説明

消化管において局所的活性を有する抗体治療薬

本発明は、消化管内または消化管の粘膜関門下で治療的に有効であるが、抗体の全身投与後に臨床的有用性のために必要であることが示されている抗体のレベルを体循環へ送達しない抗体治療の方法および組成物を提供する。本発明はさらに、消化管内または消化管の粘膜関門下で治療的に有効であるが抗体の全身投与後の、有害事象および全身免疫抑制と関連する抗体のレベルを体循環へ送達しない抗体治療の治療組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
抗体治療薬は、有益な医薬品であることが証明されている。しかしながら、それらの使用は、全身の部位での抗体の活性に起因する副作用によりしばしば制限される。例えば、TNFに特異的な抗体(Remicade、Humira、Cimzia)は、炎症性腸疾患の治療において有効である。しかしながら、それらの使用は、全身免疫抑制による可能性が高い悪性腫瘍のリスクの増加および重症感染症のリスクの増加と関連する(Bongartz et al, 2006,JAMA, 295, 2275−85)。そのため、臨床的有用性が最も高い場所に抗体を誘導することができるが、他の部位での抗体の活性を最小に抑える抗体治療の方法および医薬組成物を生成させる必要がある。より詳細には、消化管の疾患の治療のために消化管に抗体を誘導することができるが、他の部位での抗体の活性を最小に抑える抗体治療の方法および医薬組成物を生成させる必要がある。
【0002】
抗体治療薬の使用はまた、しばしば、投与された抗体の免疫原性により制限される。治療薬に対する抗体の誘導は、活性の損失および有害注入反応の可能性と関連する。免疫原性は、抗体が非ヒト種に由来する場合に最も明らかに見られる。しかしながら、ヒト抗ヒト抗体応答(HAHA)の存在もまた記載されており、重要な臨床的問題の原因となっている(Ritter et al., 2001, Cancer Res, 61, 6851−9; Tracey et al, 2008, Pharmacol Ther, 111, 244−79)。そのため、効力を維持しながら、免疫原性を最小に抑えることができる抗体治療の方法および医薬組成物を生成する必要がある。
【0003】
炎症性腸疾患の治療において、全身投与された抗TNF抗体で治療された患者はしばしば、中和抗体の誘導のために抗体療法に対し非応答性となる(Tracey et al., 2008, Pharmacol Ther, 111, 244−79)。既存の抗TNF抗体治療薬に無応答性となった患者を治療するのに使用することができる方法および医薬組成物を生成させる必要がある。
【発明の概要】
【0004】
本発明は、消化管内または消化管の粘膜関門下で治療的に有効であるが、抗体の全身投与後に臨床的有用性のために必要であることが示されている抗体のレベルを体循環へ送達しない抗体治療の方法および組成物を提供する。本発明はさらに、消化管内または消化管の粘膜関門下で治療的に有効であるが抗体の全身投与後の、有害事象および全身免疫抑制と関連する抗体のレベルを体循環へ送達しない抗体治療の治療組成物を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【図1】炎症性腸疾患のマウスモデルにおける、対照と比較した場合の様々な用量の抗TNF抗体、AVX−470の経口投与後の内視鏡検査スコアを示すグラフである。
【図2】ウシ血清免疫グロブリン抗体レベルの検出のためのELISAアッセイの検量線を示すグラフである。
【図3】ウシ免疫グロブリンが、照射された左頬側頬袋で検出され得た(パネルA)が、未照射の右頬袋の外側面のみで見られた(パネルB)ことを示す、ハムスター頬袋の染色切片の顕微鏡写真である。
【図4】経口抗TNF抗体を用いた処置後の、GI急性放射線症候群を有するマウスの生存(%として)を示すグラフである。
【図5】経口抗TNF抗体の投与後の、GI急性放射線症候群を有するマウスの空腸固有層の染色切片の顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
本発明の目的のために、「消化管」は、口、咽頭、食道、胃、小腸(十二指腸、空腸、回腸)、大腸(盲腸、結腸、直腸)および肛門から構成される。本発明の目的のために、「口腔」は、口、咽頭および食道を含むと理解される。本発明の目的のために、「胃腸管」、または「GI管」は、胃、小腸(十二指腸、空腸、回腸)、大腸(盲腸、結腸、直腸)および肛門を含むと理解される。
【0007】
例えば、臨床的有用性と関連する抗TNF抗体の血清レベルは、0.5μg/ml超の濃度である(Nestorov, 2005, J Rheumatol Suppl, 74, 13−8; Tracey et al, 2008, Pharmacol Ther, 111, 244−79)。有害事象と関連する抗TNF抗体の血清レベルは、正確には知られていないが、臨床的有用性のために必要とされるレベルより高いと考えられる(Nestorov, 2005, J Rheumatol Suppl, 74, 13−8)。よって、既存の非経口TNFアンタゴニストに比べ、本発明の治療組成物および方法は、全身免疫抑制の減少、全身への分布の減少、免疫原性の減少、タキフィラキシーの減少(中和抗体の誘導または他の機序により引き起こされたかどうかに関係なく)および即時副作用(例えば、注入反応)の減少と関連する。
【0008】
本発明の治療抗体組成物は、消化管の外側での治療抗体の活性を最小に抑え、さらに、治療抗体に対する中和免疫応答の誘導を最小に抑える。治療組成物は、消化管の内腔面に局所的に送達される抗体である。本発明の抗体は、例えば、経口投与、直腸投与により消化管に局所的に投与することができ、例えば頬側、粘膜付着性膜などによる口腔への投与の全ての型が含まれる。抗体は消化管の粘膜関門を通過し、粘膜下空間に入り、それらの標的と相互作用することができるが、体循環には入らない。本発明は、消化管の管腔表面上または付近、ならびに粘膜関門下、例えば上皮の底側上で発現された生物学的標的、粘膜下層内内で発現された標的、側方細胞間空間において発現された標的、および固有層内で発現された標的に向けられる抗体の使用を含む。
【0009】
本発明の1つの実施形態では、本発明の抗体は、粘膜関門への前から存在する損傷の結果として、粘膜関門を通過する。健康な被験体では、消化管は通常、内腔面に適用されたタンパク質に対し比較的不透過性である。しかしながら、多くの病態では、消化管は透過性の増加を示す(McGuckin et al, 2009, Inflamm Bowel Dis, 15, 100−13)。この透過性の増加は、腸の内腔面に適用された抗体が粘膜関門を通過するのを可能にする(Worledge et al, 2000, Dig Dis Sci, 45, 2298−2305)。
【0010】
本発明の1つの実施形態では、本発明の抗体は、抗体の粘膜関門を横切る移行を促進する製剤の特定の側面の結果、粘膜関門を通過する。透過促進剤、例えばキトサン、ポリ−L−アルギニンおよびカーボポールを使用することができる。
【0011】
当技術分野においてまとめて炎症性腸疾患と呼ばれるクローン病および潰瘍性大腸炎を有する患者は、しばしば炎症性サイトカインTNFに対して作られる抗体を用いて治療される。これらの患者では、抗体により達成される臨床的有用性と投与される抗TNF抗体のトラフ血清濃度の間に相関がある(Seow et al., Gut., 1/2010; 59(1): 49−54) (Karmiris et al, 11/2009, Gastroenterology; 137(5): 1628−40)。これらのデータは、抗体が消化性炎症を治療する際に有効となるために、ある濃度の抗体が血清中で得られなければならないことを示す。
【0012】
しかしながら、本発明者らは、本発明による抗体を用いる消化性炎症の局所治療が治療的に有効であることを思いがけなく発見した。そのような局部または局所適用は、抗体の局所投与、例えば経口または直腸投与により達成され得る。消化管への「局所適用」は、口腔への局部および/または表面投与、消化管への経口もしくは直腸投与による送達、または抗体を消化管の管腔側面と接触させる任意の他の経路による投与として規定される。
【0013】
そのため、本発明の目的は、治療的有効量の本発明の抗体を消化管に投与することにより、血清中の抗体レベルを、抗体が注射により与えられる場合に臨床効果のために必要であると前に考えられたものより低く維持しながら、消化性炎症を治療することである。本発明によれば、本発明に従い投与された抗体の血清レベルは、当技術分野で知られている標準アッセイを用いて測定すると、約1μg/ml未満、好ましくは約500ng/ml未満、好ましくは約150μg/ml未満、および好ましくは約50ng/ml未満である。
【0014】
