説明

消弧用樹脂加工品、及びそれを用いた回路遮断器

【課題】内圧上昇への寄与が少なく、回路遮断時に発生するアークを効率よく消弧できる熱分解ガスを発生でき、更には、その際に起こる温度上昇に耐える耐熱性及び内圧上昇に耐えうる耐圧性を備え、難燃性に優れる消弧用樹脂加工品及びそれを用いた回路遮断器を提供すること。
【解決手段】固定接点を有する固定接触子と、前記固定接触子と接触する可動接点を有し前記固定接触子に対して開閉動作をする可動接触子と、前記固定接触子と前記可動接触子とが開閉動作する際に発生するアークを消弧する消弧装置とを備えた回路遮断器において、消弧装置としてメチレン鎖の水素原子の一部が水酸基で置換され、メチレン基1モルに対して、水酸基を0.2〜0.7モル含有するポリオレフィン樹脂と末端不飽和結合を有する反応性有機リン系難燃剤を含む樹脂組成物を成形後に放射線架橋を施した消弧用樹脂加工品を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回路遮断器などの電流遮断時に接点から発生するアークを消弧するために使用される、難燃性を備えた消弧用樹脂加工品及びこれを用いた回路遮断器に関する。
【背景技術】
【0002】
回路遮断器などにおいて、過剰電流または定格電流の通電時に可動接触子の接点と固定接触子の接点を開離させると、接点間にアークが発生する。このアークを消弧するには、通常、アーク発生部の周囲に、消弧部材からなる消弧室を備えた消弧装置を配設している。そして、アークによって消弧部材を熱分解させて、この消弧部材から発生する熱分解ガスによってアークを消弧している。
【0003】
これら消弧部材には、不飽和ポリエステル樹脂(特許文献1参照)、メラミン樹脂(特許文献2参照)などの熱硬化性樹脂や、ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂(特許文献3参照)などの熱可塑性樹脂などがマトリックス樹脂として主に用いられている。
【0004】
しかしながら、熱硬化性樹脂は成形時にバリが生じやすいことから、成形加工性が熱可塑性樹脂に比べて劣るという問題点があった。更には、アーク消弧時には、消弧部材から熱分解ガスが発生するため、消弧装置内の内圧が高まるが、比較的硬いものの、破損しやすく、耐圧強度に劣る熱硬化性樹脂では、消弧装置の小型化が困難であった。
【0005】
また、熱可塑性樹脂は、成形時にバリなどは生じにくいものの、強度、耐圧性、耐熱性が劣り、消弧部材が経時で変形ないし劣化する傾向にあった。一方、芳香族ポリアミド樹脂などのように芳香族環の含有量の多い熱可塑性樹脂は、比較的、強度、耐圧性、耐熱性に優れるものの、燃焼時に遊離炭素を放出しやすい。このため消弧装置を炭素で腐食される虞れがあり、消弧装置の絶縁性が損なわれるといった問題があった。
【0006】
また、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂の強度、耐圧性、耐熱性などを向上させるため、強化繊維などの無機フィラーを添加するといった試みがなされているものの(特許文献1〜4参照)、無機フィラーの含有量の増加に伴い熱分解ガスの発生量が減少する傾向にあり、消弧性が低下するという問題があった。
【0007】
一方、下記特許文献5には、ポリエステルやポリアミドなどの熱可塑性樹脂に電子線処理を施して得られる樹脂加工品を用いた回路遮断器が開示されている。
【0008】
また、近年、回路遮断器に使用される樹脂材料に対して要求される難燃性レベルが向上する傾向にある。その対策として、難燃性樹脂をマトリックス樹脂として消弧材料に用いることが考えられる。そして、樹脂の難燃化には、臭素などのハロゲン化合物が有効であることが知られており、ハロゲン化合物を添加した樹脂が難燃性樹脂として汎用的に使用されている。しかしながら、ハロゲン化合物を大量に含む難燃性樹脂は、燃焼条件によってはダイオキシン類が発生する可能性があり、環境負荷の見地より、近年ハロゲン化合物を含有しない非ハロゲン系難燃性樹脂の使用が望まれている。
【特許文献1】特許第3098042号明細書
【特許文献2】特開平2−256110号公報
【特許文献3】特開平7−302535号公報
【特許文献4】特開平8−171847号公報
【特許文献5】国際公開2003−044818号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
熱可塑性樹脂に架橋処理を施すことで、強度、耐熱性や耐圧性などに関しては向上が認められるものの、消弧性に関しては向上が認められなかった。また、アーク消弧時に発生する熱分解ガスによる消弧装置内の内圧上昇もほとんど抑制できず、アーク消弧時の内圧上昇により消弧装置が破損しやすかった。更には、難燃性について課題を有するものであった。
【0010】
したがって、本発明の目的は、内圧上昇が少なく、回路遮断時に発生するアークを効率よく消弧できる熱分解ガスを発生でき、更には、その際に起こる温度上昇に耐える耐熱性及び内圧上昇に耐えうる耐圧性を備え、難燃性に優れる消弧用樹脂加工品及びそれを用いた回路遮断器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明の消弧用樹脂加工品は、メチレン鎖の水素原子の一部が水酸基で置換され、メチレン基1モルに対して、水酸基を0.2〜0.7モル含有するポリオレフィン樹脂(A)と、末端不飽和結合を有する反応性有機リン系難燃剤(B)とを含む樹脂組成物を、成形後に放射線架橋を施したことを特徴とする。
【0012】
上記本発明の消弧用樹脂加工品によれば、放射線によって、反応性有機リン難燃剤(B)の末端不飽和結合と、ポリオレフィン樹脂(A)とが反応し、三次元網目状に架橋しているので、難燃剤成分が樹脂中に安定して取り込まれている。このため、難燃剤のブリードアウトが少なく、長期にわたって難燃性を発揮できると共に、ポリオレフィン樹脂(A)が三次元網目状に架橋しているので、強度、耐熱性、耐圧性が向上している。
【0013】
また、このポリオレフィン樹脂(A)は、熱分解によって側鎖に有するOH基が解離し易いので、水素ガス、HO、O及びOの含有量の高い熱分解ガスを発生できる。このため、アークを速やかに消弧できると共に、タール分などのアークの消弧に対する寄与が乏しい成分の含有量が少なく、消弧装置内の内圧を抑制できる。そして、アーク消弧時において、消弧装置に炭素が付着されにくいので、消弧装置の絶縁性を損なうこともない。
【0014】
また、本発明の消弧用樹脂加工品は、前記樹脂組成物が、オキシメチレンから誘導される繰り返し単位の含有量が75〜100モル%であるポリアセタール系樹脂(C)を、前記ポリオレフィン樹脂(A)100質量部に対して5〜90質量部含有することが好ましい。ポリアセタール系樹脂は、消弧作用の高い熱分解ガスを発生できるものの、溶融混練での成形が困難であることから成形加工性に劣り、また、熱分解ガスの発生量が高く、更には、該熱分解ガスは内圧上昇への寄与が比較的高いものであることから、消弧装置内の内圧が上昇しやすい。この態様によれば、上記ポリオレフィン樹脂(A)と、上記ポリアセタール系樹脂(C)とを併用したことで、樹脂組成物の成形加工性を損なうことなく、消弧性を向上できる。
【0015】
また、本発明の消弧用樹脂加工品は、前記樹脂組成物が、前記樹脂組成物が、ガラスファイバー、チタン酸バリウムウィスカー、シリカゲル微粒子、ベーマイト、タルク、炭酸マグネシウム及び金属水酸化物から選ばれた1種以上の無機フィラー(D)を、1〜70質量%含有することが好ましい。この態様によれば、樹脂加工品の強度及び耐圧性を向上できる。
【0016】
また、本発明の消弧用樹脂加工品は、前記ポリオレフィン樹脂(A)の分解潜熱が30cal/g以上であることが好ましい。
【0017】
また、本発明の消弧用樹脂加工品は、前記ポリオレフィン樹脂(A)が、エチレン−ビニルアルコール共重合体であることが好ましい。
【0018】
上記各態様によれば、消弧性に優れた熱分解ガスを発生できるので、アークを速やかに消弧することができ、アーク電圧が損なわれにくい。
【0019】
また、本発明の消弧用樹脂加工品は、前記応性有機リン系難燃剤(B)が、下記式(I)及び/又は下式(II)に示される有機リン化合物であり、前記樹脂組成物中に0.5〜20質量%含有することが好ましい。
【0020】
【化1】

