号FERM AP-20283のプラスミドpRSIV-MCP又はFERM AP-20284のプラスミドpRSIV-ORF569である、上記1に記載の魚類用DNAワクチン、
7.上記1〜6のいずれか一項に記載の魚類用DNAワクチンを魚に投与することを特徴とする、マダイイリドウイルス病の予防又は治療方法、
8.前記魚がスズキ目、カレイ目又はフグ目に属する魚である、上記7に記載の方法、並びに
9.上記1〜6のいずれか一項に記載の魚類用DNAワクチンの、海産魚のマダイイリドウイルス病に対する免疫応答の誘発への使用
に関するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の魚類用DNAワクチンによれば、RSIVによるマダイイリドウイルス病に対する免疫能を付与することができる。より詳細には、本発明の魚類用DNAワクチンによれば、RSIVの感染症、あるいは、RSIVの感染に起因するマダイイリドウイルス病に対する免疫応答(体液性免疫応答及び細胞性免疫応答を含む)を誘導することができるので、RSIVの感染の予防又は治療、あるいは、前記マダイイリドウイルス病の予防又は治療に有効である。例えば、本発明の魚類用DNAワクチンの有効成分として用いることのできるpRSIV-MCP又はpRSIV-ORF569は、海産魚でのマダイイリドウイルス病ウイルス感染防御試験及び免疫関連の遺伝子の発現量の大幅な増加を確認した結果から、DNAワクチンの有効成分として有効であり、海産魚でのマダイイリドウイルス病ウイルスの感染の予防に期待ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の魚類用DNAワクチンは、マダイイリドウイルスに対する免疫原性ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列1つ以上を少なくとも含むDNA構築物である限り、特に限定されるものではないが、本発明の魚類用DNAワクチンには、例えば、
(a)マダイイリドウイルスに対する免疫原性ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含むDNA、又は
(b)前記DNA(a)を含む発現ベクター
が含まれる。前記DNA(a)は、免疫原性ポリペプチドの発現に必要な各種の調節配列を更に含むことができ、前記発現ベクター(b)も、前記調節配列を含むことができる。
【0012】
本明細書において「マダイイリドウイルスに対する免疫原性ポリペプチド」とは、RSIVに対する免疫(体液性免疫及び細胞性免疫を含む)を生体内で誘導することのできるポリペプチドを意味する。
【0013】
RSIVに対する免疫原性ポリペプチドとしては、RSIVに対する免疫(体液性免疫及び細胞性免疫を含む)を生体内で誘導することができるポリペプチドである限り、特に限定されるものではない。前記免疫原性ポリペプチドとしては、RSIVのMCP又はORF569にコードされるポリペプチド又はその部分断片が好ましく、配列番号2又は4で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド又はその部分断片がより好ましい。
【0014】
また、前記免疫原性ポリペプチドとしては、更に、(1)配列番号2又は4で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチド、(2)配列番号2又は4で表されるアミノ酸配列において、1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、しかも、マダイイリドウイルスに対する免疫原性を有する改変ポリペプチド、若しくは(3)配列番号2又は4で表されるアミノ酸配列との相同性が80%以上(好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、更に好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上)であり、しかも、マダイイリドウイルスに対する免疫原性を有する相同ポリペプチド、又はそれらの部分断片を挙げることができる。
【0015】
本明細書において、改変ポリペプチドとは、配列番号2で表されるアミノ酸配列において、1以上(例えば、1〜数個、好ましくは1〜10個、より好ましくは1〜5個、更に好ましくは1〜3個、更に好ましくは1〜2個、特に好ましくは1個)のアミノ酸の改変(例えば、欠失、置換、及び/又は付加)が生じた蛋白質であって、依然として本発明が適用される魚類に対して免疫を付与することのできるものを意味する。
【0016】
また、本明細書において、アミノ酸配列における相同性とは、2種類のアミノ酸配列をコンピューター解析ソフト(SDCソフトウェア)にて比較解析し、同一種のアミノ酸が同じ位置に存在する場合にアミノ酸が2種類の配列で同一であるとして算出した同一性を意味する。
