説明

海藻用栄養塩供給装置、及び海藻用栄養塩供給方法

【課題】
栄養塩を効率良く供給することができ、しかも海底や海岸など自然環境への工事を最小限に抑えることができる海藻用栄養塩供給装置を提供する。
【解決手段】
海に臨んだ陸上に、フルボ酸鉄を水に溶出可能な第1溶出用水槽3と、窒素やリン等の栄養塩を水に溶出可能な第2溶出用水槽4と、前記第1溶出用水槽と第2溶出用水槽に水を供給する水供給機構と、第1溶出用水槽と第2溶出用水槽とのいずれか一方または両方の溶出用水槽内の溶出成分含有水を選択して海に供給可能な溶出成分含有水供給機構と、を設置し、海底に生育する海藻の生活史に対応させて前記溶出成分含有水供給機構により選択して前記溶出用水槽の溶出成分含有水を藻場となる海域2に供給するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンブなどの海藻が繁殖し易く、成長を促進するために、特に、腐植酸鉄等や窒素とリン等を含有した栄養塩を海中に供給する海藻用栄養塩供給方法、およびその装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、沿岸部などでは、海藻が減少して石灰藻で覆われる磯焼けが進行し、昆布、ウニ、アワビ等の沿岸水産資源の減少が顕著になっている。これは、従前であれば、森林の腐植土壌中で生成する水溶性のフルボ酸鉄(フルボ酸と二価の鉄がキレート化したもの)が河川から流れ込んでいたが、近年、森林の荒廃などによってフルボ酸鉄の供給が減少していることに起因しているといわれている。すなわち、水生植物が活発に光合成を行うために必要とされる海水中の鉄分が不足し、これにより昆布などの水生植物の繁殖、生育が悪化し、その結果としてウニやアワビ等の沿岸水産資源の減少を招いていると考えられている。
【0003】
このような問題を解決するために、例えば、石炭溶融灰、製鋼スラグなどの二価鉄含有物を嫌気性発酵させた腐植物質と共にココナッツ繊維袋に詰め、これを沿岸部に埋設したり、あるいは海中に沈め、ここから二価鉄を徐々に海中に放出し、これにより海藻や珪藻等の水生植物の繁茂に必要な鉄分を供給し、効率よく水生植物を繁茂させようとする磯焼け修復方法や水域環境保全材料などの技術が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−34140号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、前記した二価鉄含有物の海中への放出は、確かに海藻の繁茂に効果が認められたが、本願発明者の研究によると、二価鉄含有物だけを単に海中に放出するだけではなく、海藻の生育を促進させる窒素やリンに代表される栄養塩の補給が効果的であることが判明した。
しかしながら、窒素やリン等の栄養塩を単に海中に放出しようとすると、栄養塩が短期間に溶出してしまい、溶出した割りに海藻の生育促進に寄与せず、効率が極めて低かった。
【0006】
また、従来は、二価鉄含有物を嫌気性発酵させた腐植物質と共にココナッツ繊維袋に詰め、これを沿岸部に埋設したり、あるいは海中に沈め、ここから二価鉄を徐々に海中に放出する方式を採るので、海底の形状が変化して生態系の一部が変化し、あるいは海岸の一部に埋設工事を行うことが必須であり、この点で自然環境への配慮が求められていた。
【0007】
本発明は、これらの事情に鑑みて提案されたものであり、栄養塩を効率良く供給することができ、しかも海底や海岸など自然環境への工事を最小限に抑えることができる海藻用栄養塩供給方法及びその装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記した目的を達成するためになされたもので、請求項1記載のものは、海に臨んだ陸上に、フルボ酸鉄を水に溶出可能な第1溶出用水槽と、窒素とリンを主成分とする栄養塩を水に溶出可能な第2溶出用水槽と、前記第1溶出用水槽と第2溶出用水槽に水を供給する水供給機構と、第1溶出用水槽と第2溶出用水槽とのいずれか一方または両方の溶出用水槽内の溶出成分含有水を選択して海に供給可能な溶出成分含有水供給機構と、を設置し、海底に生育する海藻の生活史に対応させて前記溶出成分含有水供給機構により選択して前記溶出用水槽の溶出成分含有水を海中に供給することを特徴とする海藻用栄養塩供給装置である。
