説明

消化管間質腫瘍の検出用マーカー

【課題】GIST検出用マーカー、および該マーカーを用いたGISTの検出または診断方法、さらには、GIST検出用または診断用のキットを提供すること。
【解決手段】胃癌や胃の正常組織では発現レベルが低く、他方GISTにおいては発現レベルが上昇するカテプシンL1遺伝子および該遺伝子がコードするポリペプチドをGIST検出用マーカーとして用いる。本発明は、このGISTマーカー遺伝子に対する検出用プローブおよび該遺伝子がコードするポリペプチドに対する抗体を用いることにより、GIST検出用マーカーを検出し、GISTの検出または診断を迅速かつ確実に行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、GIST(Gastrointestinal stromal tumor)において特異的に発現する遺伝子およびポリペプチドからなるGIST検出用マーカー、該マーカーを検出するためのプローブ及び該マーカーを用いたGISTの検出又は診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
消化管間質腫瘍はGIST(Gastrointestinal stromal tumor)とも呼ばれ、主に消化管の粘膜下に発生する間葉系腫瘍である。従来、消化管の粘膜下に発生する間葉系の腫瘍は平滑筋腫瘍と考えられていたが、平滑筋腫とは異なる特徴を有する腫瘍の存在が明らかとなった。Miettinenらは典型的な平滑筋腫瘍および神経鞘腫は抗CD34抗体で免疫染色されないが、抗CD34抗体で免疫染色される消化管間葉系腫瘍を見いだしGISTと命名した(非特許文献1)。
【0003】
このようなGISTは消化管のCajalの介在細胞の腫瘍化したものであるとの報告がなされ、多くのGISTではCajalの介在細胞に本来発現しているc-kit遺伝子の変異を認められることが報告されている(非特許文献2)。さらに、GISTの中にはPDGFRα(platelet derived growth factor receptor alpha)遺伝子の変異の認められるものも存在している(非特許文献3)。
【0004】
GISTの中で起きているc-kit遺伝子の変異はエクソン9、11、13、17の4領域のいずれかに70%〜90%の頻度で見られる。また、PDGFRα遺伝子の変異はエクソン12、18のいずれかに5〜10%の頻度で見られる(非特許文献4、5)。
【0005】
さらに、1cm以下の小さなGISTでも、大きなGISTとほぼ同じ頻度でc-kit遺伝子の突然変異の認められることも報告されている。これは、c-kit遺伝子の突然変異が腫瘍発生初期に起こる変化であり、悪性化に伴って獲得される変化であることを示唆している。
【0006】
分子標的薬であるイマチニブはGISTに対して著効を示す(非特許文献6、7)。しかしながら、今のところ、統計学的にイマチニブの有用性が確認されたGIST以外の固形腫瘍はない。そのため、イマチニブが正しく使用されるためには、GISTであるとの正確な診断が不可欠である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−233105
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Miettinen M., Virolainen M. and Rikala M.S. Gastrointestinal stromal tumors--value of CD34 antigen in their identification and separation from true leiomyomas and schwannomas. Am. J. Surg. Pathol. 19, 207-216(1995)
【非特許文献2】Hirota, S., Isozaki, K., Moriyama, Y., Hashimoto, K., Nishida, T., Ishiguro, S., Kawano, K., Hanada, M., Kurata, A., Takeda, M., Muhammad, Tunio, G., Matsuzawa, Y., Kanakura, Y., Shinomura, Y., and Kitamura, Y. Gain-of-function mutations of c-kit in human gastrointestinal stromal tumors. Science 279, 577-580(1998)
【非特許文献3】Merkelbach-Bruse, S., Dietmaier, W., Fuzesi, L., Gaumann, A., Haller, F., Kitz, J., Krohn, A., Mechtersheimer, G., Penzel, R., Schildhaus, H. U, Schneider-Stock, R., Simon, R., and Wardelmann, E. Pitfalls in mutational testing and reporting of common KIT and PDGFRA mutations in gastrointestinal stromal tumors. BMC Med Genet. 11, 106(2010)
【非特許文献4】Flethcer, C. D. M., Berman, J. J., Corless, C., Gorstein, F., Lasota, J., Longley, B. J., Miettinen, M., O'Leary, T. J., Remotti, H., Rubin, B. P., Shmookler, B., Sobin, L. H., and Weiss, S. W. Diagnosis of Gastrointestinal Stromal Tumors: A Consensus Approach. Human Pathology, 33, 459-465(2002)
【非特許文献5】Miettinen, M., Sobin, L. H., and Sarlomo-Rikala, M. Immunohistochemical spectrum of GISTs at different sites and their differential diagnosis with reference to CD117 (KIT). Modern Pathology, 13, 1134-1142(2000)
