説明

消泡剤、並びに、それを用いた紙の製造方法及び排水の浄化方法

【課題】 低濃度でも優れた抑泡効果及び消泡効果を奏する消泡剤、並びに、それを用いた紙の製造方法及び排水の浄化方法を提供すること。
【解決手段】 下記一般式(1):
【化1】


[式(1)中、Rは、同一でも異なっていてもよく、それぞれジカルボン酸類からカルボキシ基を除いた残基を示し、Rは、ポリオール系化合物から2つのヒドロキシ基を除いた残基を示し、R及びRは、同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子、炭素数7〜36の高級アルコールからヒドロキシ基を除いた残基、及び炭素数7〜36の高級アルコールの炭素数2〜4のアルキレンオキシド付加物からヒドロキシ基を除いた残基からなる群より選択されるいずれか1つを示し、ただしR及びRが共に水素原子であることはなく、nは1以上の整数を示し、nが2以上の場合には前記R及び前記Rはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。]
で表されるオリゴエステル化合物を含有することを特徴とする消泡剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消泡剤、並びに、それを用いた紙の製造方法及び排水の浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
消泡剤は、製紙工業、繊維工業、醗酵工業、塗料工業、合成樹脂工業、合成ゴム工業等における製品の製造工程で生じる泡や、下水、し尿、工場廃液等の排水に生じる泡の抑泡及び消泡を目的として用いられており、このような消泡剤の消泡成分としては、シリコーン、鉱物油、ワックス類、高級アルコール類等が従来から用いられている。しかしながら、これらの消泡成分は水に不溶であるため、前記消泡成分そのものが、製紙工業におけるワイヤーや毛布の汚れ及び紙製品のスポット斑、繊維工業における繊維製品の染色斑、塗料工業における塗工面のオイルスポット等の不具合の原因となるといった問題を有していた。また、これらの水に不溶な消泡成分は、溶剤や乳化剤を用いて水中で安定化させることにより、前述のような問題を解決することが可能となる傾向にあるが、これらの消泡成分を安定化させてしまうと、その抑泡効果及び消泡効果を著しく低下させてしまうという問題を有していた。
【0003】
そこで、水中において安定な消泡成分として、ポリオキシアルキレン誘導体が用いられている。このようなポリオキシアルキレン誘導体としては、ポリプロピレングリコールやポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール等のポリオキシアルキレングリコール、ポリオキシエチレンステアリルエーテル等のポリオキシアルキレンアルキルエーテル、これらを高級脂肪酸でエステル化したポリオキシアルキレングリコール脂肪酸エステルやポリオキシアルキレンアルキルエーテル脂肪酸エステル等が挙げられ、例えば、特許文献1〜3においてはポリオキシアルキレン鎖を有する化合物からなる消泡剤が開示されている。しかしながら、これらのポリオキシアルキレン誘導体を消泡成分として用いた消泡剤は、水中において安定であるために抑泡効果及び消泡効果が未だ不十分であった。そのため、このような効果の不足を補うために消泡剤を高濃度に保つ必要があり、その結果、例えば、製紙工業においてはワイヤーや毛布に汚れが生じるといった問題を有していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−189712号公報
【特許文献2】特開2000−199190号公報
【特許文献3】特開2002−263404号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、低濃度でも優れた抑泡効果及び消泡効果を奏する消泡剤、並びに、それを用いた紙の製造方法及び排水の浄化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、特定の構造を有するオリゴエステル化合物が優れた抑泡効果及び消泡効果を有することを見出し、この知見に基づき本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明の消泡剤は、下記一般式(1):
【0008】
【化1】

【0009】
[式(1)中、Rは、同一でも異なっていてもよく、それぞれジカルボン酸類からカルボキシ基を除いた残基を示し、Rは、ポリオール系化合物から2つのヒドロキシ基を除いた残基を示し、R及びRは、同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子、炭素数7〜36の高級アルコールからヒドロキシ基を除いた残基、及び炭素数7〜36の高級アルコールの炭素数2〜4のアルキレンオキシド付加物からヒドロキシ基を除いた残基からなる群より選択されるいずれか1つを示し、ただしR及びRが共に水素原子であることはなく、nは1以上の整数を示し、nが2以上の場合には前記R及び前記Rはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。]
で表されるオリゴエステル化合物を含有することを特徴とするものである。
【0010】
前記オリゴエステル化合物が、ポリオール系化合物と、前記ポリオール系化合物に対して過剰のモル数のジカルボン酸類と、炭素数7〜36の高級アルコール及び/又は炭素数7〜36の高級アルコールの炭素数2〜4のアルキレンオキシド付加物との反応により得られたものであることが好ましい。
【0011】
また、前記ポリオール系化合物が、(i)炭素数1〜8のアルキレンジオール、(ii)炭素数2〜8のアルケニレンジオール、(iii)3価以上であり、1級炭素に結合したヒドロキシ基を2つ有しており、炭素数が3〜15であるポリオール、(iv)脂肪酸と炭素数が3〜15であるポリオールとの脂肪酸エステル化合物であり、3価以上であり、1級炭素に結合したヒドロキシ基を2つ有するポリオール、(v)ヒドロキシ基を2つ有するアミン系化合物、(vi)前記(i)〜(v)に記載のポリオール系化合物からなる群より選択されるいずれか一つに炭素数2〜4のアルキレンオキシドが付加したアルキレンオキシド付加物、及び(vii)ジカルボン酸類に炭素数2〜4のアルキレンオキシドが付加したアルキレンオキシド付加物、からなる群より選択されるいずれか一つのポリオール系化合物であることがより好ましい。さらに、前記ジカルボン酸が、脂肪族ジカルボン酸及び/又は脂肪族ジカルボン酸の誘導体であることことがさらに好ましく、前記消泡剤としては、乳化剤をさらに含有することが特に好ましい。
【0012】
本発明の紙の製造方法及び本発明の排水の処理方法は、前記本発明の消泡剤を用いることを特徴とするものである。
【0013】
なお、本発明の消泡剤が低濃度でも優れた抑泡効果及び消泡効果を奏する理由は必ずしも定かではないが、本発明者は以下のように推察する。すなわち、本発明の消泡剤に含有されるオリゴエステル化合物は、少なくとも3個の親水性のエステル基を有するため、簡単な機械的処理で水中に乳化せしめることができ、撹拌することで乳化状態を維持することができる。従って、低濃度でも十分な抑泡効果及び消泡効果を達成することができ、さらに、このような抑泡効果及び消泡効果を持続することができるという優れた効果を有すると本発明者は推察する。
【0014】
また、本発明に係るオリゴエステル化合物はポリオキシアルキレン鎖を導入することによって、より乳化状態が安定な自己乳化性オリゴエステル化合物とすることができ、さらに、ポリオキシアルキレン鎖におけるアルキレンオキシドの付加モル数を調整することによって、得られたオリゴエステル化合物を含有する消泡剤を紙の製造に用いても、紙のサイズ度の低下を少なく抑えることができる。このような自己乳化性で、且つ、紙のサイズ度の低下を抑えられるオリゴエステル化合物においては、親水性基の繰り返しによって分子全体に占める親水性基の割合が高くなるものの、それぞれの親水性基同士は疎水性基で分断されているため、自己乳化性が良好であるにも係わらず、優れた抑泡効果及び消泡効果を有し、且つ、サイズ度低下が少ない消泡剤成分となると本発明者は推察する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、低濃度でも優れた抑泡効果及び消泡効果を奏する消泡剤、並びに、それを用いた紙の製造方法及び排水の浄化方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例における抑泡効果及び消泡効果試験で用いた消泡試験器の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0018】
先ず、本発明の消泡剤について説明する。本発明の消泡剤は、下記一般式(1):
【0019】
【化2】