【0009】
請求項2に記載のものは、前記溶出成分含有水供給機構により、海藻の生活史の一部であって芽胞体発生後の成長期に、第1溶出用水槽と第2溶出用水槽との両溶出水槽から溶出成分含有水を海中に供給し、成長期以外の時期は第2溶出用水槽から溶出成分含有水の供給を停止することを特徴とする請求項1に記載の海藻用栄養塩供給装置である。
【0010】
請求項3に記載のものは、前記溶出成分含有水供給機構が、第2溶出用水槽への水供給系または溶出成分含有水流出系の少なくとも一方に弁を備え、
タイマーに予めセットした時期的条件が充足した時点で前記弁を開く制御を行う制御装置を設け、
当該制御装置の制御の下で前記弁を制御して、第2溶出用水槽内の溶出成分含有水を海中に供給することを特徴とする請求項2に記載の海藻用栄養塩供給装置である。
【0011】
請求項4に記載のものは、海水の温度を検知する海水温度検出手段を備え、該海水温度検出手段により検出した海水温度が制御装置に予め設定された温度条件を充足し、且つ時期的条件が充足した場合に、前記弁を開いて第2溶出用水槽内の溶出成分含有水を海中に供給することを特徴とする請求項3に記載の海藻用栄養塩供給装置である。
【0012】
請求項5に記載のものは、前記水供給機構が、電動ポンプと、該電動ポンプの吐出口から吐出される水を前記両溶出用水槽に導く水供給系と、を備え、前記電動ポンプによって海または河川から汲み上げた水を水供給系を介して前記両溶出用水槽に供給することを特徴とする請求項4に記載の海藻用栄養塩供給装置である。
【0013】
請求項6に記載のものは、前記電動ポンプの電源が、風力により発電機を駆動する風力発電機、太陽光電池、波力発電、海水の水位の変化を利用して発電を行う潮力発電のいずれかであることを特徴とする請求項5に記載の海藻用栄養塩供給装置である。
【0014】
請求項7に記載のものは、海に臨んだ陸上に設置された水槽内で、フルボ酸鉄を水に溶出してフルボ酸鉄溶出水を調整し、このフルボ酸鉄溶出水を藻場となる海域に移動して海水中に供給するフルボ酸鉄溶出水供給工程と、
海に臨んだ陸上に設置された水槽内で、窒素とリンを主成分とする栄養塩を水に溶出して窒素及びリンの栄養塩溶出水を調整し、この窒素及びリン栄養塩溶出水を藻場の海藻の生活史に対応させて、海藻の芽胞体が発生した後の成長期に前記海域に移動して海水中に供給する窒素及びリン栄養塩溶出水供給工程と、
を含んでいることを特徴とする海藻用栄養塩供給方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、海底に生育する海藻の生活史に対応させて前記溶出成分含有水供給機構により選択して前記溶出用水槽の溶出成分含有水を海中に供給するので、海藻の生育時期に適合した効率の良い栄養塩供給を行うことができ、窒素とリンを主成分とする栄養塩を溶出させた溶出成分含有水を海藻の生育タイミングに適合させて供給することができ、効率の向上を図ることができ、フルボ酸鉄の供給による繁殖、生育の促進との相乗効果が期待できる。
特に、海藻の生活史の一部である成長期に、第1溶出用水槽と第2溶出用水槽との両溶出水槽から溶出成分含有水を海中に供給し、成長期以外の時期は第2溶出用水槽から溶出成分含有水の供給を停止すると、効率向上が従来に比べて顕著である。
また、海底や海岸に大規模な工事を行うことが不要となるので、自然環境への変化を最小限に留めておくことができる。
