海藻種苗の生産方法及びその装置
【課題】より安価な費用で済む簡便な手段によって、予め基質に付着させた目的の海藻種苗以外の珪藻の付着を抑制しながら海藻種苗をより効率的かつ安定的に生育し得るとともに、停電等により上方からの散水が停止した場合にも適応可能な、使い勝手のよい海藻種苗の生産技術を提供する。
【解決手段】水槽1内の培養水2の液面近傍に海藻の胞子や幼体を付着した基質3を保持し、その基質3に付着した胞子や幼体が水槽1内の培養水2と接触できるように構成するとともに、基質3の上方から培養水を散布する培養水散布手段5を設け、それらの水槽1内の培養水2と上方から散布される培養水とによって、珪藻の付着を抑制しながら目的の海藻種苗を効率的に生育する。
【解決手段】水槽1内の培養水2の液面近傍に海藻の胞子や幼体を付着した基質3を保持し、その基質3に付着した胞子や幼体が水槽1内の培養水2と接触できるように構成するとともに、基質3の上方から培養水を散布する培養水散布手段5を設け、それらの水槽1内の培養水2と上方から散布される培養水とによって、珪藻の付着を抑制しながら目的の海藻種苗を効率的に生育する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、藻場の造成などに提供するための海藻種苗の生産技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の海藻種苗を生産する方法として、海藻の胞子や幼体を基質に予め付着させ、その海藻の胞子や幼体が付着した基質を水槽内の海水などの培養水中に浸漬した状態で生育する方法が従来から知られている(特許文献1、2)。しかしながら、この従来の生育方法の場合には、海藻の胞子や幼体を付着させた基質を海水などの培養水中に浸漬させた状態に置いておくため、目的とする海藻種苗以外の単細胞性の珪藻が幼体などに付着しやすく、その珪藻が早く生育して本来の目的である海藻種苗の生存率を低下させたり、生長を阻害するといった厄介な問題があった。
【0003】
そこで、前記従来方法の問題点を解決するため、海藻の幼体を付着させた基質を空中に保持しながら上方から海水などの培養水を散布して生育する方法も開発されている(特許文献3、4)。しかしながら、この従来の生育方法の場合には、停電などで培養水の散布が停止すると、海藻種苗の枯死につながるという致命的な問題があった。これを回避するため、無停電電源装置や停電時切替え電源装置などを備えるといった対応策も可能ではあるが、費用が嵩んで実用的ではないという困難な問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−97009号公報
【特許文献2】特開2007−330119号公報
【特許文献3】特開昭62−151124号公報
【特許文献4】特開昭63−196215号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上述の従来技術の問題点に鑑み、より安価な費用で済む簡便な手段によって、予め付着させた目的の海藻種苗以外の珪藻の付着を抑制しながら海藻種苗をより安定的に生育し得るとともに、停電等により上方からの散水が停止した場合にも適応可能な、使い勝手のよい海藻種苗の生産技術を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
ところで、幾多の実験の結果、海藻の胞子や幼体を付着させた基質を海水などの培養水中に沈下させておくと、前記幼体などに珪藻が付着しやすいという傾向があることが判っている。前記従来技術の場合も、基質を水面から5〜10cm程度の深さに沈下させるという形態を採用していたため、珪藻が付着しやすいという傾向にあった。しかしながら、基質の上面の位置を培養水の水面近傍、望ましくは水面から下方へ20mm以内に保持されるように配置すれば、珪藻の付着は抑制され、実用上の問題は解消されることが実験的に確認されている。
【0007】
本発明は、この点を活用して培養水の散水による海藻種苗生育技術と組合わせることにより前記課題を解決したものであり、水槽内の培養水の水面近傍に海藻の胞子や幼体を付着した基質を保持し、その基質に付着した胞子や幼体が前記水槽内の培養水と接触できるように構成するとともに、前記基質の上方から培養水を散布するように構成し、それらの水槽内の培養水と上方から散布される培養水とによって、珪藻の付着を抑制しながら前記基質に付着した胞子や幼体を効率的に生育することを特徴とする。本発明によれば、海藻の胞子や幼体を付着した基質を水槽内の培養水の水面近傍に保持するようにしたので珪藻の付着が抑制される。しかも、基質に付着した海藻の胞子や幼体に対して水槽内の培養水が常時接触しているので、停電等により上方からの散水が停止した場合にも枯死することなく、その散水の再開まで実用的に問題のない少ないダメージで凌ぐことができる。
