説明

浸透圧熱エンジン

半透膜を用いて浸透圧を電力に変換する、熱エネルギを機械的な仕事に変換する方法。浸透圧熱エンジン(OHE)として知られている、閉じたサイクルの圧力遅延浸透圧(PRO)プロセスが、高濃度のアンモニア−二酸化炭素透過側溶液を使用して、水圧勾配に抗して半透膜を通過する水流束を生成する高浸透圧を生成する。増加した透過側溶液の体積がタービンにて減圧することにより、電力を生成する。プロセスは、希釈された透過側溶液を、再濃縮された透過側溶液と脱イオン化された作動流体とに分離し、ともに浸透圧熱エンジンにて再利用することによって、安定した状態の動作に維持される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本願は、2006年11月9日に出願された米国仮出願第60/858245号の利益を主張し、この仮出願の主題は、その全体が引用により本明細書に組み込まれる。
【0002】
[発明の分野]
本願は、熱エネルギを機械的な仕事に変換する、浸透圧熱エンジンであって、半透膜を使用して、浸透圧を電力に変換する、浸透圧熱エンジンに関する。
【背景技術】
【0003】
エネルギに対する世界的な需要の高まりは、二酸化炭素排出の規制の広がりとともに、再生可能なエネルギ源および改善された燃料使用効率への関心を高めている。しかしながら、新しい燃料およびエネルギ技術の採用に関する重要な規制は、これらの手段によって生成される電力のコストである。助成金および他の形態の人為的なサポートは、これらの再生可能なエネルギ源の導入を助けるかもしれないが、伝統的な燃料を首尾良く代替することは、総エネルギコストによって、必然的に後押しされなければならない。
【0004】
圧力遅延浸透(または濃度差発電)(Pressure retarded osmosis;PRO)または「塩水電力(salinity power)」としばしば称されるものは、膜をベースとする浸透圧エネルギ変換プロセスである。PROは、半透膜を通過する浸透流を利用して、電気を生成する。PROプロセスは、例えば、Loebの米国特許第3,906,250号明細書、Weingartenらの米国特許第3,587,227号明細書、およびJellinekの米国特許第3,978,344号明細書において検討されており、これらの各明細書の主題は、その全体が引用により本明細書に組み込まれる。
【0005】
第一に、PRO技術を使用するのに適していると考えられる場所は、塩水塊(例えば、海洋、死海またはグレートソルトレーク)での河川デルタ(または三角州)に焦点が当てられていた。これらの場所にて、浸透圧勾配は、河川からの真水が海水と自由に混合するところで存在する。PROプロセスは、この化学的エネルギを利用し、それを電気に変換する。従来のPROプロセスにおいて、塩水は加圧され、半透膜を介して真水と対向するように配置される。海水と真水との間の浸透圧差(これは、海水に誘起される水圧よりも大きい)は、膜を通過する浸透流束を生じさせる。流れが加圧された海水内に生じるにつれ、圧力は、電気を生成する水力タービン(または他の手段)を通じて、膨張により、減少する。
【0006】
河川デルタでのPROプロセスはまた、「開放ループ」PROとして知られ、これは、操作上および設計上の制約をいくつか有している。第一の制約は、脱塩プロセスで必要とされるのと同じように、プロセス膜および構成要素(またはコンポーネント)の汚れを防止するために、供給ストリームおよび透過側(または取水側;draw)ストリームの大規模な前処理を必要とすることである。
【0007】
別の困難性は、多くの天然の供給水の間で見られる、低い差別的な浸透圧から生じる。即ち、利用可能な浸透圧差は、塩水塊が、死海またはグレートソルトレークのような塩過性でない限りは、特別に高くはない。あいにく、これらの水塊への水の体積流量は、いくぶん小さく、したがって、具合良く設計されたPROシステムに対してでさえ、限れた電力をもたらす。海水は、例えば、約2.53MPa(25気圧)の浸透圧を有し、この浸透圧は、効率的な発電に望ましい高い水圧を可能にしない。より高い濃度のストリームが考慮される場合、より高い水圧が使用されるかもしれないが、プロセスの効率は、プロセスのために使用される膜の支持構造体で生じる内部濃度分極(internal concentration polarization;ICP)により著しく悪くなる。特に、この現象は、より濃厚なストリームによって可能となる高い水圧に耐えるのに必要とされる支持体層の厚さが大きくなると、ひどくなる。
【0008】
最終的に考慮すべき事項は、多くの場合において環境的に相当重要なエリア(例えば、河口域、湿地および湾)である、天然のストリーム間のインターフェースに、発電設備を配置する必要があることである。
【0009】
しかしながら、実行可能なPROプロセスに対する主たる障壁は、膜性能が低いことである。PROに対するこれまでの調査により、膜の流れ性能(または膜の流束性能)があまりにも低すぎて、発電を実行可能な選択肢にすることができないことが分かっている。低い流量は、十分な体積流量に達して、電力を生成するのに、より多くの膜面積を要求し、また、低い流量は、濃度分極とよばれる現象に起因している。
【0010】
流束は、希薄な(または低濃度の)「供給」(またはフィード)溶液(真水)から、高濃度の(または濃厚な)「透過側(または取水もしくは牽引;draw)」溶液(海水)に生じる。これが生じるにつれて、溶質が、供給側に沿って膜の表面に堆積する。膜の浸透側にて、溶媒は、膜の表面に沿って、溶解した溶質を希釈する。膜の表面における溶質の濃度は、膜を横切る浸透圧差を支配するので、これらの濃度分極現象は、高い流量を確保するために、最小にしなければならない。濃度分極現象の重篤性は、交差流(またはクロスフロー)によって緩和させることができ、その場合、膜表面付近の乱流が、これらの境界層の厚さを現象させることができる。
【0011】
あいにく、現在使用されている膜は、構造上、非対称である。これらの膜において、薄い分離性の層(塩を阻止する層であり、「活性層」とも呼ばれる)が、膜に機械的強度を与える多孔性の支持層によって支持されている。これらの膜は、圧力駆動膜プロセス、例えば逆浸透(RO)のために設計されてきた。逆浸透において、これらの支持層は、流れを阻害しない。なぜならば、水は、事実上、水圧によって膜を通過させられるからである。他方において、浸透流において、浸透圧駆動力は、薄い活性層でのみ確立される。多孔性支持層は、浸透流束性能において、重要な、かつしばしば阻害する役割を果たす。