【0021】
(式(I)中、R〜RはそれぞれCH=CY−Y−、又はヘテロ原子を含んでもよい一官能性の芳香族炭化水素系基を表し、Rはヘテロ原子を含んでもよい二官能性の芳香族炭化水素系基を表す。X〜Xはそれぞれ−O−、−NH−、−(CH=CY−Y)N−より選択される基を表し、X〜Xの少なくとも1つは−NH−、又は−(CH=CY−Y)N−を含む。R〜R及びX〜X4の少なくとも1つはCH=CY−Y−を含む。Yは水素又はメチル基を表し、Yは炭素数1〜5のアルキレン基、又は−COO−Y−を表す。ここで、Yは炭素数1〜5のアルキレン基を表す。)
【0022】
【化2】

【0023】
(式(II)中、1分子中に少なくとも1つのP−C結合を含み、Ar1とArは、それぞれ炭素数20以下の易動性水素を含まない二官能性芳香族炭化水素系基を表し、nは0〜2の整数である。R〜R10はそれぞれ、−NHCHCH=CH、−N(CHCH=CH)、−OCHCH=CH、−CHCH=CH、−CHCHOCH=CH、−(C)−CH=CH、−O(C)−CH=CH、−CH(C)−CH=CH、−NH(C)−CH=CH、−N(CHCH=CH)−(C)−CH=CH、−O−R−OOC−C(R’)=CH、−NH−R−NHCO−C(R’)=CH、炭素数12以下のアリール基より選択される基を表す。ここで、Rは炭素数2〜5のアルキレン基、R’は水素またはメチル基を表す。R〜R10の少なくとも1つは−CH=CH基又は−C(CH)=CH基を含む。)
上記応性有機リン系難燃剤(B)は、エネルギー的に安定したものであり、樹脂への混練・成形時に、気化しにくく、更には、熱や剪断によって分解され難いので、成形加工性を損なうこともない。
【0024】
また、本発明の消弧用樹脂加工品は、前記ポリアセタール系樹脂(C)が、オキシメチレン−オキシエチレン共重合体又はオキシメチレン重合体であることが好ましい。この態様によれば、消弧性に優れた熱分解ガスを発生できるので、アークを速やかに消弧することができ、アーク電圧が損なわれにくい。
【0025】
また、本発明の消弧用樹脂加工品は、前記ポリオレフィン樹脂(A)中に前記ポリアセタール系樹脂(C)が分散し、ミクロ相分離構造を形成していることが好ましい。この態様によれば、消弧用樹脂加工品が熱分解される際、ポリアセタール系樹脂(C)が熱分解されやすいので、消弧性の高い熱分解ガスを放出でき、アークを速やかに消弧できる。
【0026】
一方、本発明の回路遮断器は、固定接点を有する固定接触子と、前記固定接触子と接触する可動接点を有し前記固定接触子に対して開閉動作をする可動接触子と、前記固定接触子と前記可動接触子とが開閉動作する際に発生するアークを消弧する消弧装置とを備えた回路遮断器において、前記消弧装置が、上記消弧用樹脂加工品からなることを特徴とする。上記本発明の回路遮断器によれば、電流遮断時に接点から発生するアークを効率よく消弧でき、かつ、消弧装置内の内圧上昇を抑えることができる。このため、小型化で、過負荷遮断や短絡遮断など遮断性能の優れた回路遮断器とすることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明の消弧用樹脂加工品は、強度、耐圧性、耐熱性、難燃性、成形加工性に優れるものであると共に、消弧作用の高い熱分解ガスを発生するので、電流遮断時に接点から発生するアークを効率よく消弧でき、消弧装置内の内圧上昇を抑えることができる。このため、この消弧用樹脂加工品を用いた本発明の回路遮断機は、小型化でき、過負荷遮断や短絡遮断など遮断性能の優れたものとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
本発明の消弧用樹脂加工品は、メチレン鎖の水素原子の一部が水酸基で置換され、メチレン基(−CH−)1モルに対して、水酸基(−OH)を0.2〜0.7モル含有するポリオレフィン樹脂(A)と、末端不飽和結合を有する反応性有機リン系難燃剤(B)とを含む樹脂組成物を、成形後に放射線架橋を施して得られたものである。
【0029】
上記ポリオレフィン樹脂(A)は、メチレン基1モルに対して、水酸基を0.2〜0.7モル含有するものであり、メチレン基1モルに対して、水酸基を0.2〜0.65モル含有することが好ましい。水酸基が上記割合で0.2未満であると、熱分解時に消弧性に優れた熱分解ガスが発生しにくく、アークを速やかに消弧できないばかりか、アーク消弧時に消弧装置内の内圧が大きくなる傾向にある。また、水酸基が上記割合で0.7を超えると、耐熱性が低下し、更には、熱分解温度が低下して溶融混練による成形加工が困難となる傾向にある。
【0030】
また、上記ポリオレフィン樹脂(A)は、分解潜熱が30cal/g以上であることが好ましく、40cal/g以上がより好ましい。ここで、ポリオレフィン樹脂(A)の分解潜熱を向上させるには、水酸基の含有量を増加させればよく、例えば、メチレン鎖の水素原子の一部が水酸基で置換された、メチレン基1モルに対して、水酸基を0.2〜0.7モル含有するポリオレフィン樹脂は、分解潜熱が30〜50cal/gである。なお、樹脂の分解潜熱は、不活性雰囲気下にて、測定対象物の樹脂を加熱分解することで測定することができる。
【0031】
このようなポリオレフィン樹脂としては、エチレン−ビニルアルコール共重合体が好ましく、消弧性が優れるという理由から、エチレン−ビニルアルコール共重合体が特に好ましい。ただし、ポリエチレンでは消弧性が乏しく、また、ポリビニルアルコールでは成形加工方法が限定されてしまう。
【0032】
また、上記反応性有機リン系難燃剤(B)は、末端不飽和結合を有する有機リン化合物であり、下記式(I)及び下記式(II)に示される有機リン化合物が好ましい。
【0033】
【化3】

【0034】
(式(I)中、R〜RはそれぞれCH=CY−Y−、又はヘテロ原子を含んでもよい一官能性の芳香族炭化水素系基を表し、Rはヘテロ原子を含んでもよい二官能性の芳香族炭化水素系基を表す。X〜Xはそれぞれ−O−、−NH−、−(CH=CY−Y)N−より選択される基を表し、X〜Xの少なくとも1つは−NH−、又は−(CH=CY−Y)N−を含む。R〜R及びX〜X4の少なくとも1つはCH=CY−Y−を含む。Yは水素又はメチル基を表し、Yは炭素数1〜5のアルキレン基、又は−COO−Y−を表す。ここで、Yは炭素数1〜5のアルキレン基を表す。)
【0035】
【化4】

【0036】
(式(II)中、1分子中に少なくとも1つのP−C結合を含み、Ar1及びArは、それぞれ炭素数20以下の易動性水素を含まない二官能性の芳香族炭化水素系基を表し、nは0〜2の整数である。R〜R10はそれぞれ、−NHCHCH=CH、−N(CHCH=CH)、−OCHCH=CH、−CHCH=CH、−CHCHOCH=CH、−(C)−CH=CH、−O(C)−CH=CH、−CH(C)−CH=CH、−NH(C)−CH=CH、−N(CHCH=CH)−(C)−CH=CH、−O−R−OOC−C(R’)=CH、−NH−R−NHCO−C(R’)=CH、炭素数12以下のアリール基より選択される基を表す。ここで、Rは炭素数2〜5のアルキレン基、R’は水素またはメチル基を表す。R〜R10の少なくとも1つは−CH=CH基又は−C(CH)=CH基を含む。)
すなわち、上記の有機リン化合物は、末端不飽和結合である−CH=CH基又は−C(CH)=CH基を少なくとも一つ以上含む化合物である。この官能基は、放射線の照射によって、上記ポリオレフィン樹脂(A)と結合するための官能基である。なお、末端不飽和結合は1分子中に2つ以上有していることが好ましい。
【0037】
式(I)で示される化合物において、CH=CY−Y−基としては、具体的には、CH=CH−CH−、CH=CH−CHCHCH−、CH=C(CH)−CH−、CH=CHCOO−CHCH−、CH=C(CH)COO−CHCH−などが挙げられる。
【0038】
また、R〜Rのヘテロ原子を含んでもよい一官能性の芳香族炭化水素系基としては、炭素数が6〜14の芳香族炭化水素系基が好ましい。具体的には、−C(フェニル基)、−COH(ヒドロキシフェニル基)、−C−COH(ヒドロキシビフェニル基)、−CH(ベンジル基)、−α-C10(α-ナフチル基)、−β-C10(β-ナフチル基)などが挙げられる。
【0039】
また、Rのヘテロ原子を含んでもよい二官能性の芳香族炭化水素系基としては、炭素数が10〜14の芳香族炭化水素系基が好ましい。具体的には、−p-C−p-C−、−p-C−CH−p-C−、−p-C−C(CH−p-C−、−p-C−C(=O)−p-C−、−p-C−SO−p-C−、2,6−C10<(2,6−ナフチレン基)などが挙げられる。
【0040】
なお、本発明において芳香族炭化水素系基とは、例えば上記のフェニル基や−p-C−p-C−のような芳香族炭化水素基のみならず、例えば上記のヒドロキシフェニル基や−p-C−SO−p-C−のような、芳香族炭化水素基に加えて更に酸素や硫黄などのヘテロ原子を含んだ基も含むこととする。
【0041】
そして、上記式(I)の有機リン化合物としては、例えば、下記の構造式(I−1)〜(I−18)で示される化合物が挙げられる。
【0042】
【化5】