【0008】
前記基質の保持位置に関しては、その基質の上面が水槽内の培養水の水面とほぼ同一面、又はその水面から下方へ20mm以内に保持するように設定すれば、珪藻の付着をより効果的に抑制しながら、水槽内の培養水を基質に付着した海藻の胞子や幼体により的確に与えることができる。ところで、基質が水槽内の培養水の水面に浮いた状態にある場合には、水面の変動に伴って基質の上面の位置も上下方向に変動することになるので、その上面の位置が平均的にみて前記範囲内に保持されるものであればよい。因みに、前記基質を培養水に対する良好な吸水性を備えた素材から構成すれば、その基質の上面が培養水の水面を多少超えても基質に付着した胞子や幼体に対する培養水の供給に影響はない。
【0009】
さらに、前記基質を水槽内の培養水の水面近傍に位置させるための手段としては種々の形態が可能である。例えば、基質自体の浮力が大きい場合には、基質に対して適度の重りを付設することにより、基質の浮遊状態を調整することが可能であり、逆に基質の浮力が足りない場合には、適度の浮力のあるフロートを基質に対して付設することにより対応することが可能である。また、基質自体の比重をほぼ1に設定して、培養水の水面近傍に浮かせる形態も可能である。因みに、以上の基質を培養水の水面近傍に浮かせる種々の形態において、その基質の水平方向の浮動範囲を規制するための手段を付設してもよいことはいうまでもない。さらに、培養水の水面制御の精度上の問題がなければ、基質を浮かせる形態ではなく、水槽側に固定された支持手段を介して基質を水面近傍に支持する形態の採用も可能である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、次の効果を得ることができる。
(1)海藻の胞子や幼体を付着した基質を水槽内の培養水の水面近傍に保持した状態で上方から培養水を散布するように構成したので、その基質に付着した幼体等に珪藻がさらに付着して、目的の海藻種苗の生存率を低下させたり生長を阻害するといった障害を抑制することができる。
(2)また、前記基質に付着した海藻の胞子や幼体には、水槽内の培養水と上方から散布される培養水とが与えられるので、より効率的で安定した生育が可能である。
(3)しかも、停電等により上方からの散水が停止した場合にも、基質に付着した海藻の胞子や幼体は水槽内の培養水と接触し得るので、散水の再開まで枯死することなく、実用的に問題のない少ないダメージで凌ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施例の要部を示した斜視図である。
【図2】本発明の第1実施例に係る基質組立体を示した平面図である。
【図3】図2に示した基質組立体のA−A断面図である。
【図4】前記基質組立体の適用状態を示した状態説明図である。
【図5】基質単体を示した平面図である。
【図6】図5に示した基質単体のB−B拡大断面図である。
【図7】重りを付設した第1実施例の変形例を示した断面図である。
【図8】本発明の第2実施例に係る基質組立体を示した平面図である。
【図9】図8に示した基質組立体のC−C断面図である。
【図10】前記基質組立体の適用状態を示した状態説明図である。
【図11】前記基質組立体を構成する基質単体の拡大断面図である。
【図12】生育後の海藻種苗の適用状態を例示した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、アカモク等のホンダワラ類、ワカメ、コンブ、アラメ類など、種々の種類の海藻種苗の生産に広く適用することが可能である。本発明の要部は、内部に培養水を貯留する水槽と、その水槽内の培養水の水面近傍に配置される海藻の胞子や幼体を付着した基質と、その基質に付着した胞子や幼体に対して上方から培養水を散布する培養水散布手段とから構成される。なお、ホンダワラ類の場合には、胞子に代わるものとして幼胚となる。そして、基質に付着した目的の海藻の胞子や幼体に対して、水槽内の培養水と上方から散布される培養水を与えることによって、珪藻の付着を抑制しながら前記基質に付着した胞子や幼体を効率的に生育する点で特徴を有する。すなわち、水槽内の培養水の水面近傍において基質に付着した胞子や幼体に培養水を供給する形態を採用した結果、それらの幼体などに余計な珪藻が付着する問題は殆ど回避することができる。さらに、その水槽内の培養水の水面近傍での培養水の供給に加えて、上方からの散水によっても培養水が与えられるので、海藻種苗のより効率的で安定した生育が可能である。しかも、停電等により上方からの散水が停止した場合にも、基質に付着した海藻の胞子や幼体には、水槽内の水面近傍の培養水が常時与えられることから、海藻種苗が枯死したり大きなダメージを受けたりする事態は回避することが可能である。