【非特許文献6】Heinrich, M. C., Corless, C. L., Demetri, G. D., Blanke, C. D., von Mehren, M., Joensuu, H., McGreevey, L. S., Chen, C. J., Van den Abbeele, A. D., Druker, B. J., Kiese, B., Eisenberg, B., Roberts, P. J., Singer, S., Fletcher, C. D., Silberman, S., Dimitrijevic, S., and Fletcher, J. A. Kinase mutations and imatinib response in patients with metastatic gastrointestinal stromal tumor. J. Clin. Oncol., 21, 4342-4349(2003)
【非特許文献7】Tarn, C., Merkel, E., Canutescu, A. A., Shen, W., Skorobogatko, Y., Heslin, M. J., Eisenberg, B., Birbe, R., Patchefsky, A., Dunbrack, R., Arnoletti, J. P., von Mehren, M. and Godwin, A. K. Analysis of KIT mutations in sporadic and familial gastrointestinal stromal tumors: therapeutic implications through protein modeling. Clinical Cancer Research, 11, 3668-3677(2005)
【非特許文献8】Schena, M., Shalon, D., Davis, R. W. and Brown, P. O. Quantitative monitoring of gene expression patterns with a complementary DNA microarray. Science, 270, 467-470(1995)
【非特許文献9】Chauhan, S. S., Popescu, N. C., Ray, D., Fleischmann, R., Gottesman, M. M., and Troen, B. R. Cloning, genomic organization, and chromosomal localization of human cathepsin L. J. Biol. Chem., 268, 1039-1045(1993)
【非特許文献10】Nomura, T. and Fujisawa, Y. Processing properties of recombinant human procathepsin L. Biochem. Biophys. Res. Commun., 230, 143-146(1997)
【非特許文献11】Ishidoh, K. and Kominami, E. Processing and activation of lysosomal proteinases. Biol. Chem., 383, 1827-1831(2002)
【非特許文献12】Fletcher, C. D., Berman, J. J., Corless, C., Gorstein, F., Lasota, J., Longley, B. J., Miettinen, M., O'Leary, T. J., Remotti, H., Rubin, B. P., Shmookler, B., Sobin, L. H. and Weiss, S. W. Diagnosis of gastrointestinal stromal tumors: A consensus approach. Hum. Pathol., 33, 459-465(2002)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
GISTの確定診断は病理形態学のみでは診断が困難な症例も存在し、免疫組織化学、遺伝子変異検索の併用による多角的な診断が必要であると考えられている。しかしながら、免疫組織化学的手法や分子生物学的手法も万能ではなく、正確な診断が困難な場合もある。特に、分子生物学的手法においては、すべてのGISTの症例で必ずしもKITタンパク質の発現が陽性ではなく、c-kitまたはPDGFRα遺伝子の突然変異の割合も100%ではない。
【0010】
したがって、GISTの正確な診断を行うためには、より精度の高い分子生物学的手法の確立が必須であり、c-kitやPDGFRα遺伝子の突然変異やKITタンパク質の発現の有無だけでなく、新たな分子生物学的マーカーが望まれていた。
【0011】
本発明は、GISTマーカー、特に、GISTに特異的に発現する遺伝子およびポリペプチドからなるGIST検出用マーカー、および該マーカーを用いたGISTの検出又は診断方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、GISTと診断された複数の患者の手術材料および胃癌と診断された複数の患者の手術材料を癌部(腫瘍部位)と非癌部(正常部位)にわけたものからmRNAを単離し、DNAマイクロアレイ法によって網羅的に遺伝子発現プロファイルを取得・解析した結果、カテプシンL1遺伝子がGISTで特異的に高発現していることをつきとめ、該遺伝子がGISTマーカーとして用いることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち本発明は以下を提供する。
1.配列表の配列番号1により特定されるカテプシンL1遺伝子の塩基配列を有することを特徴とするGIST検出用遺伝子マーカー。
2.前記1記載のGIST検出用遺伝子マーカーの塩基配列の全部または一部のDNAまたはcDNAを少なくとも1つ以上固定化させたことを特徴とするGISTマーカー遺伝子発現検出用DNAマイクロアレイまたはDNAチップ。
3.配列表の配列番号1により特定されるカテプシンL1遺伝子の塩基配列を有するGIST検出用遺伝子マーカーのカテプシンL1遺伝子の発現を検出するために使用されるオリゴヌクレオチドであって、
前記カテプシンL1遺伝子の塩基配列またはその相補塩基配列の一部からなり、前記カテプシンL1のmRNAまたはそのcDNAと部位特異的塩基対を形成することを特徴とするオリゴヌクレオチド。
4.前記3記載のオリゴヌクレオチドを少なくとも1つ以上固定化させたことを特徴とするGISTマーカー遺伝子発現検出用DNAマイクロアレイまたはDNAチップ。
5.配列表の配列番号1により特定されるカテプシンL1遺伝子の塩基配列を有するGIST検出用遺伝子マーカーを検出するために使用されるプライマーであって、