血清中の抗体レベルの測定は、先行技術において知られている標準アッセイを用いて遂行することができる。1つのアッセイは、TNFの抗体への結合を検出するラジオイムノアッセイ(RIA)である(Svenson et al, Rheumatology 2007 46: 1828−1834)。簡単に言うと、1%患者血清が5,000カウント/分/0.1mlの125I−TNFまで添加される。2時間4℃でインキュベートした後、治療抗体として使用される抗体種に特異的なウサギ抗体を添加することにより、遊離および抗体結合トレーサーが分離される。患者血清中のウシ抗TNF抗体を検出するために、ウシ免疫グロブリン(重鎖+軽鎖)に特異的なウサギ抗体が使用される。患者血清中のインフリキシマブ(マウス−ヒトIgGl:κキメラ抗体)を検出するために、ヒトFeyに特異的なウサギ抗体が使用される。ウサギ抗体が、>95%の有効な治療抗体を沈殿させることができる量で添加される。さらに2時間後、2.5mlの冷アッセイ緩衝液が添加され、結合および遊離125I−TNFが4000gで10分の、4℃での遠心分離により分離される。ペレット活性における放射活性がγカウンタを用いて測定される。治療抗体が検量線を作成するための基準として使用される。インフリキシマブでは、アッセイの検出限界は、0.4μg/ml全血清である (Bendtzen, Arthritis and Rheumatism, Vol. 54, No. 12, December 2006, pp 3782−3789, 2006)。
【0015】
血清中の抗体レベルを検出するために使用することができる別のアッセイは、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)である(Wolbink, Ann Rheum Dis 2005; 64:704−707)。簡単に言うと、平底マイクロタイタープレートが、一晩中、室温で、TNFに対して作られたマウスモノクローナル抗体(1ウェルあたり100μl中2μg/ml)でコートされる。HPE緩衝液中の組換えTNF(1ウェルあたり100μl中0.1μg/ml)が1時間添加される。リン酸緩衝食塩水/0.2%Tweenで洗浄された後、患者の血清試料がHPE緩衝液中の異なる希釈で添加され、2時間室温でインキュベートされる。プレートは、リン酸緩衝食塩水/0.2%Tweenで洗浄され、その後、治療抗体として使用される抗体種に特異的な抗体にコンジュゲートされた西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)と共にインキュベートされる。患者血清中のウシ抗TNF抗体を検出するために、ヒツジ抗ウシIgG(h+1)が使用される。インフリキシマブの検出のために、モノクローナル抗ヒトIgGが使用される。HRP標識抗体が100mlのHPE緩衝液に1時間室温で添加される。その後、洗浄後に、テトラメチルベンジジンが添加される。2M HSOで反応が停止される。その後、450nmでの吸収が決定される。結果は、各プレート中の治療抗体(例えば、ウシ抗TNF抗体またはインフリキシマブ)の滴定曲線に関係する。インフリキシマブに対する最低検出レベルは0.2μg/mlである(Wolbink, page 704, 上記)。
【0016】
血清中の治療抗体のレベルを測定するために使用されるこれら2つのアッセイは、抗体の標的抗原(例えば、TNF)に結合する能力の検出に基づく。別のアッセイは、治療抗体自体の存在を測定する。これは、治療抗体がキメラまたはヒト化モノクローナル抗体である場合好ましくなく、というのは、治療抗体を患者体内に普通に存在する抗体から区別するのは困難であるからである。しかしながら、この方法は非ヒト抗体治療薬を検出するために使用され得る(実施例3を参照されたい)。ポリクローナル抗体では、投与された抗体の一部のみが標的抗原に特異的で、これに結合する。本発明との関連では、測定する重要な抗体濃度は、標的抗原に特異的な治療抗体の濃度であり、というのは、これが生物活性を有する成分であるからである。そのため、投与された抗体の血清レベルが抗体自体の検出を介して定量される場合、標的抗原に特異的な投与された抗体のパーセンテージを決定するために実験が実行されなければならない。パーセンテージを決定するために使用され得る方法の説明は実施例1で提供される。
【0017】
インフリキシマブに対するピーク血漿レベルは118μg/mlで、アダリムマブでは4.7μg/mlで報告されている(Tracey, 2008上記)。得られるピーク血漿レベルは投与経路および投薬計画に依存する。注入された抗TNF抗体に対し臨床的に有効な血清濃度は0.8−1.4μg/mlである(Tracey et al, 2008, Pharmacol Ther, 111, 244−79)。
【0018】
本発明の1つの実施形態では、TNF、TNF−κ、Ifn−γ、IL−1β、IL−2、IL−6、IL−12、IL−13、IL−15、IL−17、IL−18、IL−21、IL−23、IL27、IL−32、IL−33およびIL−35を含むが、それらに限定されない、炎症を制御するサイトカインに特異的な抗体は、消化管の透過性の増加を有する患者の消化管に局所的に適用され、化学療法または放射線療法による明らかな潰瘍または炎症の発症を防止する。
【0019】
本発明の1つの実施形態では、TNF、TNF−κ、Ifn−γ、IL−1β、IL−2、IL−6、IL−12、IL−13、IL−15、IL−17、IL−18、IL−21、IL−23、IL27、IL−32、IL−33およびIL−35を含むが、それらに限定されない、炎症を制御するサイトカインに特異的な抗体は、消化管の透過性の増加を有する患者の消化管に局所的に適用され、高レベルの放射線への暴露による胃腸急性放射線症候群の発症を防止する。
【0020】
本発明の1つの実施形態では、TNF、TNF−κ、Ifn−γ、IL−1β、IL−2、IL−6、IL−12、IL−13、IL−15、IL−17、IL−18、IL−21、IL−23、IL27、IL−32、IL−33およびIL−35を含むが、それらに限定されない、炎症性サイトカインに特異的な抗体は、消化管の透過性の増加を有する患者の消化管に局所的に適用され、自己免疫疾患、例えば炎症性腸疾患による明らかな潰瘍または炎症の発症を防止する。
【0021】
本発明の1つの実施形態では、TNF、TNF−κ、Ifn−γ、IL−1β、IL−2、IL−6、IL−12、IL−13、IL−15、IL−17、IL−18、IL−21、IL−23、IL27、IL−32、IL−33およびIL−35を含むが、それらに限定されない、炎症性サイトカインに特異的な抗体は、消化管の透過性の増加を有する患者の消化管に局所的に適用され、セリアック病を治療する。
【0022】
本発明の1つの実施形態では、粘膜上皮細胞の側底面上で発現されるToll様受容体に特異的な抗体が治療薬として、腸炎症疾患を有する患者の消化管の粘膜に適用される。
【0023】
本発明の1つの実施形態では、TNF、TNF−κ、Ifn−γ、IL−1β、IL−2、IL−6、IL−12、IL−13、IL−15、IL−17、IL−18、IL−21、IL−23、IL27、IL−32、IL−33およびIL−35を含むが、それらに限定されない、炎症性サイトカインに特異的な抗体は、治療薬として、過敏性腸症候群を有する患者の消化管に適用される。
【0024】
本発明の1つの実施形態では、腸内神経伝達物質または消化管の粘膜関門下で発現されるそれらの受容体もしくは輸送体、例えば腸内で発現されるセロトニンに対する受容体(5−HT1A、5−HT1B/B、5−HT2A、5−HT2B、5−HT3、5−HT4、5−HT7、5−HT1P)に対して作られた抗体は、消化管の透過性の増加を有する患者において医薬品として使用される。
【0025】
本発明の1つの実施形態では、食物摂取を制御するペプチドまたはそのようなペプチドに対する受容体に対して作られた抗体は、消化管の透過性の増加を有する患者において医薬品として使用される。そのようなペプチドとしては、CCK、GLP1、GIP、オキシントモジュリン、PYY3−36、エンテロスタチン、APOAIV、PP、アミリン、GRPおよびNMB、胃レプチンおよびグレリンが挙げられるが、それらに限定されない(Cummings and Overduin, 2007, J Clin Invest, 111, 13−23)。
【0026】
本発明の1つの実施形態では、結腸直腸癌細胞上の上皮増殖因子受容体に対して作られた抗体は、消化管の透過性の増加を有する患者において治療薬として使用される。
【0027】
本発明の1つの実施形態では、可溶性サイトカインに特異的な、消化管に送達される抗体は、消化管内のそれらのサイトカインのレベルを減少させるが、体循環内では減少させない。サイトカインのレベルは、サイトカインの直接測定またはサイトカインに応答する代替マーカーの分析により決定することができる。本発明の1つの態様では、可溶性サイトカインに特異的な、消化管に送達される抗体は、消化管内および体循環内のそれらのサイトカインのレベルを減少させる。