【0017】
本発明に用いる、免疫原性ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列としては、これまで挙げた各免疫原性ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を挙げることができ、例えば、ラブドウイルス科に属するウイルス(特には、RSIV)の各構造蛋白質、配列番号2又は4で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチド、前記改変ポリペプチド、若しくは前記相同ポリペプチド、又はそれらの部分断片をコードするヌクレオチド配列を挙げることができる。
【0018】
前記ヌクレオチド配列としては、(1)配列番号1又は3で表されるヌクレオチド配列、若しくは(2)配列番号1又は3で表されるヌクレオチド配列との相同性が80%以上であり、しかも、マダイイリドウイルスに対する免疫原性を有するポリペプチドをコードするヌクレオチド配列、又はそれらの部分配列が好ましい。なお、本明細書において、ヌクレオチド配列における相同性とは、2種類のヌクレオチド配列をコンピューター解析ソフト(SDCソフトウェア)にて比較解析し、同一種のヌクレオチドが同じ位置に存在する場合にヌクレオチドが2種類の配列で同一であるとして算出した値を意味する。また、前記部分配列の長さは、その部分ヌクレオチド配列によりコードされるポリペプチドが、RSIVに対する免疫(体液性免疫及び細胞性免疫を含む)を生体内で誘導することができる限り、特に限定されるものではない。
【0019】
また、免疫原性ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列は、天然由来のものであっても、全合成したものであっても良く、また、天然由来のものの一部を利用して合成を行ったものでもよい。
【0020】
本発明に用いる免疫原性ポリペプチド(例えば、主要キャプシッド蛋白質)をコードするヌクレオチド配列は、例えば、イリドウイルス科に属するウイルス、具体的にはマダイイリドウイルスから得ることができる。本発明に用いる前記ヌクレオチド配列の典型的な取得方法としては、遺伝子工学の分野で慣用されている方法、例えば、部分アミノ酸配列の情報を基にして作製した適当なDNAプローブを用いて、スクリーニングを行う方法などが挙げられる。
【0021】
本発明に用いる発現ベクターは、魚類の細胞内で発現可能なベクターである限り、特に限定されるものではない。本発明に用いる発現ベクターは、自己複製ベクター、すなわち、染色体外の独立体として存在し、その複製が染色体の複製に依存しない、例えば、プラスミドを基本に構築することができる。また、前記発現ベクターは、宿主に導入されたとき、その宿主のゲノム中に取り込まれ、それが組み込まれた染色体と一緒に複製されるものであってもよい。本発明に用いることのできる発現ベクターの構築の手順及び方法は、遺伝子工学の分野で慣用されているものを用いることができる。
【0022】
本発明で用いることのできる転写調節配列としては、例えば、構成プロモーター、誘導性又は調節性プロモーター、組織特異的プロモーター、又は発現されている抗原の遺伝子由来のプロモーター等が挙げられるが、魚類の細胞内で発現可能である限り、特にそれらに限定されない。構成プロモーターとしては、例えば、サイトメガロウイルス(CMV)由来のプロモーター配列、又はラウス肉腫ウイルス(RSV)、シミアンウイルス−40( SV-40 )、筋βアクチンプロモーター、又は単純ヘルペスウイルス(HSV)などの強力プロモーター等が挙げられる。組織特異的プロモーターとしては、例えば、チミヂンキナーゼプロモーター等が挙げられる。誘導性又は調節性プロモーターとしては、例えば、成長ホルモン調節性プロモーター、lacオペロン配列の制御下にあるプロモーター、又は亜鉛誘導性メタロチオネインプロモーターを挙げることができる。前記転写調節配列は、免疫原性ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列に、操作可能に(すなわち、前記ヌクレオチド配列の発現を調節することができるように)結合させることができる。
【0023】
前記調節配列は、プロモーター(例えば、前記誘導性又は構成性プロモーター)DNA配列を含む発現制御配列を含むことができ、所望により、更に、エンハンサー要素、転写又はポリアデニル化シグナル[例えば、シミアンウイルス-40(SV-40)又はウシ成長ホルモン由来]のスプライシングのためのイントロン配列、又はCpGモチーフとして知られている免疫刺激DNA配列のうち、1つ若しくはそれ以上のコピーを含むことができる。
【0024】
