説明

消化器癌診断用マーカー、および消化器癌の検査方法

【課題】消化器癌を早期かつ簡便に検査する検査方法に用いることができる消化器癌診断用マーカー、および消化器癌早期かつ簡便に検査し得る消化器癌の検査方法を提供する。
【解決手段】本発明の消化器癌診断用マーカーは、消化器癌の罹患の有無を識別するために用いられ、血液中に含まれる糖タンパク質から遊離されるN結合型糖鎖であり、糖鎖配列に特徴があるとともに、MALDI−TOF−MS型分析機を用いた質量分析によるピークの質量電荷比が2521m/z、2216m/z、2054m/z、2681m/z、3108m/zのいずれかであることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消化器癌診断用マーカー、および消化器癌の検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
消化器は、食物の摂取、運搬、消化および栄養素の吸収、排泄の働きを担う器官である。消化器のうち膵臓は、胃の背側にある長さが約15cmの臓器であり、主な疾患としては膵臓癌と膵炎があり、特に膵臓癌は、近年日本人の死亡率が上昇してきている癌の一つとして知られている。
【0003】
膵臓癌の原因は完全には解明されていないが、食生活の欧米化による動物性脂肪やタンパク質、アルコールなどの過剰摂取、或いは喫煙などがリスクファクターであると考えられている。さらに、慢性膵炎、膵石症、糖尿病、急性膵炎の既往のある人も膵臓癌の高危険群であると考えられている。
【0004】
膵臓癌は、外分泌の働きを持つ細胞、特に膵液が流れる膵管の細胞から発生する癌であり、膵臓癌の90%以上がこのタイプである。膵臓癌は非常に悪性度が高く、早期の段階で他臓器への転移をきたすことから、早期発見が一つの課題である。
【0005】
しかし、膵臓は、胃や十二指腸、脾臓、小腸、大腸、肝臓、胆嚢など多くの臓器に囲まれ、後腹膜に存在するため、各種の画像診断を用いても初期段階の癌を発見することがきわめて困難であり、進行癌で発見される場合が多いのが現状である。
【0006】
また、胃癌は、日本と東南アジアが高発生地域であり、癌死亡率では世界第2位を占めている。胃癌の予後は、診断技術や治療法の発達により改善しているが、進行胃癌の予後は未だ良好とはいえず、胃漿膜にまで浸潤した胃癌の予後の5年生存率は35%と低い。
【0007】
進行癌の治癒的切除の後に起こる再発の主原因の一つは腹膜播種である。化学療法の進歩により腹膜播種再発に対する治療効果もみられてきているが、未だに5年生存率は低い。胃癌の腹膜播種の機序には、多くのステップと多くの遺伝子が関与していることが知られている。胃癌の腹膜播種には、接着分子関連遺伝子、アポトーシス関連遺伝子や他の遺伝子が深く関与しているという報告がある。胃癌の腹膜播種を始めとする胃癌の転移のメカニズム解明に関してもさらなる研究が必要である。
【0008】
さらに、食道癌は、約半数が胸部中部食道に発生する。本邦の食道癌は90%以上が扁平上皮癌である。罹患率、死亡率ともに男性のほうが高く、女性の5倍以上である。食道癌の発癌に関しては、飲酒や喫煙の関与は以前より報告されており、近年、ALDH2の関与が報告されている。食道癌の手術は高度侵襲を伴い、予後不良な疾患である。
【0009】
近年、早期癌の増加に伴い内視鏡的治療で根治できる症例も増加してきている。さらに化学放射線療法の効果もみられてきており、治療成績の向上がみられている。しかし、切除不能な進行癌の予後は依然不良である。今後も早期癌発見の新しいスクリーニング体系の確立と化学療法の進歩が望まれるところである。
【0010】
ところで、これまでに開発された癌の検査・診断方法として、腫瘍マーカーの測定が挙げられる。
【0011】
膵臓癌診断のための血中腫瘍マーカーとしては、例えば、CA19−9(非特許文献1参照。)、Dupan−2(非特許文献2参照。)、CA−50(非特許文献3参照。)、Span−1(非特許文献4参照。)等が既に開発されている。また、腫瘍細胞に特異的に発現している遺伝子をマーカーとして用いることにより、膵臓癌の検査や診断を行う方法がいくつかの特許公報で開示されている。現在までに、PANCIAおよびPANCIB(特許文献1参照。)や、KCCR13L(特許文献2参照。)が膵臓癌マーカー遺伝子として開示されている。また、膵臓癌の細胞の染色体の特異的な部位にDNAの増幅や欠失があることから、該膵癌に特異的な染色体部位の増幅や欠失を検出することによって、膵癌を診断する方法も提案されている。
【0012】
また、胃癌に関しては、既知のI型コラーゲンのC端非3重鎖テロペプチド(ICTP)の発現量の変動をマーカーにすることが特徴である。進行胃癌、特にスキルス胃癌の適切な診断マーカー(特許文献3参照。)や、癌部または非癌部組織検体より得られたDNA繰り返し配列中に存在する脱メチル化DNA数を測定し、その割合に基づいて胃癌をはじめ、種々の癌疾患の予後が良好か否かを判断する方法が提案されている(例えば、特許文献4参照。)。
【0013】
さらに、転移性結腸直腸癌あるいは原発性あるいは転移性の胃癌または食道癌に関しては、SI、CDX1、またはCDX2の発現を指標として、スクリーニングする方法が提案されている(特許文献5参照。)。
【0014】
しかしながら、腫瘍マーカーは、進行した悪性腫瘍の動態を把握するために使用されているのが現状であり、腫瘍マーカーを利用した癌の検査・診断方法として、早期診断に使用できるものは確立されていない。
【0015】
特に、膵臓癌は、早期診断が困難であり、治療成績も不良なため、スクリーニングに応用できる方法の開発が急務である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特表2000−502902号公報
【特許文献2】特願2003−041843号公報
【特許文献3】特開2001−33460号公報
【特許文献4】特開2002−112799号公報
【特許文献5】特表2003−532389号公報
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】Somatic Cell Genet., 5, 957-972, 1979
【非特許文献2】Cancer Res., 42, 601, 1982
【非特許文献3】Int. Arch. Allergy Appl. Immunol., 71, 178-181, 1983
【非特許文献4】日外誌, 87, 236, 1986
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明の目的は、消化器癌を早期かつ簡便に検査する検査方法に用いることができる消化器癌診断用マーカー、および消化器癌早期かつ簡便に検査し得る消化器癌の検査方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
このような目的は、下記(1)〜(12)に記載の本発明により達成される。
(1) 消化器癌の罹患の有無を識別するために用いられ、
血液中に含まれる糖タンパク質から遊離されるN結合型糖鎖であり、
該N結合型糖鎖は、下記式(1)〜下記式(6)で表されるもののうち少なくとも1種であることを特徴とする消化器癌診断用マーカー。
【0020】
【化1】