そして、海藻の繁殖、成長が促進されると、磯焼けした海域であっても効率良く回復することができ、藻場に海藻が繁茂すると、盛んに行われる光合成により二酸化炭素の固定が促進され、自然環境の回復に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】藻場となる海岸汀線近傍から陸上までの領域を示す藻場周辺の断面図である。
【図2】海藻用栄養塩供給装置の概略構成を示す説明図である。
【図3】コンブの生活史の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。
図1は藻場となる海域から海岸までの領域を示す断面図であり、図2は海岸に設置した海藻用栄養塩供給装置の構成を示す説明図である。
本発明に係る海藻用栄養塩供給装置1は、藻場2となる浅瀬の海の近くの海岸(海岸汀線よりも陸側)に、フルボ酸鉄を水に溶出可能な第1溶出用水槽3と、窒素やリン等の栄養塩を水に溶出可能な第2溶出用水槽4と、前記第1溶出用水槽3と第2溶出用水槽4に水を供給する水供給機構と、第1溶出用水槽3と第2溶出用水槽4とのいずれか一方または両方の溶出用水槽内の溶出成分含有水を選択して海に供給可能な溶出成分含有水供給機構と、を設置して構成され、海底に生育するコンブ5等の海藻の生活史に対応させて前記溶出成分含有水供給機構により選択して前記水槽内の溶出成分含有水を海中にタイミング良く供給するものである。
【0018】
第1溶出用水槽3は、主としてフルボ酸鉄を水に溶出させる水槽であり、底面を僅かに海側に下り傾斜させた状態で設置され、内部にフルボ酸鉄溶出ユニット6を複数入れてあり、このフルボ酸鉄溶出ユニット6を供給された水に浸漬させるとフルボ酸鉄を溶出させることができる。
【0019】
第1溶出用水槽3に入れるフルボ酸鉄溶出ユニット6は、イオン溶出性収容体(図示せず)内に、ダム湖底に堆積した腐植物等の堆積物を採取して固形化した固形有機態と、鉄含有物質とを収納したものである。
【0020】
まず、イオン溶出性収容体について説明する。
このイオン溶出性収容体は、内部に収納した腐植物が溶けて二価鉄イオンやフルボ酸鉄が溶出可能な袋体、箱体、かご体などである。具体的には、ポリ塩化ビニール、ポリエチレン等の無機化学材料繊維、ココナッツヤシや麻などの植物繊維を使用して形成した袋体、多孔質材料を使用して形成した箱体、金属線材などを籠状体に成形したかごがある。例えば、ココナッツヤシ繊維(ヤシノミ繊維)を厚さ10〜15ミリのマット状に重ねてから袋にした中袋と、この中袋の外側を覆うヤシネットとの二重構造の袋体であり、中袋の中に前記した固形有機態と鉄含有物質を所定量投入し、開口部を縫合するなどして封止する。
【0021】
次に、固形有機態について説明する。
この固形有機態は、例えば、ダム湖底に堆積した腐植物等の堆積物を採取して固形化したものでよい。
ダム湖の底には、河川から流れ込んだ土砂や落ち葉などの有機物が堆積している。そして、土砂などの鉱物は、ダム湖に流れ込んで流速が緩やかになると比重が大きいので比較的早く沈殿し、また、粒径の大きなものの方が早く沈む。したがって、これらはダム湖の河川流れ込み領域などダム堤体から遠い地点に堆積し勝ちである。一方、落ち葉や小枝などは比重が小さいのでダム湖に流れ込んだ後も沈み難いためにダム湖中を漂ってからダム堤体近くに沈殿する。このため、使用する腐植物は、ダム堤体近くの湖底から採取することが望ましい。そして、ダム湖の底、特にダム堤体近くの湖底では山野で育った落ち葉や小枝などの有機物が水中で空気に触れない状態で堆積して腐植するので、腐植物を始めとする堆積物中では嫌気性発酵が行われることとなり、フルボ酸やフミン酸などの腐植酸が蓄積されている。なお、この蓄積された堆積物(沈殿物)は、有機酸鉄をも含んでいるので固形化すれば固形化有機態となり、これはフルボ酸鉄に相当するものであって、フルボ酸鉄溶出ユニット6の素材として好適である。しかも、ダム湖の堆積物を採取して、新たな用途の素材として使用するので、工業廃棄物とは異なり自然の無害な資源として使用できる第1のメリットがある一方で、ダム湖の底の掃除ができるという第2のメリットがある。
