説明

消しゴム

【課題】ポリ塩化ビニル樹脂製消しゴムのように紙上の筆跡部分の凹みに合わせて変形する、柔らかくて反発弾性のよい消しゴムであって、ポリ塩化ビニル樹脂製消しゴムのように焼却時に有害物質を生成する塩化ビニル樹脂や、内分泌かく乱物質の懸念のある可塑剤を使用しない消しゴムの提供。
【解決手段】塑性変形を防止する分子拘束成分を端部に持ち、弾性を有するゴム成分)が分子拘束成分に挟まれた分子構造を有する3ブロック共重合体または星型ブロック共重合体である、分子拘束成分がポリスチレンブロックのスチレン系熱可塑性エラストマーと分子拘束成分が(メタ)アクリル樹脂ブロックのアクリル系熱可塑性エラストマーと軟化剤から少なくともなる消しゴム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スチレン系熱可塑性エラストマーとアクリル系熱可塑性エラストマーと軟化剤とを少なくとも含有する消しゴムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鉛筆芯やシャープ芯の筆跡を消去する消しゴムとしては、ポリ塩化ビニルを基材として可塑剤と充填剤からなり、これらの混合物のプラスチゾルを温度調整した加熱成形により半ゲル状態にしたプラスチック消しゴムおよび天然ゴムや合成ゴムや熱可塑性エラストマーといったエラストマーを基材として白サブと軟化剤と充填剤とからなり、混練、加熱成形したエラストマー消しゴムがあった。これらの消しゴムの内、消去性の良さ、経時安定性の良さからポリ塩化ビニル製のプラスチック消しゴムが市場の主流を占めていた。
鉛筆やシャープによる筆跡は、鉛筆やシャープの芯を構成するグラファイトが、織重なった紙繊維の峰の部分に付着しており、これを消しカスの表面に付着させ、消しカスが縒り合されることで消しカス中に取り込み、紙面を汚さずに紙面から取り除いて消去が行わる。
この時、筆跡部分の紙面は芯によって押し潰されているため、筆跡部分でない紙面に対して凹んでいる。消しゴムは、この凹んだ紙面の底の部分にまで接して消去を行わなければならず、消去時の押圧により変形した消しゴムが、この筆跡の凹み部に入り込まなければならないが、消しゴムが筆跡の凹み部分に入り込むためには、充分な反発弾性と充分な柔らかさが必要である。消しゴムに充分な反発弾性があると、消去時の押圧でつぶれた変形の反作用で筆跡の凹み部分に消しゴムが凸変形する。消しゴムが充分に柔らかいと、消去時の押圧によりつぶれる変形量が大きく、筆跡の凹み部分での凸変形量も大きくなるため、筆跡の凹みの部分の底に消しゴムが接することができるものである。
この点、ポリ塩化ビニル製消しゴムは、ポリ塩化ビニルに対し多量の可塑剤を添加して柔らかくしてあり、十分な柔らかさと反発弾性を兼ね備えている(JIS S6050(2002)「プラスチック字消し」の6.2硬さの試験方法による硬さでは50以上と規定しているが、市販のポリ塩ビ製消しゴムの硬さは50〜80の範囲)。
しかし、近年ポリ塩化ビニルの焼却処分時に生成するダイオキシンをはじめとする有害物質を回避する目的で、ポリ塩化ビニルを別の樹脂に代替えする提案がなされている。
【0003】
特許第2675192号公報(特許文献1)には、ポリ塩化ビニルの代わりに、ポリアルキルメタアクリレートを使用し、ポリ塩化ビニル製消しゴムにも使用されているフタル酸ジエステル等の可塑剤と炭酸カルシウム等の充填剤を使用した消しゴムが開示されている。
しかし、ポリ塩化ビニルにも使用される可塑剤のフタル酸ジエステルや脂肪族二塩基酸エステル等の内分泌攪乱物質(いわゆる環境ホルモン)の懸念を受け、ポリ塩化ビニル不使用、可塑剤不使用の消しゴムの提案がさらになされている。これら提案の主要なものは、熱可塑性エラストマーを基材とするエラストマー消しゴムの改良に関するものである。
天然ゴムや合成ゴムは加硫工程や架橋工程を経て固化するため、成形後のリサイクルが難しくエネルギー効率が悪いのに対し、熱可塑性エラストマーは加熱成形が繰り返し行えるため製造工程中でのリサイクルが容易であり、エラストマー消しゴムの基材として選ばれている。
また、消しゴムは、擦過で摩耗して消しカスを生成する必要があるため、強度を弱くする必要がある。プラスチック消しゴムにおいては、温度調整することにより紙面上での擦過で消しカスが生成する半ゲル状態を作り出していたが、エラストマー消しゴムにおいては白サブ(サブスチチュートまたはファクチスト呼ばれる植物油の塩化硫黄重合物)を多量に添加することにより紙面上での擦過で消しカスが生成するように強度を調整したものであった。しかし、白サブは温度、紫外線等のエネルギーにより酸化等の劣化が激しく硬化しやすいこと、塩素を含有するため焼却処分時の有害物質生成は塩化ビニル製消しゴムと同じであるため、白サブを使用せずに紙面上での擦過で消しカスが生成するように強度を調整する方法がエラストマー消しゴムの提案の主たるものである。