【0012】
図1に示されているように、有意な濃度分極層は、供給側の多孔性支持層内に形成され得る。「内部濃度分極」(ICP)と呼ばれる、この層は、膜の外側での濃度分極層(ECP)と比較して、ずっと大きい度合いで、浸透圧に影響を及ぼす。ICPの最小化または除去は、圧力遅延浸透の実行可能な性能に対して重大である。膜は、従前通り、高い度合いで、塩を阻止する(または通さない)ことを要するが、水を高度に通過させなければならない。
【0013】
PROの適用に関して、透過側溶液は、妥当な量の電力を生成するために、高い浸透圧を有しなければならない。しかしながら、河川デルタPROにおいて、浸透圧勾配はむしろ小さい。浸透圧勾配が小さいほど、大きい体積流量を生成するために、より大きい膜の面積が必要とされる。この問題は、ICPおよび汚れ現象と組み合わされて、利用可能な浸透圧をより小さくしさえする。透過側(または透過液側)溶質に関する他の問題には、システムの構成要素および膜との適合性(またはコンパチビリティ)が含まれる。海水は、金属パーツに対して腐食性であり得、また、真水および海水はともに、システムの構成要素(膜を含む)に生物学的な汚れを引き起こす生物学的な成分を含むことがある。
【0014】
河川デルタPROはまた、開放ループ構成で運転される。これは、供給溶液および透過側溶液が、PROプロセスが完了した後で、海に戻されることを意味する。海水および河川水がPROシステムに持ち込まれると、それらは、汚れおよびバイオフィルム(または生物膜)形成をそれぞれ防止するために、濾過し且つ殺菌しなければならない。プロジェクトの全体のコストを追加することに加えて、これらの水に添加される化学物質は、海に洗い流されるか、あるいは物理的または化学的手段によって除去されなければならない。消毒化学物質および消毒副生成物の廃棄は、予期できない環境への影響を有し得る。河川水の分水はまた、繊細な河川デルタの生態に環境影響を有するかもしれない。
【0015】
したがって、実用可能な圧力遅延浸透プロセスを作るために、閉じた系のPROシステムであって、低温熱を使用して、浸透剤を再利用することを意図するPROシステムが提案されてきた。このアプローチは、天然の塩分勾配を利用せず、かわりに、仕事の生成の媒体としての浸透圧の使用を探求し、環境に優しい低温熱源の電力への変換を可能にしている。いくつかのプロセスにおいて、透過側溶液は、例えば、Loebらの米国特許第3,906,250号明細書に記載されているように、イオン性塩(例えば、塩化ナトリウム)の溶液である。OHEに加えられる熱は、水の一部を水蒸気に蒸発させることによって、透過側溶液を再濃縮し、水はさらに濃縮されて、脱イオン化された作動媒体を形成する。他のプロセスは、揮発性有機溶質を除去すること、または溶質を化学的に沈澱させた後、再溶解させることを伴う。
【0016】
これらのOHEが直面する主たる困難性は、水および有機溶質の蒸発のための高い熱投入要求に起因する、熱効率の不十分さである。化学的に沈澱可能な溶質の場合、化学供給原料の消費が、経済的な運転にとって難点となる。さらなる難題は、供給水において濃度分極(CP)の影響を避けるのに完全に十分な溶質分離を得ることが難しいことである。これは、水が蒸発させられて、蒸留した作動流体として再濃縮される場合には問題ではないが、完全に分離することが難しい除去可能な透過側溶質を用いる場合には重要な問題を課す。
【0017】
このことは、浸透圧で駆動される膜プロセスにおいて、繰り返し生じる追加の難題、即ち、高い浸透圧を生成し得るとともに、再利用のために高度に除去可能であり得る、溶質を同定することの困難性を示している。ほぼ完全な除去可能性は、非常に重要である。なぜならば、作動流体(供給溶液)における内部濃度分極の作用は、膜の水流束を著しく減少させ得る。したがって、理想的な浸透圧熱エンジンは、次の特徴を有する透過側溶液を使用する:(1)高度な溶解性;(2)完全に除去可能であること;(3)膜のシステムにおいて、有効な物質移動のために高い拡散率を有する;(4)水または高度に溶解可能な有機溶質の蒸発に必要とされる熱よりも、低い熱を、溶質の除去のために必要とする。
【0018】
本明細書で説明される発明は、浸透圧を用いて、低グレードの熱のソース(または熱源)から電力を生成する、発電の代替手段を提案することによって、従来の技術の顕著な問題のいくつかを克服しようとするものである。浸透現象を利用して電力を生成すること(例えば、天然の塩水と真水のストリームの混合から「塩水電力」を変換させるために用いられるもの)について、従来、幾つかの研究が行われてきたが、浸透現象を利用して、熱の変換により電力を生成することに焦点を当てた研究は比較的少ない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明の目的は、作動媒体としての希薄な(ほとんど脱イオン化された)水、および
内部濃度分極が膜を通過する水の浸透流を阻害しないように形成された膜
を含む、浸透圧熱エンジンを提供することである。
【0020】
本発明の別の目的は、すべてのシステム構成要素と完全に適合可能である、透過側溶質を有する、浸透圧熱エンジンを提供することである。
【0021】
本発明のさらに別の目的は、高度に溶解性を有し、完全に除去可能である、透過側溶質を使用する浸透圧熱エンジンを提供することである。
【0022】
本発明のさらに別の目的は、大きな浸透圧勾配を提供する透過側溶質を有する、浸透圧熱エンジンを提供することである。
【0023】
本発明のさらに別の目的は、PROプロセスの環境的な影響を軽減する、浸透圧熱エンジンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0024】
この目的のために、本発明は、概して、再利用可能な透過側溶質を使用する、閉じたループのPROプロセスに関する。
【0025】
一つの形態において、本発明は、アンモニア−二酸化炭素浸透圧熱エンジンを使用して、電力を生成する方法であって、
a)半透膜の第一サイドにおいて、高濃度の透過側溶液を、その浸透圧よりも低い水圧に加圧する工程;
b)半透膜の他方のサイドに、希薄な(ほとんど脱イオン化された)作動流体を導入する工程;
