説明

浸透性無機質系コンクリート改質材の施工確認用シール及び該シールを用いた浸透性無機質系コンクリート改質材施工確認方法

【課題】適量のコンクリート改質材がコンクリート構造物の表面に施工されたことを目視にて容易、確実且つ客観的に確認することができる新規な手法を提供する。
【解決手段】酸と指示薬を含む反応層2を表面側に有し、裏面側に粘着層3を有し、これらの間に遮断層4を有するコンクリート改質材施工確認用シール1を、コンクリート構造物の表面に点在状態に貼り付けた後に、コンクリート改質材を噴霧すると、反応層に含まれる酸がコンクリート改質材に含まれるアルカリと中和反応し、反応層に含まれる指示薬が呈色反応を示すので、適量のコンクリート改質材が施工されたことを確認することができる。遮断層は、コンクリート構造物6から溶出したアルカリ成分が反応層の裏面側に達して反応層を変色させてしまうことを防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリートの改質技術に関し、より具体的には、コンクリート構造物にコンクリート改質材(コンクリート保護材と呼ばれるものを含む。以下同じ。)が施工されたことを検出・確認するためのシール材及び該シール材を用いてコンクリート改質材の施工を検出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート構造物の表面に塗布または噴霧することによりコンクリート内部に深く浸透し、コンクリート成分である水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸水素カルシウムなどと反応して無機質結晶を形成し、コンクリート内の連続細孔を緻密化させることで酸性雨・塩分・炭酸ガスなどの有害物質の侵入を防ぎ、コンクリートの劣化を抑制しコンクリートの耐久年数を延ばすタイプのコンクリート改質材が近年着目され、需要が拡大している。このようなコンクリート改質材は下記特許文献に開示されている。
【特許文献1】特許第2937309号公報
【特許文献2】特開2004−131316号公報
【特許文献2】特開2004−323333号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが、このようなコンクリート改質材はアルカリシリケートなどを主成分とする無色透明の液体であるため、これが施工されたことを視覚的に確認することが困難である。このため、発注者立会のもとで施工しているのが現状であるが、需要の拡大に伴い、品質証明と現場管理システムの構築が急務となっている。
【0004】
したがって、本発明の課題は、適量のコンクリート改質材がコンクリート構造物の表面に施工されたことを目視にて容易、確実且つ客観的に確認することができる新規な手法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
かかる課題を解決するため、請求項1に係る本発明は、コンクリート改質材がコンクリート構造物の表面に施工されたことを検出するためのシール材であって、コンクリート改質材に含まれるアルカリに定量的に反応して変色する反応層と、粘着層と、粘着層によりコンクリート構造物に貼り付けられたときにコンクリート構造物から溶出したアルカリ成分が反応層の裏面側に達して反応層を変色させてしまうことを防止するために反応層と粘着層の間に設けられる遮断層と、を有してなることを特徴とするコンクリート改質材施工確認用シールである。
【0006】
請求項2に係る本発明は、請求項1記載のコンクリート改質材施工確認用シールにおいて、反応層が、基材に酸と指示薬を含浸後乾燥させることにより形成され、コンクリート構造物に噴霧された改質材に含まれるアルカリが反応層の吸水性基材に浸透して酸と中和反応したときに、指示薬が呈色反応を示すことにより、適量のコンクリート改質材が施工されたことを確認することを特徴とする。
【0007】
請求項3に係る本発明は、請求項2記載のコンクリート改質材施工確認用シールにおいて、反応層に含まれる酸が室温で液体または固体の酸性物質であり、指示薬がpH3〜pH11の間で変色するpH指示薬であることを特徴とする。
【0008】
請求項4に係る本発明は、請求項1ないし3のいずれか記載のコンクリート改質材施工確認用シールを用い、これを裏面の粘着層を介して、コンクリート改質材を施工すべきコンクリート構造物の表面に適当間隔をおいて点在状態に貼り付けた後、コンクリート改質材施工確認用シールが貼り付けられたコンクリート構造物の表面にコンクリート改質材を噴霧し、所定時間経過後に、コンクリート改質材施工確認用シールの反応層の変色状態を目視観察することにより適量のコンクリート改質材が施工されたことを確認することを特徴とする、コンクリート改質材施工確認方法である。