熱可塑性エラストマーの強度を調整する方法としては、相溶化しない2種以上の熱可塑性エラストマーを組み合わせるか、または熱可塑性エラストマーと相溶化しないゴムを組み合わせることが提案されている。
【0004】
例えば、本出願人は特許第2671319号公報(特許文献2)において、熱可塑性エラストマーとは、(1)常温では加硫ゴムの性質を示すが高温では可塑化されて通常のプラスチック加工機で成型出来る高分子材料であり、分子中に弾性を有するゴム成分(ソフトセグメント)と塑性変形を防止する分子拘束成分(ハードセグメント)の両成分を有すること、(2)熱可塑性エラストマーは大別してスチレン系、オレフィン系、エステル系、ウレタン系、その他に分けられること、(3)これらの内エステル系、ウレタン系は硬過ぎて消しカスがほとんどできず、消しゴムの材料としては不適格であること、を開示している。そして、ゴム成分が部分架橋しているポリオレフィン系熱可塑性エラストマーとポリスチレン系熱可塑性エラストマーと充填剤より少なくともなる消しゴム組成物が、強度があって消去性がよくサブを使用しないために経時安定性がよいことを開示している。
【0005】
また、特公平7−73958号公報(特許文献3)には、エチレン−プロピレン−非共役ジエンからなる完全に架橋したゴム粒子がポリプロピレン中に埋め込まれたオレフィン系熱可塑性エラストマー成分と、充填剤、スチレン系熱可塑性エラストマーを含む別の熱可塑性プラスチック、その他の添加物からなる消しゴムを開示している。
【0006】
特許第3913030号公報(特許文献4)には、スチレン系熱可塑性エラストマーまたはオレフィン系熱可塑性エラストマーと未架橋ブチルゴムを含有する消し屑のまとまりがよい消しゴムを開示している。
【0007】
さらに、特開2005−169381号公報(特許文献5)には、一般的に非ポリ塩化ビニル製消しゴムは、ポリ塩化ビニル製消しゴムに比べ消去性が劣るものであり、これを改善するために、アクリル樹脂と熱可塑性エラストマーを含有する消しゴム、特にコアシェル構造のアクリルゴムとスチレン系熱可塑性エラストマーを含有する消しゴムを開示している。コアシェル構造のアクリルゴムを用いることにより、消しゴムの消去面が平滑で消し感が良好であるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第2675192号公報
【特許文献2】特許第2671319号公報
【特許文献3】特公平7−73958号公報
【特許文献4】特許第3913030号公報
【特許文献5】特開2005−169381号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
エラストマー消しゴムに使用されるスチレン系熱可塑性エラストマーは、軟化剤によって柔らかくなり、且つ反発弾性も低下しない。これは、スチレン系熱可塑性エラストマーは、塑性変形を防止する分子拘束成分であるポリスチレンブロックを端部に持ち、弾性を有するゴム成分がポリスチレンブロックに挟まれた分子構造を有する3ブロック共重合体または星型ブロック共重合体であるため、加熱時に分子拘束成分が溶融して分子がバラバラになるため多量の軟化剤を含有できて充分に柔らかになり、冷却時には分子の端部が再拘束されて充分な反発弾性が得られるためである。しかし、単独では他のエラストマー同様に強度があり、擦過で摩耗せず消しカスが生成できないので、単独では十分な消去性が得られず、相溶しない他のエラストマーや樹脂、ゴムを併用して強度を弱く摩耗させる必要がある。
ポリオレフィン系熱可塑性エラストマーとポリスチレン系熱可塑性エラストマーとを併用したもの(特許文献2)では、軟化剤により反発弾性と柔らかさを付与することができないため反発弾性および柔らかさが不十分で、筆跡の凹みに消しゴムが入り込めず、ポリ塩化ビニル製消しゴムに比べ消去性が劣るもののであった。
また、エチレン−プロピレン−非共役ジエンからなる完全に架橋したゴム粒子がポリプロピレン中に埋め込まれたオレフィン系熱可塑性エラストマー成分と、スチレン系熱可塑性エラストマー成分とを併用したもの(特許文献3)は、オレフィン系熱可塑性エラストマー中のゴム成分がランダムに架橋して網目構造を形成しているため、網目構造の内部空間が限られ、多量の軟化剤を吸蔵できず、十分な柔らかさが得られないものであった。
