説明

海藻種苗及びその生産方法

【課題】効率的な生産が可能であり、移植用の海藻種苗とした場合には移植後の定着率が良好で、そのまま造成用構造物に簡単に取り付けることができ、食用や餌料としての適用も可能な海藻種苗とその生産方法を提供する。
【解決手段】海藻種苗1は、片面側に鋸歯状突起が形成されループ状に湾曲可能な帯状部2を、内部に係止爪を備えた箱状の頭部3でループ状態に保持する結束バンド4の頭部3に、海藻の小藻体5を着生した構成である。結束バンド4のループ状保持機能を利用することにより、海藻養殖では従来の挟み込みに代えて養成用ロープに巻き付け、また藻場造成では造成用構造物のフックなどに巻き付けて使用する。その生産方法は、頭部3を上に向けた状態の結束バンド4を、海藻の生殖細胞を含む水槽内に設置し、新鮮な海水と空気を送り込むことで頭部3の表面に小藻体5を着生させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚介類の養殖用餌料、化学品原料等の抽出資源、あるいは藻場造成などに利用可能な海藻種苗に係り、特に実海域での取扱いを容易にした海藻種苗とその生産方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ホンダワラ類やコンブ類などの固着性褐藻類の中には大型化するものが多く、この種の海藻はアワビ、サザエ、ウニ等の藻食性の水生動物に対して重要な餌料資源となっている。それら有用魚介類の養殖技術が進展するに伴い、餌料海藻の通年確保が求められ、海藻の増養殖の必要性が急速に高まりつつある。さらに、これらの海藻中には化粧品原料や食品添加物として広く利用されているカラギーナン、アルギン酸ソーダが多量に含まれ、その抽出用資源としての需要も多い。一方、海藻の本来の役割として藻場形成がある。藻場は魚介類の棲息場や環境保全の場としてその価値が認識されているが、近年、藻場の面積が各地で急激に減少し、藻場再生が重要な課題として各地で顕在化している。このため、移植用としての海藻種苗に対する需要も増加傾向にあり、前述した餌料や抽出用資源以外の分野でも今後の需要拡大が期待されることから、各種の海藻種苗に対する関心は高まっている。
【0003】
従来、コンブ類の種苗生産では、陸上の水槽内でクレモナ(商品名)と称される細い撚糸に海藻の胞子を付着させ、撚糸上で幼体段階の海藻種苗(本明細書では「小藻体」という。)にまで培養する方法が広く普及している。撚糸と一体になった小藻体は、撚糸自体が形状的に不安定であると同時に、強度面でその支持力に欠けることから、安定した形状で十分な強度を有する育成用の基盤と組み合わせた状態で、実海域に設置して成体にまで育成するのが基本である。この場合の育成用基盤としては、ロープ、プレート、ブロックなどが使用されている。基盤の形状及び材質は、斯かる小藻体の使用目的が海藻の増養殖または藻場造成のいずれを主体とするかにより適宜選択されている。これら基盤に小藻体付きの撚糸を取り付けるには、養殖ロープや親綱とも称される養成用のロープの場合ではその撚り目に対して短く切断した撚糸を挟み込むか、あるいは長手方向に沿って螺旋状に巻き付けるかのどちらかである。一方、プレートやブロックなどの平面的な基盤に対しては、撚糸を巻き付けてその端部を縛るか、基盤表面に撚糸を添わせた状態でその所々を適宜の金具で固定することが行われている。
【0004】
これに対して、ホンダワラ類の場合には、コンブ類と異なる幼胚段階での着生が基本であることから、板状の基質が用いられる場合が多い。上記のような撚糸を介した種苗生産では、付着器が撚糸を取り付けた基質に着生しにくく、定着に問題があった。そのため、この種の海藻類においては、天然の小藻体を仮根部ごと採取し、種苗として利用する方法が従来から行われている。しかしながら、この方法では天然の小藻体の採取に多大な労力を要し、しかも仮根部ごと採取することによって天然の藻体が枯渇する懸念がある。そこで、この種の海藻類においては、撚糸を使用しない海藻種苗の生産技術が検討されている。具体的には、水槽内に水平状態で設置した平板状のコンクリートブロックからなる基盤の表面に、ホンダワラ類の幼胚を上方から散布して着生させ、これを10mm程度の小藻体まで育成した後、それらの小藻体を基盤表面から剥離して別の水槽内に移し、水槽内を撹拌しながら小藻体を浮遊状態で培養する技術が知られている(特許文献1)。