【0022】
腐植物と細かい土砂を含んだ堆積物(泥土)を採取するには、クレーン船から湖底に吊り降ろした泥水用サンドポンプを使用し、この泥水用サンドポンプにより腐植土混じりの泥土を台船に汲み上げ、陸上の脱水処理施設に搬送する。そして、脱水処理施設の沈殿槽で沈殿させ、次に、沈殿物を脱水装置で脱水して脱水ケーキを固化処理装置にベルトコンベアで搬送し、この固化処理装置で粒状の固形有機態に固化する。そして、この様にして固形化した固形有機態は、包装装置に搬送して包装する。
【0023】
廃木材チップを条件的嫌気性発酵により生成した腐植物質中に含まれるフルボ酸とフミン酸は1%のオーダーであるが、ダム湖底に沈積した堆積物中に含まれるフルボ酸とフミン酸は数十%オーダーである。さらに、これらのフルボ酸とフミン酸に結合している鉄の形態分析から、カルボキシル基などの含酸素基とキレート結合している二価鉄であることも確認されている。
【0024】
また、本発明に使用するフルボ酸鉄溶出ユニット6は、ダム湖の底から採取して脱水処理を施した固形有機態だけであってもキレート結合している二価鉄を含んでいるのでこれのみでも十分に機能するが、鉄含有物質として、製鋼スラグや石炭ガス化スラグ等の二価鉄含有物質を添加してもよい。
【0025】
この様なフルボ酸鉄溶出ユニット6を第1溶出用水槽3内に設置して海水に浸漬すると、固形有機態に含まれたフルボ酸鉄がイオン溶出性収容体の内部から海水に溶出するとともに、鉄含有物質の二価の鉄イオンがキレート剤(錯体)として固形有機態のフルボ酸と結合してフルボ酸鉄となり、この新たに結合したフルボ酸鉄がイオン溶出性収容体の内部から海水に溶出する。フルボ酸鉄溶出ユニット6内では、製鋼スラグ等の鉄含有物質とキレート結合してフルボ酸鉄となる。そして、本実施形態では、フルボ酸鉄溶出ユニット6内のアルカリ調整済み鉄含有物質が、二価鉄イオンの溶出を遅らせる抑制剤として機能するので、前記した製鋼スラグの二価の鉄イオンがキレート剤(錯体)として固形有機態のフルボ酸と結合してフルボ酸鉄となる速度は、単に鉄含有物質と腐植物とを混ぜただけの従来の水域環境保全材料よりも遥かに緩やかなものである。したがって、このフルボ酸鉄の結合は従来のものと比較して長期間に亘って継続することとなる。そして、本実施形態に示すフルボ酸鉄溶出ユニット6のイオン溶出性収容体はココナツ繊維(ヤシノミ繊維)製なので、退化速度が遅く、10年以上の長期間に亘って内容物を保持し、二価鉄イオンやフルボ酸鉄を溶出し続ける。
【0026】
次に、第2溶出用水槽4について説明する。この第2溶出用水槽4は、前述した第1溶出用水槽3よりも容量が小さな水槽であり、図面に示すものは第1溶出用水槽3と一体化したもの、具体的には、大きな水槽の内部に仕切り壁を設けて第1溶出用水槽3と第2溶出用水槽としたものであり、内部に、窒素やリン等の栄養塩を詰めた栄養塩ユニット7を複数入れてあり、この栄養塩ユニット7を供給された水に浸漬させると窒素やリン等の栄養塩を溶出させることができる。
【0027】
この第2溶出用水槽4に入れる栄養塩ユニット7は、イオン溶出性収容体(図示せず)内に、例えば、バイオマス資源、具体的には汚泥発酵物質・魚カス等を入れてある。この汚泥発酵物質は、一般的には汚泥発酵肥料として使用されているもので、その主要な成分として、窒素全量5.15%、りん酸全量6.26%、加里全量0.39%を含んでいるが、海水中で期待するN:Pは7:1である。
【0028】