【0043】
【化6】

【0044】
【化7】

【0045】
上記の化合物は、国際公開WO2005/012415号パンフレットなどに記載された方法によって合成できる。例えば、上記(I−1)の化合物は、ジメチルアセトアミド(DMAc)にオキシ塩化リンを加え、この溶液に、4,4’−ビフェニルアルコールとトリエチルアミンを溶解したDMAcの溶液を滴下して反応させ、次いで、アリルアミンとトリエチルアミンとの混合液を反応させることにより得ることができる。
【0046】
また、式(II)で示される化合物において、炭素数12以下のアリール基としては、例えば、−C(フェニル基)、−COH(ヒドロキシフェニル基)、−C−COH(ヒドロキシビフェニル基)、−α-C10(α-ナフチル基)、−β-C10(β-ナフチル基)などが挙げられる。
【0047】
また、Ar1及びArの炭素数20以下の易動性水素を含まない二官能性芳香族炭化水素系基としては、例えば、−p-C−、−p-C−O−、−O−p-C−O−、−p-C−p-C−、−p-C−CH−p-C−、−p-C−C(CH−p-C−、−p-C−C(=O)−p-C−、−p-C−SO−p-C−、2,6−C10<(2,6−ナフチレン基)などが挙げられる。ここで、易動性水素としては、−OH(水酸基)、−NHCO−(アミド結合)、−NHCOO−(ウレタン結合)などの、水素結合を形成しやすく、金属ナトリウムや水素化ナトリウムなどと常温で容易に反応して水素を発生する官能基に含まれる反応性の高い水素を意味する。
【0048】
そして、上記式(II)の有機リン化合物としては、例えば、下記の構造式(II−1)〜(II−23)で示される化合物が挙げられる。このうち、(II−1〜II−12)はnがゼロ、すなわち1分子中のリン原子が2個の場合の例である。また、(II−13〜II−20)はnが1、すなわち、1分子中のリン原子が3個の場合の例である。また、(II−21)〜(II−23)はnが2、すなわち、1分子中のリン原子が4個の場合の例である。
【0049】
【化8】

