説明

消化器癌の診断方法

【課題】検出率の高い消化器癌の診断方法を提供する。
【解決手段】消化器癌の診断方法であって、被験体に由来する血液試料から、配列番号2のアミノ酸配列を有するペプチド又は該ペプチドに由来するペプチド断片を検出する検出工程と、前記検出工程における配列番号2のアミノ酸配列を有するペプチド又は該ペプチドに由来するペプチド断片の検出レベルに基づいて、消化器癌の存在を判定する判定工程と、を含む消化器癌の診断方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消化器癌の診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在までに、消化器疾患に対する腫瘍マーカーとして様々な分子が発見されており、悪性腫瘍の診断・抗癌剤などの治療効果判定・腫瘍そのものの性格の推定・中長期的な予後の予測などに用いられている。最近では「バイオマーカー」として癌そのものに対する指標だけではなく、癌化する前から産生される指標物質や癌の浸潤・転移の過程で産生される物質が解析されており分子標的治療薬としても研究が行なわれている。
【0003】
消化器癌の腫瘍マーカーとして頻繁に使用されているのはCEA(Carcinoembryonic antigen)とCA19−9である。CEAは、食道・胃・大腸などの正常消化管粘膜に大量に発現しており、これらの組織に発生した癌においては血清中のCEAが高値を示すことが多い。
またCA19−9は、膵癌の60〜80%において高値となるほか、胆道癌・胃癌・大腸癌・原発性肝癌などでも高値となる。
しかしながら、CEAは早期癌における陽性率が低い、偽陽性率が比較的高いことが知られている。またCA19−9は、CEAその他の腫瘍マーカーとの相関性が高く、それらの腫瘍マーカーと併せて用いた場合でも陽性率を高めることに貢献しないことが多い。更には現状の腫瘍マーカーでは陽性とならない腫瘍を、高い検出率で検出できる癌の診断方法(検出方法)が求められている。
【0004】
Dermokine-α及びDermokine-βは松井らによって、2004年に皮膚表皮の分化層に特異的に発現される分子として同定された重層上皮特異的新規分泌蛋白質である(例えば、非特許文献1参照)。その後ToulzaらによってDermokine-γ1、γ2、δ1〜6等が報告された(例えば、非特許文献2参照)。これら以外にも様々なalternative splicing formが報告されているが、それぞれの生理機能は依然として明らかにはされていない(例えば、非特許文献3〜5参照)。
【0005】
Dermokine-α及びDermokine-βは、RT−PCR及びノザンブロッティング解析により、マウスの重層扁平上皮組織(皮膚、食道、前胃部、膣)を中心に高く発現していることが判明している。またマウスの胚においては、E15.5日目から発現する事が明らかとなり、重層上皮形成と相関して発現している事も明らかとされた(非特許文献1)。また、Demrokine-γは食道癌に、Dermokine-δは上皮性の癌において発現する事が明らかとなっている(例えば、非特許文献2参照)。
【非特許文献1】Matsui T. et al., Genomics, 84:384−97, 2004
【非特許文献2】Toulza E.et al.,, J. Invest. Dermatol., 126:503−6, 2006
【非特許文献3】Toulza E. et al.,, Genome Biol., 8:R107, 2007
【非特許文献4】Naso MF. et al.,, J. Invest. Dermatol., 127:1622−31, 2007
【非特許文献5】Bazzi H. et al., Dev. Dyn., 236:961−70, 2007
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、検出率の高い消化器癌の診断方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様は、被験体に由来する血液試料から、配列番号2のアミノ酸配列を有するペプチド又は該ペプチドに由来するペプチド断片を検出する検出工程と、前記検出工程における配列番号2のアミノ酸配列を有するペプチド又は該ペプチドに由来するペプチド断片の検出レベルに基づいて、消化器癌の存在を判定する判定工程と、を含む消化器癌の診断方法である。
前記検出工程は、配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するペプチド又は該ペプチドに由来するペプチド断片と結合する抗体を用いる免疫化学的方法であることが好ましい。また、前記免疫化学的方法は、酵素免疫測定法であることが好ましく、電気化学発光法であることもまた好ましい。
また前記消化器癌は、胃癌であることが好ましく、大腸癌であることもまた好ましい。
【0008】
前記判定工程の前に、被験体に由来する血液試料から、CEA抗原を検出するCEA抗原検出工程を更に含み、前記判定工程は、前記配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するペプチド又は該ペプチドに由来するペプチド断片の検出レベルと、前記CEA抗原検出工程におけるCEA抗原の検出レベルとに基づいて、消化器癌の存在を判定する工程であることが好ましい。
また、前記判定工程の前に、被験体に由来する血液試料から、CA19−9抗原を検出するCA19−9抗原検出工程を更に含み、前記判定工程は、前記配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するペプチド又は該ペプチドに由来するペプチド断片の検出レベルと、前記CA19−9抗原検出工程におけるCA19−9抗原の検出レベルとに基づいて、消化器癌の存在を判定する工程であることもまた好ましい。
【0009】
本発明の第2の態様は、被験体に由来する血液試料から、受託番号FERM ABP−10932のハイブリドーマにより産生される第1の抗体又は受託番号FERM ABP−10933のハイブリドーマにより産生される第2の抗体を用いて、前記第1の抗体及び前記第2の抗体の少なくとも一方と結合する抗原を検出する抗原検出工程と、前記第1の抗体及び前記第2の抗体の少なくとも一方と結合する抗原の検出レベルに基づいて、消化器癌の存在を判定する判定工程と、を含む消化器癌の診断方法である。
前記抗原検出工程は、前記第1の抗体と前記第2の抗体とを用いて、前記第1の抗体及び前記第2の抗体の少なくとも一方と結合する抗原を検出する工程であることが好ましい。
また前記抗原検出工程は、酵素免疫測定法で前記第1の抗体及び前記第2の抗体の少なくとも一方と結合する抗原を検出する工程であることが好ましく、電気化学発光法で前記第1の抗体及び前記第2の抗体の少なくとも一方と結合する抗原を検出する工程であることもまた好ましい。
また前記消化器癌は、胃癌であることが好ましく、大腸癌であることも又好ましい。
【0010】
前記判定工程の前に、被験体に由来する血液試料から、CEA抗原を検出するCEA抗原検出工程を更に含み、前記判定工程は、前記抗原検出工程における前記第1の抗体及び前記第2の抗体の少なくとも一方と結合する抗原の検出レベルと、前記CEA抗原検出工程におけるCEA抗原の検出レベルとに基づいて、消化器癌の存在を判定する工程であることが好ましい。