【実施例1】
【0013】
図1は本発明の実施例の要部を示した斜視図である。図中1は水槽で、内部には海水等からなる適宜の培養水2が貯留されている。この水槽1に貯留された培養水2の水面には、目的の種類の海藻の胞子や幼体を予め付着させた基質3の単体を複数個組合わせて形成した基質組立体4が浮いた状態に置かれ、水面近傍の培養水2が各基質3に付着した胞子や幼体に接触し得るように構成されている。また、基質組立体4の上方には同様の海水等からなる適宜の培養水を散布する適宜の培養水散布手段5が配設されている。なお、培養水散布手段5から散布される培養水として、水槽1に貯留される培養水2と異なる種類の培養水を採用することも可能である。しかして、海藻種苗の生育に当っては、目的の海藻の胞子や幼体を付着させた基質3を、必要に応じて水槽1内の静水状態の培養水2中にしばらく置いて、発芽、生育させた上で、培養水散布手段5により上から培養水の散布を実施することになる。これにより、各基質3に対して仮根が伸張してしっかりと付着した生育中の幼体は、その周辺から水槽1に貯留された培養水に接触するとともに、上方からは培養水散布手段5から散布される培養水が供給されるので、幼体の葉の部分に対して充分な培養水2がゆきわたり、効率的で安定した海藻種苗の生育が可能となる。
【0014】
図2は第1実施例に係る前記基質組立体を示した平面図であり、図3はその基質組立体のA−A断面図である。図示のように、本実施例に係る前記基質組立体4は、複数個の単体の基質3を並列に詰めた状態に並べ、それらの各基質3の両端部を端部保持部材6,7により保持した状態において、計6組のボルト8とナット9からなる固着手段を用いて固定することにより、矩形状に一体的に形成した場合を例示したものである。なお、それらの端部保持部材6,7の片側に形成するボルト挿通孔10,11は、前記ボルト8を位置調整可能に挿通するために長孔状のルーズ孔としている。因みに、並列に並べた各基質3の相互間に適宜の隙間を設けることも可能である。
【0015】
図4は前記基質組立体4の適用状態を示した状態説明図である。図示のように、本実施例の基質組立体4は、それ自体の浮力によって水槽1内の培養水2の水面12に浮いた状態で適用される形態を例示したものである。因みに、その基質組立体4の水面に浮いた状態に関しては、基質組立体4を構成する基質3の上面が培養水2の水面12とほぼ同一面か、又は下方へ20mm以内に保持されるように調整することが、基質3に付着された海藻の胞子や幼体への良好な培養水2の供給、及び幼体等に対する珪藻の付着を抑制するうえで望ましい。
【0016】
図5は前記基質組立体4を構成する基質3の単体を示した平面図である。図示のように、本実施例に係る単体としての基質3は、細長い矩形状からなる板状に形成され、一端部には前記ボルト8を挿通するための円形のボルト挿通孔13、他端部にはボルト8を位置調整可能に挿通するための長孔状のボルト挿通孔14が形成されている。また、図6の拡大断面図で示したように、本実施例の基質3では、発泡気泡性マット15の上にガラス繊維をフェルト状に加工したガラスマット16と、ポリエステル繊維を用いて形成した海藻の付着がよい凹凸のあるポリエステル編地17を順に積層し、それらを不飽和ポリエステル樹脂の含浸固化により一体化した積層体を基質単体として採用した場合を例示したものである。そして、この基質3の比重は、培養水2より若干小さく、図4に示したようにそれ自体の浮力により前記培養水2の水面12に浮くように設定される。なお、当該基質3の比重が更に小さく、その基質3の上面の高さが前記培養水2の水面12を大きく超えてしまう場合には、図7に例示したように適度の重り18を付設して調整することが可能である。
【実施例2】
【0017】
図8は第2実施例に係る基質組立体を示した平面図であり、図9はその基質組立体のC−C断面図である。図示のように、本実施例に係る基質組立体19は、複数個の単体の基質20を並列に詰めた状態に並べ、それらの各基質20の両端部を端部保持部材21,22により保持した状態において、計6組のボルト23とナット24からなる固着手段を用いて固定することにより、矩形状に一体的に形成した点おいて前記第1実施例と同じである。その特徴とするところは、本実施例に係る基質組立体19では比重が1より大きい基質20を採用しており、そのままでは培養水2の中に沈下してしまうため、図示のように、基質組立体19の四隅にフロート25を付設して浮力を調整するように構成した点である。なお、前記端部保持部材21,22の片側に形成するボルト挿通孔26,27は、前記ボルト23を位置調整可能に挿通するために長孔状のルーズ孔としている。因みに、並列に並べた各基質19の相互間に適宜の隙間を設けることも可能である。
