説明

海草の播種装置

【課題】作業労力をかけずに種子の流出を抑えて所望の位置に播種を行うことができる海草の播種装置を提供する。
【解決手段】播種装置1は、海底Fに配置された底泥集積用部材2と、底泥集積用部材2内に設けられた種撒き機3とを備えている。底泥集積用部材2は船に接続して曳航可能であり、底壁21には播種穴21sが形成されている。種撒き機3内には海草の種子Sが入れられている。種撒き機3の下部には、播種穴21sへ種子Sを放出する種子放出穴311aが設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海草の播種装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、藻場造成においてアマモ等の海草の種子を海底に撒くときには、種子の流出を抑えるために以下の(1)〜(4)のような種子混合物が使用されている。
【0003】
(1)シート状物に種子が固着された播種シート(特許文献1参照)。
(2)布帛製の袋体に種子を含む生育基盤材が充填された播種基体(特許文献2参照)。
(3)種子と浚渫土とを含む粘性土と、石膏を主体とした固化材と、水溶性ポリマーとを混合してなる粒状化物(特許文献3参照)。
(4)非水溶性固体片に種子を結合担持させてなる播種用材料(特許文献4参照)。
【0004】
しかしながら、上記の種子混合物の設置に際しては潜水作業が必要となり、作業労力がかかる。そこで、適宜な割合の砂と、海草の種子と、粉末状の糊状物質とを混合し、さらに水を加えて砂に糊状物質と種子がまぶされた状態のものを、船等に設けた投入口を介して水面から海底に投入する方法が採用されている(特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−308904号公報
【特許文献2】特開平06−205620号公報
【特許文献3】特開2005−95142号公報
【特許文献4】特開2004−187519号公報
【特許文献5】特開2001−45896号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献5に記載された方法は、投入口から海底まで距離があるため、流れがある場合には種子が拡散してしまい所望の位置に播種することができない。
【0007】
本発明は、かかる従来の課題に鑑みてなされたものであり、作業労力をかけずに種子の流出を抑えて所望の位置に播種を行うことができる海草の播種装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために本発明の海草の播種装置は、
海底に配置されて内部に収容空間を有する底泥集積用部材と、前記収容空間内に設けられた種撒き機とを備える海草の播種装置であって、
前記底泥集積用部材は、側部が船に接続して曳航可能であり、底部に播種穴が設けられ、
前記種撒き機は、内部に海草の種子が入れられ、下部に前記播種穴へ前記種子を放出する種子放出穴が設けられていることを特徴とする。
【0009】
また、種撒き機は、収容空間内で両端が曳航方向と水平に直交する方向に位置して固定された中空状の筒体と、この筒体内に挿通された回転軸とを備えるものが好ましい。この場合には、筒体内に海草の種子を入れ、筒体の周面の下部に種子放出穴を設ける。さらに回転軸の両端には、底泥集積用部材の曳航に伴い曳航方向に回転して回転軸を曳航方向に回転させる一対の回転駆動部を設ける。そして回転軸で筒体内に位置する部分に、回転軸の回転に連動して曳航方向に回転して筒体内を攪拌する攪拌部を設ける。
【0010】
また、筒体の周面には、海草の種子を放出せずに海水を筒体内に入れる通水穴を設けることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の海草の播種装置は、底泥集積用部材を曳航することにより、種撒き機内の種子が種子放出穴から播種穴を通じて海底に放出される。同時に、底泥集積用部材は前側(曳航方向側)にある底泥を集積しながら進んでいき、集積された底泥が底泥集積用部材の上部に堆積し、堆積した底泥が底泥集積用部材の背後に落下して、海底に放出された種子の上に被せられる。以上のようにして播種が行われる。
【0012】
したがって、本発明の海草の播種装置では、播種に際して従来のように潜水作業を必要としないので、作業労力をかけずに播種を行うことができる。また、種撒き機から放出された種子の上に、底泥集積用部材の背後から落下する底泥が直ちに被せられるので種子の流出を抑えることができる。また、種子放出穴と播種穴とを備えたことにより海底付近で播種を行うことが可能となるので、播種の際に種子が拡散してしまうことがなく、所望の位置に播種を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施の形態を示す海草の播種装置の斜視図である。
【図2】同実施の形態の底泥集積用部材の斜視図である。
【図3】同実施の形態の播種装置を用いた播種方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図にしたがって説明する。
【0015】
図1は、本発明の一実施の形態を示す海草の播種装置1の斜視図である。図1では、播種装置1の右側部分を示す。この播種装置1は、海底Fに配置された底泥集積用部材2と、底泥集積用部材2内に設けられた種撒き機3とを備えている。