【0020】
[式(1)中、Rは、同一でも異なっていてもよく、それぞれジカルボン酸類からカルボキシ基を除いた残基を示し、Rは、ポリオール系化合物から2つのヒドロキシ基を除いた残基を示し、R及びRは、同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子、炭素数7〜36の高級アルコールからヒドロキシ基を除いた残基、及び炭素数7〜36の高級アルコールの炭素数2〜4のアルキレンオキシド付加物からヒドロキシ基を除いた残基からなる群より選択されるいずれか1つを示し、ただしR及びRが共に水素原子であることはなく、nは1以上の整数を示し、nが2以上の場合には前記R及び前記Rはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。]
で表されるオリゴエステル化合物を含有することを特徴とするものである。
【0021】
(オリゴエステル化合物)
本発明にかかるオリゴエステル化合物は、本発明の消泡剤において、消泡成分として用いられる。前記オリゴエステル化合物は、前記一般式(1)に示すとおり、2つのエステル結合を有し、下記一般式(2):
−R−CO−O−R−O−CO− ・・・(2)
[式(2)中、R及びRは前記式(1)中のR及びRとそれぞれ同義である。]
で表わされるエステル部分を備えており、下記一般式(3):
HOOC−(R−CO−O−R−O−CO)−R−COOH ・・・(3)
[式(3)中、R、R及びnは前記式(1)中のR、R及びnとそれぞれ同義である。]
で表わされる2つの末端カルボキシ基を有するオリゴエステルの少なくとも一方のカルボキシ基が、炭素数7〜36の高級アルコール又は炭素数7〜36の高級アルコールの炭素数2〜4のアルキレンオキシド付加物でエステル化された構造である。前記一般式(3)で表わされるオリゴエステルは、2n個のエステル基と2個の末端カルボキシ基を有し、前記カルボキシ基の一方を前記7〜36の高級アルコール及び/又は炭素数7〜36の高級アルコールの炭素数2〜4のアルキレンオキシド付加物でエステル化した前記一般式(1)で表わされるオリゴエステル化合物は1分子当たり2n+1個の親水性のエステル基を有するものである。このように本発明に係るオリゴエステル化合物は少なくとも3個の親水性のエステル基を有するため、簡単な機械的処理で水中に乳化せしめることができ、撹拌することで乳化状態を維持することができる。また、このような本発明に係るオリゴエステル化合物は、シリコーン、鉱物油、ワックス類、高級アルコール等の水に不溶性の消泡剤成分を乳化させるために要する量に比べて、少量の界面活性剤で安定な乳化状態を得ることができる。
【0022】
前記一般式(1)において、前記エステル部分の繰り返し数nは特に制限されないが、1〜10であることが好ましく、2〜6であることがより好ましく、2〜3であることがさらに好ましい。nの値が前記下限未満であると得られるオリゴエステル化合物の消泡効果が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると得られるオリゴエステル化合物の融点及び粘度が高くなるために取り扱いが困難になる傾向にあり、また、消泡効果が低下する傾向にある。
【0023】
(ジカルボン酸類)
前記一般式(1)で表わされる本発明のオリゴエステル化合物において、Rは、ジカルボン酸類からカルボキシ基を除いた残基を示す。前記ジカルボン酸類とは、本発明において、ジカルボン酸及びジカルボン酸の誘導体をいう。本発明においては、前記ジカルボン酸類における2つのカルボキシ基が前記ポリオール系化合物、炭素数7〜36の高級アルコール、及び炭素数7〜36の高級アルコールの炭素数2〜4のアルキレンオキシド付加物におけるヒドロキシ基と重縮合反応することにより前記一般式(1)におけるそれぞれのエステル結合となる。なお、前記カルボキシ基としては、前記カルボン酸の誘導体において前記カルボキシ基に相当する基、すなわち、カルボキシ基の水素原子が他の原子や置換基に置換された基を含む。
【0024】
前記ジカルボン酸としては、分子中に2つ以上のカルボキシ基を有する化合物であればよく、脂肪族ジカルボン酸、脂環式ジカルボン酸、芳香族ジカルボン酸等が挙げられ、前記ジカルボン酸の誘導体としては、前記ジカルボン酸の反応性誘導体であるジカルボン酸無水物、ジカルボン酸フッ化物、ジカルボン酸塩化物、ジカルボン酸臭化物、ジカルボン酸ヨウ化物等のハロゲン化物、ジカルボン酸とアルコールやフェノールとのエステル等が挙げられる。このようなジカルボン酸の誘導体の中でも、得られるオリゴエステル化合物の粘度が低く、取り扱いが容易になるという観点及び優れた消泡効果が得られるという観点から、ジカルボン酸無水物、ジカルボン酸塩化物、ジカルボン酸と炭素数2以下の低級アルコールとのエステルが好ましい。また、前記ジカルボン酸類の中でも、得られるオリゴエステル化合物の消泡性がより向上し、また、融点が低く取り扱い易いという観点から、脂肪族ジカルボン酸及び脂肪族ジカルボン酸の誘導体を用いることが好ましい。
【0025】
前記脂肪族ジカルボン酸及びその誘導体としては、特に制限されず、公知の脂肪族ジカルボン酸及びその誘導体を用いることができるが、得られるオリゴエステル化合物において優れた消泡効果が得られるという観点から、カルボキシ基の炭素を含む炭素数が3〜28の脂肪族ジカルボン酸及びその誘導体、高級脂肪酸系ダイマー酸及びその誘導体を用いることが好ましい。前記炭素数3〜28の脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデセニル基等のアルケニル基が付加したアルケニルコハク酸が挙げられる。また、このような炭素数3〜28の脂肪族ジカルボン酸としては、2級炭素及び/又は3級炭素にヒドロキシ基が付加したリンゴ酸、酒石酸、クエン酸等を用いてもよい。これらの中でも、得られるオリゴエステル化合物の水への乳化操作が容易で、消泡効果がより優れるという観点から、コハク酸、イタコン酸、マレイン酸、アジピン酸を用いることがより好ましい。前記高級脂肪酸系ダイマー酸としては、特に制限されず、例えば、炭素数36のダイマー酸が挙げられる。
【0026】
前記脂環式ジカルボン酸及び前記芳香族ジカルボン酸、並びにこれらの誘導体としては、特に制限されず、それぞれ公知ものを用いることができるが、入手が容易であるという観点及び得られるオリゴエステル化合物において優れた消泡効果が得られるという観点から、前記脂環式ジカルボン酸及びその誘導体としては、シクロブタンジカルボン酸、シクロプロパンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、及びこれらの誘導体を用いることが好ましく、前記芳香族ジカルボン酸及びその誘導体としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、及びこれらの誘導体を用いることが好ましい。
【0027】
前記ジカルボン酸類としては、2級炭素及び/又は3級炭素にヒドロキシ基を有するものであってもよく、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
(ポリオール系化合物)
前記一般式(1)で表わされる本発明のオリゴエステル化合物において、Rは、ポリオール系化合物から2つのヒドロキシ基を除いた残基を示す。前記ポリオール系化合物としては、分子中に2つ以上のヒドロキシ基を有する化合物であればよく、分子中に窒素原子やエーテル結合、エステル結合等を有していてもよい。前記ポリオール系化合物におけるヒドロキシ基のうちの2つのヒドロキシ基が、前記ジカルボン酸類におけるカルボキシ基と反応することにより、前記一般式(1)におけるエステル結合となる。
【0029】
このようなポリオール系化合物の中でも、得られるオリゴエステル化合物の構造の制御が容易であるという観点から、(i)炭素数1〜8のアルキレンジオール、(ii)炭素数2〜8のアルケニレンジオール、(iii)3価以上であり、1級炭素に結合したヒドロキシ基を2つ有しており、炭素数が3〜15であるポリオール、(iv)脂肪酸と炭素数が3〜15であるポリオールとの脂肪酸エステル化合物であり、3価以上であり、1級炭素に結合したヒドロキシ基を2つ有するポリオール、(v)ヒドロキシ基を2つ有するアミン系化合物、(vi)前記(i)〜(v)に記載のポリオール系化合物からなる群より選択されるいずれか一つに炭素数2〜4のアルキレンオキシドが付加したアルキレンオキシド付加物、及び(vii)ジカルボン酸類に炭素数2〜4のアルキレンオキシドが付加したアルキレンオキシド付加物、からなる群より選択されるいずれか一つのポリオール系化合物であることが好ましい。
【0030】
前記(i)炭素数1〜8のアルキレンジオール、(ii)炭素数2〜8のアルケニレンジオールとしては、炭素数が8以下であることが好ましい。炭素数が前記上限を超えると得られるオリゴエステル化合物の融点及び粘度が高くなるために取り扱いが困難になる傾向にあり、また、消泡効果が低下する傾向にある。これらのジオールとしては、メチレングリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、ペンチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ヘキシレングリコール、ヘキサメチレングリコール、1,2−ジヒドロキシ−3−ブテン、1,4−ジヒドロキシ−2−ブテン、2−メチル−1,3−プロパンジオール、ブテン−1,4−ジオール、1,5−ジヒドロキシ−3−メチルペンテン、5−ヘキシル−1,2−ジオール、1,5−ペンタンジオール−3−メチレン、1−オクテン−7,8−ジオール、2,5−ジメチル−3−ヘキセン−2,5−ジオール等のグリコール系化合物が挙げられる。これらの中でも原料の入手が容易であるという観点、得られるオリゴエステル化合物の消泡効果が向上するという観点、及び得られるオリゴエステル化合物の乳化性を調整することが容易であるという観点から、ジエチレングリコール、エチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ヘキサメチレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコールが好ましく、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールがより好ましい。