【0018】
図10は前記基質組立体19の適用状態を示した状態説明図である。図示のように、本実施例の基質組立体19は、その基質組立体19自体の浮力と四隅に付設した前記フロート25の浮力により、水槽1内の培養水2の水面12に浮いた状態で適用される形態を例示したものである。因みに、その基質組立体19の水面に浮いた状態に関しては、適度の浮力のフロート25を選定して付設することにより、基質組立体19を構成する基質20の上面が培養水2の水面12とほぼ同一面か、又は下方へ20mm以内に保持されるように調整することが、基質3に付着された海藻の胞子や幼体への良好な培養水2の供給、及び幼体等に対する珪藻の付着を抑制するうえで望ましい。
【0019】
図11は前記基質組立体19を構成する基質20の単体の断面を示した拡大断面図である。ところで、本実施例に係る単体としての基質20は、図5の平面図に示した前記第1実施例の基質3と同様に、細長い矩形状からなる板状に形成され、一端部には前記ボルト23を挿通するための円形のボルト挿通孔、他端部にはボルト23を位置調整可能に挿通するための長孔状のボルト挿通孔が形成されている。そして、本実施例の基質20は、図11に示したように、ガラス繊維をフェルト状に加工したガラスマット28の上にポリエステル繊維を用いて形成した海藻の付着がよい凹凸のあるポリエステル編地29を積層し、それらを不飽和ポリエステル樹脂の含浸固化により一体化した積層体を基質単体として採用した場合を例示したものである。しかして、本実施例の基質20の場合には、その基質単体としての浮力だけでは培養水2の中に沈下してしまうため、上述のように、基質組立体19の四隅に適度の浮力のフロート25を付設して、基質20の上面が培養水2の水面12とほぼ同一面か、又は下方へ20mm以内に保持されるように調整することになる。
【0020】
以上のようにして、目的の海藻種苗の生育が完了した場合には、前記基質組立体4,19から基質3,20を取外し、それらの基質3,20を、例えば図12に例示したように適宜形状の礁30の表面に対して水中ボンドなどを用いて接着することにより、良質の海藻種苗として藻場の造成などに提供することができる。さらに、天然岩礁や人工施設へ基質3,20を固定するようにしてもよいし、母藻として育成し、その幼胚や胞子などを供給して藻場造成に用いることも可能である。因みに、生育後の海藻種苗の適用形態に関しては、上述のように基質3,20に付着されたままの状態で礁30等に適用する形態だけでなく、それらの基質3,20から海藻種苗を取外した状態で礁30等に適用する形態も可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0021】
1:水槽、2:培養水、3:基質、4:基質組立体、5:培養水散布手段、6,7:端部保持部材、8:ボルト、9:ナット、10,11:ボルト挿通孔、12:水面、13,14:ボルト挿通孔、15:発泡気泡性マット、16:ガラスマット、17:ポリエステル編地、18:重り、19:基質組立体、20:基質、21,22:端部保持部材、23:ボルト、24:ナット、25:フロート、26,27:ボルト挿通孔、28:ガラスマット、29:ポリエステル編地、30:礁
【技術分野】
【0001】
本発明は、藻場の造成などに提供するための海藻種苗の生産技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の海藻種苗を生産する方法として、海藻の胞子や幼体を基質に予め付着させ、その海藻の胞子や幼体が付着した基質を水槽内の海水などの培養水中に浸漬した状態で生育する方法が従来から知られている(特許文献1、2)。しかしながら、この従来の生育方法の場合には、海藻の胞子や幼体を付着させた基質を海水などの培養水中に浸漬させた状態に置いておくため、目的とする海藻種苗以外の単細胞性の珪藻が幼体などに付着しやすく、その珪藻が早く生育して本来の目的である海藻種苗の生存率を低下させたり、生長を阻害するといった厄介な問題があった。
【0003】
そこで、前記従来方法の問題点を解決するため、海藻の幼体を付着させた基質を空中に保持しながら上方から海水などの培養水を散布して生育する方法も開発されている(特許文献3、4)。しかしながら、この従来の生育方法の場合には、停電などで培養水の散布が停止すると、海藻種苗の枯死につながるという致命的な問題があった。これを回避するため、無停電電源装置や停電時切替え電源装置などを備えるといった対応策も可能ではあるが、費用が嵩んで実用的ではないという困難な問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−97009号公報
