説明

海藻の養殖装置とその装置を使用した養殖方法

【課題】比較的大型の海藻類を大量に生産して燃料として活用する事が検討されている。この実現のためには収穫作業を含む養殖方法の低コスト化が必要と考えられる。
【解決手段】天然海域において、固定部材12の所定間隔毎に着生部材11が設置されている養殖部材1を周知の支持部材2、浮力部材3、係留部材4により海水中の中層に設置して、気胞を持ち養殖部材1より上方に成長する海藻7を着生部材11に自生させ、成長した段階で海面上の移動手段である船5に搭載された切断機6により海面上から海藻7を切断して収穫する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は主としてバイオ燃料としての海藻の養殖に使用する養殖装置、およびその装置を使用した養殖方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年二酸化炭素問題対策のひとつとして植物資源を燃料(いわゆるバイオ燃料)として活用する動きがあり、その中で植物資源のひとつとしてホンダワラや昆布等の海底または海水中に係留された養殖部材に生育する比較的大型の海藻類を大量に生産して活用することも検討されている。海藻類の生産量を拡大し、従来の穀物を使用したバイオ燃料とは異なるバイオ燃料を作るという構想である。
【0003】
海藻類の養殖は従来食物としての生産又は漁業の基礎となる藻場の造成のために行われている。食用としてのホンダワラや昆布等の養殖方法は中層延べ縄方式と呼ばれる方法が主に用いられている。この方法では、陸上の施設で種苗を育成して、この種苗を取り付けた養殖ロープを海藻の生育に適した天然海域に設置して種苗を成長させ、成長した海藻を養殖ロープと一緒に船上に引き揚げ、船上又は陸上で収穫するという方法が一般的に用いられている。種苗を育成する方法のひとつとして、陸上の施設において小ブロック上の着生部材表面に幼胚を着生させ、着生部材とともに水槽内で育成してある程度の大きさに成長した時点で小ブロックをロープ等の固定部材に取り付け天然海域に設置する方法が特許文献1に開示されている。
【0004】
藻場の造成のためには海藻の種苗を最初に用い、その後は成長した海藻から放出される胞子や幼胚等(以下「胞子」と言う)が自然着床して成長する(以下、胞子が自然着床して成長することを「自生」と言う)ことで、藻場を永続的に造成する方法が一般的に用いられている。この方法のひとつとしては、図8に示すように基盤100に複数本の柱体を立設した構造物を海底に設置して、海藻の種苗200を一部の柱体300に取り付け成長させるとともに、その海藻から放出される胞子により他の柱体400にも海藻を自生させ永続性のある海中林を造成する
技術が特許文献2に開示されている。
【0005】
海藻の収穫についても、バイオ燃料の材料としてのコストダウンを目的として海面上の船から海藻の切断機を降ろし、ロープ等の養殖部材に養殖した海藻の付着部を残して切断して収穫する方法が特許文献3、特許文献4に開示されている。この方法は海面上から切断機を降ろして海藻を切断するため、切断箇所が養殖部材より海面側であることが望ましく、海藻が気胞を持ち養殖部材より上方に成長する海藻例えばホンダワラやジャイアントケルプ等がこの収穫方法に適している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−135523
【特許文献2】特開2000−069878
【特許文献3】特開2008−297531
【特許文献4】特願2009−003595
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
食用としてのホンダワラや昆布等の養殖に主に用いられている中層延べ縄方式と呼ばれる方法では、前述したように陸上の施設で種苗を育成して、この種苗を取り付けた養殖ロープを天然海域で海藻の生育に適した水深に設置して種苗を成長させ、成長した海藻を養殖ロープと一緒に船上に引き揚げ船上又は陸上で収穫をしている。この方法は種苗の育成、取り付け、養殖ロープの設置と収穫段階のそれぞれで多大な人手と時間を必要としている。結果としてバイオ燃料の材料として用いるためにはコストが高いものになっている。
【0008】
