説明

消化器癌の新規治療薬

【課題】消化器癌の新規治療薬および診断薬を提供すること。
【解決手段】Myc-APCおよびFLAG-マウスアキシンでトランスフェクションしたHEK 293細胞からAPC免疫複合体を調製し、EDDがAPCの機能的パートナーである可能性を見出した。免疫沈降および細胞内局在の検討を行い、APC-EDD相互作用の存在を証明した。さらにEDD発現は、APCおよびアキシンの発現量を、用量依存的に増加させ、該用量依存的発現増強が、タンパク質過剰発現による二次的効果でないことを証明した。RT-PCRにより、EDDをノックダウンした細胞でAPC mRNAが下方制御されないことを示し、EDDによるAPC発現増強は、タンパク質レベルの効果であることを証明し、EDDがAPC安定化に関与することを見出した。本結果に基づいた、APC発現促進機能を有するポリペプチドまたは該ポリペプチドのアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドあるいはベクターを有効成分とする消化器癌の治療薬および診断薬。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、EDD遺伝子およびタンパク質の新規用途に関し、具体的には、EDD遺伝子およびタンパク質による消化器癌治療薬に関する。
【背景技術】
【0002】
APC(adenomatous polyposis coli)遺伝子は、多数の結腸直腸ポリープを発症し浸透率の高い遺伝性疾患である、家族性線腫性ポリポーシス(familial adenomatous polyposis, FAP)の原因遺伝子として発見された(非特許文献1)。またAPCタンパク質をコードする遺伝子の不活化は、ほとんどの散発性結腸直腸癌において一般的であり、腫瘍形成における初期事象である(非特許文献2)。APCは、GSK3β、アキシン、およびβ-カテニンの足場タンパク質として作用し、主要Wntシグナル伝達因子であるβカテニンのGSK3β媒介リン酸化依存的分解を誘導する(非特許文献3、4)。APCが不活化されると核内にβ-カテニンが蓄積し、その結果として、TCF/LEF転写因子の活性化を介してWnt標的遺伝子の構成的活性化が起こる。APCはまた、Asef、IQGAP、キネシン-2、およびDrosophila discs large(DLG)等のタンパク質との相互作用を通して、細胞接着および運動性を調節する細胞骨格ネットワークの調節にも関与している(非特許文献5)。APCによって調節されるメカニズムは集中的に研究されているにもかかわらず、細胞外Wntシグナルを除き、APCを調節するメカニズムに関してはほとんどわかっていない。
【0003】
一方、EDD遺伝子は、UBRボックスおよびE3ユビキチンリガーゼとしての機能を担うHECTドメインを含む推定の機能的ドメイン7個を有する、アミノ酸2799個のタンパク質をコードする(非特許文献6、非特許文献7、非特許文献8)。またEDD遺伝子は、キイロショウジョウバエのhyd遺伝子の哺乳動物オーソログである(非特許文献6)。ショウジョウバエにおいてhydの機能喪失変異が成虫盤の過増殖を引き起こすこと(非特許文献9)、EDDの発現低減がいくつかのヒト癌において観察されることから(非特許文献10)、EDDは、推定の腫瘍抑制因子遺伝子であると提唱されている。またEDDは、マイクロサテライト不安定性胃癌および結腸直腸癌においてしばしば変異していることが報告されている(非特許文献11)。しかしながら、EDDの具体的な機能は特定されておらず、EDDが腫瘍抑制に関与することは、推定の域を出ていない。
【非特許文献1】Nishisho I, Nakamura Y, Miyoshi Y, Miki Y, Ando H, Horii A, Koyama K, Utsunomiya J, Baba S and Hedge P. (1991). Science, 253, 665-9.
【非特許文献2】Fodde R. (2002). Eur J Cancer, 38, 867-71.
【非特許文献3】Bienz M. (2002). Nat Rev Mol Cell Biol, 3, 328-38.
【非特許文献4】Bienz M and Clevers H. (2000). Cell, 103, 311-20.
【非特許文献5】Akiyama T and Kawasaki Y. (2006). Oncogene, 25, 7538-44.
【非特許文献6】Callaghan MJ, Russell AJ, Woollatt E, Sutherland GR, Sutherland RL and Watts CK. (1998). Oncogene, 17, 3479-91.
【非特許文献7】Henderson MJ, Russell AJ, Hird S, Munoz M, Clancy JL, Lehrbach GM, Calanni ST, Jans DA, Sutherland RL and Watts CK. (2002). J Biol Chem, 277, 26468-78.
【非特許文献8】Tasaki T, Mulder LC, Iwamatsu A, Lee MJ, Davydov IV, Varshavsky A, Muesing M and Kwon YT. (2005). Mol Cell Biol, 25, 7120-36.
【非特許文献9】Mansfield E, Hersperger E, Biggs J and Shearn A. (1994). Dev Biol, 165, 507-26.
【非特許文献10】Fuja TJ, Lin F, Osann KE and Bryant PJ. (2004). Cancer Res, 64, 942-51.