【0050】
【化9】

【0051】
【化10】

【0052】
【化11】

【0053】
上記の化合物は、国際公開WO2005/087852号パンフレットなどに記載された方法によって合成できる。例えば、上記(II−1)の化合物は、4,4’−ジクロルビフェニルを出発原料とし、これをオキシ塩化リンと反応させた後、更に臭化アリルと反応させて末端に不飽和基を導入することによって合成することができる。
【0054】
そして、上記反応性有機リン系難燃剤(B)は、樹脂組成物中に0.5〜20質量%含有することが好ましく、4〜12質量%がより好ましい。上記反応性有機リン系難燃剤(B)の含有量が0.5質量%未満であると、難燃性をほとんど向上することができず、更には樹脂組成物の架橋密度が劣ることから、強度、耐圧性、耐熱性などの物理的特性をほとんど向上させることができない。20質量%を超えると、反応性有機リン系難燃剤が過剰となり、反応性有機リン系難燃剤の未反応のモノマーや分解ガスが発生したり、オリゴマー化したものがブリードアウトする虞れがある。
【0055】
本発明の消弧用樹脂加工品に用いられる上記樹脂組成物は、更に、ポリアセタール系樹脂(C)を含有することが好ましい。ポリアセタール系樹脂は、消弧作用の高い熱分解ガスを発生できるものの、溶融混練での成形が困難であることから成形加工性に劣り、また、熱分解ガスの発生量が高く、更には、該熱分解ガスは内圧上昇への寄与が比較的高いものであることから、消弧装置内の内圧が上昇しやすい。上記ポリアセタール系樹脂と上記ポリオレフィン樹脂(A)とを併用することで、樹脂組成物の成形加工性が損なわれることなく消弧性を向上でき、更には、アーク消弧時における消弧装置内の内圧上昇を抑制できる。
【0056】
上記ポリアセタール系樹脂(C)は、オキシメチレンから誘導される繰り返し単位の含有量が75〜100モル%であることが好ましく、80〜100モル%であることがより好ましい。上記繰り返し単位の含有量が75モル%未満であると、消弧性が劣り、アークを速やかに消弧できない。
【0057】
このようなポリアセタール系樹脂としては、オキシメチレン−オキシエチレン共重合体又はオキシメチレン重合体が好ましく、消弧性が優れるという理由から、オキシメチレン−オキシエチレン共重合体又はオキシメチレン重合体が特に好ましい。ただし、ポリオキシエチレンでは消弧性に乏しい。
【0058】
そして、ポリアセタール系樹脂(C)の含有量は、ポリオレフィン樹脂(A)100質量部に対して5〜90質量部であることが好ましく、7〜88質量部がより好ましい。ポリアセタール系樹脂(C)の含有量が上記割合で5質量部未満であると、ポリアセタール系樹脂(C)による効果が乏しく、消弧性をほとんど向上できず、90質量部を超えると、熱分解ガスの発生量が増加し、消弧装置内の内圧が上昇する傾向にある。
【0059】
また、本発明の消弧用樹脂加工品に用いられる上記樹脂組成物は汎用性熱可塑性樹脂などの上記樹脂以外の樹脂を更に含有してもよい。これらの樹脂の含有量は、上記ポリオレフィン樹脂(A)100質量部に対して0〜15質量部が好ましく、0〜12質量部がより好ましい。
【0060】
また、本発明の消弧用樹脂加工品に用いられる上記樹脂組成物は、更に放射線架橋剤を含有することが好ましい。放射線架橋剤を含有することで、放射線照射によって放射線架橋剤と樹脂との結合によって、樹脂が3次元網目構造に架橋できるので、架橋密度が密となり、強度、耐圧性、耐熱性などの物理的特性が向上する。
【0061】
このような放射線架橋剤としては、芳香族環を有せず、かつ水素ガスを発生し易い、メラミン系のトリメタリルアクリレート及びトリアリルアクリレート、イソシアネートトリ(メチル)アクリレートなどの、2官能以上の反応性官能基を有する化合物が挙げられる。具体的には、トリアリルイソシアヌレート、トリメタリルイソシアヌレート及びそれらをラジカルオリゴメリゼーションして得られたオリゴマー、トリメリット酸トリアリル、トリメリット酸トリメタリルエステル、ピロメリット酸テトラアリル、ピロメリット酸テトラメタリルエステル、N,N,N’,N’,N”,N”‐ヘキサアリルメラミン、N,N,N’,N’,N”,N”‐ヘキサメタリルメラミンなどが挙げられる。
【0062】
そして、上記放射線架橋剤は、樹脂組成物中に0.5〜20質量%含有することが好ましく、1〜12質量%がより好ましい。上記放射線架橋剤の含有量が0.5質量%未満であると、樹脂組成物の架橋性をほとんど向上させることができず、20質量%を超えると、放射線架橋剤によるブリードアウトが生じる虞れがある。
【0063】
また、本発明の消弧用樹脂加工品に用いられる上記樹脂組成物は、強化繊維、チタン酸バリウムウィスカー、シリカゲル微粒子、ベーマイト、タルク、炭酸マグネシウム及び金属水酸化物から選ばれた1種以上の無機フィラー(D)を含有することが好ましい。無機フィラーを含有することによって、消弧用樹脂加工品の強度、耐圧性及び耐熱性が向上するとともに、寸法安定性を向上させることができる。
【0064】
例えば、上記強化繊維としては、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維が挙げられ、強度、及び樹脂や無機充填材との密着性の点からガラス繊維を用いることが好ましい。これらの強化繊維は、単独でも、2種以上を併用して用いてもよく、また、シランカップリング剤などの公知の表面処理剤で処理されたものでもよい。また、ガラス繊維は、表面処理されており、更に樹脂で被覆されていることが好ましい。これにより、樹脂との密着性を更に向上することができる。
【0065】
また、上記金属水酸化物としては、粒径が1〜10μmであれば樹脂との分散性の向上が挙げられ、内圧上昇を抑制できるという理由から水酸化アルミニウム、ベーマイトおよび水酸化マグネシウムが好ましい。
【0066】
そして、上記無機フィラー(D)は、樹脂組成物中に1〜70質量%含有することが好ましく、20〜70質量%がより好ましい。無機フィラー(D)の含有量が1質量%未満であると、無機フィラーによる効果がほとんど得られず、70質量%を超えると、熱分解ガスの発生量が低減するので消弧性が劣る。
【0067】
また、本発明の消弧用樹脂加工品に用いられる上記樹脂組成物には、本発明の目的である耐熱性、耐圧性、消弧性、強度などの物性を著しく損わない範囲で、上記以外の常用の各種添加成分、例えば結晶核剤、着色剤、酸化防止剤、離型剤、可塑剤、熱安定剤、滑剤、紫外線防止剤などの添加剤を添加することができる。
【0068】
本発明の消弧用樹脂加工品は、上記樹脂組成物を成形後に、放射線照射することで得られる。
【0069】