【0028】
本発明の1つの実施形態では、抗体臨床的有用性を有する、消化管に送達される抗体は、抗体のその後の投与に対する応答を阻止し、または抗体のその後の投与に対する有害な応答を引き起こすのに十分である、投与された抗体に対する抗体応答を誘導しない。
【0029】
本発明の1つの実施形態では、誘導される抗体応答の欠如は維持療法後に見られる。本発明の1つの実施形態では、誘導される抗体応答の欠如は間欠的投与後に見られる。抗体応答は、治療抗体に特異的な抗体の直接測定または治療抗体の反復投与に対する生理応答の評価により測定することができる。
【0030】
本発明の1つの好ましい実施形態では、2%未満の患者が3用量以上の治療抗体への暴露後、本発明の治療抗体に対する抗体を発生させる。1つの好ましい実施形態では、3用量以上の本発明による抗体の投与は、抗体の効力を低下させない。本発明によれば、抗体の効力は、1、2、3用量以上の投与後、最初の抗体投与日から約1ヶ月の期間にわたり、好ましくは最初の抗体投与日から約6ヶ月の期間にわたり、より好ましくは最初の抗体投与日から約1年の期間にわたり、さらに好ましくは最初の抗体投与日から約10年にわたり減少されない。
【0031】
治療抗体(TA)に対する抗体応答の測定は、先行技術において知られている標準アッセイを用いて遂行することができる。1つのアッセイはRIAである(Svenson 2007 上記)。治療抗体は、125Iで、クロラミン−Tを用いて標識され、分子サイズクロマトグラフィーにより精製され、試験され、治療抗体に特異的であることが知られている適切な抗体への結合を保持することが保証される。125I標識TAは、18時間4℃で、患者血清(1%以下)と共に共インキュベートされる。抗TA活性が、125I−TAの、10%血清中の>80%のAAに特異的に結合することができる二次抗体を含むアフィニティマトリクスへの結合によりアッセイされる。インフリキシマブでは、この二次抗体は抗ヒト−λ−軽鎖である。ウシ抗TNF抗体では、この二次抗体は抗ウシIgG(h+1)である。平均バックグラウンド結合が計算され、バックグラウンド値の2倍が陽性と陰性試料の間で区別するために使用される。
【0032】
治療抗体に対する抗体応答を検出するために使用することができる別のアッセイは、固相RIAである(Svenson, 2007上記)。TA(8μg/ml)がマイクロタイタープレートに結合され、続いて、ヒト血清アルブミンにより非占有部位が遮断される。患者血清が2通りで、10%以下のレベルを用いて100μl/ウェルで添加される。一晩中4℃でインキュベートした後、ウェルが冷アッセイ緩衝液で洗浄され、0.1mlの6000cpmの125I標識TAが各ウェルに添加される。4℃で3時間後、ウェルが洗浄され、結合されたcpmが決定される。
【0033】
治療抗体に対する抗体応答のためのアッセイは、特定の状況に適合させる必要があり、方法および留意事項はよく理解されていることは当業者によく知られている(Gorovits, The AAPS Journal, Vol. 11, No. 1, March 2009)。アッセイカットオフパラメータを計算するために集められ、陽性および陰性試料を区別するために使用されるデータの統計分析を複雑にする可能性のある、治療抗体に対する前から存在する抗体応答の存在の可能性が特に重要である。ウシ抗体治療薬に対する抗体応答のアッセイでは、ある患者に対する処置前と処置後試料結果の直接比較を使用することが好ましい。抗TA抗体のレベルが治療抗体による処置の過程において著しく増加した場合、患者は治療抗体に対し誘導抗体応答を有すると規定される。前から存在する抗体応答が検出されない治療抗体では、抗体応答がバックグラウンドを2倍以上超える場合、患者は治療抗体に対し誘導抗体応答を有すると規定される。
【0034】
治療抗体に対する抗体応答は、アダリムマブで治療された患者の2.8%−3.7%、インフリキシマブで治療された患者の5%−18%およびセルトリズマブで治療された患者の8%−12.3%において、炎症性腸疾患のための維持療法中に見られた(Cassinotti, Inflamm Bowel Dis,,Vol. 15(8), August 2009)。間欠的投与により治療抗体に対する抗体応答の頻度が高くなりインフリキシマブを受けた患者の36%−61%が抗体応答を発生させた。
【0035】
消化管の他に、本発明は、粘膜関門を有する他の組織、例えば泌尿生殖器系および呼吸器系に適用することができる。さらに、本発明はまた上皮系を有する他の組織、例えば目および皮膚に適用することができる。
【0036】
本発明の方法によれば、消化管の粘膜関門は、機械的外傷、例えば、限定はされないが歯および口の創傷、食道創傷、または部分腸切除、空腸瘻造設術、回腸瘻造設術、人工肛門造設術または他の外科的処置により外科的に誘導された外傷を介して破壊されまたは傷つけられ得る。消化管の粘膜関門はまた虚血または再灌流傷害により破壊され得る。消化管の粘膜関門はまた癌化学療法、癌放射線療法、または治療設定外の高線量放射線暴露により引き起こされる損傷により破壊され得る。
【0037】
消化管の粘膜関門は、肉眼的炎症および/または潰瘍、例えば限定はされないが、歯周病、アフタ性口内炎、消化管の細菌、ウイルス、真菌または寄生虫感染症、消化性潰瘍、ストレスまたはピロリ菌感染症と関連する潰瘍、食道逆流により引き起こされる損傷、炎症性腸疾患、消化管の癌、食物不耐性、例えばセリアック病により引き起こされる損傷または非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)または他の経口摂取または全身送達薬により誘導された潰瘍を介して破壊され、または傷つけられ得る。
【0038】
消化管の粘膜関門の破壊または障害は、臨床的に説明されているものであり得るが、関門異常に対する生物学的基礎がよく理解されていない場合もあり、外部熱傷、外傷、敗血症またはショック、過敏性腸症候群、糖尿病(特にI型糖尿病)、アトピー性皮膚炎、自己免疫障害、例えば強直性脊椎炎、シェーグレン症候群、うっ血性心不全、または多発性硬化症を患う患者と関連する腸関門機能の損失が挙げられるが、それらに限定されない。病原体による感染症もまた、関門機能の特定の破壊を引き起こし得る。
【0039】
本発明が適用され得るいくつかの疾患または障害では、明らかな炎症および/または潰瘍の発症前に関門透過性の変化が存在する可能性があり、抗体は関門透過性の変化時、ならびに炎症および潰瘍化時に適用され得る。炎症前に透過性の増加を含む疾患および障害としては、化学療法または放射線療法により、高レベルの非治療的放射線への暴露、炎症性腸疾患およびセリアック病により誘導される粘膜炎が挙げられるが、それらに限定されない。
【0040】
本発明が適用され得るいくつかの疾患または障害では、関門透過性の変化が消化管の分散した部分に存在する可能性があり、一方、明らかな炎症および/または潰瘍が消化管の他の部分に存在する。透過性の増加および炎症または潰瘍の物理的に分離された領域を含む疾患および障害としては、クローン病および潰瘍性大腸炎が挙げられるが、それらに限定されない。本発明の抗体は透過性が変化した領域ならびに明らかな炎症および潰瘍の領域にアクセスするように使用され得る。
【0041】
本発明は、関門異常の根本にある原因に対処するように設計された治療法としての抗体の使用を含む。そのような抗体は、創傷治癒を増強し、密着結合の機能を変化させる生物学的標的に対して、または透過性に影響する現在もしくは将来知られる他の標的に対して作られ得る。好適な標的としてはオクルディン、クローディン、接合部接着分子、ZO−1、E−カドヘリン、コクサッキーアデノウイルス受容体およびセリンプロテアーゼ、例えばクローディンの放出に関与するエラスターゼが挙げられるが、それらに限定されない。
【0042】
本発明は、関門異常の根本にある原因と無関係の生物学的標的に結合するように設計された医薬品としての抗体の使用を含む。そのような抗体は関門異常を引き起こした同じ病態に関連する疾患および障害を治療または予防するために使用され得る。そのような抗体は、関門異常を引き起こした病態と無関係の疾患および障害を治療または予防するために使用され得る。
【0043】
口腔の障害では、本発明の抗体はうがい薬、リンス、ペースト、ゲル、または他の好適な製剤中で送達させることができる。本発明の抗体は、活性抗体と粘膜表面との間の接触を増加させるように設計された製剤、例えば頬側パッチ、頬側テープ、粘膜付着性膜、舌下錠、ロゼンジ、ウエハ、チュアブル錠、口腔内崩壊錠、発泡錠、または頬側もしくは舌下固体を用いて送達させることができる。消化管の障害では、抗体は、カプセル、錠剤、液体製剤の形態または薬物を消化管に導入するように設計された同様の形態での経口摂取により送達させることができる。また、抗体は下部消化管への送達のために、坐薬または浣腸により投与され得る。そのような製剤は当業者によく知られている。