前記カテプシンL1遺伝子のmRNAまたはそのcDNAと部位特異的塩基対を形成し、配列表の配列番号1に示される塩基配列の全部または一部をPCR法により増幅するための少なくとも2種類のプライマーからなることを特徴とするGISTマーカー遺伝子検出用プライマーセット。
6.配列表の配列番号2により特定されるカテプシンL1タンパク質のアミノ酸配列の全部またはその一部からなることを特徴とするGIST検出用ポリペプチドマーカー。
7.前記6記載のGIST検出用ポリペプチドマーカーのアミノ酸配列を有するポリペプチドを哺乳動物に投与することにより誘導し、前記ポリペプチドに特異的に結合する抗体を使用することによりカテプシンL1タンパク質を検出することを特徴とするGIST診断方法。
8.前記抗体は、モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体であることを特徴とする前記7記載のGIST診断方法。
9.カテプシンL1遺伝子を組み込んだ哺乳動物細胞用発現ベクターを哺乳動物に投与することにより誘導し、配列表の配列番号2に示されるカテプシンL1タンパク質のアミノ酸配列の全部又は一部からなるポリペプチドに特異的に結合する抗体を使用することによりカテプシンL1タンパク質を検出することを特徴とするGIST診断方法。
10.前記抗体は、モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体であることを特徴とする前記9記載のGIST診断方法。
11.配列表の配列番号1により特定されるカテプシンL1遺伝子の発現レベルを指標とすることを特徴とするGIST診断方法。
12.配列表の配列番号1により特定されるカテプシンL1遺伝子の塩基配列を有するGIST検出用遺伝子マーカーのカテプシンL1遺伝子の発現を検出するために使用されるオリゴヌクレオチドであって、前記カテプシンL1遺伝子の塩基配列またはその相補塩基配列の一部からなり、前記カテプシンL1のmRNAまたはそのcDNAと部位特異的塩基対を形成するオリゴヌクレオチドを用いて前記発現レベルの指標を得ることを特徴とする前記11記載のGIST診断方法。
13.胃癌などの非GISTとGISTとを判別するためのGIST診断方法であって、
GIST診断を目的とした患者由来の検出組織からなる検体試料を採取する工程と、
正常組織からなる参照試料を採取する工程と、
前記検体試料及び前記参照試料における配列表の配列番号1により特定されるカテプシンL1遺伝子またはカテプシンL1タンパク質の発現レベルまたは発現量を測定比較する診断工程と、
を含むことを特徴とするGIST診断方法。
14.前記診断工程は、あらかじめ把握されている正常組織または非GIST組織における前記カテプシンL1遺伝子または前記カテプシンL1タンパク質の発現レベルまたは発現量を基準とし、前記基準よりも高い場合にGISTであると判定することを特徴とする前記13記載のGIST診断方法。
15.前記カテプシンL1遺伝子の発現レベルまたは発現量は、RT-PCR法、リアルタイムPCR法、ハイブリダイゼーション法のうちの一つにより得ることを特徴とする前記11乃至14のうちの1つに記載のGIST診断方法。
16.前記ハイブリダイゼーション法がマイクロアレイ法又はブロット法であることを特徴とする前記15記載のGIST診断方法。
17.前記マイクロアレイ法又はブロット法に用いられるプローブがヌクレオチド又はタンパク質であることを特徴とする前記15記載のGIST診断方法。
18.前記ヌクレオチドがmRNA、cDNA、または合成オリゴヌクレオチドであることを特徴とする前記17記載のGIST診断方法。
19.配列表の配列番号2に示されるカテプシンL1タンパク質の発現レベルを指標とするGIST診断方法。
20.蛍光抗体法により前記検体試料におけるカテプシンL1タンパク質を標識化し、これを検出することを特徴とする前記19記載のGIST診断方法。
21.配列表の配列番号2に示されるアミノ酸配列の全部または一部を含むポリペプチドに特異的に結合する抗体を含むことを特徴とするGISTを治療するための医薬組成物。
22.配列表の配列番号1に示される塩基配列の全部または一部を含むポリヌクレオチドおよび/またはその誘導体を含むことを特徴とするGISTを治療するための医薬組成物。
【発明の効果】
【0014】
本発明において、GIST検出用マーカー遺伝子であるカテプシンL1遺伝子を検出するためのプローブ、あるいは、カテプシンL1タンパク質のアミノ酸配列の全部または一部を有するポリペプチドに対する抗体を作製することにより、カテプシンL1遺伝子またはカテプシンL1タンパク質の発現を指標としてGISTの検出または診断を広範囲にかつ確実に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】(マイクロアレイ法によるGISTにおけるカテプシンL1遺伝子の発現レベル) GIST10症例、胃癌の腫瘍部位25症例、胃癌またはGIST症例から取得した非癌部(正常部位)20症例においてDNAマイクロアレイにより網羅的遺伝子発現解析を行い、ヒト共通レファレンスに対するカテプシンL1遺伝子の発現レベル比をlog2比にしてプロットした。黒の菱形は個々の症例におけるカテプシンL1遺伝子の発現レベル比を表している。また、アスタリスク(*)は、t検定により統計的に両群における差のP値が0.00079未満であることを示している。さらに、アスタリスク(**)は、t検定により統計的に両群における差のP値が0.00035未満であることを示している。
【図2】(GISTにおけるカテプシンL1遺伝子の発現レベル) (A)GIST7症例および比較対照として胃癌4症例の癌部(T)と非癌部(NT)におけるmRNAをリアルタイムPCR法により解析した。β-actinの値で補正し、さらに胃癌の非癌部の値の平均を1として計算した。個々の症例値を黒三角でプロットし、その右横に平均値と標準偏差を線で示す。なおアスタリスク(*)は統計的に両群における差のP値が0.05未満であることを示している。 (B)胃癌の癌部と非癌部に関して、縦軸を−20倍から60倍のスケールに変えたグラフを示す。
【図3】(GISTにおけるカテプシンL1のタンパク質の検出) GIST4症例(レーン1−4)および胃癌(レーン5、6)と大腸癌(レーン7、8)それぞれ2症例の組織抽出液をウエスタンブロット法で解析した。矢印はプロカテプシンL1のバンドの位置を、白矢頭は一本鎖型カテプシンL1のバンドの位置を、黒矢頭は重鎖型カテプシンL1のバンドの位置を表す。また、「kDa」はキロダルトンを表す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
他に特に規定されない限り、本明細書中に使用される用語は、本発明が属する分野における通常の知識を有する者(当業者)によって、一般的に理解されるものと同一の意味を有する。
【0017】
