説明

海藻類を用いたバイオエタノール製造用高圧液化抽出物及びその製造方法

【課題】海藻類を用いたバイオエタノール(Bio-ethanol)用高圧液化抽出物及びその製造方法に関し、より詳しくは、海藻類を高圧液化させて液化抽出物を生産し、これを酵母で発酵させてバイオエタノールを製造する方法を提供する。
【解決手段】アナアオサ、カジメおよびフダラクなどの海藻類を用いて、圧力を500MPaから1000MPaまで上昇させて、温度は60−80℃であり、圧力媒介体として水又はオイルを用いて、前記海草類を高圧液化させる方法である。前記バイオエタノール製造方法は、高いグルコース収率で収得でき、発酵時間が短縮されて、結果的にバイオエタノールの生産収率が増加する長所がある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海藻類を用いたバイオエタノール(Bio-ethanol)用高圧液化抽出物及びその製造方法に関し、より詳しくは、海藻類を高圧液化させて液化抽出物を生産し、これを酵母で発酵させてバイオエタノールを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石油価格高騰、エネルギー安保、及び温室ガスの規制強化を背景に代替エネルギーの開発が全地球的な話題として浮上している中、全世界的に次世代燃料としてバイオエタノールの普及が急速に進んでいる。ブッシュ行政部は、2017年まで石油消費を20%削減する代わりに、バイオエタノールなど代替エネルギーの利用を拡大することと明言し、日本・中国・アセアン国家もバイオエタノールの生産拡大政策を推進している。
【0003】
バイオエタノールは、サトウキビ、トウモロコシなど植物から抽出した燃料で、揮発油との混合又は単独で自動車燃料として投入できることから、バイオディーゼルと共に代表的な再生資源エネルギーとして脚光を浴びている。また、バイオエタノールは輸入原油に対する依存度を下げるのはもちろん、エタノール燃焼時に発生する二酸化炭素は、京都議定書で規定された温室ガスの計算において例外適用を受けていて、温室ガスの縮小効果も上げることができる。また、補給のために別途のインフラ(充填所など)の構築が必要な他の清浄燃料とは異なり、既存のインフラ(ガソリンスタンド)で補給が可能なため、早期商用化が容易である。このようにバイオエタノールに対する需要及び関心が増加するにつれて、バイオエタノールの生産量も少しずつ増加する趨勢である。
【0004】
しかし、バイオエタノールが代替エネルギーとして浮上するにつれて、原料となるトウモロコシ、サトウキビ、小麦などに対する需要が急増して、穀物価格急騰の一要因になっている。特に、エタノール製造の原料として競争力を有する農産物であるトウモロコシの利用が拡大されつつあって、バイオ燃料の生産拡大はトウモロコシ需要の増大につながることが見通される。そして、このようなトウモロコシ需要の増大は、畜産養鶏農家及び穀物を原材料として用いる飲・食料品会社で原価上昇の要因として作用し、結果として食品や畜産品全般の消費者価格の上昇を招き得ることと予想される。穀物からバイオエタノールを得る方法は、このような穀物価格急騰の問題だけでなく、穀物資源は飢餓人口のための食糧として用いられるべきとの非難から免れられない。
【0005】
よって、世界のバイオエネルギー市場は現在、穀物系から木質系へと方向を変えているが、木質系はリグニンの除去などのような難しい工程の問題に因り突破口を見出せていないのが実情である。
【0006】
最近は、バイオエタノールの原料として用いられる炭水化物及び糖質の豊富な海藻類からバイオエタノールを得る技術が国内外の一部の研究グループで試みられている。海藻類は、穀物類や木材類のような原料に比べて収穫回数、面積当たりの生産量、面積当たりの二酸化炭素吸収力、エネルギー収率、リットル当たりの生産費などで高い経済的効果を有していて、食糧資源及び自然の破壊のような否定的要素が相対的に低い。さらに、海水の富栄養化により異常繁殖して海水汚染の問題を引き起こしている海藻類をバイオエタノールの原料として使用すれば、廃棄物からの付加価値の創出といった経済的及び環境親和的な効果を期待することができる。
【0007】
バイオエタノールを生産するためには、大きく原料物質の糖化、発酵、及び蒸留の3段階を経るが、特に糖化段階において、化学的処理、熱処理、酵素による前処理などが用いられている。しかし、このような前処理は、低い収率、成分の変化、添加剤の使用による装備の腐食及び環境汚染及び副産物の生成などの短所が存在していて、これさえも未だ商業的可能性を見通せる結果は発表できていない状態である。また、発酵段階で用いられる酵母は、生成されたアルコールによりその生長が抑えられるが、これはバイオエタノールの生成効率を制限する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、海藻類から高い収率のバイオエタノールを製造する方法を提供することにある。
【0009】
本発明のもう一つの目的は、海藻類からバイオエタノール用高圧液化抽出物及びその製造方法を提供することにある。
【0010】
本発明のもう一つの目的は、異常繁殖に因り海水汚染の問題を引き起こす海藻類をバイオエネルギー源として活用する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記のような目的を達成するために、本発明は、高圧液化抽出機を用いて海藻類を高圧液化させた高圧液化抽出物及びその生産方法を含む。
【0012】
一具体例において、本発明は、海藻類を500〜1000MPaの圧力下で液化させる方法を提供する。500MPa以下の圧力で抽出する場合は、葉体の組織破砕程度が低いためグルコース抽出量が落ちる短所があり、1000MPa以上の圧力で抽出する場合は、葉体組織内の他の物質も共に抽出される結果を招くため再分離しなければならない短所がある。