【0009】
請求項5に係る本発明は、請求項4記載のコンクリート改質材施工確認方法において、コンクリート改質材をコンクリート構造物の表面に噴霧した後、コンクリート改質材施工確認用シールの表面にカバーシートを貼着することにより反応層を覆うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明のコンクリート改質材施工確認用シール及びこのシールを用いたコンクリート改質材施工確認方法によれば、コンクリート構造物の表面に適量のコンクリート改質材が噴霧・施工されたことを目視にて容易、確実且つ客観的に確認することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1は、本発明の一実施形態によるコンクリート改質材施工確認用シール1をコンクリート構造物6の表面に貼り付けた状態を示す断面図である。
【0012】
このコンクリート改質材施工確認用シール1は、表面側に反応層2を有し、裏面側に粘着層3を有し、これらの間に遮断層4を有する積層体であり、たとえば2〜3cm程度の直径を有する円形状に形成される。
【0013】
反応層2は、基材に酸と指示薬とを滴下して乾燥させ、これらを基材全体に均一に含浸させることにより形成される。吸水性基材としては、たとえば、ろ紙、織物、ニット、不織布、スポンジを用いることができる。本発明は、中和滴定の原理を応用して、規定量のコンクリート改質材が噴霧されたときにその中に含まれるアルカリ(強アルカリ、シリカなど)と当量の酸を反応層2に含有させておき、これらが中和反応したときのpH値の急激な変化を指示薬の呈色反応で検知するものである。
【0014】
酸には、液体および個体の各種酸性物質(鉱酸、有機酸)を用いることができ、たとえばアスコルビン酸、ギ酸、クエン酸、コハク酸、サリチル酸、プロピオン酸、リンゴ酸、吉草酸、酒石酸、酢酸、乳酸、酪酸などの有機酸、シュウ酸、ピロリン酸、フッ酸、ホウフッ酸、ホウ酸、ポリリン酸、ヨウ素酸、リン酸、亜リン酸、亜硫酸、塩酸、塩素酸、過ヨウ素酸、過臭素酸、臭素酸、硝酸、硫酸などの無機酸、あるいはこれらの任意混合物などを用いることができるが、塩酸は短時間で揮発してしまうので本発明の用途には好ましくなく、また、後述の実験結果から特にリン酸、クエン酸、ホウ酸が好適に用いることができるものと考えられる。
【0015】
指示薬には、p−ニトロフェノール、アリザリンエローR(AZY)、クレゾールレッド、クロロフェノールレッド、コンゴーレッド、チモールフタレイン、チモールブルー、テトラブロモフェノールブルー、トロペオリン000、ニュートラルレッド、フェノールフタレイン、フェノールレッド、ブロムクレゾールグリーン、ブロムクレゾールパープル、ブロムチモールブルー(BTB)、ブロムフェノールブルー、ブロムフェノールレッド、メチルエロー、メチルオレンジ、メチルレッドまたはこれらの混合物などを用いることができるが、後述の実験結果から特にフェノールフタレインが好適であると考えられる。
【0016】
粘着層3は、このコンクリート改質材施工確認用シール1を、コンクリート改質材を施工すべきコンクリート構造物6の表面に貼り付けるためのものであるので、コンクリート構造物6の祖面に対して十分な接着力を発揮することが要求されるほか、その表面側に積層される遮断層4に対しても十分な接着力を発揮すること、コンクリート構造物6の表面温度が夏期には50〜60℃にも達することがあることからこのような温度条件でも接着力を維持できる耐熱性を備えていること、湿潤が繰り返されることに耐えてある程度の湿りがあっても接着性を失わないこと、などが要求される。
【0017】
遮断層4は、反応層2と粘着層3との間に介在して、コンクリート構造物6から溶出したアルカリ成分が反応層2の裏面側に達して反応層2を変色させてしまうことを防止する役割を果たす。遮断層4の材料には、上述のように粘着層3に対して十分に密着できることのほか、反応層2に含まれる酸に侵されない耐久性があること、上述のような温度条件においても変形しにくいこと、などが要求され、これらの観点から、たとえばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンなどのプラスチックが遮断層4の構成材料として好適である。
【0018】