【0044】
本明細書では、「抗体(antibodyまたはantibodies)」という用語は、抗原に特異的に結合し、認識する、免疫グロブリン遺伝子またはそのフラグメント由来のフレームワーク領域を含むポリペプチドを示す。認識された免疫グロブリン遺伝子は、κ、λ、α、γ、δ、ε、およびμ定常領域遺伝子、ならびに無数の免疫グロブリン可変領域遺伝子を含む。軽鎖は、κまたはλのいずれかとして分類される。重鎖は、γ、μ、α、δ、またはεとして分類され、これは免疫グロブリンクラス、それぞれ、IgG、IgM、IgA、IgDおよびIgEを規定する。典型的には、抗体の抗原結合領域は、標的受容体への結合の特異性および親和性において最も重要である。例示的な免疫グロブリン(抗体)構造単位は、四量体を含む。各四量体は、2つの同一のポリペプチド鎖対を含み、各対は1つの「軽」(約25kD)および1つの「重」鎖(約50−70kD)を有する。各鎖のN末端は、抗原認識に主に関与する約100〜110以上のアミノ酸の可変領域を規定する。可変軽鎖(V)および可変重鎖(V)という用語は、それぞれ、これらの軽および重鎖を示す。
【0045】
抗体は、本明細書で別記されない限り、例えば、無傷の免疫グロブリンとして、または特異的結合に対し無傷の抗体と競合することができる、様々なペプチダーゼによる分解により生成される多くのよく特徴付けられたフラグメントとして、存在する。よって、例えば、ペプシンはヒンジ領域内のジスルフィド結合下で抗体を消化し、それ自体、ジスルフィド結合によりVH−CH1に結合された軽鎖であるFabの2量体、F(ab)’を生成する。F(ab)’は、穏和な条件下で還元され、ヒンジ領域内のジスルフィド結合が破壊され、よってF(ab)’2量体はFab’単量体に変換される。Fab’単量体は本質的には、ヒンジ領域の一部を有するFabである(Fundamental Immunology (Paul ed.、3d ed. 1993を参照されたい)。様々な抗体フラグメントが無傷の抗体の分解の観点から規定されているが、当業者であれば、そのようなフラグメントは、組換えDNA方法論を使用して新規にまたは化学的に合成され得ることを認識するであろう。よって、本明細書では「抗体」という用語はまた、全抗体の修飾により生成された抗体フラグメント、または化学もしくは組換えDNA方法論を使用して新規に合成されたもの(例えば、単鎖Fv、相補性決定領域(CDR)フラグメント、またはポリペプチドに対し特異的受容体結合を付与するのに十分な免疫グロブリンの少なくとも一部を含むポリペプチド)またはファージディスプレイライブラリを用いて同定されるもの(例えば、McCafferty et al, Nature 348: 552−554 (1990)を参照されたい)を含む。
【0046】
本明細書では、「モノクローナル抗体(monoclonal antibodyまたはmonoclonal antibodies)」という用語は、単一分子組成の抗体調製物を示す。モノクローナル抗体組成物は、標的受容体の特定のエピトープに対し単一の結合特異性および親和性を示す。
【0047】
「エピトープ」は抗体により結合される分子の一部である。エピトープは、分子の非隣接部分を含むことができる(例えば、ポリペプチドではポリペプチドの一次配列中では近接していないがポリペプチドの3次および4次構造の関係では、抗体により結合されるのに十分互いに近接するアミノ酸残基)。
【0048】
本明細書では「ポリクローナル抗体」という用語は、同じまたは異なる抗原上のいくつかの異なる特異的な抗原決定基に結合する、またはそれらと反応することができる異なる抗体分子の組成物を示す。ポリクローナル抗体の抗原特異性の可変性は、ポリクローナル抗体を構成する個々の抗体の可変領域内、特に相補性決定領域(CDR)1、CDR2およびCDR3領域内に位置する。好ましくは、ポリクローナル抗体は、下記で特定される標的抗原またはその一部を用いる動物の免疫化により調製される。また、ポリクローナル抗体は、複数の、標的受容体に対し所望の特異性を有するモノクローナル抗体を混合することにより調製され得る(例えば. Nowakowski, A. et al, 2002. Proc Natl Acad Sci USA 99, 11346−11350 and U.S. Pat. No. 5,126,130)。
【0049】
免疫化動物の血液、乳、初乳または卵から単離されたポリクローナル抗体調製物は典型的には、標的抗原に特異的な抗体に加えて免疫原に特異的でない抗体を含む。標的抗原に特異的な抗体は、ポリクローナル抗体調製物から精製することができ、またはポリクローナル抗体調製物は、さらに精製せずに使用することができる。よって、本明細書では「ポリクローナル抗体」という用語は、標的抗原に特異的な抗体が濃縮された抗体調製物および精製されていない調製物の両方を示す。特異的な標的に対する抗体のためにポリクローナル抗体を濃縮するための多くの技術が当業者に知られている。近年、予防的および治療的投与に好適な非常に特異的なポリクローナル抗体の組換え体産生のための技術が開発されている(WO 2004/061104)。組換えポリクローナル抗体(rpAb)は、産生バイオリアクターから単一調製物として、組換えポリクローナルタンパク質を構成する個々のメンバーの別個の取扱、製造、精製、またはキャラクタリゼーションなしで精製することができる。
【0050】
1つの実施形態では、抗体は乳または初乳由来のポリクローナル抗体である。1つの実施形態では、ポリクローナル抗体は反芻動物、例えばウシ、ヤギ、ヒツジ、ラクダまたは水牛の乳または初乳に由来する。別の実施形態では、抗体はヒトの乳または初乳から単離される。好ましい実施形態では、ポリクローナル抗体はウシ、好ましくは免疫化されたウシの乳または初乳から単離される。ウシ初乳(初期乳)は、本発明のための好ましい抗体源である。ウシでは、抗体は胎盤を通過せず、よって全ての受動免疫は、乳を介して新生仔ウシに伝達される。結果として、ウシは出産直後に大量の抗体を初乳中に分泌し、初乳中のタンパク質の約50%が免疫グロブリンである。出生後最初の4時間では、50mg/mlの免疫グロブリン濃度が典型的には初乳中に見られ(Butler and Kehrli, 2005, Mucosal Immunology, 1763−1793)、24時間後に25−30mg/mlまで降下する(Ontsouka et al, 2003, J Dairy Sci, 86, 2005−11)。初乳および乳は経口送達のためのポリクローナル抗体のための比類なく安全な源である。通常の乳は1.5g/L IgGを含むので、ウシ免疫グロブリンへの大規模なヒト暴露がすでに存在する。
【0051】
「キメラ抗体」は、(a)定常領域、またはその一部が、変化され、置換されまたは交換され、よって、抗原結合部位(可変領域)が異なるまたは変化されたクラス、エフェクター機能および/または種の定常領域、あるいはキメラ抗体に新しい特性を付与する全く別の分子、例えば、酵素、毒素、ホルモン、成長因子、薬物などに結合され;あるいは(b)可変領域、またはその一部が、異なるまたは変化された抗原特異性を有する可変領域により変化され、置換されまたは交換された抗体分子である。例えば、米国特許第4,816,567号およびMorrison, 1985, Science 229: 1202−07を参照されたい。
【0052】
本発明はさらに、抗体を模倣することが意図された分子、例えばアプタマー、ナノボディおよびフィブロネクチンに基づく抗体模倣物の使用を企図する。本発明はまた、抗体分子の一部が標的受容体のためのリガンドに融合され、よって、標的受容体に特異的とされた「融合タンパク質」の使用を企図する。別の態様では、本発明は、標的に特異的な抗体の誘導体を提供する。誘導体化された抗体は、抗体に所望の特性、例えば、特定の使用における半減期の増加を付与する任意の分子または物質を含むことができる。誘導体化された抗体は、例えば検出可能な(またはラベリング)部分(例えば、放射性、比色分析、抗原または酵素分子、検出可能なビーズ(例えば磁性または電子密度の高い(例えば、金ビーズ)、または別の分子に結合する分子(例えば、ビオチンまたはストレプトアビジン))、治療または診断部分(例えば、放射性、細胞傷害性、または薬学的に活性な部分)、または特定の使用(例えば、被験体、例えばヒト被験体への投与、あるいは他のインビボまたはインビトロ用途)のために抗体の適合性を増加させる分子を含むことができる。抗体を誘導体化させるために使用することができる分子の例としては、アルブミン(例えば、ヒト血清アルブミン)およびポリエチレングリコール(PEG)が挙げられる。抗体のアルブミン結合およびペグ化誘導体は、当技術分野でよく知られた技術を用いて調製することができる。1つの実施形態では、抗体はトランスサイレチン(TTR)またはTTR変異体にコンジュゲートされ、またはそうでなければ結合される。TTRまたはTTR変異体は、例えば、デキストラン、ポリ(n−ビニルピロリドン)、ポリエチレングリコール、プロピレングリコールホモポリマー、ポリプロピレンオキシド/エチレンオキシドコポリマー、ポリオキシエチル化ポリオールおよびポリビニルアルコールからなる群より選択される化学薬品により化学的に修飾することができる。