【0013】
本発明の方法は、1000MPaまでの圧力に到達してから30分間で行うことが望ましい。
【0014】
また、高圧液化抽出時の温度は、60℃〜80℃の温度で進行することが望ましい。70℃以下の温度で抽出する場合は、液化活性が抑制される短所があり、70℃以上の温度で抽出する場合は、組織の変性をもたらす可能性があるとの短所がある。
【0015】
一具体例において、本発明の海藻類としては、褐藻類、紅藻類及び緑藻類が使用可能であるが、これに限定されない。図3は、緑藻類を70℃で高圧液化処理してグルコースを抽出する過程における時間によるグルコース収得量を示したグラフである。
【0016】
一具体例において、本発明の方法は、高圧液化処理において、圧力媒介体として水又はオイルを用いて圧力を均一に伝達することが望ましい。
【発明の効果】
【0017】
一具体例において、本発明の方法により収得された高圧液化抽出物をもって酵母を用いてアルコールを生産することができる。
【0018】
本発明によると、海藻類から簡単な工程を経て高圧液化抽出物、即ちグルコース抽出物を収得でき、また発酵時間が短縮され、結果としてバイオエタノールの生産収率を増加させることができるといった長所がある。本発明による海藻類を用いた高圧液化抽出物の収得方法は、既存の工程で提起される硫酸などの化学物質の使用、抽出後の副産物処理、低い収率、複雑な工程、環境汚染物質の排出、及び添加物及び温度による成分の変性の問題から免れる。また、異常増殖により環境問題となる海藻類からバイオエタノールを抽出するようになれば、廃棄物からの付加価値の創出といった経済的且つ環境親和的な効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、本発明による海藻類を用いたバイオエタノールの製造方法の工程図である。
【図2】図2は、本発明による高圧液化処理後のアナアオサの表面組織の走査電子顕微鏡写真である。
【図3】図3は、本発明による緑藻類を高圧液化処理してグルコースを抽出する過程の時間によるグルコース収得量を示したグラフである。
【図4】図4は、本発明によって収得した試料の段階別写真である[a:高圧液化抽出物、b:アナアオサ発酵液、c:発酵後の蒸留液(バイオエタノール)]。
【図5】図5は、本発明によるバイオエタノール製造方法における発酵過程の時間帯別グルコース消耗濃度、エタノール生産濃度、及び酵母成長を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を詳しく説明する。該当技術分野の熟練した当業者は、下記の特許請求の範囲に記載された本発明の思想及び領域から逸脱しない範囲内で本発明を多様に修正及び変形可能であることが理解できるであろう。
【0021】
本発明の一観点において、本発明は、海藻類を用いたバイオエタノール(Bio-ethanol)用高圧液化抽出物及びその製造方法に関し、より詳しくは、海藻類を高圧液化させて液化抽出物を生産し、これを酵母で発酵させてバイオエタノールを製造する方法に関する。
【0022】
本発明における海藻類としては、褐藻類、紅藻類及び緑藻類が使用可能であるが、これに限定しない。海藻類の保存物質のエタノールを同一原料として使用可能であるとの点で、海藻類の種類において限定されない。
【0023】
本発明の高圧液化処理時の圧力媒介体としては、水又はオイルを用いて圧力を均一に伝達するようにする。
【0024】
本発明の一具現例によると、緑藻類としてアナアオサ(Ulva pertusa)を用いることができる。アナアオサは、緑藻類のうち最もよく分布する種類であって、最近急速な繁殖によって済州沿岸における汚染の主犯として沿岸海洋環境に多くの社会的及び経済的な問題点を引き起こしている。しかし、アナアオサには、バイオエタノールの原料成分である糖と澱粉が乾燥重量の約50%を占めるほど多量に含まれていることから、バイオエタノールの材料としての効用価値が高い。
【0025】
また、本発明の一具現例によって、褐藻類としてカジメ(Ecklonia cava)、及び紅藻類としてフダラク(Pachymeniopsis lanceolata)又は寒天(Gelidium elegans)を用いることができる。
【0026】
以下、本発明を実施例に基づいてより詳しく説明する。下記の実施例は、本発明を例示するためのもので、非酵素処理した抽出法を用いているが、本発明の範囲が下記の実施例に制限されるわけではない。
【実施例】
【0027】
比較例1:緑藻類であるアナアオサからの熱処理を用いたグルコースの抽出
アナアオサに、試料重量に対してそれぞれ10倍の蒸溜水を抽出溶媒として添加して、垂直還流冷却器が取り付けられた抽出フラスコにて100℃で24時間2回抽出した。
【0028】
比較例2:アナアオサからの弱酸処理を用いたグルコースの抽出
試料重量に対してそれぞれ10倍の1%硫酸溶液を抽出溶媒として用いて、フラスコにて123℃で1時間抽出した。
【0029】
実施例1:緑藻類であるアナアオサからの高圧液化工程を用いたグルコースの抽出
アナアオサ100gに、圧力伝達媒介体として水を用いて、高圧液化抽出機により70℃で圧力を500MPaから1000MPaまで上昇させ、1000MPaを維持した状態で30分間グルコースを抽出した。図2は、抽出後のアナアオサの表面組織の写真を示している。図2から、高圧液化処理後はアナアオサの組織表面が破壊されていることが分かる。
【0030】
抽出されたグルコースの含量測定実験(DNS法)
実施例1と比較例1及び2から得られたグルコースの含量をDNS法によって求めると次の通りである:
【0031】
【表1】