【0021】
【化2】

【0022】
【化3】

【0023】
【化4】

【0024】
【化5】

【0025】
【化6】

【0026】
(2) 前記式(1)で表される前記N結合型糖鎖は、MALDI−TOF−MS型分析機を用いた質量分析によるピークの質量電荷比が2521m/zである上記(1)に記載の消化器癌診断用マーカー。
【0027】
(3) 前記式(2)で表される前記N結合型糖鎖は、MALDI−TOF−MS型分析機を用いた質量分析によるピークの質量電荷比が2216m/zである上記(1)に記載の消化器癌診断用マーカー。
【0028】
(4) 前記式(3)で表される前記N結合型糖鎖は、MALDI−TOF−MS型分析機を用いた質量分析によるピークの質量電荷比が2216m/zである上記(1)に記載の消化器癌診断用マーカー。
【0029】
(5) 前記式(4)で表される前記N結合型糖鎖は、MALDI−TOF−MS型分析機を用いた質量分析によるピークの質量電荷比が2054m/zである上記(1)に記載の消化器癌診断用マーカー。
【0030】
(6) 前記式(5)で表される前記N結合型糖鎖は、MALDI−TOF−MS型分析機を用いた質量分析によるピークの質量電荷比が2681m/zである上記(1)に記載の消化器癌診断用マーカー。
【0031】
(7) 前記式(6)で表される前記N結合型糖鎖は、MALDI−TOF−MS型分析機を用いた質量分析によるピークの質量電荷比が3108m/zである上記(1)に記載の消化器癌診断用マーカー。
【0032】
(8) 消化器癌が、膵臓癌、食道癌、または胃癌である、上記(1)ないし(7)のいずれかに記載の消化器癌診断用マーカー。
【0033】
(9) 上記(1)ないし(8)に記載の消化器癌診断用マーカーを用いて消化器癌の罹患の有無を識別する消化器癌の検査方法であって、
前記糖タンパク質から遊離される、前記式(1)〜前記式(6)で表されるN結合型糖鎖を検出する検出工程と、
前記検出工程の検出結果に基づいて、前記消化器癌の罹患の有無を識別する識別工程とを有することを特徴とする消化器癌の検査方法。
【0034】
(10) 前記検出工程において、前記式(1)〜前記式(6)で表されるN結合型糖鎖の検出は、MALDI−TOF−MS型分析機による質量分析により行われる上記(9)に記載の消化器癌の検査方法。
【0035】
(11) 前記質量電荷比[m/z]が2521、2216および2054のうちの少なくとも1つの検出値が、健常人の検出値よりも低い場合に、消化器癌の罹患が疑われると識別する上記(10)に記載の消化器癌の検査方法。
【0036】
(12) 前記質量電荷比[m/z]が2681、および3108のうちの少なくとも1つの検出値が、健常人の検出値よりも高い場合に、消化器癌の罹患が疑われると識別する上記(10)に記載の消化器癌の検査方法。
【発明の効果】
【0037】
本発明の消化器癌診断用マーカー、すなわち特定のN結合型糖鎖を、被検者から採取された血液から検出することで、早期の段階での消化器癌の検査を簡便に行うことが可能となる。
【0038】
したがって、かかる消化器癌診断用マーカーを用いた消化器癌の検査方法により、癌の早期の段階での消化器癌の検査を簡便に行うことができ、早期での消化器癌の治療を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】健常者と膵臓癌の2群間に対して行ったT−testにより、有意差があると判定された糖鎖について、各検体中での存在量を定量した結果を示すグラフである。(糖鎖の存在量の総シグナル量を計算して、各検体における糖鎖の比率で補正をした。)
【図2】健常者と食道癌の2群間に対して行ったT−testにより、有意差があると判定された糖鎖について、各検体中での存在量を定量した結果を示すグラフである。(糖鎖の存在量の総シグナル量を計算して、各検体における糖鎖の比率で補正をした。)