【0053】
1つの態様では、本発明は、本発明の治療組成物を使用して患者を治療する方法を提供する。本明細書では、「患者」という用語は、動物を示す。好ましくは動物は、哺乳動物である。より好ましくは、哺乳動物はヒトである。「患者」はまた、例えば、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ブタ、モルモット、サカナ、トリなどを示す。よって、本発明の組成物および方法は、獣医学的治療に同様に好適である。本発明の1つの実施形態では、抗体はコンパニオンアニマル、働く動物または食用として飼育されている動物の疾患または障害を治療するために使用される。本発明の1つの実施形態では、新生動物、好ましくはウシ、ウマ、ヒツジまたはブタに受動免疫を与えるために、安定化された抗体が使用される。
【0054】
「治療」「治療する」および「治療している」という用語は、障害、疾患、疾病または他の病状(本明細書では、まとめて「病状」と呼ばれる)の少なくとも1つの症状または他の側面の軽減、治癒または防止、または病状の重症度の減少、などを含む。本発明の組成物は、実行可能な治療薬を構築するために、完治に影響を与える、または疾患の全ての症状または徴候を根絶する必要はない。関連分野において認識されるように、治療薬として使用される薬物は、ある病態の重症度を減少させることができるが、有用な治療薬としてみなされるために疾患の全ての徴候を消す必要はない。同様に予防的に投与される治療は、実行可能な予防薬を構築するために、病状の発症を防止するのに完全に有効である必要はない。単純に、疾患の影響を減少させること(例えば、その症状の数または重症度を減少させることにより、または別の治療の有効性を増加させることにより、または別の有利な効果を生成させることにより)、または疾患が被験体において発生するまたは悪化する可能性を減少させることで十分である。1つの実施形態では、治療的有効量の組成物が患者に投与されたというしるしは、特定の障害の重症度を反映する指標のベースラインを超える持続的改善である。
【0055】
本発明の医薬組成物は、1つ以上の薬学的に許容される担体または賦形剤と共に製剤化された、治療的有効量の本発明の抗体を含む。「治療的有効量」の本発明の抗体により、任意の医学的処置に適用可能な合理的な利益/リスク比で、治療される被験体に治療効果を与える組成物の量を意味する。治療効果は、その用語が本明細書で使用される場合、患者を「治療する」のに十分である。
【0056】
本明細書では、「薬学的に許容される担体または賦形剤」という用語は、無毒性の不活性固体、半固体または液体フィラー、希釈剤、封入材料または任意の型の製剤助剤を意味する。薬学的に許容される担体として機能することができる材料のいくつかの例は、糖類例えばラクトース、グルコースおよびスクロース;デンプン、例えば、トウモロコシデンプンおよびジャガイモシデンプンデンプン;セルロースおよびその誘導体、例えばカルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロースおよび酢酸セルロース;トラガント末;麦芽;ゼラチン;タルク;賦形剤、例えばカカオバターおよび坐薬ワックス;油、例えばピーナッツ油、綿実油、紅花油、ゴマ油、オリーブ油、トウモロコシ油およびダイズ油;グリコール、例えばプロピレングリコール;エステル、例えばエチルオレエートおよびエチルラウレート;寒天;緩衝剤、例えば水酸化マグネシウムおよび水酸化アルミニウム;アルギン酸;発熱性物質除去水;等張食塩水;リンゲル液;エチルアルコール、およびリン酸緩衝溶液であり、ならびに他の無毒性適合性潤滑剤、例えばラウリル硫酸ナトリウムおよびステアリン酸マグネシウム、ならびに着色料、放出剤、コーティング剤、甘味、香味および芳香剤、保存剤および抗酸化剤もまた、調合者の判断に従い、組成物中に存在することができる。
【0057】
経口投与のための液体剤形としては、薬学的に許容されるエマルジョン、マイクロエマルジョン、溶液、懸濁液、シロップおよびエリキシル剤が挙げられる。活性化合物の他に、液体剤形は、当技術分野において普通に使用される不活性希釈剤、例えば、例として水または他の溶媒、可溶化剤および乳化剤、例えばエチルアルコール、イソプロピルアルコール、炭酸エチル、酢酸エチル、ベンジルアルコール、安息香酸ベンジル、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ジメチルホルムアミド、油(特に、綿実、ラッカセイ、トウモロコシ、胚芽、オリーブ、ヒマシ、およびゴマ油)、グリセロール、テトラヒドロフルフリルアルコール、ポリエチレングリコールおよびソルビタンの脂肪酸エステル、およびそれらの混合物を含み得る。不活性希釈剤に加えて、経口組成物はまた、アジュバント、例えば湿潤剤、乳化および懸濁剤、甘味、香味、および芳香剤を含むことができる。
【0058】
直腸投与のための組成物は、好ましくは本発明の化合物を好適な非刺激性賦形剤または担体、例えばカカオバター、ポリエチレングリコールまたは坐薬ワックス(周囲温度では固体であるが、体温で液体となり、よって、直腸または膣腔で融解し、活性化合物を放出する)と混合することにより調製することができる坐薬である。1つの実施形態では、直腸投与のための組成物は浣腸の形態をとる。
【0059】
経口投与のための固体剤形としては、カプセル、錠剤、ピル、粉末、および顆粒が挙げられる。そのような固体剤形では、活性化合物は、少なくとも1つの不活性な、薬学的に許容される賦形剤または担体、例えば、クエン酸ナトリウムまたはリン酸二カルシウムおよび/または:a)フィラーまたは増量剤、例えばデンプン、ラクトース、スクロース、グルコース、マンニトール、および珪酸、b)結合剤、例えば、例として、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸、ゼラチン、ポリビニルピロリジノン、スクロース、およびアカシア、c)保湿剤、例えばグリセロール、d)崩壊剤、例えば寒天−寒天、炭酸カルシウム、ジャガイモシデンプンまたはタピオカデンプン、アルギン酸、あるケイ酸塩、および炭酸ナトリウム、e)溶液遅延剤、例えばパラフィン、f)吸収促進剤、例えば四級アンモニウム化合物、g)湿潤剤、例えば、例として、セチルアルコールおよびグリセロールモノステアレート、h)吸収剤、例えばカオリンおよびベントナイト粘土、およびi)潤滑剤、例えばタルク、ステアリン酸マグネシウム、固体ポリエチレングリコール、ラウリル硫酸ナトリウム、およびそれらの混合物と混合される。カプセル、錠剤およびピルの場合、剤形はまた緩衝剤を含み得る。同様の型の固体組成物はまた、ラクトースまたは乳糖などの賦形剤、ならびに高分子量ポリエチレングリコールなどを使用して、ソフトおよびハード充填ゼラチンカプセル中のフィラーとして使用することができる。
【0060】
安定化された抗体は、胃分解に対する増強された安定性を有するが、いくつかの条件下では、胃分解に対して追加レベルの保護を提供することが望ましい可能性がある。これが望ましい場合、腸溶コーティングに対して多くの選択肢が存在する(例えば米国特許第4,330,338号および第4,518,433号を参照されたい)。1つの実施形態では、腸溶コーティングは、フィルムコーティングを溶解し、活性成分を放出するために、pHの胃後変化を利用する。コーティングおよび製剤は、タンパク質治療薬を小腸に送達させるために開発されており、これらのアプローチは、本発明の抗体の送達のために適合され得る。例えば、インスリンの腸溶コーティング形態が経口送達のために開発されている(Toorisaka et al, 2005, J Control Release, 107, 91−6)。
【0061】
さらに、錠剤、糖衣錠、カプセル、ピル、および顆粒の固体剤形は、医薬製剤化技術分野でよく知られた他のコーティングおよびシェルを用いて調製することができる。それらは任意で、乳白剤を含むことができ、また、腸管のある部分においてのみ、またはそこで優先的に、任意で遅延様式で活性成分(複数可)を放出する組成物とすることができる。使用することができる包埋組成物の例は、ポリマー物質およびワックスを含む。
【0062】
有効用量は投与経路、ならびに他の薬剤との共使用の可能性によって変動するであろう。しかしながら、本発明の化合物および組成物の1日の総使用は、妥当な医学的判断の範囲内で主治医により決定されることは理解されるであろう。任意の特定の患者に対する、特定の治療的に有効な用量レベルは、様々な因子、例えば、治療される障害および障害の重症度;使用される特定の化合物の活性;使用される特定の組成物;患者の年齢、体重、全体的な健康、性別および食事;使用される特定の化合物の投与時間、投与経路、よび排泄速度;食物摂取に対する化合物の送達のタイミング;治療期間;使用される特定の化合物と組み合わせて、または同時に使用される薬物;および医学技術分野においてよく知られた同様の因子に依存するであろう。