表1から、本発明による実施例1は、簡単な工程により、既存のグルコース抽出方法に比べて1.4倍〜4.7倍の高い収率を得られることが分かる。アナアオサに存在する総グルコース量が約20%(w/w)である点を勘案すれば、実施例1の高圧液化工程を用いる場合、約20%以上が抽出され、糖化収率が増進することが分かる。
【0032】
実施例2:アルコール発酵のための酵母の培養
よって、本発明では、高圧液化抽出物に対するアルコール発酵の可能性及び糖化中に発生し得る酵母生育阻害要素に因る生育阻害の有無を確認するために、一般的に用いられるアルコール発酵酵母(Saccharomyces cerevisiae,Aden Forbes Lab,Bakers Yeast,4330910)を利用した。これを利用して一定濃度(10%v/v〜35%v/v)の高圧液化抽出物を酵母抽出培地と混合して500mlを作った後、フラスコで培養した。
【0033】
実施例3:緑藻類であるアナアオサからのバイオエタノール製造
実施例1におけるアナアオサの高圧液化抽出物から、実施例2の酵母を用いた発酵及び蒸留過程を経てバイオエタノールを製造した。高圧液化抽出物を発酵槽(Bioengineering System)に入れて温度25℃、80rpmでアルコールを発酵させた。アルコールの発酵は嫌気性状態で行われた。発酵過程時、嫌気的又はマイクロ−エアレーション(micro-aeration)状態の維持のために攪拌を間欠的に行って、菌体が培養液内で一定濃度を維持するようにした。一定時間毎に一定量の発酵溶液を採水した後、4℃の冷蔵庫で保管した。生成されたアルコールの定量分析のために、サンプルを遠心分離して上澄液を試料として用い、熱伝導度検出器(TCD)を採用したガスクロマトグラフィー(HP 5890-II)を使用して分析し(コラム:Porapak Q)、薄層クロマトグラフィー(TLC)も併行した。
【0034】
図4は、実施例1及び実施例3の過程で段階別に収得した工程上段階別採取物の写真である。図4の(a)は高圧液化抽出物、(b)はアナアオサの発酵液、(c)は発酵蒸留液(バイオエタノール)である。
【0035】
下記の表2は、実施例3のエタノール生産濃度を纏めた表で、図5は、実施例3の時間帯別グルコース消耗濃度、エタノール生産濃度、及び酵母成長を纏めたグラフである。
【0036】
【表2】

