説明

消化管に存在する望ましくない分子を特異的に吸着し得る医学製剤

本発明は、消化管に存在する望ましくない分子を特異的に吸着し得る粒子を含む医学製剤、その調製方法、及び例えば抗生物質での治療から生じ得る腸及び/又は結腸細菌叢不均衡に関連した、望ましくない作用を予防又は治療することを目的とする医薬を特に製造するためのその使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消化管に存在する望ましくない分子を特異的に吸着し得る粒子を含む医学製剤(forme galenique)、その調製方法、及び、例えば抗生物質での治療から生じうる腸及び/又は結腸細菌叢の不均衡と関連する望ましくない作用を予防又は治療することを目的とする医薬を特に製造するためのその使用に関する。
【0002】
以下の記載では、角括弧([ ])の参考文献とは、本明細書の最後に記載される参考文献のリストを指す。
【背景技術】
【0003】
医薬の経口投与は、他の投与経路、例えば非経口経路と比較して利点を有する。非経口投与は、一般的に有痛性であり、合併症を生じ得る。さらに、この投与経路は、適した物質、投与に資格を有する者及びいずれの外来性の侵入微生物(細菌、寄生虫等)をも予防する無菌条件が必要である。
【0004】
活性成分の性質によって、経口投与が好適となり得る。これにより、医薬の活性成分を胃を通過させ続いて小腸において吸収させ、生物中に拡散させそれらが投与された感染位置を治療することができる。例えばこれらは、抗生物質の場合が該当する。
【0005】
しかしながら、摂取された抗生物質の一部(そのサイズは抗生物質の各特性によって異なる)は吸収されず、続いて大腸へと進み糞便中に排泄される。これらの残留抗生物質は、吸収されたものの胆汁排泄によって消化管内に再排泄された抗生物質の一部分と小腸中で結合される。
【0006】
斯かる抗生物質の一部のサイズは、各抗生物質の代謝及び排出経路によって変化する。最終的に、抗生物質の中には、吸収された用量の一部分が腸粘膜によって直接消化管の内腔中に排泄される。従って、抗生物質の投与が経口であろうと非経口であろうと、活性のある残留部分は、消化管、特に大腸中で一般的に見られる。腸排出が無視できる明らかな例外のアミノグリコシドのファミリーを除いて、治療において使用される抗生物質のファミリーの大部分に関してその程度が異なるのは事実である。他の抗生物質に関して、抗生物質の残留活性物の腸排出は様々な結果を生じ、これらは全て有害であろう。実際に、大腸において、複雑(数百の異なる細菌種)且つ非常に高密度(結腸内容物1グラムあたり1000万個以上の細菌)の細菌生態系が存在し、これは抗生物質の残留活性物の到達によって影響を受けるであろう。
【0007】
抗生物質の残留活性物の到達の結果、まず大腸に生息する多数の細菌は抗生物質の作用に供される。これらの細菌の大部分は、抗生物質に敏感であり、その作用は以下を生じる:
【0008】
-抗生物質の摂取後に時折生じる通常の下痢の主な原因と考えられる細菌叢の不均衡[1]。大抵、この下痢は重症でなく、自然に又は一旦治療を中止すれば急速に止まる。しかしながら、それは患者にあまり好まれず、抗生物質が処方された基礎疾患の不快感を増大する。交代細菌叢に基づく医学製剤、又はヨーグルトの摂取までも、抗生物質での治療に続く結腸細菌叢の不均衡に効果があると推奨されている。しかしながら、これらの観点はいずれも、実際は効果があることは確証的な方法で立証されていない。
【0009】
-外来性細菌による定着への耐性機能(又は「バリアー効果」)の崩壊による感染、例えば、サルモネラ食中毒のリスクの増加の可能性[2]。
【0010】
結腸細菌叢上への抗生物質の残留活性物の到達の結果、次に抗生物質に耐性のある微生物の選択が生じる。これらの微生物は、様々なタイプである。
【0011】
-まず、それらは、例えば、クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)等の、偽膜性大腸炎として知られる重度の大腸炎を生じる毒素の分泌が可能な種の病原性細菌である[3]。
【0012】
-それらはまた、あまり病原性はないがその増殖により隣接感染(耐性大腸菌(Escherichia coli)によって生じる腟カンジダ症又は膀胱炎)となり得る微生物である。
【0013】
-最後に、それらは非病原性であるが、その増殖且つ糞便排出によってその環境中への拡散が増大する共生耐性細菌である。偶然にも、これらの耐性共生細菌は病原性種の耐性メカニズムの重要な起源を構成し得る。この危険性は、現在ヒトに対して病原性のある多数種が多耐性へ進化することになるため厄介な性質の1つと考えられている。
【0014】
少なくともこれらの理由のため、消化管に到達する望ましくない残留分子を吸収且つ/又は不活性化する手段が依然として必要とされている。
【0015】
医薬物質又は家庭用物質(domestic substance)の摂取(意図的及び/又は偶発的)については、望まない分子の吸収及び/又は不活化が望まれる他の場合が考えられる。フランスにおいて、毎年、130000件以上の医薬物質又は家庭用物質での偶発的又は意図的な中毒症が存在する。これらのケースの10%は致命的である。通常、患者は救急科に運び込まれ、様々な治療を受ける。一部の有害物質には特異的な解毒剤が存在するが、これらはまれであり、その有効性はしばし証明されておらず、保存が困難である。中毒症のわずか10%しか病院で治療できないことは、注目すべきである。大抵の場合、臨床医は誘発嘔吐、胃洗浄、活性炭又はフラー土の使用、及び対症療法といった、中毒症状を制限し患者の生存を保証することを目的とする解決策を有するだけである。これらの治療は度々困難且つ高価であり、リスクを伴う。このような場合には、手段として中毒症の緊急経口治療を行うことが必要である。経口中毒症の場合において、毒素が血中に入ることを阻止するために現在使用される治療は、胃洗浄(腐食物の場合に推奨されるが、呼吸の観点ではリスクを有する)、又は活性炭(その効果は完全に証明されているわけではなく、従ってその使用は病院によって変化する)に依存している。
【0016】
さらに、医薬残留物は、体内で完全に分解されない場合、初期形態又は1又は2以上の代謝物形態で糞便及び尿に再排泄される。今日、そのように放出された医薬の生態系環境への影響は大きいであろうと考えられている。
【0017】