なお、図示しないが、コンクリート改質材の施工には多量の水が使用されるため、この水による影響を排除するために、反応層2の表面側及び/または裏面側に吸水層を設けて本発明のコンクリート改質材施工確認用シール1を構成しても良い。
【0019】
このようにして構成されたコンクリート改質材施工確認用シール1は、コンクリート改質材を施工すべきコンクリート構造物6の表面に、所定間隔をおいて点在状態に貼り付けて用いられる。その後、コンクリートの保護改質(高寿命化ないし高耐久化)のための作業として、コンクリート改質材施工確認用シール1が点在状態に貼り付けられたコンクリート構造物6の表面に、コンクリート改質材をスプレーなどで噴霧する。コンクリート改質材の噴霧は当該コンクリート改質材の製造販売元から提供される施工説明書に沿って行う。規定量噴霧されたコンクリート改質材には所定量のアルカリが含まれているので、コンクリート改質材施工確認用シール1の反応層2に含まれる当量の酸と中和反応し、このときの急激なpH変化により、同じく反応層2に含まれる指示薬が呈色反応を示すので、規定量のコンクリート改質材が施工されたことを目視にて容易、確実且つ客観的に確認することができる。
【0020】
コンクリート改質材施工確認用シール1が点在状態に貼り付けられたコンクリート構造物6の表面にコンクリート改質材を噴霧した後、速やかに、コンクリート改質材施工確認用シール1の表面にカバーシート5を貼着することにより反応層2を覆うことが好ましい。これにより、変色したシールの保存性を向上することができる。また、コンクリート構造物6から溶出したアルカリ成分がコンクリート構造物6の表面を伝って反応層2の表面側に達して反応層2を変色させてしまうことを防止する。カバーシート5は、たとえばステンレス、プラスチックフィルム、厚紙などで形成することができる。
【0021】
<試験例>
前述のように、本発明は、中和滴定の原理を応用して、噴霧された規定量のコンクリート改質材中に含まれるアルカリ(強アルカリ、シリカなど)と当量の酸、及び、これらが中和反応したときに生ずる急激なpH変化により呈色反応を示す指示薬を反応層2に含有させておくものであるから、反応層2に含ませる酸と指示薬として好適なものを確認するための試験を行った。
【0022】
直径110mmの市販の薄手の定量ろ紙(ADVANTEC(登録商標、東洋濾紙)5A)を1/4(約24.2cm)にカットした後、このカットろ紙の全体に指示薬が染み込むように適量を滴下して室内乾燥(約20℃)し、さらにメスピペットで試薬の酸0.6mlを同じくカットろ紙の全体に染み込むように滴下して室内乾燥(約20℃)した。1cm当たりの酸量は約0.012meqとなる。このカットろ紙の端部を2mm程度カットして、2cm×2cmの試験体を作成した。指示薬にはフェノールフタレイン、メチルオレンジ、BTB、アリザリンイエローの4種の溶液を用い、酸には塩酸、硫酸、リン酸、ホウ酸、酢酸、クエン酸の6種を用いて、これらを組み合わせることにより計24種類の試験体を作成した。これらの試験体が、本発明のコンクリート改質材施工確認用シール1における反応層2に対応する。
【0023】
コンクリート改質材としてはケイ酸リチウム系およびケイ酸ナトリウム系の市販品を用い、市販品の原液を3倍、10倍及び100倍の水で希釈した33%希釈液、10%希釈液及び1%希釈液を調製した。これらのpH値を測定したところそれぞれ11.41、11.31及び10.68であった。なお、該市販品の使用説明書によれば33%希釈液として1回当たりの噴霧量0.05L/m(=0.005ml/cm)で噴霧すべきものとされており、噴霧1回当たりのアルカリ量は約0.012meq/cmである。
【0024】
各試験体をペーパータオルに載せ、その上方5cmからコンクリート改質材の各希釈液サンプルを下向きにスプレーで噴霧した。希釈液サンプルの噴霧量は約0.15g≒0.15mlであり、試験体を含む直径4cmの円形領域に噴霧されたことから、1cm当たりの噴霧量は約0.012mlであった。したがって、1回の噴霧により試験体cmに存在するとされる酸の量は0.004meqであるため、濃度33.3%を基準とすると、噴霧回数を3回として実験を行った。
【0025】
また、33%希釈液においては、1回の噴霧によるアルカリの量は、試験体のカットろ紙1cm当たり0.004meqであった。試験体にあらかじめ染み込ませてある酸の量は、試験体1cm当たり約0.012meqであることから、33%希釈液を基準とすると、3回の希釈液の噴霧により試験体の酸が中和されることになる。以上のことから噴霧回数を3回として実験を行った。
【0026】