また、発現ベクターは、所望により、例えば、細菌複製起点配列、あるいは、選別させるための抗生物質(例えば、カナマイシン、アンピシリン、ストレプトマイシン、クロラムフェニコールなど)耐性遺伝子又は非抗生物質(例えば、β-ガラクトシダーゼ、グルタチオン−S−トランスフェラーゼなど)耐性遺伝子等の選択性マーカーを含むことができる。
【0025】
非メチル化CpGモチーフ(メチル化されていないシトシン及びグアニンの連続した塩基配列)を有するオリゴヌクレオチドは、免疫系を活性化することが知られている(A. Krieg et al.、Nature, 1995, 374, 546-549)。このCpGモチーフにより、Toll-like receptor (TLR)9を介してTh1優位な免疫応答を誘発するといわれている。DNA発現ベクターにおけるCpGモチーフのコピーは、発現蛋白質に対する免疫応答を誘発するアジュバントとして作用する。CpGモチーフ、すなわち、特異化された配列内のCpGジヌクレオチドを含むDNA伸長部は、長さが5〜40塩基対程度から選ぶことができる。複数のCpGモチーフは発現ベクターの非コード領域に挿入されてもよい。体液性応答が所望であるとき、好ましいCpGモチーフはCD8+T細胞応答を刺激することが知られているサイトカインの分泌を刺激するCpGモチーフである。
【0026】
本発明を適応することができる魚類としては、RISVが感染する可能性のある魚類である限り、特に限定されるものではないが、例えば、スズキ目に属する魚種(ブリ、カンパチ又はスズキ等)、カレイ目に属する魚種(カレイやヒラメ等)又はフグ目に属する魚種(トラフグ等)等が挙げられる。
【0027】
DNAワクチンの接種法は、例えば、経口投与、筋肉内注射、腹腔内注射、遺伝子銃を用いた投与及び液浸が挙げられるが、好ましくは筋肉内注射、遺伝子銃を用いた投与である。遺伝子銃を用いた投与とは、プラスミドを1μm程の大きさの金粒子にコーティングし、高圧ヘリウムガスを用い、専用の器具で被検体の皮膚、細胞又は組織に空気銃の要領で撃ち込む方法である。この遺伝子銃による投与は、筋肉内注射と比較し、100〜1000分の1のDNA量で、同等の免疫効果を挙げることができる点、筋肉内注射と比較し再現性に優れている点などの優れた特徴を有している。
【0028】
また、アジュバントは、免疫系を刺激して抗原に対する免疫反応を高めるものであり、主にワクチンに補助剤として添加される。代表的なアジュバントとしては、例えば、アルミニウム化合物、ポリヌクレオチド又は細菌の菌体成分などが知られているが、これらの中には本発明に適用するには充分な効果が得られないものも多い。特に、アジュバントの作用は抗原物質に広く有効であるため、抗原に含まれる不純物の抗原刺激性を増強され、有害な副作用を生ずる危険もあり、使用する抗原の純度に充分な配慮をする必要があるなどの問題がある。そのような中で、例えばIL-1βはアジュバントとして有効であることが報告されている(J. Y. Scheerlinck, Genetic adjuvants for DNA Vaccine, 19, 2647-2656, 2001)。本発明においては、魚類(例えばヒラメなど)の体内で発現可能なようにIL-1β遺伝子を挿入したプラスミドを作製し、本発明のワクチンとともに魚類に接種することができる。
【0029】
免疫機構は、様々な役割を担った細胞が相互に機能調節を行いながら、多様な生理機能を発揮している。生体防御に重要な役割を担っている因子であるT細胞及びB細胞の細胞表面上に存在しているT細胞抗原レセプター(TCR)、主要組織適合性複合体(major histocompatibility complex:MHC)、又は免疫グロブリン(Ig)の発現量を指標に、免疫システムの活性化を調べることが可能である。
TCRはT細胞に発現される糖タンパクであり、抗原提示細胞(APC)に存在するMHC分子に提示された抗原のペプチド断片を認識する受容体である。TCRにはCD4マーカーやCD8マーカーを表出するものがある。CDマーカーはリンパ球などの白血球の表面分子であり、特にT細胞を分別するために用いられる。この中で、CD8はMHCクラスIレセプター、CD4はMHCクラスIIレセプターに関与している。MHCも糖タンパクであり、通常、クラスIとクラスIIがあり、クラスI分子は体内のすべての有核細胞上に存在するが、クラスII分子はAPC(B細胞、マクロファージ、単球、T細胞の一部など)の表面にのみ存在する。
本発明においては、マダイイリドウイルス病に対するDNAワクチンをマダイに接種後、魚体内における生体防御機構の活性化について解析するため、例えば、TCR、MHC、及びIgの発現量の変化についてPCRを行い半定量的に確認し、免疫システムの活性化を調べることができる。
【0030】
以下、実施例によって本発明を具体的に詳述するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0031】