【0031】
前記(iii)3価以上であり、1級炭素に結合したヒドロキシ基(1級ヒドロキシ基)を2つ有しており、炭素数が3〜15であるポリオールにおいては、1級炭素に結合した2つのヒドロキシ基に比べて他の2級炭素や3級炭素に結合したヒドロキシ基の反応性が低いため、前記1級炭素に結合した2つのヒドロキシ基が優先的に前記ジカルボン酸類におけるカルボキシ基と反応する。従って、前記(i)及び(ii)に記載のジオールと同様に得られるオリゴエステル化合物の構造の制御が容易となる傾向にある。また、これらのポリオールを用いることにより、得られるオリゴエステル化合物の流動性が向上し、取り扱いが容易になる傾向がある。このようなポリオールの炭素数としては、3〜15であることが好ましい。前記炭素数が前記上限を超えると得られるオリゴエステル化合物の融点及び粘度が高くなるために取り扱いが困難になる傾向にある。このような(iii)3価以上であり、1級炭素に結合したヒドロキシ基を2つ有しており、炭素数が3〜15であるポリオールとしては、グリセリン、ジグリセリン、ソルビット、スクロース等が挙げられる。
【0032】
前記(iv)脂肪酸と炭素数が3〜15であるポリオールとの脂肪酸エステル化合物であり、3価以上であり、1級炭素に結合したヒドロキシ基(1級ヒドロキシ基)を2つ有するポリオールにおいては、前記(iii)におけるポリオールと同様に、1級炭素に結合した2つのヒドロキシ基が他の2級炭素や3級炭素に結合したヒドロキシ基に比べて優先的に前記ジカルボン酸類におけるカルボキシ基と反応するため、得られるオリゴエステル化合物の構造の制御が容易となる傾向にあり、得られるオリゴエステル化合物の流動性が向上し、取り扱いが容易になる傾向にある。
【0033】
前記(iv)におけるポリオールとしては、例えば、3価以上であり、1級炭素に結合したヒドロキシ基(1級ヒドロキシ基)を2つ以上有するポリオールにおいて、余分な1級ヒドロキシ基を脂肪酸類によってエステル化することにより得ることができる。このようなエステル化によって1級ヒドロキシ基の数を調整することができるため、1級ヒドロキシ基を2つ以上有するポリオールであっても本発明のポリオール系化合物として用いることができるようになる。前記3価以上であり、1級炭素に結合したヒドロキシ基を2つ以上有するポリオールとしては、前述の(iii)に記載のポリオールと同様の観点から、炭素数が3〜15であることが好ましく、このようなポリオールとしては、例えば、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン等が挙げられる。前記脂肪酸類としては、得られるオリゴエステル化合物において優れた消泡効果が得られるという観点から、炭素数8〜36の脂肪酸及びその誘導体を用いることが好ましい。
【0034】
前記(v)ヒドロキシ基を2つ有するアミン系化合物としては、アンモニアの水素原子を炭化水素基で1つ以上置換した化合物であって、ヒドロキシ基を2つ有するものであればよく、前記炭化水素基の数、炭素数、種類、及び、前記ヒドロキシ基の位置に特に制限されずに用いることができる。これらの中でも、得られるオリゴエステル化合物の親水性が向上する傾向にあり、また、得られるオリゴエステル化合物が酸による中和でイオン性を帯びるため、水中での乳化状態を安定化させることが可能となる傾向にあるという観点から、脂肪族系1級アミンの窒素に2つのヒドロキシアルキル基が付加したアルキルジアルカノールアミンを用いることが好ましい。
【0035】
前記脂肪族系1級アミンの脂肪酸残基としては、炭素数が1〜36のアルキル基又は炭素数が2〜36のアルケニル基であることが好ましい。このような脂肪族系1級アミンとしては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、カプリルアミン、デシルアミン、ラウリルアミン、ミリスチルアミン、セチルアミン、ステアリルアミン、ベヘニルアミン等の1級アルキルアミン;ヤシアルキルアミン、牛脂アルキルアミン、硬化牛脂アルキルアミン等の混合1級アルキルアミン;アリルアミン、オレイルアミン等の1級アルケニルアミン;ラウロイルアミノエチルアミン、ミリストイルアミノエチルアミン、パルミトイルアミノエチルアミン、ステアロイルアミノエチルアミン、ラウロイルアミノプロピルアミン、ミリストイルアミノプロピルアミン、パルミトイルアミノプロピルアミン、ステアロイルアミノプロビルアミン等の1級アシルアミノアルキルアミン等を挙げることができる。
【0036】
また、前記1級アミンの窒素に結合する2つのヒドロキシアルキル基としては、同一であっても、互いに異なっていても良い。このようなヒドロキシアルキル基としては、入手が容易であり、また、得られるオリゴエステル化合物において乳化性と消泡効果の調整がより容易であるという観点から、炭素数2〜4のヒドロキシアルキル基であることが好ましい。なお、前記中和に用いる酸としては、特に制限なく用いることができ、例えば、塩酸、硫酸、リン酸、ギ酸、酢酸、クエン酸、シュウ酸、グリコール酸、スルファミン酸、アミノ酸類、パラトルエンスルホン酸、脂肪酸等を用いることができる。これらの中でも、得られるオリゴエステル化合物において優れた消泡効果が得られるという観点から、ギ酸、クエン酸、酢酸、シュウ酸、グリコール酸等の有機酸を好ましく用いることができる。
【0037】
前記(vi)前記(i)〜(v)に記載のポリオール系化合物からなる群より選択されるいずれか一つに炭素数2〜4のアルキレンオキシドが付加したアルキレンオキシド付加物とは、前記(i)、(ii)、(v)におけるそれぞれ2つのヒドロキシ基、及び、前記(iii)、(iv)におけるそれぞれ1級炭素に結合した2つのヒドロキシ基のうち、それぞれ少なくとも1つのヒドロキシ基に炭素数2〜4のアルキレンオキシドが付加されたポリオキシアルキレン鎖を有する化合物である。このような化合物は、付加されたポリオキシアルキレン鎖の末端のヒドロキシ基が、前記ジカルボン酸類におけるカルボキシ基と反応することにより、前記一般式(1)におけるエステル結合となる。このようなアルキレンオキシド付加物においては、アルキレンオキシドの種類及び付加モル数等を適宣調整することによって、得られるオリゴエステル化合物の乳化状態や消泡性を調整することが可能となる。
【0038】
前記アルキレンオキシドの炭素数は2〜4であることが好ましい。炭素数が前記上限を超えると、得られるオリゴエステル化合物の消泡効果及び水への乳化性が低下する傾向にあり、また、融点及び粘度が高くなるために取り扱いが困難になる傾向にある。このような炭素数2〜4のアルキレンオキシドとしては、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、トリメチレンオキシド、エチルエチレンオキシド、テトラメチレンオキシド等が挙げられる。前記(i)〜(v)に記載のポリオール系化合物に2種以上の前記アルキレンオキシドを付加する場合、アルキレンオキシドは同一でも異なっていてもよく、その付加形態はブロックであっても、ランダムであってもよい。また、本発明の効果を損なわない範囲において、炭素数5以上のアルキレンオキシド又はスチレンオキシド等、他のオキシラン環を有する化合物を前記炭素数2〜4のアルキレンオキシドと共に付加してもよい。
【0039】
前記アルキレンオキシドの付加モル数としては、前記アルキレンオキシドの炭素数が2である場合には、前記(i)〜(v)に記載のポリオール系化合物(炭素数2〜4のオキシアルキレン基からなるポリアルキレングリコールを除く)のヒドロキシ基1モルに対する平均付加モル数で1〜15モルであることが好ましい。前記アルキレンオキシドを付加してポリオキシエチレン鎖を導入することにより、得られるオリゴエステル化合物の消泡効果が向上する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、水に対する溶解力が強まり、消泡効果が低下する傾向にある。また、自己乳化性のオリゴエステル化合物が得られる傾向にあるという観点から、前記平均付加モル数は4〜15であることがより好ましい。また、このようなアルキレンオキシド付加物の一種としては、ポリエチレングリコールが挙げられるが、前記ポリエチレングリコールを用いる場合には、このような観点から、オキシエチレン基数が15以下であることが好ましい。
【0040】
また、前記アルキレンオキシドの炭素数が3である場合には、前記(i)〜(v)に記載のポリオール系化合物(炭素数2〜4のオキシアルキレン基からなるポリアルキレングリコールを除く)のヒドロキシ基1モルに対する平均付加モル数は、1〜70モルであることが好ましく、前記アルキレンオキシドの炭素数が4である場合には、1〜10モルであることが好ましい。前記アルキレンオキシドを付加してポリオキシエチレン鎖を導入することにより、得られるオリゴエステル化合物の親水性が強まる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、得られるオリゴエステル化合物の粘度が高くなり、取り扱いが困難になる傾向にある。また、このようなアルキレンオキシド付加物の一種としては、ポリプロピレングリコール及びポリブチレングリコールが挙げられるが、前記ポリプロピレングリコールを用いる場合には、得られるオリゴエステル化合物の親水性が得られ、乳化操作が容易になるという観点から、オキシプロピレン基数が70以下であることが好ましく、前記ポリブチレングリコールを用いる場合には、同様の観点から、オキシブチレン基数が10以下であることが好ましい。
【0041】
前記アルキレンオキシドを2種以上付加する場合には、前記(i)〜(v)に記載のポリオール系化合物のヒドロキシ基1モルに対する平均付加モル数は、ヒドロキシ基1モル当たりの平均総付加モル数で、2〜90モルであることが好ましく、2〜70であることがより好ましく、2〜50モルであることがさらに好ましい。前記平均総付加モル数が前記上限を超えると、得られるオリゴエステル化合物の融点及び粘度が高くなり取り扱いが困難となる傾向にある。また、このようなアルキレンオキシド付加物の一種としては、ポリアルキレングリコールが挙げられるが、前記ポリアルキレングリコールを用いる場合には、得られるオリゴエステル化合物の取り扱いが容易であるという観点から、オキシアルキレン基数が90モル以下であることが好ましく、70モル以下であることがより好ましく、50モル以下であることがさらに好ましい。