また、前記判定工程の前に、被験体に由来する血液試料から、CA19−9抗原を検出するCA19−9抗原検出工程を更に含み、前記判定工程は、前記抗原検出工程における前記第1の抗体及び前記第2の抗体の少なくとも一方と結合する抗原の検出レベルと、前記CA19−9抗原検出工程におけるCA19−9抗原の検出レベルとに基づいて、消化器癌の存在を判定する工程であることもまた好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、検出率の高い消化器癌の診断方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の消化器癌の診断方法は、(1)被験体に由来する血液試料から、配列番号2のアミノ酸配列を有するペプチド又は該ペプチドに由来するペプチド断片(以下、「特定ペプチド」ということがある)を検出する検出工程を含む。前記特定のアミノ酸配列を有するペプチド又は該ペプチドに由来するペプチド断片を血液試料から検出することにより、高い検出率で消化器癌を検出することができる。
【0013】
本発明における被験体としては特に制限はなく、霊長類などの哺乳類を用いることができる。中でもヒトを被験体として用いることが好ましい。また血液試料とは、被験体から採取した血液自体であっても、採取した血液に通常行われる遠心分離等の処理を行ったものであってもよい。本発明においては、簡便性の点から、被験体から採取した血液から常法により調製した血清あるいは血漿であることが好ましく、血清であることが更に好ましい。
【0014】
本発明における配列番号2のアミノ酸配列は、配列番号1の塩基配列を有するヒトDermokine-β遺伝子によってコードされるポリペプチドのアミノ酸配列である。ヒトDermokine-β遺伝子は、基底層上層の分化した表皮層で発現している遺伝子であって、重層上皮特異的分泌タンパク質をコードする。すなわち、配列番号2のアミノ酸配列で表されるポリペプチドは、前記重層上皮特異的分泌タンパク質であるDermokine-βを表す。
【0015】
ヒトDermokineには、様々なalternative splicing formが報告されている(上記非特許文献1〜5参照)。更にこれらalternative splicing formは、生合成された後に組織あるいは血中に存在する蛋白質分解酵素による分解を受けることが知られている。本発明における、配列番号2のアミノ酸配列を有するペプチドに由来するペプチド断片には、配列番号2のアミノ酸配列を有するヒトDermokineのalternative splicing form、好ましくはヒトDermokine-βが蛋白質分解酵素により分解されたペプチド断片、並びにDermokine-γ1、γ2、δ1〜6及びこれらが蛋白質分解酵素により分解されたペプチド断片が含まれる。
【0016】
更にこれらの断片から、Dermokine-αと共通するアミノ酸配列部分を欠失したアミノ酸配列を有するペプチド断片も好ましいペプチド断片である。
【0017】
またこれらの断片が、受託番号FERM ABP−10932のハイブリドーマにより産生される抗体、及び受託番号FERM ABP−10933のハイブリドーマにより産生される抗体の少なくとも一方と結合することが好ましい。
【0018】
配列番号2のアミノ酸配列を有するペプチド又は該ペプチドに由来するペプチド断片(特定ペプチド)を検出する方法としては、特に制限はなく、通常行われるペプチドの検出方法を用いることができるが、検出されるペプチドを定量可能な方法であることが好ましい。例えば、前記特定ペプチドと結合する抗体を用いる方法、高速液体クロマトグラフィー、質量分析等を挙げることができる。
【0019】
本発明においては、検出感度、特異性と簡便性の観点から、配列番号2のアミノ酸配列を有するペプチド又は該ペプチドに由来するペプチド断片(特定ペプチド)と結合する抗体を用いる免疫化学的方法であることが好ましい。
前記特定ペプチドに結合する抗体は、前記特定ペプチドに免疫特異的な抗体であれば、特に制限はない。ここで免疫特異的とは、その抗体が、前記特定ペプチド以外の他のペプチドに対する親和性よりも、前記特定ペプチドに対して実質的に高い親和性を有することを意味する。
また前記特定ペプチドに結合する抗体は、通常行われる方法によって調製することができる。
【0020】
例えば、ポリクローナル抗体であれば、次のようにして得ることができる。前記特定ペプチド、又はそれらのGST等との融合タンパク質をウサギ等の小動物に免疫して血清を得る。これを例えば、硫安沈殿、プロテインA、プロテインGカラム、DEAEイオン交換クロマトグラフィー、前記特定ペプチドをカップリングしたアフィニティカラム等により精製することで調製できる。
【0021】
また、例えばモノクローナル抗体であれば、前記特定ペプチドを、マウスなどの小動物に免疫を行い、同マウスより脾臓を摘出し、これをすりつぶして細胞を分離し、マウスミエローマ細胞とポリエチレングリコールなどの試薬により融合させ、これにより形成された融合細胞(ハイブリドーマ)の中から、前記特定ペプチドと結合する抗体を産生するクローンを選択する。次いで選択したハイブリドーマをマウス腹腔内に移植し、同マウスより腹水を回収し、得られたモノクローナル抗体を、例えば、硫安沈殿、プロテインA、プロテインGカラム、DEAEイオン交換クロマトグラフィー、前記特定ペプチドをカップリングしたアフィニティカラム等により精製することで調製できる。
【0022】
本発明における検出工程は、配列番号2のアミノ酸配列のうちカルボキシ末端側からDermokine-αと共通する部分を欠失したアミノ酸配列を有するペプチド断片を用いて調製したモノクローナル抗体を用いて、配列番号2のアミノ酸配列を有するペプチド又は該ペプチドに由来するペプチド断片を検出する免疫化学的方法であることが特に好ましい。
【0023】
本発明における免疫化学的方法としては、通常行われる方法を特に制限なく用いることができる。具体的には例えば、酵素免疫測定法(ELISA)、電気化学的発光法、吸光度測定、蛍光抗体法、放射免疫測定法(RIA)、表面プラズモン共鳴等を挙げることができる。本発明においては、検出感度、特異性と簡便性の観点から、酵素免疫測定法(ELISA)を用いることが好ましく、電気化学的発光法を用いることもまた好ましい。
【0024】
本発明における酵素免疫測定法としては、公知の方法を特に制限なく用いることができる。具体的には例えば、前記特定ペプチドと結合する抗体(一次抗体)を、プレート等の担体に固相化する。通常プレート等の非特異的な結合部位をふさぐため、カゼイン等蛋白質あるいは界面活性剤でブロッキング操作を行なう。次いで血液試料を添加してインキュベーションする。プレート等を洗浄した後、前記特定ペプチドと結合する抗体であって標識された二次抗体を添加し、インキュベーション後、プレート等を洗浄し、標識を検出することで行うことができる。
酵素免疫測定法における標識としては、物理的、化学的方法で定量可能な酵素であれば特に制限はない。例えば、アルカリフォスファターゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)、ルシフェラーゼ等の酵素を挙げることができる。また標識の検出方法は、標識に用いた酵素に応じて適宜選択して行うことができる。