c)希薄な作動流体の一部を、半透膜を通過させて、加圧された透過側溶液内に流動させて、透過側溶液の体積を膨張させる水流束を生成する工程;
d)膨張した体積の透過側溶液の流れから、タービンにより、電力を生成する工程;および
e)膨張した体積の透過側溶液を、蒸留塔によって適切な温度および圧力にて処理して、透過側溶液から溶質を分離し、それにより、システムで再利用するための新しい透過側溶液ストリームおよび作動流体ストリームを生成する工程
を含む方法に関する。
【0026】
本発明をより完全に理解するために、添付の図面とともに、下記の説明が参照される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】図1は、膜の供給側の内部燃焼分極、および膜の透過側の外部濃度分極の存在下でのPROプロセスを示す。
【図2】図2は、本発明の浸透圧熱エンジンシステムを示す。
【図3】図3は、流束のデータを示し、膜について、水の流束と透過側溶液の濃度との間の関係を示す。
【図4】図4は、本発明の浸透圧熱エンジンにおける、水圧および浸透圧に対する、膜の出力密度を示す。
【図5】図5は、透過側溶液の水圧と浸透圧との差に対する、浸透圧熱エンジン効率を、カルノーエンジン効率のパーセンテージとして示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
[好ましい実施形態の詳細な説明]
本発明は、アンモニア−二酸化炭素浸透圧熱エンジンを使用して、電力を生成する方法であって、
a)半透膜の第一サイドにおいて、アンモニアおよび二酸化炭素を含む高濃度の(または濃縮した)透過側溶液を、その浸透圧よりも低い水圧に加圧する工程;
b)半透膜の他方のサイドに、ほぼ脱イオン化された水を含む希薄な作動流体を導入する工程;
c)希薄な作動流体の一部を、半透膜を通過させて、加圧された透過側溶液内に流動させて、透過側溶液の体積を膨張させる水流束を生成する工程;
d)膨張した体積の透過側溶液の流れから、タービンにより、電力を生成する工程;および
e)膨張した体積の透過側溶液を、蒸留塔によって適切な温度および圧力にて処理して、透過側溶液から溶質を分離し、それにより、システムへ再入させる新しい透過側溶液ストリームおよび作動流体ストリームを生成する工程
を含む方法に概して関する。
【0029】
本明細書で説明される浸透圧熱エンジンは、ガスタービン(Brayton Cycle)、スチームタービン(Rankine Cycle)、内部燃焼エンジン(ガソリン、ディーゼル)、および外部燃焼エンジン(Stirling engine)を含む、他のタイプの熱エンジンに匹敵するように設計されている。
【0030】
本発明は、閉じたサイクルの浸透圧熱エンジンに関する。システムは、アンモニア−二酸化炭素透過側溶液、および脱イオン化された水作動媒体を使用する。脱イオン化された水の作動媒体は、実質的に(またはほぼ)脱イオン化されている水を含む。「ほぼ脱イオン化された」が意味するところは、脱イオン化された水作動媒体が、1ppm未満のアンモニアおよび二酸化炭素を含み、他の溶質を含まないということである。透過側溶液は高度に溶解性であり、浸透圧的に有効であり、除去可能でかつ再利用可能な溶質をもっぱら含む。脱イオン化された水を作動媒体として使用することは、内部濃度分極効果を除去することによって、膜の物質移動を最大にする。
【0031】
透過側溶液は、アンモニアおよび二酸化炭素の水への導入により形成される、アンモニウム塩を含み、また、本発明のOHEで使用されて、電力を生成する。透過側溶液は、重炭酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、およびカルバミン酸アンモニウムを含むアンモニウム塩の複合溶液を形成するために、水酸化アンモニウムを重炭酸アンモニウムと混合することによって、調製される。添加される水酸化アンモニウムの量は、透過側溶液中のイオン化されていないアンモニアの濃度を最小にするために、最小にされる。高濃度の透過側溶液は、二酸化炭素に対するアンモニアの比が約1:1〜2.5:1である。加えて、透過側溶液は、0.1〜12モルの濃度を有し、好ましくは約3〜約6モルの濃度を有する。
【0032】
透過側溶液は、幾つかの望ましい特性を有し、その特性には、(1)アンモニウム塩の高い溶解性;(2)化学種の比較的低い分子量および高い拡散率、ひいては高い浸透圧および適度な外部濃度分極効果;(3)適切な温度および圧力(例えば60℃、101.3kPa(1気圧))にて、透過側溶液とともに加熱すると、アンモニウム塩がアンモニアと二酸化炭素ガス(これらは、1ppmよりも低いレベルにまで容易に除去され得る)に分解するという点で、殆ど完全に除去可能な溶質;(4)一定量の水からのこれらの溶質の除去および再利用に必要とされる熱エネルギが、水それ自身を蒸発させるのに必要とされる熱エネルギよりも有意に小さい。
【0033】
本発明のアンモニア−二酸化炭素の浸透圧熱エンジンにおいて、濃厚な透過側溶液は、その浸透圧よりも低い水圧に加圧され、希薄な(または希釈された)作動媒体(1ppmよりも少ないアンモニアおよび二酸化炭素を含む、脱イオン化された水)が、半透膜を経由して、加圧された溶液内に流れ込み、また、この水流束(または流れ)が透過側溶液の体積を膨張せしめ、フローからタービンによって電力を生成させる。熱が、浸透圧熱エンジンに導入されて、透過側溶液からの溶質の分離を促進し、再生された透過側溶液ストリームおよび作動媒体ストリームをもたらす。逆浸透(RO)脱塩で用いられる圧力交換器に類似する圧力交換器が用いられて、安定した(または一定の)状態の操作で、膜の透過側溶液側の圧力を維持する。
【0034】
本発明は、再利用可能な透過側溶液を、PROで使用し、熱は、透過側溶質を再生する作用をするシステムに投入され、過剰の熱は、ある意味では環境に拒絶される。システムは、「浸透圧熱エンジン」として知られている。なぜならば、熱は吸収されて、阻止されて、且つ仕事が生成されるからである。このタイプのシステムの種々の概念がこれまでに構成されてきたが、選択した透過側溶液剤の不適切な性能および苛酷な内部濃度分極効果に部分的に起因する、膜性能の低さ及び/又は効率的でない熱の利用が、さらなる発展を制限していた。
【0035】