【図3】健常者と胃癌の群間に対して行ったT−testにより、有意差があると判定された糖鎖について、各検体中での存在量を定量した結果を示すグラフである。(糖鎖の存在量の総シグナル量を計算して、各検体における糖鎖の比率で補正をした。)
【図4】質量分析の結果得られた膵臓癌患者および健常者の各ピークについて、その面積を多変量解析し、2群(患者群、健常者群)に分離できるピーク組み合わせを同定した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、本発明の消化器癌診断用マーカー、および消化器癌の検査方法について、好適実施形態に基づいて詳細に説明する。
<消化器癌診断用マーカー>
糖鎖とは、グルコース、ガラクトース、マンノース、フコース、キシロース、N−アセチルグルコサミン、N−アセチルガラクトサミン、シアル酸等の単糖およびこれらの
誘導体がグリコシド結合によって鎖状に複数結合した分子の総称である。
【0041】
糖鎖は、非常に多様性に富んでおり、天然に存在する生物が有する様々な機能に関与する物質である。糖鎖は生体内でタンパク質や脂質等に結合した複合糖質として存在することが多く、生体内の重要な構成成分の一つである。生体内の糖鎖は細胞間情報伝達、タンパク質の機能や相互作用の調整等に深く関わっていることが明らかになりつつある。
【0042】
糖鎖を有する生体高分子としては、例えば、細胞の安定化に寄与する植物細胞の細胞壁のプロテオグリカン、細胞の分化、増殖、接着、移動等に影響を与える糖脂質、および細胞間相互作用や細胞認識に関与している糖タンパク質等が挙げられるが、これらの高分子の糖鎖が、互いに機能を代行、補助、増幅、調節、あるいは阻害しあいながら高度で精密な生体反応を制御する機構が次第に明らかにされつつある。さらに、このような糖鎖と細胞の分化増殖、細胞接着、免疫、および細胞の癌化との関係が明確にされれば、この糖鎖工学と、医学、細胞工学、あるいは臓器工学とを密接に関連させて新たな展開を図ることが期待されている。
【0043】
特に細胞表面に存在する糖鎖は、様々な生体反応の足場として重要な役割をしている事が明らかとなってきた。例えば、レセプターとの相互作用異常による疾病の発生、あるいはエイズウイルスやインフルエンザウイルス等の感染、病原性大腸菌O157の毒素やコレラ毒素の細胞への侵入に関わるとされている。
【0044】
さらに、ある種の癌細胞では特異的な糖鎖が細胞表面に現れる等、細胞表面糖鎖は細胞に個性をあたえる重要な分子と考えられている。
【0045】
以上のような糖鎖(糖タンパク質)のうち、「N結合型糖鎖」とは、タンパク質のアスパラギン残基が持つ側鎖のアミド基の窒素原子に結合している糖鎖であり、N型糖鎖やアスパラギン結合型糖鎖とも称される。
【0046】
本発明者は、このようなN結合型糖鎖、特に、消化器癌患者の血液サンプルに含まれるN結合型糖鎖に着目し、消化器癌診断用マーカー、および消化器癌の検査方法の開発を試みた。
【0047】
具体的には、同意が得られた膵臓癌患者17例、食道癌患者34例、胃癌患者22例を被検者とし、各被検者より血液を採取し、血漿中のN結合型糖鎖に関して質量分析を行った。その結果、被検者(癌患者)の血液サンプルにおいて、健常者と比較して、有意に存在量が変化しているN結合型糖鎖(以下、単に「糖鎖」と言うこともある。)を同定することに成功し、本発明を完成するに至った。
【0048】
すなわち、同定されたN結合型糖鎖は、消化器癌の罹患の有無を識別するための消化器癌診断用マーカーとして用いられ、血液中に含まれる糖タンパク質から遊離されるものであり、下記式(1)〜下記式(6)で表されるもののうち少なくとも1種であることを特徴とする。
【0049】
【化7】