図2〜図6に示す試験結果に見られるように、33.3%希釈液サンプルを噴霧した場合には明確な呈色反応が確認され、10%希釈液サンプル及び1%希釈液サンプルと比較しても呈色反応に大きな違いがあることが確認された。
【0027】
しかしながら、酸や指示薬によってはろ紙が劣化し崩れやすくなっている試験体や、指示薬が劣化して変色している試験体も見受けられたため、乾燥後の酸の残留状況、ろ紙の劣化状況、酸による指示薬の劣化状況、指示薬の呈色反応の明確さの各項目について、酸及び指示薬ごとに評価した。この結果が図7に示されており、特に好適と考えられる酸はリン酸、クエン酸、塩酸、ホウ酸であるが、塩酸は蒸発しやすい特性を有するため、本発明の用途には不適であると考えられる。また、特に好適であると考えられる指示薬はAZY、フェノールフタレインであるが、メチルオレンジも斑が少なく比較的安定した呈色反応を示したことから、組み合わせる酸の種類によっては好適に使用可能となり得るものと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一実施形態によるコンクリート改質材施工確認用シールをコンクリート構造物の表面に貼り付けた状態を示す断面図である。
【図2】指示薬としてフェノールフタレイン溶液を用いた試験体の呈色反応状況を示す図表である。
【図3】指示薬としてメチルオレンジ溶液を用いた試験体の呈色反応状況を示す図表である。
【図4】指示薬としてBTB溶液を用いた試験体の呈色反応状況を示す図表である。
【図5】指示薬としてAZY溶液を用いた試験体の呈色反応状況を示す図表である。
【図6】反応層に好適に用いられる酸と指示薬を予測するための評価表である。
【符号の説明】
【0029】
1 コンクリート改質材施工確認用シール
2 反応層
3 粘着層
4 遮断層
5 カバーシート
6 コンクリート構造物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート改質材がコンクリート構造物の表面に施工されたことを検出するためのシール材であって、コンクリート改質材に含まれるアルカリに定量的に反応して変色する反応層と、粘着層と、粘着層によりコンクリート構造物に貼り付けられたときにコンクリート構造物から溶出したアルカリ成分が反応層の裏面側に達して反応層を変色させてしまうことを防止するために反応層と粘着層の間に設けられる遮断層と、を有してなることを特徴とするコンクリート改質材施工確認用シール。
【請求項2】
反応層が、基材に酸と指示薬を含浸後乾燥させることにより形成され、コンクリート構造物に噴霧された改質材に含まれるアルカリが反応層の吸水性基材に浸透して酸と中和反応したときに、指示薬が呈色反応を示すことにより、適量のコンクリート改質材が施工されたことを確認することを特徴とする、請求項1記載のコンクリート改質材施工確認用シール。
【請求項3】
反応層に含まれる酸が室温で液体または固体の酸性物質であり、指示薬がpH3〜pH11の間で変色するpH指示薬であることを特徴とする、請求項2記載のコンクリート改質材施工確認用シール。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか記載のコンクリート改質材施工確認用シールを用い、これを裏面の粘着層を介して、コンクリート改質材を施工すべきコンクリート構造物の表面に適当間隔をおいて点在状態に貼り付けた後、コンクリート改質材施工確認用シールが貼り付けられたコンクリート構造物の表面にコンクリート改質材を噴霧し、所定時間経過後に、コンクリート改質材施工確認用シールの反応層の変色状態を目視観察することにより適量のコンクリート改質材が施工されたことを確認することを特徴とする、コンクリート改質材施工確認方法。
【請求項5】
コンクリート改質材をコンクリート構造物の表面に噴霧した後、コンクリート改質材施工確認用シールの表面にカバーシートを貼着することにより反応層を覆うことを特徴とする、請求項4記載のコンクリート改質材施工確認方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−178210(P2007−178210A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−375577(P2005−375577)
【出願日】平成17年12月27日(2005.12.27)
【出願人】(506001206)株式会社ディバイテック (3)
【出願人】(593022021)山形県 (34)
【Fターム(参考)】