特許文献1に開示された方法は着生部材表面に幼胚を着生させ、着生部材とともに水槽内で育成してある程度大きさに海藻が成長した時点で、種苗となる海藻を着生部材とともにロープ等の固定部材に取り付け天然海域に設置している。種苗の育成と固定部材の取り付け段階以外は従来の方法と同じで、養殖ロープの設置と収穫段階で従来方式と同様に多大な人手と時間を必要としているため、従来の方法と同様にコストがバイオ燃料の材料として用いるためには高いものになっている。
【0009】
特許文献2に開示されている複数本の柱体を立設した構造物を海底に設置して、海藻の種苗を一部の柱体に取り付け成長させ、成長した海藻から放出される胞子により他の柱体にも海藻を自生させ永続性のある海中林を造成する方法においては、養殖を開始する最初の一回だけ種苗を使用し、その後海藻を永続的に成長させることができるため養殖段階のコストは低減できるが、海底の凹凸が収穫の機械化を難しくするため大量に安く収穫することは困難と考えられる。
【0010】
前述した特許文献3、特許文献4にバイオ燃料の材料としてのコストダウンを目的として海面上の船から海藻の切断機を降ろしロープ等の養殖部材に養殖した気胞を持った多年生の海藻の付着部を残して切断して収穫する方法が開示されている。この方法では収穫するために成長した海藻を養殖ロープと一緒に船上に引き揚げる必要を無くすことでかなりのコストダウンが期待されている。しかし、従来と同じように種苗を用いる養殖方法を用いた場合、多年生の海藻でも海藻の寿命より短い数年毎にロープを引き揚げ、陸上又は船上でロープに種苗を取り付ける必要があり、ロープを引き揚げず海面上から収穫する方法のメリットを低減してしまう。又、海藻が流失又は枯死することで年々収穫が減少することも避けられない。このことから、海藻を安く大量に生産するためには、収穫のためにロープを引き揚げる必要がない機械化された収穫方法とともに、ロープを引き揚げて種苗を取り付けなくても海藻を長期間生育でき、かつ機械化された収穫方法に適した海藻の養殖方法が必要であると考えられる。しかし、特許文献3、特許文献4にはこの点の改良に関する記載はない。
【0011】
前述したような状況を踏まえ出願人はバイオ燃料用としての海藻を安く大量に生産するためには、海面上から切断機で海藻を切断して収穫するのに適した気胞を持ち養殖部材より上方に成長する海藻を、種苗を用いずに天然海域に設置された養殖部材に自生させ、成長した段階で海面上から切断機で海藻を切断して収穫する方法が最も適していると考えている。この方法によれば、一度養殖装置を設置すればその後毎年海藻が自生し成長するため、陸上の施設での種苗の育成、種苗を取り付けた養殖ロープの天然海域への設置、成長した海藻と養殖ロープの船上への引き揚げ作業等を収穫の度に行う必要が無くなるとともに、船上又は陸上での収穫などの作業も大幅に簡単になり、大幅なコストダウンが可能になる。
【0012】
海藻を自生させて養殖する技術に関して、海底の藻場形成において海藻を人工の構造物である養殖部材に自生させる技術は特許文献2にも開示されている。しかし、気胞を持つ海藻を天然海域の中層に設置された養殖部材に自生させ養殖する技術に関して公開されたものはない。海藻から放出された胞子が養殖部材に着床して天然海域でも安定して成長できる段階まで生育するためには、胞子が海流により流失しないように少なくとも部分的には流れが静かで、少なくとも成長の初期段階では魚等の食害から守られ、適度な日射等の条件を満たし、かつ海藻の付着器(仮根)がしっかり付着できる表面と周辺空間が養殖部材の表面上に必要であると考えられる。しかし、天然海域の中層に設置されたロープ又は網単独の養殖部材では、ロープ又は網の表面が海流の流れを直接受ける、食害に対して無防備である等により前述した条件を安定的に満たすことが多くの場合困難である。この対策として、天然海域の中層に設置された養殖部材の固定部材であるロープ又は網に前述した条件を満たすことができる表面と周辺空間を作ることができる着生部材を取り付けることで、海藻が自生できる可能性を高めることができると考えられるが、実用的なものはなかった。又、前述した条件は目的とする海藻と養殖部材を設置する場所によって異なるため、目的とする海藻と設置する場所に適した着生部材の仕様を短期間に求めることができるようにすることも実用面では重要な課題である。
【0013】