【0025】
前記二次抗体としては、前記特定ペプチドに免疫特異的な抗体であることが好ましく、前記特定ペプチドに免疫特異的な抗体であって一次抗体とは異なる部位を認識する抗体であることがより好ましい。
【0026】
また、本発明における電気化学的発光法は、例えば、Clin. Chem. 37/9 1534 (1991)に記載の方法を適用して行うことができる。具体的には例えば、前記特定ペプチドと結合する抗体(一次抗体)を、磁気ビーズ等の担体に固相化する。通常磁気ビーズ等の非特異的な結合部位をふさぐため、カゼイン等蛋白質あるいは界面活性剤でブロッキング操作を行なう。次いで血液試料を添加してインキュベーションする。磁気ビーズ等を洗浄した後、前記特定ペプチドと結合する抗体であって電気化学発光物質、例えばルテニウム錯体で標識された二次抗体を添加し、インキュベーションする。その後、磁気ビーズ等を洗浄し電流を流して電気化学発光物質を発光させ、その発光を検出することで定量を行うことができる。
【0027】
本発明における判定工程は、配列番号2のアミノ酸配列を有するペプチド又は該ペプチドに由来するペプチド断片(特定ペプチド)の検出レベルに基づいて消化器癌の存在を検出することを特徴とする。
前記特定ペプチドの検出レベルとしては、被験体に由来する血液試料中に含まれる特定ペプチドの濃度又はそれに対応する定量値もしくは半定量値であれば、特に制限なく用いることができる。標識物質に応じて例えば、吸光度、発光強度、蛍光強度、放射線計数等を挙げることができる。
【0028】
本発明の判定工程は、被験体に由来する血液試料中の前記特定ペプチドの検出レベルと対照となる健常体に由来する血液試料中の前記特定ペプチドの検出レベルとを比較する工程と、前記被験体に由来する血液試料中の前記特定ペプチドの検出レベルが対照となる健常体に由来する血液試料中の前記特定ペプチドの検出レベルよりも大きい場合と消化器癌の存在とを関連づける工程と、を含むことが好ましい。
【0029】
ここで対照となる健常体とは、消化器癌が存在しないことが予め判明している個体を意味する。また、検出レベルが大きいとは、例えば、対照となる健常体群に由来する血液試料群における前記特定ペプチドの検出レベルの平均値と標準偏差とを考慮して設定した正常検出レベル(カットオフ値)よりも、被験体に由来する前記特定ペプチドの検出レベルのほうが大きいことである。
カットオフ値は、通常、健常体群の検出レベルの平均値に、標準偏差を2倍あるいは3倍した値を加算した値として定めることができるが、感度(検出率)・特異性(擬陽性率の低さ)をバランスよく満たす値に適宜定めることができる。
【0030】
本発明においては、前記特定ペプチドを検出する検出工程に加えて、他の抗原を検出する工程を更に設けることができる。前記他の抗原としては、公知の腫瘍マーカーを挙げることができ、中でも消化器癌の腫瘍マーカーを好適に用いることができる。前記消化器癌の腫瘍マーカーとしては、例えば、CEA抗原、CA19−9抗原、CA50、SPan−1、CA72−4、STn、NCC−ST−439、SLX、SCC、シフラ(サイトケラチン19)等を挙げることができる。
【0031】
本発明においては、前記判定工程前に、被験体に由来する血液試料から、CEA抗原を検出するCEA抗原検出工程を更に含み、前記判定工程において、配列番号2のアミノ酸配列を有するペプチド又は該ペプチドに由来するペプチド断片の検出レベル(特定ペプチドの検出レベル)と、CEA抗原の検出レベルとに基づいて、消化器癌の存在を判定することが好ましい。
特定ペプチドの検出レベルとCEA抗原の検出レベルとは、その消化器癌の検出における相関性が低いために消化器癌の存在をより高い検出率で検出することが可能となる。
【0032】
本発明におけるCEA抗原の検出には、通常行われているCEA抗原の検出方法を特に制限なく適用することができる。例えば、CEA/癌胎児性抗原キット・アーキテクトCEA(アボットジャパン社製)を用いて、常法により行うことができる。
【0033】
本発明において、前記特定ペプチドの検出レベルとCEA抗原の検出レベルとに基づいて、消化器癌の存在を判定する方法としては、被験体に由来する血液試料中の前記特定ペプチドの検出レベルと対照となる健常体に由来する血液試料中の前記特定ペプチドの検出レベルとを比較する工程と、被験体に由来する血液試料中のCEA抗原の検出レベルと対照となる健常体に由来する血液試料中のCEA抗原の検出レベルとを比較する工程と、を含み、
前記被験体に由来する血液試料中の前記特定ペプチドの検出レベルが対照となる健常体に由来する血液試料中の前記特定ペプチドの検出レベルよりも大きい場合、及び、前記被験体に由来する血液試料中のCEA抗原の検出レベルが対照となる健常体に由来する血液試料中のCEA抗原の検出レベルよりも大きい場合の少なくともいずれかの場合と、消化器癌の存在とを関連づける工程であることが好ましい。
【0034】
本発明においては、前記判定工程前に、被験体に由来する血液試料から、CA19−9抗原を検出するCA19−9抗原検出工程を更に含み、前記判定工程において、配列番号2のアミノ酸配列を有するペプチド又は該ペプチドに由来するペプチド断片の検出レベル(特定ペプチドの検出レベル)と、CA19−9抗原の検出レベルとに基づいて、消化器癌の存在を判定することが好ましい。
特定ペプチドの検出レベルとCA19−9抗原の検出レベルとは、その消化器癌の検出における相関性が低いために消化器癌の存在をより高い検出率で検出することが可能となる。
【0035】
本発明におけるCA19−9抗原の検出には、通常行われているCA19−9抗原の検出方法を特に制限なく適用することができる。例えば、癌抗原19−9キット/アーキテクトCA19−9XR(アボットジャパン社製)を用いて、常法により行うことができる。
【0036】
本発明において、前記特定ペプチドの検出レベルとCA19−9抗原の検出レベルとに基づいて、消化器癌の存在を判定する方法としては、被験体に由来する血液試料中の前記特定ペプチドの検出レベルと対照となる健常体に由来する血液試料中の前記特定ペプチドの検出レベルとを比較する工程と、被験体に由来する血液試料中のCA19−9抗原の検出レベルと対照となる健常体に由来する血液試料中のCA19−9抗原の検出レベルとを比較する工程と、を含み、
前記被験体に由来する血液試料中の前記特定ペプチドの検出レベルが対照となる健常体に由来する血液試料中の前記特定ペプチドの検出レベルよりも大きい場合、及び、前記被験体に由来する血液試料中のCA19−9抗原の検出レベルが対照となる健常体に由来する血液試料中のCA19−9抗原の検出レベルよりも大きい場合の少なくともいずれかの場合と、消化器癌の存在とを関連づける工程であることが好ましい。
【0037】
また本発明においては、前記判定工程前に、被験体に由来する血液試料から、CEA抗原を検出するCEA抗原検出工程と、CA19−9抗原を検出するCA19−9抗原検出工程とを更に含み、前記判定工程において、配列番号2のアミノ酸配列を有するペプチド又は該ペプチドに由来するペプチド断片の検出レベル(特定ペプチドの検出レベル)と、CEA抗原の検出レベルと、CA19−9抗原の検出レベルとに基づいて、消化器癌の存在を判定することもまた好ましい。