マダイイリドウイルス(RSIV)由来MCP遺伝子又はORF569遺伝子の単離
(1)PCRプライマーの作製
マダイイリドウイルス(RSIV)由来MCP遺伝子又はORF569遺伝子に対応するDNAの塩基配列から配列番号5〜8のPCRプライマーを、常法に従い、作製した。
(2)cDNAの単離
市販のL-15培地(インビトロジェン株式会社)に、10%となるようにウシ胎児血清(FBS)を加え、ペニシリン及びストレプトマイシンの終濃度がそれぞれ100units/mLと100μg/mLとなるように調整した後、この培地にてHINAE細胞(Kasai, H. and Yoshimizu, M. Bull. Fish.Sci. Hokkaido Univ., 52: 62-70)を20℃で培養した。コンフルエントとなるまで培養した血管内皮前駆細胞(endothelial progenitor cell:EPC)細胞に、-80℃で保管しておいたマダイイリドウイルスRSIV-TUMST1株を感染させた。RSIV-TUMST1のHINAE細胞への感染後、2〜7日で細胞変性効果(Cytopathic Effect:CPE)を観察した。
【0032】
RSIV-TUMST1株の培養液(感染価 1.0x108 TCID50 /mL )10μL及びTNES-urea reagent (10 mM Tris-HCl, 125 mM NaCl, 10 mM EDTA, 0.5% SDS, 4 M urea, pH 7.5) 500μLを混和し、次いで、プロテアーゼKを終濃度50 mg/mlになるように加え、よく混和した。37℃で1時間静置した後、フェノールクロロホルム500μLを加えよく混和し、室温で5分間静置した後、遠心分離(15,000rpm、4℃、5分間)を行い、上層を新しい遠心管に移した。上層に対して等量のイソプロピルアルコールを加え、10分間室温に放置した。遠心分離後(15,000rpm、10分間)、上層を捨てペレット状態となったゲノミックDNAを乾燥させ、滅菌水10μLに溶解した。
【0033】
このように抽出したゲノミックDNAから、市販のPCR反応試薬(ExTaq DNAポリメラーゼ;宝酒造社製)により、添付の操作方法に従って、実施例1(1)で作製したPCRプライマーを用いて、常法に従いPCRを行なった。PCRは、添付の10xbuffer 5μL、dNTP 4μL、MCP-forward又は569-forward 1μL(25pmol/μL)、MCP-reverse又は569-reverse 1μL(25pmol/μL)、DNAポリメラーゼ0.5μL(5units/μL)、DNA 1μL(10ng)、及び滅菌水37.5μLで50μLに調製後、95℃で5分間処理後、次いで95℃で30秒間、55℃で30秒間、及び72℃で1分間を1サイクルとする処理を30回施した後、72℃で2分間処理するという反応条件で行った。得られたPCR産物をアガロースゲル電気泳動した結果、約1.4あるいは0.9kbp程のDNA断片が増幅されていたことを目視にて確認した。
(3)DNA塩基配列の解析
その増幅されたDNA断片をpGEM-T Eazyベクター (プロメガ社製)へと挿入し、蛍光標識されたM13プライマー(日清紡績社製)及び市販のシークエンスキット(Thermo Sequence Fluorescent Labeled Primer Cycle Sequencing Kit with 7-deaza-dGTP;amersham pharmacia bitech社製) を用いてダイデオキシ法(Dideoxy method)でサンプルを作成した後、DNAシークエンサー(DNA sequencer model 4000;LI-COR社製)を用いて塩基配列を決定した。この配列を解析したところ、PCRで増幅されたDNA断片は、1362bp(MCP)あるいは927bp(ORF569)からなるオープンリーディングフレーム(ORF)が存在した(配列番号1および3)。このORFから予測される蛋白質は、453アミノ酸残基ならびに308アミノ酸残基であり、相同性検索(FASTA)を行なった結果、MCPは既知の配列(GenBank AB080362)と同一であり、ORF569はこれまでに報告されていないマダイイリドウイルスの未知の蛋白質遺伝子であった。以下、得られた、マダイイリドウイルスのORF569にコードされるポリペプチドを「RSIV-ORF569」と称した。
【実施例2】
【0034】
プラスミドpRSIV-MCP及びpRSIV-ORF569の作製
