説明

浸漬装置

【課題】従来よりコンパクト化することが可能な浸漬装置の提供を目的とする。
【解決手段】本発明の電着処理装置10は、ワークWに電着被膜を形成するための表面の電着塗料を貯留した円形の電着処理槽11と、電着処理槽11内の電着塗料を一方向に旋回させる起流ポンプ15と、ワークWを吊り下げて、電着塗料に浸した状態に保持するワーク治具20と、電着塗料中の異物を取り除くためのフィルタ16とを備えている。電着処理槽11を円形にしたことで電着処理装置10が従来よりもコンパクト化され、設置の自由度が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークの表面の被膜形成又は洗浄を行うための液体を貯留槽に貯留した浸漬装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のこの種の浸漬装置としては電着塗装装置が知られている。電着塗装装置は、直線状に延びた縦長の電着処理槽に電着塗料を貯留しておき、その電着処理槽の長手方向の一端から他端に向けてワークを直線移動させることで、ワークの表面に電着被膜を形成する構成であった(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−93162号公報(段落[0029]〜[0033]、第1図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、上述した従来の浸漬装置は、貯留槽が直線状に延びた縦長構造であるため、コンパクト化が望まれていた。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、従来よりもコンパクト化することが可能な浸漬装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するためになされた請求項1の発明に係る浸漬装置は、ワークの表面の皮膜形成又は洗浄を行うための液体を貯留した円形又は円環形の貯留槽と、貯留槽内の液体を一方向に旋回又は巡回させる液流生成手段と、ワークを吊り下げて、液体に浸した状態に保持するワーク治具と、液体中の異物を取り除くためのフィルタとを備えたところに特徴を有する。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1に記載の浸漬装置において、ワーク治具は、貯留槽の上方の架台から垂下された中心支持軸と、中心支持軸の下端部から水平方向に放射状に延びた複数の支持梁と、各支持梁から下面の長手方向に沿って複数設けられ、ワークを垂下させた状態に保持可能なワークホルダとを備えてなるところに特徴を有する。
【0008】
請求項3の発明は、請求項1又は2に記載の浸漬装置において、貯留槽の外周壁の内面に形成された導入口から液体の流速方向の前方に延びた液体導入路と、貯留槽の外周壁の内面に形成された導出口から液体の流速方向の後方に延びた液体導出路と、液体導入路と液体導出路との間を連絡して、液体導入路から液体導出路へと液体を送給する液流生成手段としてのポンプとを備え、液体導入路内にフィルタを配置したところに特徴を有する。
【0009】
請求項4の発明は、請求項2に記載の浸漬装置において、ワークを液体に浸した状態で中心支持軸を回転駆動し、貯留槽内の液体を一方向に旋回又は巡回させることが可能な液流生成手段としての治具駆動装置を備えたところに特徴を有する。
【発明の効果】
【0010】
[請求項1の発明]
請求項1の発明によれば、貯留槽を円形又は円環形にしたことで、従来よりもコンパクト化され、浸漬装置の設置の自由度が向上する。また、液体中の異物はフィルタによって取り除くことができるから、液質悪化を抑えることができる。
【0011】
ここで、被膜形成を行うための液体が「電着塗料」である場合には、電着被膜の生成過程で水の電気分解により水素ガスが発生する。この水素ガスやその他気泡が電着被膜の中に入り込むと、所謂、「ガスピンホール」という欠陥の原因となり得る。これに対し、本発明によれば、被膜形成を行うための液体を旋回又は巡回させることで、水素ガスやその他気泡を効果的に揮散させることができ、ガスピンホールの発生を防止することができる。
【0012】
[請求項2の発明]
請求項2の発明によれば、円形又は円環形の貯留槽の全体を使うことで、一度に複数のワークを液体に浸漬して被膜形成又は洗浄を行うことができる。
【0013】
[請求項3の発明]