【0063】
本発明によれば、投与経路としては、カテーテルまたは栄養管を介する経口投与が挙げられる。
【0064】
本発明の特定の実施形態は、本発明の抗体を含む医薬組成物を、約1mg/日〜約1g/日、より好ましくは約10mg/日〜約500mg/日、最も好ましくは約20mg/日〜約100mg/日の用量で、被験体に投与することを含む。1つの実施形態では、ポリクローナル抗体調製物は、約100mg〜約50g/日、より好ましくは約500mg/日〜約10g/日、最も好ましくは約1g/日〜約5g/日の抗体の用量で、被験体に投与され、ここで、ポリクローナル抗体調製物は、標的抗原に特異的な抗体に対し濃縮されていない。
【0065】
治療計画は、本明細書で開示される医学的障害を治療するために、本発明の抗体組成物を1日1回、1日2回、または1日3回以上投与することを含む。1つの実施形態では、本発明の抗体組成物は、本明細書で開示される医学的障害を治療するために、1日4回、1日6回または1日8回投与される。1つの実施形態では、本発明の抗体組成物は、本明細書で開示される医学的障害を治療するために、1週間に1回、1週間に2回、または1週間に3回以上投与される。
【0066】
本発明の方法および組成物は、患者が苦しんでいる病状を治療するのに有用な1つ以上の追加の治療薬と組み合わせた、本発明の抗体の使用を含む。そのような薬剤の例としては、タンパク質および非タンパク質薬物の両方が挙げられる。複数の治療薬が共投与される場合、関連技術分野において認識されるように、用量はそれに応じて調整され得る。「共投与」および併用療法は、同時投与に限定されず、本発明の抗体が少なくとも1つの他の治療薬を患者に投与することを含む治療過程中に少なくとも1回投与される治療計画も含む。
【0067】
1つの好ましい実施形態では、本発明はTNFに特異的な抗体、好ましくは乳由来のポリクローナル抗TNF抗体を使用して、ピーク抗TNF抗体血清濃度を1μg/ml未満、好ましくは300ng/ml未満、好ましくは100ng/ml未満に維持しながら、炎症、特に炎症性腸疾患を治療するための組成物および方法を含む。別の好ましい実施形態では、本発明は乳由来のポリクローナル抗TNF抗体を使用して、ピーク抗TNF抗体血清濃度を1μg/ml未満に維持しながら、粘膜炎、特に口腔粘膜炎を治療するための組成物および方法を含む。消化管に局所的に投与された場合、抗体にアクセスすることができる標的に特異的な本発明の抗体を使用して、抗体血清濃度を1μg/ml未満に維持しながら、治療することができる、消化管の障害を対象にする他の好ましい実施形態もまた本明細書で記載される。
【0068】
下記実施例は、本発明の特定の実施形態または特徴を説明することを目的として提供され、本発明の範囲を制限することを意図しない。
【0069】
実施例
実施例1.ウシ抗TNF抗体の分析
ウシをマウスTNFで免疫化し、出産後の初乳を収集することによりウシポリクローナル抗TNF抗体(AVX−470)を生成させた。免疫グロブリンを初乳乳清から、硫酸アンモニウム沈殿法により精製し;調製物は、SDS−PAGEにより70%純粋であることを見いだした。グルテンで免疫化されたウシの初乳に由来する対照ウシ免疫グロブリンを並行して精製した。半精製免疫グロブリン調製物のタンパク質濃度をBCAアッセイを用いて決定した。
【0070】
AVX−470のTNF−中和活性を、標準L929アッセイを用いてアッセイした。AVX−470を用いて実施された第1の機能実験は、ハムスターにおいて実施されたので、ハムスターTNFを中和する能力が評価された。ハムスター脾細胞を、LPSで2ng/mlとして24時間刺激し、上清をハムスターTNF源として使用した。様々な濃度のAVX−470、対照ウシ抗グルテン抗体または精製ウサギ抗TNF抗体(Biovision)を、2時間37℃で、ハムスターLPS上清(以後、ハムスターTNFと呼ぶ)の1:100希釈を用いてインキュベートした。ハムスターTNF−抗体の組み合わせを、1μg/mlアクチノマイシンDと共に、一晩中蒔かれたL929細胞(3.5x10細胞/ウェル)に移行させた。培養物を一晩中インキュベートし、細胞増殖をWST用いて測定した。全てのアッセイを3通りで実施した。
【0071】
表1で示されるように、ハムスターTNFは、L929細胞の増殖を阻害した。この阻害は、用量依存的様式で精製ウサギ抗TNF抗体により、およびAVX−470によりブロックされたが、対照ウシ抗グルテン抗体によってはブロックされなかった。最大半量の阻害は、0.5μg/mlの精製抗TNF抗体および200μg/ml AVX−470により達成された。これらのデータに基づき、AVX−470中の抗体の0.25%がTNFに特異的であると推定される。
【表1】

【0072】
実施例2.経口抗TNF抗体によるTNBS誘導大腸炎の治療
ポリクローナルウシ抗TNF抗体(AVX−470)を、マウスTNFで免疫化されたウシの初乳から単離した。初乳乳清は、初乳を脱脂し、カゼインをpH4.6でのインキュベーションにより沈殿させることにより生成させた。免疫化されたウシ由来の乳清をプールし、硫黄親和性吸着クロマトグラフィーにより精製した。対照抗体を並行して、非免疫化動物の初乳から精製した。
【0073】
C57BL/6マウス((8−9週齢)Charles River Laboratories、Wilmington、MA)に、0.1mLのTNBS(トリニトロベンゼンスルホン酸)(4mg)を含む50%エタノールを直腸内に投与した。TNBSモデルは、炎症性腸疾患の広く受け入れられているモデルである。対照動物にはエタノールのみを投与した。12匹の動物をTNBS処置群で使用し、8匹の動物を他の群の各々で使用した。動物にAVX−470(5mg、1.5mgまたは0.5mg)、対照ウシ抗体(1.5mg)または生理食塩水を1日2回、経口経管栄養により0.1mlで投与した。抗体は−1日〜3日まで投与した。
【0074】
各マウスをビデオ内視鏡検査を用いて、イソフルラン麻酔下、動物を屠殺する直前第5日に分析した。各内視鏡的手順中、静止画およびビデオを録画し、大腸炎の程度および処置に対する応答を評価した。大腸炎重症度を、0−4スケール(0=正常;1=血管分布の消失;2=血管分布の消失および破砕性;3=破砕性および侵食;4=潰瘍および出血)を用いて盲検観察者によりスコア化した。群間の差をスチューデントT−検定を用いて分析した。
【0075】
図1で見られるように、AVX−470の経投与は、炎症性腸疾患のこの広く受け入れられているモデルにおいて大腸炎の重症度を減少させた。
【0076】
実施例3.経口抗TNF抗体によるTNBS誘導大腸炎の治療後の血清抗体レベル
実施例2におけるマウスの屠殺後、血液試料を心臓穿刺により収集し、血清を調製し、凍結させた。各個々のマウス由来の血清を、ELISAによりウシ免疫グロブリンの存在に対しアッセイした。プレートを5μg/mlのヒツジ抗ウシIgG(h+1)抗体でコートした(Bethyl Laboratories、Montgomery、TX)。マウス血清の段階希釈(3倍希釈、1:100希釈から開始)を2通りで分析した。抗体を10ng/mlのHRP標識ヒツジ抗ウシIgG(h+1)抗体およびTMB基質を用いて検出した(SigmaAldrich、St.Louis、MO)。ウシ参照血清(Bethyl Laboratories)を用いた検量線を全てのELISAプレート上で実行した。図2で示されるように、アッセイは容易に10ng/mlを超えるウシ免疫グロブリン濃度を検出する。
【0077】
全てのマウス由来の血清をELISAにおいて分析した。ウシ抗体(AVX−470または対照抗体)を投与された32マウスのうちの31が、第5日に、血清中に検出可能なウシ免疫グロブリンを有さなかった。ELISAにおける検出限界は10ng/mlであり、血清は1:100希釈でアッセイした。そのため、血清試料は<1μg/mlウシ免疫グロブリンを含んだ。
【0078】
非常に高レベルのウシ免疫グロブリンがマウス#23の血清で検出された(0.95mg/ml)。このマウスは、最も高い用量のAVX−470(5mg)で処置された群内のものであった。マウスの血清体積は約1mlであり、これらのデータは、適用した用量の20%が血清中に存在することを示唆するであろう。しかしながら、この群内の他の7匹のマウスがウシ免疫グロブリン<1μg/mlの血清レベル(>1000倍低い)を有したことを考えると、この結果は試料の汚染を反映する可能性がある。マウス#23は、高容量処置群内で最も高い内視鏡検査スコアを有したことに注意すべきである。
【0079】