従来技術の不足を克服するために、本発明は、アンモニア−二酸化炭素(NH−CO)浸透圧熱エンジンの利用を提案する。この熱エンジンは、図2に示されており、アンモニアと二酸化炭素ガスの混合物を溶液において使用する。これらのガスは、高度に溶解可能なアンモニウム塩を溶液において形成し、それは250気圧を超える浸透圧(これは、海水の10倍を超える)を生成し得る。透過側溶液は、高度に溶解性であり、浸透圧的に有効であり、高度に除去可能で再利用可能な溶質を含む。脱イオン化された水を作動流体として使用することは、内部濃度分極効果を除去することによって、膜の物質移動を最大にする。本明細書において与えられる結果は、低温熱源の電力への実際的な転換のための浸透圧熱エンジンの実行可能性を示している。
【0036】
本発明の浸透圧熱エンジンは、脱イオン化された水(即ち、溶解した溶質を僅かに含む、または含まない)作動流体の使用に頼っている。この流体を膜への供給液として使用することは、有利である。なぜならば、ICPが生じないからである。透過側溶液から膜を通じて塩が漏れることは、ICPを生じさせることがあるが、膜は、塩を高度に阻止するように選択されて、そのことがこの傾向を妨げるように作用する。膜は、透過側溶液の方に向けられた活性層および供給溶液の方に向けられた裏打ち層を有する、半浸透膜である。透過側溶液の体積を膨張させる(または増やす)水流束は、典型的には、少なくとも約25m/m−s(m/(m・s))である。
【0037】
本発明の有効な浸透圧熱エンジンプロセスに対するキーの一つは、純水を希薄な透過側溶液から分離するのに必要とされる熱である。ここで、アンモニアおよび二酸化炭素透過側溶液の利点が明らかになる。なぜならば、これらのガスは、低温水蒸気を用いて、水から首尾良く除去され得るからである。Aspen HYSYS(登録商標)(マサチューセッツ州、バーリントン、Aspen Technologyから入手可能)を用いるガス除去のモデリングは、40℃程度の低い温度を有する水蒸気が、真空ガスストリッピングプロセス下で用いられ得ることを示していた。このことは、一般的にはほとんど実用性を有しておらず、非常に低いコストがかかるか、あるいはコストがかからない、種々の熱源の利用を可能にする。
【0038】
NH−CO浸透圧熱エンジンが低グレードの熱を利用することは、発電代替手段としての、発展可能なその実施にとって、重要な意味をもつ。低グレードの熱源は、金属製造(製鋼所)、ガラス製造、石油精製、および熱電気的発電(これらは例示であり、これらに限定されない)を含む種々の産業から、生じる。これらの産業のすべては、それらの廃熱を再生する手の込んだ方法を利用しているが、低グレードの熱は、常に、水冷または煙道ガスを経由して、環境に奪われる。
【0039】
再生可能な熱源もまた使用され得る。地熱源は豊富であるが、電気を直接生成するのに十分な高い質を有していることはまれである。一般には、これらの熱源は、ホーム(または家屋)を温め、および冷やすのに用いられ得るが、これらの熱源はまた、二元サイクル構成で使用され得る。ここで、二元サイクル構成は、二次的な液体(例えば、アンモニア)を蒸発させるために、また、タービンを介してその蒸気を膨張させるために、熱を利用する。蒸気は、それから、空気または表面水への熱を阻止することによって、凝縮され得る。海洋中の温水を用いる同様の概念は、海水熱エネルギ変換(ocean thermal energy conversion;OTEC)(または海洋温度差発電)である。このシステムは、温かい表面海洋水を熱源として使用し、冷たい深層海洋水をヒートシンクとして使用するエンジンを含む。地熱二元サイクルと同様に、OTECは、液体(例えばアンモニア)を蒸発させるために温かい水を利用し、液体はそれからタービンを介して膨張する。ガスはそれから、冷たい深層海洋水で凝縮され、再利用される。これらの両方のプロセスに関して、ガスが作動流体として使用されており、したがって、大きなタービンを使用しなければならない(即ち、スチームタービンOTCについては、少なくとも約10メートルの直径)。これは、設計制約であり、この制約は、一般に用いられているアンモニア蒸気システムを、本発明の浸透圧熱エンジンで置き換えることによって緩和することができる。NH−CO透過側溶液を除去する(またはストリップ)ために温かい水を利用し、これらのガスを凝縮させるために冷たい水を利用することによって、電力を生成するタービンを通過するように向けられた作動流体は、代わりに液体となる。これは有意な利点である。なぜならば、水力タービンは、より低い密度のガスを使用するように設計されたタービンよりも、ずっと小さくなり、また、仕事の電気への変換の点で非常に効率的となるからである。
【0040】
本発明の浸透圧熱エンジンの利点は、低グレードの熱源を電気エネルギに首尾良く変換し得ることである。本発明の熱エンジンの構成配置は、その閉じたループ構成および再利用可能な透過側溶液に起因して、河口PROのこれまでの経済的および環境に関する問題の多くを解決する。低グレードの熱源を利用することはまた、実質的にコストのかからないエネルギ源をもたらす。なぜならば、エネルギのコストは、設備の寿命の間に償却される設備の投資コストおよびメンテナンスにのみ関連するからである。透過側溶質を溶液から分離するために必要とされる熱は、一般的には、約35〜250℃の温度にて導入される。さらにまた、透過側溶質を溶液から分離するのに必要とされる温度は、圧力に比例し、圧力は一般的には、約0.05〜10気圧にて導入される。
【実施例】
【0041】
流束の実験を実験室で行い、本発明の浸透圧熱エンジンプロセスの有効性を決定した。水流束は、発電を効率的とすべきならば、高くしなければならない。逆浸透膜を利用した流束に関する先の試験は、流束が最小値(1日つき膜面積1平方フィートあたり2〜3ガロン(gfd)以下であり、しばしば1gfdよりもずっと低い)を越えることはほとんどなかったことを示していた。
【0042】
本発明者らは、浸透プロセスのために作製された市販されている膜を調査して、流量がずっと良くなることを見出した。データは、膜の活性層側にNH−CO透過側溶液を用いて、取った。脱イオン化された水供給液を用いて、浸透圧熱エンジン条件をシミュレートした。2つの温度を評価した:20℃および40℃。また、供給溶液および透過側溶液は、両方のシリーズの試験について、同一の温度に維持した。結果を図3に示す。
【0043】