さらに、海藻種苗の沖出し時、すなわち実海域での増養殖または藻場造成に適用する際に、ロープやブロックなどの基盤に対する固定部位として利用できる合成樹脂製の小さな直方体ブロックに海藻種苗を着生させた後、前記と同様な条件で撹拌培養を行う改良技術も同一出願人により提案されている(特許文献2)。また、これとは別の観点に基づき、本出願人は、短い長さの多数本のロープを並列一体化したものを水平状態で海水中に設置してホンダワラ類の幼胚を個々のロープ上に着生させ、この集合状態で小藻体となるまで育成した後、各ロープを分離して互いに適度な間隔を空けた状態で吊下げ用のロープを介して海中に吊り下げ、さらに中間育成することで移植用の海藻種苗とする技術を提案している(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3769535号公報
【特許文献2】特開2007−135523号公報
【特許文献3】特開2006−42687号公報
【0006】
上記従来技術では、対象とする海藻の種類と種苗の使用目的などにより、採苗方法、育成用の基盤の材質や形状、基盤に対する種苗の固定方法などが異なる。ところが、コンブ養殖等で広く使用されている小藻体を着生させた細い撚糸は、海藻養殖での養成用ロープに対する取付作業が比較的容易であるものの、プレートやブロックなどの基盤に取り付けて藻場造成に適用する場合には、撚糸が形状的に不安定であることから、巻付けなどの方法では基盤に固定する際の作業が面倒である。しかも、このようにして取り付けられた撚糸は、基盤表面に対する接触状態が不安定になりやすい。このため、撚糸上の小藻体の仮根部が安定した基盤表面に定着するまでに時間がかかり、小藻体の順調な成長を阻害する大きな原因にもなっている。その不安定状態が長く続いた場合には、小藻体の枯死にもつながるなど、設置後の海藻種苗の成長や定着率が安定しないという問題点がある。
【0007】
一方、水槽内に水平状態で設置したブロックやロープ等の基盤に対して、上方から幼胚を散布する特許文献1、3記載のホンダワラ種苗生産では、平面的な生産施設が必要となり、種苗の大量培養には広いスペースを用意しなければならないという問題点がある。しかもこの方法では、基盤の単位面積あたりの藻体密度を管理することは実質的に不可能であり、育成中での過密による個体数の減少や生育不良が生じやすいことから、幼胚の無駄が多くなり、基盤表面全体を効率的に活用できないという問題点もある。また、複数の小さな直方体ブロックを集合状態にしてホンダワラ藻体を着生させる特許文献2に記載の方法では前記問題点が改善されるものの、その使用に際しては基盤に対する取付手段として、結束バンド等の取付用の部材が別途必要となる。このような取付手段は、特許文献1、3の方法で育成された海藻種苗にも当てはまることであり、海藻種苗を基盤上で順調に育成させる上での重要な要件となっている。すなわち、藻場造成で海藻の育成基盤となるコンクリートブロックなどの人工構造物、あるいは海藻の増養殖で使用される養成用のロープなどの種苗の適用対象物に対して、何かしらの取付用部材を別に用意しなければならないのである。斯かる状況からして、上記従来技術には、いずれも海藻種苗を取り付ける際の作業性や取付後の安定性などの点で改善の余地が残されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明者らは、従来技術が有する上記問題点に鑑み、海藻種苗の取付手段について鋭意検討を重ねた結果、電線やケーブルなどの結束に広く使用されている結束バンドに着目し、これを藻体の着生床として利用することにより、本発明に想到したのである。すなわち、本発明では海藻の増養殖あるいは藻場造成で使用する各種の海藻種苗について、取付手段を藻体に付加して一体化することにより、養成用ロープやコンクリートブロックなどの適用対象物に固定する際の作業性が大幅に向上し、その後の取付状態も安定する海藻種苗及び生産方法を提供することをその目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明に係る海藻種苗は、ループ状に湾曲可能な帯状部を、一端側に設けられた頭部でループ状態に保持する結束バンドの該頭部に、海藻の小藻体を着生させるという技術手段を採用した。
【0010】