【特許文献2】特開2007−330119号公報
【特許文献3】特開昭62−151124号公報
【特許文献4】特開昭63−196215号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上述の従来技術の問題点に鑑み、より安価な費用で済む簡便な手段によって、予め付着させた目的の海藻種苗以外の珪藻の付着を抑制しながら海藻種苗をより安定的に生育し得るとともに、停電等により上方からの散水が停止した場合にも適応可能な、使い勝手のよい海藻種苗の生産技術を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
ところで、幾多の実験の結果、海藻の胞子や幼体を付着させた基質を海水などの培養水中に沈下させておくと、前記幼体などに珪藻が付着しやすいという傾向があることが判っている。前記従来技術の場合も、基質を水面から5〜10cm程度の深さに沈下させるという形態を採用していたため、珪藻が付着しやすいという傾向にあった。しかしながら、基質の上面の位置を培養水の水面近傍、望ましくは水面から下方へ20mm以内に保持されるように配置すれば、珪藻の付着は抑制され、実用上の問題は解消されることが実験的に確認されている。
【0007】
本発明は、この点を活用して培養水の散水による海藻種苗生育技術と組合わせることにより前記課題を解決したものであり、水槽内の培養水の水面近傍に海藻の胞子や幼体を付着した基質を保持し、その基質に付着した胞子や幼体が前記水槽内の培養水と接触できるように構成するとともに、前記基質の上方から培養水を散布するように構成し、それらの水槽内の培養水と上方から散布される培養水とによって、珪藻の付着を抑制しながら前記基質に付着した胞子や幼体を効率的に生育することを特徴とする。本発明によれば、海藻の胞子や幼体を付着した基質を水槽内の培養水の水面近傍に保持するようにしたので珪藻の付着が抑制される。しかも、基質に付着した海藻の胞子や幼体に対して水槽内の培養水が常時接触しているので、停電等により上方からの散水が停止した場合にも枯死することなく、その散水の再開まで実用的に問題のない少ないダメージで凌ぐことができる。
【0008】
前記基質の保持位置に関しては、その基質の上面が水槽内の培養水の水面とほぼ同一面、又はその水面から下方へ20mm以内に保持するように設定すれば、珪藻の付着をより効果的に抑制しながら、水槽内の培養水を基質に付着した海藻の胞子や幼体により的確に与えることができる。ところで、基質が水槽内の培養水の水面に浮いた状態にある場合には、水面の変動に伴って基質の上面の位置も上下方向に変動することになるので、その上面の位置が平均的にみて前記範囲内に保持されるものであればよい。因みに、前記基質を培養水に対する良好な吸水性を備えた素材から構成すれば、その基質の上面が培養水の水面を多少超えても基質に付着した胞子や幼体に対する培養水の供給に影響はない。
【0009】
さらに、前記基質を水槽内の培養水の水面近傍に位置させるための手段としては種々の形態が可能である。例えば、基質自体の浮力が大きい場合には、基質に対して適度の重りを付設することにより、基質の浮遊状態を調整することが可能であり、逆に基質の浮力が足りない場合には、適度の浮力のあるフロートを基質に対して付設することにより対応することが可能である。また、基質自体の比重をほぼ1に設定して、培養水の水面近傍に浮かせる形態も可能である。因みに、以上の基質を培養水の水面近傍に浮かせる種々の形態において、その基質の水平方向の浮動範囲を規制するための手段を付設してもよいことはいうまでもない。さらに、培養水の水面制御の精度上の問題がなければ、基質を浮かせる形態ではなく、水槽側に固定された支持手段を介して基質を水面近傍に支持する形態の採用も可能である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、次の効果を得ることができる。
(1)海藻の胞子や幼体を付着した基質を水槽内の培養水の水面近傍に保持した状態で上方から培養水を散布するように構成したので、その基質に付着した幼体等に珪藻がさらに付着して、目的の海藻種苗の生存率を低下させたり生長を阻害するといった障害を抑制することができる。
(2)また、前記基質に付着した海藻の胞子や幼体には、水槽内の培養水と上方から散布される培養水とが与えられるので、より効率的で安定した生育が可能である。
(3)しかも、停電等により上方からの散水が停止した場合にも、基質に付着した海藻の胞子や幼体は水槽内の培養水と接触し得るので、散水の再開まで枯死することなく、実用的に問題のない少ないダメージで凌ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施例の要部を示した斜視図である。