実施例1で示されるデータは、AVX−470中の免疫グロブリンの<1%がTNFに特異的であることを示す。よって、TNF特異抗体の血清濃度は、著しい臨床効果が見られたこの実験では10ng/ml未満である。注入された抗TNF抗体に対する臨床的有効血清濃度は0.8−1.4μg/mlである(Tracey et al, 2008, Pharmacol Ther, 117, 244−79)。
【0080】
実施例4.局所抗TNF抗体による口腔粘膜炎の治療
ポリクローナルウシ抗TNF抗体(AVX−470)を、マウスTNFで免疫化されたウシの初乳から単離した。初乳乳清は、初乳を脱脂し、カゼインをpH4.6でのインキュベーションにより沈殿させることにより生成させた。免疫化されたウシ由来の乳清をプールし、硫酸アンモニウム沈殿法により精製した。対照抗体を並行して、グルテンで免疫化されたウシの初乳から精製した。
【0081】
シリアンゴールデンハムスター(1群あたり8匹のハムスター)を麻酔し、左頬袋を裏返し、固定し、鉛シールドを用いて単離した。単一線量の放射線(40Gy/照射)を、0日に2.0Gy/分の速度で全ての動物に与えた。放射線は、0.35mmCu濾過システムを用いて硬化された、16−キロボルト電位(15−ma)源により、50cmの焦点距離で発生させた。このモデルでは、粘膜炎重症度は14日に最大に到達し、18日までに治癒し始める。0日に開始して、照射直後、ハムスターに1mgのAVX−470を含む食塩緩衝液を左頬側頬袋に1日に2回、28日の研究を通して投与した。
【0082】
2つの対照群−生理食塩水群および7mgのウシ初乳抗グルテン抗体を投与した群を含ませた。粘膜炎重症度を6日に開始して一日おきに評価し、28日を通して続けた。動物を麻酔し、左頬袋を裏返し、写真撮影した。研究の終わりに、画像をランダム化し、各画像のための識別子に関し盲目とされた2人のスコアラーにより独立様式でスコア化させた。
【0083】
粘膜炎を、有効写真スケールと比較することにより視覚的にスコア化した。スコア0:袋は完全に健康。紅斑または血管拡張なし;スコア1:軽度〜重度の紅斑および血管拡張。粘膜の侵食なし;スコア2:重度の紅斑および血管拡張。露出部分を残す粘膜の表面の侵食。粘膜のスティップリングの減少;スコア3:1つ以上の場所でのオフホワイトの潰瘍の形成。潰瘍は偽膜により黄色/灰色を有し得る。潰瘍の累積サイズは袋の約1/4に等しい。重度の紅斑および血管拡張;スコア4:潰瘍の累積サイズは袋の約1/2に等しい。柔軟性の喪失。重度の紅斑および血管拡張;スコア5:事実上全ての袋が潰瘍化される。柔軟性の喪失(袋は部分的にのみ、口から引き出すことができる)。
【0084】
群間の粘膜炎重症度の差は、各動物が潰瘍を示した日数を計算することにより(すなわち、3以上のスコア)評価した。潰瘍化は、口腔粘膜の物理的完全性が破壊される疾患の発症点であり、臨床的に重要なエンドポイントである。表2に示されるように、AVX−470で処置された動物はグレード3以上の粘膜炎を有する動物日数において26%の減少を有した。抗グルテン抗体による処置は、疾患転帰に影響しなかった。
【表2】

【0085】
実施例5.局所抗TNF抗体による口腔粘膜炎の治療後の血清抗体レベル
実施例4におけるハムスターの屠殺後、血液試料を心臓穿刺により収集し、血清を調製し、凍結させた。各個々のハムスター由来の血清を、ELISAによりウシ免疫グロブリンの存在に対しアッセイした。プレートを5μg/mlのヒツジ抗ウシIgG(h+1)抗体でコートした(Bethyl Laboratories、Montgomery、TX)。マウス血清の段階希釈(3倍希釈、1:100希釈から開始)を2通りで分析した。抗体を10ng/mlのHRP標識ヒツジ抗ウシIgG(h+1)抗体およびTMB基質を用いて検出した(SigmaAldrich、St.Louis、MO)。ウシ参照血清(Bethyl Laboratories)を用いた検量線を全てのELISAプレート上で実行した。
【0086】
全てのハムスター由来の血清をELISAにおいて分析した。ウシ抗体(AVX−470または対照抗グルテン抗体)を投与されたハムスターは、第28日に、血清中に検出可能なウシ免疫グロブリンを有さなかった。ELISAにおける検出限界は10ng/mlであり、血清は1:100希釈でアッセイした。そのため、血清試料は<1μg/mlウシ免疫グロブリンを含んだ。
【0087】
実施例6.頬袋の照射後の、免疫組織化学的検査による局部組織において検出されるウシ抗体
シリアンゴールデンハムスターは、実施例4におけるように、左頬側頬袋に40Gy照射を受けた。照射後12日に、動物は、両方の頬袋において1mg AVX−470の単回投与を受けた。投与1時間後、動物を屠殺し、頬袋を切除し、ホルマリン中で固定し、パラフィン中に埋設し、切片化した。切片を、ウシ免疫グロブリンの存在に対し、Vector Laboratories社製のVectastain Elite ABCキットを用いて染色した。キットはヤギIgGの認識のために設計されているが、ウシ免疫グロブリンと交差反応する。図3で示されるように、ウシ免疫グロブリンは左頬側頬袋の粘膜下空間全体にわたって容易に検出できた(パネルA)が、未照射右頬袋の外面のみで見られた(パネルB)。
【0088】
実施例7.経口抗TNF抗体によるGI急性放射線症候群の治療
ポリクローナルウシ抗TNF抗体(AVX−470)を、マウスTNFで免疫化されたウシの初乳から単離した。初乳乳清は、初乳を脱脂し、カゼインをpH4.6でのインキュベーションにより沈殿させることにより生成させた。免疫化されたウシ由来の乳清をプールし、硫黄親和性吸着クロマトグラフィーにより精製した。
【0089】
C3H/HeNcrlマウスに、単一線量の全身照射(8Gy/照射)を0日に与えた。放射線は、Kimtron Polaris II放射線源を用い、0.35mmAl濾過システムにより硬化された、160キロボルト電位(15−ma)源により、50cmの焦点距離で、発生された。照射は、全身を、<100cGy/分の速度で標的とした。動物に1日に2回、生理食塩水または6mg AVX−470を投与した。第1の投与は、照射10分後に与え、動物に第10日まで投与した。各群内の3匹の動物を第1日および7日に屠殺し、実施例8で記載される実験のために使用した。1群あたり16匹の残りの動物の生存をモニタした。
【0090】
図4で示されるように、AVX−470で処置された群(黒四角)は、Kaplan−Meier Log rank検定で、生存において統計学的に有意の改善を示し(p=0.002)、対照の生理食塩水処置群では0であるのに比べ(白丸)、3匹のマウスは研究の終わりまで生存した。
【0091】
実施例8.経口抗TNF抗体によるGI ARSの治療後の血清抗体レベル
第1日および7日での、実施例7におけるマウスの屠殺後、血液試料を心臓穿刺により収集し、血清を調製し、凍結させた。各個々のマウス由来の血清を、ELISAによりウシ免疫グロブリンの存在に対しアッセイした。プレートを5μg/mlのヒツジ抗ウシIgG(h+1)抗体でコートした(Bethyl Laboratories、Montgomery、TX)。マウス血清の段階希釈(3倍希釈、1:100希釈から開始)を2通りで分析した。抗体を10ng/mlのHRP標識ヒツジ抗ウシIgG(h+1)抗体およびTMB基質を用いて検出した(SigmaAldrich、St.Louis、MO)。ウシ参照血清(Bethyl Laboratories)を用いた検量線を全てのELISAプレート上で実行した。
【0092】
全てのマウス由来の血清をELISAにおいて分析した。ウシ抗体(AVX−470または対照抗体)を投与されたマウスは、第1日または7日に、血清中に検出可能なウシ免疫グロブリンを有さなかった。ELISAにおける検出限界は10ng/mlであり、血清を1:100希釈でアッセイした。そのため、血清試料は<1μg/mlウシ免疫グロブリンを含んだ。
【0093】
実施例9.TBI後免疫組織化学的検査により小腸固有層において検出されるウシ抗体
C3H/HeNcrlマウスに、実施例8で記載されるように、8.55Gyの線量の全身照射を与えた。照射直後に開始し、動物に1日に1回、10mg AVX−470を投与した。照射96時間後、動物を屠殺し、それらの小腸を取り出した。空腸の切片をホルマリン中で固定し、パラフィン中に埋設し、切片化した。切片を、ウシ免疫グロブリンの存在に対し、Vector Laboratories社製のVectastain Elite ABCキットを用いて染色した。キットはヤギIgGの認識のために設計されているが、ウシ免疫グロブリンと交差反応する。図5で示されるように、ウシ免疫グロブリンは固有層において検出できた。
【0094】