大腸における抗生物質の分解が可能である酵素の放出に基づく医学製剤は、消化管中の望ましくない分子の存在及び/又は生態系へのその放出を減少するために提案されてきた。しかしながら、これらの医学製剤は、望まれる安定性を消化管中で常に示すわけでなく、活性成分の早期放出に繋がりうる。
【0018】
炭素、ベントナイト等の吸着剤を大腸に送達することができる他の医学製剤もまた、開発されている。このタイプの系の主な欠点は、吸着される分子に関して吸収特異性が欠如することである。
【0019】
有害物質、医薬残留物又はその代謝物、あるいは結腸細菌叢を調整し且つ耐性の発生に繋がり得る残留抗生物質の問題かに関わらず、先行技術の不備、欠点及び問題を克服する、消化管における望ましくない分子を吸収によって除去するための医学製剤を開発することが実際必要である。
【0020】
特に、調製がシンプルであるのと同時に、容易に再生可能且つスケールアップが可能である医学製剤を開発することが実際に必要であり、これにより、消化管、特に小腸及び/又は大腸に存在する望ましくない分子を特異的に吸着し得る。
【0021】
文献Journal of Colloid and Interface Science 330 (2009)、pages 29-37は、廃水中のCu2+を捕捉する用の、キトサンでコーティングされ且つケトグルタル酸で修飾された磁器酸化鉄ナノ粒子を開示する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明の目的は特に、消化管に存在する望ましくない分子を特異的に吸着し得る粒子であって、少なくとも1つの金属イオンと結合したカチオン性ポリマーを含む粒子を含む医学製剤を供することによって、前記需要を満たすことである。
【0023】
本発明は、消化管に存在する望ましくない分子を特異的に吸着し得る粒子を含む医学製剤であって、粒子が、(i)ポリエチレンイミン、ポリリジン、ポリアルギニン及びカチオン性多糖から選択されるカチオン性ポリマーであって、(ii)アルカリ土類金属、遷移金属又はそれらの混合物から選択される少なくとも1つの金属イオンと結合したポリマーを含み、当該カチオン性ポリマーと当該少なくとも1つの金属イオンとが複合体を形成している医学製剤に関する。
【0024】
消化管の構成は、本質的に3つの部分: 食道、胃及び腸に分類可能である。同様に腸は、小腸、大腸又は結腸及び直腸を構成する。本発明の医学製剤は、消化管の全構成中に存在する望ましくない分子の吸収に使用可能である。
【0025】
特定の実施形態において、本発明は、腸、詳細には小腸及び/又は大腸に存在する望ましくない分子を特異的に吸着し得る粒子を含む医学製剤に関する。
【0026】
本発明の目的に関して、用語「望ましくない分子」とは、生物及び/又は生態系に望ましくない分子であって、消化管、例えば腸、特に小腸及び/又は大腸に存在する分子を意味することを目的とする。これに関して言及し得る望ましくない分子は、
【0027】
-例えば洗剤、家庭用殺虫剤、漂白剤、染み抜き剤、錆止め剤(例えばRubigine等)、スケール除去剤の成分の一部である物質等の家庭有害物質;
【0028】
-意図的及び/又は偶発的に摂取された医薬の残留物又は代謝物;
【0029】
-例えばAcademy of Pharmacyによる報告[5]に記載される、ヒト又は動物薬で最も広範囲に使用され水中に確認される医薬の残留物又は医薬代謝物;
【0030】
-例えばβラクタム抗生物質、キノロン、特にフルオロキノロン、アミノグルコシド、マクロライド、スルファミド、抗結核薬、及びテトラサイクリン等の抗生物質の残留物、
を含むがこれらに限定されない。
【0031】
本発明の医学製剤は、消化管、例えば腸、特に小腸及び/又は大腸中に含まれる望ましくない分子を特異的に吸着し得る粒子を含む。本発明の文脈において、用語「特異的」とは、所定の1つの分子型に関して特異的な態様で吸着が生じることを意味する。言い換えると、本発明の医学製剤は、消化管、好適には腸、特に小腸及び/又は大腸に存在する他の分子から、吸収する望ましくない分子を区別することが可能であるということである。
【0032】
記載するように、本発明の医学製剤は、消化管に含まれる望ましくない分子を特異的に吸着し得る粒子を含む。これらの粒子は、少なくとも1つの金属イオンと結合したカチオン性ポリマーを含む。
【0033】
カチオン性ポリマーは、例えば、ポリエチレンイミン、ポリリジン、ポリアルギニン及びカチオン性多糖を含む群から選択することができる。
【0034】
特定の実施形態において、カチオン性多糖は、アミン基を含む多糖とすることができる。カチオン性多糖は、例えば、DEAE-デキストラン(又はジエチルアミノエチルデキストラン)又はキトサンとすることができる。本発明の他の特定の実施形態において、カチオン性多糖はキトサンである。
【0035】
キトサンは、β(1-4)-結合D-グルコサミン(脱アセチル化単位)及びN-アセチル-D-グルコサミン(アセチル化単位)のランダム分布から成る多糖である。キトサンは、キチンの化学的脱アセチル化(アルカリ媒体中の)又は酵素的脱アセチル化によって生成される。なお、キチンは、昆虫及び他の節足動物 (甲殻類)の外骨格又は頭足類(イカ等)の内骨格又は真菌壁の主要成分の1つである。キチンと異なり、キトサンはアルカリ媒体及び中性溶媒に不溶であるが、酸性媒体中に可溶である。
【0036】
キトサンとキチンとの境界は、50%アセチル化度(DA)に対応し、それ以下の化合物をキトサンと呼び、それ以上をキチンと呼ぶ。アセチル化度(DA)は、総単位数に対するアセチル化単位の割合であり、フーリエ変換赤外(FT-IR)分光法又は強塩基での滴定によって測定することができる。アセチル化度(DA)と脱アセチル化度(DD)とを区別することは重要であり、一方は他方の逆であり、すなわち、例えば70%のDDを有するキトサンは、その鎖中にアセチル化された基を30%、アミン基を70%有する。
【0037】
キトサンは、好適には、少なくとも50%、例えば55〜90%、例えば70〜80%の脱アセチル化率を有することができる。
【0038】
少なくとも1つの金属イオンと結合したカチオン性ポリマーを含む粒子は、0.01μm〜1 mm、例えば0.01〜100μm、例えば0.1〜10μmの直径を有することができる。
【0039】
金属イオンは、アルカリ土類金属、遷移金属、又はそれらの混合物から選択することができる。金属イオンは、例えば、鉄、銅、亜鉛又はそれらの混合物を含む群から選択することができる。
【0040】