当業者は、本明細書中に記載されるものと同等または類似の多くの方法および物質を認識する。ただし、本発明は本明細書に記載される方法および物質に限定されない。
【0018】
「遺伝子の発現レベルを測定する」または「遺伝子の発現を検出する」とは、該遺伝子の発現レベルを検出又は定量する限り特に制限されず、例えば、該遺伝子のmRNAやcDNAを検出又は定量してもよい。これらの検出又は定量には、該遺伝子又はその遺伝子産物であるペプチド若しくはタンパク質に特異的に結合する分子を用いることが望ましい。遺伝子又はその遺伝子産物であるペプチド若しくはタンパク質に特異的に結合する分子とは、特に制限されないが、該遺伝子に特異的に結合するヌクレオチド、DNA、cDNA、RNA、ペプチド若しくはタンパク質に特異的に結合する抗体等を例示することができる。また、該遺伝子の発現レベルの検出又は定量には、該遺伝子のmRNAもしくはタンパク質の断片またはホモログを用いてもよい。
【0019】
「DNAマイクロアレイ」とは、オリゴヌクレオチドや一本鎖または二本鎖のDNAをガラス基板上などに高密度に配置したものをいい、「DNAマイクロアレイ法」とは、そのDNAマイクロアレイ上で蛍光標識したRNA分子などとハイブリッド形成を行わせて定性的定量的にDNAと結合した核酸の種類や量を測定する手法をいう。
【0020】
「オリゴヌクレオチド」とは、ヌクレオチドが数個重合した分子の総称のことをいう。
【0021】
「ポリヌクレオチド」とは、単数または複数で使用された場合、任意のポリリボヌクレオチドまたはポリデオキシヌクレオチドのことをいい、DNAまたはRNAであってもよく、修飾されたDNAまたはRNAでもよい。DNAまたはRNAは一本鎖でも二本鎖でもよく、DNAとRNAを含むハイブリッド分子でもよい。
【0022】
「遺伝子マーカー」または「マーカー遺伝子」とは、発現またはレベルがある種の状態間で変化する遺伝子全体またはその遺伝子由来のESTを意味する。遺伝子発現がある種の状態と相関している場合、その遺伝子はその状態のマーカーである。
【0023】
遺伝子の発現レベルを検出又は定量する具体的な方法としては、該遺伝子に特異的に結合するプローブ用の標識化ヌクレオチド、標識化cDNAまたは標識化RNAを用いたノーザンブロット法、ドットブロット法、iAFLP(introduced Amplified Fragment Length Polymorphism)法、LAMP(Loop-Mediated Isothermal Amplification)法、PCR法、またはmRNAを直接測定する方法等を用いることができる。PCR法としては、RT-PCR法、リアルタイムPCR法、競合PCR法を挙げることができる。
【0024】
前記リアルタイムPCR法としては、例えば、試料内の全RNAやmRNAから逆転写酵素を用いてcDNAを合成し、該cDNAを鋳型にして目的領域をPCR法により増幅し、該増幅産物の生産過程をリアルタイムにモニタリングする方法が挙げられる。リアルタイムにモニタリングする試薬としては、例えば、SYBR(登録商標:Moleclar Probes社)Green Iや、TaqMan(登録商標:アプライドバイオシステムズ社)プローブ等が挙げられる。
【0025】
前記競合PCR法としては、例えば、試料内の全RNAやmRNAから逆転写酵素を用いてcDNAを合成し、該cDNAと内部標準DNAを同一の反応チューブ内で反応させる方法や、さらに前記逆転写反応時にmRNAとともにRNA内部標準を加えて反応させる方法等が挙げられる。また、内部標準遺伝子の配列は、例えば、増幅目的遺伝子の配列と相同配列でもよく、非相同な配列でもよい。
【0026】
前記mRNAを直接測定する方法としては、nCounter Analysis system(ナノストリング社)などが挙げられる。
【0027】
さらに、遺伝子の発現レベルを検出又は定量する具体的な方法としては、DNAマイクロアレイ、DNAチップ、または抗体アレイ等が挙げられる。DNAマイクロアレイ又はDNAチップには該遺伝子のヌクレオチド又はcDNAが少なくとも1つ以上固定化されているものを用いる。
【0028】
なお、ヌクレオチド又はcDNAは、該遺伝子の一部に相当する部分でもよい。
【0029】
上記プローブの標識化に用いられる標識試薬は、例えば放射性同位元素である[125I]、[131I]、[H]、[14C]、[32P]、[35S]、酵素であるβーガラクトシダーゼ、βーグルコシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、パーオキシダーゼ、また、蛍光物質であるシアニン蛍光色素蛍光色素(例えば、Cy2、Cy3、Cy5、Cy5.5、Cy7、Cyanine3、Cyanine5など)を用いることができる。
【0030】
また、上記リアルタイムPCR法としては、例えば、臓器(組織)内又は細胞内の全RNAやmRNAから逆転写酵素により合成したcDNAを鋳型にして、PCRの増幅産物をリアルタイムでモニタリングする方法が挙げられる。リアルタイムPCR用モニタリング試薬としては、例えばSYBR GreenIやTapMan(登録商標:アプライドバイオシステムズ社)プローブ等が用いられる。
【0031】
通常、DNAマイクロアレイやDNAチップは、プローブが支持体の上に固定されているアレイ又はチップであり、DNAマイクロアレイ又はDNAチップの支持体としては、ハイブリダイゼーションに使用可能なものであればよく、例えばガラス、シリコン、プラスチックなどの基板や、ニトロセルロース膜、ナイロン膜等を用いることができる。
【0032】
DNAマイクロアレイやDNAチップに用いるプローブはcDNAでも合成オリゴDNAでも構わない。
【0033】
DNAマイクロアレイやDNAチップの使用方法については特に制限されない。例えば、生体試料からmRNAを精製し、該mRNAを鋳型とした逆転写反応を行う際に、適切な標識を付したプライマーや標識ヌクレオチドを使用することにより、標識されたcDNAを得ることができる。この標識化cDNAとDNAマイクロアレイやDNAチップ表面上に固定された本発明におけるプローブとの間でハイブリダイズさせ、被検試料とのハイブリダイゼーション及び対照試料とのハイブリダイゼーションのそれぞれの結果を比較し、カテプシンL1遺伝子の有無を検出したり、発現レベルを測定することにより、GISTの検出または診断をすることができる。
【0034】
上記標識化cDNAの作製に用いられる標識物質としては、放射性同位元素、蛍光物質等を用いることができる。例えば、蛍光物質としては、Cy2、Cy3、Cy5、Cy5.5、Cy7、Cyanine3、Cyanaine5、FITC(イソチオシアン酸フルオレセイン)、テキサスレッド、ローダミン等が挙げられる。
【0035】