斯かる形態の海藻種苗は、帯状部をループ状態に保持可能な結束バンドが小藻体と一体になっているので、例えば増養殖で使用する養成用ロープに対しては、小藻体の頭部上での位置を考慮しながらその帯状部を巻き付け、緩みのない状態となる帯状部の適宜位置で頭部と係合させることにより簡単に取り付けることができる。また、移植用として藻場造成に適用する場合には、例えば海底に設置されるコンクリートブロック表面に設けられたフックや構造物の棒状部分など、帯状部の巻付けが可能な適宜部位を利用し、結束バンドの帯状部をそれらの部位に巻き付け、同様に緩みのない状態で帯状部と頭部とを係合させることで、簡単かつ確実に構造物等に取付けが可能であり、しかも取付後の固定状態も安定する。
【0011】
なお、上記構成において、前記小藻体を前記帯状部の延在方向と反対側の表面部分に集中して着生させることが可能であり、さらに前記海藻としてホンダワラ科の藻類を採用することができる。
【0012】
また、上記請求項1ないし3に係る海藻種苗は、ループ状に湾曲可能な帯状部を、一端側に設けられた頭部でループ状態を保持する結束バンドを、海藻の生殖細胞を含む海水中に設置して頭部表面に生殖細胞を付着させ、この付着した生殖細胞の培養により、海藻種苗として適用可能な小藻体に育成することで得られる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る海藻種苗及び生産方法によれば、上記のような構成を採用したので、次の効果を得ることができる。
(1)帯状部と頭部とでループ状の緊締状態を実現する結束バンドの頭部に海藻の小藻体を着生させたから、ロープやブロックなどの海藻種苗の適用対象物に対して、種苗藻体を簡便かつ確実に取り付けることができる。
(2)ブロック等の適用対象物の取付部位に結束バンドの帯状部を巻き付け、緩みのない状態で頭部と帯状部とを係合させることにより緊締状態が維持されるから、取付後の海藻種苗の固定状態が安定する。その結果、小藻体の仮根部が結束バンドの頭部から適用対象物の表面に速やかに伸長し、小藻体は比較的短期間で定着することになる。したがって、このような海藻種苗を使用すれば、中途段階での枯死が減少し、種苗の定着率が向上する。
(3)結束バンドの頭部に海藻の生殖細胞を直接付着させ、この場所で小藻体にまで生育するので、小藻体を着生させた細い撚糸を併用する従来方法に比べて、作業工程が大幅に簡略化され、海藻種苗の生産効率が向上する。
(4)結束バンドの頭部を上にして帯状部を下方に向けた状態で採苗するようにした場合には、例えばホンダワラ類のように幼胚の落下により基盤に付着する性質の海藻類での適用において、上方から散布した幼胚を受け止めることができ、頭部に集中して小藻体を着生させやすく、さらには帯状部の延在方向と反対側の表面部など、頭部の特定の場所だけに着生させることも可能である。このため、帯状部やそれを受け入れる頭部の係止部付近など、結束バンドのループ状保持機能を阻害する部位への種苗育成中での小藻体の着生を防止できる。
(5)多数の結束バンドを用いて大量の種苗生産を行う場合、個々の結束バンドにおける着生個体数の制御や生育状態の均一化など、結束バンド上での藻体の個体管理が容易であり、1個の結束バンド上に藻体1個体を着生させることも可能である。このような形態の海藻種苗は、移植用としてコンクリートブロック等に適用する場合、実必要量に合わせて良好な生育状態の藻体を必要最低限の数量で対応させることができ、種苗の効率的な使用につながる。
(6)結束バンドの頭部は比較的小さな面積であり、多数の結束バンドを互いに近づけた集合状態にして胞子等の海藻の生殖細胞を個々の頭部に付着させることができるので、採苗作業において、従来のような1枚のプレートを用いる方法に比べて場所をとらない。したがって、スペースを有効に利用することができ、陸上の水槽内で採苗を行う場合には好都合である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る海藻種苗の正面図である。
【図2】本発明で使用する結束バンドの正面図とその中央横断面図である。
【図3】結束バンドを支持具に挿入する状態を示した斜視図である。
【図4】すべての結束バンドの挿入が完了した状態の斜視図である。
【図5】育成中の状態を示した概略説明図である。
【図6】採苗段階の変形例を示した概略説明図である。
【図7】異なる実施形態に係る育成中の状態を示した概略説明図である。
【図8】本発明の海藻種苗を増養殖に適用した場合の要部を示す斜視図である。
