説明

浸透乾燥型オフセット印刷用インキ組成物

【課題】地球環境に配慮しつつ、流動性、機上安定性、印刷適性、経時安定性に優れた浸
透乾燥型オフセット印刷用インキ及びそれを用いた印刷物の提供。
【解決手段】顔料、バインダー樹脂、植物油及び溶剤を含有する浸透型オフセット印刷用インキ組成物において、特定の植物油を含有する浸透乾燥型オフセット印刷用インキ組成物が優れていることを見出し、本発明を完成するに至った。この特定の植物油は、非常に生産性が良く、大気中のCO削減に貢献でき、環境負荷低減の浸透型オフセット印刷用インキ組成物およびこのインキを紙上に印刷してなる印刷物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷インキに関し、更に詳しくは、新聞、チラシ等の印刷に使用される浸透乾燥型オフセット印刷用インキに関し、更に詳しくは、従来よりも乾燥性、印刷適性、経時安定性に優れた環境負荷の少ないオフセット印刷用インキに関する。
【背景技術】
【0002】
オフセットインキ業界は地球環境や作業環境の改善にも取り組んできており、インキ中の石油系溶剤の全部または一部を大豆油に替えたものは大豆油インキとしてアメリカ大豆協会から認定を受けることができることもあり、環境問題,VOC(揮発性有機化合物)規制,大豆農業振興を背景として大豆油インキが主流になりつつある。
【0003】
新聞印刷に代表される、浸透乾燥型オフセット印刷用インキを用いたオフセット印刷は、紙に転写されたインキにおいて、インキ中の溶剤及び植物油が紙に浸透することで固体皮膜を形成させることが特徴である。またインキ中の溶剤の一部は高速印刷時に蒸発する。
【0004】
浸透乾燥型オフセット印刷用インキの乾燥メカニズムは、印刷インキを構成している溶剤や植物油などが、毛細管現象で紙の繊維部分に浸透し、顔料や樹脂の一部の固形物が紙の表面に固形皮膜の画像を形成させるという乾燥方式をとっている。
この浸透乾燥型オフセット印刷用インキは、ヒートセット印刷用インキの様な加熱オーブン(ドライヤー)を用いてインキ中の溶剤を乾燥させ、固体皮膜を形成させる方式と区別するため、コールド印刷用インキとも呼ばれている。
【0005】
また、浸透乾燥型オフセット印刷用インキにおいて使用される植物油としては、半乾性油の大豆油が主に使用されており、半乾性油のため、紙に転写されたときに一部酸化重合し固体皮膜を形成させている。
【0006】
新聞印刷に代表される、浸透乾燥型オフセット印刷用インキにおいて、大豆油に代表される植物油の含有率を高めていくと印刷機上安定性は向上するものの、樹脂からの溶剤離脱が遅くなり、セットの劣化を招き、紙面汚れの問題が発生する。印刷機上安定性とは、インキの印刷機上での溶剤蒸発による流動性の劣化の程度を表す。流動性劣化が少ないこと、もしくは流動性が劣化するまでの時間が長いことがインキ性能として優れている。
【0007】
逆に植物油の含有率が低すぎると、印刷機上安定性が悪くなり、印刷機上でインキが増粘し、流動性の劣化やタックアップしたインキが紙剥けを誘発させたり、紙粉を巻き込みパイリングを起こしやすくなる等の問題が生じ易くなるため、乾燥性と機上安定性のどちらにも優れているインキを作るのは困難であった。
【0008】
一般的にオフセット印刷用インキにおいて使用される植物油としては、大豆油が主に使用されており、その他に亜麻仁油等が使用されている。昨今の地球温暖化に伴う異常気象の影響で各地の穀物凶作の発生や、石化燃料の代替としてバイオ燃料の需要が拡大し、大豆をはじめとした穀物価格が大きく変動しており、大豆油以外の植物油を印刷インキに使用することが望まれている。
【0009】