スチレン系熱可塑性エラストマーまたはオレフィン系熱可塑性エラストマーと未架橋ブチルゴムを併用したもの(特許文献4)は、未架橋ブチルゴム成分が網目構造を形成していないため多量の軟化剤を吸蔵して柔らかくなるが、ゴム成分を拘束する架橋点がないため、外力に対して塑性変形して反発弾性がないものであった。
コアシェル構造のアクリルゴムとスチレン系熱可塑性エラストマーとを併用したもの(特許文献5)は、ゴム成分が架橋ゴムであるため、軟化剤で十分な柔らかさが得られないものであった。
このほか、樹脂を併用した場合は、熱可塑性エラストマーのような反発弾性がないため、軟化剤で柔らかくしても反発弾性はないままである。
【0010】
本発明は、ダイオキシンをはじめとする有害物質を回避すると共に、環境ホルモンの懸念もなく、十分な消去性が得られる熱可塑性エラストマー消しゴムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、少なくともスチレン系熱可塑性エラストマーとアクリル系熱可塑性エラストマーと軟化剤とを含有する消しゴムを要旨とする。
【発明の効果】
【0012】
アクリル系熱可塑性エラストマーは、端部に分子拘束成分を有し、分子拘束成分に挟まれる形でゴム成分を有する分子構造の3ブロック共重合体または星型ブロック共重合体であり、スチレン系熱可塑性エラストマーと同じ分子構造をしている。このため、スチレン系熱可塑性エラストマーと同じく、多量の軟化剤で充分柔らかくなりながら反発弾性を維持できる。さらに、アクリル系熱可塑性エラストマーとスチレン系熱可塑性エラストマーは相溶しない。このため、スチレン系熱可塑性エラストマーとアクリル系熱可塑性エラストマーと軟化剤からなる消しゴムは、擦過での消しカスの生成が良好で、ポリ塩化ビニル製消しゴムのように消しゴム硬度が50〜80と柔らかくて、反発弾性90%以上と充分な反発弾性をもったものである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に用いられるスチレン系熱可塑性エラストマーとは、塑性変形を防止する分子拘束成分(ハードセグメント)であるポリスチレンブロックを端部に持ち、弾性を有するゴム成分(ソフトセグメント)がポリスチレンブロックに挟まれた分子構造を有する3ブロック共重合体または星型ブロック共重合体である。ゴム成分として、ポリブタジエンやポリイソプレンおよびこれらを水素添加によって飽和したものが知られており、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−イソプレンブタジエン−スチレンブロック共重合体、スチレン−ブタジエンブチレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−エチレンブチレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−エチレンプロピレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−エチレンエチレンプロピレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−ビニルポリイソプレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−水添ビニルポリイソプレン−スチレンブロック共重合体等が知られている。
市販されている熱可塑性エラストマーとしては、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体として、タフプレンA、同125、同126S、アサプレンT−411、同T−432、同T−437、同T−438、同T−439(以上、旭化成ケミカルズ(株)製)、Kraton D1101E、同D1155B(以上、クレイトンポリマー社製、USA)等がある。スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体として、Kraton D1114P、同D1160E、同D1164P(以上、クレイトンポリマー社製、USA)等がある。スチレン−ブタジエンブチレン−スチレンブロック共重合体として、タフテックP1500、同P2000(以上、旭化成ケミカルズ(株)製)等がある。スチレン−エチレンブチレン−スチレン共重合体として、タフテックH1221、同H1052、同H1062、同H1053、同H1041、同H1051、同H1043、同H1272(以上、旭化成ケミカルズ(株)製)、セプトン8076、同8007、同8004、同8104、同8006(以上、(株)クラレ製)、Kraton G1643M、同G1645M、同G1652H、同G1660H(以上、クレイトンポリマー社製、USA)、エスポレックスSB2400、同SB2610、同SB2710(以上、住友化学(株)製)等がある。