【図9】本発明の海藻種苗を藻場造成に適用した場合の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明では、電線やケーブルなどの結束に広く使用されている結束バンドの頭部を海藻類の着生床とし、種苗藻体と一体になった結束バンドのループ状保持機能を、海藻種苗の適用対象物に対する取付手段として利用する点に技術的な特徴がある。斯かる形態の海藻種苗は、1個単位で生産することは無論可能であるが、大量の海藻種苗を効率的に生産するには、複数の結束バンドをそれぞれの頭部が互いに近づくような集合状態とし、この状態で海藻類の胞子や幼胚等の生殖細胞を含む水槽内に設置して採苗する方法が効率的である。これにより、海藻類の胞子や幼胚等の生殖細胞が、一度に各結束バンドの頭部表面に付着し、この頭部上で小藻体の段階になるまで生育する。なお、生殖細胞の付着をより高めるため、頭部表面を粗面化すると好適である。その後、これらの結束バンドの集合状態を解き、個々の結束バンド単位で藻場造成または養殖用の海藻種苗として利用することになるが、海藻の種類、使用目的、設置場所の環境など、使用条件に応じてさらに海中で中間育成を行ってもよい。
【0016】
例えばホンダワラ類の場合では、集合状態の頭部上面が略水平状態となるように適宜の支持具を介して水槽内に設置し、成熟した藻体を内部に投入することにより、その藻体から放出される幼胚を各頭部に付着させるようにすることができる。また、アラメやカジメなどの遊走子を介した着生が行なわれる藻類の場合には、結束バンドに対する遊走子の付着性が良いことから、集合状態の結束バンドは必ずしもホンダワラ類の場合のように水平状態に設置しなくともよい。さらに、複数の結束バンドを集合するに際して、頭部同士が互いの側面部分で接触するほど高密度な配置状態にすれば、帯状部の延出方向とは反対側に位置する各頭部の残りの一面が、恰も一つの平面を形成するので、採苗時における幼胚等を確実に受け止め、無駄が減少する。さらに、これらの着生位置を当該部分に集中させることができるから、海藻種苗の理想形態である結束バンド1個につき海藻1個体の着生状態を実現する上で好都合である。なお、隣り合う結束バンド間の間隔を多少空けるようにした場合には、採苗初期に生殖細胞が頭部側面に付着する可能性はあるものの、最終的にはその場所で小藻体のレベルまで生育することはほとんどないので、採苗段階での頭部間の近接状態は必須の要件ではない。
【0017】
本発明が対象とする海藻類は、種苗の使用目的に応じて適宜選択されるので、特に種類は限定されない。例えば、魚類の産卵場所などの藻場造成を目的とする場合にはホンダワラ類のような大型海藻が好ましく、またアワビやサザエの養殖に餌料として利用する場合には、アラメ、カジメ、クロメ等のコンブ科海藻が好ましいが、これら褐藻類以外の海藻類、例えば紅藻類や緑藻類などの付着する生態の海藻類への適用も可能である。以下、図面に基づき本発明の実施形態について説明するが、もちろんこれら実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術思想内での種々の変更実施はもちろん可能である。
【0018】
図1は、本発明に係る海藻種苗の正面図である。図示の海藻種苗1は、帯状部2の一端側に箱状の頭部3が設けられた結束バンド4と海藻の小藻体5からなり、小藻体5が結束バンド4の頭部3に対して、帯状部2の延在方向と反対側の面に着生した構成である。図2(a)、(b)は、結束バンド4を詳細に示したもので、それぞれ正面図と中央横断面図である。結束バンド4は、全体がポリアミド等の合成樹脂からなり、可撓性を有する帯状部2の片面側には長手方向に沿って鋸歯状突起2aが形成されるとともに、帯状部2の一端側に位置する箱状の頭部3の内空部3aには係止爪3bが設けられている。そして、結束バンドとして使用する時には、他端側から頭部3の内空部3aに挿通された帯状部3の鋸歯状突起2aが頭部3の係止爪3bに係合することで該帯状部2を任意の位置でループ状に保持できる。なお、本発明に適用可能な結束バンドは、これに限定されるものではなく、材質、各部の寸法、全体形状、係止構造などを適宜変更することができる。さらに、補助部材を結束バンド4と併用することにより、造成用構造物の孔部分や突出したボルトなどに取り付けることも可能である。
【0019】
次に、本発明に係る海藻種苗の生産方法について、図3〜5を参照しながら説明する。図3は、上記結束バンド4を支持具10に挿入する状態を示した斜視図である。支持具10は、周囲に矩形状枠部11を備える網状部12と、矩形状枠部11の四隅に設けられた脚部13とからなる。網状部12の網目の寸法は、結束バンド4の帯状部2の幅よりもやや広く、かつ他端側から挿通したときに、帯状部2の一端側に位置する頭部3の一面が当接することで該網状部12に係止される大きさである。なお、脚部13の長さは、結束バンド4の挿入が完了した状態で帯状部2の先端が脚部13を超えない範囲内が好ましい。