【0042】
前記(vii)ジカルボン酸類に炭素数2〜4のアルキレンオキシドが付加したアルキレンオキシド付加物とは、ジカルボン酸類の2つのカルボキシ基にそれぞれ炭素数2〜4のアルキレンオキシドが付加されたポリアルキレン基を有する化合物である。このような化合物は、付加されたポリオキシアルキレン鎖の末端のヒドロキシ基が、前述の本発明に係るジカルボン酸類におけるカルボキシ基と反応することにより、前記一般式(1)におけるエステル結合となる。このようなアルキレンオキシド付加物においては、アルキレンオキシドの種類及び付加モル数等を適宣調整することによって、得られるオリゴエステル化合物の乳化状態や消泡性を調整することが可能となる。
【0043】
前記アルキレンオキシドが付加されるジカルボン酸類としては、前述の本発明に係るジカルボン酸類において述べたものと同様のものを用いることができる。
【0044】
前記アルキレンオキシドの炭素数は2〜4であることが好ましい。炭素数が前記上限を超えると、得られるオリゴエステル化合物の消泡効果及び水への乳化性が低下する傾向にあり、また、融点及び粘度が高くなるために取り扱いが困難になる傾向にある。このような炭素数2〜4のアルキレンオキシドとしては、前記(vi)において述べたとおりである。また、本発明の効果を損なわない範囲において、炭素数5以上のアルキレンオキシド又はスチレンオキシド等、他のオキシラン環を有する化合物を前記炭素数2〜4のアルキレンオキシドと共に付加してもよい。
【0045】
前記アルキレンオキシドの付加モル数としては、カルボキシ基1モルに対する平均付加モル数で、前記アルキレンオキシドの炭素数が2である場合には15モル以下であることが好ましく、前記アルキレンオキシドの炭素数が3である場合には70モル以下であることが好ましく、前基アルキレンオキシドの炭素数が4である場合には10モル以下である頃が好ましい。また、炭素数2〜4のアルキレンオキシドを2種以上前記ジカルボン酸類に付加する場合のカルボキシ基1モルに対する平均総付加モル数は2〜90モルであることが好ましく、2〜70モルであることがより好ましく、2〜50モルであることがさらに好ましい。前記アルキレンオキシドを付加してポリオキシアルキレン鎖を導入することにより、得られるオリゴエステル化合物の親水性が強まる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、水に対する溶解力が強まり、消泡効果が低下する傾向にある。また、自己乳化性のオリゴエステル化合物が得られる傾向にあるという観点から、前記平均付加モル数は4〜15であることがより好ましい。
【0046】
これらのポリオール系化合物としては、目的に応じて、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合せて用いてもよい。例えば、長鎖の疎水基を有するポリオール系化合物を用いることにより、特に消泡効果に優れたオリゴエステル化合物を得ることができ、炭素数2のエチレンオキシドが付加したエチレンオキシド付加物又はアルキルジアルカノールアミンを用いることにより、特に親水性に優れたオリゴエステル化合物を得ることができる。また、ポリオール系化合物の一種として前記アルキルジアルカノールアミンを用いることにより、酸で中和したときに水への乳化性が容易なオリゴエステル化合物を得ることができる。このような水への乳化性に優れたオリゴエステル化合物を得ることができるポリオール系化合物としては、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、N−メチルジエタノールアミンの炭素数2〜3のアルキレンオキシド付加物を用いることが特に好ましい。
【0047】
(炭素数7〜36の高級アルコール類)
前記一般式(1)で表わされる本発明のオリゴエステル化合物において、R及びRは、同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子、炭素数7〜36の高級アルコールからヒドロキシ基を除いた残基、及び炭素数7〜36の高級アルコールの炭素数2〜4のアルキレンオキシド付加物からヒドロキシ基を除いた残基からなる群より選択されるいずれか1つを示し、ただしR及びRが共に水素原子であることない。
【0048】
本発明において、前記炭素数7〜36の高級アルコール及び前記炭素数7〜36の高級アルコールの炭素数2〜4のアルキレンオキシド付加物におけるヒドロキシ基が、前記一般式(3)における末端カルボキシ基のうちの少なくとも1つと重縮合反応することにより前記一般式(1)におけるエステル結合となる。本発明に係るオリゴエステル化合物においては、得られるオリゴエステル化合物において優れた消泡効果が得られる傾向にあるという観点から、前記一般式(3)で表わされるオリゴエステルの末端カルボキシ基の半分以上がエステル化されていることが好ましく、全ての末端カルボキシ基がエステル化されていることがより好ましい。よって、前記一般式(1)中、R及びRとしては、同一でも異なっていてもよく、それぞれ炭素数7〜36の高級アルコールからヒドロキシ基を除いた残基又は炭素数7〜36の高級アルコールの炭素数2〜4のアルキレンオキシド付加物からヒドロキシ基を除く残基であることがより好ましい。
【0049】
前記高級アルコールとしては、炭素数が7〜36であり、12〜22であることが好ましい。炭素数が前記下限未満では良好な消泡効果が得られない傾向にあり、他方、前記上限を超えると、得られるオリゴエステル化合物の粘度が高くなり取り扱いが困難となる傾向にある。このような高級アルコールとしては、特に制限されず、脂肪族系高級アルコールであってもよく、脂環族系高級アルコールであってもよく、直鎖状であっても分岐していてもよく、2重結合を有するものであっても芳香環を有するものであってもよい。また、前記高級アルコールが第1級アルコールである場合には、側鎖に2級及び/又は3級の炭素原子に結合したヒドロキシ基を有していてもよい。
【0050】
前記脂肪族系高級アルコールとしては、ヘプチルアルコール、オクチルアルコール、2−エチルヘキサノール、ノナノール、デカノール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、オレイルアルコール、ベヘニルアルコール、12−ヒドロキシステアリルアルコール、オクテニルアルコール、ノネニルアルコール、デセニルアルコール、ドデセニルアルコール、テトラデセニルアルコール、ヘキサデセニルアルコール、オクタデセニルアルコール、イコセニルアルコール、ドコセニルアルコール、及びダイマジオールを挙げることができ、これらの中でも、得られるオリゴエステル化合物において優れた消泡効果及び流動性が得られる傾向にあるという観点から、イソアルコールやオキソアルコール等の合成アルコールや分岐アルコールを用いることが好ましい。前記脂環族系高級アルコールとしては、アルキルシクロヘキサノール類やアビエチルアルコール等を挙げることができ、前記芳香環を有する高級アルコールとしては、ノニルフェノール、ジノニルフェノール、オクチルフェノールなどのアルキルフェノール類を挙げることができる。これらの中でも、得られるオリゴエステル化合物において優れた消泡効果が得られる傾向にあるという観点から、オクチルフェノール、ノニルフェノールを用いることが好ましい。
【0051】
前記炭素数7〜36の高級アルコールの炭素数2〜4のアルキレンオキシド付加物とは、前記炭素数7〜36の高級アルコールのヒドロキシ基に炭素数2〜4のアルキレンオキシドが付加されたポリオキシアルキレン鎖を有する化合物である。このような化合物においては、アルキレンオキシドの種類及び付加モル数等を適宣調整することによって、得られるオリゴエステル化合物の乳化状態、粘度、融点を調整することができ、取り扱いの容易な消泡剤を得ることができる。
【0052】
前記アルキレンオキシドの炭素数は2〜4であることが好ましい。炭素数が前記上限を超えると、得られるオリゴエステル化合物の消泡効果及び水への乳化性が低下する傾向にあり、また、融点及び粘度が高くなるために取り扱いが困難になる傾向にある。このような炭素数2〜4のアルキレンオキシドとしては、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、トリメチレンオキシド、エチルエチレンオキシド、テトラメチレンオキシド等が挙げられ、これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよく、本発明の効果を損なわない範囲において、炭素数5以上のアルキレンオキシド又はスチレンオキシド等、他のオキシラン環を有する化合物を前記炭素数2〜4のアルキレンオキシドと共に付加してもよい。また、2種以上の前記アルキレンオキシドを付加する場合、その付加形態はブロックであっても、ランダムであってもよい。
【0053】
前記アルキレンオキシドとしては、得られるオリゴエステル化合物の水への乳化性が向上し、取り扱い易くなるという観点からは、その炭素数は2であることがより好ましく、液状化し易く取り扱い性が容易なオリゴエステル化合物を得ることができるという観点からは、その炭素数は3〜4であることがより好ましい。
【0054】
前記アルキレンオキシドの付加モル数としては、前記アルキレンオキシドの炭素数が2である場合には、乳化安定性が低くなり消泡性が向上する傾向にあるという観点から、ヒドロキシ基1モルに対する平均付加モル数で15モル以下であることが好ましい。また、得られるオリゴエステル化合物の粘度及び融点が低くなり取り扱いが容易になる傾向にあるという観点から、前記アルキレンオキシドの炭素数が3である場合には70モル以下であることが好ましく、前記アルキレンオキシドの炭素数が4である場合には10モル以下であることが好ましい。
【0055】
また、前記高級アルコールに前記アルキレンオキシドを2種以上付加する場合には、ヒドロキシ基1モルに対する平均総付加モル数は2〜90モルであることが好ましく、2〜70モルであることがより好ましく、2〜50モルであることがさらに好ましい。前記アルキレンオキシドを付加してポリオキシエチレン鎖を導入することにより、得られるオリゴエステル化合物の親水性が強まる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、得られるエステル化合物の融点及び粘度が高くなり取り扱いが困難となる傾向にある。
【0056】