請求項3の発明によれば、フィルタによって異物と分離された液体をポンプによって貯留槽内に戻すことで、液体を一方向に旋回又は巡回させることができる。
【0014】
[請求項4の発明]
請求項4の発明によれば、ワークホルダを回転駆動すると、ワークと液体とが相対移動してワークの表面から気泡や異物を除去することができる。そして、液体をワークホルダの回転方向に旋回又は巡回させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1実施形態に係る電着処理槽の概念図
【図2】(A)ワーク浸漬前の電着処理槽の概念図、(B)ワーク浸漬中の電着処理槽の概念図
【図3】ワーク治具の底面図
【図4】ワークホルダの側面図
【図5】ワークとしての電磁コイルの斜視図
【図6】第2実施形態に係る(A)ワーク浸漬前の洗浄槽の概念図、(B)ワーク浸漬中の洗浄槽の概念図
【図7】変形例に係る貯留槽の概念図
【発明を実施するための形態】
【0016】
[第1実施形態]
以下、本発明の第1実施形態を図1〜図5に基づいて説明する。図2には、本発明の「浸漬装置」としての電着塗装装置10が示されている。同図における符号11は、電着処理槽(本発明の「貯留槽」に相当する)であって、電着塗料(本発明の「被膜形成を行うための液体」に相当する)が貯留されている。電着処理槽11内には図示しない電極が配置され、その電極と被塗物であるワークWとの何れか一方を陽極とし他方を陰極として、それらの間に通電すると、ワークWの表面に、電着塗料中に溶けた樹脂が析出して電着被膜が形成される。
【0017】
本実施形態で例示するワークWは、例えば、モータ用の電磁コイルであり、図5に示されている。電磁コイルWは、偏平断面の銅線を巻回軸方向から見て四角形になるように巻回すると共に、1対の直線端末部Wb,Wbを巻回部Waの四角形の一辺から同じ方向に突出させた構造になっている。また、本実施形態で例示する電着塗料は、例えば、ポリイミド樹脂及びその他絶縁材料を溶剤に溶かしたものであり、乾燥又は硬化により電磁コイルWの表面に絶縁被膜を形成する。
【0018】
図1に示すように、電着処理槽11は上面開放の円筒形構造をなしており、電着塗料は、電着処理槽11内を起流ポンプ15(本発明の「液流生成手段」に相当する)によって一方向(図1における反時計回り方向)に旋回するようになっている。電着処理槽11の外周壁12の内面には、導入口12Aと導出口12Bとが開口している。導入口12Aと導出口12Bは、電着塗料の液面より下側でかつ、電着処理槽11の周方向で所定角度(例えば、90度〜180度)離して配設されている。導入口12Aからは、電着処理槽11の外周壁12の接線方向でかつ電着処理液の流動方向の前方に向かって液体導入路13Aが延びている。また、導出口12Bからは、電着処理槽11の外周壁12の接線方向でかつ電着処理液の流動方向の後方に向かって液体導出路13Bが延びている。これら液体導入路13Aと液体導出路13Bの間は起流ポンプ15によって連絡されている。
【0019】
起流ポンプ15は電着処理槽11内の電着塗料を導入口12Aから吸い込むと共に、その電着塗料を導出口12Bから電着処理槽11内に向けて加速して放出する。電着塗料は、電着処理槽11の外周壁12の接線方向に向かって放出され、これにより、電着処理槽11の外周壁12に沿った電着塗料の旋回流が生成される。また、液体導入路13Aの途中には、フィルター16が設けられている。導入口12Aから取り込まれた電着塗料は、全てこのフィルター16を通過するようになっている。
【0020】
図2に示すように電着塗装装置10のうち、電着処理槽11の上方にはワーク治具20が備えられている。ワーク治具20は、電着処理槽11の上方に設けられた架台(図示せず)から垂下された中心支持軸24と、中心支持軸24の下端部から水平方向に放射状に延びた複数の支持梁21,21と、各支持梁21,21の下面の長手方向に沿って設けられた複数のワークホルダ22,22とから構成されており、それら各ワークホルダ22,22に、ワークとしての複数の電磁コイルWを保持可能となっている。また、隣り合った支持梁21,21同士の間において、ワークホルダ22,22は支持梁21の長手方向に互いにずらして配置されている。
【0021】
図4に示すように、各ワークホルダ22は、電磁コイルWにおける1対の直線端末部Wb,Wbの先端を、銅線の偏平方向から把持して、電磁コイルWを吊り下げた状態で保持可能となっている。
【0022】