【0020】
図4は、支持具10に対してすべての結束バンド4の挿入が完了した状態を示す斜視図である。各結束バンド4は、支持具10の網状部12に対して、縦列と横列でそれぞれ1目置きに配置されることにより、各頭部3間には多少の隙間が形成された集合状態となっている。複数の結束バンド4は、支持具10を介した集合状態で採苗、その後の育成工程に供される。なお、図では結束バンド4の帯状部2について、縦列と横列の手前側のみを表示し、その後側に位置するものの記載は省略している。
【0021】
図5は、海藻種としてホンダワラを対象としたときの育成中の状態を示す概略説明図である。まず、図4に示した組合せ状態の複数の結束バンド4と支持具10とを、水槽20の底部に各頭部3を上に向けた状態で設置する。これにより、結束バンド4の各頭部3はほぼ水平状態に保たれる。水槽20内には、栄養塩を添加した海水が満たされている。そして、海水の供水管21と給気管22を閉じた状態、すなわち水槽20中の海水が静止状態のとき、ホンダワラの幼胚が分散した液を支持具10の上方から散布する。散布された幼胚は、自然落下して集合状態にある各結束バンド4の頭部3の上面部分に付着し、3〜4日程度で着生する。その後、供水管21と給気管22をそれぞれ開放し、新鮮な海水と空気を水槽20の内部に供給しながら幼胚を育成する。
【0022】
そして、所定の期間が経過すると、個々の結束バンド4においては、図1に示すように、頭部3の上面部分にホンダワラの小藻体5が出現する。このようにして結束バンド4の頭部3に小藻体5を着生させた状態のものが、本発明に係る海藻種苗1となる。この場合、小藻体5は頭部3の側面部分にはほとんど着生することがない。仮に、初期の段階で側面部分に着生したとしても、支持具10上での隣り合う頭部3間の間隔がそれほど広くないため、小藻体5のサイズにまで育たない。したがって、帯状部2の挿入口となる頭部3の開口部分が小藻体5で塞がれることはなく、帯状部2の挿入を阻害しないので、取付時の作業性が低下することもない。
【0023】
図6は、上記実施形態の変形例を示したもので、採苗段階の概略説明図である。この実施形態では、複数の結束バンド4の各頭部3が互いに側面でほぼ密接状態となるように配置ものである。このように設置した場合には、複数の頭部3が
全体としてほぼ平面に近い状態を形成するので、例えばホンダワラ類のように幼胚の落下により基盤に付着する性質の海藻類での適用において、上方から散布した幼胚を効率的に受け止めることができ、散布作業における幼胚の無駄を低減することができる。その後、供水管21と給気管22をそれぞれ開放し、新鮮な海水と空気を水槽20の内部に供給しながら幼胚を育成する点は、上記実施形態と同様である。この場合には、育成段階になった時点で、後述する実施形態のように、各頭部3間を拡大することが望ましい。
【0024】
図7は、本発明の別の実施形態に係る育成状態を示した概略説明図である。なお、前記実施形態と重複する部分については同一符号で示し、その説明は省略する。本実施形態に係る方法は、図5または図6に示した集合配置状態から、適宜時期に結束バンド4の頭部3間の間隔を拡げ、この拡げた状態でさらに育成を続けることを特徴とするものである。例えば、図5の実施形態では、縦列と横列でいずれも1目置きに配置しているが、育成途中で2目置きに拡大している。このように、頭部3上での小藻体5の成長に伴って適宜の時期に間隔を拡げることにより、個体間の光環境の競合を無くし、適正な密度での効率的な培養が可能である。頭部3間の間隔を拡大する作業は、海藻の種類、種苗の使用目的などに応じ、その生長状態に合わせて複数回行うことはもちろん可能である。また、頭部3間の間隔を拡げることで個体間の光環境の競合を減少させる方法以外に、例えば浮遊状態での攪拌培養も適用可能である。すなわち、小藻体5が着生した結束バンド4を支持具10から抜き取り、これを栄養塩を含む水槽内で攪拌しながら浮遊状態で培養してもよい。この場合には、結束バンド4の素材として、比重が1に近いものが好ましい。
【0025】