【非特許文献11】Mori Y, Sato F, Selaru FM, Olaru A, Perry K, Kimos MC, Tamura G, Matsubara N, Wang S, Xu Y, Yin J, Zou TT, Leggett B, Young J, Nukiwa T, Stine OC, Abraham JM, Shibata D and Meltzer SJ. (2002). Cancer Res, 62, 3641-5
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、本発明が解決しようとする課題は、消化器癌の新規治療薬の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は、上記課題を解決すべく、鋭意研究を行った。本発明者等は、Myc-APCおよびFLAG-マウスアキシンでトランスフェクションしたHEK 293細胞からAPC免疫複合体を調製し、該複合体の中からAPC相互作用物質を質量分析によってスクリーニングしたところ、EDDがAPCの機能的パートナーである可能性を見出した。免疫沈降によりEDDとAPCの相互作用が生理的条件下で存在することを確認し、EDDとAPCの同時染色によりこれらが細胞内で同時局在することを示し、APC-EDD相互作用の存在を証明した。
【0006】
続いて本発明者は、APCに対するEDDの作用を検討した。EDDはユビキチンE3リガーゼ活性を有すると考えられていることから、上記APC-EDD相互作用はEDDによるAPCのユビキチン化である可能性が考えられたが、本発明者等は、上記検討の過程において、EDD過剰発現がAPCおよびアキシンの発現を増加させることに気付いた。そこで、一定量のAPCおよびアキシンと異なる量のEDDを過剰発現させたところ、EDD発現は、APCおよびアキシンの発現を用量依存的に増加させた。また siRNAを用いてEDDをノックダウンした細胞におけるAPC発現量を観察し、該用量依存的発現増強が、タンパク質過剰発現による二次的効果でないことを明らかにした。さらに、RT-PCRにより、EDDをノックダウンした細胞でAPC mRNAが下方制御されないことを示し、EDDによるAPC発現増強はタンパク質レベルの効果であることを証明した。
【0007】
これまでに、EDDが癌抑制遺伝子であることを示唆する報告はあったものの、EDDの具体的作用は知られていなかった。本発明者等により、EDDがAPCをタンパク質レベルで安定化することが初めて明らかにされたことにより、EDDが結腸直腸癌等の消化器癌の抑制に有効であることが示された。すなわち、本発明はEDDを有効成分とする消化器癌の治療に関し、具体的には、下記の発明を提供するものである。
(1)APC発現促進機能を有する下記(a)から(d)のいずれかに記載のポリペプチドを有効成分とする、消化器癌の治療および/または予防薬
(a)配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含むポリペプチド
(b)配列番号:1に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドのコード領域がコードするポリペプチド
(c)配列番号:2に記載のアミノ酸配列に1または複数のアミノ酸が挿入、付加、欠失、および/または置換したポリペプチド
(d)配列番号:1に記載の塩基配列の相補鎖にストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドがコードするポリペプチド、
(2)APC発現促進機能を有する下記(a)から(d)のいずれかに記載のポリヌクレオチドまたは該ポリヌクレオチドを保持するベクターを有効成分とする、消化器癌の治療薬
(a)配列番号:2に記載のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド
(b)配列番号:1に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドのコード領域を含むポリヌクレオチド
(c)配列番号:2に記載のアミノ酸配列に1または複数のアミノ酸が挿入、付加、欠失、および/または置換したポリペプチドをコードするポリヌクレオチド
(d)配列番号:1に記載の塩基配列の相補鎖にストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチド、
(3)消化器癌が結腸直腸癌または胃癌である、上記(1)または(2)に記載の治療薬、
(4)消化器癌の治療薬の製造のための、APC発現促進機能を有する下記(a)から(d)のいずれかに記載のポリペプチドの使用
(a)配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含むポリペプチド
(b)配列番号:1に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドのコード領域がコードするポリペプチド
(c)配列番号:2に記載のアミノ酸配列に1または複数のアミノ酸が挿入、付加、欠失、および/または置換したポリペプチド
(d)配列番号:1に記載の塩基配列の相補鎖にストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドがコードするポリペプチド、
(5)消化器癌の治療薬の製造のための、APC発現促進機能を有する下記(a)から(d)のいずれかに記載のポリヌクレオチドまたは該ポリヌクレオチドを保持するベクターの使用
(a)配列番号:2に記載のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド
(b)配列番号:1に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドのコード領域を含むポリヌクレオチド
(c)配列番号:2に記載のアミノ酸配列に1または複数のアミノ酸が挿入、付加、欠失、および/または置換したポリペプチドをコードするポリヌクレオチド