請求項1の発明は、天然海域において中層に設置された養殖部材に気胞を持ち養殖部材より上方に成長する海藻を自生させ、成長した段階で海面上から切断機で海藻を切断して収穫することを特徴とする海藻の養殖方法である。養殖部材に海藻を自生させるため、一度養殖装置を設置すればその後毎年海藻が自生し成長するため、陸上の施設での種苗を育成、種苗を取り付けた養殖ロープの天然海域への設置、成長した海藻と養殖ロープの船上への引き揚げ等の作業を収穫の度に行う必要が無くなるとともに、海藻が持つ気胞のため海藻が養殖部材から上方に成長するため、船から海藻を切断して収穫することが容易であり、収穫作業も大幅に簡単になり大幅なコストダウンが可能になる。この場合、多年生の海藻の付着部を残して切断する収穫方法を用いることで残された付着部から引き続き成長する海藻に加えて、流失又は枯死することで減少した海藻分を養殖部材に新たに自生した海藻により補うことで、より永続的に安定した収穫が期待できる。
【0014】
請求項2の発明は、ロープ又は網からなる固定部材と、固定部材の少なくとも一部を覆う複数の着生部材とで構成され、養殖部材を天然海域の中層に設置して海藻を自生させることを特徴とする養殖方法である。固定部材であるロープ又は網の少なくとも一部を覆う着生部材により目的とする海藻が固定部材だけでは自生が困難な環境においても、着生部材を用いることで海藻の胞子が着床しやすく強固に付着できる環境を作ることで、海藻が自生しやすい環境を局部的に形成することができる。なお、請求項2以下の発明は天然海域の中層に設置された養殖部材に海藻を自生させるための技術に関わるものであり、養殖対象とする海藻は気胞をもたない海藻に対しても適用可能なものである。
【0015】
請求項3の発明は、着生部材は、固定部材の少なくとも一部を覆う基体部と基体部の両端又は両端近傍に設けられ固定部材の軸方向と直交する板状の側面板部を有し、着生部材を固定部材の表面を覆う形で所定間隔毎に複数個設置することを特徴とする養殖方法である。着生部材の基体部の両端又は両端近傍に設けられ固定部材の軸方向と直交する板状の側面板部により、少なくとも成長の初期段階では魚等の食害から守られ、海流と日射をある程度制御できる空間を容易に固定部材の表面に作ることができる。又、着生部材を固定部材の表面を覆う形で長さ方向の所定間隔毎に設置することで海藻の密生を防ぎながら目的とする海藻が自生し成長できる可能性を高めることができる。
【0016】
請求項4の発明は、着生部材の基体部に凹部を複数設けたことを特徴とする養殖方法である。基体部の凹部により凹部内に局所的に海流が非常に弱い環境を作ることで胞子が着生部材に着床することを容易にすることができる。
【0017】
請求項5の発明は、着生部材の側面板部を両端とし、軸部材及び基体部を軸方向に取り巻く空間の一部を薄い板状部材である覆い部材で覆ったことを特徴とする養殖方法である。覆い部材の大きさと、必要により着色した半透明の材料を用いることで、側面板部に挟まれた空間の海水の流速や日射量、透過光の色等の環境をより大きく変えることができ、目的とする海藻が自生できる可能性をより高めることができる。なお、覆い部材は一部分だけを側面板部に固定された可撓性の薄板でできているため海藻は成長に伴って覆い部材を押しのけて側面板部に挟まれた空間の外部に成長することができる。
【0018】
請求項6の発明は、着生部材の材料は可撓性の樹脂であり、少なくとも1箇所に周方向に分離可能な接合面を有し、接合面を固定することで着生部材を固定部材に固定すること特徴とする養殖方法である。着生部材の接合面を周方向に広げた状態で長い固定部材を包み込んだ後接合面を固定することで長い固定部材の任意の位置に着生部材を容易に固定することができる。又、着生部材を着脱可能に固定すれば、必要により着生部材のみを取り替えることが可能であるため養殖部材のメンテナンスが容易になる。又、各種の仕様の着生部材を一つの固定部材に容易に取り付けることができるので、新しい養殖地を開拓する場合新しい養殖地に適した着生部材の仕様の検討及び確認を短期間で行うことができる。
【0019】
請求項7の発明は、養殖部材を、海藻の既設の養殖地又は天然の自生地に係留して養殖部材に胞子を着床させた後移設して海藻を養殖することを特徴とする養殖方法である。新しい養殖地を開拓する場合、従来と同様種苗を使って養殖を始めて海藻が一度成長した後はその海藻から供給される胞子を自生させることも考えられるが、比較的近くの別の場所に既設の養殖地又は天然の自生地がある場合、養殖部材を既設の養殖地又は天然の自生地に係留して養殖部材に胞子を着床させた後新しい養殖地に移設して海藻を養殖することで種苗を使わずに養殖を開始することができる。種苗を用いずに養殖を開始できるため、種苗を育成し養殖部材に取り付ける設備、手間が省けるのでコスト的に有利である。