特定ペプチドの検出レベルとCEA抗原の検出レベル、及び、特定ペプチドの検出レベルとCA19−9抗原の検出レベルは、それぞれ相関性が低いために消化器癌の存在をより高い検出率で検出することが可能となる。
【0038】
本発明において、前記特定ペプチドの検出レベルと、CEA抗原の検出レベルと、CA19−9抗原の検出レベルとに基づいて、消化器癌の存在を判定する方法としては、被験体に由来する血液試料中の前記特定ペプチドの検出レベルと対照となる健常体に由来する血液試料中の前記特定ペプチドの検出レベルとを比較する工程と、被験体に由来する血液試料中のCEA抗原の検出レベルと対照となる健常体に由来する血液試料中のCEA抗原の検出レベルとを比較する工程と、被験体に由来する血液試料中のCA19−9抗原の検出レベルと対照となる健常体に由来する血液試料中のCA19−9抗原の検出レベルとを比較する工程と、を含み、
前記被験体に由来する血液試料中の前記特定ペプチドの検出レベルが対照となる健常体に由来する血液試料中の前記特定ペプチドの検出レベルよりも大きい場合、前記被験体に由来する血液試料中のCEA抗原の検出レベルが対照となる健常体に由来する血液試料中のCEA抗原の検出レベルよりも大きい場合、及び、前記被験体に由来する血液試料中のCA19−9抗原の検出レベルが対照となる健常体に由来する血液試料中のCA19−9抗原の検出レベルよりも大きい場合の少なくともいずれかの場合と、消化器癌の存在と、を関連づける工程であることが好ましい。
【0039】
本発明における消化器癌は、消化器に発生する癌であれば特に制限はない。例えば、胃癌、大腸癌、食道癌等をあげることができる。
本発明の特定ペプチドを検出する消化器癌の診断方法(検出方法)は、消化器癌として胃癌の存在を検出する診断方法であることが好ましく、消化器癌として大腸癌の存在を検出する診断方法であることもまた好ましい。
【0040】
また本発明は、被験体に由来する血液試料から、受託番号FERM ABP−10932(独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター、2007年11月8日付で受領)のハイブリドーマにより産生される第1の抗体又は受託番号FERM ABP−10933(独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター、2007年11月8日付で受領)のハイブリドーマにより産生される第2の抗体を用いて、前記第1の抗体及び前記第2の抗体の少なくとも一方と結合する抗原(以下、「特定抗原」ということがある)を検出する抗原検出工程と、前記第1の抗体及び前記第2の抗体の少なくとも一方と結合する抗原の検出レベルに基づいて、消化器癌の存在を判定する判定工程と、を含む消化器癌の診断方法である。特定のハイブリドーマによって産生される抗体を用いることで、より良好な検出率で消化器癌を検出することができる。
【0041】
本発明において前記抗原検出工程は、前記第1の抗体と前記第2の抗体とを用いて、前記第1の抗体及び前記第2の抗体の少なくとも一方と結合する抗原を検出する工程であることが好ましい。かかる検出方法を用いることにより、より高感度に消化器癌の存在を検出することができる。
【0042】
前記受託番号FERM ABP−10932及びFERM ABP−10933のもと寄託されたハイブリドーマは、それぞれ配列番号2のアミノ酸配列を有するペプチドに免疫特異的なモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマである。また前記2種のハイブリドーマは、配列番号2のアミノ酸配列のうち異なる配列を認識するモノクローナル抗体をそれぞれ産生することを特徴とする。すなわち、前記2種のハイブリドーマが産生する2種のモノクローナル抗体は、配列番号2のアミノ酸配列を有するペプチドの異なる配列を認識して、同時に結合することができる。
【0043】
更に本発明におけるハイブリドーマが産生するモノクローナル抗体は、配列番号2のアミノ酸配列のうち、C末端側のDermokine-αと共通するアミノ酸配列を欠失したアミノ酸配列からなるペプチドと免疫特異的に結合することを特徴とする。これにより、消化器癌の存在をより特異的に検出することが可能となる。
【0044】
受託番号FERM ABP−10932及びFERM ABP−10933のもと寄託されたハイブリドーマは、上述した通常の方法で作製することができる。具体的には、配列番号2のアミノ酸配列を有するDermokine-βのC末端側におけるDermokine-αと共通するアミノ酸配列を欠失したペプチドを常法により調製し、これを抗原として用いることで目的とするハイブリドーマを作製することができる。
【0045】
本発明において、前記抗原検出工程は、検出感度の観点から、酵素免疫測定法で前記特定抗体を検出する工程であることが好ましく、電気化学発光法で前記特定抗体を検出する工程であることもまた好ましい。
酵素免疫測定法及び電気化学発光法については、上述の内容をそのまま適用することができる。
【0046】
また本発明においては、前記特定抗原を検出する抗原検出工程に加えて、被験体に由来する血液試料から、CEA抗原を検出するCEA抗原検出工程を更に含み、前記判定工程において、前記特定抗原の検出レベルとCEA抗原の検出レベルとに基づいて、消化器癌の存在を判定することが好ましい。
特定抗原の検出レベルとCEA抗原の検出レベルとは、その消化器癌の検出における相関性が低いために消化器癌の存在をより高い検出率で検出することが可能となる。
【0047】
CEA抗原の検出方法、特定抗原の検出レベルとCEA抗原の検出レベルとに基づいて、消化器癌の存在を判定する工程については、上記特定ペプチドの検出を用いた消化器癌の存在を検出する工程と同様である。
【0048】
また本発明においては、前記特定抗原を検出する抗原検出工程に加えて、被験体に由来する血液試料から、CA19−9抗原を検出するCA19−9抗原検出工程を更に含み、前記判定工程において、前記特定抗原の検出レベルとCA19−9抗原の検出レベルとに基づいて、消化器癌の存在を判定することもまた好ましい。
特定抗原の検出レベルとCA19−9抗原の検出レベルとは、その消化器癌の検出における相関性が低いために消化器癌の存在をより高い検出率で検出することが可能となる。
【0049】
CA19−9抗原の検出方法、特定抗原の検出レベルとCA19−9抗原の検出レベルとに基づいて、消化器癌の存在を判定する工程については、上記特定ペプチドの検出を用いた消化器癌の存在を検出する工程と同様である。
【0050】
また本発明においては、前記特定抗原を検出する抗原検出工程に加えて、被験体に由来する血液試料から、CEA抗原を検出するCEA抗原検出工程と、被験体に由来する血液試料から、CA19−9抗原を検出するCA19−9抗原検出工程とを更に含み、前記判定工程において、前記特定抗原の検出レベルとCEA抗原の検出レベルとCA19−9抗原の検出レベルとに基づいて、消化器癌の存在を判定することもまた好ましい。
特定抗原の検出レベルとCEA抗原の検出レベル、及び、特定抗原の検出レベルとCA19−9抗原の検出レベルは、それぞれ消化器癌の検出における相関性が低いために消化器癌の存在をより高い検出率で検出することが可能となる。
【0051】
CEA抗原の検出方法、CA19−9抗原の検出方法、特定抗原の検出レベルとCEA抗原の検出レベルとCA19−9抗原の検出レベルとに基づいて、消化器癌の存在を判定する工程については、上記特定ペプチドの検出を用いた消化器癌の存在を検出する工程と同様である。
