説明

海藻種苗の生産方法

【課題】効率的な生産が可能になり、移植用の海藻種苗とした場合においては移植後の定着率が良好で、適宜の補助的な部材の併用により造成用構造物に対して簡単に取り付けることができ、また食用や餌料としての適用も可能な海藻種苗のを提供する。
【解決手段】海藻の生殖細胞等の付着から種苗育成に至るまでの基盤となる集合担持条体1が、水槽2の内部に略水平状態で設置されるとともに、新鮮な海水と空気が、それぞれ給水管3と給気管4を介して水槽2内に供給される。集合担持条体1は、複数本の担持条体10からなり、それらが矩形状の支持体11に並列状態で載置され、結束バンド12で一体化されることにより、全体として平板状に形成される。個々の担持条体10は、海藻養殖などで使用される太径のロープを所定の長さに切断したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、藻場の造成または再生において対象区域に導入する移植用の海藻種苗、さらには食用や餌料としての利用も可能な海藻種苗の生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、我国においては沿岸漁業の振興が重要な課題であり、魚介類、海藻類の増殖および養殖が図られている。しかるに、沿岸部においては種々の原因によって藻場が消滅し、藻場を生活の場としている魚介類が激減する、いわゆる「磯焼け」と呼ばれる現象が各地に拡大している。
【0003】
一般に、海藻は比較的浅い海底の岩石表面に着生し、そこで繁殖する。ところが、磯焼け海域では近くに遊走子等の生殖細胞の供給源となる母藻が存在しないか、自生していてもごく僅かである。さらに、磯焼けが進むと岩石表面が石灰藻で覆われ、海藻が着生し難い状態になることから、自然回復にはきわめて長い時間がかかる。また、砂泥質の海域では海藻の生育は元々困難であり、このような磯焼け海域での藻場の再生や砂質海域での藻場造りにおいては、施工時に外部から海藻を持ち込むことが重要である。
【0004】
従来、藻場の造成方法としては、種々の工夫を施した着生部材を海中に設置し、その着生部材に海藻が自然着生するのを待って造成する方法などが知られている。ところが、この方法は自然着生に依存するものであるから、特に重要な造成初期における海藻の着生状態が、不確定な自然的要素によって大きく左右され、しかも造成に時間がかかるといった造成効率や確実性の点において根本的な問題があった。
【0005】
そこで、ワカメ養殖などにおいて使用されている種糸と呼ばれる2mm前後の細い合成樹脂製の撚糸に予め移植用海藻の幼体を陸上の水槽内で着生させ、この種糸をコンクリートブロック等の造成用構造物に巻き付けて海中に沈設することにより、その海藻種苗を核(基点)として造成用構造物の表面やその周囲に海藻を繁茂させようとする試みがなされている(特許文献1参照)。しかるに、この従来方法は、種糸自体が細い糸状で形状的に不安定であることから、造成用構造物に対する取付作業が面倒であるばかりか取付後においても動きやすかった。よって、種糸に着生する藻体が造成用構造物に着生することは困難であり、成長した藻体が種糸から脱落する頻度が極めて高い。また、根本的な問題として海藻種苗をごく小さな幼体の段階で造成用構造物に固定するものであるから、造成用構造物の表面において順調に着生しないことも多く、藻場造成の成功率が低いものであった。さらに、この方法は海中に設置済みの造成用構造物には適用が困難であるなど、作業性、成功率等の点から海藻種苗の導入方法としては実用化が進んでいないのが実情である。
【特許文献1】特開2001−25329号公報
【0006】
また、上記種糸を使用することなくコンクリートや合成樹脂からなるプレート、あるいは合成樹脂シートの表面に直接的に海藻種苗を着生させ、これをコンクリートブロック等の適宜の造成用構造物に対して、ボルトあるいは接着などにより固定する技術も提案されている(特許文献2参照)。しかしながら、この方法では陸上の水槽内で海藻の生殖細胞等を付着して適宜の大きさになるまで育成するため、培養時に広い面積が必要となり、移植用海藻種苗の生産方法としては効率的でなく、その造成用構造物に対する固定手段にも改善の余地があった。特に、コンクリートプレートの場合には、素材に由来するアルカリ性の影響が短期間では解消されず海藻の着生に時間がかかり、またプレート自体が軽量でないために採苗から造成用構造物への取付までの各工程において取り扱い難いという問題点があった。