樹脂組成物の成形方法は従来公知の方法が用いられ、例えば、樹脂組成物を溶融混練してペレット化した後、従来公知の射出成形、押出成形、真空成形、インフレーション成形などによって成形することができる。溶融混練は、単軸或いは二軸押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、ミキシングロールなどの通常の溶融混練加工機を使用して行うことができる。そして、混練温度は170〜230℃で行うことが好ましい。170℃未満であると溶融混練が困難であり、230℃を越えると樹脂組成物の水酸基が解離して消弧性を低下させるからである。なかでも、本発明においては、上記ポリオレフィン樹脂(A)と上記ポリアセタール系樹脂(C)とを含む樹脂組成物を不活性雰囲気下にて、180〜220℃で溶融混練した後、成形し、40〜60℃に冷却することが好ましい。このようにして成形することで、ポリオレフィン樹脂(A)中にポリアセタール系樹脂(C)が0.1〜0.9μmのサブミクロンオーダーで、海−島(sea−island)状ないしヘキサゴナルシリンダー(hexagonal cylinder)状ないしラメラ(lamellae)状に分散したミクロ相分離構造を有する樹脂成形品が得られる。該ミクロ相分離構造を形成させることで、ポリアセタール系樹脂(C)が熱分解されやすくなり、消弧性の高い熱分解ガスを放出できるので、アークを速やかに消弧できる。なお、この段階では全く架橋は進行していないので、成形時の余分のスプール部は、リサイクルが可能である。
【0070】
そして、こうして得られた樹脂成形品に対し、放射線照射を施すことで、本発明の消弧用樹脂加工品とすることができる。なお、上記ミクロ相分離構造は、放射線照射による架橋反応によって、固定化できる。
【0071】
樹脂成形品に照射する放射線としては、α線、γ線、X線、紫外線などが利用でき、透過性が強く照射を均一にできるという理由からγ線が好ましい。
【0072】
放射線の照射線量は10kGy以上であることが好ましく、10〜45kGyがより好ましい。この範囲であれば、架橋によって上記の物性に優れる消弧用樹脂加工品が得られる。照射線量が10kGy未満であると、架橋による3次元網目構造の形成が不均一となり、未反応の架橋剤がブリードアウトする可能性がある。また、45kGyを超えると、酸化分解生成物による樹脂加工品の内部歪みが残留し、これによって変形や収縮などが発生する可能性がある。
【0073】
このようにして得られた本発明の消弧用樹脂加工品は、強度、耐圧性、耐熱性、消弧性、難燃性に優れ、回路遮断器の消弧装置として好適に用いることができる。
【0074】
次に、本発明の回路遮断器について説明する。
【0075】
本発明の回路遮断器は、固定接点を有する固定接触子と、前記固定接触子と接触する可動接点を有し前記固定接触子に対して開閉動作をする可動接触子と、前記固定接触子と前記可動接触子とが開閉動作する際に発生するアークを消弧する、上記消弧用樹脂加工品からなる消弧装置とを備えたものである。
【0076】
このような、回路遮断器の一例としては、例えば、図1〜3に示すものなどが具体例として挙げられる。図1は、回路遮断器の破断斜視図であり、図2は、消弧装置の斜視図であり、図3は、回路遮断器の断面図である。
【0077】
図1において、電源側端子4が一体形成された固定接触子5の反対側の端部は、可動接触子1に沿うようにU字状に折り返され、この折り返し部5aの先端に可動接触子1の可動接点6と接触する固定接点7が設けられている。また、固定接触子5には可動・固定接点6,7間に発生したアークを消弧装置に向かって導くアークホーン9が取り付けられている。
【0078】
消弧装置は、グリット2と、消弧室13とで構成されている。グリット2は、所定間隔で、絶縁体12に複数枚(図では5枚)積み重ねられており、可動接触子1がグリッド2に形成されたV字状の切欠2aを通して、図1に実線で示した閉成位置と鎖線で示した開離位置との間で開閉運動をするように構成されている。また、可動接触子1とグリッド2との間に、上記本発明の消弧用樹脂加工品で形成された消弧室13が設置されている。
【0079】
図1及び図3において、絶縁体12は、左右の一対の側壁12aと、これらを上部及び下部でそれぞれ互いに連結する連結部12b及び12cとからなり、耐アーク性のメラミン系モールド樹脂により一体成形されている。左右の側壁12aの対向面には断面方形の条溝14が側壁12aの負荷側端面(図3の右側端面)から斜めに上昇するように多段に形成されており、グリッド2は左右の側壁12aに跨がるようにして条溝14に圧入されている。
【0080】
一方、消弧室13は、左右一対の側壁13aと、左右の側壁13aの上端部間をグリッド2の切欠2aに沿って円弧状に結ぶ前壁13bとを備えている。また、消弧室13には、消弧装置と開閉機構との間を仕切る隔壁15と、固定接触子5の上面を覆う絶縁カバー16とが一体形成されている。隔壁15には、可動接触子1の開閉運動経路に沿ってスリット15aが設けられ、絶縁カバー16には固定接点7を露出させる窓穴16aが設けられている。そして、消弧室13は、絶縁体12の内側に、隔壁15が絶縁体側壁12aの端面に接するように図3の右側から組み合わされ、絶縁カバー16を介して固定接触子5上に支持され、回路遮断器の図示しない本体カバーで押さえられて固定される。この状態において、消弧室13の側壁13aは、可動接触子1の両側に位置するグリッド2の両脚部(切欠2aの両側部分)を内側から覆い、また前壁13bは図3に示すように、最上段のグリッド2の切欠2aの奥部に位置する。
【0081】
上記構成において、電流遮断時には可動・固定接点6、7間にはアークが発生し、このアークはグリッド2に引き込まれて消弧されるが、その際、グリッド2の両脚部は消弧室13の側壁13aで内側から覆われ、アークから遮蔽されるので、アークによるこの部分の溶融、飛散が防止されるとともに、アークに近接する側壁13aからは消弧性の高い熱分解ガスが発生し、アークの冷却が促進されて速やかに消弧する。
【実施例】
【0082】
以下、実施例を用いて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0083】
(実施例1)
メチレン基1モルに対して、水酸基を0.58モル含有するポリオレフィン樹脂(商品名;「EVAL-L104B」 クラレ(株)社製)67質量部と、オキシメチレンから誘導される繰り返し単位の含有量が90モル%であるポリオキシメチレン−オキシエチレン共重合体(商品名;「テナック−C 4520」 旭化成(株)社製)25質量部とを溶融混合した後、反応性有機リン系難燃剤として上記式(I−14)の化合物8質量部を添加し、サイドフロー型2軸押出機(日本製鋼社製)を用いて220℃で混練して樹脂ペレットを得た。次いで、この樹脂ペレットを、80℃で、7時間乾燥した後、射出成形機(FUNUC社製:α50C)を用いて樹脂温度215℃、金型温度50℃の条件で成形した。この成形体の断面状態をSEMで観察したところ、ラメラ状態の球晶と均一な海島構造をしたミクロ相分離状態が確認できた。
【0084】
その後、上記成形品に、コバルト60を線源としたγ線を25kGy照射して実施例1の消弧用樹脂加工品を得た。この消弧用樹脂加工品の断面状態をSEMで観察したところ、ラメラ状態の球晶と均一な海島構造をしたミクロ相分離状態が確認できた。