【0050】
【化8】

【0051】
【化9】

【0052】
【化10】

【0053】
【化11】

【0054】
【化12】

【0055】
このような糖鎖は、例えば、MALDI−TOF−MS型分析機を用いた質量分析法により同定することができる。
【0056】
具体的には、前記式(1)で表される前記N結合型糖鎖は、MALDI−TOF−MS型分析機よる質量分析を行なったとき、ピークの質量電荷比(m/z)が2521となるものである。また、前記式(2)で表される前記N結合型糖鎖は、ピークの質量電荷比(m/z)が2216となり、前記式(3)で表される前記N結合型糖鎖は、ピークの質量電荷比(m/z)が2216となり、前記式(4)で表される前記N結合型糖鎖は、ピークの質量電荷比(m/z)が2054となり、前記式(5)で表される前記N結合型糖鎖は、ピークの質量電荷比(m/z)が2681となり、さらに前記式(6)で表される前記N結合型糖鎖は、ピークの質量電荷比(m/z)が3108となるものである。
【0057】
なお、MALDI−TOF−MS型分析機を用いた質量分析法では、さらに、質量電荷比(m/z)が2695のピークが認められており、このピークを示すN結合型糖鎖を同定できれば、このN結合型糖鎖も同様に、消化器癌の罹患の有無を識別するための消化器癌診断用マーカーとして用いることができる。
【0058】
また、「MALDI−TOF−MS」とは、MALDI法を利用して飛行時間を基に質量を測定する方法である。具体的には、MALDI法は、試料をプレート上にスポットした後、マトリクス溶液(2,5-Dihydroxybenzoic acid)を添加、乾固し、結晶状態にし、パルスレーザー照射により大きなエネルギーをマトリクス上に与え、(M+H)、(M+Na)などの試料由来イオンとマトリクス由来イオンとを脱離させる方法である。イオンが一定の加速電圧Vで加速される場合、イオンの質量をm、イオンの速度をv、イオンの電荷数をz、電気素量をe、イオンの飛行時間をtとしたとき、イオンの質量電荷比(m/z)は、『m/z=2eVt/L』で表すことができる。
【0059】
以上のような、被検者(癌患者)の血液サンプルにおいて、健常者と比較して、有意に存在量が変化している糖鎖(消化器癌診断用マーカー)を用いて、以下のような、本発明の消化器癌の検査方法により、消化器癌を検査することができる。
【0060】
<消化器癌の検査方法>
本発明の消化器癌の検査方法は、血液中に含まれる糖タンパク質から遊離される、前記式(1)〜前記式(6)で表されるN結合型糖鎖を検出する検出工程と、検出工程の検出結果に基づいて、消化器癌の罹患の有無を識別する識別工程とを有する。
【0061】
[1]まず、血液中に含まれる糖タンパク質から遊離される、前記式(1)〜前記式(6)で表されるN結合型糖鎖を検出する(検出工程)。
【0062】
[1−1]まず、被験者より血液をサンプルとして採取する。
この「被検者より採取された血液」としては、血液成分を全て含む全血であっても、血液から分離された血清や血漿等であってもよいが、血清や血漿が良く、特に血漿が好ましい。これにより、優れた検出感度でサンプル中からN結合型糖鎖を検出することができる。
【0063】
[1−2]次いで、血液中の糖タンパクから糖鎖を遊離させる。
かかる遊離方法としては、特に制限されるものではないが、例えば、N−グリコシダーゼF(グリコペプチダーゼ、PN Gase、グリカナーゼ、グリコアミダーゼなどとも称される)やグリコペプチダーゼA等を用いた酵素法や、ヒドラジン分解法を挙げることができる。なかでも、N−グリコシダーゼFによる酵素法を好適に用いることができる。これにより、糖タンパク質に連結する糖鎖のうち、N結合型糖鎖を選択的に遊離させることができる。
【0064】
なお、前記酵素法を用いた場合、トリプシン等のプロテアーゼを併用することもできる。
【0065】
[1−3]次いで、血液中において遊離させた糖鎖を精製する
かかる精製方法としては、サンプル中の混合物から糖鎖を選択的に捕捉し精製する方法であれば特に制限されないが、MALDI−TOF−MSや高速液体クロマトグラフィー(HPLC)での高感度測定用に最適化された糖鎖補足ビーズ(捕捉担体)であるBlotGlyco(登録商標)(住友ベークライト社製)を用いた方法が特に好適である。これにより、優れた精製率で糖鎖をサンプル中から精製することができる。
【0066】
[1−4]次いで、精製された糖鎖のから、前記式(1)〜前記式(6)で表されるN結合型糖鎖を検出する。
【0067】
なお、このような前記式(1)〜前記式(6)で表されるN結合型糖鎖の検出は、前述したような、MALDI−TOF−MS型分析機を用いた質量分析法により、優れた精度で行うことができる。
【0068】
[2]次に、検出工程の検出結果に基づいて、前記消化器癌の罹患の有無を識別する(識別工程)。
【0069】
ここで、前述した、膵臓癌患者17例、食道癌患者34例、胃癌患者22例を被検者とした、血漿中のN結合型糖鎖の質量分析では、質量電荷比(m/z)が、2521、2216、および2054のいずれかを示す糖鎖の検出値は、健常者の検出値よりも、有意に低い結果となっていた。
【0070】
一方、質量電荷比(m/z)が、2681、および3108のいずれかを示す糖鎖の検出値は、健常者の検出値よりも、有意に高い結果となっていた。
【0071】
したがって、被検者において、質量電荷比[m/z]が2521、2216および2054のうちの少なくとも1つの検出値が、健常者の検出値よりも低い場合、この被検者を、消化器癌の罹患が疑われると識別することができる。
【0072】
また、質量電荷比[m/z]が2681、および3108のうちの少なくとも1つの検出値が、健常者の検出値よりも高い場合、この被検者を、消化器癌の罹患が疑われると識別することができる。
【0073】
なお、糖鎖の構造が特定されていない質量電荷比(m/z)が2695の検出値については、健常者の検出値よりも、有意に高い結果となっていたため、この検出値が、健常者の検出値よりも高い場合、この被検者を、消化器癌の罹患が疑われると識別することも可能である。