カテプシンL1遺伝子のDNA配列情報は配列表の配列番号1に示した他、NCBI(National Center for Biotechnology Information)の遺伝子データベースにおいてアクセッション番号NM_001912によりアプローチすることができる。また、カテプシンL1遺伝子に対応するポリペプチド又はタンパク質は上記遺伝子の発現産物であり、該ポリペプチド又はタンパク質のアミノ酸配列の配列情報は配列表の配列番号2に示した他、NCBIの遺伝子データベースにおいて、アクセッション番号NP_001903.1によりアプローチすることもできる。
【0036】
上記ポリペプチド又はタンパク質を検出又は定量する方法としては、所定のポリペプチド又はタンパク質を検出又は定量する方法であれば特に制限されない。例えば、該ポリペプチド又はタンパク質に特異的に結合する抗体やアプタマー等を用いることができ、抗体としては、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、一本鎖抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、2つのエピトープを同時に認識することができる二機能性抗体等を例示できる。これらの抗体は、慣用のプロトコルを用いて該ポリペプチド又はタンパク質又はそれらの断片を抗原として用いて作製することができる。また、アプタマーとは、タンパク質、アミノ酸等の分子に特異的に結合する核酸分子である。
【0037】
上記ポリペプチド又はタンパク質に特異的に結合する抗体を用いて、被検試料中に存在する該ポリペプチド又はタンパク質を検出又は定量する場合、免疫沈降法、電気化学発光法、RIA(Radioimmunoassay)法、ELISA(Enzyme-liked immunosorbent assay)法、蛍光抗体法等の公知の免疫学的方法を用いることができる。
【0038】
上記判定の基準としては、被検試料中に存在するカテプシンL1遺伝子の発現レベル(又は該遺伝子に対応するポリペプチド若しくはタンパク質の発現レベル)が正常対照試料中に存在する、該遺伝子の発現レベル(又は該遺伝子に対応するポリペプチド若しくはタンパク質の発現レベル)よりも高いことを用いる。例えば、t検定を行った場合に、P<0.05、より好ましくはP<0.01、さらに好ましくはP<0.001、さらにより好ましくはP<0.0001である場合が挙げられる。
【0039】
検定方法はt検定に限定されるものではなく、マン・ホイットニ検定やウィルコクサン符号付順位検定でもよい。
【0040】
なお、上記判定基準は検定に限定されるものではなく、例えば各群の平均値の差を用いてもよい。
【0041】
基準値は、被検試料における発現レベルを測定する度に毎回測定する必要はなく、例えば、様々な種の生体試料における正常対照試料中に存在するカテプシンL1遺伝子の発現レベルをあらかじめ測定しておき、その測定値を用いて比較することができる。
【0042】
本発明の遺伝子マーカーを用いてGISTの判定を、前述のようにカテプシンL1遺伝子のmRNAまたは転写産物の検出によって行う場合、その検体は、特に制限されないが、例えば、手術により得られた組織や病理標本であってもよく、生検材料であってもよい。
【0043】
カテプシンL1はエンドペプチダーセ活性を有するリソソーム酵素の一つであり、遺伝子座(9q21-22)も同定されている(非特許文献9)。さらに、カテプシンL1は粗面小胞体でプレプロ酵素として合成され、ゴルジ体で選別されてエンドソームやリソソームに輸送される。この過程でさらにプロセシングを経て活性を有する酵素となる(非特許文献11、12)。
【0044】
胃癌、乳癌、大腸癌患者の血清においてカテプシンL1タンパク質量が上昇しており腫瘍マーカーとして有用であるとの報告がある。したがって、本発明に基づきGISTの疑いのある患者の血清中のカテプシンL1タンパク質量を調べることによって、GISTの腫瘍マーカーとして簡便に利用できる可能性がある。また、GISTと診断された患者にとっては、術後のフォローアップとしてのマーカーとなり得る。
【0045】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例1】
【0046】
本発明のGISTマーカーとして用いられるカテプシンL1遺伝子は、手術により胃癌患者から摘出した組織における癌部、非癌部(正常部位)、およびGISTと診断された患者から摘出した組織における癌部、非癌部(正常部位)において、DNAマイクロアレイによる網羅的遺伝子発現プロファイルを取得し、GISTで特異的に発現レベルが上昇していた遺伝子である。なお、ここで、「発現レベル」とは絶対量である必要はなく相対量でよい。
【0047】
(マイクロアレイの作製)
マイクロアレイ用合成DNAを用いてマイクロアレイを作製する。マイクロアレイの作製方法・条件に限定はないが、例えば非特許文献8(Schena, M. et. al., Science, 270, 467-470(1995))に記載の作製方法を用いることができる。
【0048】
ヒト遺伝子断片ライブラリー(マイクロダイアグノスティック社製)を超微量分注装置(マイクロダイアグノスティク社製)によりスライドガラス(松波硝子工業社製、HAコートスライドガラス)にプリントしてマイクロアレイを作製した。該マイクロアレイを気相恒温器内にて80℃で1時間静置し、更にUVクロスリンカー(Hoefer社製、UVC500)を用いて120mJの紫外線を照射した。
【0049】
(マイクロアレイの後処理)
マイクロアレイの後処理は、公開特許公報(特開2004-233105)記載の方法により行った。
【0050】
(核酸検体の調製)
検体用核酸の調製は、手術組織からISOGEN試薬(ニッポンジーン社製)を用いて同社推奨のプロトコルに従い全RNAを抽出した。さらに、Poly(A)Pureキット(Ambion社製)を用い、同社推奨のプロトコルに従ってmRNAを精製した。
【0051】
(標識cDNAの合成)
該mRNA 2.0μgを核酸標識・ハイブリダイゼーション試薬(マイクロダイアグノスティック社製)、逆転写酵素
SuperScript II(登録商標:ライフテクノロジーズ)(インビトロジェン社製)、Cyanine5-deoxyuridinetriphosphate(Cyanine 5-dUTP)(Perkin Elmer社製)を用い、標識cDNAを作製した。一方、対照としてヒト共通レファレンス(マイクロダイアグノスティック社製)を使用した。ヒト共通レファレンスに対しては核酸標識・ハイブリダイゼーション試薬(マイクロダイアグノスティック社製)、逆転写酵素 SuperScript II(インビトロジェン社製)、Cyanine3-deoxyuridinetriphosphate(Cyanine 3-dUTP)(Perkin Elmer社製)を用い、標識cDNAを作製した。作製方法は各社推奨のプロトコルに従った。なお、ヒト共通レファレンスは22種類の細胞株(A431細胞、A549細胞、AKI細胞、HBL-100細胞、HeLa細胞、HepG2細胞、HL60細胞、IMR-32細胞、Jurkat細胞、K562細胞、KP4細胞、MKN7細胞、NK-92細胞、Raji細胞、RD細胞、Saos-2細胞、SK-N-MC細胞、SW-13細胞、T24細胞、U251細胞、U937細胞、Y79細胞)からそれぞれ調製したmRNAを等量ずつ混合したものである。