【特許文献2】特開2004−65号公報
【0007】
そこで、本出願人はこれらの問題を解決する移植用海藻種苗の導入手段として海藻種苗取付具を提案した(特許文献3参照)。すなわち、この海藻種苗取付具は、海藻種苗を保持しながら造成用構造物に対する固定具としての機能を兼備する基体として、合成樹脂等からなる略リング状の部材を採用し、当該リングに適合する寸法の柱状部分を備える造成用構造物を対象として開発されたものである。この場合、海藻種苗は海藻養成用のロープ(養殖ロープや親綱などとも称される。)と一体になった状態で前記リングに装着され、このリングを介在させることにより、既設あるいは新設の人工的な造成用構造物などに対して、簡単に海藻種苗を移植できるように工夫されている。
【特許文献3】特開2000−116256号公報
【0008】
ところで、大規模な藻場造成では、施工前に大量の移植用海藻種苗を確保する必要があり、上記リング状部材と一体化させた状態の海藻種苗をいかに効率よく生産し、且つ良好な状態で施工場所に供給できるかが、藻場造成を計画通りに実現させる必須要件であると同時にコスト低減を図る上での特に重要な技術事項である。この従来技術においては、種苗生産における作業手順やリング状基体等の有無などにそれぞれ違いはあるものの、基本的にはコンブ、ワカメなどの一般的な海藻養殖技術と共通する採苗、培養、外海仮植、本養成などの各工程を経て移植用の海藻種苗が生産される。すなわち、図10に示すように、予め陸上の水槽内で採苗した種糸10aを長尺の海藻養成用ロープ10に巻付け、これを垂直あるいは水平状態で海中に設置し、海藻種苗の付着器が海藻養成用ロープ10にしっかりと定着して移植に耐え得る大きさになるまで育成する。その後、この海藻kが定着した状態のロープ10を上記特許文献3に記載のリング状基体の外周面に沿わせるように装着するものであって、一般の海藻養殖で行われているロープ養殖技術を利用できる利点がある。しかるに、この生産方法においては、移植用として使用可能な安定した定着状態とするには、種糸10aに着生した海藻種苗の幼体kがさらに育成基盤としてのロープ10の表面に付着器を伸ばして確実に定着させる必要があることから、移植用海藻種苗の生産に時間がかかり、特にホンダワラ類のような付着器が広範囲に広がらない海藻においてはその傾向が顕著であるばかりか、定着率が安定しないという問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、以上のような従来の技術的状況に鑑みなされたもので、効率的な生産が可能になり、移植用海藻種苗とした場合においては移植後の定着率が良好で、適宜の補助的な部材の併用により造成用構造物に対して簡単に取り付けることができ、また食用や餌料としての適用も可能な海藻種苗の生産方法の提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明では、上記課題を解決するため、所定の長さに切断されたロープからなる担持条体の複数本が平板状に並列一体化した集合担持条体を、海水中に設置してその表面に海藻の生殖細胞等を付着させ、着生した海藻種苗が集合担持条体上で適宜の大きさになるまで育成した後、集合担持条体を海藻種苗が着生した個々の担持条体に分離するという技術手段を採用した。
【0011】
上記構成において、担持条体としてのロープとは、各種海藻類の養殖作業における海中での本養成工程等の際に広く利用されているもので、一般的には10〜30mm程度の太さの合成繊維製ロープである。従来の海藻養殖の作業工程は、陸上の水槽内で前述した1〜2mm程度の種糸に海藻の胞子等を付着させて藻体長が数mm程度の大きさになるまで培養し、この幼体が着生した種糸を前記養成用ロープに巻き付けるか、あるいはその撚り目に挟み込んだ状態で養殖筏に移し、その養成用ロープを海中に垂下するなどして成体にまで育成するものである。すなわち、強度や剛性に欠ける細径の種糸上においては、種糸に着生した海藻の幼体を成体まで育成することが困難であることから、海藻養殖における養成用のロープは、育成基盤としての役割を担うに止まり、このロープに対して直接的に海藻種苗を着生させることはこれまで行われていなかった。本発明では、このような養成用ロープを海藻種苗の担持条体として使用するとともにその複数本を平板状に並列一体化し、これを海水中に設置することにより、種糸を使用することなくそれらの表面に海藻種苗を直接的に着生させ、集合状態で適宜の大きさになるまで育成した後、海藻種苗と一体になった個々の担持条体に分離する点に大きな特徴がある。