カチオン性ポリマーと金属イオンとは、複合体を共に形成する。本発明の目的において、複合体は、金属イオン上のその電子密度の一部を非局在化させ、このように配位結合の形成が可能である少なくとも1つの化学基と結合した金属イオンから成る多原子構造を意味する。化学基は、例えば、アミン基とすることができる。
【0041】
1 gのカチオン性ポリマーに対して、結合した金属イオン量は1〜300 mg、例えば10〜200 mgとすることができる。
【0042】
カチオン性ポリマーがキトサンである場合、1 gのキトサンに対して、結合した金属イオンの量は20〜200 mg、例えば35〜135 mg、又は40 〜135 mgとすることができる。
【0043】
望ましくない分子中に存在する金属イオン及び化学基の性質によって、前記金属イオンは分子と特異的に複合体を形成する。
【0044】
本発明の実施形態によれば、望ましくない分子が抗生物質である場合、医学製剤は、さらに、抗生物質の不活性化が可能である少なくとも1つの薬剤を含むことができる粒子を含む。抗生物質は、例えば、キノロン、アミノグルコシド、βラクタム抗生物質、マクロライド、スルファミド、抗結核薬、及びテトラサイクリンとすることができる。前記薬剤は、酵素とすることができる。例として、βラクタマーゼ及び/又はエリスロマイシンエステラーゼを意味することができる。当業者は、活性化される抗生物質に適した薬剤を選択するとと分かるであろう。
【0045】
既に示したように、本発明の医学製剤は、消化管に存在する望ましくない分子を特異的に吸着し得る粒子を含む。消化管中の粒子の安定性をさらに増大させ、分子の早期吸収を回避するために、架橋結合することによって粒子を補強することが可能である。従って、本発明の特定の実施形態において、医学製剤は、架橋結合形態の粒子を含む。そして粒子は、0〜100%、例えば1〜99%、例えば10〜80%の架橋結合度を有することができる。カチオン性ポリマーがアミン基を含む多糖である場合、架橋結合は好適には当該アミン基を介して行うことができる。
【0046】
続いて、架橋結合度は、当初から遊離であるアミン基に対する架橋形成剤によって架橋結合された遊離アミン基の割合として定義することができる。
【0047】
粒子の架橋結合度は、赤外分光法又は滴定によって測定することができる([4]及び[6])。
【0048】
架橋形成剤とは、例えば、グルタルアルデヒド、グリセルアルデヒド、ホルムアルデヒド、エピクロロヒドリン及びトリポリリン酸を意味することができる。
【0049】
本発明の他の特定の実施形態によれば、前記の医学製剤はペクチンビーズ中に被包された粒子を含む。用語「ペクチンビーズ」とは、平均直径が0.2〜3 mm、例えば0.5〜1.7 mm、例えば1〜1.5 mmである粒子であって、多価カチオン、例えば二価又は三価カチオンを含む水溶液の槽における、ペクチン溶液の液滴でのイオン性ゲル化によって得られる粒子を意味する[9]。これらの多価イオンとは、例えば、カルシウムイオン、亜鉛イオン、アルミニウムイオン、鉄イオン又はマグネシウムイオンを意味することができる。
【0050】
本発明の目的に関して、用語「ペクチン」とは、メチル化、非メチル化、アミド化又は非アミド化ペクチンを意味することを目的とする。詳細には、ペクチンビーズは、ペクチン酸亜鉛又はペクチン酸カルシウムビーズである。
【0051】
ペクチンは、天然起源である利点を有し、毒性がなく結腸に存在するペクチン分解酵素によって特異的に分解され得る。それらが一旦結腸に到達すると、ビーズは分解し、そして、例えば、フルオロキノロン等の望ましくない分子を吸収できる粒子を放出する。従って、被包によりさらに結腸中での粒子の安定性を補強し放出を促進することが可能である。
【0052】
本願の実施形態において、医学製剤中のペクチンの濃度は、医学製剤の総重量に対して5〜95重量%、例えば25〜50重量%であり、結合するカチオン性ポリマー金属イオンの濃度は医学製剤の総重量に対して5〜95重量%、例えば25〜50重量%である。
【0053】
さらに、本願の実施形態において、ペクチンビーズは、形状を球状とすることができ、直径0.2〜3 mm、例えば0.5〜1.7 mm、例えば1〜1.5 mmとすることができる。
【0054】
本発明の他の特定の実施形態において、任意にはペクチンビーズ中に被包される粒子は、
【0055】
-ポリエチレンイミン、ポリリジン、ポリアルギニン、DEAE-デキストラン (又はジエチルアミノエチルデキストラン) 及びキトサンを含む群から選択されるカチオン性ポリマー;
【0056】
-ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、酢酸コハク酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース、フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、酢酸セルロース、酢酸フタル酸セルロース、酢酸トリメリット酸セルロース、及びカルボキシメチルセルロースナトリウムを含む群から選択されるセルロースポリマー;
【0057】
-Eudragits(登録商標)、特にEudragit(登録商標)NE、RL及びRS、Eudragit(登録商標)L30D-55及びL100-55、Eudragit(登録商標)L100、Eudragit(登録商標)S及びEudragit(登録商標)FS30Dを含む群から選択される、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル及び/又はメタクリル酸エチルのポリマー;
【0058】
-ポリビニルピロリドン、酢酸ビニル、酢酸フタル酸ビニル、酢酸クロトン酸ビニル、及びエチレン酢酸ビニルを含む群から選択されるビニルポリマー、
でコーティングすることができる。
【0059】
既に示したように、本発明の医学製剤は、消化管に存在する望ましくない分子を特異的に吸着し得る、任意には被包され且つ/又はコーティングされた粒子を含む。
【0060】
コーティングによって、消化管、好適には腸、特に小腸及び/又は結腸において、任意に被包された粒子の安定性をさらに補強し、放出をさらに促進することが可能である。
【0061】
ペクチンビーズ、例えばペクチン酸亜鉛ビーズ中に被包され、続いてポリマー、例えばEudragitファミリーのポリマーでコーティングされた粒子の場合、コーティングは小腸で溶解することができ、続いてペクチン酸亜鉛マトリックスは結腸に存在するペクチン分解酵素によって分解され、キトサン金属粒子を放出し、続いて粒子は望ましくない分子、例えば抗生物質を吸収することができる。
