説明

浸透性蛍光インキ及びそれを用いて製造した印刷物

【課題】乾燥が早い等の紫外線硬化型インキの利点を有しつつ、不正を防止することができる浸透性蛍光インキ及び印刷物を提供する。
【解決手段】用紙上に形成する改ざん等の不正を防止したい文字、数字情報等を、着色剤及び蛍光染料を、少なくとも紫外線の照射により硬化する樹脂成分とブリード促進液を含有するビヒクルに分散させた浸透性蛍光インキを用いて印刷したので、用紙上の改ざん等の不正を防止したい文字、数字情報等の周囲に蛍光染料がブリードしている。よって、文字、数字情報等の改ざん等の不正を防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、有価証券等の印刷物の製造に用いることにより、印刷された文字、数字情報等の改ざんや印刷物の偽造等の不正を防止することのできる蛍光浸透性インキ及びそれを用いて製造した印刷物に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来より、用紙上に形成する改ざん等の不正を防止したい文字、数字情報等を、着色剤及び蛍光顔料又は染料をビヒクルに分散させた浸透性インキを用い印刷した印刷物がある。
【0003】この印刷物に紫外線照射すると、文字、数字情報等の周囲に文字、数字情報等より一回り大きな発光が生じる。これは、浸透性インキに含まれた蛍光顔料又は染料が文字、数字情報等となる着色剤よりブリード(浸透・滲み出し)を起こし易いためである。尚、このような印刷物に対して文字の改ざん等の不正が行われた場合、その部分の周囲に発光が生じないため、不正を発見することができる。
【0004】ところで、従来の浸透性インキは、乾性油(アマニ油及びその変成油)又はアルキッド系樹脂をビヒクルとして、空気中の酸素により酸化重合をして乾燥(硬化)する酸化重合タイプのインキである。そのためインキの乾燥に時間がかかる。また、インキ中に溶剤を含有する。更には、インキ中の着色剤もブリードし、文字、数字情報等が不鮮明となり易いという欠点もある。
【0005】そこで、本発明者らは、紫外線により反応重合をして硬化する紫外線硬化型のインキに蛍光染料を混入したインキを試作し、評価した。しかし、これを用いた印刷物の文字、数字情報等の周囲に発光は確認できなかった。これは、ビヒクルが乾燥時の紫外線の照射により瞬時に、しかも強固に硬化するため、蛍光染料がほとんどブリードをすることができないためと考えられる。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明はこのような課題に着目してなされたもので、その課題とするところは、乾燥が早い等の紫外線硬化型インキの利点を有しつつ、不正を防止することができる浸透性蛍光インキ及び印刷物を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】請求項1に係る浸透性蛍光インキは、着色剤及び蛍光染料を、少なくとも紫外線の照射により硬化する樹脂成分とブリード促進液を含有するビヒクルに分散させたことを特徴とするものである。
【0008】以下、本発明に係わる浸透性蛍光インキを詳述する。着色剤は、印刷後には、文字、数字情報等を目視可能に表示するために含有させる各種有色の顔料、染料等の色材である。なお、後記の蛍光染料よりブリードが起こりにくい色材である必要がある。
【0009】本発明の着色剤としては、カーボンブラック、チタンホワイト、可溶性アゾ顔料、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料等のアゾ系顔料、フタロシアニンブルー顔料、フタロシアニングリーン顔料等のフタロシアニン系顔料、キナクリドン顔料、イソインドリノン系顔料、ペリレン・ペリノン系顔料、ジオキサジン系顔料、アントラキノン系顔料、アンサンスロン系顔料、インダンスロン系顔料等の無機顔料又は有機顔料がある。
【0010】蛍光染料は、印刷後には、文字、数字情報等の周囲のブリードを起こし、紫外線の照射により、認識されるものである。また、それ自体が目視されないように、無色又は用紙と同様な色であることが好ましい。
【0011】本発明の蛍光染料としては、ジアミノスチルベンスルホン酸、ジスチルベン等のスチルベン系、ベンジジン、ベンジジンスルホン酸、ジアミノフルオレイン等のジアミノジフェニル系、イミダゾロン、トリアゾール等のイミダゾール系、チアゾール系、オキサゾール系、クマリン系、カルボスチリル系、ナフタールイミド系、ピラゾロン系、ジヒドロピリジン系等の蛍光染料がある。
【0012】次に、紫外線の照射により硬化する樹脂成分とは、多価アルコールのアクリル酸エステル、エポキシ・アクリレート、ウレタン・アクリレ−ト、ポリエステル・アクリレート、ポリエーテル・アクリレ−ト、アクリレート・アルキッド、メラミン・アクリレート等の重合反応性樹脂(オリゴマーまたはプレポリマー)、モノアクリレート、ジアクリレート、トリアクリレート等のカットモノマー、ベンゾインエーテル類やベンゾフェノン等の光重合開始剤または増感剤等からなる混合物等が挙げられる。
【0013】ブリード促進液は、紫外線照射によるビヒクルの完全な硬化を阻害し、結果として、蛍光染料のブリードを促進する液体である。更に、着色剤をほとんど溶解することなく、かつ、蛍光染料を溶解するものであればより好ましい。
【0014】そのようなブリード促進液の具体例としては、ポリプロピレングリコール、高級アルコール、エーテルが挙げられる。そのなかでも、特にブリードが起こりやすいポリプロピレングリコールが好ましい。