実施例1(3)のDNA塩基配列の解析で用いたプラスミドをEcoRI及びNhe Iで処理した。そして、pGEM-T Easyベクターから切り出された実施例1(2)で得られたRSIV-TUMST1株由来のグリコプロテイン遺伝子を、pCDNA3.1ベクター (インビトロジェン社製)のヒトサイトメガロウイルス由来のプロモーター領域がコードされている配列の下流に位置するマルチクローニングサイトのEcoRI及びNhe I認識部位へ挿入し、プラスミドpRSIV-MCP及びpRSIV-ORF569を作製した。なお、pRSIV-MCP及びpRSIV-ORF569は、2004年(平成16年)10月28日に独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(あて名:〒305-8566 日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)に国内寄託されたものであり、その受託番号は、FERM AP-20283及びFERM AP-20284である。
【実施例3】
【0035】
マダイに対する感染防御試験
各試験区には、マダイ稚魚(全長約5cm、平均魚体重10g)を用いた。試験魚は、60Lの水槽で、ろ過処理した天然海水を循環して飼育し、平均水温23.0℃で飼育した。
【0036】
まず、pRSIV-MCP又はpRSIV-ORF569 10.0μg、コントロールとしてリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)50μL、pCDNA3.1ベクター10.0μg、又はホルマリンによって不活化した市販のワクチンを27Gの注射針を装着した注射器を用いてマダイの筋肉へそれぞれ接種した。その接種の30日後に、実施例1(2)の条件と同様にHINAE細胞(L-15培地+10%FBS)で培養したRSIV-TUMST1株の培養上澄を、1.0 × 105 TCID50 /100μLまで希釈した濃度で、マダイ1尾当り100μLを腹腔内注射により接種した。感染防御試験を行った試験区画は、次の通りである。
試験区1: pRSIV-MCP+1.0 × 105TCID50 RSIV-TUMST1株/マダイ1尾
試験区2: pRSIV-ORF569+1.0 × 105TCID50 RSIV-TUMST1株/マダイ1尾
試験区3: ホルマリン不活化された市販のワクチン(イリド不活化ワクチン「ビケン」)+1.0 × 102TCID50 RSIV-TUMST1株/マダイ1尾
試験区4: pCDNA3.1ベクター+1.0 × 105TCID50 RSIV-TUMST1株/マダイ1尾
試験区5: PBS+1.0 × 105TCID50 RSIV-TUMST1株/マダイ1尾
RSIV-TUMST1株感染後、マダイを16日間観察し続け、試験区1〜試験区5のマダイの累積死亡率(死亡個体数/試験個体数)×100(%)を算出し、その結果を図1並びに表1に示す。なお、表における「RPS」は、relative percent survivalの略であり、以下の計算式で算出する:
RPS={1−(X/C)}×100
[式中、記号Xは「%ワクチン接種区の死亡率」であり、Cは「%陰性コントロール区の死亡率」である]
ワクチンの効果は、その比較によって判定した。
【0037】
【表1】

【0038】
その結果、試験区4及び5は、それぞれ57及び68%累積死亡率であるのに対して、試験区1及び2は共に約21%であったことから、RSIV-TUMST1株に対するpRSIV-MCPおよびpRSIV-ORF569の感染防御の有効性、すなわち、ワクチン効果が明らかとなった。
【実施例4】
【0039】
免疫関連遺伝子の発現量解析
(1)半定量的PCR
測定対象の遺伝子と標準DNAは、全量 50μl (10 x PCR buffer 5μl、dNTP 5μl、ExTaq (5U/μl) 0.25μl、primer-F (10μM) 1μl、primer-R (10μM) 1μl、鋳型cDNA(1μl)で行う。この時、用いる鋳型cDNAは1000ng/mlの濃度に調製する。PCRは、95℃で5分間処理後に、95℃で30秒間、55℃で30秒間、72℃で30秒間を1サイクルとする処理を30回行った。これらPCR用の試薬及び機械はThermal cycler MP (Takara社製)を用い、添付の操作方法に従って行った。また、primer-F、primer-Rに対応する各遺伝子のPCR用プライマーを配列番号9〜16にに示す。
(2)mRNAの発現量の解析
マダイの筋肉にpRSIV-MCPおよびpRSIV-ORF569のプラスミドDNA各10μgを実施例3の方法に準じてそれぞれ接種し、7日、15日及び30日後の筋肉組織より常法に従い、mRNAを抽出し、cDNAを合成した。次いで、MHCクラス1、MHCクラス2、IgLの発現量の変化についてPCRを用い半定量的に解析した。解析した結果を図2に示す。尚、定量した各々の遺伝子は、β-actinで統一化した。
【0040】
その結果、解析を行った遺伝子の発現量は、コントロールのpCDNA3.1ベクターのみの筋肉組織と比べて接種区の方が、MHCクラス1では約5〜6倍、MHCクラス2では約6〜8倍、IgLでは約7〜9倍のmRNAコピー数の増加がそれぞれ認められた。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明のDNAワクチンは、海産魚のマダイイリドウイルス病の予防又は治療の用途に適用することができる。