詳細には、各ワークホルダ22には、電磁コイルWにおける2つの直線端末部Wb,Wbを把持するために、2つのチャック22A,22Aが設けられている、各チャック22A,22Aは把持溝22B,22Bを有しており、その把持溝22B,22Bに直線端末部Wb,Wbの先端(上端)を挿抜可能となっている。
【0023】
ワーク治具20は上下動可能となっており、ワーク治具20から吊り下がった電磁コイルWを電着塗料に対して挿抜可能となっている(図2(A)及び同図(B)参照)。ここで、電磁コイルWは、巻回部Waより上側の塗装境界線L1(図5参照)まで電着塗料の液面下に沈められ、塗装境界線L1から下側の部分に対してのみ電着塗装が行われる。
【0024】
次に本実施形態の電着塗装装置10の作用について説明する。電着工程では、電着処理槽11の真上にワーク治具20を位置決めし、次いで、ワーク治具20を降下させて、ワーク治具20に吊り下げ保持された複数の電磁コイルWを電着塗料に浸漬させる。電磁コイルWを塗装境界線L1まで沈めたら、起流ポンプ15を起動して電着処理槽11内に旋回流を生成し、その状態で、電着処理槽11内の電極(図示せず)と電磁コイルWとの間に通電を行う。すると、電磁コイルWのうち、電着塗料の液面下に沈んだ部分に電着被膜が形成される。規定の処理時間に亘って電着処理を行ったら、ワーク治具20を上昇させて電磁コイルWを電着塗料から引き揚げ、ワーク治具20ごと、次工程(例えば、焼付工程)に搬送する。
【0025】
電着被膜の生成過程では、陰極側で水の電気分解が起きて水素ガスが発生する。これに対し、本実施形態では、電着塗料を電着処理槽11内で旋回流にして流動させることで、電着塗膜に対する水素ガスやその他気泡の付着を防止することができるので、ガスピンホールの発生を抑制することができる。
【0026】
また、例えば、電着処理前の電磁コイルWによって電着処理槽11に持ち込まれたゴミや、電着塗料中の凝集物などの異物は、旋回流による遠心力によって電着処理槽11の外周壁12側に移動すると共に、導入口12Aから起流ポンプ15によって吸い込まれ、フィルター16で取り除かれるから、電着塗料の液質悪化を抑えることができる。
【0027】
そして、本実施形態によれば、電着処理槽11を円形にしたことで、電着塗装装置10が従来よりもコンパクト化され、配置の自由度が向上する。また、円形の電着処理槽11の全体を使って一度に複数の電磁コイルW(ワーク)に対して電着塗装を行うことができ、効率がよい。
【0028】
なお、本実施形態では、ワークとして電磁コイルを例示したが、その他のワーク(例えば、自動車ボディ)でもよい。また、電着塗料は、絶縁被膜を形成するためのものに限定するものではなく、防錆用や装飾用であってもよい。
【0029】
さらに、本実施形態の構成は、ワークの表面を洗浄するための洗浄装置や、ワークの表面に電着被膜以外の被膜を形成するための被膜形成装置に適用してもよい。
【0030】
[第2実施形態]
本実施形態は、洗浄槽51(本発明の「貯留槽」に相当する)の中に洗浄液(本発明の「洗浄を行うための液体」に相当する)を貯留した洗浄装置50(本発明の「浸漬装置」に相当する)に、本発明を適用したものである。この洗浄装置50は、起流ポンプ15を備えていない替わりに、ワーク治具20が中心支持軸24を中心にして回転可能となっている。即ち、中心支持軸24の上端部には、本発明の「液流生成手段」及び「治具駆動装置」としてのモータ25が連結され、ワーク治具20が、中心支持軸24を中心にして回転駆動されるようになっている。その他の構成は、上記第1実施形態と同一であるので、重複する説明は省略する。
【0031】
本実施形態の作用を説明する。ワークWの洗浄を行う場合には、静止した洗浄液に対してワーク治具20を降下させて複数のワークWを洗浄液に浸漬し、その後、モータ25を起動してワーク治具20を回転駆動する。すると、洗浄液とワークWとが相対移動して、ワークWに付着していた異物や気泡が除去される。また、ワークWが洗浄液中で回転移動することで、その回転方向に洗浄液が旋回して(図6(B)参照)、洗浄液からの気泡の揮散が促進されると共に、ワークWから除去された異物が遠心力によって外周壁12側に移動する。そして、異物はフィルター16によって洗浄液から分離され洗浄液のみが洗浄槽51に戻される。
【0032】
本実施形態の構成によれば、洗浄槽51を円形にしたことで洗浄装置51がコンパクト化され、配置の自由度が向上する。また、円形の洗浄槽51の全体を使って、一度に複数のワークWを洗浄することができ、効率がよい。なお、本実施形態の構成は、ワークWの表面に被膜を形成するための皮膜形成装置に適用してもよい。