スチレン−エチレンプロピレン−スチレンブロック共重合体として、セプトン2005、同2063、同2004、同2002、同2007、同2006、同2104(以上、(株)クラレ製)等がある。スチレン−エチレンエチレンプロピレン−スチレンブロック共重合物として、セプトン4033、同4044、同4055、同4077、同4099(以上、(株)クラレ製)等がある。スチレン−ビニルポリイソプレン−スチレンブロック共重合体として、ハイブラー5127、同5125(以上、(株)クラレ製)等がある。スチレン−水添ビニルポリイソプレン−スチレンブロック共重合体として、ハイブラー7125、同7311(以上、(株)クラレ製)等がある。
【0014】
また、これらのスチレン系熱可塑性エラストマーに充填剤との密着性を向上させる機能を付与するものとして、スチレン−エチレンブチレン−スチレン共重合体を酸変性したタフテックM1911、同M1913、同M1943(以上、旭化成ケミカルズ(株)製)、無水マレイン酸をグラフト重合したKraton FG1901G、同FG1924G(以上、クレイトンポリマー社製、USA)や、アミン変性したタフテックMP10(旭化成ケミカルズ(株)製)があり、スチレンブロックが反応架橋型のスチレン−エチレンエチレンプロピレン−スチレンブロック共重合体として、セプトンV9461、同V9475(以上、(株)クラレ製)、スチレンブロックが反応架橋型のスチレン−エチレンブチレン−スチレンブロック共重合体としてセプトンV9827((株)クラレ製)がある。
これら、端部がスチレンブロックで構成されているスチレン系熱可塑性エラストマーと併用する方法で、スチレンブロックが一端にしかない2ブロック共重合体を併用することができる。スチレン−ブタジエン2ブロック共重合体として、アサフレックス805、同810、同825、同815(ワックス入り)、同830、同835(ワックス入り)、同840、同845(ワックス入り)(以上、旭化成ケミカルズ(株)製)等があり、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合物とスチレン−ブタジエン2ブロック共重合体の混合品としては、Kraton D1101A(2ブロック16%含有)、同D1133K(2ブロック34%含有)、同D1118K(2ブロック78%含有)(以上、クレイトンポリマー社製、USA)等がある。スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合物とスチレン−イソプレン2ブロック共重合体の混合品としては、Kraton D111K(2ブロック18%含有)、同D1113P(2ブロック56%含有)、同D1124P(2ブロック29%含有)(以上、クレイトンポリマー社製、USA)等がある。スチレン−イソプレンブタジエン−スチレンブロック共重合体とスチレン−イソプレンブタジエン2ブロック共重合体の混合品としては、Kraton D1170B(2ブロック26%含有)、同D1171P(2ブロック26%含有)(以上、クレイトンポリマー社製、USA)等がある。スチレン−エチレンプロピレン2ブロック共重合体として、セプトン1001、同1020(以上、(株)クラレ製)、Kraton G1701M、同G1702H(以上、クレイトンポリマー社製、USA)等がある。
このほかに、これらスチレン系熱可塑性に油を添加した油展品や、その他の添加剤等を加えたコンパウンドが市販されており、同じように使用できる。
【0015】
本発明に用いられるアクリル系熱可塑性エラストマーとは、塑性変形を防止する分子拘束成分(ハードセグメント)である(メタ)アクリル樹脂ブロックを端部に持ち、弾性を有するゴム成分(ソフトセグメント)が(メタ)アクリル樹脂ブロックに挟まれた分子構造を有する3ブロック共重合体または星型ブロック共重合体である。このようなアクリル系熱可塑性エラストマーとしては、特公平7−25859号公報にその製造方法が開示されており、特許第3828447号公報にはこのアクリル系熱可塑性エラストマーの製造方法およびアクリル樹脂を併用することにより柔軟性と機械強度のバランスが取れることが開示されている。さらに、特開2004−2844号公報には、アクリル系熱可塑性エラストマーとして、メチルメタアクリレート−ブチルアクリレート−メチルメタアクリレート3ブロック共重合体が開示されている。特開平6−287395号公報には、アクリル系熱可塑性エラストマーに不飽和のカルボン酸等を共重合またはグラフト重合する方法が開示されており、このような方法により酸変性されたアクリル系熱可塑性エラストマーは同じく酸変性されたスチレン系熱可塑性エラストマー同様に充填剤との密着性が向上する。市販されているアクリル系熱可塑性エラストマーとしては、メチルメタアクリレート−nブチルアクリレート−メチルメタアクリレート共重合体とメチルメタアクリレート−nブチルアクリレート2ブロック共重合体の混合物として、クラリティLA4285、同LA2250、同LA2140e(以上、(株)クラレ製)がある。
