説明

浸透性の透明塗料の塗布量管理塗料と管理方法

【課題】コンクリートの内部に浸透してしまう浸透性透明塗料の塗布範囲と塗布量とを検知できる塗布量管理塗料、及び管理方法を提供する。
【解決手段】コンクリートの内部へ浸透する浸透性で透明な塗布材に、蛍光染料を添加して構成する浸透性の透明塗料の塗布量管理塗料、及びこの塗布量管理塗料をコンクリート表面に塗布、外光を遮断し、ここに紫外線を照射、この測点の輝度を輝度計で測定し、この輝度計測定値から塗布量を算出する塗布量管理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特にコンクリートの表面に塗布する、浸透性の塗布量管理用透明塗料と管理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コンクリートの表面に透明の塗料を塗布する工法が利用されている。
このような塗料は次のような目的に使用されている。
<1> 打設後のコンクリートの乾燥収縮を低減する目的。この用途として例えばデッキスラブの表面に塗布してスラブ上下の乾燥収縮の差によるひび割れを抑制するために用いている。
<2> コンクリート表面の耐久性を向上させる目的。これはコンクリート表面に付着した水滴の凍結融解の繰り返しによる耐久性の低下を阻止するために用いている。
【0003】
しかしいずれの方法においても、塗布する材料が透明であるところから、まず塗布が実際になされたか否かの判断が困難であること、次に塗布されていたとしても、塗布量によって抑制効果や耐久性の向上効果が大きく異なるにも拘わらず、その塗布量の判断が困難である、という問題があった。
そのような問題を改善するものとして、下記のような技術が知られ、使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平2−24366号公報
【特許文献2】特開2002−200458号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記した従来の透明塗料の塗布量管理塗料と管理方法にあっては、次のような問題点がある。
<1> 上記のような技術は、透明ではあるが、「非浸透性」の透明塗料の塗布状態を対象にしたものであった。非浸透性であるから、対象物の内部に浸透することはなく、その表面に膜を形成するものである。
<2> そのために、膜の厚さを計測することが可能であり、前記の各技術によって相応の効果が期待できると思われる。
<3> しかしコンクリートの表面に塗布する「浸透性塗料」の場合には、一定時間後に浸透してしまうから、膜厚というものが存在しない。そのために、すぐに肉眼ではなにも見えなくなるから、塗布の有無の判断でさえ困難であったが、まして浸透量の判断に至っては従来の計器を使用してもその判断は不可能であった。
<4> そのために浸透性の塗料を塗布するような工事では、使用した塗料の空き袋の枚数を数えて塗布量の推定を行っているのが実態である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記のような課題を解決するために、本発明の透明塗料の塗布量管理塗料は、コンクリートの内部へ浸透する浸透性で透明な塗布材に、蛍光染料を添加して構成したものである。
また本発明の塗布量管理方法は、前記の塗布量管理塗料を使用し、塗布量管理塗料を使用する現場のコンクリート表面で試験塗布を行い、この塗布範囲に設定した測点を外光から遮断し、ここに紫外線を照射し、この測点の輝度を輝度計で測定して輝度計測定値と塗布量との1次関数的な相関関係から管理輝度量を決定し、この管理輝度量と現場での塗布後の輝度計による計測データとを比較して行う、塗布量管理方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の透明塗料の塗布量管理塗料と管理方法は以上説明したようになるから次のような効果のいずれかを得ることができる。
<1> 前記したように、従来は塗布対象物の表面に厚さを備えた膜が形成される塗料についての管理方法は開発されていた。しかし表面に膜を形成しない浸透性の透明塗料に対しては、膜厚を測定することができず、管理が不可能であった。それに対して本願発明では表面に膜を形成しないような浸透性の透明塗料の塗布量を、輝度量から計測して数値として管理することができる。
<2> このように塗布量について数値として管理できるから、従来のような空袋の数を数える、といった間接的な管理と異なり、その塗布効果を明確に把握することができる。
<3> 特に浸透性塗料をコンクリート表面に塗布すると、浸透してしまってその痕跡がほとんど肉眼では確認できず、塗り忘れが生じる可能性もある。しかし本願発明の塗料を使用すれば、浸透性透明塗料を塗布したコンクリート表面の塗布範囲を外光から遮断して、ここに紫外線を照射するだけで肉眼でも塗布範囲を確実に把握できるので無塗布の範囲が発生することがない。