【図2】本発明の第1実施例に係る基質組立体を示した平面図である。
【図3】図2に示した基質組立体のA−A断面図である。
【図4】前記基質組立体の適用状態を示した状態説明図である。
【図5】基質単体を示した平面図である。
【図6】図5に示した基質単体のB−B拡大断面図である。
【図7】重りを付設した第1実施例の変形例を示した断面図である。
【図8】本発明の第2実施例に係る基質組立体を示した平面図である。
【図9】図8に示した基質組立体のC−C断面図である。
【図10】前記基質組立体の適用状態を示した状態説明図である。
【図11】前記基質組立体を構成する基質単体の拡大断面図である。
【図12】生育後の海藻種苗の適用状態を例示した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、アカモク等のホンダワラ類、ワカメ、コンブ、アラメ類など、種々の種類の海藻種苗の生産に広く適用することが可能である。本発明の要部は、内部に培養水を貯留する水槽と、その水槽内の培養水の水面近傍に配置される海藻の胞子や幼体を付着した基質と、その基質に付着した胞子や幼体に対して上方から培養水を散布する培養水散布手段とから構成される。なお、ホンダワラ類の場合には、胞子に代わるものとして幼胚となる。そして、基質に付着した目的の海藻の胞子や幼体に対して、水槽内の培養水と上方から散布される培養水を与えることによって、珪藻の付着を抑制しながら前記基質に付着した胞子や幼体を効率的に生育する点で特徴を有する。すなわち、水槽内の培養水の水面近傍において基質に付着した胞子や幼体に培養水を供給する形態を採用した結果、それらの幼体などに余計な珪藻が付着する問題は殆ど回避することができる。さらに、その水槽内の培養水の水面近傍での培養水の供給に加えて、上方からの散水によっても培養水が与えられるので、海藻種苗のより効率的で安定した生育が可能である。しかも、停電等により上方からの散水が停止した場合にも、基質に付着した海藻の胞子や幼体には、水槽内の水面近傍の培養水が常時与えられることから、海藻種苗が枯死したり大きなダメージを受けたりする事態は回避することが可能である。
【実施例1】
【0013】
図1は本発明の実施例の要部を示した斜視図である。図中1は水槽で、内部には海水等からなる適宜の培養水2が貯留されている。この水槽1に貯留された培養水2の水面には、目的の種類の海藻の胞子や幼体を予め付着させた基質3の単体を複数個組合わせて形成した基質組立体4が浮いた状態に置かれ、水面近傍の培養水2が各基質3に付着した胞子や幼体に接触し得るように構成されている。また、基質組立体4の上方には同様の海水等からなる適宜の培養水を散布する適宜の培養水散布手段5が配設されている。なお、培養水散布手段5から散布される培養水として、水槽1に貯留される培養水2と異なる種類の培養水を採用することも可能である。しかして、海藻種苗の生育に当っては、目的の海藻の胞子や幼体を付着させた基質3を、必要に応じて水槽1内の静水状態の培養水2中にしばらく置いて、発芽、生育させた上で、培養水散布手段5により上から培養水の散布を実施することになる。これにより、各基質3に対して仮根が伸張してしっかりと付着した生育中の幼体は、その周辺から水槽1に貯留された培養水に接触するとともに、上方からは培養水散布手段5から散布される培養水が供給されるので、幼体の葉の部分に対して充分な培養水2がゆきわたり、効率的で安定した海藻種苗の生育が可能となる。
【0014】
図2は第1実施例に係る前記基質組立体を示した平面図であり、図3はその基質組立体のA−A断面図である。図示のように、本実施例に係る前記基質組立体4は、複数個の単体の基質3を並列に詰めた状態に並べ、それらの各基質3の両端部を端部保持部材6,7により保持した状態において、計6組のボルト8とナット9からなる固着手段を用いて固定することにより、矩形状に一体的に形成した場合を例示したものである。なお、それらの端部保持部材6,7の片側に形成するボルト挿通孔10,11は、前記ボルト8を位置調整可能に挿通するために長孔状のルーズ孔としている。因みに、並列に並べた各基質3の相互間に適宜の隙間を設けることも可能である。
【0015】
図4は前記基質組立体4の適用状態を示した状態説明図である。図示のように、本実施例の基質組立体4は、それ自体の浮力によって水槽1内の培養水2の水面12に浮いた状態で適用される形態を例示したものである。因みに、その基質組立体4の水面に浮いた状態に関しては、基質組立体4を構成する基質3の上面が培養水2の水面12とほぼ同一面か、又は下方へ20mm以内に保持されるように調整することが、基質3に付着された海藻の胞子や幼体への良好な培養水2の供給、及び幼体等に対する珪藻の付着を抑制するうえで望ましい。