(d)配列番号:1に記載の塩基配列の相補鎖にストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチド、
(6)被験者のEDD遺伝子における変異を検出することを特徴とする、消化器癌の診断方法、
(7)下記工程(a)および(b)を含む、上記(6)に記載の診断方法。
(a)被験者のEDD遺伝子における変異を検出する工程
(b)EDD遺伝子の変異が検出された場合に、該被験者が消化器癌を発症しているまたは発症する可能性が高いと推定する工程、
(8)被験者から単離した検体中のEDD遺伝子発現産物を検出することを特徴とする、消化器癌の診断方法、
(9)下記工程(a)および(b)を含む、上記(8)に記載の診断方法
(a)被験者から単離した検体中のEDD遺伝子発現産物を検出する工程
(b)上記工程で検出されたEDD遺伝子発現産物の量が、健常人における量と比較して有意に低い場合に、該被験者が消化器癌を発症しているまたは発症する可能性が高いと推定する工程、
(10)配列番号:1に記載の塩基配列のコード領域からなるDNAまたはその相補鎖にハイブリダイズする、少なくとも20ヌクレオチドからなるポリヌクレオチドを含む、消化器癌の診断薬、
(11)EDDタンパク質に特異的に結合する抗体を含む、消化器癌の診断薬。
【発明の効果】
【0008】
本発明によって、消化器癌を対象とする新規抗癌剤が提供された。急性白血病、悪性リンパ腫、精巣(睾丸)腫瘍、絨毛癌等、一部の癌は抗癌剤治療により高い効果を得られるが、現在のところ、大腸癌や胃癌等の消化器癌では抗癌剤治療の効果には限界があり、新規抗癌剤の開発が待たれている。本発明の新規抗癌剤は、消化器癌治療法の選択肢を増やすものとして期待される。
【0009】
本発明は、EDDタンパク質を含む、消化器癌の新規治療薬に関する。EDDタンパク質は、その構造的特徴から、E3ユビキチンリガーゼ活性を有するといわれているが、その生体内の機能については殆ど解明されていない。本発明者等は、EDDタンパク質がAPCの発現促進および安定化に寄与することを証明し、該APC安定化を通じて、癌抑制に寄与しうることを見出した。EDDタンパク質は、タンパク質製剤として癌治療に用いることができるほか、EDD遺伝子またはEDD遺伝子を含むベクターとして癌の遺伝子治療に用いることができると考えられる。
【0010】
EDDタンパク質は、DD5; EDD; HYD; FLJ11310; KIAA0896; MGC57263とも呼ばれことがある。EDDはヒトに存在することが確認されているほか、チンパンジー、マウス、ゼブラフィッシュ等においてもその存在が報告されている。本発明におけるEDDの由来は特に問わないが、好ましくはヒト由来EDDである。ヒトEDD遺伝子の塩基配列は、GenBankにおいてAccession No.NM_015902として登録されている。ヒトEDDの塩基配列を配列番号:1に示す。またヒトEDDタンパク質アミノ酸配列は、GenPeptにおいてAccession No. NP_056986として登録されている。ヒトEDDアミノ酸配列を配列番号:2に示す。
【0011】
EDDタンパク質は、当業者に周知の手段によって調製できる。例えば、当業者であれば、ヒト細胞調製物からcDNAライブラリーを調製し、配列番号:2に記載の塩基配列をもとに設計したプローブを用いて該cDNAライブラリーの中からEDDをコードするDNAを選択し、該選択したDNAを適当なプロモーターとともにベクターに挿入し、適当な宿主によって発現させ、発現産物を含む培養液からEDDタンパク質を回収することができる。または、ヒト細胞からtotal mRNAを調製し、配列番号:2に記載の塩基配列をもとに設計したプライマーを用い、RT-PCR法によりEDDをコードするDNAを調製し、発現させることもできる。
【0012】
上記EDDタンパク質の調製に用いるベクターは、当業者であれば宿主あるいは発現系に適したものを適宜選択することができる。ベクターはタンパク質回収の便宜のために、GST、ポリヒスチジン等のタグを備えたものであってもよい。例えば、細胞系宿主として大腸菌を用いるのであれば、pET、pPRO、pCAL、pBAD、pGEX、pQE、pMAL、pFLAG等、当業者に公知のベクターのなかから適宜選択して用いることができる。また、宿主-ベクター系は大腸菌を宿主とするものに限られず、枯草菌、酵母、バキュロウイルス発現系等を使用することができる。無細胞系の生産系によって発現させてもよい。
【0013】
本発明におけるEDDタンパク質は、配列番号:2に示されるアミノ酸配列のみならず、APC発現促進機能がある限り、該配列に変異があってもよく、天然のEDD変異体、ホモログ、オーソログ、人工的変異体などであってもよい。例えば、「配列番号:1に記載の塩基配列の相補鎖にストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドがコードするポリペプチド」を挙げることができる。このようなポリペプチドも公知技術により調製可能であり、例えば、配列番号:1に記載の塩基配列を基にプローブを設計し、ヒト細胞等から調製したcDNAライブラリーから該プローブに結合するポリヌクレオチドを調製することができる。
【0014】
上記ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件は、当業者であれば、適宜選択することができる。一例を示せば、25%ホルムアミド、より厳しい条件では50%ホルムアミド、4×SSC、50mM Hepes pH7.0、10×デンハルト溶液、20μg/ml変性サケ精子DNAを含むハイブリダイゼーション溶液中、42℃で一晩プレハイブリダイゼーションを行った後、標識したプローブを添加し、42℃で一晩保温することによりハイブリダイゼーションを行う。その後の洗浄における洗浄液および温度条件は、「1xSSC、0.1% SDS、37℃」程度で、より厳しい条件としては「0.5xSSC、0.1% SDS、42℃」程度で、さらに厳しい条件としては「0.2xSSC、0.1% SDS、65℃」程度で実施することができる。このようにハイブリダイゼーションの洗浄の条件が厳しくなるほどプローブ配列と高い相同性を有するポリヌクレオチドの単離を期待しうる。但し、上記SSC、SDSおよび温度の条件の組み合わせは例示であり、当業者であれば、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーを決定する上記若しくは他の要素(例えば、プローブ濃度、プローブの長さ、ハイブリダイゼーション反応時間など)を適宜組み合わせることにより、上記と同様のストリンジェンシーを実現することが可能である。