【0015】すなわち、請求項2に係る浸透性蛍光インキは、請求項1記載の発明を前提とし、ブリード促進液がポリプロピレングリコールであることを特徴とするものである。
【0016】そして、上記紫外線の照射により硬化する樹脂成分及びブリード促進液をビヒクルとし、上記着色剤及び蛍光染料を分散させる。
【0017】このようにして得られた浸透性蛍光インキを各種印刷法を用い、上質紙である用紙1上に文字情報2をオフセット印刷法又は凸版印刷し、印刷物を製造する(図1参照)。
【0018】すなわち、請求項3に係る印刷物は、用紙上に形成する改ざん等の不正を防止したい文字、数字情報等を、着色剤及び蛍光染料を、少なくとも紫外線の照射により硬化する樹脂成分とブリード促進液を含有するビヒクルに分散させた浸透性蛍光インキを用いて、印刷したことを特徴とするものである。
【0019】そして、この印刷物に紫外線照射すると、文字情報2の周囲に蛍光染料がブリード3をしていたため、文字、数字情報等より一回り大きな発光が生じた(図2参照)。
【0020】
【作用】請求項1記載の発明に係る浸透性蛍光インキによれば、ブリード促進液がビヒクルの完全なる硬化を阻害するため、ブリードが発生し易くなる。
【0021】請求項2記載の発明に係る浸透性蛍光インキによれば、ポリプロピレングリコールは、特にブリードが起こり易い。
【0022】請求項3記載の発明に係る印刷物によれば、用紙上の改ざん等の不正を防止したい文字、数字情報等の周囲に蛍光染料がブリードする。
【0023】
【発明の実施の形態】以下、本発明の一実施例について図面を参照して詳細に説明する。
【0024】(実施例)下記、組成材料を三本ロールにて練肉し、浸透性蛍光インキを製造した。
【0025】
(浸透性蛍光インキ組成)
着色剤 カーボンブラック 12部 蛍光染料 KayalightB(日本化薬社製) 0.5部 アクリル系オリゴマー EB−3700(ダイセルUCB社製) 35部 DPHA(日本化薬社製) 15部 OTA−480(ダイセルUCB社製) 20部 光増感剤 ベンゾフェノン 10部 4,4’ビスジエチルアミノベンゾフェノン 3部 ブリード促進液 ポリプロピレングリコール 1部 添加剤 ハイドロキノン 0.5部 ポリエチレンワックス 3部
【0026】次に、上記浸透性蛍光インキを用い、上質紙上にオフセット印刷法にて「T」の文字を印刷後、紫外線を照射することにより浸透性蛍光インキを硬化させ、印刷物を得た。その印刷物に対し紫外線を照射したところ、「T」の文字の周囲に蛍光染料のブリードによる青い蛍光発光が見られた。尚、印刷物に紫外線を照射しない状態では、ブリードの存在を確認できなかった。
【0027】(比較例)上記浸透性蛍光インキ組成のうち、ブリード促進液を含まないインキを作成し、実施例と同様な印刷物を得た。その印刷物に対し紫外線を照射したところ、「T」の文字の周囲に蛍光染料のブリードによる蛍光発光は殆ど見られなかった。
【0028】
【発明の効果】請求項1記載の発明に係る浸透性蛍光インキによれば、着色剤及び蛍光染料を、少なくとも紫外線の照射により硬化する樹脂成分とブリード促進液を含有するビヒクルに分散させたので、ブリード促進液がビヒクルの完全なる硬化を阻害するため、ブリードが発生し易くなる。よって、乾燥が早い等の紫外線硬化型インクの利点を有しつつ、不正を防止することができる。
【0029】請求項2記載の発明に係る浸透性蛍光インキによれば、ブリード促進液がポリプロピレングリコールであるので、ブリードが起こり易い。よって、紫外線下で用紙上のブリードした蛍光染料を認識し易い。
【0030】請求項3記載の発明に係る印刷物によれば、用紙上に形成する改ざん等の不正を防止したい文字、数字情報等を、着色剤及び蛍光染料を、少なくとも紫外線の照射により硬化する樹脂成分とブリード促進液を含有するビヒクルに分散させた浸透性蛍光インキを用いて印刷したので、用紙上の改ざん等の不正を防止したい文字、数字情報等の周囲に蛍光染料がブリードしている。よって、文字、数字情報等の改ざん等の不正を防止することができる。
【0031】
【図面の簡単な説明】
【図1】浸透性蛍光インキを用いて製造した印刷物を示す平面図である。
【図2】浸透性蛍光インキを用いて製造した印刷物のブリードした状態を示す平面図である。
【符号の説明】
1 用紙
2 文字情報
3 ブリード

【特許請求の範囲】
【請求項1】着色剤及び蛍光染料を、少なくとも紫外線の照射により硬化する樹脂成分とブリード促進液を含有するビヒクルに分散させたことを特徴とする浸透性蛍光インキ。
【請求項2】ブリード促進液がポリプロピレングリコールであることを特徴とする請求項1記載の蛍光浸透性インキ。
【請求項3】用紙上に形成する改ざん等の不正を防止したい文字、数字情報等を、着色剤及び蛍光染料を、少なくとも紫外線の照射により硬化する樹脂成分とブリード促進液を含有するビヒクルに分散させた浸透性蛍光インキを用いて印刷したことを特徴とする印刷物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開平10−7956
【公開日】平成10年(1998)1月13日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平8−165416
【出願日】平成8年(1996)6月26日
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【出願人】(000222118)東洋インキ製造株式会社 (2,229)