前記した溶出用水槽3,4に水を供給する水供給機構は、図面に示す実施形態では、海辺にコルゲート管10を縦方向に埋設し、このコルゲート管10内に海水用水中ポンプ11を設置し、該水中ポンプ11の吐出口に一端を接続したホース12の他端を陸上に設置した浄化器13に接続し、該浄化器13の出口に一端を接続したホース14の他端を第1溶出用水槽3、第2溶出用水槽4に水供給系としてそれぞれ接続し、水中ポンプ11により汲み上げた海水を浄化器13で浄化し、浄化した海水を第1溶出用水槽3、第2溶出用水槽4に注入することができる。なお、浄化器13から第1、第2溶出用水槽3,4に接続する水供給系には第1、第2給水弁15a,15bをそれぞれ設け、海水注入先の水槽3,4を適宜選択することができるように構成してある。したがって、第1、第2給水弁15a,15bを開閉操作することにより、汲み上げた海水を第1溶出用水槽3と第2溶出用水槽4との両水槽に同時に注入したり、あるいは第1溶出用水槽3のみに注入したりすることができる。そして、両給水弁15a,15bは、水を供給する水槽を選択することで、オーバーフローして流れ出る水槽の選択に通じることから、後述するように、両溶出用水槽3,4内の水を選択的に海に供給するための溶出成分含有水供給機構の一部として機能することもある。
【0029】
なお、前記した水中ポンプ11の電源は、電力会社の送電線を使用してもよいし、送電線が遠くて使用できない場合にはエンジン式発電機16を使用してもよい。また、海岸は風が通り易いので、風力により発電機を駆動する風力発電機を使用することができる。さらに、日当たりが良好なので、太陽光電池を使用しても良い。そして、波の力を利用して発電を行う波力発電、海水の水位の変化を利用して発電を行う潮力発電など、いずれの発電機を用いることも可能である。
【0030】
次に、第1溶出用水槽3と第2溶出用水槽4とのいずれか一方または両方の溶出用水槽内の溶出成分含有水を選択して海に供給可能な溶出成分含有水供給機構について説明する。第1溶出用水槽3、第2溶出用水槽4の最高水位の少し下にそれぞれ第1溶出水出口、第2溶出水出口を開設し、これら溶出水出口に溶出成分含有水流出系として接続した管を途中で合流させて溶出成分含有水供給管20とし、この溶出成分含有水供給管20を第1溶出用水槽3から海中に延ばし、その出口20´と海岸線との間から前記溶出成分含有水を分散させて藻場2となる海域に流出する。また、前記した第1溶出水出口、第2溶出水出口から溶出成分含有水供給管20の合流点までの間に第1、第2流出弁21a,21bをそれぞれ設けてある。したがって、これらの第1、第2流出弁21a,21bを操作することにより、第1溶出用水槽3と第2溶出用水槽4とのいずれか一方の溶出用水槽内の溶出成分含有水を海に供給したり、あるいは両方の溶出用水槽内の溶出成分含有水を海に供給したり、供給源を選択して海に供給できる。なお、両方の流出弁21a,21bを同時に閉じると、第1溶出用水槽3、第2溶出用水槽4のいずれからの供給も停止することができる。そして、前記した流出弁21a,21bは、手動で操作してもよいが、後述する制御装置30により電気的に操作できる電磁弁などの電動式弁を用いることが望ましい。なお、前記した溶出成分含有水供給管20は、先端の出口20´のみならず、その手前の部分に複数の孔を開設し、これらの孔から広い範囲に給水できるように構成することが望ましい。
【0031】
また、第1、第2溶出用水槽3,4内の溶出成分含有水を選択して海に供給するためには、前記した第1、第2流出弁21a,21bを設けることなく、前記した第1、第2給水弁15a,15bという2つの給水弁で制御してもよい。例えば、第1、第2給水弁21a,21bの両方を開くと第1、第2溶出用水槽3,4に海水を供給できるので、第1、第2溶出用水槽3,4の第1溶出水出口、第2溶出水出口から流出した溶出成分含有水を溶出成分含有水供給管20を介して海に供給することができ、第1給水弁15aを開いて第2給水弁15bを閉じると、第1溶出用水槽3にだけ海水が供給されるので、この第1溶出用水槽3から流出する溶出成分含有水を溶出成分含有水供給管20を介して海に供給することができる(フルボ酸鉄溶出水供給工程)。そして、第2給水弁15bを開くと、第2溶出用水槽4に海水が供給されるので、この第2溶出用水槽4から流出する溶出成分含有水を溶出成分含有水供給管20を介して海に供給することができる(窒素及びリン栄養塩溶出水供給工程)。なお、第1、第2給水弁15a,15bを設けるとともに、第1、第2流出弁21a,21bを設けてもよい。