ホンダワラ類の場合には、上記のように着生床となる結束バンド4の頭部3の集合体を水平状態に設置し、上方からの幼胚散布による採苗方法が好ましいが、アラメやカジメなどのように遊走子を介して着生する性質の海藻類では、これとはやや異なる方法が採用される。例えば、図5の育成開始前の静止状態または図6の状態において、フリー培養で得た配偶体を上方から散布する方法などがある。また、遊走子が浮遊する水槽20内に結束バンド4の集合体を支持具10とともに浸漬してもよい。この場合、育成の初期段階では帯状部2の表面にもごく小さな段階の藻体が着生するものの、上方に位置する頭部3に比べて光環境の条件が大幅に悪いことから、それらの藻体は育たず、最終的には頭部3に着生したものが残ることになる。
【0026】
上記各実施形態に記載のとおり、支持具10上に結束バンド4の頭部3を集合させた状態で採苗し、各頭部3上で小藻体5のレベルまで育成することによって得られる、結束バンド4と小藻体5とが一体になった海藻種苗1は、支持具10から個別に引き抜かれ、基本的には結束バンド単位で種々の用途に適用される。なお、移植用種苗として使用する場合には、実海域での適応性を高めるために、さらに海中において中間育成をするのが好ましい。
【0027】
図8は、本発明の方法で得られる海藻種苗1を食用や餌料として増養殖に適用する場合の要部を示した斜視図である。この場合には、増養殖で使用されている養成用ロープ30に対して、結束バンドの帯状部2を巻き付け、その他端側を頭部3に挿入して引っ張ることで簡単にしっかりと取り付けることができる。したがって、従来から行われている養成用ロープ30の撚り目を開いて種苗付きの撚糸を挟み込む方法に比べて取付作業が大幅に向上する。このようにして所定間隔ごとに海藻種苗1を取り付けた養成用ロープ30は、垂下式または延べ縄式などの形態で海中に展開し、小藻体5を成体まで育成することになる。
【0028】
図9は、海藻種苗1を藻場造成に適用する場合を示したものである。この場合には、海底に設置されるコンクリートブロック40の表面に設けられた吊下げ用のフック41を利用し、結束バンドの帯状部2をフック41に巻き付け、その他端側を頭部に挿入して引っ張るだけで、簡単かつ確実に取り付けることができ、取付後の固定状態も安定する。フック41に海藻種苗1を取り付ける際には、コンクリートブロック40の表面にできるだけ近い位置のほうが、小藻体5の仮根部が早期に定着しやすくなる。本発明に係る海藻種苗1は、取付手段を備えるものであるから、沈設前の造成用構造物はもちろんのこと、沈設されたものに対しても同じように取付が可能であるという利点がある。さらに、帯状部2の巻き付けが可能な部位を有するものであれば、各種の構造物に適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明によれば、養成用ロープやコンクリートブロックなどに対する簡便な取付手段を一体化した藻体の生産が可能となり、海藻の増養殖あるいは藻場造成で使用する際の作業性が大幅に向上し、その後の取付状態も安定する海藻種苗を提供することができる。
【符号の説明】
【0030】
1…海藻種苗、2…帯状部、2a…鋸歯状突起、3…頭部、3a…内空部、3b…係止爪、4…結束バンド、5…小藻体、10…支持具、11…矩形状枠部、12…網状部、13…脚部、20…水槽、21…給水管、22…給気管、30…養成用ロープ、40…コンクリートブロック、41…フック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ループ状に湾曲可能な帯状部を、一端側に設けられた頭部でループ状態に保持する結束バンドの該頭部に、海藻の小藻体を着生してなる海藻種苗。
【請求項2】
前記小藻体が、前記帯状部の延在方向と反対側の表面部分に着生している請求項1に記載の海藻種苗。
【請求項3】
前記海藻が、ホンダワラ科の藻類である請求項2に記載の海藻種苗。
【請求項4】
ループ状に湾曲可能な帯状部を、一端側に設けられた頭部でループ状態に保持する結束バンドを、海藻の生殖細胞を含む海水中に設置して頭部表面に生殖細胞を付着させ、付着した生殖細胞を培養して海藻種苗として適用可能な小藻体に育成することを特徴とする海藻種苗の生産方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−284141(P2010−284141A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−142495(P2009−142495)
【出願日】平成21年6月15日(2009.6.15)
【出願人】(000000446)岡部株式会社 (277)
【Fターム(参考)】