【配列表フリーテキスト】
【0042】
以下の配列表の数字見出し<223>には、「Artificial Sequence」の説明を記載する。具体的には、配列番号5で表される塩基配列は、プライマーMCP-forwardであり、配列番号6で表される塩基配列は、プライマーMCP-reverseであり、配列番号7で表される塩基配列は、プライマーORF569-forwardであり、配列番号8で表される塩基配列は、プライマーORF569-reverseである。また、配列番号9〜16は、IgL-forward、IgL-reverse、MHCI-forward、MHCI-reverse、MHCII-forward、MHCII-reverse、Beta-actin-forward及びBeta-actin-reverseの各プライマーである。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】RSIV(1.0 × 105 TCID50 /魚)攻撃後の累積死亡率に関して、1.0 × 105 TCID50 /100μL感染群における、DNAワクチン処理によるマダイの累積死亡率の経時的変化を示すグラフである。
【図2】免疫関連遺伝子の発現量解析に関して1.0 × 105 TCID50 /100μL感染群における、DNAワクチン処理による(1)MHCクラス1、(2)MHCクラス2及び(3)IgLの発現量の変化を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マダイイリドウイルスに対する免疫原性ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含むDNA、又は前記DNAを含む発現ベクターを有効成分として含むことを特徴とする、魚類用DNAワクチン。
【請求項2】
前記免疫原性ポリペプチドが、マダイイリドウイルスの蛋白質又はその部分断片である、請求項1に記載の魚類用DNAワクチン。
【請求項3】
前記蛋白質が、配列番号2又は4で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド又はその部分断片である、請求項2に記載の魚類用DNAワクチン。
【請求項4】
前記免疫原性ポリペプチドが、(1)配列番号2又は4で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチド、(2)配列番号2又は4で表されるアミノ酸配列において、1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、しかも、マダイイリドウイルスに対する免疫原性を有する改変ポリペプチド、若しくは(3)配列番号2又は4で表されるアミノ酸配列との相同性が80%以上であり、しかも、マダイイリドウイルスに対する免疫原性を有する相同ポリペプチド、又はそれらの部分断片である、請求項1に記載の魚類用DNAワクチン。
【請求項5】
前記ヌクレオチド配列が、(1)配列番号1又は3で表されるヌクレオチド配列、若しくは(2)配列番号1又は3で表されるヌクレオチド配列との相同性が80%以上であり、しかも、マダイイリドウイルスに対する免疫原性を有するポリペプチドをコードするヌクレオチド配列、又はそれらの部分配列である、請求項1に記載の魚類用DNAワクチン。
【請求項6】
前記発現ベクターが、受託番号FERM AP-20283のプラスミドpRSIV-MCP又はFERM AP-20284のプラスミドpRSIV-ORF569である、請求項1に記載の魚類用DNAワクチン。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の魚類用DNAワクチンを魚に投与することを特徴とする、マダイイリドウイルス病の予防又は治療方法。
【請求項8】
前記魚が、スズキ目、カレイ目又はフグ目に属する魚である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の魚類用DNAワクチンの、マダイイリドウイルス病に対する免疫応答の誘発への使用。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−137724(P2006−137724A)
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−330109(P2004−330109)
【出願日】平成16年11月15日(2004.11.15)
【出願人】(000006091)明治製菓株式会社 (180)
【出願人】(501353100)
【Fターム(参考)】