【0015】
このようなハイブリダイゼーション技術を利用して単離されるポリヌクレオチドがコードするポリペプチドは、通常、本発明者らにより同定されたポリペプチドとアミノ酸配列において高い相同性を有する。高い相同性とは、少なくとも40%以上、好ましくは60%以上、さらに好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、さらに好ましくは少なくとも95%以上、さらに好ましくは少なくとも97%以上(例えば、98から99%)の配列の相同性を指す。アミノ酸配列の同一性は、例えば、Karlin and Altschul によるアルゴリズムBLAST (Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:2264-2268, 1990、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:5873-5877, 1993)によって決定することができる。このアルゴリズムに基づいて、BLASTXと呼ばれるプログラムが開発されている(Altschul et al. J. Mol. Biol.215:403-410, 1990)。BLASTXによってアミノ酸配列を解析する場合には、パラメーターはたとえば score = 50、wordlength = 3とする。BLASTとGapped BLASTプログラムを用いる場合には、各プログラムのデフォルトパラメーターを用いる。これらの解析方法の具体的な手法は公知である(http://www.ncbi.nlm.nih.gov.)。
【0016】
またはこのようなEDDタンパク質変異体の例として、「配列番号:2に記載のアミノ酸配列に1または複数のアミノ酸が挿入、付加、欠失、および/または置換したポリペプチド」を挙げることができる。当業者であれば、このような変異体は公知技術を用いて容易に調製可能である。例えば、上述のように調製したEDDをコードするDNAに、カセット変異法やPCR法による変異法により、部位特異的またはランダムに変異を導入し、該変異が導入されたDNAを発現させることができる。APC発現促進機能を有するEDDタンパク質変異体は、通常、配列番号:2に記載のアミノ酸配列と高い相同性を有し、少なくとも40%以上、好ましくは60%以上、さらに好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、さらに好ましくは少なくとも95%以上、さらに好ましくは少なくとも97%以上(例えば、98から99%)の配列の相同性を指す。
【0017】
このようにして調製した変異体タンパク質がAPC発現促進機能を有するか否かは、APCを発現する細胞に該変異体タンパク質のDNAを導入し、APC-EDD相互作用を確認すればよい。具体的には、実施例に記載の方法を参考に確認することができる。
【0018】
また本発明は、EDDをコードするポリヌクレオチドまたは該ポリヌクレオチドを保持するベクターを有効成分とする、消化器癌の治療薬に関する。EDDをコードするポリヌクレオチドを直接、または該ポリヌクレオチドを遺伝子治療に適したベクターに挿入し、EDDによる治療を必要とする患者に投与し、体内でEDDを発現させることにより、EDDのAPC発現促進および安定化効果により持続的な治療を図ることが可能である。遺伝子治療に適したベクターは、アデノウイルスベクター、レトロウイルスベクター、センダイウイルスベクター、リポソーム、等が開発されており、本発明のEDD遺伝子を用いた遺伝子治療は、これらベクターを利用することができる。
【0019】
本発明のEDDを有効成分とする消化器癌の治療薬を適応可能な疾患としては、結腸直腸癌または胃癌を挙げることができ、好ましくは結腸直腸癌である。
【0020】
本発明のEDDを消化器癌の治療薬とする場合は、当業者であれば、適切な投与経路を選択し、公知製剤技術を組み合わせ、該投与経路に適した剤型として製剤化することができる。例えば、滅菌水、生理食塩水、培養液、血清、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)などの薬理学的に許容される担体もしくは媒体と組み合わせ、製剤化することが考えられる。また、抗酸化剤、植物油、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、殺生物剤等の添加物が含有されていてもよい。本発明の治療薬は、例えば、動脈内注射、静脈内注射、腹腔内注射、皮下注射、経腸投与、経口投与、鼻腔内投与、エクスビボ投与など当業者に公知の方法により患者に投与しうる。
【0021】
また本発明は、EDD遺伝子における変異を検出することを特徴とする、消化器癌の診断方法に関する。上記のとおり、EDDタンパク質はAPC発現促進機能を通じ、癌抑制に働く。EDD遺伝子の変異はEPCタンパク質のAPC発現促進機能を低下させる可能性があるため、EDD遺伝子の変異の検出は、消化器癌の診断または消化器癌の発症リスクの推定に有効に利用できる可能性がある。
【0022】
本発明の消化器癌の診断方法は、当業者であれば、公知技術によって実施することができる。例えば、消化器癌患者のEDD遺伝子配列を同定し、該配列を健常人のEDD遺伝子配列と統計的に比較し、消化器癌患者に有意に検出される変異を特定し、該変異を検出可能なプローブを設計し、被験者から採取した検体中に該変異を有するEDD遺伝子が存在するかどうかを該プローブによって調べることができる。または、消化器癌患者に有意である変異を特定した後、該変異を含む塩基配列を増幅可能なプライマーを設計し、被験者由来の核酸を鋳型として公知の核酸増幅法を行い、被験者のEDD遺伝子中の該変異の有無を知ることができる。該変異が検出された被験者は、消化器癌患者または消化器癌発症の高リスクグループである可能性が高いということができる。