2つの温度を、浸透圧の範囲にわたって試験した。50gfdを越える流束が、いくつかの試験で得られ、使用したこの特定の膜が先に試験された膜よりも50倍良いことを示しており、所定の量の電気を生成するのに必要とされる膜の量に、有意な影響を有している。より高い流束は、膜の面積についてより小さい要求をもたらす。浸透するストリームは、これらの試験において加圧されていなかった(また、先の試験においても加圧されていなかった)ことに留意されたい。
【0044】
このデータから、発電データは、Aspen HYSYS(登録商標)(マサチューセッツ州、バーリントン、Aspen Technologyから入手可能)におけるプロセスをモデリングすることによって、予測することができる。種々の透過側溶液の濃度を、一定範囲の浸透圧にわたって用いて、エネルギ生成の量は、下記の式を用いることにより、算出することができる。
仕事=(タービン効率)×(水圧)×(体積流束)(1)
【0045】
タービン効率は、しばしば90%を越え、全体の駆動力は、膜を通過する流束を生じさせる。透過ストリームにおける水圧が上昇するにつれて、流束は減少するが、最大発電ポイントが確立される。図4は、一定範囲の透過側溶液の濃度に関する、この特徴を示しており、また、一定範囲の透過側の水圧にわたって、本発明の浸透圧熱エンジンにおいて、いかに多様な透過側溶液濃度が機能するかを示している。エネルギ生成は、Aspen HYSYS(登録商標)(マサチューセッツ州、バーリントン、Aspen Technologyから入手可能)でモデル化した。
【0046】
天然の塩分勾配(例えば、河川/海水の界面に存在するような勾配)から期待されるエネルギ生成は、これらのモデル化したエネルギアウトプットよりも、ずっと低いものであることに留意されたい。先に調査した膜を用いる場合、開放された真水/海水PROにおける膜の面積当りの電力アウトプットは、せいぜい1.4W/mであった。このデータは、この特別にあつらえられた浸透膜を用いた、本発明のNH−CO浸透圧熱エンジンが、ある構成のもとでは、そのアウトプットを200倍越え得ることを示している。膜の面積はまた、資本コストについての測定基準としても使用され、また、システムへの熱インプットは、実質的に無料であるから、膜面積値あたりのより高いエネルギ生成は、生成される電気の総コストに対して、直接的な関係を有する。
【0047】
加えて、本発明のアンモニア−二酸化炭素OHEの性能の予測はまた、水流束に関する実験データ、タービンおよび圧力回復システムにおける電力変換効率の計算、OHE透過側溶液の除去および再利用に関するエネルギ要求のモデリングに基づいている。
【0048】
PRO構成に配置した半透膜(裏打ち層が供給液に向いており、活性層が透過側溶液に向いている)を通過する水流束の測定は、エンジン性能の評価のためのデータを与える。膜透過流束データは、交差流膜のセルおよび関連するシステムの構成要素を用いて得た。チャンネルの寸法は、長さ77mm×幅26mm×深さ3mmであった。メッシュスペーサが、両方のチャンネルに挿入されて、膜の支持を向上させるとともに、乱流および物質移動を促進した。複式ポンプヘッドを有する、実行可能な速度蠕動ポンプ(イリノイ州、Vernon HillsのMasterflexから入手可能である)を用いて、供給溶液および透過側溶液の両方を、閉じたループにおいて、ポンピングした。一定温度の水槽(ニューハンプシャー州、NewingtonのNeslabから入手可能)を用いて、供給溶液および透過側溶液温度の両方を維持した。熱伝達は、撹拌された槽の中に沈められた、インラインのステンレス鋼熱交換コイルによって、水槽内で行った。秤(コロラド州、デンバーのDenver Instruments of Denverから入手可能)に載っている透過側溶液および重量変化を、経時的に測定して、透過流束を測定した。膜は、透過側溶液が活性層に接し、供給溶液が支持層と接するように、セル内に配置した。
【0049】
流束のデータを収集するために用いられる膜は、正浸透脱塩のために設計され、Hydration Technologies Inc.(オレゴン州、Albany)から入手した。膜の化学組成は特許であるが、セルロースアセテートポリマーを含んでいると考えられる。構造は、比較的薄い(即ち、約50μm未満)支持構造体によって支持された、分離層を有する、非対称である。さらなる支持は、ポリマー支持層内に設けられるポリエステルメッシュによって与えられる。
【0050】
透過側溶液濃度の一定範囲について、浸透水流束を測定した。透過側溶液は、重炭酸アンモニウム塩(NHHCO)を、水酸化アンモニウムと混合することによって、作製され、重炭酸アンモニウム、炭酸アンモニウムおよびカルバミン酸アンモニウムから成るアンモニウム塩の複合溶液であって、高濃度溶液において後者が最も豊富に存在する複合溶液を形成する。添加されるNHOHの量は、透過側溶液の濃度およびそれが使用されるべき温度に応じて、変化させた。NHOHの量は、透過側溶液中のイオン化されていないアンモニアの濃度を最小にするために、最小にした。OHEのモデリングで使用される透過側溶液の特性(浸透圧、密度、粘度およびpHを含む)は、OLI Systems, Inc.(ニュージャージー州、Morris Plains)の電解質特性パッケージと組み合わせた、Aspen HYSYS(登録商標)(マサチューセッツ州、バーリントン、Aspen Technologyから入手可能)を用いて得た。
【0051】
実験に基づく膜透過流束データは、エンジンの水流束を促進させるために用いられる高濃度の透過側溶液と膜との界面での、外部濃度分極(ECP)の予測のための近似(見かけの)物質移動係数を計算するために用いた。OHE膜システムにおける高濃度の透過側溶液に対するECP効果は、近似物質移動係数を用いて予測され、また、外挿フォームの実験データに基づいて算出された、高度に濃厚なECP効果を用いた膜理論に基づいている。このモデル近似および外挿は、OHEの膜システムについてのECP効果の期待される有意性、および高度に濃厚な非理想溶液フローにおける物質移動現象を説明する伝統的な膜理論の不十分さを考慮すれば、必要であると考えられる。近似効率を用いて予想される膜流束は、実験データの範囲内において、観察される水流束性能と十分に相関することがわかった。
【0052】
加圧された条件での水流束の測定は、本発明の加圧されたOHEシステムにおける流束を予測すると仮定され、異なる浸透圧および水圧条件の下で、PROに関する支配的な式に従う。
【0053】