なお、移植に適用する場合には担持条体と一体の状態で使用し、食用などに適用する場合には担持条体から海藻種苗を外せばよい。さらに、集合担持条体は、例えば矩形状枠体のような支持体の添設、あるいは少なくともその両端部分を剛性のある挟持具で挟み込むなどして平板状の並列一体化状態を保持してもよい。移植に適用する場合には、海藻種苗が着生した状態で分離された担持条体を海中に吊り下げ、さらに中間育成をするようにしてもよく、また海藻の着生基盤として沈設される造成用構造物の所定位置に取付可能な長さにすればよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明においては、以上のように、海藻種苗の育成基盤となる担持条体として海藻養成用などに利用されているロープを使用するとともに、それらの複数本を並列一体化した状態で海水中に設置し、海藻胞子等を付着させて直接的に海藻種苗を担持条体に着生するように構成したので、次の効果を得ることができる。
(1)採苗作業において、種糸を使用しないため作業工程が簡略になり、また複数本のロープが集合して面状に配置されることにより海藻胞子等の付着の確率が高まるので、海藻種苗の生産効率を向上させることができる。
(2)担持条体に海藻種苗を直接着生させるので、着生までの時間が種糸を併用する場合に比べて短縮されるとともに、移植用として用いた場合には、移植後の造成用構造物上での定着率も向上する。
(3)複数本の担持条体を並列一体化した状態で海水中に設置して海藻種苗を着生させるから、従来のプレートを用いた方法に比べて場所をとらず、スペースを有効に利用することができる。このため、特に陸上の水槽内で採苗等を行う場合には好都合である。
(4)海藻種苗の成長に伴って集合担持条体を分離することができるので、適正な密度での培養が可能になって藻体の成長に伴う密度低下が避けられ、また個々の担持条体は分離により軽量となるので、取扱いが容易である。
(5)集合担持条体を支持体に添設した状態で海水中に設置すれば、集合担持条体の姿勢が確実に保持されることにより、海藻の生殖細胞等がより着生しやすくなる。特に、ホンダワラ類等の場合には、水平設置が重要であり、そのような状態を確実に保持できるので、幼胚の散布作業におけるロスを低減することができる。
(6)集合担持条体から分離した海藻種苗付きの担持条体は、一定の寸法に規格化して生産することが可能であるから、その後の外海での中間育成において吊り下げやすく、また移植作業時においても造成用構造物に固定する際に補助的に使用される取付具との一体化が容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明に係る海藻種苗は、担持条体と一体になった状態で生産され、移植用あるいは食用などに利用することができる。移植用として、このような形態で施工場所に供給される海藻種苗は、海上または海中において造成用構造物に取り付ける上で好都合である。例えば、造成用構造物の所定位置に固定可能なリング状基体等の取付具に対して、海藻種苗が着生した担持条体を添着することにより、この取付具を介して移植用の海藻種苗を傷めることなく造成用構造物に確実に取り付けることができる。本発明で使用する担持条体は、種糸よりも太径で適度な剛性を有し、海藻種苗をその上で育成可能な程度の太さを備えている。そして、取付具の形状や大きさなどを考慮した長さに予め切断された担持条体は、例えば陸上の水槽内で海藻種苗が着生し、所望の大きさになるまで育成した後、適宜の時期と場所を選び、そのままの状態あるいは変形させた状態で取付具に添着され、造成用構造物に取り付けることができる。また、海藻種苗が着生した担持条体を外海に移動し、海中でさらに中間育成をすることもできる。なお、採苗作業は陸上の水槽内に限らず、海上の養殖施設において行うことも可能である。例えば、ホンダワラ類の場合では、生け簀の中の適宜場所に集合担持条体を略水平状態に設置し、成熟した流れ藻を内部に投入することにより、その藻体から放出される幼胚を集合担持条体に付着させるようにすることもできる。また、アラメやカジメなどの場合には、担持条体に対する生殖細胞等の付着性が良いことから、集合担持条体は必ずしもホンダワラ類の場合のように水平状態に設置しなくともよい。