【0020】
請求項8の発明は、養殖部材を海藻の既設養殖地の近傍に増設して増設した養殖部材に胞子を着床させることで養殖地の面積を拡大することを特徴とする養殖方法である。既設の養殖地の近傍には養殖されている海藻からの胞子が海流により供給されるため、養殖部材をその近傍に増設して増設された養殖部材に胞子を着床させることで種苗を用いずに養殖地の面積を拡大することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る養殖装置と養殖方法の全体概要説明図である。
【図2】養殖部材1の着生部材11と固定部材12の一部分の側面図である。
【図3】図2のローマ数字3−ローマ数字3断面図である。
【図4】養殖部材1を変更した事例(第二実施事例)の着生部材11と固定部材12の一部分の側面図である。
【図5】図4のローマ数字5−ローマ数字5断面図である。
【図6】養殖部材1を変更した事例(第三実施事例)の着生部材11と固定部材12の一部分の側面図である。
【図7】図6のローマ数字7−ローマ数字7断面図である。
【図8】従来技術の一実施例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1は養殖装置と養殖方法の全体概要説明図である。天然海域において養殖部材1を周知の支持部材2、浮力部材3、係留部材4により海水中の中層に設置して、気胞を持ち養殖部材1より上方に成長する海藻7を自生させ、成長した段階で海面上の移動手段である船5から切断機6を降ろして、又は養殖部材1の設置深度を浅くして船5に搭載された切断機6により海面上から海藻7を切断して、図示していない揚水ポンプ等で船5に引き上げることにより収穫する。海面上から切断機6で海藻7を切断して収穫するためには気胞を持ち養殖部材1より上方に成長する海藻7が適している。固定部材12より下方に成長する海藻7の場合切断機6を固定部材12より下側まで降ろす必要があり、固定部材12が邪魔になり海面上から切断機6で海藻7を切断して収穫するためには適していないためである。
【0023】
養殖部材1は右下の一部拡大図に示すように、着生部材11とロープ又は網からなる固定部材12により構成され、固定部材12の所定間隔毎に着生部材11が複数個設置されている。養殖装置に海藻7が自生する段階では成長している海藻7から放出された胞子が、着生部材11に着床し、着生部材11の表面と周辺空間で成長する。着生部材11により海藻7が自生するために必要な局所的な環境を人工的に作り出すことが出来るため、海藻7が自生できる可能性を固定部材12だけの場合よりも高める事ができる。又、着生部材11を固定部材12の表面を覆う形で長さ方向の所定間隔毎に設置することで、海藻7の密生を防ぎながら目的とする海藻7が自生し成長できる可能性を高めることができる。又、海藻7が成長した段階で海面上の船から海藻7の切断機6を降ろし海藻7を収穫することで、陸上の施設での種苗の育成、種苗を取り付けた養殖部材1の天然海域への設置、成長した海藻7と養殖部材1の船上への引き揚げ等の作業を収穫の度に行う必要が無くなるとともに、海藻7が持つ気胞のため海藻7が養殖部材1から上方に成長するため船から海藻7を切断して収穫することが容易であり、収穫作業も大幅に簡単になり大幅なコストダウンが可能になる。この場合、多年生の海藻7の付着部を残して切断する収穫方法を用いることで残された付着部から引き続き成長する海藻7に加えて、流失又は枯死することで減少した海藻7を養殖部材1に新たに自生した海藻7により補うことで、より永続的に安定した収穫が期待できる。又、海藻7が気胞を持つため養殖部材1から上方に成長するため船から海藻7を切断して収穫することが容易である。なお、養殖部材1に関する技術は、天然海域の中層に設置された養殖部材1に海藻7を自生させるためのものであり、気胞をもたない海藻7に対しても適用可能である。
【0024】