【0074】
以上のように、下記式(1)〜下記式(6)で表されるN結合型糖鎖を、血液中から検出するという単純な作業で、早期の段階での消化器癌の検査を簡便に行うことができ、早期での消化器癌の治療を行うことができるようになる。
【0075】
なお、このような消化器癌の検査方法において、上記糖鎖のうち、複数の糖鎖の検出結果を組み合わせて、消化器癌の検査を行うことにより、その精度を高めることも可能である。さらに、本発明における癌の検査方法を、他の検査方法と組み合わせることにより、消化器癌の検査の精度を高めることも可能である。
【0076】
例えば、本発明者の検討により、以下のような結果が得られている。
すなわち、膵臓癌患者および健常者の2群に分けて、採取した血液中に含まれる糖タンパク質から遊離されるN結合型糖鎖を、マススペクトル法を用いてピークの同定を行った。そして、膵臓癌患者に共通するピークを集め、膵臓癌患者および健常者の各ピークの面積を、多変量解析して、2群(患者群、健常者群)に分離できるピーク組み合わせを求めたところ、質量電荷比(m/z)が、1326、1892、2054、2172、2216、2257、2334、2375、2521、2639、2681、2695、2703、2725、2827,3030および3108の糖鎖が検出される結果が得られている。
【0077】
したがって、質量電荷比(m/z)が、2521、2216、2054、2681、3108および2695の糖鎖以外に、質量電荷比(m/z)が、1326、1892、2172、2257、2334、2375、2639、2703、2725、2827および3030の糖鎖の検出値が、健常者の検出値からズレが生じている場合、この被検者は、消化器癌の罹患がさらに疑われると識別することで、消化器癌の検査の精度を高めることができる。
【0078】
なお、MALDI−TOF−MS型分析機を用いた質量分析によるピークの質量電荷比(m/z)が1326である糖鎖とは、MALDI−TOF−MS型分析機よる質量分析の結果、1326m/zマススペクトルピークを呈する糖鎖であり、その構造式は、(Hex)2(HexNAc)2(Deoxyhexose)1と推定される(表1)。
【0079】
MALDI−TOF−MS型分析機を用いた質量分析によるピークの質量電荷比(m/z)が1892である糖鎖とは、MALDI−TOF−MS型分析機よる質量分析の結果、1892m/zマススペクトルピークを呈する糖鎖であり、その構造式は、(HexNAc)2(Deoxyhexose)1+(Man)3(GlcNAc)2と推定される(表1)。
【0080】
MALDI−TOF−MS型分析機を用いた質量分析によるピークの質量電荷比(m/z)が2172である糖鎖とは、MALDI−TOF−MS型分析機よる質量分析の結果、2172m/zマススペクトルピークを呈する糖鎖であり、その構造式は、(Hex)2(HexNAc)1(NeuAc)1+(Man)3(GlcNAc)2と推定される(表1)。
【0081】
MALDI−TOF−MS型分析機を用いた質量分析によるピークの質量電荷比(m/z)が2257である糖鎖とは、MALDI−TOF−MS型分析機よる質量分析の結果、2257m/zマススペクトルピークを呈する糖鎖であり、その構造式は、(Hex)1(HexNAc)3(Deoxyhexose)1+(Man)3(GlcNAc)2と推定される(表1)。
【0082】
MALDI−TOF−MS型分析機を用いた質量分析によるピークの質量電荷比(m/z)が2334である糖鎖とは、MALDI−TOF−MS型分析機よる質量分析の結果、2334m/zマススペクトルピークを呈する糖鎖であり、その構造式は、(Hex)3(HexNAc)1(NeuAc)1+(Man)3(GlcNAc)2と推定される(表1)。
【0083】
MALDI−TOF−MS型分析機を用いた質量分析によるピークの質量電荷比(m/z)が2375である糖鎖とは、MALDI−TOF−MS型分析機よる質量分析の結果、2375m/zマススペクトルピークを呈する糖鎖であり、その構造式は、(Hex)2(HexNAc)2(NeuAc)1+(Man)3(GlcNAc)2と推定される(表1)。
【0084】
MALDI−TOF−MS型分析機を用いた質量分析によるピークの質量電荷比(m/z)が2639である糖鎖とは、MALDI−TOF−MS型分析機よる質量分析の結果、2639m/zマススペクトルピークを呈する糖鎖であり、その構造式は、(Hex)3(HexNAc)4+(Man)3(GlcNAc)2と推定される(表1)。
【0085】
MALDI−TOF−MS型分析機を用いた質量分析によるピークの質量電荷比(m/z)が2703である糖鎖とは、MALDI−TOF−MS型分析機よる質量分析の結果、2703m/zマススペクトルピークを呈する糖鎖であり、その構造は、上記2681m/zマススペクトルピークを呈する糖鎖のNa付加体と推定される(表1)。
【0086】
MALDI−TOF−MS型分析機を用いた質量分析によるピークの質量電荷比(m/z)が2725である糖鎖とは、MALDI−TOF−MS型分析機よる質量分析の結果、2725m/zマススペクトルピークを呈する糖鎖であり、その構造式は、(Hex)2(HexNAc)3(Deoxyhexose)1(NeuAc)1+(Man)3(GlcNAc)2と推定される(表1)。
【0087】
MALDI−TOF−MS型分析機を用いた質量分析によるピークの質量電荷比(m/z)が2827である糖鎖とは、MALDI−TOF−MS型分析機よる質量分析の結果、2827m/zマススペクトルピークを呈する糖鎖であり、その構造式は、(Hex)2(HexNAc)2(Deoxyhexose)1(NeuAc)2+(Man)3(GlcNAc)2と推定される(表1)。
【0088】