【0085】
(実施例2)
メチレン基1モルに対して、水酸基を0.58モル含有するポリオレフィン樹脂(商品名;「EVAL-L104B」 クラレ(株)社製)50質量部と、オキシメチレンから誘導される繰り返し単位の含有量が90モル%であるポリオキシメチレン−オキシエチレン共重合体(商品名;「テナック−C 4520」 旭化成(株)社製)20質量部とを溶融混合した後、無機フィラーとして、ベーマイト(商品名;「BMT−10」 河合石灰工業(株)10質量部及びシラン処理したガラスファイバー(商品名;「03.JAFT2Ak25」 旭ファイバーグラス社製)15質量部と、反応性有機リン系難燃剤として上記式(II−3)の化合物5質量部を添加し、サイドフロー型2軸押出機(日本製鋼社製)を用いて220℃で混練して樹脂ペレットを得た。次いで、この樹脂ペレットを、80℃で、7時間乾燥した後、射出成形機(FUNUC社製:α50C)を用いて樹脂温度215℃、金型温度50℃の条件で成形した。この成形体の断面状態をSEMで観察したところ、ラメラ状態の球晶と均一な海島構造をしたミクロ相分離状態が確認できた。
【0086】
その後、上記成形品に、コバルト60を線源としたγ線を25kGy照射して実施例2の消弧用樹脂加工品を得た。この消弧用樹脂加工品の断面状態をSEMで観察したところ、ラメラ状態の球晶と均一な海島構造をしたミクロ相分離状態が確認できた。
【0087】
(実施例3)
メチレン基1モルに対して、水酸基を0.58モル含有するポリオレフィン樹脂(商品名;「EVAL-L104B」 クラレ(株)社製)53質量部と、オキシメチレンから誘導される繰り返し単位の含有量が90モル%であるポリオキシメチレン−オキシエチレン共重合体(商品名;「テナック−C 4520」 旭化成(株)社製)20質量部とをN雰囲気下にて、220℃で溶融混合した。次いで、無機フィラーとしてベーマイト(商品名;「BMT−10」 河合石灰工業(株))15質量部と、反応性有機リン系難燃剤として上記式(I−18)の化合物12質量部を添加し、Nガス置換したサイドフロー型2軸押出機(日本製鋼社製)を用いて220℃で混練して樹脂ペレットを得た。そして、この樹脂ペレットを、80℃で、7時間乾燥した後、射出成形機(FUNUC社製:α50C)を用いてN雰囲気下、樹脂温度215℃、金型温度50℃の条件で成形した。この成形体の断面状態をSEMで観察したところ、ラメラ状態の球晶と均一な海島構造をしたミクロ相分離状態が確認できた。
【0088】
その後、上記成形品に、コバルト60を線源としたγ線を25kGy照射して実施例2の消弧用樹脂加工品を得た。この消弧用樹脂加工品の断面状態をSEMで観察したところ、ラメラ状態の球晶と均一な海島構造をしたミクロ相分離状態が確認できた
(比較例1)
実施例1において、反応性有機リン系難燃剤を配合しなかった以外は、実施例1と同様の条件で混練して樹脂ペレットを得た。そして、得られた樹脂ペレットを、80℃で、7時間乾燥した後、射出成形機(FUNUC社製:α50C)を用いて樹脂温度215℃、金型温度50℃の条件で成形して、比較例1の消弧用樹脂加工品を得た。
【0089】
(比較例2)
実施例2において、反応性有機リン系難燃剤を配合しなかった以外は、実施例2と同様の条件で混練して樹脂ペレットを得た。そして、得られた樹脂ペレットを、80℃で、7時間乾燥した後、射出成形機(FUNUC社製:α50C)を用いて樹脂温度215℃、金型温度50℃の条件で成形して、比較例2の消弧用樹脂加工品を得た。
【0090】
(比較例3)
実施例2において、反応性有機リン系難燃剤の代わりに、反応性を有しない添加型の有機リン系難燃剤(商品名;「HCA‐HQ」 三光化学社製)を用いた以外は実施例2と同様にして比較例3の消弧用樹脂加工品を得た。
【0091】
(比較例4)
実施例2において、反応性有機リン系難燃剤の代わりに、臭素系難燃剤(商品名;「Great Lakes pdbs−80」 グレートレークス製)を用いた以外は実施例2と同様にして比較例4の消弧用樹脂加工品を得た。
【0092】
(比較例5)
実施例2において、メチレン基1モルに対して、水酸基を0.58モル含有するポリオレフィン樹脂(商品名;「EVAL-l104B」 クラレ(株)社製)の代わりに、ポリエチレン樹脂(商品名;「HJ362」 日本ポリエチレン(株)社製)を用いた以外は実施例2と同様にして比較例5の消弧用樹脂加工品を得た。
【0093】
(比較例6)
不飽和ポリエステル樹脂(商品名;「7527」 ユピカ(株)社製)25質量部と、Al(OH)35質量部と、スチレン−酢ビ共重合体5質量部と、重合開始剤としてt−ブチルパーオキサイド−Z0.3質量部と、粘度調整剤4.7質量部とをニーダーで混練しながら、無機フィラーとしてシラン処理したガラスファイバー(商品名;「03.JAFT2Ak25」 旭ファイバーグラス社製)35質量部を添加分散し、バルクモールドコンパンドを得た。このバルクモールドコンパンドを成形し、140〜150℃にて重合反応させて、比較例6の消弧用樹脂加工品を得た。
【0094】
(比較例7)
ナイロン6樹脂(商品名;「UBEナイロン1015B」 宇部興産(株)社製)99.8質量部と酸化防止剤(チバガイギー社製:イルガノイルガノックス1010)0.2質量部とを混練して樹脂ペレットを得た。そして、得られた樹脂ペレットを、105℃で、4時間乾燥した後、射出成形機(FUNUC社製:α50C)を用いて樹脂温度260℃、金型温度85℃の条件で成形して、比較例7の消弧用樹脂加工品を得た。
【0095】
実施例1〜3、比較例1〜7の消弧用樹脂加工品の成形加工性を評価した。また、この消弧用樹脂加工品を、図1の回路遮断器の消弧室13として用い、短絡試験、耐熱性試験、難燃性試験を行った。
【0096】
短絡試験は、開成状態において、3相440V/50kAの条件で通電して可動接触子を開離させてアーク電流を発生させ、このアーク電流の遮断性(消弧性)と消弧装置の破損の有無(内圧性)、表面状態(耐熱性)を確認した。
【0097】
遮断性は、短絡電流が遮断されることで合格とした。
【0098】
成形加工性は、成形時に発泡、鼻タレなどの問題の有無を目視で評価し、目視で確認できなければ合格とした。
【0099】
難燃性は、UL−94試験に準拠した試験片(長さ5インチ、幅1/2インチ、厚さ3.2mm)を作製し、試験片を垂直に取りつけ、ブンゼンバーナーで10秒間接炎後の燃焼時間を記録した。更に、消火後2回目の10秒間接炎し再び接炎後の燃焼時間を記録し、燃焼時間の合計と2回目消火後の赤熱燃焼(グローイング)時間と綿を発火させる滴下物の有無により、UL−94試験に準拠して判定した。
【0100】
金属汚染性は、120℃環境下に300時間放置した後の接触抵抗を測定し、接触抵抗値が50mΩ以下であれば合格とした。
【0101】
上記試験結果を、表1にまとめて記す。
【0102】
【表1】