前記炭素数7〜36の高級アルコール及び前記炭素数7〜36の高級アルコールの炭素数2〜4のアルキレンオキシド付加物としては、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0057】
(自己乳化性オリゴエステル化合物)
本発明に係るオリゴエステル化合物においては、ポリオキシアルキレン鎖の導入によりさらに親水性が強まるため、自己乳化性オリゴエステル化合物とすることができる。このように自己乳化性を有するオリゴエステル化合物は、本発明の消泡剤において、自己乳化性を有する消泡剤成分として用いることができるため、抑泡効果や消泡効果を得る目的に加えて、シリコーン、鉱物油、ワックス類、高級アルコール等の他の消泡剤成分の乳化に用いたり、本発明のオリゴエステル化合物のうち、自己乳化性が弱いオリゴエステル化合物を乳化せしめることを目的としても用いることができる。
【0058】
前記自己乳化性オリゴエステル化合物としては、導入されるポリオキシアルキレン鎖が、4モル以上の炭素数2〜3のアルキレンオキシドからなることが好ましく、4モル以上の炭素数2のエチレンオキシドからなることがより好ましい。このような自己乳化性オリゴエステル化合物としては、例えば、前記ポリオール系化合物として、前記(vi)又は(vii)のアルキレンオキシド付加物のうち、前記アルキレンオキシドの付加モル数が、ヒドロキシ基1モル当たりの平均付加モル数で4モル以上であるものを用いることが好ましく、これらの中でも、前記(i)〜(v)に記載のポリオール系化合物に炭素数2のエチレンオキシドが前記平均付加モル数で4モル以上付加されたアルキレンオキシド付加物を用いることがより好ましい。また、前記(vi)のアルキレンオキシド付加物のうち、前記(v)がアルキルジアルカノールアミンであるアルキレンオキシド付加物の場合には、前述のように、得られるオリゴエステル化合物は、酸による中和で親水性を増すことができるため、炭素数2のエチレンオキシドの平均付加モル数が4モル未満であっても、自己乳化性を有するオリゴエステル化合物を得ることができるためより好ましい。
【0059】
(サイズ度低下の少ないオリゴエステル化合物)
紙製品には新聞用紙、印刷用紙、記録用紙、包装用紙、板紙、ライナー、中芯等のダンボール用紙、壁紙、襖紙原紙やその裏打ち紙等、印刷適正を適正化したり、耐水性の向上を必要とする製品がある。このような印刷適性や耐水性を示す指標として、水溶液の浸透性を測定したサイズ度がある。前記紙製品の製造工程で生じる泡に対して長鎖のポリオキシアルキレン鎖を有する従来の消泡剤成分(ポリオキシアルキレングリコール類、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル類、ポリオキシアルキレングリコール高級脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル脂肪酸エステル等)が用いられるとサイズ度が低下する傾向にある。ポリオキシアルキレン鎖が短鎖のポリオキシアルキレン誘導体、シリコーン、鉱物油、ワックス類、高級アルコールを消泡剤成分とすればサイズ度への影響は少ないが、これらの成分を水中で乳化させるためには界面活性剤からなる乳化剤を必要とするため、その結果、サイズ度の著しい低下を招く。他方、サイズ度の低下抑制を優先して乳化剤の使用量を抑えると消泡成分の安定性が損なわれるため、製品にピンホールやスポット斑を生じるという問題を有していた。このように、優れた消泡効果と、良好な乳化安定性及びサイズ度低下の抑制効果の両立は困難であった。
【0060】
本発明においては、前記課題を解決することが可能である。すなわち、本発明に係るオリゴエステル化合物においては、導入されるポリオキシアルキレン鎖におけるアルキレンオキシドの付加モル数を調製することによって、サイズ度低下の少ないオリゴエステル化合物を得ることができる。
【0061】
このようなサイズ度低下の少ないオリゴエステル化合物としては、本発明に係るオリゴエステル化合物のうち、炭素数2〜3のアルキレンオキシドの付加モル数が0、つまり炭素数2〜3のアルキレンオキシドからなるポリオキシアルキレン鎖を有さず、自己乳化性を示さないオリゴエステル化合物、及び、炭素数2〜3のアルキレンオキシドからなるポリオキシアルキレン鎖を特定の割合で有するオリゴエステル化合物が挙げられる。
【0062】
前記炭素数2〜3のアルキレンオキシドからなるポリオキシアルキレン鎖を有さず、自己乳化性を示さないオリゴエステル化合物は、紙製品の製造工程に消泡剤として用いた場合には特に得られる紙のサイズ度の低下を抑制することができる。また、このような自己乳化性を示さないオリゴエステル化合物における乳化性の安定性の不足は、後述する乳化剤の添加で補うことができる。本発明のオリゴエステル化合物は自己乳化性を有さなくとも従来の消泡剤に比べて容易に乳化せしめることができるため、乳化剤の添加量を少量にすることができ、サイズ度低下抑制効果が損なわれない傾向にある。
【0063】
前記炭素数2〜3のアルキレンオキシドからなるポリオキシアルキレン鎖を特定の割合で有するオリゴエステル化合物としては、導入されるポリオキシアルキレン鎖において、炭素数2〜3のアルキレンオキシドの付加モル数が1モル以上且つ11モル未満であることが好ましい。このようなオリゴエステル化合物としては、例えば、前記ポリオール系化合物として、ポリオール系化合物に炭素数2〜3のアルキレンオキシドが付加したアルキレンオキシド付加物であり、前記アルキレンオキシドの付加モル数が、ヒドロキシ基1モル当たりの平均付加モル数で1モル以上且つ11モル未満であるものを用いることが好ましい。このようなアルキレンオキシド付加物としては、例えば、(i)炭素数4〜8のアルキレンジオール、(i)炭素数4〜8のアルキレンジオール、(ii)炭素数4〜8のアルケニレンジオール、(iii)3価以上であり、1級炭素に結合したヒドロキシ基を2つ有しており、炭素数が3〜15であるポリオール、(iv)脂肪酸と炭素数が3〜15であるポリオールとの脂肪酸エステル化合物であり、3価以上であり、1級炭素に結合したヒドロキシ基を2つ有するポリオール、(v)ヒドロキシ基を2つ有するアミン系化合物のそれぞれのヒドロキシ基(前記(iii)及び(iv)の場合は1級炭素に結合したヒドロキシ基)に、ヒドロキシ基1モル当たり平均1モル以上且つ11モル未満の炭素数2〜3のアルキレンオキシドが付加したアルキレンオキシド付加物;(vii)ジカルボン酸類にヒドロキシ基1モル当たり平均1モル以上且つ11モル未満の炭素数2〜3のアルキレンオキシドが付加したアルキレンオキシド付加物;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール等、炭素数2〜3のアルキレンオキシドの繰り返し単位が1モル以上且つ11モル未満のグリコール系化合物を挙げることができる。これらの化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、導入されるポリオキシアルキレン鎖において、炭素数4以上のアルキレンオキシド及び/又はオキシスチリル基が共に付加されていてもよい。炭素数4以上のアルキレンオキシド及びオキシスチリル基は親水性が低いため11モルを超えて含有されていても、サイズ度低下に対する影響を無視することができる。
【0064】
これらの中でも、前記炭素数2〜3のアルキレンオキシドからなるポリオキシアルキレン鎖を特定の割合で有するオリゴエステル化合物に用いるポリオール系化合物としては、サイズ度低下が抑制される傾向にあることに加えて、水への乳化性が向上する傾向にあるという観点から、前記(vi)及び(vii)のポリオール系化合物のうち、炭素数2のエチレンオキシドが前記付加モル数で4〜11モル付加されたアルキレンオキシド付加物を用いることがより好ましい。また、前記(vi)のアルキレンオキシド付加物のうち、前記(v)がアルキルジアルカノールアミンであるアルキレンオキシド付加物の場合には、前述のように、得られるオリゴエステル化合物は、酸による中和で親水性を増すことができるため、炭素数3のプロピレンオキシドのみが付加したポリオキシプロピレンアルキルアミンを原料とした場合であっても、自己乳化性オリゴエステル化合物を得ることができるためより好ましい。このようなアルキレンオキシド付加物を用いて得られる本発明のオリゴエステル化合物は、優れた抑泡効果及び消泡効果と自己乳化安定性とを有し、且つ、サイズ度低下の少ない消泡剤成分として、紙の製造工程で好ましく用いることができ、また、サイズ度低下が少ない乳化用界面活性剤として、自己乳化性を持たない本発明に係る他のオリゴエステル化合物の乳化に用いることもできる。
【0065】
さらに、前記サイズ度低下の少ないオリゴエステル化合物としては、サイズ度低下をより抑制できるオリゴエステル化合物を得られるという観点から、前記炭素数7〜36の高級アルコールとしては、前記炭素数が12〜36であることが好ましく、前記炭素数7〜36の高級アルコールの炭素数2〜4のアルキレンオキシド付加物としては、炭素数12〜36の高級アルコールに平均1モル以上且つ11モル未満の炭素数2〜3のアルキレンオキシドが付加した化合物が好ましい。これらの中でも、前記炭素数が12〜36の高級アルコールがより好ましく、ステアリルアルコール等の飽和アルコールを用いることがさらに好ましい。また、前記一般式(3)で表わされるオリゴエステルにおいて、2つの末端カルボキシ基のいずれも前記炭素数7〜36の高級アルコール及び/又は前記炭素数7〜36の高級アルコールにエステル化されていることが特に好ましい。
【0066】
(オリゴエステル化合物の製造方法)
本発明に係るオリゴエステル化合物は、前記ポリオール系化合物と、前記ポリオール系化合物に対して過剰のモル数の前記ジカルボン酸類と、前記炭素数7〜36の高級アルコール及び/又は前記炭素数7〜36の高級アルコールの炭素数2〜4のアルキレンオキシド付加物との反応により得られたオリゴエステル化合物であることが好ましい。
【0067】
本発明に係るオリゴエステル化合物は、前記一般式(3)で表わされるオリゴエステルの2つの末端カルボキシ基の少なくとも一方を、前記炭素数7〜36の高級アルコール及び/又は前記炭素数7〜36の高級アルコールの炭素数2〜4のアルキレンオキシド付加物(以下場合により高級アルコール類という)のカルボキシ基によってエステル化せしめることにより得られ、前記一般式(3)で表わされるオリゴエステルは、前記ポリオール系化合物と、前記ポリオール系化合物に対して過剰のモル数の前記ジカルボン酸類との反応により得られる。