【0052】
本発明の特定抗原を検出する消化器癌の診断方法(検出方法)は、消化器癌として胃癌の存在を検出する診断方法であることが好ましく、消化器癌として大腸癌の存在を検出する診断方法であることもまた好ましい。
【実施例】
【0053】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。尚、特に断りのない限り、「%」は質量基準であり、市販のキット等は添付されたマニュアル等にしたがって使用した。
【0054】
(参考例1)
<Dermokine-βに対する抗体の作製>
Dermokine-βに対する抗体は、WO2005/083075号パンフレットに記載の実施例[モノクローナル抗体の作製]に従って作製した。具体的には、以下の通りである。
−Dermokine-β抗原の作製−
(1)Dermokin-βの産生ベクターの構築
まず、第一鎖cDNAを、Superscript II逆転写酵素(Invitrogen社製)を用いてヒト皮膚全RNA(Stratagene社製)から調製した。また、ヒトDermokine-βの全長(配列番号1)のORF(Dermokine-β、配列番号2)をコードするDNA断片は、5’側プライマーとして5'SalI-Dermokine-βプライマー(配列番号3)と、3’側プライマーとして、3'NotI-Dermokine-βプライマー(配列番号4)とを用いてPCRにより増幅した。また、ヒトDermokine-βのC末端側におけるDermokine-αとの共通部分を欠失したORF(Dermokine-β-ΔC;1−413アミノ酸)をコードするDNA断片は、5’側プライマーとして5'SalI-Dermokine-βプライマー(配列番号3)と、3'NotI-Dermokine-β-ΔCプライマー(配列番号5)を用いてPCRによって増幅した。
【0055】
【表1】

【0056】
尚、これらのプライマーは以下のGenBankアクセッション番号BC035311(Dermokine-β、配列番号1)に基づいて設計した。Dermokine-α、β、γ1、γ2のアミノ酸配列の比較と用いたプライマーの位置を図1に示した。
【0057】
PCRによって得られたそれぞれのDNA断片を、SalI制限酵素部位を平滑末端化とself ligationにより無くしたpcDNA3.1及びpcDNA3.1-SEAP(His)6(Imai T, Baba M, Nishimura M, Kakizai M, Takagi S, Yoshie O: J. Biol. Chem. 272:15036-15042, 1997)中のSalI-NotI部位に、それぞれサブクローニングし、pcDNA3.1-Dermokine-β及びpcDNA3.1-Dermokine-β-ΔC-SEAP(His)6を得た。作製したDermokin-β産生ベクター(プラスミド)はそれぞれ、Wizard PureFection Plasmid DNA Purification System (Promega社製)を用いてマニュアルに従って大量精製した。
【0058】
(2)Dermokineβ抗原の産生
pcDNA3.1-Dermokine-β-ΔC-SEAP(His)6をTransIT LT1(Mirus, Madison, WI)を用いることにより、293/EBNA-1細胞に一過性にtransfectionにより導入し、蛋白質(Dermokine-β-ΔC-SEAP(His)6)を発現させた。具体的には、7.62×10個の293/EBNA-1細胞を直径約15cmのディッシュ(Tissue culture treated dish with 20mm grid, 353025, FALCON)を用い、10% fetal bovine serum (FBS)を含むDalbecco’s Modified Eagle's medium (DMEM)中で、一晩37℃(5% CO存在下)にて培養した。トランスフェクション直前に5mlのOpti-MEM (Invitrogen-GIBCO)にてDish表面を静かに2回洗浄し、25mlのOpti-MEMを静かに加えて37℃(5% CO存在下)にて培養した。次に、チューブ(Sterile culture tubes, 2231-012N, IWAKI)に1.3mlのOpti-MEMを入れ、50μlのTransIT LT1を加えて懸濁し、5分間、室温にて放置した。次に25μgのプラスミド(pcDNA3.1-Dermokine-β-ΔC-SEAP(His)6)を加えて懸濁し、再び5分間、室温にて放置した。このようにして形成されたプラスミドが入ったリポソーム溶液を、先の293/EBNA-1細胞が生育したディッシュに静かに端から加え、ゆっくりとディッシュを左右、前後に5回ずつ揺らした後、37℃(5% CO存在下)にて72時間培養した。
【0059】
(3)Dermokine-β抗原の精製
(2)において調製したDermokine-β-ΔC-SEAP(His)6が分泌された培養上清(約24ml)を遠心(3000rpm, 10min, 4℃,Himac CF7D2, HITACHI製)してデブリスを除いた。上清を新しいチューブに移し、Leupeptinを2μg/ml、イミダゾールを10mMになるように加えた。そのチューブに10mM イミダゾール/20mM Hepes(pH7.5)で3回洗浄した250μlのTALON Superflow Metal Affinity Resin (8908-1, BD Biosciences Clontech社製)を加え、2時間、4℃にて穏やかに懸濁した。次いで500×g、3分間、4℃にて遠心し、上清を除いた後、洗浄バッファー(10mM イミダゾール/PBS(phosphate buffered saline)(pH7.5))に懸濁し、再度500×g、3分間、4℃にて遠心した。ビーズを少量の洗浄バッファーに懸濁し、カラム(Disposable 2ml polystyrene column、29920、PIERCE)に入れて自然落下にて詰め、ビーズが沈降した後、5mlの洗浄バッファーにてカラムを洗浄した。その後、250μlずつの溶出バッファー(200mM イミダゾール/PBS(pH=7.5))にて4回溶出を行い、2番目の分画に溶出されたものをPBS (pH=7.5)に対してUltrafree-0.5遠心式フィルターユニット(10kDa; ミリポア社製)を用いて透析・濃縮した。
精製された蛋白質の一部をSDSサンプルバッファー(62mM Tris・HCl, 3% SDS, 5% グリセロール, 2% 2-メルカプトエタノール, pH6.7)に溶解し、同じくSDSサンプルバッファーに溶解したウシ血清アルブミン(BSA, フラクション V; ナカライテスク)を標準品として供にSDS−PAGEに供し、クマジーブリリアントブルーで染色してバンドの濃度を比較する事によって、Dermokine-β-ΔC-SEAP(His)6の濃度を決定した。これよりBSA 10ngに対応するバンドの濃度のDermokine-β-ΔC-SEAP(His)6量を10Uとした。
【0060】
−Dermokine-βに対するモノクローナル抗体の作製−
(1)Dermokine −β-ΔC-SEAP(His)6に対するモノクローナル抗体の作製