【数1】

【0054】
ここで、Aは水の透過係数、σは反射係数、Δπは分離界面(即ち、膜活性層表面)での透過側溶液と供給溶液との間の膜を横切る浸透圧の差であり、ΔPは透過側溶液側と作動流体の水圧差である。Δπは、前記で説明したECP効果を明らかにした後、透過側溶液のバルク浸透圧から算出される。
【0055】
使用したFO膜の比較的高い阻止率のために、すべての計算において、σ=1と仮定した。さらに、水の透過係数Aは、加えられる水圧とは独立していると仮定され、無視できる膜の圧密化(compaction)を意味している。膜の選択、操作圧力、システムの温度は、これらの仮定に基づく予測の正確さを含む。
【0056】
OHEにより生成される電力(W)は、単位時間あたりにタービンを通過して移動する水の量(V)、透過側溶液側に適用される水圧と等しい、タービン内の圧力降下(ΔP)、およびタービン効率(E)の関数である。
【0057】
【数2】

【0058】
タービン効率Eは一般には90%よりも大きい。透過側溶液の安定した(または一定の)状態の加圧を維持するために用いられる、圧力交換器の効率は、一般的には95%よりも大きい。これらの2つの構成要素の組み合わされた効率は、本明細書で説明されるモデリングの試みにおいて、発電の予測について、おおよそ90%の全体効率に近く、上記式(2)においてEは0.90の値となる。タービンを通過する単位時間あたりの体積流量(V)は、OHEの膜を通過する水流束(J)と全体の膜表面積の積に等しい。この流束は、上記式(1)により示されるように、システムの水圧および浸透圧の両方の関数である。浸透圧に対して水圧を上昇させることは、タービンを通過する単位体積あたりの出力が増加させるが、膜透過流束を減少させることにより水の全体積を減少させる。水圧を減少させることは、逆の効果を有する。
【0059】
使用される熱の量に対して生成される電力の量を測定することにより、熱効率が算出される(透過側溶液の分離および回収に関して)。エンジンの性能を評価するうえで考慮され得る、2つの効率の評価基準がある:熱効率およびカルノー効率である。熱効率は、単純に、熱のインプットに対するエンジン出力アウトプットの比である。カルノー効率は、カルノーエンジンの効率に対するエンジンの効率の測定であり、カルノーエンジンは、完全に可逆的なプロセスに基づいて、所定の熱のフローから最大の理論的仕事量をもたらす。
【0060】
エンジン効率の「熱量」成分は、希釈された透過側溶液から、アンモニアおよび二酸化炭素を分離するために用いられ、再濃縮された透過側溶液と脱イオン化された作動媒体とを生成する、蒸留塔の熱負荷に基づいて算出され得る。蒸留塔の熱負荷は、OLI Systems, Inc.(ニュージャージー州、Morris Plains)の電解質特性パッケージと組み合わせた、Aspen HYSYS(登録商標)(マサチューセッツ州、バーリントン、Aspen Technologyから入手可能)を用いて、正浸透の脱塩のエネルギ需要評価において用いられる手順にしたがって、モデル化された。
【0061】
カルノーエンジンの効率(η)は下記の式によって与えられる。
【0062】
【数3】

【0063】
ここで、Tは、(例えば燃料燃焼から)エンジンに送られる熱の絶対温度であり、Tは、環境への熱が阻止されるときの絶対温度である。カルノーエンジンの効率に対してOHEの効率を測定することは、OHEが、それが使用する熱の量に対して、いかに効率的であるかを証明する。200℃の熱を使用する地熱発電所であって、例えば、20%の熱効率を得る発電所は、熱効率測定により、非常に効率的なプラントではないようである。しかしながら、そのようなエンジンのカルノー効率は、55%であり、537℃で運転する石炭燃焼発電所のカルノー効率にほぼ等しい。これは、最大の理論熱効率が相当低い、周辺温度よりも20℃高いほどの低温の熱源を考慮すると、熱エンジン技術の間で特に有用な比較方法である。
【0064】
2つの溶液の間の浸透圧の差が大きいほど、当該2つの溶液を分離する半透膜を通過する流束もまた同様に増加する。この関係は、膜の表面における濃度分極効果に起因して、直線的なものではない。脱イオン化された水を供給液とするPROモードにおいて(透過側溶液は膜の活性層側)、膜によって塩が高度に阻止されると仮定すれば、外部濃度分極のみが生じると予測される。図3は、膜に関して、流束と、透過側溶液の濃度との関係を示す。
【0065】
膜の浸透水流束を、加圧されていないNH/CO透過側溶液を、供給ストリームとしての脱イオン化された水とともに用い、供給溶液と透過側溶液を等温にして評価した。駆動力は、透過側溶液のバルク浸透圧に基づいて算出される。破線は、同じ膜を用いた逆浸透膜テストから測定した、純水の透水率を示していた。これらのラインと実験的なデータの相違は、外部濃度分極に起因している。
【0066】
20℃および40℃についてのデータを示す。各事例において、供給溶液および透過側溶液は等温である。流束は、透過側溶液の浸透圧に関して示されている。温度がより高くなると、膜透水性および透過側溶液の分散性に対する温度の影響に起因して、流束がより高くなる。PROモードでFO膜を作動させると、流束は25m/m−s(または1日つき膜1平方フィートあたり50ガロン(GFD))を越えた。非線形の関係は、ECPに起因し、ECPは膜の浸透側での膜表面における透過側溶液の希釈により生じる。これらの実験的な流束データは、下記に説明するようにOHEの出力を算出するために用いられる。
【0067】
OHEを最適化する一つの基準は、膜面積あたり最も高い出力、または最も高い膜「出力密度」を生成する、水圧および浸透圧を選択することである。出力密度は、膜透過流束、透過側溶液の水圧、およびOHE膜システムにおいて予見されるECP効果に基づいて算出される。ECP効果は、1.78×10−5m/sという近似物質移動係数(これは、PROモードにおける実験に基づく流束測定により決定される)を用いて算出される。水力発電タービンおよび圧力回収デバイスの組み合わされた効率は、90%であると仮定した。膜出力密度に対する、OHEにおける浸透圧と水圧との関係を、図4に示す。各々の曲線は、固定されたアンモニア−二酸化炭素透過側溶液濃度に相当する。
【0068】