【0068】
本発明のオリゴエステル化合物の製造方法としては、(I)先ず、前記ポリオール系化合物と前記ジカルボン酸類との重縮合反応(エステル化)によって2つの末端カルボキシ基を有する前記一般式(3)で表わされるオリゴエステルを合成し、次いで、前記2つの末端カルボキシ基を前記高級アルコール類でエステル化せしめる方法を用いることが好ましいが、前記ジカルボン酸類と前記ポリオール系化合物及び前記高級アルコール類とのエステル化反応の過程で、分解反応も同時に起こるため、(II)前記ジカルボン酸類と前記ポリオール系化合物と前記高級アルコール類とを混合し、一括してエステル化反応せしめる方法、(III)先ず、前記ジカルボン酸類と前記高級アルコール類とをエステル化反応せしめ、次いで、得られた生成物と前記ポリオール系化合物とをエステル化反応させる方法のいずれを用いても前記一般式(1)で示される本発明に係るオリゴエステル化合物を得ることができる。
【0069】
前記(I)〜(III)において、いずれのエステル化反応も、揮発成分の留去により進行させることができる。前記揮発成分としては、例えば、前記ジカルボン酸類としてジカルボン酸を用いた場合には水が、ジカルボン酸塩化物を用いた場合には塩化水素が、ジカルボン酸メチルを用いた場合にはメタノールが挙げられる。前記留去の方法としては、エステル化反応を窒素気流下で実施することにより留去する方法を用いることができ、必要に応じてさらに減圧することにより留去することもできる。このような反応において、反応条件は用いるポリオール系化合物、ジカルボン酸類及び高級アルコール類の種類により適宜調整することができ、例えば、前記ジカルボン酸類としてジカルボン酸塩化物を用いた場合には反応温度は50〜130℃であることがより好ましく、60〜110℃であることがさらに好ましい。また、ジカルボン酸、その酸無水物、及びそのエステルを用いた場合には、反応温度は140〜280℃であることがより好ましく、160〜240℃であることがさらに好ましい。
【0070】
前記エステル化反応においては、反応を進行させるために、触媒を用いることが好ましい。前記触媒としては、パラトルエンスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸、硫酸等の酸触媒;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ触媒;銀、チタン等の金属触媒等を挙げることができる。
【0071】
本発明のオリゴエステル化合物の製造方法において、前記ジカルボン酸類のモル数は前記ポリオール系化合物のモル数に対して過剰のモル数であることが好ましい。このような過剰のモル数としては、前記ジカルボン酸類と前記ポリオール系化合物との反応モル比(前記ポリオール系化合物のモル数:前記ジカルボン酸類のモル数)が、kを正の整数としてk:k+1であることが好ましく、1:2〜9:10であることがより好ましく、2:3〜5:6であることがさらに好ましく、2:3〜3:4であることが特に好ましい。前記ジカルボン酸類の前記ポリオール系化合物に対する反応モル数が前記下限未満であると抑泡効果及び消泡効果に優れた本発明のオリゴエステル化合物を得ることが困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、得られるオリゴエステル化合物の分子量が大きくなり、融点及び粘度が高くなり、また、消泡効果が低下する傾向にある。
【0072】
本発明のオリゴエステル化合物の製造方法において、前記高級アルコール類の反応モル数は、前記ジカルボン酸類と前記ポリオール系化合物との重縮合反応物に対するモル比(前記重縮合反応物のモル数:前記高級アルコール類のモル数)で、より抑泡効果及び消泡効果に優れたオリゴエステル化合物を得ることができるという観点から、1:1〜1:2であることが好ましく、1:2であることがより好ましい。また、例えば、前記ポリオール系化合物(ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、PEG−200、PEG−300等)と前記ジカルボン酸類(マレイン酸、コハク酸、アジピン酸、フマル酸、イタコン酸等)と前記高級アルコール類(ステアリルアルコール、ラウリルアルコール、オレイルアルコール又はこれら高級アルコールのアルキレンオキシド付加物等)との反応モル比(ポリオール系化合物/ジカルボン酸類/高級アルコール類)としては、1/2/2〜9/10/2とすることが好ましく、2/3/2〜5/6/2とすることがさらに好ましく、2/3/2又は3/4/2とすることが特に好ましい。
【0073】
(消泡剤)
本発明の消泡剤は、前記一般式(1)で表わされるオリゴエステル化合物を含有することを特徴とするものである。本発明の消泡剤としては、前記オリゴエステル化合物を含有していればよく、特に制限されず、1種の前記オリゴエステル化合物を含有する消泡剤であっても、シリコーン、鉱物油、ワックス類、高級アルコール、ポリオキシアルキレン誘導体等の他の消泡成分を更に含有していてもよい。
【0074】
また、本発明の消泡剤としては、簡単な機械的処理で水中に乳化せしめることができ、さらに、ポリオキシアルキレン鎖を導入等することによって、自己乳化性となることができるため、前記本発明に係るオリゴエステル化合物をそのまま用いることもでき、水や溶剤に乳化又は溶解して用いることもできる。
【0075】
また、乳化状態をより安定化できるという観点から、本発明に係るオリゴエステル化合物のうち、自己乳化性を有さない及び/又は自己乳化性の低いオリゴエステル化合物を用いる場合には、本発明の消泡剤としては、乳化剤を含有していることが好ましい。前記乳化剤としては、非イオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤等の界面活性剤を用いることができる。前記界面活性剤としては特に制限されず、前記非イオン界面活性剤としては、ポリオキシアルキレングリコール、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアリルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルアリルエーテル等の化合物を用いることができ、これら非イオン界面活性剤と高級脂肪酸類とのエステルを用いることもできる。また、前記本発明に係る自己乳化性オリゴエステル化合物を乳化用の界面活性剤として用いてもよい。前記アニオン界面活性剤としては、前記非イオン界面活性剤の硫酸エステル化物又はリン酸エステル化物、高級脂肪酸類塩(ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩等金属塩や、アンモニウム塩、モノエタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩、イソプロパノールアミン塩等)、アルカンスルホネート、アルキル硫酸エステル等を用いることができる。前記カチオン界面活性剤としては、テトラアルキルアンモニウム塩、ポリオキシアルキレンアルキルアンモニウム塩、イミダゾリニウムアンモニウム塩等を用いることができる。これらの中でも、紙のサイズ度低下に対する影響が少ないという観点から、アニオン界面活性剤である高級脂肪酸類塩を用いることが好ましい。これらの界面活性剤としては、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0076】
本発明の消泡剤は、本発明に係るオリゴエステル化合物のうち、自己乳化性を有さないオリゴエステル化合物及び/又は自己乳化性の低いオリゴエステル化合物を用いたものであっても、少量の乳化剤で安定状態を維持することができる。このように乳化剤を本発明の消泡剤に含有させる場合には、その含有量としては、使用する目的や用いる乳化剤の種類にもよるが、前記オリゴエステル化合物と前記乳化剤との質量比(オリゴエステル化合物:乳化剤)が1000:1〜5:1であることが好ましい。
【0077】
本発明の消泡剤は、前記オリゴエステル化合物を含有することにより、低濃度でも優れた抑泡効果及び消泡効果を奏する。また、前記オリゴエステル化合物は、少なくとも3個の親水性のエステル基を分子内に有するため、本発明の消泡剤は乳化状態を維持することが容易であり、シリコーン、鉱物油、ワックス類、高級アルコール等の水に不溶性の従来の消泡剤成分を含有する消泡剤を乳化させるために要する量に比べて、少量の界面活性剤で安定な乳化状態を得ることができ、持続性があり十分な抑泡効果及び消泡効果を奏することができる。また、前記自己乳化性オリゴエステル化合物を含有する場合には、乳化作用のある消泡剤として用いることもでき、また、サイズ度低下の少ないオリゴエステル化合物を含有する場合には、紙の製造において製品のサイズ度低下をより抑制することができる。
【0078】
本発明の消泡剤の被処理溶液における濃度としては、十分な効果を得ることができるため、低濃度でもよく、用途に応じて適宜調整することができるが、1.0×10−5〜0.1質量%であることが好ましい。
【0079】
本発明のオリゴエステル化合物を含有する消泡剤は、前述のような効果を奏するため、製紙工業、繊維工業、醗酵工業、塗料工業、合成樹脂工業、合成ゴム工業等の生産工程や、スレート板、繊維石膏板等の建材製造工業など、あらゆる製品の処理工程で生じる泡や、排水で生じる泡の処理に用いることができる。また、本発明の効果を損なわない範囲において、これらの各種処理工程で用いる薬剤と同時に用いることができ、これらの薬剤を本発明の消泡剤に含有させてもよい。
【0080】
従って、本発明の消泡剤は紙の製造工程や排水の処理工程において生じる泡の抑泡及び消泡を目的として好適に用いることができ、本発明の紙の製造方法においては効率よく優れた製品を製造することができ、本発明の排水の処理方法においては、効率よく排水を処理することが可能となる。
【0081】