これらスチレン系熱可塑性エラストマーとアクリル系熱可塑性エラストマーの使用量は、重量比において25:75〜75:25の範囲が好ましい。また、スチレン系熱可塑性エラストマーとアクリル系熱可塑性エラストマーの合計量は、消しゴム中のエラストマーおよび樹脂合計量を100%として、90重量%以上が好ましい。
【0016】
本発明に用いられる軟化剤は、スチレン系熱可塑性エラストマーおよびアクリル系熱可塑性エラストマーの硬さを調節することにより消しゴムを変形しやすくするために添加されるもので、油状物としてゴム配合油があり、液状から半固体状の合成高分子物質や合成油としてポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリブテン(ポリイソブチレン)、オレフィンオリゴマー等がある。
ゴム配合油には、鉱物油の軟化剤と植物油の軟化剤がある。鉱物油軟化剤は、石油軟化剤やエクステンダーオイルやプロセスオイルとも呼ばれる。鉱物油軟化剤は、Kurtzの方法によれば、パラフィン鎖炭素数が全炭素数の50%以上を占めるパラフィン油、ナフテン環炭素数が30〜45%のナフテン油及び芳香族環炭素数が35%以上の芳香族油に分類できる。この分類に従えば、流動パラフィンはパラフィン鎖炭素数が100%のパラフィン油と見ることができる。
市販されているパラフィン油軟化剤としては、ダフニーオイルCP12N、同CP15N、同CP32N、同KP8、同KP15、同KP32、同KP68、同KP100(以上、流動パラフィン、芳香族環炭素数0%)、ダイアナプロセスオイルPW32(芳香族環炭素数0%)、同PW90(芳香族環炭素数0%)、同W150(芳香族環炭素数0%)、ダイアナフレシアP32、同P90、同P150、同W8、同K8、同S10(以上、出光興産(株)製)、JOMOプロセスP200、同P300、同P400、同P500(以上、JX日鉱日石エネルギー(株)製)等がある。
市販されているナフテン油軟化剤としては、ダイアナプロセスオイルNP24、同NS90S、同100、NR26、同NR68、NM280、ダイアナフレシアG6、同G9、同F9、同NR9、同N28、同N90、同N150、同U46、同U56、同U68、同U130(以上、出光興産(株)製)、JOMOプロセスR(以上、JX日鉱日石エネルギー(株)製)等がある。
市販されている芳香族油軟化剤としては、ダイアナプロセスオイルAC12、同460、同AH16、24(以上、出光興産(株)製)等がある。
植物油軟化剤としては、ひまし油、綿実油、菜種油、大豆油、パーム油、やし油、落花生油、パインオイル、トール油等がある。
市販されている液状のポリブタジエンとして、Poly bd R−45HT、同R−15HT(以上、出光興産(株)製)等がある。
市販されている液状のポリイソプレンとしては、クラプレンLIR−30、LIR−50(以上、(株)クラレ製)、Poly ip(出光興産(株)製)、水添ポリイソプレンとしては、クラプレンLIR−290、LIR−200、LIR−230(以上、(株)クラレ製)がある。
市販されている液状のポリブテンとして日石ポリブテンLV−7、LV−50、LV−100、HV−35、HV−50(以上、JX日鉱日石エネルギー(株)製)等があり、半固体状のポリブテン(ポリイソブチレン)としてテトラックス3T、同4T、5T、6T、ハイモール4H、5H、6H(以上、JX日鉱日石エネルギー(株)製)等がある。
市販されているオレフィンオリゴマーとして、エチレン・αオレフィンオリゴマーのルーカントHC−40、同HC−100、同HC−600、同HC−2000(以上、三井石油化学(株)製)等がある。
また、潤滑油として市販されている鉱物油も鉱物油軟化剤と成分が同じものは軟化剤として使用可能である。