アメリカ大豆油協会(ASA)が認定している「ソイシール」の使用権を取得したソイインキは、インキの油成分の一部を石油系溶剤ではなく、大豆から採れる植物油で構成したインキで、環境に配慮した環境対応型インキとして、これまで印刷インキの中で広まってきた。しかし、昨今の地球温暖化に伴う異常気象の影響で各地の穀物凶作の発生や、石化燃料の代替としてバイオ燃料の需要が拡大し、大豆をはじめとした穀物価格が大きく変化している。このような状況下で、大豆を原料とする大豆油に限定して、環境対応インキの原料にすることは望ましいとはいえない。
【0010】
近年、オフセットインキにおいては、植物油、特に大豆油を用いたインキは環境対応と
して使用されてきている。特に米国では政府刊行物に関して一部法律において大豆油を用
いたインキを使用するように定められている。しかし、特に日本においては従来の石油系
溶剤に比べて大豆油のコストは高く、大豆油を用いたインキの使用量は伸びていない。植
物油脂価格に影響を与える要因としては、需給バランス・収穫量・政治的要因・投機筋の
介入・物流などが挙げられる。
【0011】
近年、枯渇資源である石油代替燃料として、再生可能資源である大豆やトウモロコシを
原料とするバイオディーゼル燃料が注目され、食用の穀物類の価格が高騰し、同時に食糧
との競合が問題となっている。食料と競合しないという点では、廃食用油の利用もリサイ
クルの観点で使用されているが、さまざまな油が混じっているため、品質に課題があり、
また供給規模の拡大に向けて大きな壁がある。
【0012】
また再生可能資源として植物を利用するもう1つの理由として、地球温暖化対策のため
のCO削減が挙げられる。植物は大気中のCOを吸収して固定化するため、植物を原料とした資源を利用した場合には大気中のCO量が増加しないと言われている。
【0013】
特許文献1では、植物油としてヨウ素価を100以上に調整した米ぬか油を用いたオフセットインキについて提案されている。しかし、新聞印刷に代表される、浸透乾燥型オフセット印刷用インキを用いたオフ輪印刷においてはヨウ素価の高い植物油を多用すると(ヨウ素価130より大きい)、保存容器内でのインキ増粘や流動性の劣化を招きやすい。このため、浸透乾燥型オフセット印刷用インキにおいては、ヨウ素価にも制限がある。また、浸透乾燥型オフセット印刷用インキは、植物油よりも石油系溶剤のアニリン点や沸点が機上安定性に依存している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2003−96375号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、地球環境に配慮しつつ、流動性、機上安定性、経時安定性、印刷適性に優れた浸透乾燥型オフセット印刷用インキ及びそれを用いた印刷物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するために誠意研究した結果、顔料、バインダー樹脂、植物油及び溶剤を含有する浸透型オフセット印刷用インキ組成物において、特定の植物油を含有する浸透乾燥型オフセット印刷用インキ組成物が優れていることを見出し、本発明を完成するに至った。この特定の植物油は、非常に生産性が良く、大気中のCO削減に貢献でき、環境負荷低減の浸透型オフセット印刷用インキ組成物を提供できる。
【0017】
即ち、本発明は、顔料、バインダー樹脂、下記の一般式(1)で表される化合物および溶剤を含有することを特徴とする浸透乾燥型オフセット印刷用インキ組成物に関するものであって、
一般式(1)で表される化合物中の(R1+R2+R3)の全量に対して、二重結合を有しない炭素数16の飽和炭化水素基のモル比率が1〜15%、
二重結合を1つ有する炭素数16の不飽和炭化水素基のモル比率が1.0%、
二重結合を有しない炭素数18の飽和炭化水素基のモル比率が1〜15%、
二重結合を1つ有する炭素数18の不飽和炭化水素基のモル比率が30〜70%、
二重結合を2つ有する炭素数18の不飽和炭化水素基のモル比率が10〜30%、
および