【0103】
上記結果より、実施例1〜3の消弧用樹脂加工品は、難燃性、耐熱性及び成形加工性に優れ、またこの消弧用樹脂加工品からなる消弧装置を用いた回路遮断機は、電流遮断時に接点から発生するアークを効率よく消弧でき、また、消弧時において消弧室の破損が見られなかった。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】本発明の回路遮断器の破断斜視図を示す一例である。
【図2】同回路遮断器に用いる消弧室の斜視図である。
【図3】同回路遮断器に用いる同消弧装置の断面図である。
【符号の説明】
【0105】
1:可動接触子
2:グリット
4:電源側端子
5:固定接触子
6:可動接点
7:固定接点
9:アークホーン
12:絶縁体
13:消弧室
14:条溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メチレン鎖の水素原子の一部が水酸基で置換され、メチレン基1モルに対して、水酸基を0.2〜0.7モル含有するポリオレフィン樹脂(A)と、末端不飽和結合を有する反応性有機リン系難燃剤(B)とを含む樹脂組成物を、成形後に放射線架橋を施したことを特徴とする消弧用樹脂加工品。
【請求項2】
前記樹脂組成物が、オキシメチレンから誘導される繰り返し単位の含有量が75〜100モル%であるポリアセタール系樹脂(C)を、前記ポリオレフィン樹脂(A)100質量部に対して5〜90質量部含有する、請求項1に記載の消弧用樹脂加工品。
【請求項3】
前記樹脂組成物が、ガラスファイバー、チタン酸バリウムウィスカー、シリカゲル微粒子、ベーマイト、タルク、炭酸マグネシウム及び金属水酸化物から選ばれた1種以上の無機フィラー(D)を、1〜70質量%含有する、請求項1又は2に記載の消弧用樹脂加工品。
【請求項4】
前記ポリオレフィン樹脂(A)の分解潜熱が30cal/g以上である、請求項1〜3のいずれか一つに記載の消弧用樹脂加工品。
【請求項5】
前記ポリオレフィン樹脂(A)が、エチレン−ビニルアルコール共重合体である、請求項1〜4のいずれか一つに記載の消弧用樹脂加工品。
【請求項6】
前記反応性有機リン系難燃剤(B)が、下記式(I)及び/又は下式(II)に示される有機リン化合物であり、前記樹脂組成物中に0.5〜20質量%含有される、請求項1〜5のいずれか一つに記載の消弧用樹脂加工品。
【化1】