【0014】
また、上記のような取付具を適用する造成用構造物としては、その長さに関係なく少なくとも一部が柱状に突出しているものが好都合であり、当該突出部分を取付具の装着場所として利用することにより、造成用構造物に対して移植用の海藻種苗を簡単かつ確実に取り付けることが可能になる。取付具の固定は、例えば無端状のリング体では柱状突部の外径に適合するものを予め用意し、柱状突部の上端部から挿入して嵌着することができる。この場合、取付具の位置ずれを防止する手段としては、例えば挿入時に拡径可能な弾性材料からなる小さめのリング体を使用したり、あるいは柱状突部と取付具との間に楔を打ち込むようにしてもよい。また、一個所が開放している略リング状あるいは帯状などの有端状のものでは、素材として合成樹脂等の適度な弾性を有する可撓性材料が好適である。前者の場合には、柱状突部の上端部からの挿入に加え、その開放端部間を広げることにより造成用構造物の柱状突部に対して横方向からの挿着も可能であり、しかも柱状突部外径の変動に対する融通性も高いことから、固定作業における自由度が高いという利点がある。後者の場合には、柱状突部の周面に沿わせて環状に湾曲した状態で固定することができる。これら有端状の取付具では、素材自身が有する弾性もしくは端部に適宜設けた掛止手段などにより、柱状突部への固定後もその環状状態を保持し得るものであればよく、竹材、合成樹脂、ゴム、金属などの可撓性素材により適宜長さ・形状に形成される。合成樹脂の具体例としては、ポリアミド系樹脂、熱可塑性エラストマー、ポリウレタン、ポリオレフィン系樹脂などが挙げられる。なお、取付具を併用せずに海藻種苗が着生した担持条体をそのままの状態で造成用構造物に適用してもよい。
【0015】
本発明に適用可能な海藻は、藻場造成の主たる目的に応じて選択されるので、特にその種類は限定されない。例えば、魚類の産卵場所としてはホンダワラのような大型海藻が好ましく、またアワビやサザエの養殖に餌料として利用する場合には、アラメ、カジメ、クロメ等のコンブ科海藻が好ましい。その中でもツルアラメは、水深に対する適応範囲が他の海藻類に比べて広いことから、特に多数の担持条体を垂下方式で中間育成をする場合において、水深方向の上下の間で海藻の生育に大きな差が生じることがなく、海中を有効利用する上で最適な海藻である。しかも、造成用構造物に移植した後の成育が良好であるという特長がある。また、海中での育成期間、あるいは藻場造成に使用する際の海藻種苗の大きさは、海藻種苗が移植に耐えうる程度の大きさになるまで行うことが原則である。これらは海藻の種類、移植時期、移植海域の環境により異なるが、一般的には葉状部の長さとして10cm程度以上が望ましい。以下、図面に基づき本発明の実施例について説明するが、もちろんこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0016】
図1は、本発明に係る海藻種苗の生産方法の第1実施例を示す概略説明図である。図示の方法では、海藻の生殖細胞等の付着から種苗育成に至るまでの基盤となる集合担持条体1が、水槽2の底部に略水平状態で設置されるとともに、新鮮な海水と空気が、それぞれ供水管3と給気管4を介して水槽2内に供給される構成である。ここで、集合担持条体1は、複数本の担持条体10からなり、それらの複数本が矩形状の支持体11に並列状態で載置され、結束バンド等の適宜の結束具12で一体化されることにより、全体として平板状に形成される。なお、個々の担持条体10は、前述した海藻養殖などで使用される太径のロープを所定の長さに切断したものである。
【0017】
図2は、集合担持条体1と一体で使用される支持体11を示す平面図である。この支持体11は、塩ビパイプ11aとT字状継手11bの組合せにより全体として矩形状に形成されている。なお、集合担持条体1は、例えば支持体11における塩ビパイプ11aの内部に錘を挿入したり、あるいは水槽2の底部に適宜の係止部を設けてこれと支持体11とを結合することにより、安定した水平状態に保持することができる。これは、採苗時において着生基盤が動いたりすると、幼胚等が着生しにくくなるからであり、特にホンダワラ類の場合には固定が望まれる。なお、アラメやカジメなどのように遊走子の付着によるものでは、その付着性が良好であることから、水槽2の内部で立設状態に設置してもよい。この場合には、水槽2の空間を効率的に利用することができる。
【0018】