Dermokine −β-ΔC-SEAP(His)6を、Balb/C雌マウス(6週齢)の足部へ、一匹当たり60μg(片足あたり30μg)をTiterMaxGold(SIGMA社製)とともに投与した。更に同マウスの足部へ、2週間後に60μg(片足あたり30μg)のDermokine-β-ΔC-SEAP(His)6をTiterMaxGold(SIGMA社製)とともに、更にその1週間後にDermokine-β-ΔC-SEAP(His)6を一匹当たり40μg(片足あたり20μg)投与した。
【0061】
最終の免疫感作が終了した3日後にマウスからリンパ節を摘出した。摘出したリンパ節をメッシュで分散させ、あらかじめ培養しておいたP3U1マウスミエローマ細胞と混合し、ポリエチレングリコール1500(ロシュ社製)存在下で細胞融合した。融合したハイブリドーマ細胞は、96ウエルマイクロカルチャープレート数枚に分散させ、15%牛胎児血清とHAT試薬(インビトロジェン社製)を含むRPMI1640液体培地(コージンバイオ社製)中で1〜2週間培養した。
Dermokine-β-ΔC-SEAP(His)6に対するモノクローナル抗体を産生する細胞の選択は抗原固相プレートによるELISAにより実施した。すなわち、ハイブリドーマ細胞のコロニーが十分に育った時点でその培養上清を採取し、免疫した抗原を固相吸着した96ウエルマイクロプレート(ナルジェ・ヌンク社製)へ添加して、その上清中のモノクローナル抗体を反応させた。
その後にプレート洗浄し、マウスIgGへ反応するアルカリフォスターゼ標識2次抗体(Zymed社製)を適切な濃度で添加・反応させた。一定時間後にプレートを洗浄し、TMB基質発色溶液(MOSS社製)を加え、その発色の有無により細胞を選択し、目的のモノクローナル抗体産生ハイブリドーマを33株選択した。選択された株のうち、Dermokine-β-ΔC-SEAP(His)6に対してより反応の高いモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ10株について、それぞれ数回のクローニングを施し、最終的なハイブリドーマを得た。
【0062】
(2)Dermokine-β標準抗原の作製
pcDNA3.1-Dermokine-βを293/EBNA-1細胞に、lipofectamine PLUS(Invitrogen-GIBCO)を用いて一過性に導入し、72時間培養してヒトDermokine-β培養上清を得た。そのうちの0.5mlをUltrafree-0.5遠心式フィルターユニット(10kDa; ミリポア社製)を用いて25μlに濃縮し、三倍濃度のSDSサンプルバッファーを25μl加えて50μlとした。このDermokine-βの希釈系列をSDS-PAGEで分離し、(1)で作製したモノクローナル抗体を用いてイムノブロットを行った後、上記で得られたDermokine-β-ΔC-SEAP(His)6標準品と比較して蛋白質濃度を決定してELISAの一次標準品とした。
【0063】
pcDNA3.1-Dermokine-βをヒト大腸癌細胞株DLD−1細胞に、lipofectamine PLUS(Invitrogen-GIBCO)を用いて細胞に導入した。その後、0.5mg/ml G418(G418 sulfate, Calbiochem)を含む10% FBS/RPMI1640の培地で培養しG418薬剤耐性細胞を選択した。Dermokine-βの発現を確認するために、細胞の一部をSDSサンプルバッファーに溶解し超音波破砕にてDNAを切断後にSDS−PAGEにて分離し、(1)で作製したモノクローナル抗体を用いてイムノブロットを行った。得られた細胞クローンからDermokine-βを発現するDLD−1細胞クローン(DLD-1/Dermokine-βクローン#38)を選択した。
DLD-1/Dermokine-βクローン#38をRPMI培地のみで24時間培養した上清15mlを遠心式フィルターユニット、Centriplus YM-10 (ミリポア社製)で10倍濃縮し、ヒト正常血清(MIDLAND BIOPRODUCTS CORP#8060-10950)で10倍希釈した。一次標準品とELISAにて比較してこの濃度を3200U/mlとし、これをサンプル測定時の検量線用の標準品として使用した。
【0064】
(実施例1)
<ヒト血清中のDermokine-βの定量>
(1)Dermokine-β測定系の構築
上記で得られたハイブリドーマをハイブリドーマSFM(GIBCO BRL)で培養し上清を回収した。上清と等量の1Mグリシン・NaOH、0.3M NaCl(pH8.6)を添加し、プロテインA固定化多孔質ガラスビーズ担体(PROSEP-A、ミリポア社)カラムに流し、1Mグリシン・NaOH、0.3M NaCl(pH8.6)にてカラムを洗浄後、0.1Mクエン酸(pH3.0)でIgGを溶出した。溶出したIgG液をPBS(pH7.8)で透析し、精製抗体を得た。
この精製抗体を固相抗体に使用、あるいは、HRP標識を行ってHRP標識抗体として使用した。
【0065】
HRP標識抗体は以下のようにして調製した。Horse Radish Peroxidase(Roche社製)4mgを精製水1mlで溶解し、0.1M メタ過ヨウ素酸ナトリウム(和光純薬)0.2mlを添加し、室温で20分間攪拌後、0.001M酢酸溶液(pH4.4)にて透析を行い、0.2M炭酸ナトリウムにてpH9.2に調整し、HRP溶液とした。標識する精製抗体を0.01M炭酸ナトリウム(pH9.5)で透析し、透析した抗体1ml(2mg)と、上記で調製したHRP溶液1mlとを混合し、室温で2時間攪拌後、4mg/ml水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)0.1mlを添加することで反応を停止した。さらに室温で2時間攪拌後、4℃に静置したものをSephacryl S-200を用いたゲルろ過に付し、OD280nmとOD405nmを測定してメインピークを回収し、HRP標識抗体を得た。
【0066】
10種類のモノクローナル抗体のうち、固相抗体としてモノクローナル抗体#45と、HRP標識抗体としてモノクローナル抗体#3に由来するHRP標識抗体#3とを組み合わせてELISAの測定系を構築した。
【0067】
(2)Dermokine-β定量用の標準直線の作製
モノクローナル抗体#45を最終濃度OD280=0.05となるようにPBS(pH7.2)に溶解して96ウエルマイクロプレート(ナルジェ・ヌンク社製)の各ウエルに0.1mlずつ添加した。含有するモノクローナル抗体を吸着させた後に、溶液を捨て、さらにPBSで3回洗浄した。ブロッキングを目的として1%ブロックエース(大日本製薬)を含有するPBS溶液を各ウエルに0.2mlずつ添加し、1時間後に溶液を廃棄し、更にPBSにて3回洗浄した。
【0068】
洗浄したウエルに、0.05M Tris−HCl(pH7.5)、150mM NaCl、1%ブロックエース、1%マウス血清、10μM EDTA、0.01% NaNからなる溶液を50μl添加し、次にあらかじめ濃度を設定した標準品Dermokine-βを50μl添加した。湿潤箱内にそのプレートを4度一晩静置した後に溶液をすべて廃棄して、0.01% Tween-20(バイオラッド社製)を含むPBSにて3回洗浄した。
【0069】