【0033】
[他の実施形態]
本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、例えば、以下に説明するような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれ、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することができる。
【0034】
(1)前記第1及び第2実施形態では、電着処理槽11及び洗浄槽51(以下、まとめて「貯留槽」という)が円形であったが、図7に示すように、貯留槽の外周壁12の内側に外周壁12と同心の内周壁18を設けて、貯留槽11,51を円環形とし、その中の液体を、起流ポンプ15やワーク治具20の回転駆動によって、一方向に巡回させるようにしてもよい。
【0035】
(2)前記第1及び第2実施形態において、ワーク治具20は、中心支持軸24から放射状に延びた複数の支持梁21,21の下面にワークホルダ22を設けた構成であったが、中心支持軸24から円盤状に張り出したベース盤の下面にワークホルダ22を設けた構成としてもよい。
【0036】
(3)起流ポンプ15によって貯留槽11,51内の液体を一方向に旋回させると共に、その液体にワークWを浸漬した状態で、液体の流れと同じ方向にワーク治具20を回転駆動してもよい。このとき、ワークWと液体とを相対移動させるために、ワーク治具20を液体の流速より遅い速度で回転駆動することが好ましい。
【0037】
(4)上記第1実施形態では、起流ポンプ15が1つであったが、複数の起流ポンプ15を備えていてもよい。
【0038】
(5)上記実施形態では、隣り合った支持梁21,21同士の間で、ワークホルダ22,22が、支持梁21の長手方向で互いにずらして配置されていたが、隣り合った支持梁21,21のワークホルダ22,22同士が、中心支持軸24を中心とした円弧線上に並ぶように配置してもよい。
【符号の説明】
【0039】
10 電着塗装装置(浸漬装置)
11 電着処理槽(貯留槽)
12 外周壁
12A 導入口
12B 導出口
13A 液体導入路
13B 液体導出路
15 起流ポンプ(液流生成手段)
16 フィルター
20 ワーク治具
21 支持梁
22 ワークホルダ
24 中心支持軸
25 モータ(液流生成手段、治具駆動装置)
50 洗浄装置(浸漬装置)
51 洗浄槽(貯留槽)
W 電磁コイル(ワーク)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークの表面の皮膜形成又は洗浄を行うための液体を貯留した円形又は円環形の貯留槽と、
前記貯留槽内の液体を一方向に旋回又は巡回させる液流生成手段と、
前記ワークを吊り下げて、前記液体に浸した状態に保持するワーク治具と、
前記液体中の異物を取り除くためのフィルタとを備えたことを特徴とする浸漬装置。
【請求項2】
前記ワーク治具は、前記貯留槽の上方の架台から垂下された中心支持軸と、
前記中心支持軸の下端部から水平方向に放射状に延びた複数の支持梁と、
各前記支持梁の下面の長手方向に沿って複数設けられ、前記ワークを垂下させた状態に保持可能なワークホルダとを備えてなることを特徴とする請求項1に記載の浸漬装置。
【請求項3】
前記貯留槽の外周壁の内面に形成された導入口から前記液体の流速方向の前方に延びた液体導入路と、
前記貯留槽の外周壁の内面に形成された導出口から前記液体の流速方向の後方に延びた液体導出路と、
前記液体導入路と前記液体導出路との間を連絡して、前記液体導入路から前記液体導出路へと液体を送給する前記液流生成手段としてのポンプとを備え、
前記液体導入路内に前記フィルタを配置したことを特徴とする請求項1又は2に記載の浸漬装置。
【請求項4】
前記ワークを前記液体に浸した状態で前記中心支持軸を回転駆動し、前記貯留槽内の液体を一方向に旋回又は巡回させることが可能な前記液流生成手段としての治具駆動装置を備えたことを特徴とする請求項2に記載の浸漬装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−117134(P2012−117134A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−270061(P2010−270061)
【出願日】平成22年12月3日(2010.12.3)
【出願人】(000110343)トリニティ工業株式会社 (147)
【Fターム(参考)】