これら軟化剤は、スチレン系熱可塑性エラストマーおよびアクリル系熱可塑性エラストマーのゴム成分中に相溶してゴム成分の熱ブラウン運動を容易にすることによりスチレン系熱可塑性エラストマーおよびアクリル系熱可塑性エラストマーを柔らかくするものであるが、芳香族環炭素成分が多くなるとスチレン系熱可塑性エラストマーの分子拘束成分のポリスチレンブロックが溶解されゴム弾性がなくなってしまうものである。また、軟化剤の粘度が高いと反発弾性が弱くなる傾向にある。このため、軟化剤全体中に占める芳香族環炭素成分は35%未満が好ましく、人体や環境への安全性や安心感を考えるとパラフィン油軟化剤が好ましい。
さらに、ポリ塩化ビニル樹脂系消しゴムに使用される可塑剤が内分泌攪乱物質の懸念により利用範囲の制限が行われている現状を鑑みれば、硫黄等の含有も極めて少なく安全性の高いパラフィン油軟化剤および流動パラフィンが軟化剤としてより好ましい。
これら軟化剤の添加量は、重量でスチレン系熱可塑性エラストマーおよびアクリル系熱可塑性エラストマーの合計量の0.5〜3倍量が好ましい。3倍超で配合した場合、軟化剤が消しゴム表面に滲みだす所謂ブルームやブリードといった現象が発生し、消しゴム表面がべた付くだけでなく、ゴミが付着したり紙面上で滑って消し屑が出なくなって消去性が著しく低下してしまうものである。また、0.5倍未満では、消しゴムの柔らかさが足りない。
【0017】
この他に、適宜必要に応じて、充填剤、安定剤、着色剤、ゲル化剤等の従来から消しゴムやゴム製品に添加されているものが添加可能である。
本発明に用いられる充填剤は、消し屑を出やすくしたり、紙面との摩擦抵抗を少なくしたりする目的で添加されるものと引き裂き強度や曲げ強度を向上する目的で添加されるものがある。充填剤の多くは、無機粒子であることが多いが、消し屑を出やすくしたり、紙面との摩擦抵抗を少なくしたりする効果は粒子径が2μm以上の粒子の時によく得られ、引き裂き強度や曲げ強度を向上する効果は粒子径が0.1μm以下の粒子の時によく得られる。粒子径が2〜0.1μmの粒子は、両方のバランスをとる効果がある。また、粒子径が8μmを超えると充填剤の跡が紙面につき消去跡が毛羽立って再筆記が汚れやすくなる。このため、主充填剤としては、消し屑が出やすく紙面を傷つけない平均粒径が2μm以上8μm以下の塊状または球状の重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、合成炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、カオリン、クレー、硅砂等が好適に使用される。
また、針状粒子や、板状粒子、球状粒子、多孔質粒子、微細粒子の複合による複雑な形状の粒子のような特異な形状による効果を得るための充填剤も使用できる。
針状粒子としては、マグネシウムオキシサルフェート繊維、針状炭酸カルシウム、石綿代替えの天然鉱物繊維等があり、板状粒子としてはタルク、マイカ、セリサイト等があり、球状粒子としてはシラスバルーン、フライアッシュバルーン、ガラスビーズ、ガラスバブル、酸化チタン等があり、多孔質粒子としては珪藻土、多孔質シリカ、多孔質グラファイトカーボン等がある。
これら充填剤の使用量はスチレン系熱可塑性エラストマーとアクリル系熱可塑性エラストマーの合計量を1として、0.5〜4.0が好ましい。
【0018】
本発明に用いられる安定剤は、熱可塑性エラストマー、プラスチック、ゴム等に使用されるものが使用でき、「高分子添加剤ハンドブック」(編者 春名徹、発行所 株式会社シーエムシー出版、2010年11月7日 第1版発行)に詳しい。市販されている酸化防止剤として、同書の28頁表1「代表的なフェノール系酸化防止剤」にレスヒンダードフェノール系酸化防止剤、セミヒンダードフェノール系酸化防止剤、ヒンダードフェノール系酸化防止剤が例示されており、同書の40頁表1 「リン系酸化防止剤一覧」にリン系酸化防止剤が例示されており、同書の47頁表2「代表的なイオウ系酸化防止剤」にイオウ系酸化防止剤が例示されている。市販されている紫外線吸収剤として、同書の52頁表1「代表的なベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤の構造、分子量、商品名」にベンゾトリアゾール系が開示されており、同書の55頁表2「代表的なトリアジン系紫外線吸収剤の構造、分子量、商品名」にトリアジン系が開示されており、同書の56頁表3「代表的なベンゾフェノン系紫外線吸収剤の構造、分子量、商品名」にベンゾフェノン系が開示されており、同書の58頁表4「その他の紫外線吸収剤の構造、分子量、商品名」にシアノアクリレート系紫外線吸収剤、サリシレート系紫外線吸収剤、オキザニリド系紫外線吸収剤が例示されている。市販されている光安定剤としてはヒンダードアミン系光安定剤(HALS)として、同書の61頁表2「代表的なN−H HALSの構造、分子量、商品名」にN−H骨格のヒンダードアミン系光安定剤が開示されており、同書の63頁表3「代表的なN−Me HALSの構造、分子量、商品名」にN−Me骨格のヒンダードアミン系光安定剤が開示されており、同書の64頁表4「代表的なN−OR HALSの構造、分子量、商品名」にNO−Alkyl(アルコキシアミノ基)HALS骨格のヒンダードアミン系光安定剤が開示されている。市販されている金属不活性化剤としては、同書の68頁表1「代表的な銅害防止剤」にシュウ酸誘導体、サリチル酸誘導体、ヒドラジン誘導体、その他の誘導体が開示されている。