MALDI−TOF−MS型分析機を用いた質量分析によるピークの質量電荷比(m/z)が3030である糖鎖とは、MALDI−TOF−MS型分析機よる質量分析の結果、3030m/zマススペクトルピークを呈する糖鎖であり、その構造式は、(Hex)2(HexNAc)3(Deoxyhexose)1(NeuAc)2+(Man)3(GlcNAc)2と推定される(表1)。
【0089】
以上、本発明の消化器癌診断用マーカー、および消化器癌の検査方法を実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0090】
例えば、本発明の消化器癌の検査方法には、必要に応じて任意の工程が追加されてもよい。
【0091】
また、本発明の消化器癌の検査方法を適用する「消化器癌」としては、特に制限されるものではないが、本発明は、難治性の癌である膵臓癌や食道癌、および発生頻度の高い癌である胃癌において特に有用である。
【0092】
さらに、上記糖鎖を検出する限り、MALDI−TOF−MS型分析機以外の分析機を使用することもできる。イオン源として、例えば、電子イオン化法、化学イオン化法、電界離脱法、高速原子衝突法、エレクトロスプレーイオン化法、大気圧化学イオン化法等を用いることができ、また、分析法としては、例えば、磁場偏向型、四重極型、イオントラップ型、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴型などの方法を用いることができる。また、本発明においては、上記糖鎖を検出する限り、高速液体クロマトグラフィーを用いることもでき、上記質量分析と高速液体クロマトグラフィーとを組み合わせて用いることもできる。
【実施例】
【0093】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0094】
[実施例1]
(1)血液の採取
インフォームド・コンセントの得られた、膵臓癌患者17例、食道癌患者34例、胃癌患者22例の患者、および対照として健常者11例より血液を採取し、血漿を遠心分離した。得られた検体(血漿)は連結可能匿名化を行った後、−80℃で凍結保存した。
【0095】
(2)血液サンプルの作製
タンパク質と修飾糖鎖を遊離させる目的で、被検者毎の血漿をN−グリコシダーゼFおよびトリプシンにより処理した。具体的には、100μLの血漿に、純水(165μL)、1M重炭酸アンモニウム(25μL)、および120mM ジチオスレイトール(25μL)を加え、60℃で30分間静置した後、123mM ヨードアセトアミド(50μL)を加え、室温、遮光下で1時間静置した。続いて、トリプシン(2000unit、25μL)を加え、37℃で1時間静置した後、80℃で15分間加熱することによりトリプシンを変性させた。室温まで冷却させた後に、N−グリコシダーゼF(10unit、10μL)を加え、37℃でオーバーナイト静置した。80℃で15分間加熱することにより、酵素を変性させ、最終量400μLの酵素処理血漿サンプルを得た。
【0096】
また、内部標準グルコースオリゴマー(1−20)(生化学工業 #800111)を10mg/mLとなるように純水に溶解し、内部標準糖鎖溶液を作製した。
【0097】
次いで、上記酵素処理血漿サンプル95μLに対し、内部標準糖鎖溶液5μL(=50μg相当)を添加し、全量100μLの溶液を調製した。このうち、20μLを糖鎖補足ビーズ(BlotGlyco(登録商標)for MALDI(住友ベークライト社製))により処理し、遊離した糖鎖の捕捉、およびラベル化を行った。
【0098】
(3)糖鎖分析の結果解析
糖鎖補足ビーズに捕捉された糖鎖を精製・分離し、マトリックス(2,5-dihydroxybenzoic acid)溶液と混合して、MALDI−TOF−MS測定に供した。質量分析器としては、Autoflex III smartbeam TOF/TOF(Bruker Daltonics社製)を用いた。
【0099】
また、データの収集・解析には該機器附属のソフトウェア(例えば、flexControl, flexAnalysis)を用いた。また、レーザーイオン化は、通常ポジティブイオンモードで行い、リフレクターモードで検出した。
【0100】
得られたマススペクトルから20〜100のピークを同定した。
このうち、膵臓癌、胃癌、膵臓癌について、それぞれ、内部標準糖鎖などを除外した6種類の糖鎖を解析対象とし、内部標準と比較することにより各糖鎖の定量化を行った。糖鎖の存在量の総シグナル量を計算して、それぞれの糖鎖の比率で補正をした。
【0101】
さらに、健常者と膵臓癌、健常者と食道癌、健常者と胃癌のそれぞれ2群間に対してT−testを行い、有意差を示す糖鎖の特定を試みた。
【0102】
その結果、膵臓癌および食道癌については、質量電荷比(m/z)が、2521、2216、2054、2681、3108、および2695を示す糖鎖が、胃癌については、質量電荷比(m/z)が、2521、2216、および2054を示す糖鎖が特定された(図1〜3参照。)。
【0103】
なお、ピーク面積/ピーク総面積(%)は、質量電荷比(m/z)が、2521、2216、または2054を示す糖鎖では、癌患者において有意に低く、2681、3108、または2695を示す糖鎖では、癌患者において有意に高かった。
【0104】
また、2521m/z糖鎖、および2216m/z糖鎖を用いた場合の正答率を、6つの分類器(Compound Covariate Predictor、Diagonal Linear Discriminant Analysis、1-Nearest Neighbor Predictor、3-Nearest Neighbor Predictor、Nearest Centroid Predictor、Support Vector Machine Predictor)により算出した。その結果、膵臓癌については、平均88%程度の正答率が得られた。
【0105】
また、質量分析の結果得られたシグナルから糖鎖の構造式を予測した。その結果、質量電荷比(m/z)が2521を示す糖鎖は、構造が、
【0106】
【化13】