モデリングは、水圧が浸透圧の約50%であるときに、最大の膜出力密度が達成されることを示していた。水圧10.13MPa(100気圧)を用いたOHEについて、4.6Mの透過側溶液(これは19.16MPa(197気圧)の浸透圧を生成する)を使用することによりもたらされる出力密度は、約170W/mである。これは、河川/海水塩分PRO発電所の期待される出力密度(一般的には4W/mよりも低い範囲にある)と比較して、かなり高い。
【0069】
出力密度は、透過側溶液ストリームの交差流速度を(ECP効果を減少させるために)増加させることによって、またはOHE膜システムの水圧を増加させることによって、さらに増加させ得る。交差流速度を有意に増加させた(高さ0.05cmのフローチャンネルにおいて5m/s)OHEのモデリングは、OHEの出力密度が、本明細書で説明した研究で使用された試験セルの流体動特性(高さ0.3cmのチャンネルにおいて、0.46m/s)を有する膜システムのそれよりも、約61%増加するであろうことを示した。10.13MPa(100気圧)の水圧で作動するOHEについて、最大出力密度は、このシナリオにおいて、約274W/mであろう。
【0070】
動作水圧が20.26MPa(200気圧)のOHEのモデリングは、出力密度が、10.13MPa(100気圧)システムの出力密度よりも更に47%増加するであろうことを示した。しかしながら、交差流速度を増加させると、さらなる出力消費に帰結し、高い水圧は、より費用のかかるプロセス構成要素を必要とするであろう。これらの作動条件は、必然的にプロセス最適化におけるファクターとなり、プロセス流体ポンプの電量消費および設備の投資および設置コストとのバランスがとられる。
【0071】
OHEのカルノー効率は、浸透圧および水圧の一定の範囲にわたってモデリングした。エンジンの熱効率の計算において、透過側溶液の分離および再利用プロセスの熱および電気負荷は、調べる浸透圧および水圧の組み合わせに関して、OHE発電タービンの発電と比較される。透過側溶質分離および再利用に必要とされる電気エネルギは無視できるので、熱効率は、実際には、OHEにより生成される電気エネルギと、透過側溶質の分離に必要とされる熱エネルギとの比である。この効率は、同じ高温および低温熱ストリームを用いて作動するカルノーエンジン理論的な効率と比較されて、OHE性能の「カルノー効率のパーセンテージ」評価基準を与える。
【0072】
透過側溶質の除去および再利用プロセスの熱および電気負荷を測定するために、所望の浸透圧をもたらすのに十分な濃度の透過側溶液が、HYSYS(登録商標)化学シミュレーションモデルにおいて指定される。この溶液ストリームは、除去に適した特性を有する蒸留塔に送られる。そのようなモデルの一例は、規則充填物を含み、高さ2.35m(7.7フィート)(理論段数30)であり、50℃にて熱が供給される一つの蒸留塔を指定し、6M(CO基準)の透過側溶液ストリーム(このストリームは、OHE膜システムにおいて、31.94MPa(315.26気圧)の浸透圧を生成する)からの透過側溶質の分離を実行する。このタイプの塔は、10.62kPa(0.1048気圧)および46.96℃(リボイラの熱交換器において3℃ΔTが与えられる)の塔底圧力および温度、ならびに10.54kPa(0.1040気圧)および35.55℃の塔頂圧力および温度にて、動作する。塔の頂部に供給されるストリームは、3196.8MJ/m(生成される作動流体1mあたり)のエネルギ必要量で、32℃に予熱される。塔の熱負荷は3454.6MJ/mであり、リボイラに供給される。全てのストリームを指定された温度に維持するのに必要とされる追加の加熱は、全熱負荷7037.1MJ/mに対して、385.7MJ/mである。分離プロセスにおける流体ポンピングのための電気負荷は、相対的に無視できる(0.48MJ/m)。シミュレーションで用いられる一般的な濃度での透過側溶質の分離に必要とされる熱および電気負荷のまとめを、表1に示す。この表はまた、OHE性能をモデリングするのに関連する、透過側溶液の特性の幾つかを与える。
【0073】
【表1】

【0074】
OHEの全体のカルノー効率は、上述のモデリングに基づいて、一定範囲の供給熱温度にわたって算出した。さまざまな温度で、効率は、非常に一定であった。図5において、OHE膜システムにおける、ある範囲の浸透圧および水圧にわたって、50℃の熱で作動するOHEのカルノー効率が示されている。圧力の各々の組み合わせについて、高温、または供給されるエネルギの温度50℃および低い温度、または周辺環境の温度25℃について、温度は一定に保たれた。
【0075】
図5は、透過側溶液の水圧と浸透圧との差に対する、カルノーエンジン効率のパーセンテージとしてのOHEエンジン効率を示す。50℃の高温および25℃の低温について、最大理論エンジン効率(カルノー)のパーセンテージは、正味駆動力(Δπ−ΔP)がゼロに近づくにつれて、約16%の最大値に達している。浸透圧Δπは、透過側溶液のバルク浸透圧に基づいている。
【0076】
結果は、浸透圧と水圧との差がゼロに近づくと、最も高いエンジン効率が得られることを示している。ゼロ流束状態において、浸透圧と水圧が平衡状態にて等しいと仮定すると、浸透圧の増加は、膜透過流束を増加させ、それにより、OHEタービンにより生成される電力の量を増加させる。浸透圧の上昇は、透過側溶液の濃度を高くすることにより、達成される。透過側溶液の濃度が高いほど、溶質の除去および再利用に必要とされる供給熱の形態のエネルギをより多く必要とする。したがって、浸透圧が上昇するほど、出力、膜透過流量、および溶質再利用システムにより必要とされる熱負荷はすべて、同時に増加する。
【0077】
しかしながら、溶質の再利用システムに用いる蒸留塔は、希釈された透過側溶液からのNHおよびCOの除去において効率が悪い。いくらかの水蒸気もまた取り除かれ、電力に変換され得ない熱を必要とする。透過側溶液の濃度が上昇するにつれて、蒸留塔で生成される水蒸気が同様に増加し、分離の本来的なこの非能率は、OHEの効率の全体的な減少に帰着する。しかしながら、浸透圧のこの増加は、透過流束の増加をもたらし、そのことは、膜出力密度の上昇を通じて、OHE操作の利益になる。より高い膜出力密度は、所定のエネルギ容量について、より少ない膜面積を要し、したがって、膜のコストをより小さくする。このことは、膜の投資コストとエネルギ効率との間の交換条件を意味し、それは、OHEシステムの設計において最適化されなければならない。
【0078】