【0023】
EDD遺伝子変異検出用のプローブまたはプライマーは、例えば、配列番号:1に記載の塩基配列のコード領域からなるDNAまたはその相補鎖にハイブリダイズするポリヌクレオチドである。このようなポリヌクレオチドは、少なくとも10ヌクレオチドであり、好ましくは少なくとも15ヌクレオチドまたは少なくとも20ヌクレオチドの長さを有するポリヌクレオチドである。
【0024】
別の診断方法として、EDDタンパク質の定量を行う方法が考えられる。この方法は、EDDタンパク質の量が低下した場合は、APC発現が促進されず、癌の発症リスクが増加または癌が実際に発現する可能性があることに基づく。EDDタンパク質の定量は当業者に公知の方法で実施可能であり、例えば、抗EDD抗体を用いて、ELISA法、CLIA法、RIA法等の方法により定量可能である。EDDタンパク質量が健常人と比較して有意に低い被験者は、消化器癌患者または消化器癌発症の高リスクグループである可能性が高いということができる。本発明の診断方法で使用する抗EDD抗体はポリクローナル抗体であってもモノクローナル抗体であってもよく、いずれも当業者に周知の方法により調製することができる。ポリクローナル抗体であれば、EDDタンパク質を動物に投与し、抗体価の上昇を確認した後に放血させ、抗EDDポリクローナル抗体を得ることができる。モノクローナル抗体であれば、例えば、EDDタンパク質またはその一部を抗原として動物の腹腔内に投与し、抗体価が上昇した後に脾臓を摘出してB細胞を調製し、該B細胞とミエローマ細胞を融合させてハイブリドーマを作製し、続いて、抗体産生細胞のスクリーニングを行い、目的とする抗体を産生するハイブリドーマを培養し、培養液上清中から抗EDDモノクローナル抗体を取得することができる。
【0025】
EDD遺伝子変異検出用のプローブまたはプライマー、あるいは抗EDD抗体は、消化器癌の診断薬とすることができる。
【実施例】
【0026】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
(1)APCの相互作用物質の同定
APCの機能的パートナー候補物質を調べるため、APC免疫複合体を質量分析によってスクリーニングした。HEK 293細胞に、Myc-APCおよびFLAG-マウスアキシン(mAxin)をトランスフェクトし、APC複合体を抗Myc抗体によって免疫沈降させた後、競合するMycペプチドによって溶出した。溶出物をトリプシンで分解し、LC/MS/MS分析に供した。得られた衝突誘起解離スペクトルをMascotソフトウエアで解析した。Mowseスコア66を示すペプチド8個によって、APCの機能的パートナーの可能性があるタンパク質としてEDDを見いだした。(表1)。
【0027】
【表1】

【0028】
(2)APC-EDD相互作用の確認
一過性トランスフェクションの後に免疫沈降-ウェスタン分析を行い、APCとEDDの相互作用について確認した(図1)。結腸直腸癌はAPC変異またはWnt経路の機能障害を有する可能性があることから、実験全体を通して結腸直腸癌細胞株の使用は避けた。コントロールプラスミドまたはMyc-APCを発現するプラスミドのいずれかを293T細胞にトランスフェクトし、免疫沈降を実施し、抗Myc免疫沈降物中の内因性EDDの存在を確認した。
【0029】
図1aに示すように、EDDはMyc-APCをトランスフェクトした細胞から得た沈降物から検出されたが(レーン3および4)、コントロールサンプルからは検出されなかった(レーン1)。過剰量のMyc-APCは相互作用するEDDタンパク質の量を増加させないことから(レーン4)、APCと相互作用するEDD量が限られていることが示された。
【0030】
生理的条件下で内因性APC-EDD相互作用が存在することをさらに証明するために、無処置の293T細胞溶解物を抗EDD抗体で免疫沈降し、沈降物を抗APC抗体によるイムノブロットによって分析した(図1b)。APCはEDDとは容易に同時免疫沈降したが(レーン2)、コントロールIgGとの免疫沈降は検出できなかった(レーン1)。これらの結果は、EDDがインビボでAPC複合体と物理的に相互作用することを示唆している。
【0031】
内因性APCの局在に関しては様々な見解があるが、種々の抗APC抗体を用いた検討から、APCは主に細胞質に存在することが判明した(Brocardo et al., 2005)。一方、EDDはプロゲステロン受容体およびTopBP1と相互作用する核に局在するとの見解がある(Henderson et al., 2002;Honda et al., 2002)。しかし癌患者由来の組織切片では、EDDが核周囲細胞質に再現性よく観察されることも報告されている(Fuja et al., 2004)。
【0032】
そこで、293T細胞において内因性EDDとAPCとが相互作用によって同時局在するか否かを検討するため、ホルマリンで固定した293T細胞を、抗APC抗体および抗EDD抗体によって同時染色した。APC(赤)およびEDD(緑)は細胞質において同時局在した(図2上)。またAPCおよびEDDは、HeLa細胞の細胞質においても同時局在した(図2下)。これらの結果は、EDDが少なくともいくつかの細胞タイプにおいて細胞質に局在し、細胞質においてAPCと相互作用することを示唆している。
【0033】
(3)APCに対するEDDの作用
EDDは、UBRドメインおよびHECTドメインを含み、ユビキチンE3リガーゼとして機能すると考えられているため(Honda et al., 2002;Tasaki et al., 2005)、本発明者らは当初は、EDDがAPCをユビキチン化して脱安定化させると推測した。しかし、APC-EDD相互作用の検討過程において、本発明者らは、EDDの過剰発現が、APCおよびmAxinの双方の量をいくぶん増加させることに気付いた(データ示さず)。