二重結合を3つ有する炭素数18の不飽和炭化水素基のモル比率が1.0%以下であることを特徴とする浸透乾燥型オフセット印刷用インキ組成物に関するものである。
一般式(1)
【化1】

【0018】
また、一般式(1)で表される化合物のヨウ素価が80〜130(mg/100mg)であることを特徴とする浸透乾燥型オフセット印刷用インキ組成物に関するものである。
【0019】
さらに、バインダー樹脂が、
重量平均分子量10000〜200000
および、
トレランス20〜49重量部%
である
ロジン変性フェノール樹脂
であることを特徴とする上記の浸透乾燥型オフセット印刷用インキ組成物に関するものである。
【0020】
また、本発明は、溶剤が、
アニリン点60〜130℃
および
沸点範囲240〜400℃
であり、
インキ全量の0.1〜30重量%
含有することを特徴とする上記の浸透乾燥型オフセット印刷用インキ組成物に関するものである。
【0021】
さらに、本発明は、上記浸透乾燥型オフセット印刷用インキを基材上に印刷してなる印刷物に関するものである。
【発明の効果】
【0022】
新聞、書籍、チラシ等の印刷において、本発明が提供する浸透乾燥型オフセット印刷用
インキは、従来よりも印刷適性、経時安定性に優れ、しかも生産効率の良い植物油を原料としており、非常に環境負荷が少なく、大気中のCO削減に貢献できる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
次に、好ましい実施の形態を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。
なお、以下の一般式(1)で表される化合物を総称して、本発明においては、化合物Zとする。
一般式(1)
【化2】

【0024】
本発明で用いられる化合物Zは(R1+R2+R3)の全量に対して、
二重結合を有しない炭素数16の飽和炭化水素基のモル比率が1〜15%、
二重結合を1つ有する炭素数16の不飽和炭化水素基のモル比率が1.0%以下、
二重結合を有しない炭素数18の飽和炭化水素基のモル比率が1〜15%、
二重結合を1つ有する炭素数18の不飽和炭化水素基のモル比率が30〜70%、
二重結合を2つ有する炭素数18の不飽和炭化水素基のモル比率が10〜30%、
および
二重結合を3つ有する炭素数18の不飽和炭化水素基のモル比率が1.0%以下であることが好ましい。
より好ましくは、二重結合を1つ有する炭素数16の不飽和炭化水素基および二重結合を3つ有する炭素数18の不飽和炭化水素基は含まれない方が良い。
すなわち、化合物Zは、二重結合の割合が特定のものが好ましい。
【0025】
R1、R2、R3の具体的な官能基として、飽和炭化水素基として、ミリスチン基、イソテン基、パルチミン基、マルガリン基、ステアリン基、アラキドン基等があり、不飽和炭化水素基として、テトラデセン基、パルミトオレイン基、オレイン基、エイコセン基、リノール基、リノレン基等がある。
【0026】
また、化合物Zの含有量は、浸透乾燥型オフセット印刷用インキ全量に対して、5〜60重量%、より好ましくは6〜36重量%、さらに好ましくは10〜30重量%含有されていることが望ましい。化合物Zの含有率が浸透乾燥型オフセット印刷用インキ全量に対して5%重量%よりも少ないと、印刷機上でのインキ安定性が劣り、インキの増粘、流動性の低下を招く。化合物Zの含有量が浸透乾燥型オフセット印刷用インキ全量に対して60%重量よりも多いと、乾燥性が劣り、印刷機上での擦れ汚れや、印刷紙面結束後のブロッキング等招き、好ましくない。
【0027】
また、二重結合を2個有する炭素数18の不飽和炭化水素基の比率が5%以下であると、印刷後の紙面の擦れ性が劣るため好ましくない。また、三重結合を1つ有するC18の不飽和単価水素基が存在すると保存容器内でのインキの経時安定性が著しく劣るため、少なくした方が好ましい。
【0028】