酸化防止剤は、消しゴム材料を加熱混練、加熱成形する際の熱可塑性エラストマーの酸化劣化防止に有効である。紫外線吸収剤と光安定剤は、太陽光中の紫外線による劣化防止に有効であり、特にスチレン系熱可塑性エラストマーのゴム成分(ソフトセグメント)中に二重結合を含む場合、この二重結合が原因で紫外線劣化しやすいため特に有効である。
【0019】
本発明に用いられる着色剤は、熱可塑性エラストマー、ゴム、プラスチック等に従来から用いられている着色剤が使用でき、酸化チタンやカーボンブラック等の無機顔料、アゾ系やフタロシアニン系やスレン系やジオキサジン系やイソインドリン系やレーキ系といった有機顔料、染料等が使用可能である。また、熱可塑性エラストマー、ゴム、プラスチック等に簡単に着色できるように加工した易分散性顔料、カラーチップ等の加工顔料も使用できる。
本発明に使用可能なゲル化剤は、ジベンジリデンソルビトール、トリベンジリデンソルビトール、デキストリン脂肪酸エステル、アシル脂肪酸アミド、ひまし油誘導体等の有機系ゲル化剤や、ベントナイト、ヘクトライト、シリカ等の無機系ゲル化剤が使用できる。
【0020】
上記成分を含有する消しゴムは、加熱混練され、成形されることにより消しゴムとなる。加熱混練は、スチレン系熱可塑性エラストマーとアクリル系熱可塑性エラストマーが加熱により可塑化された状態で機械的に力を加えることにより両材料を混合する工程であり、同時に軟化剤、充填剤、安定剤、着色剤、ゲル化剤等も加えられて混練される。混練機としては、加熱装置の付いたゴム混練用オープンロール、バンバリーミキサー、加圧ニーダー、二軸押出機等が使用できる。成形機としては、従来公知のプラスチック用成形機が使用でき、具体的にはプレス成型機、射出成形機、押出成形機等が使用できる。

【実施例】
【0021】
以下に、実施例および比較例を示すが、本発明を何ら制限するものではない。
【0022】
実施例1
セプトン4055(前述) 14.0重量部
クラリティLA2250(前述) 14.0重量部
ダイアナプロセスオイルPW32 31.0重量部
重質炭酸カルシウム(平均粒径3.6μm) 40.9重量部
Irganox1010(ヒンダードフェノール系酸化防止剤、BASF社製)
0.1重量部
130℃に予熱してある加圧ニーダーに上記成分の内、セプトン4055、クラリティLA2250、重質炭酸カルシウム、Irganox1010の全量とダイアナプロセスオイルPW32の1/3量を投入し、加圧蓋を閉めて加圧しながら混練を20分間行った。セプトン4055及びクラリティLA2250がペレットの状態で残っていないことを確認後、残りのダイアナプロセスオイルPW32を4回に分けて投入し、各回とも各5分間混練した。加圧ニーダーで混練した上記混合物を80℃に予熱したカレンダーロールにて厚さ3mmのシート状に成形し、角ペレタイザーにて約4mm四方の角ペレットに切断成形した。
室温に冷却した上記角ペレットを、圧縮比3、L/D=24のフルフライトタイプのスクリューを装備した単軸押出機にて加熱成形して消しゴムを得た。押出機の成形温度は、フィードゾーン70℃からメタリングゾーン130℃への昇温設定とし、スクリュー温調は50℃とした。成形した消しゴムは水冷後、所定の長さに切断してブロック状の消しゴムを得た。
【0023】
実施例2
セプトン4033(前述) 7.0重量部
クラリティLA2140e(前述) 16.0重量部
ダフニーKP68(前述) 31.4重量部
重質炭酸カルシウム(平均粒径5.0μm) 45.5重量部
Irganox1010(前述) 0.1重量部
実施例1と同様にして消しゴムを得た。
【0024】
実施例3
セプトン2004(前述) 14.0重量部
クラリティLA4285(前述) 6.0重量部
ルーカントHC−40(前述) 40.0重量部
重質炭酸カルシウム(平均粒径1.0μm) 39.9重量部
Irganox1010(前述) 0.1重量部
実施例1と同様にして消しゴムを得た。
【0025】
比較例1