上記の検討からわかるように、全体のエンジン効率はかなり低く、最大で16%のカルノー効率に近づくものであり、また、おそらくは5−10%の効率で作動するが、膜面積あたりの出力はかなり高くなり得、膜の面積について250W/mを越える。OHEが40〜100℃の範囲内にある熱エネルギ源を使用する場合、エンジンへのエネルギ入力のコストは無視できるものに近づき得る。重要な考慮事項は、プロセスの投資および労働コスト、ならびに生成される電気のコストに与えるそれらの影響である。
【0079】
本発明のアンモニア−二酸化炭素浸透圧熱エンジンの使用は、多様な熱源、例えば、とりわけ既存の発電所の廃棄ストリームからの熱、他の非生産的な低温地熱源、低濃度(または低集積)の太陽熱エネルギ、バイオマス熱(非燃焼)および海洋熱エネルギ変換のような熱源からの発電を可能にする。これらのすべての場合において、本発明のプロセスは、再利用可能であり炭素を含まない電力を生成する。
【0080】
本発明を、その特定の形態を参照して、上記で説明したが、多くの変更、修正および変形を、ここで開示されている発明概念から逸脱しない範囲でなし得る。したがって、添付の請求の範囲の精神および範囲に含まれる、そのような変更、修正および変形はすべて包含されることを意図している。ここで引用された特許出願、特許および他の刊行物はすべて、引用によりその全体が組み込まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンモニア−二酸化炭素浸透圧熱エンジンを用いて発電する方法であって、
a)半透膜の第一サイドにおいて、アンモニアおよび二酸化炭素を含む高濃度の透過側溶液を、その浸透圧よりも低い水圧に加圧する工程;
b)半透膜の他方のサイドに、ほぼ脱イオン化された水を含む希薄な作動流体を導入する工程;
c)希薄な作動流体の一部を、半透膜を通過させて、加圧された透過側溶液内に流動させて、透過側溶液の体積を膨張させる水流束を生成する工程;
d)膨張した体積の透過側溶液の流れから、タービンにより、電力を生成する工程;および
e)膨張した体積の透過側溶液を、蒸留塔によって適切な温度および圧力にて処理して、透過側溶液から溶質を分離し、それにより、システムで再利用する新しい透過側溶液ストリームおよび作動流体ストリームを生成する工程
を含む方法。
【請求項2】
高濃度の透過側溶液が、約1:1〜2.5:1のアンモニア対二酸化炭素比を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
透過側溶液が、0.1〜12モルの濃度を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
透過側溶液が、約3〜約6モルの濃度を有する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
ほぼ脱イオン化された水が、1ppm未満のアンモニアおよび二酸化炭素を含み、他の溶質を含まない、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
分離プロセスにおいて生成される新しい作動流体ストリームが、1ppm未満のアンモニアおよび二酸化炭素を含み、他の溶質を含まない、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
半透膜が、透過側溶液に向かっている活性層と、供給溶液に向かっている裏打ち層とを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
水流束が少なくとも約25m/m−sである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
透過側溶液が、重炭酸アンモニウムを水酸化アンモニウムと混合することにより作製され、重炭酸アンモニウム、炭酸アンモニウムおよびカルバミン酸アンモニウムを含むアンモニウム塩の複合溶液を形成している、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
添加される水酸化アンモニウムの量が、透過側溶液中のイオン化されていないアンモニアの濃度を最小とするために、最小とされる、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
膜の透過側溶液側の圧力を、圧力交換器を用いて安定した状態に維持し、圧力交換器の効率が少なくとも約95%である、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
熱を約35〜250℃の温度にて導入する、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
熱は、金属製造、ガラス製造、石油精製、および熱電気的発電からの廃熱、地熱源、ならびに海洋熱エネルギ変換から成る群から選択される、低グレードの熱源である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
溶液から透過側溶質を分離するのに必要とされる温度が圧力に比例し、かつ圧力が約0.05気圧〜約10気圧にて導入される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
膜面積あたりの出力が、少なくとも約150W/mである、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
膜面積あたりの出力が、少なくとも約250W/mである、請求項15に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2010−509540(P2010−509540A)
【公表日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−536297(P2009−536297)
【出願日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際出願番号】PCT/US2007/023541
【国際公開番号】WO2008/060435
【国際公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【出願人】(392019352)イェール ユニバーシティー (38)
【氏名又は名称原語表記】YALE UNIVERSITY
【Fターム(参考)】