(式(I)中、R〜RはそれぞれCH=CY−Y−、又はヘテロ原子を含んでもよい一官能性の芳香族炭化水素系基を表し、Rはヘテロ原子を含んでもよい二官能性の芳香族炭化水素系基を表す。X〜Xはそれぞれ−O−、−NH−、−(CH=CY−Y)N−より選択される基を表し、X〜Xの少なくとも1つは−NH−、又は−(CH=CY−Y)N−を含む。R〜R及びX〜X4の少なくとも1つはCH=CY−Y−を含む。Yは水素又はメチル基を表し、Yは炭素数1〜5のアルキレン基、又は−COO−Y−を表す。ここで、Yは炭素数1〜5のアルキレン基を表す。)
【化2】


(式(II)中、1分子中に少なくとも1つのP−C結合を含み、Ar1とArは、それぞれ炭素数20以下の易動性水素を含まない二官能性の芳香族炭化水素系基を表し、nは0〜2の整数である。R〜R10はそれぞれ、−NHCHCH=CH、−N(CHCH=CH)、−OCHCH=CH、−CHCH=CH、−CHCHOCH=CH、−(C)−CH=CH、−O(C)−CH=CH、−CH(C)−CH=CH、−NH(C)−CH=CH、−N(CHCH=CH)−(C)−CH=CH、−O−R−OOC−C(R’)=CH、−NH−R−NHCO−C(R’)=CH、炭素数12以下のアリール基より選択される基を表す。ここで、Rは炭素数2〜5のアルキレン基、R’は水素またはメチル基を表す。R〜R10の少なくとも1つは−CH=CH基又は−C(CH)=CH基を含む。)
【請求項7】
前記ポリアセタール系樹脂(C)が、オキシメチレン−オキシエチレン共重合体又はオキシメチレン重合体である、請求項2〜6のいずれか一つに記載の消弧用樹脂加工品。
【請求項8】
前記ポリオレフィン樹脂(A)中に前記ポリアセタール系樹脂(C)が分散し、ミクロ相分離構造を形成している、請求項2〜7のいずれか一つに記載の消弧用樹脂加工品。
【請求項9】
固定接点を有する固定接触子と、前記固定接触子と接触する可動接点を有し前記固定接触子に対して開閉動作をする可動接触子と、前記固定接触子と前記可動接触子とが開閉動作する際に発生するアークを消弧する消弧装置とを備えた回路遮断器において、
前記消弧装置が、請求項1〜8のいずれか一つに記載の消弧用樹脂加工品からなることを特徴とする回路遮断器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2008−130375(P2008−130375A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−314499(P2006−314499)
【出願日】平成18年11月21日(2006.11.21)
【出願人】(000005234)富士電機ホールディングス株式会社 (3,146)
【出願人】(504132881)国立大学法人東京農工大学 (595)
【Fターム(参考)】