<4> 発注者の立ち合いのもとで紫外線照射によるチェックを行えば、膜がないにも拘わらず塗布量の確認までできるので、信頼性の高い構造物を引き渡すことができる。
<5> 構造物の引き渡し時に施工者は発注者に対して履行責任を明確にできる。したがって顧客からの信用を高めるだけでなく、将来の無用の争いの発生も避けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】塗布量と輝度との関係を示す図(蛍光染料濃度0.1wt)
【図2】塗布量と輝度との関係を示す図(蛍光染料濃度0.05wt)
【図3】塗布材の濃度と輝度を関係を示す図
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下図面を参照にしながら本発明の好適な実施の形態を詳細に説明する。
【実施例】
【0010】
<1>基本的構成
本発明の透明塗料の塗布量管理塗料は、コンクリートの内部へ浸透する浸透性で透明な塗布材に、蛍光塗料を添加して構成したものである。
【0011】
<2>浸透性塗布材
本発明の塗布量管理塗料を構成する浸透性塗布材は、塗布型収縮低減材として、例えばクラックセイバー (太平洋マテリアル株式会社製)(国土交通省 新技術評価技術 NETIS登録番号 SK−080001−V)のような材料を採用することができる。
これらの塗布材は、コンクリートのモルタル中の自由水の表面張力を低減し、毛細管張力を減少させる結果、乾燥収縮を抑制し、ひび割れを低減する材料である。
この塗布材は塗布した直後には躯体表面が濡れた外観を呈するが、浸透した後には塗布前の外観に戻り、コンクリートの無垢の美観を損なわない、という点も製品のセールスポイントの一つとなっている。
この特徴を備えているが故に、前記したように、塗布範囲が不明確になりやすいという問題も備えているのである。
【0012】
<3>蛍光染料
本願発明の浸透性塗布材に添加する蛍光染料は、有機系蛍光染料として次のような材料を採用することができる。
1)Kayaphorシリーズ 日本化薬株式会社製(KayaphorHBC,KayaphorSTC等)。
2)Kayalightシリーズ 日本化薬株式会社製(Kayalight K 等)。
その他、蛍光塗料としては多数のものが市販されているが、硫化亜鉛や硫化カルシウムの無機材を主成分としたものは、昼光や蛍光灯、白熱灯などの光を当てると残光があるので暗所で短時間光る、という性質を備えている。
また上記の蛍光体表面にラジオアイソトープを固着したものは、残光がなくなった後も放射線によって蛍光を発光し続ける、という性質を備えている。
例えば、水性蛍光塗料として、シンロイヒ株式会社製のルミノエコカラースーパーなどが市販されている。
【0013】
<4>配合の割合
本発明の浸透性透明塗布材に添加する蛍光染料の割合については次の通りである。
まず、蛍光染料濃度1.00vol%、0.10vol%、0.01vol%について塗布・輝度計測の実験を行った。
その結果、蛍光染料濃度0.10vol%で塗布量と輝度計測値とで比較的良好な一次関数的な相関が認められた。
(なおグラフデータは,ファイル:輝度(染料濃度変更).xls。)
さらに蛍光染料の濃度を調節し,蛍光染料濃度0.10vol%、0.05vol%で実験を行ったところ,両濃度とも塗布量と輝度計測値に一次関数的な相関が認められた。
その場合に、全測定データにより得られる一次近似線について、蛍光染料の濃度0.05vol%の方が濃度0.1vol%の方がより相関性が良くなるという結果を得た。
(なおグラフデータは,ファイル:輝度計測値.xls)
以上の結果から塗布型収縮低減材(クラックセイバー)へ有機系蛍光染料(HBC)を0.05〜0.1vol%添加すれば良いことが判明した。
更に望ましくは、蛍光染料濃度0.05 vol%添加すれば良い。
本願発明の塗布量管理塗料は、浸透性透明塗布材と蛍光染料を工場であらかじめ混合しても良いし、現場で使用直前に混合しても良い。
どちらの場合も、使用直前にミキサー等で浸透性透明塗布材と蛍光染料を良く撹拌することが望ましい。
【0014】
<5>使用方法
上記の構成からなる塗布量管理塗料を塗布する方法は特殊なものではなく、公知の方法、例えば刷毛、ローラー、吹き付けなどいかなる方法も採用することができる。
【0015】
<6>塗布量の検査
本発明の対象が、コンクリート表面に膜を形成することがない浸透性の塗料であるから、簡単に塗布量を判定することはできない。
特にコンクリートの含水比、種類、打設条件などによって、後述する輝度の値が大きく変化するので事前に基準値を設定しておくことができない。
そのために以下のような準備工程が必要である。
【0016】
<7>輝度と塗布量の相関