【0062】
本発明の対象はまた、前記の通り医学製剤の調製方法であり、以下の工程を含む。
【0063】
(a)ポリエチレンイミン、ポリリジン、ポリアルギニン及びカチオン性多糖から選択されるカチオン性ポリマーを、金属塩又は金属塩の混合物の水溶液中に、pH条件<7下で、好適にはpH 1〜6.8で、さらに好適にはpH 1.2〜6で溶解し、当該塩又は塩の混合物の金属イオンがカチオン性ポリマーと結合し、複合体が形成される工程;
【0064】
(b) 工程(a)で得られた溶液を、スプレー乾燥に供し、複合体の粒子を得る工程;
【0065】
(c)任意には架橋形成剤の存在下で、有機溶媒中で、工程(b)で得られた粒子の架橋を形成する工程。
【0066】
一実施形態によれば、カチオン性ポリマーはカチオン性多糖から選択され、特にキトサンである。
【0067】
工程(a)において、カチオン性ポリマーは、濃度0.01 M〜1 M、例えば0.1 Mの金属塩又は金属塩の混合物の水溶液中に、濃度0.2 〜10% (w/v)で溶解することができる。金属塩とは、例えば、硫酸、硝酸、クロリド又は酢酸銅、硫酸、硝酸、クロリド又は酢酸鉄、及び硫酸、硝酸、クロリド又は酢酸亜鉛を意味する。
【0068】
溶解は、pH <7で、例えばpH 6.8、6、5又は2で行われる。溶解時間は、pH次第であり、pHが7に近ければ近いほど、溶解時間は長くなり(約数時間)、逆にpHが1に近ければ近いほど、溶解時間は短くなる(約1時間)。生じる溶液は、環境温度(25℃)で1〜24時間、例えば12時間撹拌することができる。この工程の最後に、金属イオンがカチオン性ポリマーと結合した溶液が得られる。
【0069】
工程(b)において、(a)で得られた溶液をスプレー乾燥に供する。スプレー乾燥は水を除去するための技術であり、高温ガス(空気又は不活性ガス)の流れの中に、溶液又は懸濁液形態の生成物をスプレーする工程から成る。この工程の最後に得られたカチオン性ポリマー粒子は、特にその取り扱い及び定量化を助長する改善された流動性を有する粉体の形態である。スプレー乾燥は周知の工程であるので、当業者は最適な実行のためのパラメータ(例えば乾燥速度、乾燥される生成物の温度、ガス入出温度等) を決定できるであろう。
【0070】
工程(c)において、粒子の架橋形成を行うために、工程(b)において得られた粒子を有機溶媒中に懸濁し、架橋形成剤をその中に導入する。有機溶媒を、例えばメタノール、エタノール、ピリジン、アセトン、酢酸、DMSO及びジクロロメタンから選択することができる。反応媒体は、水を含んでも含まなくてもよい。
【0071】
粒子の懸濁液は、環境温度(25℃)で架橋形成剤と撹拌しながら、10分〜24時間、例えば4時間インキュベートすることができる。架橋結合又は非架橋結合粒子は、続いて金属イオン及び過剰の架橋形成剤もまた除去するためにろ過し、水と例えば水-エタノール混合物等の水混和有機溶媒の混合物中で洗浄できる。続いて粒子は、真空下で又はインキュベーター内で、1時間〜48時間、例えば24時間乾燥することができる。インキュベーターの温度は、摂氏25〜100度、例えば37℃とすることができる。
【0072】
被包された粒子を調製するために、工程(b)又は工程(c)の後、粒子をまず水中に懸濁する。懸濁液中の粒子の濃度は、0.1〜10% (w/v)、例えば3%とすることができる。続いて、濃度が0.1〜10% (w/v) の範囲の、例えば3%のペクチン溶液を、キトサン-金属粒子の懸濁液と混合する。続いて混合物を多価カチオンを含む槽中に、例えば12% (w/v) 酢酸亜鉛溶液中に滴下することによって製剤する。イオン性ゲル化は、1分〜24時間、例えば5分〜1時間、例えば10〜30分間、多価イオン溶液中の混合物の液滴を撹拌することによって得られる。これにより得られた本発明の粒子を含むペクチンビーズを続いてろ過し、水、好適には超純水(伝導率18.2 Megaohms.cm、Synergy purification system from Millipore、フランス)中で数回、例えば0〜10回、例えば1〜4回リンスする。これにより得られた本発明の粒子を含むペクチンビーズは、任意には、1分〜48時間、例えば10分〜24時間、例えば12時間例えばインキュベーター内で乾燥する。インキュベーター温度は、摂氏25〜100度、例えば37℃とすることができる。
【0073】
このように得られた本発明の粒子を含むペクチンビーズは、凍結乾燥することもできる。
【0074】
既に示したように、任意には被包された粒子は、上記の通りポリマーでさらにコーティングすることができる。この目的のため、例えば流動化したエアーベッド又はコーティングタービンを使用して、コーティングをEudragit(登録商標)の溶液又は懸濁液で行うことができる。これらの技術は、医学製剤分野における当業者に周知である。
【0075】
本発明の他の対象は、医薬としての前記の医学製剤に関する。当該医薬は、例えば安定剤、乳化剤、浸透剤、保存剤、色素、賦形剤、結合剤又は潤滑剤等の、医薬分野の当業者に周知の成分もまた含むことができる。
【0076】
本発明の医学製剤は、抗生物質での治療に続く、腸及び/又は結腸細菌叢の不均衡に関連した望ましくない作用の予防又は治療に使用可能である。
【0077】
本発明の他の対象は、例えば抗生物質での治療に続く腸及び/又は結腸細菌叢の不均衡と関連した、望ましくない作用を予防又は治療することを目的とする医薬の製造のための本発明の医学製剤の使用から成る。
【0078】
本発明の医学製剤は、任意の経口形態で、特にゲルカプセル及びカプセル形態で投与することができる。医学製剤は、抗生物質の投与前、投与中、投与後に投与することができる。
【0079】
他の利点はまた、例示として提供され添付図によって説明される以下の実施例を読むことにより、当業者に明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】図1は、キトサン-Fe(III)複合体を表す。
【図2】図2は、キトサンをグルタルアルデヒドと架橋形成させるための反応スキームを表す。架橋形成工程に相当する工程Aは、アセトン中の4時間の撹拌で行われる。
【図3】図3は、グルタルアルデヒドとの架橋形成及び洗浄後の、キトサン-Fe(III)(左上)、キトサン-Fe(II)(右上)、キトサン-Cu(左下)、キトサン-Zn(右下)の粒子の走査電子顕微鏡画像を表す。