本発明で用いられる化合物Zは、典型的に入手する方法は、東欧諸国で主に栽培されているひまわりから搾油されたヒマワリ油を入手すればよいが、他の動植物油等を精製して、一般式(1)になるように加工すればよい。
【0029】
加工処理としては、動植物油は、対象物を粉砕、圧搾、抽出などした後、必要に応じて、ろ過、静置による沈澱、活性白土による脱色といった処理を行ったり、化学修飾など施して、一般式(1)にすればよい。
【0030】
従来のヒマワリ油はリノレン酸の比率が高く、ヨウ素価が130より大きかった。このヒマワリ油をオフセットインキに用いると、新聞印刷に代表される、浸透乾燥型オフセット印刷用インキを用いたオフ輪印刷においては、ヨウ素価が高いため、保存容器内でのインキの増粘や流動性の劣化を招きやすい問題がある。
【0031】
近年、品種改良が進み、オレイン酸比率が高い、ハイオレリックヒマワリ油、中オレインヒマワリ油が主に生産されてきている。2000年以降は中オレインタイプのNuSun品種が伝統的な交配育種法により育成され、主流となってきている。この中オレインヒマワリ油のヨウ素価は80〜130であり、従来のヒマワリ油より、ヨウ素価が低くなってきている。この領域のヨウ素価をもつヒマワリ油であれば、新聞印刷で使用される浸透乾燥型オフセット印刷用インキに、用いてもインキの増粘や流動性の劣化を招くことはない。更には、非常に機上安定性に優れた特性を有することを見出し、本発明に至った。
【0032】
本発明では、必要に応じて油としてそれ以外の動植物油、合成油を併用しても良い。植物油としては、大豆油、再生大豆油、菜種油、ヤシ油、オリーブ油、アサ実油、アマニ油、エノ油、オイチシカ油、オリーブ油、カカオ油、カポック油、カヤ油、カラシ油、キョウニン油、キリ油、ククイ油、クルミ油、ケシ油、ゴマ油、サフラワー油、ダイコン種油、大豆油、大風子油、ツバキ油、トウモロコシ油、ナタネ油、ニガー油、ヌカ油、パーム油、ヒマシ油、ヒマワリ油、ブドウ種子油、ヘントウ油、松種子油、綿実油、ヤシ油、落花生油、脱水ヒマシ油等の植物油由来のものや、それらの熱重合油及び酸素吹き込み重合油等を併用することもできる。動物油としては、牛脂、豚脂等がある。
【0033】
本発明において、一般式(1)で表されるような好適な植物油を挙げるとすれば、そのヨウ素価が80〜130(mg/100mg)である植物油が好ましく、さらにヨウ素価が100〜120(mg/100mg)の植物油がより好ましい。ヨウ素価130(mg/100mg)より高くなると、保存容器内でのインキの増粘や流動性の劣化を招きやすい。
【0034】
本発明におけるトレランスとは、試験管中に樹脂2.50gとAFソルベント5号(新日本石油(株)製)を5g入れ、適時攪拌しながら5分間で180℃に昇温し、溶解したものを25.0℃まで冷却し、攪拌しつつ0号ソルベント(新日本石油(株)製)で少量ずつ希釈していき、微濁状態を終点とした時の0号ソルベントの量から以下の式によりトレランスの値を求める。
【0035】
【数1】

【0036】
本発明で用いられるバインダー樹脂としては、重量平均分子量10000〜200000、好ましくは20000〜80000、且つトレランスが20〜49重量%好ましくは22〜30重量%であるロジン変性フェノール樹脂であることが望ましい。
重量平均分子量が10000以下ではインキの粘弾性が低下し、2000000以上ではインキの流動性、光沢が劣る。また、トレランスが20重量%以下ではインキのセット性が低下し、さらにセットオフ汚れ、ミスチング性能の劣化を招く。トレランスが49重量%以上では、印刷機上での溶剤離脱の促進によるインキの増粘、流動性の低下、タック上昇による印刷適性の劣化を招き、さらに光沢が低下するため好ましくない。
【0037】
重量平均分子量測定には、東ソー(株)製ゲルパーメーションクロマトグラフィー(商品名 HLC−8020)および東ソー(株)製カラム(商品名 TSK−GEL)を用いた(以下、重量平均分子量は同様の方法で測定した値である)。