タフテックH1062(前述) 8.0重量部
サーモラン3755N(架橋タイプオレフィン系熱可塑性エラストマー、三菱化学
(株)製) 16.0重量部
Poly bd R−45HT(前述) 13.0重量部
炭酸カルシウム(平均粒径1.0μm) 62.9重量部
Irganox1010(前述) 0.1重量部
実施例1と同様にして消しゴムを得た。
【0026】
比較例2
セプトン2043(前述) 18.0 重量部
パラペットSA−FW001(アクリルゴム含有アクリル樹脂、(株)クラレ製)
18.0重量部
ダイアナプロセスオイルPW32 20.0重量部
炭酸カルシウム(平均粒径1.7μm) 43.9重量部
Irganox1010(前述) 0.1重量部
実施例1と同様にして消しゴムを得た。
【0027】
消字率1
JIS S6050(2002)「プラスチック字消し」の6.4消し能力(消字率)の試験方法に準拠して消字率を測定した。
【0028】
消字率2(強筆記)
JIS S6050(2002)「プラスチック字消し」の6.4消し能力(消字率)の試験方法のb)着色紙の作成
同JISに記載の試験方法中において、
1)使用鉛筆 JIS S6006に規定の鉛筆のHBを0.5mmHBシャープ芯(ハイポリマーAin、ぺんてる(株)製)に変更、
3)おもり 0.3kgを0.5kgに変更、
7)しん先端形状 先端の直径が0.6mmの円すい形を垂直な端面に変更
とした他は、すべて消字率1と同じにして消字率を測定した。
シャープペンシルは鉛筆に比べ筆記で芯の太さが変わらないため、鉛筆より筆記中の単位面積当たりの押圧力が大きく、紙の凹みが大きい。このため、シャープペンシルで強く筆記された場合、柔らかさと反発弾性が不充分な消しゴムでは消去性が特に悪い。この消去性の評価方法である。
【0029】
反発弾性
測定面が平面で、測定面の3本以上の辺に接する円の直径が8mm以上であり、厚さが10mmの消しゴムを試験片とし、測定面の中心に直径3.0mmの円盤を抵抗荷重が500gfになるまで押し込み、500gfになった位置で円盤を停止させ、停止30秒後の抵抗荷重を測定した。停止30秒後の抵抗荷重が500gfの何%に相当するかを反発弾性とした。
【0030】
硬さ
JIS S6050(2002)「プラスチック字消し」の6.2硬さの試験方法に準拠して、消しゴムの硬さを測定した
【0031】
実施例1〜3および比較例1〜2の消字率1、消字率2、反発弾性、硬さを測定した結果を表1に示す。
【0032】
【表1】

【0033】
実施例1、2ともに硬さが充分柔らかく、反発弾性もあって、消字率2(強筆記)でも消去性の良いものであった。実施例3は、実施例1、2にくらべ充填剤の粒径がやや細かく、軟化剤がパラフィン油でないためにやや硬く、反発弾性も少し劣るが消去性の良い消しゴムである。
比較例1は、アクリル系熱可塑性エラストマーの代わりにゴム成分が架橋しているオレフィン系熱可塑性エラストマーを使用したが、やや硬めで反発弾性が劣るため、消去性が劣る。
比較例2は、アクリル系熱可塑性エラストマーの代わりに、アクリルゴムを主成分とするアクリル樹脂を使用したが、硬く、反発弾性が劣るため消去性に劣る。また、ややブリード気味で表面がべた付く。
【0034】
以上詳述の通り、実施例1〜3のスチレン系熱可塑性エラストマーとアクリル系熱可塑性エラストマーと軟化剤を含有する消しゴムは、消しゴム硬度が50〜80、反発弾性90%以上とポリ塩化ビニル製消しゴム並みの柔らかさと反発弾性を有するため、JIS S6050(2002)「プラスチック字消し」における消字率(消字率1)の他に、強い筆跡である消字率2でもポリ塩化ビニル製消しゴム同等の消去性が得られたものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともスチレン系熱可塑性エラストマーとアクリル系熱可塑性エラストマーと軟化剤とを含有する消しゴム。
【請求項2】
前記スチレン系熱可塑性エラストマーとアクリル系熱可塑性エラストマーとの配合比が重量比で25:75〜75:25である請求項1に記載の消しゴム。
【請求項3】
前記軟化剤がパラフィン油軟化剤および/または流動パラフィンである請求項1および2記載の消しゴム。

【公開番号】特開2012−131163(P2012−131163A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−286336(P2010−286336)
【出願日】平成22年12月22日(2010.12.22)
【出願人】(000005511)ぺんてる株式会社 (899)
【Fターム(参考)】