【図4】図4は、模擬結腸媒体における様々な架橋形成粒子による400μg/mlでの、シプロフロキサシンの吸収動態を表す。比較のため、同一条件下で活性炭で得られた動態を掲載する。CH = キトサン粒子、CH-Cu = キトサン-銅粒子、CH-Zn = キトサン-亜鉛粒子、CH-Fe(II) = キトサン-鉄(II)粒子、CH-Fe(III) = キトサン-鉄(III)粒子、CH-Cu = キトサン-銅粒子。Y軸は、粒子によって吸着されたシプロフロキサシンの量(単位μg) に相当する。
【図5】図5は、活性炭及びキトサン-Fe(III) 粒子によるヒドロコルチゾンの吸収動態を表す。ダイアモンド型の記号は、キトサン-Fe(III) 粒子を表し、四角型の記号は、活性炭を表す。Y軸は、粒子によって吸着されたヒドロコルチゾンの量に相当する(単位μg)。これらの結果は、ヒドロコルチゾンに対するキトサン-Fe(III) 粒子の非特異性を裏付ける。
【図6】図6は、ニメスリドとの競合条件下で、キトサン-Fe(III) 及びキトサン-Zn粒子に関するシプロフロキサシンの吸収動態を表す。ダイアモンド型の記号はニメスリドを表し、四角型の記号はシプロフロキサシンを表す。y軸は、粒子によって吸着された分子の量(単位μg) に相当する。これらの結果は、シプロフロキサシンに対するキトサン-Fe(III) 及びキトサン-Zn粒子の特異性を裏付ける。
【図7】図7は、実施例6の粒子を含むペクチンビーズの生成方法を表す。A = 粒子の懸濁液、B = ペクチンの溶液、C = ペクチン/粒子の混合物、D = シリンジドライバー、E = 50 mlの12% (w/v) 酢酸亜鉛溶液、F = 50 mlの水中での1分間の洗浄、G = 乾燥。
【図8】図8は、キトサン-Fe(III)粒子(上部)を被包しているペクチン酸亜鉛のビーズの走査電子顕微鏡画像を表す。中央の画像は、Eudragit(登録商標)RSでコーティングされたビーズに相当し、上部はコーティングされたビーズ部分に相当し、Eudragit(登録商標)の層は、明らかに区別することができる。
【図9】図9は、模擬腸媒体(SIM)中における、キトサン-Fe(III) (又はCH-Fe(III))粒子を被包しているビーズの吸収動態を表す。ビーズは、Eudragit(登録商標)でコーティングされていない。
【図10】図10は、模擬結腸媒体(SCM)におけるキトサン-Fe(III) {又はCH-Fe(III)}粒子を被包しているビーズの吸収動態を表す。ビーズは、Eudragit(登録商標)でコーティングされておらず、シプロフロキサシンを400μg/ml含むSIM中でプレインキュベートした。y軸は、被包された粒子によって吸着されたシプロフロキサシンの量 (単位μg) に相当する。
【図11】図11は、SIMにおけるコーティングされていないビーズ(A)及びEudragit(登録商標)でコーティングされたビーズ(B)による、400μg/mlの濃度のシプロフロキサシンの吸収動態を表す。y軸は、被包され粒子によって吸着されたシプロフロキサシンの量(単位μg)に相当する。
【図12】図12は、SIMにおけるプレインキュベーション後の、SCMにおけるコーティングされていないビーズ(A)及びEudragit(登録商標)でコーティングされたビーズ(B)による、濃度400μg/mlのシプロフロキサシンの吸収動態を表す。y軸は、被包された粒子によって吸着されたシプロフロキサシンの量(単位μg)に相当する。
【実施例】
【0081】
実施例 1: キトサンとの金属イオンの複合体形成
キトサン(低分子量)、酢酸亜鉛二水和物及びシプロフロキサシンは、Fluka (スイス) から購入した。グルタルアルデヒド、硫酸銅(II)及び酢酸ナトリウムは、Prolabo (パリ-フランス) から購入した。鉄(II)クロリドは、Acros Organic (ヘール、ベルギー) から購入した。ヒドロキシエチルピペラジン-エタンスルホン酸 (HEPES)、1-(2-ピリジルアゾ)-2-ナフトール (PAN)、錯滴定用アンモニア緩衝液(pH 10)、塩酸ヒドロキシルアミン、1,10-フェナントロリン及び硝酸鉄(III)をSigma-Aldrich (フランス) から購入した。HPLC-グレード溶媒はCarlo Erba (イタリア) から購入した。
【0082】
0.1 Mの100 mlの金属イオン水溶液中に1gのキトサンを溶解することによって、キトサンは金属 (銅、鉄(II)、鉄(III) 及び亜鉛) イオンと複合体が形成された(CuSO4、FeCl2、Fe(NO3)3 及びZn(CH3COO)2)。続いて溶液を環境温度(25℃)で12時間撹拌した。図1のキトサンの「遊離」アミン基を介して複合体が形成された。キトサンの「遊離」アミン基の数に対してわずかに過剰に、金属イオンを添加する。
【0083】
実施例 2: 医学製剤の調製
実施例1で調製されたキトサン-金属イオン(銅、鉄(II)、鉄(III)及び亜鉛)複合体を、粒子を形成するためにスプレー乾燥に供した。複合体の200 mlの溶液を、B191スプレードライヤー装置(Buchi、フランス) によってスプレー-乾燥する。ノズルは、内径0.7 mmであり、流速600 l/時の圧縮空気で作動する。装置の入力温度を150℃に固定する。出力温度は、75〜100℃である。スプレー乾燥する溶液を運ぶポンプの流速は、5 ml/分に固定する。装置のサイクロン内で粒子を粉体の形態で回収する。
【0084】
続いて、グルタルアルデヒド (キトサン/グルタルアルデヒドモル比 1:1) でアセトン中で磁気撹拌で粒子を4時間懸濁させ、架橋結合を得る(図2)。続いて、粒子を完全にエタノール/水混合物(2/1、v/v) でリンスし、グルタルアルデヒド及び残留金属イオンを除去する。最終的に、洗浄した粒子を真空下で24時間乾燥した。
【0085】
走査電子顕微鏡観察をLEO 1530 顕微鏡(LEO Electron Microscopy Inc、Thornwood、NY)で、加速電位3 kV及び電流0.5 mAで行った。2 nmの白金-パラジウム合金層で金属化される前に、Cressington 208HR apparatus (USA)で、粒子を伝導接着ストライプ (Euromedex、フランス) 上に析出した。走査電子顕微鏡は、粒子が比較的に滑面を有することを示す(図3)。
【0086】