その後に、上記HRP標識モノクローナル抗体#3を含む1%ブロックエース含有PBS溶液を各ウエルに0.1mlずつ添加した。その後、湿潤箱内にプレートを入れ、室温にて1時間静置した。反応が終了した後に、プレート中の溶液をすべて廃棄し、0.01% Tween-20を含むPBSにて3回洗浄した。
洗浄が終了した後に、TMB基質溶液(シグマ・アルドリッチ社製)を各ウエルに0.1mlずつ添加した。そのままプレートを静置して30分間発色させた。発色後、プレートの各ウエルへ1N HSO溶液を0.1mlずつ添加し、よく混和して反応を停止させた。
反応停止後にマイクロプレートリーダー(モレキュラーデバイス社製)にてプレート各ウエルの450nm波長における吸光度を測定し、発色の強さを数値化した。市販解析プログラムソフト(SOFTmax-J Ver.2.1 和光純薬工業社製)を用いて、標準Dermokine-βの抗原濃度と吸光度値から標準直線(図2)を作製した。
上記モノクローナル抗体#3及びモノクローナル抗体#45を用いたELISAの測定系は、Dermokine-β及びDermokine-γ(以下Dermokine-β/γと称す)を検出可能であった。また、膜結合部位以外の配列が共通であるDermokine-δに関しても検出が可能であると考えられる。
【0070】
(3)被験血清中のDermokine-β/γの検出
上記Dermokine-β定量用の標準直線の作製において、あらかじめ濃度を設定した標準品Dermokine-βの代わりに、10例の健常成人から採取したヒト被験血清を用いた以外は上記と同様にして、被験血清中のDermokine-β/γ濃度を算定した。結果を図3に示した。
【0071】
(実施例2)
<胃癌患者血清中のDermokine-β/γの検出・定量>
実施例1におけるDermokine-β定量用の標準直線の作製において、あらかじめ濃度を設定した標準品Dermokine-βの代わりに、被験血清を用いた以外は実施例1と同様にして、被験血清中のDermokine-β/γを検出し、その濃度を定量した。
被験血清として、53例の胃癌被験患者の血清を用い、それぞれの血清中におけるDermokine-β/γ抗原量を測定した。結果を図3に示した。
【0072】
健常成人の平均値は31.07U/ml、標準偏差は11.96U/mlであった。平均値+標準偏差×2を目安として、55(54.99)U/mlをカットオフ値として設定した。
胃癌患者53例の平均値と標準偏差は、49.40±65.67U/mlであった。上記カットオフ値を基準として53例中10例が陽性、すなわち陽性率(検出率)は18.9%となった(図3)。
【0073】
一方、既存マーカーのCEA抗原を常法により測定したところ、53例中10例が陽性(陽性率18.9%)であった。また、既存マーカーのCA19−9抗原を常法により測定したところ、53例中10例が陽性(陽性率18.9%)となった。
【0074】
次に、Dermokine-β/γの定量結果とCEA抗原の定量結果とに基づいて胃癌の存在を検出したところ、少なくともいずれかの定量結果において陽性と判定されたのは、53例中20例(陽性率37.7%)であった。
また、Dermokine-β/γの定量結果とCA19−9抗原の定量結果とに基づいて胃癌の存在を検出したところ、少なくともいずれかの定量結果において陽性と判定されたのは、53例中18例(陽性率34.0%)であった。
【0075】
一方、CEA抗原の定量結果とCA19−9抗原の定量結果とに基づいて胃癌の存在を検出したところ、少なくともいずれかの定量結果において陽性と判定されたのは、53例中15例(陽性率28.3%)であった。
【0076】
更に、Dermokine-β/γの定量結果と、CEA抗原の定量結果と、CA19−9抗原の定量結果とに基づいて胃癌の存在を検出したところ少なくともいずれかの定量結果において陽性と判定されたのは、53例中23例(陽性率43.4%)であった(図4、表2)。
【0077】
すなわち、現行のCEA抗原とCA19−9抗原の2項目検査に、Dermokine-β/γの検出を加えることにより胃癌検出の陽性率は15.1%も上昇したことになる。
【0078】
【表2】

【0079】
更に、陽性と判定された胃癌患者のうち、早期癌(T分類におけるT1:癌の浸潤が粘膜(m)または粘膜下層(sm)にとどまるもの)の割合はDermokine-β/γによる検出では30.0%(3/10例)であった。一方、CEA抗原による検出では20.0%(2/10例)、CA19−9抗原では10.0%(1/10例)であった。
また、早期癌全体(23例)における各検査項目の陽性率は、Dermokine-β/γでは13.3%(3/23例)、CEA抗原では8.7%(2/23例)、CA19−9抗原では4.3%(1/23例)であった。
すなわち、現行の2項目と比較してDermokine-β/γによる胃癌の検査は早期癌に対して感度が高かったことがわかる(表3)。
【0080】
【表3】

【0081】
(実施例3)
<大腸癌患者血清中のDermokine-β/γの定量>
被験血清として、大腸癌患者65例に由来する血清を用いて、実施例2と同様にして被験血清中におけるDermokine-β/γ抗原量を測定した。結果を図3に示した。
被験大腸癌患者65例におけるDermokine-β/γ抗原量の平均値と標準偏差は、104.64±348.29U/mlとなった。
実施例2と同様のカットオフ値を基準として大腸癌の検出を行ったところ、大腸癌患者の65例中10例が陽性(陽性率15.4%)となった(図3)。
一方、CEA抗原の測定により大腸癌の検出を行ったところ、65例中25例(陽性率38.5%)であった。また、CA19−9抗原の測定による大腸癌の検出では65例中11例が陽性(陽性率16.9%)であった。
【0082】
次に、Dermokine-β/γの定量結果とCEA抗原の定量結果とに基づいて大腸癌の存在を検出したところ、少なくともいずれかの定量結果において陽性と判定されたのは、65例中35例(陽性率53.8%)であった。
また、Dermokine-β/γの定量結果とCA19−9抗原の定量結果とに基づいて大腸癌の存在を検出したところ、少なくともいずれかの定量結果において陽性と判定されたのは、65例中20例(陽性率30.8%)であった。
【0083】
一方、CEA抗原の定量結果とCA19−9抗原の定量結果とに基づいて大腸癌の存在を検出したところ、少なくともいずれかの定量結果において陽性と判定されたのは、65例中31例(陽性率47.7%)であった。
【0084】
更に、Dermokine-β/γの定量結果と、CEA抗原の定量結果と、CA19−9抗原の定量結果とに基づいて大腸癌の存在を検出したところ少なくともいずれかの定量結果において陽性と判定されたのは、65例中39例(陽性率60.0%)であった。(図5、表4)
すなわち、現行のCEA抗原とCA19−9抗原の2項目検査に、Dermokine-β/γの検出を加えることにより大腸癌検出の陽性率は12.3%も上昇したことになる。
【0085】
【表4】

【0086】
更に、陽性と判定された大腸癌患者のうち、早期癌(T分類におけるTis(m)またはT1(sm)にとどまるもの)の割合はDermokine-β/γによる検出では50.0%(5/10例)であった。一方、CEA抗原による検出では16.0%(4/25例)、CA19−9抗原では9.1%(1/11例)であった。