まず発明者の実験から、塗布量管理塗料の輝度と、その塗布量との間に1次関数的な相関関係があることが分かった。
この実験では横400mm、縦100mmのコンクリート版に、本発明の塗布量管理塗料を塗布し、8か所の測点において、3回に分けて塗布した状態の輝度を測定した。測点の選定方法は基本的に任意である。
その結果を図 に示すが、その実験条件においては、8か所の測点において、輝度は図のような数値となり、一次近似式が得られた。
この式がそのまますべての現場に通用するものでないが、少なくとも一定の相関関係があることが分かった。
【0017】
<8>管理輝度の設定
そこで塗布量管理塗料を使用する現場ごとに、まず1〜2m2程度のテスト区域を定める。
その範囲に本発明の塗布量管理塗料を、数回の重ね塗りを行う。
そして塗布範囲で数か所の輝度を測定する。
その輝度を測定して、例えば2回以上塗布した場合の管理輝度を、「1.0カンデラ/m2以上」というように設定しておく。
すなわち、その現場のコンクリートの種類、打設条件下では、輝度が「1.0カンデラ/m2以上」であれば、2回以上の重ね塗りを行った、ということになる。
【0018】
<9>塗布範囲の確認
本発明の塗布量管理塗料をブラシ塗り、吹き付け、噴霧など従来の方法でコンクリート表面に塗布する。
前記したように本発明の塗料は浸透性であるから、数時間を経過するとほとんどがコンクリート内に浸透してしまい、肉眼で塗布した場所を認識することはできないし、まして塗布した回数を知ることはできない。
そこで塗布をしたと想定できる範囲に、夜間に紫外線を照射する。
すると塗布量管理塗料に含まれた蛍光染料が発する蛍光の発光によって塗布の有無は肉眼で容易に確認することができる。
夜間でない場合に外部の光を遮断して測定箇所の照度を例えば1ルックス以下に抑える。
そこへ紫外線を照射すると、すくなくとも塗布した範囲は発光するから肉眼で認識することができる。
肉眼でとらえて発光していない場所は塗り忘れであるから塗布を行う。
このように塗布範囲の確認だけであれば、夜間に紫外線を照射するだけで検査を行うことができる。
対象がトンネルや構造物の内壁のような暗いところであれば、作業用の照明を絞るだけで、紫外線を照射して肉眼での確認が可能である。
このように、紫外線ランプさえあれば、塗布した範囲、塗布の有無、塗り忘れの範囲は簡単に検査することができる。
【0019】
<10>塗布回数の確認
ただし肉眼では塗布した回数までは把握できない。
そのために市販の輝度計(例えば,コニカミノルタ製LS-100)を使用して輝度を測定する。
そしてその場所の一定範囲の数点での輝度が、すべて前記の管理値である「1.0カンデラ/m2以上」であれば、そこではすでに2回以上の重ね塗りを行った、ということが分かる。
輝度が不足していれば再度の塗布を行う。
なお輝度計での測定に際しては、1面開放の矩形の暗箱を作成し、その開放面をコンクリート表面に押し当てて周囲の光線を遮断し、暗箱の内部に設置した紫外線ランプの光線をコンクリート表面に照射して、開放面と対称位置に取り付けた輝度計で輝度を測定するという方法を採用することもできる。
上記の、輝度計、暗箱紫外線ランプで構成する輝度の測定装置は明るい場所で塗布の有無を確認する装置としても使用できる。
【0020】
<11>データの管理
輝度計をPC、PDAなどにケーブルで接続してデータを入力し、先行して入力した管理値との比較を行うこともできる。
そうすれば、塗布の回数の適正、不適正を、現場で簡単に判断することができる。
その結果を保存しておけば、コンクリート表面に浸透性の透明塗布料を塗布した実績の資料として残しておくことができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリートの内部へ浸透する浸透性で透明な塗布材に、
蛍光染料を添加して構成した、
浸透性の透明塗料の塗布量管理塗料。
【請求項2】
請求項1記載の塗布量管理塗料を使用し、
塗布量管理塗料を使用する現場のコンクリート表面で試験塗布を行い、
この塗布範囲に設定した測点を外光から遮断し、ここに紫外線を照射し、この測点の輝度を輝度計で測定して輝度計測定値と塗布量との1次関数的な相関関係から管理輝度量を決定し、
この管理輝度量と現場での塗布後の輝度計による計測データとを比較して行う、
浸透性の透明塗料の塗布量管理方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−193266(P2012−193266A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−57775(P2011−57775)
【出願日】平成23年3月16日(2011.3.16)
【出願人】(303056368)東急建設株式会社 (225)
【Fターム(参考)】