【0107】
と予想され、質量電荷比(m/z)が2216を示す糖鎖は、構造が、
【0108】
【化14】

【0109】
または、
【0110】
【化15】

【0111】
と予想され、質量電荷比(m/z)が2054を示す糖鎖は、構造が、
【0112】
【化16】

【0113】
と予想され、質量電荷比(m/z)が2681を示す糖鎖は、構造が、
【0114】
【化17】

【0115】
と予想され、質量電荷比(m/z)が3108を示す糖鎖は、構造が、
【0116】
【化18】

【0117】
と予想された。
なお、質量電荷比(m/z)が2695を示す糖鎖は、その構造を予測することができなかった。
【0118】
[実施例2]
(1)血液の採取
インフォームド・コンセントの得られた、膵臓癌患者17例、および対照として健常者11例より血液を採取し、血漿を遠心分離した。得られた検体(血漿)は連結可能匿名化を行った後、−80℃で凍結保存した。
【0119】
(2)血液サンプルの作製
タンパク質と修飾糖鎖を遊離させる目的で、血漿をN−グリコシダーゼFおよびトリプシンにより処理した。具体的には、100μLの血漿に、純水(165μL)、1M重炭酸アンモニウム(25μL)、および120mM ジチオスレイトール(25μL)を加え、60℃で30分間静置した後、123mM ヨードアセトアミド(50μL)を加え、室温、遮光下で1時間静置した。続いて、トリプシン(2000unit、25μL)を加え、37℃で1時間静置した後、80℃で15分間加熱することによりトリプシンを変性させた。室温まで冷却させた後に、N−グリコシダーゼF(10unit、10μL)を加え、37℃でオーバーナイト静置した。80℃で15分間加熱することにより、酵素を変性させ、最終量400μLの酵素処理血漿サンプルを得た。
【0120】
また、内部標準グルコースオリゴマー(1−20)(生化学工業 #800111)を10mg/mLとなるように純水に溶解し、内部標準糖鎖溶液を作製した。
【0121】
次いで、上記酵素処理血漿サンプル95μLに対し、内部標準糖鎖溶液5μL(=50μg相当)を添加し、全量100μLの溶液を調製した。このうち、20μLを糖鎖補足ビーズ(BlotGlyco(登録商標)for MALDI(住友ベークライト社製))により処理し、遊離した糖鎖の捕捉、およびラベル化を行った。
【0122】
(3)糖鎖分析の結果解析
糖鎖補足ビーズに捕捉された糖鎖を精製・分離し、マトリックス(2,5-dihydroxybenzoic acid)溶液と混合して、MALDI−TOF−MS測定に供した。質量分析器としては、Autoflex III smartbeam TOF/TOF(Bruker Daltonics社製)を用いた。
【0123】
また、データの収集・解析には該機器附属のソフトウェア (例えば、flexControl, flexAnalysis)を用いた。また、レーザーイオン化は、通常ポジティブイオンモードで行い、リフレクターモードで検出した。
【0124】
得られたマススペクトルから20〜100のピークを同定した。膵臓癌患者に共通するピークを集め、膵臓癌患者および健常者の各ピークの面積を、多変量解析ソフトSIMCA−P/P+(UMETRICS社製)を用いて解析し、2群(患者群、健常者群)に分離できるピーク組み合わせを求めた。
【0125】
その結果、上記2群分離を与える糖鎖ピークとして、質量電荷比(m/z)が、1326、1892、2054、2172、2216、2257、2334、2375、2521、2639、2681、2703、2725、2827,3030および3108の糖鎖が検出された(図4、表1)。
【0126】
【表1】