また、大腸癌の早期癌全体(17例)における各検査項目の陽性率は、Dermokine-β/γでは29.4%(5/17例)、CEA抗原では23.5%(4/17例)、CA19−9抗原では5.9%(1/17例)であった。
すなわち、現行の2項目と比較してDermokine-β/γによる大腸癌の検査は早期癌に対して感度が高かったことがわかる(表5)。
【0087】
【表5】

【0088】
以上の結果から、胃癌・大腸癌共に、Dermokine-β/γは既存のマーカーと比較して早期癌の検出率(陽性率)が高く、更に既存のマーカーと組合わせることにより検出率を大幅に上昇させることができるマーカーであることが明らかとなった。
本発明においてはDermokine-β/γを特異的に検出することで、消化器癌の検出率をより効果的に向上させることができた。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】Dermokine-α、β、γ1、γ2のアミノ酸配列の比較と、用いたプライマーの位置を模式的に示した図である。
【図2】血清中のDermokine-β濃度と吸光度との関係を示す標準直線である。
【図3】胃癌53例、大腸癌65例、および健常人10例の血清中Dermokine-β/γ濃度の分布を示す図である。
【図4】胃癌53例中のDermokine-β/γ、CEA、CA19-9の各陽性例数とその相補性の関係を示す図である。
【図5】大腸癌65例中のDermokine-β/γ、CEA、CA19-9の各陽性例数とその相補性の関係を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験体に由来する血液試料から、配列番号2のアミノ酸配列を有するペプチド又は該ペプチドに由来するペプチド断片を検出する検出工程と、
前記検出工程における配列番号2のアミノ酸配列を有するペプチド又は該ペプチドに由来するペプチド断片の検出レベルに基づいて、消化器癌の存在を判定する判定工程と、
を含む消化器癌の診断方法。
【請求項2】
前記検出工程は、配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するペプチド又は該ペプチドに由来するペプチド断片と結合する抗体を用いる免疫化学的方法である請求項1に記載の消化器癌の診断方法。
【請求項3】
前記免疫化学的方法は、酵素免疫測定法である請求項2に記載の消化器癌の診断方法。
【請求項4】
前記免疫化学的方法は、電気化学発光法である請求項2に記載の消化器癌の診断方法。
【請求項5】
前記消化器癌は、胃癌である請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の消化器癌の診断方法。
【請求項6】
前記消化器癌は、大腸癌である請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の消化器癌の診断方法。
【請求項7】
前記判定工程の前に、被験体に由来する血液試料から、CEA抗原を検出するCEA抗原検出工程を更に含み、
前記判定工程は、前記配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するペプチド又は該ペプチドに由来するペプチド断片の検出レベルと、前記CEA抗原検出工程におけるCEA抗原の検出レベルとに基づいて、消化器癌の存在を判定する工程である請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の消化器癌の診断方法。
【請求項8】
前記判定工程の前に、被験体に由来する血液試料から、CA19−9抗原を検出するCA19−9抗原検出工程を更に含み、
前記判定工程は、前記配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するペプチド又は該ペプチドに由来するペプチド断片の検出レベルと、前記CA19−9抗原検出工程におけるCA19−9抗原の検出レベルとに基づいて、消化器癌の存在を判定する工程である請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の消化器癌の診断方法。
【請求項9】
被験体に由来する血液試料から、受託番号FERM ABP−10932のハイブリドーマにより産生される第1の抗体又は受託番号FERM ABP−10933のハイブリドーマにより産生される第2の抗体を用いて、前記第1の抗体及び前記第2の抗体の少なくとも一方と結合する抗原を検出する抗原検出工程と、
前記第1の抗体及び前記第2の抗体の少なくとも一方と結合する抗原の検出レベルに基づいて、消化器癌の存在を判定する判定工程と、を含む消化器癌の診断方法。
【請求項10】
前記抗原検出工程は、前記第1の抗体と前記第2の抗体とを用いて、前記第1の抗体及び前記第2の抗体の少なくとも一方と結合する抗原を検出する工程である請求項9に記載の消化器癌の診断方法。
【請求項11】
前記抗原検出工程は、酵素免疫測定法で前記第1の抗体及び前記第2の抗体の少なくとも一方と結合する抗原を検出する工程である請求項9又は請求項10に記載の消化器癌の診断方法。
【請求項12】
前記抗原検出工程は、電気化学発光法で前記第1の抗体及び前記第2の抗体の少なくとも一方と結合する抗原を検出する工程である請求項9又は請求項10に記載の消化器癌の診断方法。
【請求項13】
前記消化器癌は、胃癌である請求項9〜請求項12のいずれか1項に記載の消化器癌の診断方法。
【請求項14】
前記消化器癌は、大腸癌である請求項9〜請求項12のいずれか1項に記載の消化器癌の診断方法。
【請求項15】
前記判定工程の前に、被験体に由来する血液試料から、CEA抗原を検出するCEA抗原検出工程を更に含み、
前記判定工程は、前記抗原検出工程における前記第1の抗体及び前記第2の抗体の少なくとも一方と結合する抗原の検出レベルと、前記CEA抗原検出工程におけるCEA抗原の検出レベルとに基づいて、消化器癌の存在を判定する工程である請求項9〜請求項14のいずれか1項に記載の消化器癌の診断方法。
【請求項16】
前記判定工程の前に、被験体に由来する血液試料から、CA19−9抗原を検出するCA19−9抗原検出工程を更に含み、
前記判定工程は、前記抗原検出工程における前記第1の抗体及び前記第2の抗体の少なくとも一方と結合する抗原の検出レベルと、前記CA19−9抗原検出工程におけるCA19−9抗原の検出レベルとに基づいて、消化器癌の存在を判定する工程である請求項9〜請求項14のいずれか1項に記載の消化器癌の診断方法。

【図2】
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【図3】
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【図1】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−121874(P2009−121874A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−294243(P2007−294243)
【出願日】平成19年11月13日(2007.11.13)
【出願人】(506137147)エーザイ・アール・アンド・ディー・マネジメント株式会社 (215)
【Fターム(参考)】