【0038】
本発明では、芳香族炭化水素の含有率が1%以下で、アニリン点が60〜130℃、好ましくは80〜100℃及び沸点が240〜400℃好ましくは280〜310℃である石油系溶剤を0〜30%、好ましくは5〜15%含有するのが望ましい。石油系溶剤のアニリン点が60℃未満の場合には、樹脂を溶解させる能力が高すぎる為、インキのセット性が遅くなり好ましくなく、また113℃を越える場合には樹脂の溶解性が乏しい為、光沢、着肉等が悪くなり好ましくない。
このような非芳香族系石油溶剤としては、新日本石油(株)製 AF5、AF6等がある。
【0039】
また、本発明に用いられる顔料としては、任意の無機及び有機顔料が使用できる。無機
顔料としては、黄鉛、亜鉛黄、紺青、硫酸バリウム、カドミウムレッド、酸化チタン、亜
鉛華、弁柄、アルミナホワイト、炭酸カルシウム、群青、カーボンブラック、グラファイ
ト、アルミニウム粉などがあげられ、有機顔料としては、アゾ系、フタロシアニン系、キ
ナクリドン系、アントラキノン系、ジオキサジン系などオフセットインキに用いられる顔
料が相当する。有機顔料に関しては、例えば、銅フタロシアニン系顔料(C.I.Pig
ment Blue 15、15:1、15:2、15:3、15:4、15:6、C.I
.Pigment Green 7、36)、モノアゾ系顔料(C.I.Pigment
Red 3、4、5、23、48:1、48:2、48:3、48:4、49:1、49
:2、53:1、57:1)、ジスアゾ系顔料(C.I.Pigment Yellow
12、13、14、17、83)、アントラキノン系顔料(C.I.Pigment R
ed 177)、キナクリドン系顔料(C.I.Pigment Red 122、C.I
.PigmentViolet 19)、ジオキサジン系顔料(C.I.Pigment
Violet 23)などがあげられるが、これらに限定されるものではない。
【0040】
さらに、本発明の浸透乾燥型オフセット印刷用インキ組成物には、必要に応じてゲル化剤、顔料分散剤、金属ドライヤー、乾燥抑制剤、酸化防止剤、耐摩擦向上剤、裏移り防止剤、非イオン系海面活性剤、多価アルコール等の添加剤を便宜使用することができる。
【実施例】
【0041】
次に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。尚、本発明において、特に断らない限り、「部」は「重量部」を、「%」は「重量%」を表す。
【0042】
(フェノール樹脂製造例1)
撹拌機、冷却器、温度計をつけた4つ口フラスコにP−オクチルフェノール1000部、35%ホルマリン850部、93%水酸化ナトリウム60部、トルエン1000部を加えて、90℃で6時間反応させたる。その後6N塩酸125部、水道水1000部の塩酸溶液を添加し、撹拌、静置し、上層部を取り出し、不揮発分49%のレゾールタイプフェノール樹脂のトルエン溶液2000部を得て、これをレゾール液Xとした。
【0043】
(ロジン変性フェノール樹脂の製造例1)
撹拌機、水分分離器付き冷却器、温度計をつけた4つ口フラスコに、ガムロジン1000部を仕込み、窒素ガスを吹き込みながら200℃で溶解し、レゾール液X1400部を添加し、トルエンを除去しながら230℃で4時間反応させた後、グリセリン100部を仕込み、250〜260℃で酸化20以下になるまでエステル化して、重量平均分子量30000、トレランス30重量%のロジン変性フェノール樹脂A(以下、樹脂Aと称す)を得た。
【0044】
(ロジン変性フェノール樹脂の製造例2)
撹拌機、水分分離器付き冷却器、温度計をつけた4つ口フラスコに、ガムロジン100
0部を仕込み、窒素ガスを吹き込みながら200℃で溶解し、レゾール液X1600部を
添加し、トルエンを除去しながら230℃で4時間反応させた後、グリセリン120部を