【0034】
上記観察を検討するため、EDD過剰発現がAPCおよびmAxinの発現を上方制御するか否かを調べた。一定量のMyc-APCおよびFLAG-mAxinを、異なる量のFLAG-EDDとともに293T細胞中で同時発現させた。Myc-APCおよびFLAG-mAxinの定常状態レベルはいずれも、FLAG-EDDの同時発現によって用量依存的に増加した(図3a)。一方、FLAG-mAxinの発現増加は、Myc-APC発現量を増加させることなくむしろ減少させ、FLAG-EDD発現量をわずかに増加させた(図3b)。この結果は、APCのユビキチンプロテアソーム依存的分解促進におけるアキシンの役割に関する、最近の予想外の報告と一致する(Choi et al., 2004)。アキシン媒介ダウンレギュレーションからAPCを保護することが、EDDの役割である可能性がある。しかし、EDDはmAxin発現レベルもアップレギュレートすることから、観察されたEDDによるAPCの保護は、EDDのE3リガーゼ活性によるアキシン分解を介するものではない(図3a)。一つの解釈は、APC-アキシン-EDD複合体が安定型であるのに対し、APC-アキシン複合体は不安定で、E3リガーゼに対するよりよい基質となるということである。
【0035】
観察された上記効果が、タンパク質を過剰発現させたために起きた人為的結果である可能性が残っているため、該可能性を否定すべく、RNA干渉により、生理学的条件におけるAPCに及ぼすEDD発現レベルの効果を調べた。MCF7、T47D、およびHeLa細胞にEDD-特異的siRNAをトランスフェクトした。細胞は、対照と比較してEDD発現に関して首尾よく沈黙化された(それぞれ、0.15、0.34、および0.04倍)(図4a上)。APCの発現は、MCF7およびHeLa細胞においてEDDノックダウンによって劇的に低減され(それぞれ、0.63および0.61倍。より遅く移動するタンパク質を含む)、T47D細胞ではわずかに低減された(0.80倍)。興味深いことに、これらのEDDノックダウン細胞のAPC(レーン2および6)は、対照細胞(レーン1および5)よりも、ゲル中の移動が遅かった。これは、APCが脱安定化されながら共有結合によって改変されていることを示唆している。
【0036】
上述のEDDによるAPCレベルの上昇(図3a)は、CMVプロモーターで発現させた外因性APCおよびEDDタンパク質を用いて観察された。この結果は、アップレギュレーションがタンパク質レベルで起こるのであってmRNAレベルではないことを示唆する。しかし、EDDノックダウン細胞におけるAPC発現レベルの低減が、mRNAレベルでのAPCのダウンレギュレーションによって起こりうることは、なおも否定できない。そこで、APC mRNAがEDDノックダウンによって影響を受けるか否かについて検討した。EDD siRNAで処理した細胞から得たmRNAのRT-PCR分析結果をコントロールと比較することにより、APC mRNAは、EDDノックダウンによってダウンレギュレートされないことが明らかになった(図4b)。これらの結果は、EDDがタンパク質レベルでAPCを安定化することを示唆している。
【0037】
上記の結果は、周知の結腸直腸腫瘍抑制因子であるAPCと推定の腫瘍抑制因子EDDとの相互作用を明らかに証明した。EDDのコード領域中のマイクロサテライト配列における二対立遺伝子変化を含む体細胞フレームシフト変異は、マイクロサテライト不安定性胃癌の27.8%および結腸直腸癌の23.3%に起こる(Mori et al., 2002)。本発明者らの結果から引き出された一つの単純かつ重要な疑問は、EDDの変異がそのような消化器癌におけるAPC機能の欠損を引き起こすか否かである。この点において、APC機能がEDD変異胃癌または結腸直腸癌において保持されているか否かを調べることは興味深いであろう。Wntシグナル伝達経路に関連したEDDに関するもう一つの重要な局面は、hyd/EDDが、胚発達の際の上皮/間葉相互作用を調節するモルフォゲンである、hedgehog(Hh)遺伝子の発現を阻害することである(Lee et al., 2002)。Hyd/EDD機能の喪失は、Hhおよびdecapentaplegic(Dpp)遺伝子の別個のメカニズムによる異所発現を導き、それによって眼盤の非自律的過増殖および未成熟な光受容体分化が起こる(Lee et al., 2002)。Hh経路およびWnt経路は、腸管細胞増殖において互いに拮抗することが最近強調されている(van den Brink & Hardwick, 2006)。Wntシグナルは、結腸の陰窩の基底部において腸管前駆細胞の増殖を維持するが、Indian hedgehog(Ihh)は、Wntシグナルを阻害して、陰窩の上部で分化を誘導する。したがって、EDDは、腸管細胞増殖の維持および分化において二つの経路を統合する可能性がある。EDDがAPCをどのようにして安定化するかは決定されなければならないが、EDDによるAPCのアップレギュレーションは、胃癌および結腸直腸癌発生の予防の基礎となる重要なメカニズムとなりうるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】(a)外因性に過剰発現されたAPCがEDDと相互作用することを示す写真である。293T細胞を、10%FCSおよび1%抗生物質-抗菌剤(Life Technologies, Inc, Grand Island, NY)を添加したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)において5%CO2において37℃で培養した。293T細胞に、標準的な燐酸カルシウム沈殿法を用いて、Myc-APCをコードするプラスミドの増加量(レーン2:2μg、レーン3:4μg、レーン4:8μg)をトランスフェクトした。親pcDNA3ベクターを加えることによって、総プラスミドDNAを100 mm培養皿あたり15μgに調節した。