【0052】
(標識プローブの作製)
これらの標識cDNA、すなわち、Cyanine5-dUTPで標識した検体およびCyanine3-dUTPで標識した対照レファレンスを同一試験管内で混合した後、Micropure EZ(ミリポア社製)およびMicrocon YM30(登録商標:ミリポア)(ミリポア社製)により精製した。精製方法は同社推奨のプロトコルに従って行った。最終的には核酸標識・ハイブリダイゼーション試薬(マイクロダイアグノスティック社製)に付属のハイブリダイゼーションバッファーおよび純水を用いて15μlに調製した。
【0053】
(ハイブリダイゼーション)
該溶液を99℃で5分間加熱して熱変性させた後に、マイクロアレイ上に滴下し、ハイブリダイゼーションカセット(マイクロダイアグノスティック社製)に格納した。該ハイブリダイゼーションカセットを気相恒温器(三洋電機バイオメディカ社製)に入れ、42℃で20時間静置した状態で保温した。
【0054】
(洗浄)
ハイブリダイゼーションカセットからスライドガラスを取り出し、核酸標識・ハイブリダイゼーション試薬(マイクロダイアグノスティック社製)付属のハイブリダイゼーション洗浄溶液を用い、同社推奨のプロトコルに従ってスライドガラスを洗浄した。
【0055】
(蛍光強度の検出および数値化)
洗浄したスライドガラスをスキャナGenePix4000B(Axon Instrument社製)を用いて蛍光を測定し、スキャナに付属の解析ソフトウエアGenePixPro(Axon Instrument社製)を用いて光学的に評価し、蛍光強度をヒト共通レファレンスとの相対比(log2比)で表した。
【0056】
(カテプシンL1遺伝子の発現レベル)
胃癌症例25検体、GIST症例10検体、胃癌またはGISTの症例から取得した非癌部(正常部位)20検体にからmRNAを調製し、DNAマイクロアレイによる網羅的遺伝子発現プロファイルを取得した。その結果、カテプシンL1遺伝子は非癌部(正常部位)と比較してGISTで有意に発現レベルが上昇していた(P<0.00035)(図1)。さらに、胃癌(腫瘍)と比較してGISTで有意に発現レベルが上昇していた(P<0.00079)(図1)。なお、本実施例で使用した検体の臨床情報およびそれぞれの検体における共通レファレンスに対する発現レベル比を下記表1に示す。
【0057】
【表1】

【実施例2】
【0058】
(cDNA合成)
手術により摘出された臨床検体のうち凍結保存されていた組織を7×7mm角の大きさに切断した。該組織ブロックを1mlのTrizol Reagent(invitrogen社)を満たした1.5mlのチューブ(エッペンドルフ社製)に挿入し、ホモジナイザーT10 basic ULTRA-TURRAX(IKA社製)を用いて破砕した。粉砕した溶液に対し、クロロホルム(和光純薬社製)を200μl加えたのち、12,000rpmで15分間遠心した。遠心後に3層に分かれた最上層の水層のみを別の1.5mlチューブ(エッペンドルフ社製)に回収し、500μlのイソプロパノール(和光純薬社製)を加えて混合した後、12,000rpmで10分間遠心した。その上清を破棄した後、エタノール(和光純薬社製)を純水で75%に薄めたものを準備し、該75%エタノールを沈殿物に1ml加え12,000rpmで5分間遠心し、上清を破棄した。沈殿物を乾燥させた後、水に溶解し全RNA溶液とした。該全RNA溶液から約5μg分の全RNA溶液を分取して、SuperscriptIII cDNA synthase kit(Invitrogen社製)を用いRandom hexamerをプライマーとして、同社推奨のプロトコルに従ってcDNAを合成した。
【0059】
(リアルタイムPCR)
カテプシンL1に対するPCR用プライマー(Hs00377632;アプライドバイオシステムズ社製)、および対照としてβアクチンに対するPCR用プライマー(Hs99999903:アプライドバイオシステムズ社製)とTaqMan(登録商標:アプライドバイオシステムズ社)プローブをアプライドバイオシステムズ社より購入した。Fast Start Universal Probe Master(ロシュダイアグノスティック社製)で反応液を作製し、リアルタイムPCRシステム(ABI7500:アプライドバイオシステムズ社製)でPCR反応を行った。PCRの反応条件は50℃で2分間、続いて95℃で10分間の初期変性を行った後、95℃で15秒間次いで60℃で1分間の反応を40回繰り返し行った。シグナルが閾値に達するまでのサイクル数(Ct値)を発現量の指標とし、カテプシンL1のCt値をβアクチンのCt値により標準化しΔCt値とした。さらに胃癌症例で摘出された正常部分における発現量の平均を基準とし、ΔΔCt値として比較した。
【0060】
(リアルタイムPCR法によるカテプシンL1遺伝子の発現レベルの測定)
カテプシンL1遺伝子の発現レベルをリアルタイムPCRにより測定した。GIST7症例、および胃癌の癌部(腫瘍部位)4症例と非癌部(正常部位)4症例について比較したところ、GISTにおけるカテプシンL1遺伝子の発現レベルは胃癌症例における非癌部よりも約2,700倍、癌部よりも約260倍高く(図2)、この違いは統計学的に有意であった(P値<0.05)。また、個々の症例を見ると胃癌の非癌部と比べた値では500倍から6,500倍の間に分布しており、症例間の差が大きいことが判明した(図2)。それぞれの群間における統計学的有意差はWelchのt検定にて計算した。統計処理には統計ソフトSPSS Ver.17(SPSS社製)を使用した。
【実施例3】
【0061】
(ウエスタンブロッティング)