【0016】
図2に示すように底泥集積用部材2はコ字型に形成されており、内部に種撒き機3の収容空間2sが形成されている。底泥集積用部材2の底壁21は左右に櫛状に形成されており、複数の櫛歯21aを有している。隣接する櫛歯21a,21a間には播種穴21sが形成されている。この播種穴21sは、後述する種撒き機3の突起311(種子放出穴311a)が差し込める大きさに形成されている。
【0017】
底泥集積用部材2の前壁22の右角部には挿通口22aが形成されている。図1に示すように、この挿通口22aには曳航用ワイヤー10が通されている。図3に示すように曳航用ワイヤー10は船11に接続されており、底泥集積用部材2は曳航可能となっている。
【0018】
種撒き機3は、中空状の筒体31と、筒体31内に挿通された回転軸32とを備えている。筒体31は、底泥集積用部材2の収容空間2s内に配置され、両端が左右方向(曳航方向Aと水平に直交する方向)に位置している。さらに筒体31は、両端が固定部材30を介して底泥集積用部材2の上壁23の左右端に固定されている。
【0019】
また、筒体31は、両端が開口した円筒状の筒体本体351と、筒体本体351の両端を塞ぐ一対の蓋352,352とを備えている。一対の蓋352,352には、回転軸32を通す挿通穴352a,352aが設けられている。筒体本体351内には海草の種子Sが入れられている。なお、種子Sは海水より大きい比重の状態のものを用いるが、軽い場合や比重が均一でない場合は、重みを付けるために泥土等に種子を混ぜた団子状固体等にして用いる。
【0020】
筒体本体351の周面351aの下部には、播種穴21sへ種子Sを放出する種子放出穴311aが設けられている。具体的に説明すると、周面351aの下部には、各播種穴21sに差し込むように突起311が形成されており、この突起311の下面に種子放出穴311aが設けられている。この種子放出穴311aは、種子Sを放出するために種子Sよりも大きく形成されている。また、各種子放出穴311aは、図示しないが水溶性シール材(水溶性紙等)で塞がれている。この水溶性シール材は、播種装置1を海底Fに設置してしばらくすると溶けて消滅するものである。
【0021】
筒体本体351の周面351aの上部には、多数の通水穴311bが筒体本体351の長さ方向に長く設けられている。この通水穴311bは、海水を筒体本体351内に入れるものであり、種子Sが放出されない大きさに形成されている。この通水穴311bにより、筒体本体351内には海水が充満されている。
【0022】
回転軸32は筒体本体351内を挿通して配置されており、両端に一対の回転駆動部33,33が設けられている。この回転駆動部33は、底泥集積用部材2の曳航に伴い曳航方向A(前方)に回転して回転軸32を曳航方向Aに回転させるものである。この回転駆動部33は、回転軸32に接続した軸部330と、軸部の周りに結合した複数の回転翼331とから構成されている。各回転翼331は細長の板状に形成されており、基端が回転軸32に結合し、先端部331aが前方へ折り曲げられている。
【0023】
回転軸32で筒体本体351内に位置する部分には、複数の攪拌部34が設けられている。この攪拌部34は、回転軸32の回転により回転して筒体本体351内を攪拌するものである。この攪拌部34は、複数の攪拌翼34aから構成されている。複数の攪拌翼34aはそれぞれ細長い板状に形成されて、一端が回転軸32に結合して対称に配置されている。
【0024】
次に、播種装置1の設置方法を説明する。播種装置1は、以下の(1)〜(5)の手順で海底Fに設置する。
【0025】
(1)筒体本体351を用意して、種子放出穴311aを水溶性シール材で塞ぐ。
(2)筒体本体351内に回転軸32を挿入し、両端を蓋352で塞いで筒体31にする。
(3)筒体31を底泥集積用部材2の後方から収容空間2s内に入れる。このときに、筒体31の突起311(種子放出穴311a)を底泥集積用部材2の播種穴21sに差し込んで位置を合わせる。この状態で筒体31の両端を固定部材30により底泥集積用部材2の上壁23の左右端に固定する。
(4)一対の回転駆動部33,33を用意し、各回転駆動部33の軸部330を底泥集積用部材2の左右側から筒体31の回転軸32の両端にそれぞれ接続する。これにより底泥集積用部材2の収容空間2s内に種撒き機3が設置されて播種装置1が完成する。
(5)播種装置1を海底Fに配置し、前壁22を曳航用ワイヤー10で船11に接続する。
【0026】
次に、播種装置1を用いた播種方法を説明する。この播種装置1は、海底Fに設置してしばらくすると、種撒き機3の種子放出穴311aを塞いでいる水溶性シール材が溶け、種子放出穴311aと底泥集積用部材2の播種穴21sとが連通する。そして、図3に示すように船11で底泥集積用部材2を曳航すると、回転駆動部33が曳航方向Aに回転し、これに連動して回転軸32も曳航方向Aに回転する。回転軸32の回転により攪拌部34も曳航方向Aに回転して筒体31内が攪拌される。この攪拌により筒体31内の種子Sは巻き上げと沈降が行われて分散し、沈降した種子Sが、種子放出穴311aから播種穴21sを通じて海底Fに放出される。
【0027】