トランスフェクションの36時間後、細胞を回収して、50 mMトリス塩酸(pH 7.5)、0.5%NP-40、150 mM NaCl、50 mM NaF、1 mMジチオスレイトール(DTT)、1 mM NaVO3、1 mM PMSF、2μg/mlアプロチニン、2μg/mlロイペプチン、10μg/mlトリプシン阻害剤、および150μg/mlベンザミジンを含む緩衝液Aを100 mm培養皿あたり1 mlと共に4℃で30分間インキュベートすることによって溶解した。溶解した細胞を16,000 rpmで4℃で10分間遠心することによって透明にした。上清(0.5 ml)を抗Mycモノクローナル抗体(9E10、BabCo, Richmond, CA)3μgと共に混合した後、抗体結合タンパク質をプロテインA-アガロースビーズ(7.5μl)によって沈殿させた。ビーズに結合したタンパク質を緩衝液Aによって3回洗浄して、0.1 M DTTを含むLaemmli SDS-ローディング緩衝液において沸騰させ、試料の半分を7.5%SDS-PAGEによって分解した後、抗Mycまたは抗EDDヤギポリクローナル抗体(N-19、Santa Cruz Biotechnology, Santa Cruz, CA)によるイムノブロッティングを行った(上のパネル)。総細胞溶解物15μlも同様に分析した(投入量、下のパネル)。ローディング対照として、チューブリンを抗αおよびβ-チューブリン(DMIA+BMIB;Neomarkers, Fremont, CA)によってイムノブロットした。IP:免疫沈降物。(b)内因性のAPCはEDDと相互作用することを示す写真である。293T細胞から調製した溶解物を、(a)の場合と同様に抗EDD抗体6μg(レーン2)、または同量の対照IgG(Sigma, St. Louis, MO)(レーン1)によって免疫沈降させた。総細胞溶解物(投入量、下のパネル)または免疫沈降物(上のパネル)を、表記の抗体によるイムノブロッティングに供した。
【図2】細胞質におけるAPCとEDDの同時局在を示す写真である。293T細胞(上)。HeLa細胞(下)。増殖中の293T細胞またはHeLa細胞を3%ホルマリンによって15分間固定して、0.2%トライトンX-100によって5分間透過性にした。細胞をPBSによって洗浄して、PBSにおいて0.5%BSAによってブロックし、表記の抗体によって染色した。一次抗体をブロッキング緩衝液において以下の濃度に希釈した:抗APC(4μg/ml)、および抗EDD(4μg/ml)。FITC(緑色)またはローダミン(赤色)共役二次抗体(Jackson Immuno Research, West Grove, PA)を1:50倍希釈で用いた。0.5μM TO-PRO-3(Invitrogen, Carlsbad, CA)(青色)によって核を対比染色した後、細胞を蛍光封入培地によって封入して、共焦点レーザースキャン顕微鏡(LSM 510、Carl Zeiss, Jena, Germany)によって調べた。融合図は、二つのタンパク質の画像(APCおよびEDD)の重ね合わせを示す。位相は、位相差顕微鏡の観察を示す。
【図3】EDDがAPCおよびアキシンをアップレギュレートすることを説明する写真である。(a)293T細胞に、Myc-APCおよびFLAG-mAxinをコードするプラスミド(Tetsu Akiyama氏からの寄贈)(レーン1〜4、各4μg)、およびFLAG-EDDの増加量(レーン2:2μg、レーン3:4μg、レーン4:8μg)をトランスフェクトさせた。親pcDNA3ベクターを加えることによって、総プラスミドDNAをプレートあたり15μgに調節した。細胞溶解物における各タンパク質の定常状態レベルを、抗Myc、抗FLAG(M2;Sigma)、または抗チューブリン抗体を用いて、図1aのようにイムノブロットによって分析した。ヒトEDDに関する哺乳動物発現プラスミドは、既に記述されている(Henderson et al., 2002)。(b)表記のタンパク質の定常状態レベルを、FLAG-EDDの代わりにFLAG-mAxinを発現するプラスミドの量を増加させたことを除き、(a)と同様に分析した。
【図4】EDDノックダウンによりAPCが脱安定化されることを示す写真である。(a)siRNAによるEDDノックダウンは、APCタンパク質の発現レベルをダウンレギュレートすることを示す図である。SMART pool(登録商標)EDD siRNAミクス(レーン2、4、および6)および対照siRNAミクス(レーン1、3、および5)をDharmacon Research, Inc(Lafayette, CO)から購入して、RNA二本鎖(最終濃度50 nM)をOligofectamine(登録商標)(Invitrogen)によって製造元の説明書に従ってトランスフェクトした。細胞をトランスフェクションの48時間後に回収して、総細胞溶解物を表記の抗体によるイムノブロッティングに供した。チューブリンをローディング対照とした。タンパク質発現量を、ルミノ-イメージアナライザーLAS 3000(Fuji film, Tokyo, Japan)によって定量して、それぞれの対照におけるタンパク質発現に対する比として示した。(b)RT-PCR分析から、APC mRNA発現がEDDノックダウンによって影響を受けないことが示された。総RNAを、グアニジンイソチオシアネートに基づくTRIzol溶液(Life Tehcnologies, Gaithersburg, MD)を用いて、(a)のようにsiRNAをトランスフェクトしたHeLa細胞から単離した後、PrimeScript(商標)RNアーゼ(TaKaRa, Shiga, Japan)を用いて、製造元の説明書に従って一本鎖cDNAに変換した。APC、EDDおよび対照グリセルアルデヒド3-燐酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)のcDNAを、PrimeSTAR(登録商標)Max DNAポリメラーゼ(Takara)を用いて以下のプライマーによるPCRによって増幅した。APC:5’-GAGACAGAATGGAGGTGCTGC-3’ (配列番号:3)および5’-CAGGACTGCACTCTCCAGAACG-3’ (配列番号:4)、EDD:5’-GCACCATGACGTCCATCCATTTCGTG-3’ (配列番号:5)および5’-GATATTGTCGACAGGCCTCATAGTCACAGCG-3’ (配列番号:6)、GAPDH:5’-GACAACTTTGGTATCGTGGA-3’ (配列番号:7)および5’-TACCAGGAAATGAGCTTGAC-3’ (配列番号:8)。APC(393 bp)、EDD(2679 bp)、およびGAPDH(445 bp)のPCR産物をアガロースゲル電気泳動によって分離して、エチジウムブロマイドによって染色して、UV透視によって可視化した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