【0032】
前記した様に、フルボ酸鉄溶出ユニット6から溶出した二価の鉄イオンがフルボ酸鉄となり、このフルボ酸鉄が海域2に補充されて、この海域2ではコンブ5などの海藻の生育に好適な環境に改善される。具体的には、コンブ5等の海藻の養分となり、当該海藻の生育を促進することができ、特に、繁殖を大きく促進し、これにより磯枯れの回復を短縮化でき、また、コンブ5の生活史に対応させて、前記した溶出成分含有水供給機構により海水に補給する溶出成分含有水を選択して供給することで効率を向上させ、ひいては溶出ユニットの長期使用を可能とする。
【0033】
以下、コンブ5を例に挙げて海藻の生活史を説明すると共に、溶出成分含有水との関係を説明する。
図3はコンブ5の生活史を示す概略図である。
コンブ5は、
A)藻体表面の細胞が発達して胞子嚢になり、胞子嚢が夏から秋にかけて成熟し、
B)一般に海水温度が10℃以下になる秋〜初冬にかけて減数分裂が起こり、1本当り1億から十数億の遊走子(胞子)が子嚢班から放出され、海中を泳ぎながら岩盤などに着生する。
C)着生した後、繊毛を落として発芽し生長を始め、雌性配偶体と雄性配偶体に発達し真冬から春先にかけて新しい葉体(幼体)となる。
D)雌性配偶体は成熟すると卵子を形成し、雄性配偶体は成熟すると精子(精虫)を形成し、精子は遊走子と同様に泳ぐことができる。
E)精子が卵子へたどり着くと受精が行われ、受精卵は直ちに細胞分裂して芽胞体が発生し、4〜5月頃まで次第に大きく胞子体に成長してゆく(晩冬から早春)。芽胞体が発生した後の成長期においては光合成が活発に行われる。
F)この胞子体は晩春から初夏頃までさらに成長して1年目のコンブ5となる。
G)コンブ5は夏から秋にかけて成熟し、子嚢班を有する胞子体に成長して1年目を終了し、秋を迎えて(A)に戻る。
そして、この配偶体が成熟する秋から冬の時期(特に冬)においては、キレート化された二価鉄成分の濃度の増加に伴い、雌雄配偶体の成熟度が高まる。具体的には、0.01mg/L以上の場合に雌雄配偶体への発達が促進されることが確認できている。
また、配偶体の成熟期に限らず、遊走子の放出から配偶体発達〜受精〜胞子体着生に至る冬季には製鋼スラグと人工腐植物質を組み合わせてを施した場合に大きな施肥効果が見られ、キレート化させた二価鉄の効果が大きいことが確認できている。
さらに、胞子体が成長する夏季には、製鋼スラグのみの場合よりも、製鋼スラグと人工腐植物質とを組み合わせた施肥の効果が大きいことが確認されている。
【0034】
そして、受精した芽胞体が発生し細胞分裂が盛んになって胞子体に成長する晩冬から早春の時期、例えば、2月〜5月頃までの間に、光合成が活発に行われるので、この成長期に窒素とリンを主要な成分とする栄養塩を補給すると、成長が一層促進されて効率良く成長することが確認されている。
【0035】
したがって、前記した海藻用栄養塩供給装置1の運転については、例えば、コンブ5の生活史に対応させて栄養塩を供給する場合には、第1溶出用水槽3内で溶出させたフルボ酸鉄含有水を年間を通して海中に供給し、第2溶出用水槽4内で溶出させた窒素とリン等の栄養塩含有水は、光合成による成長が活発な2〜5月の間だけ供給すれば足りる。
この様にして、窒素とリン等の栄養塩含有水の補給期間をコンブ5の成長時期に限定すると、窒素とリン等の栄養塩ユニット7の溶出速度が速くて使用可能期間(ライフサイクル)が短いという特性があっても、施肥時期を特定して過不足のない施肥を施すことで、施肥量と成長促進とのバランスをとった効果を高めることができ、無駄を省いた栄養塩の供給を可能とすることができる。