【0127】
なお、表1中の記号の意味は、下記の通りである。
δmass = [測定値 m/z]-[理論値 m/z]
+:「+」の右側に示された構造が基本構造であり、左側に示された構造が付加構造である。
【0128】
Hex: hexose(mannose)
HexNAc: N-acetylhexosamine(N-acetylglucosamine)
Deoxyhexose: fucose
Man: mannose
GlcNAc: N-acetylglycosamine
NeuAc: N-acetylneuraminic acid
なお、図1〜4および表1に示した質量電荷比(m/z)の値は、±1以内の測定誤差が生じうることを理解されたい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
消化器癌の罹患の有無を識別するために用いられ、
血液中に含まれる糖タンパク質から遊離されるN結合型糖鎖であり、
該N結合型糖鎖は、下記式(1)〜下記式(6)で表されるもののうち少なくとも1種であることを特徴とする消化器癌診断用マーカー。
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】

【化5】

【化6】

【請求項2】
前記式(1)で表される前記N結合型糖鎖は、MALDI−TOF−MS型分析機を用いた質量分析によるピークの質量電荷比が2521m/zである請求項1に記載の消化器癌診断用マーカー。
【請求項3】
前記式(2)で表される前記N結合型糖鎖は、MALDI−TOF−MS型分析機を用いた質量分析によるピークの質量電荷比が2216m/zである請求項1に記載の消化器癌診断用マーカー。
【請求項4】
前記式(3)で表される前記N結合型糖鎖は、MALDI−TOF−MS型分析機を用いた質量分析によるピークの質量電荷比が2216m/zである請求項1に記載の消化器癌診断用マーカー。
【請求項5】
前記式(4)で表される前記N結合型糖鎖は、MALDI−TOF−MS型分析機を用いた質量分析によるピークの質量電荷比が2054m/zである請求項1に記載の消化器癌診断用マーカー。
【請求項6】
前記式(5)で表される前記N結合型糖鎖は、MALDI−TOF−MS型分析機を用いた質量分析によるピークの質量電荷比が2681m/zである請求項1に記載の消化器癌診断用マーカー。
【請求項7】
前記式(6)で表される前記N結合型糖鎖は、MALDI−TOF−MS型分析機を用いた質量分析によるピークの質量電荷比が3108m/zである請求項1に記載の消化器癌診断用マーカー。
【請求項8】
消化器癌が、膵臓癌、食道癌、または胃癌である、請求項1ないし7のいずれかに記載の消化器癌診断用マーカー。
【請求項9】
請求項1ないし8に記載の消化器癌診断用マーカーを用いて消化器癌の罹患の有無を識別する消化器癌の検査方法であって、
前記糖タンパク質から遊離される、前記式(1)〜前記式(6)で表されるN結合型糖鎖を検出する検出工程と、
前記検出工程の検出結果に基づいて、前記消化器癌の罹患の有無を識別する識別工程とを有することを特徴とする消化器癌の検査方法。
【請求項10】
前記検出工程において、前記式(1)〜前記式(6)で表されるN結合型糖鎖の検出は、MALDI−TOF−MS型分析機による質量分析により行われる請求項9に記載の消化器癌の検査方法。
【請求項11】
前記質量電荷比[m/z]が2521、2216および2054のうちの少なくとも1つの検出値が、健常人の検出値よりも低い場合に、消化器癌の罹患が疑われると識別する請求項10に記載の消化器癌の検査方法。
【請求項12】
前記質量電荷比[m/z]が2681および3108のうちの少なくとも1つの検出値が、健常人の検出値よりも高い場合に、消化器癌の罹患が疑われると識別する請求項10に記載の消化器癌の検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−83490(P2013−83490A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−222353(P2011−222353)
【出願日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【出願人】(504258527)国立大学法人 鹿児島大学 (284)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【出願人】(591122956)三菱化学メディエンス株式会社 (45)
【Fターム(参考)】