仕込み、250〜260℃で酸化20以下になるまでエステル化して、重量平均分子量1
00000、トレランス24重量%のロジン変性フェノール樹脂B(以下、樹脂Bと称す)を得た。
【0045】
(ロジン変性フェノール樹脂の製造例3)
撹拌機、水分分離器付き冷却器、温度計をつけた4つ口フラスコに、ガムロジン1000部を仕込み、窒素ガスを吹き込みながら200℃で溶解し、レゾール液X1800部を添加し、トルエンを除去しながら230℃で4時間反応させた後、グリセリン110部を仕込み、250〜260℃で酸化20以下になるまでエステル化して、重量平均分子量130000、トレランス17重量%のロジン変性フェノール樹脂C(以下、樹脂Cと称す)を得た。
【0046】
(ロジン変性フェノール樹脂の製造例4)
撹拌機、水分分離器付き冷却器、温度計をつけた4つ口フラスコに、ガムロジン1000部を仕込み、窒素ガスを吹き込みながら200℃で溶解し、レゾール液X2000部を添加し、トルエンを除去しながら230℃で4時間反応させた後、グリセリン140部を仕込み、250〜260℃で酸化20以下になるまでエステル化して、重量平均分子量210000、トレランス26重量%のロジン変性フェノール樹脂D(以下、樹脂Dと称す)を得た。
【0047】
(浸透乾燥型オフセット印刷インキ用ゲルワニスの製造)
撹拌機、リービッヒ冷却管、温度計付4つ口フラスコに樹脂B(重量平均分子量100000)40重量部、植物油E(化合物Zの割合が99重量%、化合物Z中の(R1+R2+R3)の全量に対して二重結合を有しない炭素数16の飽和炭化水素基のモル比率が8%、二重結合を1つ有する炭素数16の不飽和炭化水素基のモル比率が0.1%、二重結合を有しない炭素数18の飽和炭化水素基のモル比率が6%、二重結合を1つ有する炭素数18の不飽和炭化水素基のモル比率が60%であって、かつ二重結合を2つ有する炭素数18の不飽和炭化水素基のモル比率が24%、二重結合を3つ有する炭素数18の不飽和炭化水素基のモル比率が0.2%でヨウ素価が110mg/100mg)33重量部、AFソルベント5号(新日本石油(株)製、アニリン点88℃、沸点範囲279〜307℃)26重量部を仕込み、190℃に昇温、同温で30分間攪拌した後、放冷し、ゲル化剤としてエチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロポキシド1重量部(川研ファインケミカル(株)製ALCH、以下ALCHと称す)を仕込み、190℃で30分間攪拌して浸透乾燥型オフセット印刷インキ用ゲルワニス1(以下ワニス1と称す)を得た。
【0048】
さらに、表1の組成に基づいて、上記と同等のゲルワニス製造方法により、ゲルワニス2〜11(以下ワニス2〜10と称す)を得た。また、表1中のC14〜C20は、化合物Zの含有割合を示す。また、C16:0は、化合物Z中の(R1+R2+R3)の全量に対して二重結合を有しないC16の不飽和炭化水素のモル比率を示ししている。以下同様に、C16:1は二重結合を1個有するC16の不飽和炭化水素のモル比率を示し、C18:0は二重結合を有しないC18の不飽和炭化水素のモル比率を示し、C18:1は二重結合を1個有するC18の不飽和炭化水素のモル比率を示し、C18:2は二重結合を2個有するC18の不飽和炭化水素のモル比率を示し、C18:3は二重結合を3個有するC18の不飽和炭化水素のモル比率を示す。
【0049】
【表1】

【0050】
(浸透乾燥型オフセット印刷用ベースインキ及びインキの製造)