本発明の消泡剤を紙の製造方法において用いた場合、パルプ製造工程、紙の抄造工程及び紙への塗工工程等で生じる泡の消泡に優れた効果を示し、地合の不均一、スポット斑及びピンホールがなく、高品質の紙製品を得ることが可能となる。本発明の消泡剤は、本発明の効果を損なわない範囲において、サイズ剤、乾燥紙力剤、湿潤紙力剤、嵩高剤、PEO(ポリエチレンオキシド)又はPVA(ポリビニルアルコール)等の粘剤、歩留まり向上剤、炭酸カルシウム、タルク等無機填料等の紙の製造に使用される他の薬剤と同時に用いることができ、これらの薬剤を本発明の消泡剤に含有させてもよい。本発明の消泡剤を使用できる紙の原料パルプにも制限はなく、例えば、広葉樹、針葉樹等から得られる木材パルプ、バガス、ケナフ、竹パルプ、古紙再生パルプ等の植物繊維、パルプモールド等の繊維材料等に対して用いることができる。また、パルプ以外の素材としてレーヨン、ポリエステル等の合成高分子物質を用いた合成紙や、繊維状無機材料を配合した紙等に対しても用いることができる。本発明の消泡剤を用いて製造した紙の用途にも特に制限はなく、各種紙製品の製造に適用することができる。
【実施例】
【0082】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。それぞれの実施例及び比較例において得られた化合物について、乳化性試験、抑泡効果及び消泡効果試験及びサイズ度への影響試験は、以下の方法により行った。
【0083】
<乳化性試験>
200mlの水(温度:20℃)の中に得られた化合物をガラス棒で1滴落として撹拌し、均一に乳化するものを乳化性あり、乳化し難いものを乳化性なしと評価した。なお、粘度が高い化合物については、加熱溶融して用いた。
【0084】
<抑泡効果及び消泡効果試験>
消泡試験に用いた消泡試験装置を図1に示す。前記消泡試験装置は、直径64mm、長さ1000mmの透明ガラス製カラムの外側に、直径95mm、長さ1000mmの透明ガラス製カラムを保温用ジャケットとして設けたものである。試験は1L、40℃の下記発泡液をそれぞれ一定流量(5L/分)でポンプを用いてカラム底部よりカラム上部に送り、カラム底部中央へ60mmの高さから落下させてこれを循環し、5分間後の泡の高さ(mm)を測定した。前記泡の高さを測定した後、直ちにポンプを停止し、停止から2分間後の泡の高さ(mm)を測定した。この操作及び測定を2回繰り返して行った。
(発泡液A)
市販のダンボール500gを10Lパルパーにて40℃の温水に離解し、80メッシュ金網にてパルプを取り除き、発泡液Aを得た。この発泡液に対して実施例及び比較例により得られた化合物をそのまま消泡剤として2ppm添加した。結果を表6〜7に示す。
(発泡液B)
ロジン系サイズ剤(サイズパイン(登録商標)N−722:荒川化学製)の0.1質量%溶液を調製し、実施例及び比較例により得られた化合物をそのまま消泡剤として2ppm添加した。結果を表8〜9に示す。
【0085】
<サイズ度への影響試験1>
先ず、広葉樹晒しクラフトパルプを、フリーネス420mlに叩解してパルプスラリーを調製した。このパルプスラリーをラボスターラー(ヤマト科学(株)製)にて撹拌しながら、カチオン澱粉(EXCELL V−7、日澱化学(株)製)の1質量%水溶液を前記パルプスラリーに対して0.5質量%となるように添加し合計5分間攪拌した。次いで、AKDサイズ剤(サイズパイン(登録商標)K−903、荒川化学工業(株)製)を前記パルプスラリーに対して0.2質量%添加しさらに5分間攪拌した。次いで、実施例及び比較例により得られた化合物(自己乳化性のある化合物はそのまま用い、自己乳化性のない化合物はラボミキサーで攪拌して乳化せしめたものを用いた。)をそれぞれ前記パルプスラリーに対して1000ppm又は2000ppm添加し、5分間攪拌した。丸型シートマシン(熊谷理機工業(株)製)にて坪量80g/mとなるように抄紙し、プレス機(熊谷理機工業(株)製)を用いて0.7MPaで5分間プレスした後、ヤンキードライヤー(熊谷理機工業(株))にて105℃で5分間乾燥して紙を得た。得られた紙を24時間調湿した後、サイズ度(秒)をJIS P 8122(2004):ステキヒトサイズに従って測定した。測定した結果を表10〜11に示す。
【0086】
<サイズ度への影響試験2>
先ず、広葉樹晒しクラフトパルプを、フリーネス420mlに叩解してパルプスラリーを調製した。このパルプスラリーをラボスターラー(ヤマト科学(株)製)にて撹拌しながら、硫酸アルミニウムを添加してPHを4.5に調整し、合計5分間攪拌した。次いで、ロジンサイズ剤(サイズパイン(登録商標)N−772、荒川化学工業(株)製)を前記パルプスラリーに対して1.0質量%添加しさらに5分間攪拌した。次いで、実施例及び比較例により得られた化合物(自己乳化性のある化合物はそのまま用い、自己乳化性のない化合物はラボミキサーで攪拌して乳化せしめたものを用いた。)をそれぞれ前記パルプスラリーに対して500ppm又は1000ppm添加し、5分間攪拌した。丸型シートマシン(熊谷理機工業(株)製)にて坪量80g/mとなるように抄紙し、プレス機(熊谷理機工業(株))にて0.7MPaで5分間プレスした後、ヤンキードライヤー(熊谷理機工業(株))にて105℃で5分間乾燥して紙を得た。得られた紙を24時間調湿した後、サイズ度(秒)をJIS P 8122(2004):ステキヒトサイズに従って測定した。測定した結果を前記試験1の結果と併せて表10〜11に示す。
【0087】
<合成方法A(実施例4)>
(ポリオール系化合物とジカルボン酸類と高級アルコール類とを一括して反応)
四つ口フラスコにジエチレングリコール106.1g(1.0モル)、無水マレイン酸147.2g(1.5モル)、合成アルコール(ネオドール23、シェルケミカルズジャパン(株)製)193.4g(1.0モル、ヒドロキシ価290.0)、触媒としてパラトルエンスルホン酸0.54gを仕込み、窒素ガス気流下、160〜240℃で約8時間脱水してエステル化反応を行ない、オリゴエステル化合物(ジエチレングリコール/マレイン酸/ネオドール23のモル比=2/3/2)を得た。酸価は6.3(mgKOH/mg)であった。
【0088】
<反応方法B(実施例5)>
(ポリオール系化合物とジカルボン酸類とを先に反応し、次いで高級アルコール類を反応)
四つ口フラスコにジエチレングリコール106.1g(1.0モル)、無水マレイン酸147.2g(1.5モル)、触媒としてパラトルエンスルホン酸0.30gを仕込み、窒素ガス気流下、160〜240℃で約4時間脱水してオリゴエステル(ジエチレングリコール/マレイン酸のモル比=2/3)を得た。次いで、得られたオリゴエステルに合成アルコール(ネオドール23、シェルケミカルズジャパン(株)製)193.4g(1.0モル、ヒドロキシ価290.0)、触媒としてパラトルエンスルホン酸0.23gを仕込み、160〜240℃で約6時間脱水してエステル化反応を行ない、オリゴエステル化合物(ジエチレングリコール/マレイン酸/ネオドール23のモル比=2/3/2)を得た。酸価は2.7(mgKOH/mg)であった。
【0089】
<反応方法C(実施例6)>
(ジカルボン酸類と高級アルコール類とを先に反応し、次いでポリオール系化合物を反応)
四つ口フラスコに合成アルコール(ネオドール23、シェルケミカルズジャパン(株)製)193.4g(1.0モル、ヒドロキシ価290.0)、無水マレイン酸147.2g(1.5モル)、触媒としてパラトルエンスルホン酸0.41gを仕込み、窒素ガス気流下、160〜240℃で約6時間脱水して、エステル化物(ネオドール23/マレイン酸のモル比=2/3)を得た。次いで、得られたエステル化物にジエチレングリコール106.1g(1.0モル)、触媒としてパラトルエンスルホン酸0.13gを仕込み、160〜240℃で約6時間脱水してオリゴエステル化合物(ジエチレングリコール/マレイン酸/ネオドール23のモル比=2/3/2)を得た。酸価は6.5(mgKOH/mg)であった。
【0090】
<反応方法D(比較例2)>
四つ口フラスコにジエチレングリコール106g(1.0モル)、ヤシ脂肪酸(palmac505:Acidchem製)400.0g(2モル)、触媒としてパラトルエンスルホン酸0.6gを仕込み、窒素ガス気流下、160〜200℃で約5時間脱水してエステル化物(ジエチレングリコール/ヤシ脂肪酸のモル比=1/2)を得た。酸価は2.8(mgKOH/mg)であった。
【0091】
<反応方法E(比較例22)>
四つ口フラスコにジエチレングリコール106.1g(1.0モル)、無水マレイン酸147.2g(1.5モル)、触媒としてパラトルエンスルホン酸0.31gを仕込み、窒素ガス気流下、160〜200℃で約6時間脱水してオリゴエステル(ジエチレングリコール/マレイン酸のモル比=2/3)を得た。酸価は2.8(mgKOH/mg)であった。
【0092】
<酸による中和(実施例75)>
四つ口フラスコにN−メチルジエタノールアミン(アミノアルコールMDA:日本乳化剤(株)製)119.0g(1.0モル)、無水マレイン酸147.15g(1.5モル)、触媒としてパラトルエンスルホン酸0.3gを仕込み、窒素ガス気流下、160〜200℃で約6時間脱水してオリゴエステル(N−メチルジエタノールアミン/マレイン酸のモル比=2/3)を得た。次いで、得られたオリゴエステルに合成アルコール(ネオドール23、シェルケミカルズジャパン(株)製)193.4g(1.0モル、ヒドロキシ価290)、触媒としてパラトルエンスルホン酸0.23gを仕込み、160〜240℃で約5時間脱水してエステル化反応を行ない、オリゴエステル化合物(N−メチルジエタノールアミン/マレイン酸/ネオドール23のモル比=2/3/2)を得た。酸価は2.7(mgKOH/mg)であった。得られたオリゴエステル化合物は、酸として酢酸60.05g(1.0モル)を用いて中和した。
【0093】
(実施例1〜3、7〜74、76〜80、比較例1、3〜21)
前記反応方法A〜Eのいずれかの方法と同様にして、各実施例及び比較例の化合物を得た。なお、比較例1は消泡剤を使用しないもの、比較例18及び19はオレイルアルコール及びステアリルアルコールをそれぞれそのまま使用したものである。それぞれの実施例及び比較例において用いた化合物の原料、そのモル比、酸価、反応方法、酸による中和を行った場合は用いた酸の種類、及び水への乳化性を、表1〜5に示す。なお、表中のポリオール系化合物(a)において、EOはエチレンオキシドを示し、POはプロピレンオキシドを示す。また、高級アルコール類(c)として用いたネオドール45(シェルケミカルズジャパン(株)製)は炭素数14、15、ファインオキソコール1600(シェルケミカルズジャパン(株)製)は炭素数16、及びファインオキソコール180(シェルケミカルズジャパン(株)製)は炭素数18の第一級脂肪族系高級アルコールであった。
【0094】
【表1】