粒子中で、キトサンと結合した金属イオンの量を、比色分析: 131 mg Fe(III)/1 g キトサン; 45 mg Fe(II)/1 g キトサン及び87 mg Zn/1 g キトサンによってアッセイした。詳細には、鉄(Fe(II)又はFe(III))の量を、1,10-フェナントロリンを使用して、分光光度法によりアッセイしたが、まずCH-Fe(II)又はCH-Fe(III)の粒子を、酸媒体中で加水分解に供した(1:1 のHCl:HNO3の混合物5 ml中に粒子100 mg)。続いて、1 mlの溶液を10 mlのメスフラスコ中に置き、それに2 mlのヒドロキシルアミンHCl溶液(1.4 M)、5 mlの酢酸緩衝液(2 M)及び2 mlの1,10-フェナントロリン(5 mM)を添加した。そして20分後に、橙赤色の複合体が形成された後、510 nmにおけるその吸光度を、鉄非含有のブランクに対して分光光度法によって測定した (Shimadzu、フランス)。510 nmにおける吸光度は、鉄の量に比例する。詳細には、M. Khoder等[7]及びM. Arvand等 [8]によって記載される方法を使用して、亜鉛の量をアッセイした。最初に、CH-Zn粒子を酸媒体中における加水分解に供した(5 mlのHCl:HNO3の1:1混合物中に100 mgの粒子)。続いて、1 mlの溶液を10 mlのメスフラスコ中に注ぎ、1 mlのアンモニア緩衝液(1 M、pH=10)及びエタノール中の3 mlの1-(2-ピリジルアゾ)-2-ナフトール(PAN)(5 × 10-4 M) を添加した。続いて、エタノールで体積10 mlとした。続いて、フラスコを撹拌し、40℃のサーモスタット槽中に10分間置き、PAN-Zn複合体の形成を得る。続いて、550 nmでの吸光度をShimadzu 分光光度計(フランス)でブランクに対して測定し、それは亜鉛の量に比例する。
【0087】
実施例 3: 望ましくない分子の吸収試験
粒子(1 mg/ml)を、5200 pg/mlのペクチン分解酵素 (Pectinex、Sigma-Aldrich)、400μg/mlの濃度のシプロフロキサシンを含む、HEPES緩衝液(10 mM)及びNaCl (145 mM) から成る模擬結腸媒体中で37℃でインキュベートし、pHをNaOH (1N)で5.5に調整した。キトサン (コントロール)、キトサン-Cu、キトサン-Fe(II)、キトサン-Fe(III)及びキトサン-Znの架橋結合粒子による、シプロフロキサシンの吸収動態を、5時間評価した(図4)。
【0088】
キトサン粒子、キトサン-Cu 粒子及びキトサン-Fe(II) 粒子に関して、吸収プラトーに迅速に達し(30分)、それぞれ50、25及び100μgである。
【0089】
キトサン-Zn及びキトサン-Fe(III)に関しては、それほど迅速に吸収プラトーに達しず、それぞれ5時間及び3時間である。キトサン-Zn及びキトサン-Fe(III)によって吸着されたシプロフロキサシンの量は、350μgであり、すなわち、ほぼ活性炭と同量 (400μg)であり、優れているが非特異的な吸着剤と考えられる。従って、キトサン-Zn粒子及びキトサン-Fe(III)粒子を、シプロフロキサシンに関して特に効果的な吸着剤とみなすことができる。
【0090】
実施例 4: 吸収特異性試験
本発明の粒子によってフルオロキノロンの特異的な吸収が行われる。キトサン-Fe(III) 粒子 (1 mg/ml)を、実施例3に記載のものと同一であるが、実施例3のシプロフロキサシンと同一濃度、すなわち、400μg/mlでヒドロコルチゾンを含む模擬結腸媒体中で37℃でインキュベートする。
【0091】
シプロフロキサシンは、キトサン-Fe(III) 粒子によって約350μg量が吸着されるが、ヒドロコルチゾンはキトサン-Fe(III) 粒子によってあまり吸着されない: 50μg <(図5)。一方、活性炭(1 mg/ml)は、ヒドロコルチゾンの高吸収に繋がった。これらの結果は、フルオロキノロンに関する本発明の粒子の特異性を裏付ける。
【0092】
実施例 5: シプロフロキサシンとニメスリドとの間の競合
【0093】
本発明の粒子によるフルオロキノロン、シプロフロキサシンの特異的吸収は、ニメスリドとの競合条件下で行われる。キトサン-Fe(III)粒子及びキトサン-Zn粒子(1 mg/ml)を、実施例3と同一であるがニメスリド(100μg/ml)及びシプロフロキサシン(400μg/ml)を含む模擬結腸媒体中で37℃でインキュベートする。本実施例に関して、pHを6に調整した。
【0094】
シプロフロキサシンがキトサン-Zn 粒子によって約350μg量、キトサン-Fe (III) 粒子によって100μg量が吸着されるが、ニメスリドはそれらの2つの粒子型によってあまり吸着されない: 10μg < (図6)。これらの結果は、本発明の粒子のフルオロキノロンに関する特異性を裏付ける。
【0095】
実施例 6: 粒子の被包
天然の多糖であるペクチン(柑橘果実、柑橘類から抽出)を、アミド化(19〜23%)及び弱メチル化(22〜28%)形態で使用する。それは取引名 Unipectiine OG175Cで、Cargill (ベルギー) から購入する。
【0096】
粒子を含まないビーズの調製
例えば酢酸亜鉛等の亜鉛塩(0.5〜12% (w/v))、又は、例えばカルシウムクロリド等のカルシウム塩(0.5〜12% (w/v))の溶液中に、濃度1〜10% (w/v)のペクチン水溶液を液滴で内径0.8 mmのノズルを通して導入し、ペクチン酸亜鉛又はペクチン酸カルシウムのビーズを形成することによって、粒子を含まないビーズを調製する。対イオン槽における30分の滞留時間の後に、得られたビーズを回収する。続いて、このように得られたビーズを、ろ過によって回収し、超純水(伝導率18.2 MegaOhms.cm、Synergy purification system from Millipore、フランス) で1分間で3回リンスし、ネットワークに関与しない二価イオンを除去し、インキュベーター内で37℃で12時間乾燥する。
【0097】
粒子を含むビーズの調製