LIONOL BLUE FG7330(東洋インキ製造(株)製)を14重量部、ゲルワニス1を60重量部、AFソルベント5号(新日本石油(株)製)8重量部、植物油E(化合物Zの割合が99重量%、化合物Z中の(R1+R2+R3)の全量に対して二重結合を有しない炭素数16の飽和炭化水素基のモル比率が8%、二重結合を1つ有する炭素数16の不飽和炭化水素基のモル比率が0.1%、二重結合を有しない炭素数18の飽和炭化水素基のモル比率が6%、二重結合を1つ有する炭素数18の不飽和炭化水素基のモル比率が60%であって、かつ二重結合を2つ有する炭素数18の不飽和炭化水素基のモル比率が24%、二重結合を3つ有する炭素数18の不飽和炭化水素基のモル比率が0.2%でヨウ素価が110mg/100mg)10重量部、計92重量部を3本ロール上に仕込み、60℃の3本ロールで2回練肉したところ、顔料粒子は7.5μm以下に分散され、ベースインキ1を得た。このベースインキ1の粘度が5.0±4Pa・sになり、且つ100重量部になる様に植物油EとAFソルベント5号量の調整を行ったところ、ベースインキ1にAFソルベント5号を3重量部、植物油Eを5重量部加えて5.0Pa・sの実施例1のインキを約100重量部得た。
【0051】
上記と同等のベースインキ作製方法にて、表2に示す配合にてベースインキを作製し、同等に植物油とAFソルベント5号量の調整にて5.0±4Pa・sにインキの粘度調整を行ったところ、実施例2、3比較例1〜7のインキを約100重量部得た。
また、表2に、実施例1〜3及び比較例1〜7それぞれのインキに含まれる植物油E、植物油F、植物油G、大豆油、石油系溶剤F、AFソルベント5号、石油系溶剤H、石油系溶剤Iの重量%を示す。
【0052】
【表2】

【0053】
(評価結果)
上記実施例1〜3及び比較例1〜7の浸透乾燥型オフセット印刷用インキにおける、流動性、機上安定性、経時安定性、紙剥け性、印刷適性(ミスチング性、着肉性、パイリング性)について評価を実施し、結果を表3に示した。
【0054】
【表3】

【0055】
<流動性の測定方法>
インキ2.1ccを半球状の容器にセット後、直ちに60°に傾けた傾斜板の上にインキを垂らし、10分間で流れた長さを測定する。値が高いほどインキのしまりが少なく、流動性が良好であることを示す。
(評価基準)
○:100mm以上
△:60mm以上、100mm未満
×:60mm未満
【0056】
<機上安定性の測定方法>
株式会社東洋精機製デジタルインコメーターにインキ1.32ccをセットし、40℃、1200rpmの条件においてタック値が最大値になるまでの時間を測定する。最大値になるまでの時間が長い程、インキのタック値が緩やかに変動するため印刷機上でのインキの粘度上昇や流動性の変化が少ないことを示しているため、機上安定性に優れていることを示す。
(評価基準)
○:20min以上
△:15min以上、20min未満
×:15min未満
【0057】
<経時安定性の測定方法>
ラレー粘度計(L型粘度計(25℃))で粘度を測定したインキを、最大220ccの密閉容器にインキを180cc量り取る。容器内を窒素パージした後蓋を閉め、70℃のオーブンで1週間保管し、促進をかける。1週間後、オーブンから取り出し、再度粘度を測定し、オーブン保管前のインキとの粘度差(ΔPa・s)を求める。粘度変化量が少ない程、経時安定性に優れていることを示す。
(評価基準)
○:1Pa・s未満
△:1Pa・s以上、1.5P・s未満
×:1.5Pa・s以上
【0058】
<紙剥け性の測定方法>
インキ2.5ccをRIテスター(株式会社明製作所製)にて新聞用更紙(20×25cm)に50rpmで展色したときの、インキの着肉及び紙向け状態を目視評価する。着肉性が良く、紙剥けがないものが優れている。
(評価基準)
○:着肉良好、紙向けなし。
△:一部着肉不良があり、紙剥けも僅かに確認される。
×:着肉悪く、紙剥けが目立つ。
【0059】
<印刷適性試験>
下記印刷条件の下、単色ベタと網点(1〜100%の10%きざみ)印刷及び通常の文字印刷を行なった。
【0060】
[印刷条件]
印刷機 :LITHOPIA BT2−800 NEO(三菱重工(株))
用 紙 :新聞用紙更紙:超軽量紙(43g/m)(日本製紙(株))