【0095】
【表2】

【0096】
【表3】

【0097】
【表4】

【0098】
【表5】

【0099】
【表6】

【0100】
【表7】

【0101】
【表8】

【0102】
【表9】

【0103】
【表10】

【0104】
【表11】

【0105】
表1〜5に示した結果から明らかなように、本発明のオリゴエステル化合物のうち、平均4モル以上のアルキレンオキシドからなるポリオキシアルキレン鎖を有するオリゴエステル化合物(実施例19、22、33〜65、73〜74)及びアルキルジアルカノールアミンのアルキレンオキシド付加物をポリオール系化合物として用い、これを酸で中和したオリゴエステル化合物(実施例75〜80)は自己乳化性オリゴエステル化合物となった。本発明のオリゴエステル化合物としては、親水性が低く、自己乳化性を有さないオリゴエステル化合物も含まれるが、表6〜9に示した結果から明らかなように、自己乳化性の有無に関わらず、発泡液A及びBを用いた場合のいずれにおいても十分な抑泡効果及び消泡効果が奏されることが確認された。さらに、前記抑泡効果及び消泡効果には持続性が認められ、本発明の消泡剤は少量の添加でも、優れた抑泡効果及び消泡効果を維持できることが確認された。また、表10〜11に示した結果から明らかなように、炭素数2〜3のアルキレンオキシドの付加数がヒドロキシ基1モル当たりに11モル未満のオリゴエステル化合物(実施例1〜19、21〜22、24〜47、50〜57、66〜77、79〜80)を用いた場合には、得られた紙において、サイズ度の低下が抑制されることが確認された。一方、比較例により得られた化合物の抑泡効果及び消泡効果はいずれも劣るものであり、また、乳化性が示される化合物を用いて得られた紙においては、著しくサイズ度が低下した。
【0106】
<乳化剤による安定性改良試験>
(実施例81〜82)
実施例35及び56で得られたオリゴエステル化合物(自己乳化性オリゴエステル化合物)を乳化用界面活性剤として用いて、乳化性試験を行った。被乳化化合物としては、グリセリンモノステアリン酸エステル及びナフォール20+A(C20直鎖合成アルコール、サソールジャパン製)を用い、前記乳化用界面活性剤と前記被乳化化合物との質量比が10:90である溶液を、水200mlに対して、1質量%となるように添加し、下記の基準により水への乳化性を評価した。結果を表12に示す。
A:乳白色で均一な状態
B:オイル浮きが認められる状態
C:分離している状態。
【0107】
(比較例23〜24)
乳化用界面活性剤として比較例5で得られた化合物及びソフタノール200(セカンダリ−C12アルコールエチレンオキシド付加物、(株)日本触媒製)を用いた以外は実施例81〜82と同様にしてそれぞれ乳化性試験を行った。結果を表12に示す。
【0108】
(実施例83〜88、比較例25〜26)
実施例7及び実施例67で得られたオリゴエステル化合物(自己乳化性を有さないオリゴエステル化合物)及び比較例2で得られた化合物を被乳化化合物として用い、実施例35で得られたオリゴエステル化合物、比較例17で得られた化合物、レオドールTW−O106V(花王ケミカル製)及びヤシ脂肪酸酸モノエタノールアミン塩を乳化用界面活性剤として用い、それぞれ前記乳化用界面活性剤と前記被乳化化合物との質量比を表13に示す比にした以外は実施例81〜82と同様にして乳化性試験を行った。結果を表13に示す。
【0109】
また、実施例81〜88、比較例23〜26における乳化用界面活性剤と被乳化化合物の組み合わせにおいて、抑泡効果及び消泡効果試験、サイズ度への影響試験1〜2を行った。抑泡効果及び消泡効果試験において発泡液Aを用いたときの結果を表14に、抑泡効果及び消泡効果試験において発泡液Bを用いたときの結果を表15に、サイズ度への影響試験1〜2の結果を表16に示す。
【0110】
【表12】

【0111】
【表13】

【0112】
【表14】

【0113】
【表15】

【0114】
【表16】

【0115】
表12〜16に示した結果から明らかなように、本発明の自己乳化性オリゴエステル化合物を使って既知の消泡成分を乳化した場合(実施例81〜82)及び本発明の自己乳化性を有さないオリゴエステル化合物を既知の乳化剤等で安定に乳化した場合(実施例83〜88)のいずれにおいても、乳化安定性、抑泡効果及び消泡効果は優れたものであり、サイズ度の低下も少ないことが確認された。他方、比較例においては、いずれの結果も劣るものであった。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明に係るオリゴエステル化合物を含有する本発明の消泡剤は、低濃度でも優れた抑泡効果及び消泡効果を奏するため、製紙工業、繊維工業、醗酵工業、塗料工業、合成樹脂工業、合成ゴム工業等各種工業の製造プロセスや、排水(下水、し尿、工場廃液等)等で発生する泡の抑泡及び消泡に有効である。
【0117】
また、本発明に係るオリゴエステル化合物は、親水性を有するため、少量の界面活性剤で安定な乳化状態にすることができる。さらに、本発明に係るオリゴエステル化合物のうち、特定のポリオキシアルキレン鎖を導入された自己乳化性を有するオリゴエステル化合物は、乳化剤として用いることもでき、消泡成分の安定化に用いられる界面活性剤の存在が悪影響を及ぼし、消泡剤の使用が制限されていた工業工程においても、有効に用いることができる。
【0118】
また、例えば、親水性を有する界面活性剤は、紙のサイズ度を著しく低下させるが、本発明のオリゴエステル化合物のうち、特定のポリオキシアルキレン鎖が導入されたオリゴエステル化合物を含有する消泡剤を用いることにより、優れた抑泡効果及び消泡効果を維持しながら、サイズ度低下が少ない高品質の紙を安定的に製造することが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1):
【化1】

[式(1)中、Rは、同一でも異なっていてもよく、それぞれジカルボン酸類からカルボキシ基を除いた残基を示し、Rは、ポリオール系化合物から2つのヒドロキシ基を除いた残基を示し、R及びRは、同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子、炭素数7〜36の高級アルコールからヒドロキシ基を除いた残基、及び炭素数7〜36の高級アルコールの炭素数2〜4のアルキレンオキシド付加物からヒドロキシ基を除いた残基からなる群より選択されるいずれか1つを示し、ただしR及びRが共に水素原子であることはなく、nは1以上の整数を示し、nが2以上の場合には前記R及び前記Rはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。]
で表されるオリゴエステル化合物を含有することを特徴とする消泡剤。
【請求項2】
前記オリゴエステル化合物が、ポリオール系化合物と、前記ポリオール系化合物に対して過剰のモル数のジカルボン酸類と、炭素数7〜36の高級アルコール及び/又は炭素数7〜36の高級アルコールの炭素数2〜4のアルキレンオキシド付加物との反応により得られたオリゴエステル化合物であることを特徴とする請求項1に記載の消泡剤。
【請求項3】
前記ポリオール系化合物が、(i)炭素数1〜8のアルキレンジオール、(ii)炭素数2〜8のアルケニレンジオール、(iii)3価以上であり、1級炭素に結合したヒドロキシ基を2つ有しており、炭素数が3〜15であるポリオール、(iv)脂肪酸と炭素数が3〜15であるポリオールとの脂肪酸エステル化合物であり、3価以上であり、1級炭素に結合したヒドロキシ基を2つ有するポリオール、(v)ヒドロキシ基を2つ有するアミン系化合物、(vi)前記(i)〜(v)に記載のポリオール系化合物からなる群より選択されるいずれか一つに炭素数2〜4のアルキレンオキシドが付加したアルキレンオキシド付加物、及び(vii)ジカルボン酸類に炭素数2〜4のアルキレンオキシドが付加したアルキレンオキシド付加物、からなる群より選択されるいずれか一つのポリオール系化合物であることを特徴とする請求項1又は2に記載の消泡剤。
【請求項4】
前記ジカルボン酸類が、脂肪族ジカルボン酸及び/又は脂肪族ジカルボン酸の誘導体であることを特徴とする請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載の消泡剤。
【請求項5】
乳化剤をさらに含有することを特徴とする請求項1〜4のうちのいずれか一項に記載の消泡剤。
【請求項6】
請求項1〜5のうちのいずれか一項に記載の消泡剤を用いることを特徴とする紙の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜5のうちのいずれか一項に記載の消泡剤を用いることを特徴とする排水の処理方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−143690(P2012−143690A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−2849(P2011−2849)
【出願日】平成23年1月11日(2011.1.11)
【出願人】(000226161)日華化学株式会社 (208)
【Fターム(参考)】