【0036】
これに対して、フルボ酸鉄溶出ユニット6については、窒素やリン等の栄養塩に比較して溶出速度が遅くて使用可能期間(ライフサイクル)が長いことと、コンブ5の生活史の全期間においてフルボ酸鉄の施肥効果が期待でき、また、比較的安価であることから、年間継続供給が望ましい。
【0037】
窒素及びリン栄養塩溶出水を2〜5月という限られた期間だけ補給する場合、第2溶出水槽の第2給水弁や第2流出弁などの弁を作用員が手動により操作してもよいが、制御装置30のタイマーに時期的条件として予め設置し、タイマーがこの時期的条件を満たした時に前記した第2溶出用水槽4の弁を自動的に開閉操作するように構成してもよい。
なお、制御装置30は、CPU、ROM、RAM等からなる公知のマイクロコンピューター構成であり、時計回路を備えたタイマーを有し、操作部を操作することにより、所望する時期に弁を開いたり閉じたりする時期的条件を設定することができる。
【0038】
また、前記した時期的条件を設定することと併せて温度条件を予め設定しておき、この温度条件が充足され、且つ時期的制限が充足された場合に、第2溶出用水槽4の弁を開けて窒素とリン等の栄養塩溶出水を補給するように構成してもよい。例えば、浄化器13内に温度センサー(図示せず)を設けておき、該温度センサーからの信号により制御装置30が海水温度を監視しており、予め設定した温度になって、且つ時期的条件が充足した時点で第2溶出用水槽4の前記弁を開閉操作するように構成してもよい。
【0039】
なお、第1、第2溶出用水槽3,4に供給する水は、前記した海水に限定されるものではなく、二価鉄や窒素やリン等の栄養塩が溶出可能であって、海水中に流し込んでも環境汚染のおそれがない水であればよい。例えば、海岸近くの河川の水でもよいし、池や湖の水でも良い。また、第1溶出用水槽3と第2溶出用水槽4は、前記した実施形態では1つの大きな水槽の内部を仕切り壁により仕切ることで2つの水槽として機能させたが、2つの水槽を別個に設置してもよい。
【0040】
また、前記した実施形態においては、コンブ5の生活史に対応して施肥を施す例を挙げたが、本発明の対象となる海藻はコンブ5に限定されるものではない。例えば、同様の生活史を繰り返す海藻として、アラメ、カジメ(コンブ目)、アカモク(ホンダワラ目)、イトグサ(テングサ目)などがあり、これらの海藻を対象としてもよい。
【0041】
アラメ、カジメ等は、秋に成熟し、放出された遊走子が着底すると雌雄の配偶体に生長する。雄性配偶体からの精子が雌性配偶体の卵と受精し、受精卵が着底して胞子体(幼体)となり、春に大きく生長する。したがって、アラメ、カジメ等を対象とする場合には、フルボ酸鉄溶出水は一年を通して供給し、窒素及びリン栄養塩溶出水は、成長期である2〜6月を目安に供給する。
【0042】
アカモクは、成熟した胞子体から放出された遊走子が雌雄の配偶体となり生殖器床上の卵と受精が起こる。受精卵が岩盤等に着底すると発芽し、幼体に生長し幼い胞子体になる。12月頃から水温が低下し始めると伸張し、春から初夏にかけて大きく生長し、成熟して遊走子が放出され、これを毎年繰り返す。したがって、アカモクを対象とする場合には、フルボ酸鉄溶出水は一年を通して供給し、窒素及びリン栄養塩溶出水は、成長期である1〜4月を目安に供給する。
【0043】
イトグサは、海域や水深によって成長度合や寿命が異なるが、多くの地域では5〜10月にかけて約半年が主要受精期で、成長期は12月〜5月である。したがって、イトグサなどのテングサ類を対象とする場合には、フルボ酸鉄溶出水は一年を通して供給し、窒素及びリン栄養塩溶出水は、成長期である12〜5月を目安に供給する。
【符号の説明】
【0044】