【0016】
図5は前記基質組立体4を構成する基質3の単体を示した平面図である。図示のように、本実施例に係る単体としての基質3は、細長い矩形状からなる板状に形成され、一端部には前記ボルト8を挿通するための円形のボルト挿通孔13、他端部にはボルト8を位置調整可能に挿通するための長孔状のボルト挿通孔14が形成されている。また、図6の拡大断面図で示したように、本実施例の基質3では、発泡気泡性マット15の上にガラス繊維をフェルト状に加工したガラスマット16と、ポリエステル繊維を用いて形成した海藻の付着がよい凹凸のあるポリエステル編地17を順に積層し、それらを不飽和ポリエステル樹脂の含浸固化により一体化した積層体を基質単体として採用した場合を例示したものである。そして、この基質3の比重は、培養水2より若干小さく、図4に示したようにそれ自体の浮力により前記培養水2の水面12に浮くように設定される。なお、当該基質3の比重が更に小さく、その基質3の上面の高さが前記培養水2の水面12を大きく超えてしまう場合には、図7に例示したように適度の重り18を付設して調整することが可能である。
【実施例2】
【0017】
図8は第2実施例に係る基質組立体を示した平面図であり、図9はその基質組立体のC−C断面図である。図示のように、本実施例に係る基質組立体19は、複数個の単体の基質20を並列に詰めた状態に並べ、それらの各基質20の両端部を端部保持部材21,22により保持した状態において、計6組のボルト23とナット24からなる固着手段を用いて固定することにより、矩形状に一体的に形成した点おいて前記第1実施例と同じである。その特徴とするところは、本実施例に係る基質組立体19では比重が1より大きい基質20を採用しており、そのままでは培養水2の中に沈下してしまうため、図示のように、基質組立体19の四隅にフロート25を付設して浮力を調整するように構成した点である。なお、前記端部保持部材21,22の片側に形成するボルト挿通孔26,27は、前記ボルト23を位置調整可能に挿通するために長孔状のルーズ孔としている。因みに、並列に並べた各基質19の相互間に適宜の隙間を設けることも可能である。
【0018】
図10は前記基質組立体19の適用状態を示した状態説明図である。図示のように、本実施例の基質組立体19は、その基質組立体19自体の浮力と四隅に付設した前記フロート25の浮力により、水槽1内の培養水2の水面12に浮いた状態で適用される形態を例示したものである。因みに、その基質組立体19の水面に浮いた状態に関しては、適度の浮力のフロート25を選定して付設することにより、基質組立体19を構成する基質20の上面が培養水2の水面12とほぼ同一面か、又は下方へ20mm以内に保持されるように調整することが、基質3に付着された海藻の胞子や幼体への良好な培養水2の供給、及び幼体等に対する珪藻の付着を抑制するうえで望ましい。
【0019】
図11は前記基質組立体19を構成する基質20の単体の断面を示した拡大断面図である。ところで、本実施例に係る単体としての基質20は、図5の平面図に示した前記第1実施例の基質3と同様に、細長い矩形状からなる板状に形成され、一端部には前記ボルト23を挿通するための円形のボルト挿通孔、他端部にはボルト23を位置調整可能に挿通するための長孔状のボルト挿通孔が形成されている。そして、本実施例の基質20は、図11に示したように、ガラス繊維をフェルト状に加工したガラスマット28の上にポリエステル繊維を用いて形成した海藻の付着がよい凹凸のあるポリエステル編地29を積層し、それらを不飽和ポリエステル樹脂の含浸固化により一体化した積層体を基質単体として採用した場合を例示したものである。しかして、本実施例の基質20の場合には、その基質単体としての浮力だけでは培養水2の中に沈下してしまうため、上述のように、基質組立体19の四隅に適度の浮力のフロート25を付設して、基質20の上面が培養水2の水面12とほぼ同一面か、又は下方へ20mm以内に保持されるように調整することになる。
【0020】
以上のようにして、目的の海藻種苗の生育が完了した場合には、前記基質組立体4,19から基質3,20を取外し、それらの基質3,20を、例えば図12に例示したように適宜形状の礁30の表面に対して水中ボンドなどを用いて接着することにより、良質の海藻種苗として藻場の造成などに提供することができる。さらに、天然岩礁や人工施設へ基質3,20を固定するようにしてもよいし、母藻として育成し、その幼胚や胞子などを供給して藻場造成に用いることも可能である。因みに、生育後の海藻種苗の適用形態に関しては、上述のように基質3,20に付着されたままの状態で礁30等に適用する形態だけでなく、それらの基質3,20から海藻種苗を取外した状態で礁30等に適用する形態も可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0021】