底泥集積用部材2は、種子Sの放出と同時に、図3に示すように前側(曳航方向A側)の底泥100を集積しながら進んでいく。集積した底泥100は底泥集積用部材2の上部に堆積し、堆積した底泥100は底泥集積用部材2の背後に落下して、海底に放出された種子Sの上に被せられる。こうして播種が完了する。
【0028】
このように本実施の形態の海草の播種装置1では、船による曳航作業のみで播種を行うので、従来のように播種の際に潜水作業を必要としない。よって、作業労力をかけずに播種を行うことができる。
【0029】
また、本実施の形態の海草の播種装置1では、種撒き機3から放出された種子Sの上に、底泥集積用部材2の背後から落下する底泥が直ちに被せられるので種子の流出を抑えることができる。また、種子放出穴311aと播種穴21sとを備えたことにより、海底F付近で播種を行うことが可能となるので、播種の際に種子Sが拡散してしまうことがなく、所望の位置に播種を行うことができる。
【0030】
また、本実施の形態の海草の播種装置1では、播種に使用する材料は,種子と底泥のみであることから、播種前に播種シート等の種子混合物を製造する必要がない。よって、自然発芽の場合と同様な環境をつくることができる。したがって、播種後の発芽率や成長に影響を与えてしまうことがない。
【0031】
また、本実施の形態の海草の播種装置1では、攪拌部34で筒体31内を攪拌しながら播種を行うようにしたので、筒体31内の種子Sが分散され、種子Sを効率良く放出することができる。
【0032】
さらに、本実施の形態の海草の播種装置1では、筒体31に通水穴311bを設けたので筒体31内には海水が充満し、種子Sは海水に混合した状態で攪拌される。したがって、種子Sの分散効率を高めることができ、種子Sをさらに効率良く放出することができる。
【0033】
また、本実施の形態の海草の播種装置1では、底泥集積用部材2をコ字型に形成した。これにより、種撒き機3の設置に際しては、筒体31を底泥集積用部材2の後方から収容空間2s内に入れて、一対の回転駆動部33,33を底泥集積用部材2の左右側から回転軸32の両端に接続すれば良い。したがって、種撒き機3の設置に際しては障害となるものがないので、種撒き機3の設置作業を容易に行うことができる。
【0034】
以上、本発明にかかる実施の形態を例示したが、この実施の形態は本発明の内容を限定するものではない。また、本発明の請求項の範囲を逸脱しない範囲であれば、各種の変更等は可能である。
【0035】
例えば、本実施の形態では、底泥集積用部材2としてコ字型のものを使用したが、底泥集積用部材2の形状はコ字型に限定しなくても良く、内部に種撒き機3の収容空間を有して曳航可能であれば良い。
【産業上の利用可能性】
【0036】
以上説明したように本発明の海草の播種装置は、作業労力をかけずに種子の流出を抑えて所望の位置に播種を行うことができる。したがって、本発明の海草の播種装置を、海草の播種装置の技術分野で十分に利用することができる。
【符号の説明】
【0037】
1 海草の播種装置
2 底泥集積用部材
2s 収容空間
3 種撒き機
11 船
21 底泥集積用部材の底壁(底部)
21s 播種穴
22 前壁(側部)
31 筒体
351a 筒体の周面
32 回転軸
33 回転駆動部
34 攪拌部
311a 種子放出穴
311b 通水穴
A 曳航方向
F 海底
S 海草の種子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
海底に配置されて内部に収容空間を有する底泥集積用部材と、前記収容空間内に設けられた種撒き機とを備える海草の播種装置であって、
前記底泥集積用部材は、側部が船に接続して曳航可能であり、底部に播種穴が設けられ、
前記種撒き機は、内部に海草の種子が入れられ、下部に前記播種穴へ前記種子を放出する種子放出穴が設けられていることを特徴とする海草の播種装置。
【請求項2】
請求項1に記載の海草の播種装置において、
前記種撒き機は、前記収容空間内で両端が曳航方向と水平に直交する方向に位置して固定された中空状の筒体と、この筒体内に挿通された回転軸とを備え、
前記筒体内には前記海草の種子が入れられ、前記筒体の周面の下部には前記種子放出穴が設けられ、
前記回転軸の両端には、前記底泥集積用部材の曳航に伴い曳航方向に回転して前記回転軸を曳航方向に回転させる一対の回転駆動部が設けられ、
前記回転軸で前記筒体内に位置する部分には、前記回転軸の回転に連動して曳航方向に回転して前記筒体内を攪拌する攪拌部が設けられていることを特徴とする海草の播種装置。
【請求項3】
請求項2に記載の海草の播種装置において、
前記筒体の周面に、前記海草の種子を放出せずに海水を当該筒体内に入れる通水穴を設けたことを特徴とする海草の播種装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−231758(P2012−231758A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−103620(P2011−103620)
【出願日】平成23年5月6日(2011.5.6)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【Fターム(参考)】