1 海藻用栄養塩供給装置、2 藻場、3 第1溶出用水槽、4 第2溶出用水槽、5 コンブ、6 フルボ酸鉄溶出ユニット、7 栄養塩ユニット、10 コルゲート管、11 海水用水中ポンプ、12 ホース、13 浄化器、14 ホース、15a 第1給水弁、15b 第2給水弁、16 エンジン式発電機、20 溶出成分含有水供給管、21a 第1流出弁、 21b 第2流出弁、30 制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
海に臨んだ陸上に、フルボ酸鉄を水に溶出可能な第1溶出用水槽と、窒素とリンを主成分とする栄養塩を水に溶出可能な第2溶出用水槽と、前記第1溶出用水槽と第2溶出用水槽に水を供給する水供給機構と、第1溶出用水槽と第2溶出用水槽とのいずれか一方または両方の溶出用水槽内の溶出成分含有水を選択して海に供給可能な溶出成分含有水供給機構と、を設置し、海底に生育する海藻の生活史に対応させて前記溶出成分含有水供給機構により選択して前記溶出用水槽の溶出成分含有水を海中に供給することを特徴とする海藻用栄養塩供給装置。
【請求項2】
前記溶出成分含有水供給機構により、海藻の生活史の一部であって芽胞体発生後の成長期に、第1溶出用水槽と第2溶出用水槽との両溶出水槽から溶出成分含有水を海中に供給し、成長期以外の時期は第2溶出用水槽から溶出成分含有水の供給を停止することを特徴とする請求項1に記載の海藻用栄養塩供給装置。
【請求項3】
前記溶出成分含有水供給機構は、第2溶出用水槽への水供給系または溶出成分含有水流出系の少なくとも一方に弁を備え、
タイマーに予めセットした時期的条件が充足した時点で前記弁を開く制御を行う制御装置を設け、
当該制御装置の制御の下で前記弁を制御して、第2溶出用水槽内の溶出成分含有水を海中に供給することを特徴とする請求項2に記載の海藻用栄養塩供給装置。
【請求項4】
海水の温度を検知する海水温度検出手段を備え、該海水温度検出手段により検出した海水温度が制御装置に予め設定された温度条件を充足し、且つ時期的条件が充足した場合に、前記弁を開いて第2溶出用水槽内の溶出成分含有水を海中に供給することを特徴とする請求項3に記載の海藻用栄養塩供給装置。
【請求項5】
前記水供給機構は、電動ポンプと、該電動ポンプの吐出口から吐出される水を前記両溶出用水槽に導く水供給系と、を備え、前記電動ポンプによって海または河川から汲み上げた水を水供給系を介して前記両溶出用水槽に供給することを特徴とする請求項4に記載の海藻用栄養塩供給装置。
【請求項6】
前記電動ポンプの電源が、風力により発電機を駆動する風力発電機、太陽光電池、波力発電、海水の水位の変化を利用して発電を行う潮力発電のいずれかであることを特徴とする請求項5に記載の海藻用栄養塩供給装置。
【請求項7】
海に臨んだ陸上に設置された水槽内で、フルボ酸鉄を水に溶出してフルボ酸鉄溶出水を調整し、このフルボ酸鉄溶出水を藻場となる海域に移動して海水中に供給するフルボ酸鉄溶出水供給工程と、
海に臨んだ陸上に設置された水槽内で、窒素とリンを主成分とする栄養塩を水に溶出して窒素及びリン栄養塩溶出水を調整し、この窒素及びリン栄養塩溶出水を藻場の海藻の生活史に対応させて、海藻の芽胞体が発生した後の成長期に前記海域に移動して海水中に供給する窒素及びリン栄養塩溶出水供給工程と、
を含んでいることを特徴とする海藻用栄養塩供給方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−155906(P2011−155906A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−20414(P2010−20414)
【出願日】平成22年2月1日(2010.2.1)
【出願人】(000195971)西松建設株式会社 (329)
【出願人】(599064801)株式会社エコ・グリーン (7)
【Fターム(参考)】