凍結保存していた手術標本をRIPA lysis buffer(0.15M NaCl, 0.1%SDS, 1%DOC, 1%NP40, 0.5M Tris-HCl [pH7.6])に浸しながら、ホモジェナイザーで粉砕した。粉砕した溶液の入ったチューブを15,000rpmで5分間遠心し、上清を回収しタンパク質溶液とした。この溶液のタンパク質濃度を調べるために、Quick Star Bradford Dye Reagen(Biorad社製)を用いてBradford法による吸光度測定を行った。この溶液に10%メルカプトエタノールを含むTris-Glycine SDS Sample Buffer (Invitrogen社製)を加え2倍に希釈した。20μgのタンパク質溶液をTris-Glycineを含む5‐20%グラージエントアガロースゲルで電気泳動し、ニトロセルロース膜に転写した。この膜をSuper Block Blocking Buffer(Thermo社製)でブロッキングした後、ヤギ抗カテプシンL1ポリクローナル抗体(sc-6500;Santa Cruz Bio社製)を500分の1に希釈したものを用いて、4℃で16時間、2次抗体としてHRP標識された抗ヤギIgG抗体(Jackson ImmunoResearch社製)を1000分の1に希釈したものを用いて、26℃で30分間反応させた。同様に、1次抗体としてマウス抗βアクチン抗体(ac-15:Santa Cruz Bio社製)を2500分の1に希釈したものを用いて、4℃で16時間、2次抗体としてHRP標識された抗マウスIgG抗体(Jackson ImmunoResearch社製)を5000分の1に希釈したものを用いて26℃で30分間反応させた。発色抗体としてSuperSignal West Pico Chemiluminescent Substrate (Thermo社製)を用い、シグナルをImageQuant LAS4000(GE life science社)にて検出した。
【0062】
GIST4症例、胃癌2症例および大腸癌2症例の組織抽出液を解析したところ、GIST4症例において、プロカテプシンL1(約41kD)、一本鎖型カテプシンL1(約33kD)あるいは重鎖型カテプシンL1(約23kD)を示すバンドが認められた(図3)。症例間のシグナル差は大きく、重鎖型カテプシンL1で比較すると最も強い症例(図3、レーン3)は最も弱い症例(図3、レーン1)の約5倍の強度であった。一方、胃癌および大腸癌には対応するバンドはほとんど認められなかった(図3)。
【実施例4】
【0063】
(カテプシンL1の免疫組織化学)
手術摘出標本を10%ホルマリンで固定し、洗浄後、脱水、キシロールへの置換を経てパラフィンに包埋した。4μm厚の切片を作製し、キシロールによる脱パラフィン後、エタノール、次いでリン酸バッファー液(pH7.2)に置換した。0.3%過酸化水素を添加したメタノールに浸けて内因性ペルオキシダーゼを不活化し、Protein Block(BSA, Sodium Azide, Casein, PBS [pH7.4]の混合液、Abcam)にてブロッキングした。一次抗体として、ヤギ抗カテプシンL1ポリクローナル抗体(sc-6500;Santa Cruz Bio社製)を100分の1に希釈したものを用いて4℃で16時間反応させた。次いで二次抗体として、HRP標識ヤギ抗IgG抗体(ニチレイ社製)を26℃で30分間反応させ、0.2μg/mlのDAB(3-3’-diaminobenzine-tetrahydrochloride)にて発色させた。カラッチのヘマトキシリンにて核染した後、エタノールによる脱水、キシロールによる透徹を経て、マリノール(武藤化学社製)を用いて封入した。観察は正立型光学顕微鏡(BX50型;オリンパス社製)を用いた。評価法は、細胞質に顆粒状に染色されている症例を陽性とし、さらに陽性細胞の占める割合が約50%以下を弱陽性、50%以上を強陽性に分類した。
【0064】
カテプシンL1染色性の強さをGIST症例43例について検討したところ、強陽性26例(65.1%)、弱陽性9例(20.9%)、陰性6例(14.0%)であり、弱陽性と強陽性を合わせた陽性率は86.0%(37症例)であった(表2)。
【0065】
(KITおよびCD34の免疫組織化学)
手術摘出標本を10%ホルマリンで固定し、洗浄後、脱水、キシロールへの置換を経てパラフィンに包埋した。4μm厚の切片を作製し、キシロールによる脱パラフィン後、エタノール、次いでリン酸バッファー液(pH7.2)に置換した。0.3%過酸化水素を添加したメタノールに浸けて内因性ペルオキシダーゼを不活化し、0.01Mクエン酸緩衝液に浸し、105℃、10分間の熱処理を行った。一次抗体として、ウサギ抗c-kitポリクローナル抗体(K963;免疫生物研究所製)を1:50の希釈倍率で、マウス抗CD34モノクローナル抗体(NU-4A1;ニチレイ社製)は1:200の希釈倍率で4℃の状態で一晩反応させた。次いで二次抗体として、それぞれHRP標識ウサギ抗IgG抗体(DAKO社製)、HRP標識マウス抗IgG抗体(DAKO社製)を室温で30分間反応させ、0.2μg/mlのDAB(3-3’-diaminobenzine-tetrahydrochloride)にて発色させた。核の染色をした後、脱水、透徹を経て封入した。評価法はc-kitにおいては10%以上の腫瘍細胞の細胞質が染色されているものを、CD34においては細胞質が染色されているものがあれば陽性とした(表2)。
【0066】
表2中、カテプシンL1の染色強度を強陽性、弱陽性および陰性に分類し、それぞれ強陽性を「++」、弱陽性を「+」、陰性を「-」と表した。また、表中に記載している略号は「M」は「male(男性)」、「F」は「female(女性)」、「E」は「esophagus(食道)」、「S」は「stomach(胃)」、「D」は「duodenum(十二指腸)」、「I」は「ileum(回腸)」、「R」は「rectum(直腸)」、「L」は「liver(肝臓)」、「AC」は「abdominal cavity(腹腔)」、「O」は「small omentum(小網)」、「HPF」は「high power field」を表す。
【0067】
表2中、「mitosis(/50HPF)」は核分裂数(mitosis)の指標として用いており、顕微鏡で400倍の倍率(high power field)で50視野における腫瘍細胞の核分裂像の数を表している。また、「risk」の欄は国際的に使用されているガイドラインの「リスク分類表」(非特許文献12)に従って行った結果を表しており、「very low」は「超低リスク」を、「low」は「低リスク」を、「int.」は「中間リスク」を「high」は「高リスク」を表している。
【0068】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の新規のGISTマーカーであるカテプシンL1遺伝子は、正常組織や胃癌では発現レベルが低く、胃癌などとの区別が難しく確定診断が困難であるGISTにおいて顕著に発現レベルが上昇しているため、このGISTマーカーを用いることにより客観的な分子学的基準に基づいてGISTの確定診断を行うことが可能である。特に、術前の病理細胞診のような少量の組織でも確定診断を行うことができる。さらに、術後のフォローアップとしてのマーカーとしても使用でき、術後の治療方針の決定に際して客観的な判断材料になり得る。また、血清中のカテプシンL1タンパク質量を測定することも可能であると考えられるため、GISTと診断された患者の術後の腫瘍マーカーとしても使用できる可能性がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列表の配列番号1により特定されるカテプシンL1遺伝子の塩基配列を有することを特徴とするGIST検出用遺伝子マーカー。