次に、図1を参照しながら本実施例の作業工程について、移植用の海藻種としてホンダワラを例にして説明する。まず、水槽2の底部に集合担持条体1を上に向けた状態で支持体11と一緒に固定するとともに海水を注入し、さらに栄養塩を海水中に添加する。次いで、供水管3と給気管4を閉じた状態、すなわち水槽2中の海水が静止状態のとき、ホンダワラの幼胚が分散した液を集合担持条体1の上方から散布する。散布された幼胚は自然落下して集合担持条体1の各担持条体10の表面に付着し、3〜4日程度で確実に着生する。その後、供水管3と給気管4を開放し、新鮮な海水と空気を水槽2の内部に供給する。所定の期間が経過すると、図3に示すように、集合担持条体1の各担持条体10にホンダワラの幼体kが出現する。図4は、集合担持条体1を分離した個々の担持条体10であり、幼体kの成長に伴って適宜の時期に分離することにより、個体間の光環境の競合を無くし、適正な密度での効率的な培養が可能である。集合担持条体1から分離した担持条体10は、そのまま移植用の海藻種苗として適宜の造成用構造物に適用してもよいが、さらに海中において中間育成をしてから移植に使用することもでき、また担持条体10から外して食用や餌料にも利用することができる。
【0019】
図5及び図6は、幼体kが着生した担持条体10をさらに中間育成する場合の全体図と部分拡大図である。上記工程を経て分割された複数本の担持条体10は、垂下用ロープ13に対して所定の間隔に配置されるとともに、直交した状態で結束されている。この場合、幼体kは集合担持条体1上の一面側に着生しているため、個々の担持条体10を垂下用ロープ13に取り付ける際には、それぞれ幼体kが上方を向くように配置する。さらに、垂下用ロープ13の上下の端部には、それぞれ浮子14と錘15が結合され、海面下数m程度の場所に鉛直状態で設置される。このような状態で時間が経過すると、個々の担持条体10に着生した幼体kは、さらに成長して環境変化に対する適応力などが高まり、移植後の定着率の向上につながる。
【実施例2】
【0020】
図7は、本発明に係る海藻種苗の生産方法の第2実施例を示す概略説明図である。なお、前記第1実施例と重複する部分については同一符号で示し、その説明は省略する。この方法では、採苗から育成に至るまでの各作業について、そのすべてを生け簀等の海上施設で行うものである。ここで使用する生け簀5は、海面側が開放した箱形状にネット6を張り、ネット6の上縁部には浮子7が設けられるとともに、ネット6の四隅には固定用ロープ8を介して錘9が取り付けられたものである。そして、採苗に際しては集合担持条体1を生け簀5の底面部分に設置し、成熟した海藻を生け簀5の内部に投入する。これにより、その海藻から放出される生殖細胞が集合担持条体1に付着して発芽する。幼体が適宜の大きさに成長した後には、集合担持条体1を個々の担持条体10に分離し、そのまま移植に適用するか、あるいは前記実施例と同様に中間育成をしてから使用することもできる。この場合、生け簀5の内部で中間育成をしてもよいし、生け簀5の外部に移して行ってもよい。
【0021】
図8は、担持条体10上で中間育成を行った海藻種苗Kを移植に適用するに当り、造成用構造物への取付を容易にするための取付具20に担持条体10を装着した状態を示す平面図である。この場合、担持条体10は取付具20の円周にほぼ近い長さのものが使用され、取付具20の外側周面に沿って装着されている。この取付具20はポリプロピレン等の適度な弾性を有する合成樹脂からなり、略環状に形成された帯状本体21の一端部に鉤状突起22が、また他端部には前記鉤状突起22を受け入れて環状に保持するための掛止孔23がそれぞれ設けられている。さらに、帯状本体21の外側面の五個所には前記担持条体10を掛止するための略L字状の受部24が突設され、この受部24の先端の内側には突起25が形成されるとともに、この突起25に対向するように帯状本体21の外周面にも軸心方向に突起(図示せず)が設けられている。また、帯状本体21の中間部分の二個所に略U字状の膨出部26が外側に向けて突設され、帯状本体21の受部24の内面側には軸方向に向けて5個の突起27が形成されている。なお、実施例では帯状本体21の各端部近傍に一対の把手28が突設されている。
【0022】