(測色値:L:83、a:−0.25、b:5.5)
湿し水 :NEWSKING ALKY(東洋インキ製造(株))0.5%水道水溶

印刷速度:10万部/時
版 :CTP版(富士フィルム(株))
印刷部数:5万部
【0061】
[ミスチング性]
印刷機周辺に白紙を印刷前にセッティングし、5万部印刷後のインキミスト度合いを
目視評価する。
(評価基準)
○:着肉良好、紙向けなし。
△:一部着肉不良があり、紙剥けも僅かに確認される。
×:着肉悪く、紙剥けが目立つ。
【0062】
[着肉性]
5万部印刷時の紙面のベタ部、及び網点部の着肉性を目視評価する。
(評価基準)
○:着肉良好、紙向けなし。
△:一部着肉不良があり、紙剥けも僅かに確認される。
×:着肉悪く、紙剥けが目立つ。
【0063】
[パイリング性]
5万部印刷時の紙面のパイリング性を目視評価する。
(評価基準)
○:着肉良好、紙向けなし。
△:一部着肉不良があり、紙剥けも僅かに確認される。
×:着肉悪く、紙剥けが目立つ。
【0064】
表3の結果より、流動性、機上安定性、経時安定性、紙剥け性、印刷適性(ミスチング性、着肉性、パイリング性)について全てのバランス良く、優れているのは実施例であることが分かった。従来使用されていた高リノールヒマワリ油(植物油G)を用いた比較例1は、機上安定性、経時安定性が非常に悪いことが判る。
【0065】
本発明による浸透乾燥型オフセット印刷用インキは、従来よりも印刷機上での安定性、着肉性、経時安定性に優れ、生産効率の良い植物油を原料としており、非常に環境負荷が少なく、大気中のCO削減に貢献でき、新聞、雑誌、チラシ等の印刷分野において有益な活用が図られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料、バインダー樹脂、下記の一般式(1)で表される化合物および溶剤を含有することを特徴とする浸透乾燥型オフセット印刷用インキ組成物であって、
一般式(1)で表される化合物中の(R1+R2+R3)の全量に対して、
二重結合を有しない炭素数16の飽和炭化水素基のモル比率が1〜15%、
二重結合を1つ有する炭素数16の不飽和炭化水素基のモル比率が1.0%、
二重結合を有しない炭素数18の飽和炭化水素基のモル比率が1〜15%、
二重結合を1つ有する炭素数18の不飽和炭化水素基のモル比率が30〜70%、
二重結合を2つ有する炭素数18の不飽和炭化水素基のモル比率が10〜30%、
および
二重結合を3つ有する炭素数18の不飽和炭化水素基のモル比率が1.0%以下
であることを特徴とする浸透乾燥型オフセット印刷用インキ組成物。
一般式(1)
【化1】

【請求項2】
一般式(1)で表される化合物のヨウ素価が80〜130(mg/100mg)であることを特徴とする請求項1または2記載の浸透乾燥型オフセット印刷用インキ組成物。
【請求項3】
バインダー樹脂が、
重量平均分子量10000〜200000
および、
トレランス20〜49重量%
である
ロジン変性フェノール樹脂
であることを特徴とする請求項1または2記載の浸透乾燥型オフセット印刷用インキ組成物。
【請求項4】
溶剤が、
アニリン点60〜130℃
および
沸点240〜400℃
であり、
インキ全量の0.1〜30重量%
含有することを特徴とする請求項1〜3いずれか記載の浸透乾燥型オフセット印刷用インキ組成物。
【請求項5】
請求項1〜4いずれか記載の浸透乾燥型オフセット印刷用インキを紙上に印刷してなる印刷物。

【公開番号】特開2013−53276(P2013−53276A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−194139(P2011−194139)
【出願日】平成23年9月6日(2011.9.6)
【出願人】(000222118)東洋インキSCホールディングス株式会社 (2,229)
【Fターム(参考)】