【請求項2】
請求項1記載のGIST検出用遺伝子マーカーの塩基配列の全部または一部のDNAまたはcDNAを少なくとも1つ以上固定化させたことを特徴とするGISTマーカー遺伝子発現検出用DNAマイクロアレイまたはDNAチップ。
【請求項3】
配列表の配列番号1により特定されるカテプシンL1遺伝子の塩基配列を有するGIST検出用遺伝子マーカーのカテプシンL1遺伝子の発現を検出するために使用されるオリゴヌクレオチドであって、
前記カテプシンL1遺伝子の塩基配列またはその相補塩基配列の一部からなり、前記カテプシンL1のmRNAまたはそのcDNAと部位特異的塩基対を形成することを特徴とするオリゴヌクレオチド。
【請求項4】
請求項3記載のオリゴヌクレオチドを少なくとも1つ以上固定化させたことを特徴とするGISTマーカー遺伝子発現検出用DNAマイクロアレイまたはDNAチップ。
【請求項5】
配列表の配列番号1により特定されるカテプシンL1遺伝子の塩基配列を有するGIST検出用遺伝子マーカーを検出するために使用されるプライマーであって、
前記カテプシンL1遺伝子のmRNAまたはそのcDNAと部位特異的塩基対を形成し、配列表の配列番号1に示される塩基配列の全部または一部をPCR法により増幅するための少なくとも2種類のプライマーからなることを特徴とするGISTマーカー遺伝子検出用プライマーセット。
【請求項6】
配列表の配列番号2により特定されるカテプシンL1タンパク質のアミノ酸配列の全部またはその一部からなることを特徴とするGIST検出用ポリペプチドマーカー。
【請求項7】
請求項6記載のGIST検出用ポリペプチドマーカーのアミノ酸配列を有するポリペプチドを哺乳動物に投与することにより誘導し、前記ポリペプチドに特異的に結合する抗体を使用することによりカテプシンL1タンパク質を検出することを特徴とするGIST診断方法。
【請求項8】
前記抗体は、モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体であることを特徴とする請求項7記載のGIST診断方法。
【請求項9】
カテプシンL1遺伝子を組み込んだ哺乳動物細胞用発現ベクターを哺乳動物に投与することにより誘導し、配列表の配列番号2に示されるカテプシンL1タンパク質のアミノ酸配列の全部又は一部からなるポリペプチドに特異的に結合する抗体を使用することによりカテプシンL1タンパク質を検出することを特徴とするGIST診断方法。
【請求項10】
前記抗体は、モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体であることを特徴とする請求項9記載のGIST診断方法。
【請求項11】
配列表の配列番号1により特定されるカテプシンL1遺伝子の発現レベルを指標とすることを特徴とするGIST診断方法。
【請求項12】
配列表の配列番号1により特定されるカテプシンL1遺伝子の塩基配列を有するGIST検出用遺伝子マーカーのカテプシンL1遺伝子の発現を検出するために使用されるオリゴヌクレオチドであって、前記カテプシンL1遺伝子の塩基配列またはその相補塩基配列の一部からなり、前記カテプシンL1のmRNAまたはそのcDNAと部位特異的塩基対を形成するオリゴヌクレオチドを用いて前記発現レベルの指標を得ることを特徴とする請求項11記載のGIST診断方法。
【請求項13】
胃癌などの非GISTとGISTとを判別するためのGIST診断方法であって、
GIST診断を目的とした患者由来の検出組織からなる検体試料を採取する工程と、
正常組織からなる参照試料を採取する工程と、
前記検体試料及び前記参照試料における配列表の配列番号1により特定されるカテプシンL1遺伝子またはカテプシンL1タンパク質の発現レベルまたは発現量を測定比較する診断工程と、
を含むことを特徴とするGIST診断方法。
【請求項14】
前記診断工程は、あらかじめ把握されている正常組織または非GIST組織における前記カテプシンL1遺伝子または前記カテプシンL1タンパク質の発現レベルまたは発現量を基準とし、前記基準よりも高い場合にGISTであると判定することを特徴とする請求項13記載のGIST診断方法。
【請求項15】
前記カテプシンL1遺伝子の発現レベルまたは発現量は、RT-PCR法、リアルタイムPCR法、ハイブリダイゼーション法のうちの一つにより得ることを特徴とする請求項11乃至14のうちの1つに記載のGIST診断方法。
【請求項16】
前記ハイブリダイゼーション法がマイクロアレイ法又はブロット法であることを特徴とする請求項15記載のGIST診断方法。
【請求項17】
前記マイクロアレイ法又はブロット法に用いられるプローブがヌクレオチド又はタンパク質であることを特徴とする請求項15記載のGIST診断方法。
【請求項18】
前記ヌクレオチドがmRNA、cDNA、または合成オリゴヌクレオチドであることを特徴とする請求項17記載のGIST診断方法。
【請求項19】
配列表の配列番号2に示されるカテプシンL1タンパク質の発現レベルを指標とするGIST診断方法。
【請求項20】
蛍光抗体法により前記検体試料におけるカテプシンL1タンパク質を標識化し、これを検出することを特徴とする請求項19記載のGIST診断方法。
【請求項21】
配列表の配列番号2に示されるアミノ酸配列の全部または一部を含むポリペプチドに特異的に結合する抗体を含むことを特徴とするGISTを治療するための医薬組成物。
【請求項22】
配列表の配列番号1に示される塩基配列の全部または一部を含むポリヌクレオチドおよび/またはその誘導体を含むことを特徴とするGISTを治療するための医薬組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−75341(P2012−75341A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−220877(P2010−220877)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「基礎研究から臨床研究への橋渡し促進技術開発/遺伝子発現解析技術を活用した個別がん医療の実現と抗がん剤開発の加速」にかかる業務委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(510261153)
【Fターム(参考)】