図2は養殖部材1の着生部材11と固定部材12の一部分の側面図であり、図3は図2のローマ数字3−ローマ数字3断面図である。養殖部材1は前述したように、着生部材11と固定部材12により構成され、固定部材12の表面を覆う形で固定部材12の長さ方向の所定間隔毎に着生部材11が設置されている。着生部材11は、海藻7が自生するために必要な局所的な環境を人工的に作り出すことにより、目的とする海藻7が自生できる可能性を高めるものである。着生部材11の基体部11Aは基体筒部11A1と基体凸部11A2からなり、海藻7の胞子が着床して付着器が付着する部材であり、固定部材12の少なくとも一部を覆う固定部材12とは異なる表面環境を容易に形成することができる。基体筒部11A1の表面には幅と深さが0.5mmから2mm程度の凹部11Bが複数刻まれている。凹部11Bの形状は溝でも孔でもよい。凹部11Bの内部は海水の流速が殆どないため胞子が流失しにくく胞子の着床に適した環境になっている。基体凸部11A2は強度部材であるとともに、凹部11Bの回りの流速を低減している。基体部11Aの両端又は両端近傍に設けられ固定部材12の軸方向と直交する板状で高さが10mmから100mm程度の側面板部11Cと必要によりその中間に中間板部11Dが設けられている。側面板部11C、中間板部11Dの板部間の間隔は10mmから50mm程度が適当である。これらの板部により少なくとも成長の初期段階の海藻7を魚等の食害から守ることができるとともに、これらの板部により板部で挟まれた筒状の空間内部の流速と日射時間をある程度制御できる。このため、目的とする海藻7が固定部材12であるロープ又は網だけでは自生することが困難な海藻7あるいは環境においても、自生しやすい局部的な環境を人工的に形成することができ、目的とする海藻7が自生できる可能性を高めることができる。
【0025】
着生部材11の材料は可撓性の樹脂であり、少なくとも1箇所に周方向に分離可能な接合面11Fを有し、接合面11Fを接合部材11Eにより着脱可能に固定することで着生部材11を固定部材12に固定している。接合方法は基体部11Aからの凸部を軸方向から圧入した接合部材11Eで挟み込む方法を例示しているが、必要な接合強度を持つものであればねじや、孔と突起の嵌合等周知の方法を用いることができる。着脱できる必要がなければ溶着や接着等でもよい。着生部材11の材料が可撓性の樹脂であるため接合面11Fを周方向に広げた状態で長い固定部材12を包み込んだ後接合面11Fを固定することで長い固定部材12の任意の位置に着生部材11を容易に固定することができる。又、着生部材11を着脱可能に固定することで、必要により着生部材11のみを取り替えることが可能であるため養殖部材1のメンテナンスが容易になる。又、各種の仕様の着生部材11を一つの固定部材12に容易に取り付けることができるので、新しい養殖地を開拓する場合新しい養殖場の適した着生部材11の仕様の検討及び確認を短期間で行うことができる。
【0026】
固定部材12に網を用いた場合着生部材11を網の結び目に固定してもよい。この場合、基体部11Aは円筒状ではなく平面状で、海面側に凹部11B、側面板部11C、後述する覆い部材11G等を配置したものであってもよい。
【0027】
図4は前記した事例(第一実施事例)の養殖部材1を変更した事例(第二実施事例)の側面図であり、図5は図4のローマ数字5−ローマ数字5断面図である。第一実施事例とは、着生部材11の基体部11Aが異なっており、第一実施事例の基体筒部11A1と凹溝部11Bが廃止されて軸方向に伸びる複数の基体棒部11A3で構成されている。この結果、固定部材12の表面が直接海流に接することになり胞子は固定部材12の表面に着床することになる。固定部材12であるロープ又は網の表面は多数の凹凸があり、側面板部11C等により魚等の食害から守られ流速と日射時間がある程度制御されているため、胞子が着床し生長するためには適した環境になっており、さらに海藻7の付着器が直接固定部材12の表面に付着することができるのでより強固に付着できる。
【0028】
図6は前記した事例(第一実施事例)の養殖部材1を変更した事例(第三実施事例)の側面図であり、図7は図6のローマ数字7−ローマ数字7断面図である。第一実施事例と同じ着生部材11の側面板部11Cを両端とし、軸部材12及び基体部11Aを軸方向に取り巻く空間の一部を薄い板状部材である覆い部材11Gで覆っている。覆い部材11Gの大きさを変えることと、必要により着色した半透明の材料を用いることで、側面板部11Cに挟まれた空間の海水の流速や日射量、透過光の色等の環境を覆い部材11Gがない場合よりも大きく変えることができ、目的とする海藻7が自生できる可能性をより高めることができる。なお、覆い部材11Gは可撓性の薄板部11G1と棒状部11G2とからなり、棒状部11G2が側面板部11Cに固定され薄板部11G1は固定されていないため海水は流入することができ、海藻7は成長に伴って薄板部11G1の先端側を押しのけて側面板部11Cに挟まれた空間の外部に成長することができる。
【0029】