本明細書で言及される特許および科学文献は、当業者が使用することができる知識を確立する。本明細書で引用される全ての米国特許および公開された、または公開されていない米国特許出願は、参照により組み込まれる。本明細書で引用される全ての公開された外国特許および特許出願は、参照により本明細書に組み込まれる。本明細書で引用される全ての他の公開された参考文献、文書、原稿および科学文献は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0095】
本発明について、特にその好ましい実施形態を参照して示し、記載してきたが、当業者であれば、添付の特許請求の範囲により含まれる本発明の範囲から逸脱せずに、形態および詳細において様々な変更が可能であることを理解するであろう。本明細補で記載される実施形態は互いに排他的でなく、本発明によれば、様々な実施形態からの特徴は、全体として、または部分的に組み合わされ得ることもまた理解すべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳由来のポリクローナル抗TNF抗体を消化管に投与することを含み、抗TNF抗体の投与後の患者の血清中の抗TNF抗体のピークレベルは約1μg/ml未満である、炎症性腸疾患を治療する方法。
【請求項2】
約2%未満の患者が3用量以上の治療抗TNF抗体への暴露後、前記治療抗TNF抗体に対する抗体を発生させる、請求項1記載の方法。
【請求項3】
3用量以上の抗TNF抗体の投与は、6ヶ月の期間にわたり前記抗TNF抗体の効力を低下させない、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記抗TNF抗体の投与後の前記患者の血清中の検出可能な抗TNF抗体のピークレベルは約10ng/ml未満である、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記抗TNF抗体は、経口または直腸投与される、請求項1記載の方法。
【請求項6】
ウシ由来のポリクローナル抗TNF抗体を含む組成物であって、前記抗体は前記組成物中に、局所的に炎症性腸疾患を治療するのに有効な量で存在し、前記組成物が投与されると、前記抗TNF抗体の投与後の患者の血清中の抗TNF抗体のピークレベルは1μg/mlである、組成物。
【請求項7】
前記抗TNF抗体の投与後の前記患者の血清中の抗TNF抗体のピークレベルは10ng/ml未満である、請求項6記載の組成物。
【請求項8】
経口または直腸投与のために製剤化された請求項6記載の組成物。
【請求項9】
炎症性腸疾患を有する患者の局所治療のための、ウシ由来のポリクローナル抗TNF抗体を含む組成物の使用であって、前記抗TNF抗体の投与後の患者の血清中の検出可能な抗体のピークレベルは約1μg/ml未満である使用。
【請求項10】
約2%未満の患者が3用量以上の治療抗TNF抗体への暴露後、前記治療抗TNF抗体に対する抗体を発生させる、請求項9記載の使用。
【請求項11】
3用量以上の抗TNF抗体の投与は、6ヶ月の期間にわたり前記抗TNF抗体の効力を低下させない、請求項9記載の使用。
【請求項12】
前記抗TNF抗体の投与後の前記患者の血清中の検出可能な抗TNF抗体のレベルは約10ng/ml未満である、請求項9記載の使用。
【請求項13】
前記抗TNF抗体は、経口または直腸投与される、請求項9記載の使用。
【請求項14】
抗炎症性サイトカインに特異的なウシ由来のポリクローナル抗体を含む組成物であって、前記抗体は前記組成物中に、患者の消化管の炎症を局所的に治療するのに有効な量で存在し、前記抗体の投与後の患者の血清中で検出可能な抗体のピークレベルは、1μg/ml未満である組成物。
【請求項15】
前記抗炎症性サイトカインはTNF、TNF−κ、Ifn−γ、IL−1β、IL−2、IL−6、IL−12、IL−13、IL−15、IL−17、IL−18、IL−21、IL−23、IL27、IL−32、IL−33、IL−35またはそれらの任意の組み合わせから選択される、請求項14記載の組成物。
【請求項16】
前記抗炎症性サイトカインはTNFである、請求項14記載の組成物。
【請求項17】
経口または直腸投与のために製剤化された請求項14記載の組成物。
【請求項18】
患者の消化管に、炎症性サイトカインに特異的な抗体を投与することを含む、患者において消化管の炎症を治療する方法であって、前記抗体の投与後の患者の血清中の抗体のピークレベルは約1μg/ml未満である方法。
【請求項19】
GI管の透過性は、炎症のために増加する、請求項18記載の方法。
【請求項20】
炎症は、化学療法、放射線療法、非治療的放射線暴露、炎症性腸疾患、セリアック病、過敏性腸症候群、癌、非ステロイド性 抗炎症薬の結果である、請求項18記載の方法。
【請求項21】
前記炎症性サイトカインはTNF、TNF−κ、Ifn−γ、IL−1β、IL−2、IL−6、IL−12、IL−13、IL−15、IL−17、IL−18、IL−21、IL−23、IL27、IL−32、IL−33、IL−35またはそれらの任意の組み合わせから選択される、請求項18記載の方法。
【請求項22】
約2%未満の患者が3用量以上の治療抗体への暴露後、前記治療抗体に対する抗体を発生させる、請求項18記載の方法。
【請求項23】
患者の胃腸管の炎症の局所治療のための抗炎症性サイトカインに特異的なウシ由来のポリクローナル抗体を含む組成物の使用であって、前記抗体の投与後の患者の血清中の検出可能な抗体のピークレベルは約1μg/ml未満である使用。
【請求項24】
炎症は、化学療法、放射線療法、非治療的放射線暴露、炎症性腸疾患、セリアック病、過敏性腸症候群、癌、非ステロイド性抗炎症薬の結果である、請求項23記載の使用。
【請求項25】
前記炎症性サイトカインはTNF、TNF−κ、Ifn−γ、IL−1β、IL−2、IL−6、IL−12、IL−13、IL−15、IL−17、IL−18、IL−21、IL−23、IL27、IL−32、IL−33、IL−35またはそれらの任意の組み合わせから選択される、請求項23記載の使用。
【請求項26】
前記抗体の投与後の前記患者の血清中の検出可能な抗体のピークレベルは約10ng/ml未満である、請求項23記載の使用。
【請求項27】
約2%未満の患者が3用量以上の治療抗体への暴露後、前記治療抗体に対する抗体を発生させる、請求項23記載の使用。
【請求項28】
3用量以上の抗体の投与は、6ヶ月の期間にわたり前記抗体の効力を低下させない、請求項23記載の使用。
【請求項29】
胃腸(GI)管に乳由来のポリクローナル抗TNF抗体を投与することを含む粘膜炎を治療するための方法であって、前記抗TNF抗体の投与後の患者の血清中の抗TNF抗体のピークレベルは約1μg/ml未満である方法。
【請求項30】
前記抗TNF抗体の投与後の前記患者の血清中の検出可能な抗TNF抗体のピークレベルは約10ng/ml未満である、請求項29記載の方法。
【請求項31】
前記粘膜炎は口腔粘膜炎である、請求項29記載の方法。
【請求項32】
前記抗TNF抗体は口腔に投与するために製剤化される、請求項31記載の方法。
【請求項33】
前記粘膜炎は胃腸粘膜炎である、請求項29記載の方法。
【請求項34】
前記抗TNF抗体は胃腸管に投与するために製剤化される、請求項33記載の方法。
【請求項35】
前記抗TNF抗体は経口または直腸送達のために製剤化される、請求項34記載の方法。
【請求項36】
抗体を消化管と接触させることを含む、消化管に抗体を送達する方法であって、患者の消化管の粘膜関門は、任意で傷つけられ、よって抗体透過性となり、前記抗体は前記消化管の管腔表面上または前記消化管の粘膜関門下の生物学的標的に特異的であり、前記抗体の投与後の患者の血清中の抗体のピークレベルは約1μg/ml未満である、方法。
【請求項37】
前記抗体は乳由来のポリクローナル抗体である、請求項36記載の方法。
【請求項38】
前記抗体は、TNF、TNF−κ、Ifn−γ、IL−1β、IL−2、IL−6、IL−12、IL−13、IL−15、IL−17、IL−18、IL−21、IL−23、IL27、IL−32、IL−33、IL−35、Toll様受容体、腸内神経伝達物質またはそれらの受容体もしくは輸送体、食物摂取を制御するペプチドもしくは受容体、結腸直腸癌細胞上の上皮増殖因子受容体から選択される生物学的標的に特異的である、請求項36記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2013−508300(P2013−508300A)
【公表日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−534415(P2012−534415)
【出願日】平成22年10月15日(2010.10.15)
【国際出願番号】PCT/US2010/052934
【国際公開番号】WO2011/047328
【国際公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【出願人】(512096698)アヴァクシア バイオロジクス,インコーポレーテッド (1)
【Fターム(参考)】