図5から、アナアオサの高圧液化抽出物を酵母を用いて培養した時、培養後約24時間内に発酵が終わり、エタノール生産が持続的になされることが分かる。また、残存グルコースの量もエタノール生産に比例して持続的に減少する現象を見せて、アナアオサから抽出されたグルコースが生育及びエタノール発酵に使用可能であることが分かる。
【0037】
実施例4:褐藻類であるカジメのグルコース転換収率の比較実験
対象をアナアオサから褐藻類であるカジメ(乾燥重量1g)に代えて、実施例1による方法でグルコースを抽出した。比較のために、比較例2の酸処理方法のグルコース転換率を測定した。尚、カジメの炭水化物含量は28.9(%、w/w)で、グルコースの含量は15.7(%、w/w)である。下記の表3は、カジメの酸処理方法及び実施例1の方法のグルコース転換率の結果を纏めた表である。
【0038】
【表3】

実施例5:褐藻類であるカジメからのエタノール製造
実施例4で収得した試料をもって実施例3による方法でバイオエタノールを製造した。その結果、最大アルコール含量は2.8(%、v/v)であり、液状に存在するグルコース対比約78%のアルコールを収得できた。これは、1モルのグルコースから50%アルコール発酵収率を有するとする時、予想される最大理論値である3.2(%、v/v)に近接した値に該当する。
【0039】
実施例6:紅藻類であるフダラク及び寒天のグルコース転換収率の比較実験
対象を紅藻類であるフダラク(乾燥重量1g)及び寒天(乾燥重量1g)にして、実施例1による方法でグルコースを抽出した。比較のために、比較例2の酸処理方法のグルコース転換率を測定した。尚、フダラク及び寒天の炭水化物含量はそれぞれ60.1、51.3(%、w/w)であり、グルコースの含量はそれぞれ45.9、15.3(%、w/w)である。下記の表4は、フダラク及び寒天の酸処理方法及び実施例1の方法のグルコース転換率の結果を纏めたものである。
【0040】
【表4】

実施例7:褐藻類であるカジメからのエタノール製造
実施例6で収得した試料をもって実施例3による方法でバイオエタノールを製造した。その結果、最大アルコール含量は、フダラクは9.4(%、v/v)、寒天は2.4(%、v/v)であり、液状に存在するグルコース対比それぞれ74%及び65%のアルコールを収得できた。
【0041】
これは、1モルのグルコースから50%アルコール発酵収率を有するとする時、フダラクの予想される最大理論値:12.7(%、v/v)、寒天の予想される最大理論値:3.7(%、v/v)に近接した値である。
【0042】
上記表3及び4から、本発明による方法は、酸処理方法に比べグルコース転換収率が遥かに高くて、酸処理による費用、工程の複雑さ、及び環境問題を考慮すれば、高圧液化の単純処理がより有用であることが分かる。また、このようにして得られた試料を発酵した結果、ほとんど液状に存在するグルコースの最大転換理論値対比80%程度のエタノール生産収率を示し、これは、一般的にセルロース系統の前処理物をエタノール発酵した場合に報告されている数値よりも上回るもので、高圧処理された液化抽出物は発酵菌の生育に大きい支障を与えないことと評価される。
【産業上の利用可能性】
【0043】
以上説明したように、本発明による海藻類を用いたバイオエタノールの製造方法は、簡単な工程によって高圧液化抽出物を高い収率で収得でき、発酵時間が短縮されて、結果的にバイオエタノールの生産収率が増加する長所がある。特に、一般的に使われている弱酸処理方法は、原料抽出後に残る副産物の処理により多くの時間及び資金がかかる短所があったが、本発明によれば、低費用、高効率のバイオエタノール製造方法を画期的に提供することができる。また、異常増殖により環境問題として台頭する海藻類からバイオエタノールを抽出するようになれば、廃棄物からの付加価値の創出といった経済的且つ環境親和的な効果がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧力を500MPaから1000MPaまで上昇させて海藻類を液化させる方法。
【請求項2】
温度は60〜80℃であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
圧力媒介体として水又はオイルを用いることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
海藻類は、褐藻類、紅藻類及び緑藻類から構成された群から選択される何れか1つであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
海藻類はアナアオサであることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
海藻類はカジメであることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項7】
海藻類はフダラクであることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項8】
海藻類は寒天であることを特徴とする請求項4に記載の方法。

【図1】
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【図3】
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【図5】
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【図2】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−43247(P2010−43247A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−160068(P2009−160068)
【出願日】平成21年7月6日(2009.7.6)
【出願人】(509190646)コリア オーシャン リサーチ アンド ディベロプメント インスティチュート (2)
【Fターム(参考)】