図9は、図8に示す海藻種苗Kが着生した担持条体10を取付具20と一体化したものを用いて移植作業を行う場合の説明図である。ここで使用する造成用構造物30は、いわゆる並型魚礁と称される立方格子枠状のコンクリート構造物であり、その上面の四隅に円盤状の突部31が設けられたものである。この場合、突部31の径は取付具20の内径よりも幾分小さく、取付具20の両端部を弾性に抗して拡げ、その間から突部31に嵌めてもよいし、突部31の上端部から外嵌することもできる。そして、突部31が内部を貫通した状態で帯状本体21の両端に設けられた鉤状突起22と掛止孔23を、それらの近くに設けられた一対の把手28を用いて引き寄せながら掛合させる。これにより、有端状であった帯状本体21を環状状態に保持することができる。このとき、帯状本体21の中間部分の2個所に設けられた略U字状の膨出部26が適宜開くことから、突部31の外径に多少の変動があっても確実に適用することができ、しかも取付具20自体の弾性復元力を補強する効果もある。なお、取付具20を構成する素材の弾性が高ければ、このような膨出部26は不要であり、また環状状態を保持するための両端の掛止手段22,23も不要である。さらに、取付具20にあっては、帯状本体21の内周側面に設けられた突起27は、取付具20の径方向の移動を阻止するもので、いずれも取付具20の取着状態を固定することにより、海藻種苗Kの仮根が突部31の表面に確実かつ短期間に定着するのを助ける上で効果がある。
【0023】
このようにして造成区域に沈設された造成用構造物30では、取付具20に着生している多数の海藻種苗Kの仮根が伸長して突部31に定着する。そして、そこで成長して成熟すると、海藻種苗Kから遊走子等の生殖細胞が放出され、それら遊走子に基づいて造成用構造物30の他の部位やその周囲の捨て石S等に海藻が繁茂し藻場が造成される。この担持条体10に着生した海藻種苗Kを、取付具20を介して造成用構造物30に適用する移植方法によれば、移植時における海藻種苗Kの損傷を大幅に低減することができ、定着率が大きく向上する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の第1実施例に係る概略説明図である。
【図2】集合担持条体とともに用いる支持体の平面図である。
【図3】集合担持条体上に海藻種苗が着生した状態を示す部分拡大図である。
【図4】図3の集合担持条体から分離した担持条体の正面図である。
【図5】分離した担持条体を中間育成する場合の概略説明図である。
【図6】図5の要部を示す拡大図である。
【図7】本発明の第2実施例に係る概略説明図である。
【図8】本発明の方法で得られた担持条体を取付具に組み合わせた状態を示す平面図である。
【図9】図8に示す取付具と一体状態の担持条体を造成用構造物に適用したた状態を示す正面図である。
【図10】従来方法による海藻種苗付き担持条体の正面図である。
【符号の説明】
【0025】
1…集合担持条体、2…水槽、3…給水管、4…給気管、5…生け簀、6…ネット、7,14…浮子、8…固定用ロープ、9,15…錘、10…担持条体、11…支持体、12…結束バンド、13…垂下用ロープ、20…取付具、30…造成用構造物、31…突部、K,k…海藻種苗

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の長さに切断されたロープからなる担持条体の複数本が平板状に並列一体化した集合担持条体を、海水中に設置してその表面に海藻の生殖細胞等を付着させ、着生した海藻種苗が集合担持条体上で適宜の大きさになるまで育成した後、集合担持条体を海藻種苗が着生した個々の担持条体に分離することを特徴とする海藻種苗の生産方法。
【請求項2】
前記集合担持条体が支持体を備えることを特徴とする請求項1に記載の海藻種苗の生産方法。
【請求項3】
前記海藻種苗が着生した担持条体を海中に吊り下げてさらに中間育成をすることを特徴とする請求項1または2に記載の海藻種苗の生産方法。
【請求項4】
前記担持条体が海藻の着生基盤として沈設される造成用構造物の所定位置に取付可能な長さである請求項1ないし3のいずれか一項に記載の海藻種苗の生産方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−42687(P2006−42687A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−228748(P2004−228748)
【出願日】平成16年8月5日(2004.8.5)
【出願人】(000000446)岡部株式会社 (277)
【Fターム(参考)】