APC発現促進機能を有する下記(a)から(d)のいずれかに記載のポリペプチドを有効成分とする、消化器癌の治療および/または予防薬。
(a)配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含むポリペプチド
(b)配列番号:1に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドのコード領域がコードするポリペプチド
(c)配列番号:2に記載のアミノ酸配列に1または複数のアミノ酸が挿入、付加、欠失、および/または置換したポリペプチド
(d)配列番号:1に記載の塩基配列の相補鎖にストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドがコードするポリペプチド
【請求項2】
APC発現促進機能を有する下記(a)から(d)のいずれかに記載のポリヌクレオチドまたは該ポリヌクレオチドを保持するベクターを有効成分とする、消化器癌の治療薬。
(a)配列番号:2に記載のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド
(b)配列番号:1に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドのコード領域を含むポリヌクレオチド
(c)配列番号:2に記載のアミノ酸配列に1または複数のアミノ酸が挿入、付加、欠失、および/または置換したポリペプチドをコードするポリヌクレオチド
(d)配列番号:1に記載の塩基配列の相補鎖にストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチド
【請求項3】
消化器癌が結腸直腸癌または胃癌である、請求項1または2に記載の治療薬。
【請求項4】
消化器癌の治療薬の製造のための、APC発現促進機能を有する下記(a)から(d)のいずれかに記載のポリペプチドの使用。
(a)配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含むポリペプチド
(b)配列番号:1に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドのコード領域がコードするポリペプチド
(c)配列番号:2に記載のアミノ酸配列に1または複数のアミノ酸が挿入、付加、欠失、および/または置換したポリペプチド
(d)配列番号:1に記載の塩基配列の相補鎖にストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドがコードするポリペプチド
【請求項5】
消化器癌の治療薬の製造のための、APC発現促進機能を有する下記(a)から(d)のいずれかに記載のポリヌクレオチドまたは該ポリヌクレオチドを保持するベクターの使用。
(a)配列番号:2に記載のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド
(b)配列番号:1に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドのコード領域を含むポリヌクレオチド
(c)配列番号:2に記載のアミノ酸配列に1または複数のアミノ酸が挿入、付加、欠失、および/または置換したポリペプチドをコードするポリヌクレオチド
(d)配列番号:1に記載の塩基配列の相補鎖にストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチド
【請求項6】
被験者のEDD遺伝子における変異を検出することを特徴とする、消化器癌の診断方法。
【請求項7】
下記工程(a)および(b)を含む、請求項6に記載の診断方法。
(a)被験者のEDD遺伝子における変異を検出する工程
(b)EDD遺伝子の変異が検出された場合に、該被験者が消化器癌を発症しているまたは発症する可能性が高いと推定する工程
【請求項8】
被験者から単離した検体中のEDD遺伝子発現産物を検出することを特徴とする、消化器癌の診断方法。
【請求項9】
下記工程(a)および(b)を含む、請求項8に記載の診断方法。
(a)被験者から単離した検体中のEDD遺伝子発現産物を検出する工程
(b)上記工程で検出されたEDD遺伝子発現産物の量が、健常人における量と比較して有意に低い場合に、該被験者が消化器癌を発症しているまたは発症する可能性が高いと推定する工程
【請求項10】
配列番号:1に記載の塩基配列のコード領域からなるDNAまたはその相補鎖にハイブリダイズする、少なくとも20ヌクレオチドからなるポリヌクレオチドを含む、消化器癌の診断薬。
【請求項11】
EDDタンパク質に特異的に結合する抗体を含む、消化器癌の診断薬。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−297257(P2008−297257A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−145886(P2007−145886)
【出願日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【出願人】(596165589)学校法人 聖マリアンナ医科大学 (53)
【Fターム(参考)】