1:水槽、2:培養水、3:基質、4:基質組立体、5:培養水散布手段、6,7:端部保持部材、8:ボルト、9:ナット、10,11:ボルト挿通孔、12:水面、13,14:ボルト挿通孔、15:発泡気泡性マット、16:ガラスマット、17:ポリエステル編地、18:重り、19:基質組立体、20:基質、21,22:端部保持部材、23:ボルト、24:ナット、25:フロート、26,27:ボルト挿通孔、28:ガラスマット、29:ポリエステル編地、30:礁
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水槽内の培養水の水面近傍に海藻の胞子や幼体を付着した基質を保持し、その基質に付着した胞子や幼体が前記水槽内の培養水と接触し得るように構成するとともに、前記基質の上方から培養水を散布するように構成し、それらの水槽内の培養水と上方から散布される培養水とによって、珪藻の付着を抑制しながら前記基質に付着した胞子や幼体を生育することを特徴とする海藻種苗の生産方法。
【請求項2】
前記基質の上面を、水槽内の培養水の水面とほぼ同一面、又はその水面から下方へ20mm以内に保持することを特徴とする請求項1に記載の海藻種苗の生産方法。
【請求項3】
内部に培養水を貯留する水槽と、その水槽内の培養水の水面近傍に配置される海藻の胞子や幼体を付着した基質と、その基質に付着した胞子や幼体に対して上方から培養水を散布する培養水散布手段を備え、それらの水槽内の培養水と上方から散布される培養水とによって、珪藻の付着を抑制しながら前記基質に付着した胞子や幼体を生育することを特徴とする海藻種苗の生産装置。
【請求項4】
前記基質として、発泡気泡性マットの上にガラスマットとポリエステル編地を順に積層して一体化した積層体を採用したことを特徴とする請求項3に記載の海藻種苗の生産装置。
【請求項5】
前記基質として、ガラスマットの上にポリエステル編地を積層して一体化した積層体を採用するとともに、フロートを付設して浮力を調整するように構成したことを特徴とする請求項3に記載の海藻種苗の生産装置。
【請求項1】
水槽内の培養水の水面近傍に海藻の胞子や幼体を付着した基質を保持し、その基質に付着した胞子や幼体が前記水槽内の培養水と接触し得るように構成するとともに、前記基質の上方から培養水を散布するように構成し、それらの水槽内の培養水と上方から散布される培養水とによって、珪藻の付着を抑制しながら前記基質に付着した胞子や幼体を生育することを特徴とする海藻種苗の生産方法。
【請求項2】
前記基質の上面を、水槽内の培養水の水面とほぼ同一面、又はその水面から下方へ20mm以内に保持することを特徴とする請求項1に記載の海藻種苗の生産方法。
【請求項3】
内部に培養水を貯留する水槽と、その水槽内の培養水の水面近傍に配置される海藻の胞子や幼体を付着した基質と、その基質に付着した胞子や幼体に対して上方から培養水を散布する培養水散布手段を備え、それらの水槽内の培養水と上方から散布される培養水とによって、珪藻の付着を抑制しながら前記基質に付着した胞子や幼体を生育することを特徴とする海藻種苗の生産装置。
【請求項4】
前記基質として、発泡気泡性マットの上にガラスマットとポリエステル編地を順に積層して一体化した積層体を採用したことを特徴とする請求項3に記載の海藻種苗の生産装置。
【請求項5】
前記基質として、ガラスマットの上にポリエステル編地を積層して一体化した積層体を採用するとともに、フロートを付設して浮力を調整するように構成したことを特徴とする請求項3に記載の海藻種苗の生産装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−30509(P2011−30509A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−180545(P2009−180545)
【出願日】平成21年8月3日(2009.8.3)
【出願人】(593022021)山形県 (34)
【出願人】(000000446)岡部株式会社 (277)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年8月3日(2009.8.3)
【出願人】(593022021)山形県 (34)
【出願人】(000000446)岡部株式会社 (277)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]