新しい養殖地を開拓する場合において養殖装置に海藻7が自生を始める最初の段階では、従来と同様に種苗を使って養殖を始めて、海藻7が一度成長した後はその海藻7から供給される胞子を自生させることが考えられる。別の方法としては、比較的近くの別の場所に既設の養殖地又は天然の自生地がある場合、海藻7を既設の養殖地又は天然の自生地に係留して養殖部材1に胞子を着床させた後新しい養殖地に移設して海藻7を養殖することで種苗を使わずに養殖を開始することができる。種苗を用いずに養殖を開始できるため、種苗を育成し養殖部材1に取り付ける設備、手間が省けるのでコスト的に有利である。
【0030】
海藻7が自生できる条件は目的とする海藻7と養殖部材1を設置する場所によって異なるため、新しい養殖地を開拓する場合、目的とする海藻7と設置する場所に適した着生部材11の仕様を短期間に求めることができることも実用面では重要な課題である。複数の異なる仕様の着生部材11を固定部材12に取り付けた養殖部材1を設置して海藻7が自生できる条件すなわち着生部材11の仕様を求めることで新しい養殖地に適した着生部材11の仕様を短期間に求めることができる。
【0031】
養殖地面積を拡大する段階では、養殖部材1を既設の養殖地の近傍に増設して増設された養殖部材1に胞子を着床させ自生させることで養殖地の面積を拡大することができる。既設の養殖地の近傍には養殖されている海藻7からの胞子が海流により供給されるため、養殖部材1をその近傍に増設して増設された養殖部材1に胞子を着床させることで種苗を用いずに養殖地の面積を拡大することができる。
【符号の説明】
【0032】
1・・・・養殖部材
11・・・着生部材
12・・・固定部材
2・・・・支持部材
3・・・・浮力部材
4・・・・係留部材
5・・・・移動手段(船)
6・・・・切断機
7・・・・海藻

【特許請求の範囲】
【請求項1】
海藻の養殖方法であって、天然海域の中層に設置された養殖部材に気胞を持ち養殖部材より上方に成長する海藻を自生させ、成長した段階で海面上から切断機で前記海藻を切断して収穫することを特徴とする海藻の養殖方法。
【請求項2】
海藻の養殖方法であって、海藻の養殖部材は、ロープ又は網からなる固定部材と、前記固定部材の少なくとも一部を覆う複数の着生部材とで構成され、前記養殖部材を天然海域の中層に設置して海藻を自生させることを特徴とする養殖方法。
【請求項3】
前記着生部材は、前記固定部材の少なくとも一部を覆う基体部と前記基体部の両端又は両端近傍に設けられ前記固定部材の軸方向と直交する板状の側面板部を有し、着生部材を固定部材の表面を覆う形で所定間隔毎に複数個設置することを特徴とする請求項1又は2に記載の養殖方法。
【請求項4】
前記着生部材の前記基体部に凹部を複数設けたことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の養殖方法。
【請求項5】
前記着生部材の前記側面板部材を両端とし、前記軸部材及び前記基体部を軸方向に取り巻く空間の一部を薄い板状部材である覆い部材で覆ったことを特徴とする請求項3又は4項に記載の養殖方法。
【請求項6】
前記着生部材の材料は可撓性の樹脂であり、少なくとも1箇所に周方向に分離可能な接合面を有し、前記接合面を固定することで前記着生部材を前記固定部材に固定することを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の養殖方法。
【請求項7】
前記養殖部材を、前記海藻の既設の養殖地又は天然の自生地に係留して前記養殖部材に胞子を着床させた後移設して前記海藻を養殖することを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の養殖方法。
【請求項8】
前記養殖部材を、前記海藻の既設養殖地の近傍に増設して増設した前記養殖部材に胞子を着床させることで養殖地の面積を拡大することを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の養殖方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−67173(P2011−67173A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−222832(P2009−222832)
【出願日】平成21年9月28日(2009.9.28)
【出願人】(508152939)
【Fターム(参考)】