キトサン粒子又はキトサン-金属粒子を含むビーズの調製は、若干異なる(図7)。粒子を水中に濃度4% (w/v)で懸濁させる。続いて、4% (w/v)のペクチン溶液を同体積の懸濁液に添加し、全混合物をボルテックススターラー(例えばVWR社から販売)又はブレード、例えばらせん形のスターラーによって混合する。粒子を含むビーズを続いて、内径0.8 mmのノズルを介して、ペクチン/粒子の混合物の液滴を、例えば酢酸亜鉛等の亜鉛塩(0.5〜12% (w/v))又は例えばカルシウムクロリド等のカルシウム塩(0.5%〜12% (w/v))の溶液中に導入することによって形成し、ペクチン酸亜鉛ビーズ又はペクチン酸カルシウムビーズを形成する(図7)。対イオン槽中での滞留時間30分後に、得られたビーズを回収する。このように得られたビーズを、続いてろ過により回収し、超純水(伝導率18.2 megaohms.cm、Synergy purification system from Millipore、フランス)で1分間で3回リンスし、ネットワークに関与しない二価イオンを除去し、37℃で12時間インキュベーター内で乾燥する。ペクチンのカルボン酸基とキトサンのアミン基との間の静電気的相互作用は、ペクチン/粒子混合物のゲル化に繋がる。ゲル化時間は、2つの成分の初期濃度次第である。
【0098】
キトサン-Fe(III) を含むペクチンビーズ
ゲル化問題のために、3% (w/v) の混合物の最終ペクチン濃度に対して、最大1.5% (w/v)のキトサン-Fe(III) を含む球状ビーズを製剤することが可能である。2.5% (w/v) の混合物の最終ペクチン濃度に対して、最大2.5% (w/v)のキトサン-Fe(III) を含む球状ビーズを製剤することが可能である。2% (w/v) の混合物の最終ペクチン濃度に対して、最大2% (w/v)のキトサン-Fe(III) を含む球状ビーズを製剤することが可能である。1.5% (w/v) の混合物の最終ペクチン濃度に対して、最大2.5% (w/v)のキトサン-Fe(III) を含む球状ビーズを製剤することが可能である。これらの粒子濃度を超えると、懸濁液は粘稠性が高くなり過ぎミミズ状ミセルが得られる。
【0099】
キトサン-Znを含むペクチンビーズ
1.5% (w/v) の混合物の最終ペクチン濃度に対して、最大0.5% キトサン-Znを含む球状ビーズを製剤することが可能である。これらの粒子濃度を超えると、懸濁液は粘性が高くなり過ぎミミズ状ミセルが得られる。キトサン-Znと共に、Znイオンはペクチンのゲル化に関与する。
【0100】
光学及び電子顕微鏡によるビーズの観察から、1〜1.3 mm且つ質量1〜2 mgのかなり均一の球状形状の粒子が示される。キトサン-金属粒子の均一な分散及び粗面もまた、走査電子顕微鏡によって観察される。
【0101】
実施例 7: 望ましくない分子の吸収試験
キトサン-金属粒子を被包しているペクチン酸亜鉛のビーズを、400μg/mlのシプロフロキサシンを含む模擬腸媒体(SIM)中で5時間インキュベートした。模擬腸媒体は、1%のパンクレアチン (w/v) を含むHEPES緩衝液(30 mM) の水溶液であり、pHを0.2 M NaOHで6.8に調整した。ビーズは膨潤するが、このインキュベーション5時間の終了時に未変化のままである。それにもかかわらず、SIM中のシプロフロキサシンの一部が吸着されたことが観察された: 5時間に約100〜120μg(図9)。
【0102】
シプロフロキサシンを含むSIMにおけるプレインキュベーション後に、模擬結腸媒体(SCM、上記)中で最大330μgのシプロフロキサシンが吸着されるので、ビーズは吸着能力を有する(図10)。
【0103】
吸着されるSIM及びSCM中のシプロフロキサシンを一緒に添加する場合、キトサン-Fe(III)粒子のビーズ1 mgの当量が約 350μgのシプロフロキサシンの吸収に成功し、すなわち非被包粒子に関して得られた値と同様であることがわかる。ペクチン酸亜鉛ビーズ中の粒子の被包は、従ってその吸着能力を変更しない。
【0104】
実施例 8: 被包された粒子のコーティング
模擬腸媒体(SIM)における吸収を制限するために、5% (w/w)のEudragit(登録商標)RSで乾燥ビーズをコーティングした。これに関して、5 gのEudragit(登録商標)RS及び1 gのPEG 300(Sigma-Aldrich)を300 mlのアセトン/エタノール混合物(2/1、v/v) 中に溶解する。続いて、温風ガン(Steinel、Radiospares、フランス)で、37℃まで加熱されたミニタービン中で20 rpmで回転している乾燥ビーズ上で手動のスプレードライヤーによって溶液をスプレー乾燥する。5〜10%の増量を測定により確認した。コーティングの均一性を、走査電子顕微鏡によって確認する(図8)。
【0105】
400μg/mlのシプロフロキサシン濃度の上記SIM中のコーティングされたビーズのインキュベーションは、Eudragit(登録商標)RSはシプロフロキサシンの吸収を制限することが可能であることを示し、その吸収量は未コーティングビーズの100〜120μgに対して25〜30μgである(図 11)。このEudragitの層は、ビーズの吸着能力を変更せず、SIMにおけるプレインキュベーション後、コーティングされたビーズはさらに300μgのシプロフロキサシンを吸収することができる(図12)。
【0106】
参考文献
【0107】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
消化管に存在する望ましくない分子を特異的に吸着し得る粒子を含む医学製剤(forme galenique)であって、
前記粒子が、(i) ポリエチレンイミン、ポリリジン、ポリアルギニン及びカチオン性多糖から選択されるカチオン性ポリマーと、(ii)アルカリ土類金属、遷移金属又はそれらの混合物から選択される少なくとも1つの金属イオンとを含み、当該カチオン性ポリマーと少なくとも1つの金属イオンとが結合して複合体を形成している、医学製剤。
【請求項2】
カチオン性多糖が、アミン基を含む多糖である、請求項1に記載の医学製剤。
【請求項3】
カチオン性多糖が、キトサンである、請求項1又は2に記載の医学製剤。
【請求項4】
キトサンが、少なくとも50%の脱アセチル化度を有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の医学製剤。
【請求項5】
金属イオンが、鉄、銅、亜鉛又はそれらの混合物を含む群から選択される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の医学製剤。
【請求項6】
カチオン性ポリマーの1 gに対して、結合された金属イオンの量が1〜300 mgである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の医学製剤。
【請求項7】
カチオン性ポリマー、特にキトサンの1 gに対して、結合された金属イオンの量が20〜200 mgである、請求項6に記載の医学製剤。
【請求項8】
粒子が0.01μm〜1 mmの直径を有する、請求項1〜7のいずれか1項に記載の医学製剤。
【請求項9】
粒子が、
家庭内有害物質;
意図的且つ/又は偶発的に摂取される医薬の残留物又は代謝物;
水中で確認され得るヒト又は動物の医薬において最も広く使用される医薬の残留物又は代謝物;
残留抗生物質、
を含む群から選択される望ましくない分子を特異的に吸着し得る、請求項1〜8のいずれか1項に記載の医学製剤。
【請求項10】
粒子が、キノロン、アミノグルコシド、βラクタム抗生物質、マクロライド、スルファミド、抗結核薬及びテトラサイクリンを含む群から選択される抗生物質の残留物を特異的に吸着し得る、請求項9に記載の医学製剤。
【請求項11】
望ましくない分子が、任意にはキノロン、アミノグルコシド、βラクタム抗生物質、マクロライド、スルファミド、抗結核薬及びテトラサイクリンから選択される抗生物質の残留物であり、粒子が、前記抗生物質を不活性化することが可能である少なくとも1つの薬剤をさらに含む、請求項9に記載の医学製剤。
【請求項12】
抗生物質を不活性化することが可能である薬剤が酵素である、請求項11に記載の医学製剤。
【請求項13】
粒子が0〜100%の範囲の架橋度を有する、請求項1〜12のいずれか1項に記載の医学製剤。
【請求項14】
粒子がペクチンビーズ中に被包される、請求項1〜13のいずれか1項に記載の医学製剤。
【請求項15】
ペクチンビーズがペクチン酸亜鉛ビーズ又はペクチン酸カルシウムビーズである、請求項14に記載の医学製剤。
【請求項16】
ペクチンの濃度が、医学製剤の総重量に対して5〜95重量%であり、カチオン性ポリマー−金属イオン結合の濃度が、医学製剤の総重量に対して5〜95重量%である、請求項14又は15に記載の医学製剤。
【請求項17】
ペクチンビーズが球状形状であり、0.2〜3 mmの範囲の直径を有する、請求項14〜16のいずれか1項に記載の医学製剤。
【請求項18】
任意にはペクチンビーズ中に被包される粒子が、
-ポリエチレンイミン、ポリリジン、ポリアルギニン、DEAE-デキストラン及びキトサンを含む群から選択されるカチオン性ポリマー;
-ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、酢酸コハク酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース、フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、酢酸セルロース、酢酸フタル酸セルロース、酢酸トリメリット酸セルロース、及びカルボキシメチルセルロースナトリウムを含む群から選択されるセルロースポリマー;
-Eudragits(登録商標)、特にEudragit(登録商標)NE、RL及びRS、Eudragit(登録商標)L30D-55及びL100-55、Eudragit(登録商標)L100、Eudragit(登録商標)S及びEudragit(登録商標)FS30Dを含む群から選択される、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル及び/又はメタクリル酸エチルのポリマー;
-ポリビニルピロリドン、酢酸ビニル、酢酸フタル酸ビニル、酢酸-クロトン酸ビニル、及び エチレン-酢酸ビニルを含む群から選択されるビニルポリマー、
でコーティングされる、請求項1〜17のいずれか1項に記載の医学製剤。
【請求項19】
請求項1〜18のいずれか1項に記載の医学製剤の調製方法であって、
(a)ポリエチレンイミン、ポリリジン、ポリアルギニン及びカチオン性多糖から選択されたカチオン性ポリマーを、金属塩又は金属塩の混合物の水溶液中に、pH条件<7の下で、好適にはpH 1〜6.8で、さらに好適にはpH 1.2 〜6で溶解し、これにより当該塩又は塩の混合物の金属イオンがカチオン性ポリマーと結合し、複合体が形成される工程;
(b) (a)で得られた溶液を、スプレー乾燥に供し、複合体の粒子を得る工程;
(c)任意には、架橋形成剤の存在下で有機溶媒中で、工程(b)で得られた粒子の架橋を形成する工程、
を含む、方法。
【請求項20】
カチオン性ポリマーがカチオン性多糖から選択される、特にキトサンである、請求項19に記載の医学製剤の調製方法。
【請求項21】
医薬としての、請求項1〜18のいずれか1項に記載の医学製剤。
【請求項22】
抗生物質での治療後の、腸及び/又は結腸細菌叢の不均衡に関連した望ましくない作用を治療するための医薬としての使用のための、請求項1〜18のいずれか1項に記載の医学製剤。
【請求項23】
抗生物質での治療後の、腸及び/又は結腸細菌叢の不均衡に関連した望ましくない作用の予防又は治療用医薬を製造するための、請求項1〜18のいずれか1項に記載の医学製剤の使用。
【請求項24】
医薬が抗生物質の投与前、投与中又は投与後に投与される、請求項23に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11(A)】
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【図11(B)】
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【図12(A)】
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【図12(B)】
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【公表番号】特表2013−505284(P2013−505284A)
【公表日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−530317(P2012−530317)
【出願日】平成22年9月22日(2010.9.22)
【国際出願番号】PCT/FR2010/051976
【国際公開番号】WO2011/036400
【国際公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(501089863)サントル ナシオナル ドゥ ラ ルシェルシェサイアンティフィク(セエヌエールエス) (173)
【Fターム(参考)】