説明

消泡剤の添加方法

【課題】液面の高さの変動にかかわらず、消泡剤の添加量に対して得られる発泡抑制の程度を簡便に向上できる消泡剤の添加方法を提供すること。
【解決手段】発泡を生じ得る液体に対し消泡剤を添加する方法は、液体Lの液面における発泡の程度を、液面から離間して位置するレベル計41を用いて定量的に検出し、定量的に検出された発泡の程度を、水位計43によって検出される液面の高さによって補正し、補正された発泡の程度に基づいて、消泡剤の添加量を調節する工程を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発泡を生じ得る液体に対し消泡剤を添加する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
抄紙等の製造プロセスにおける発泡は、製品の品質や生産性に悪影響を与える。例えば、泡や泡が核となって生じた凝集物が製品に混入すると、製品の欠陥とみなされる。また、排水処理プロセスにおいても、例えば生物処理を行う曝気槽での過剰な発泡や、放流水での発泡が問題とされる場合がある。
【0003】
このため、製造プロセスや排水処理プロセス等において消泡剤を用いることで、発泡の抑制が行われている。例えば特許文献1には、抄紙プロセスで有用な消泡剤が開示されている。
【0004】
従来、添加対象の液体の液面を目視して、発泡の状態を把握し、それに応じて消泡剤の添加量を調節するのが一般的である。しかし、このような調節では、消泡剤の添加量を適切に設定するのが困難であり、その結果、添加量過少による発泡抑制の不充分化、添加量過多によるコスト増といった問題が生じやすい。
【0005】
また、特許文献2には、液中気体量の測定値に基づいて消泡剤の添加量を制御することが示されている。しかし、液中気体量を測定するためには、測定用試料を採取するためのバイパスを設備に設置する必要があり、測定の手間がかかる。また、配管の閉塞により測定ができなくなったり、流路の複雑化により淀みが発生したりしやすく、スライム等の付着物の発生源になり得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−113891号公報
【特許文献2】特開2004−315996号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、液体の液面における発泡の程度を、液面から離間して位置する非接触型検出手段を用いて定量的に検出し、定量的に検出された発泡の程度に基づいて、消泡剤の添加量を調節することを提案している(未公開の特願2010−226211号明細書)。
【0008】
上記技術は、従来技術の課題を解決することができる一方、液面の高さが変動する系では、泡と水との区別ができず、消泡剤の添加量を適切に調節することが困難である。
【0009】
本発明は、以上の実情に鑑みてなされたものであり、液面の高さの変動にかかわらず、消泡剤の添加量に対して得られる発泡抑制の程度を簡便に向上できる消泡剤の添加方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1) 発泡を生じ得る液体に対し消泡剤を添加する方法であって、
前記液体の液面における発泡の程度を、前記液面から離間して位置する非接触型検出手段を用いて定量的に検出し、
定量的に検出された発泡の程度を、前記液面の高さによって補正し、
補正された発泡の程度に基づいて、前記消泡剤の添加量を調節する工程を有する方法。
【0011】
(2) 前記定量的な検出は、前記非接触型検出手段から前記液面までの第1距離の検出を含む(1)記載の方法。
【0012】
(3) 前記消泡剤の添加量の調節は、前記第1距離が前記補正された値の増減に基づいて、減増させることで行う(2)記載の方法。
【0013】
(4) 前記液面よりも下の位置に配置された液面高さ検出手段によって、前記位置から前記液面への第2距離を測定することで、前記液面の高さを検出する工程を更に有する(2)又は(3)記載の方法。
【0014】
(5) 前記液面高さ検出手段と前記非接触型検出手段との間隔を固定する(4)記載の方法。
【0015】
(6) 前記補正は、前記非接触型検出手段と前記液面高さ検出手段との間隔から、前記第1距離及び前記第2距離の和を差し引くことを含む(4)又は(5)記載の方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、消泡剤の添加量が、定量的に検出した液面における発泡の程度に基づいて調節されるので、発泡の程度に正確かつ適正に依存した量になり、更に発泡の程度が液面の高さにより補正されるので、上記作用が液面の高さの変動にかかわらない。また、非接触型検出手段を用いるので、検出を連続的に行っても、検出手段が泡や泡沫等で汚染され、検出精度及び消泡剤の添加量の調節精度が低下するような事態が予防される。また、このような作業には、試料採取のためのバイパスが必ずしも必要でない。これにより、消泡剤の添加量に対して得られる発泡抑制の程度を簡便に向上することができる。また、測定箇所の変更が容易であるため、系内の水質変動等により発泡場所が変動した場合にも、それに応じて測定場所を変更することで、良好な発泡抑制を継続することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の方法を行う消泡剤の添加系のブロック図である。
【図2】本発明の方法で定量的に検出する対象の説明図である。
【図3】図2で説明する測定対象の測定値と、発泡の程度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。ただし、本発明は実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
【0019】
図1は、本発明の方法を行う消泡剤の添加系30を備える処理系10のブロック図である。処理系10における処理部20は、発泡を生じ得る液体L(例えば、抄紙系における白水、排水処理系における曝気水、放流水)を収容するタンク21を備える。このタンク21には、添加系30から消泡剤が添加され、これにより液体Lの発泡が抑制される。このように消泡剤が添加された液体Lは移送路23によって外部へと移送され、製品の原料として使用されたり、廃棄されたりする。
【0020】
本発明では、液体Lの液面における発泡の程度を、検知部40が有する非接触型検出手段としてのレベル計41を用いて定量的に検出し、検知部40が有する液面高さ検出手段としての水位計43を用いて液面の高さを測定し、液面の高さによって発泡の程度を補正し、補正された発泡の程度に基づいて、消泡剤の添加量を調節する。これにより、液面の高さにかかわらず、消泡剤の添加量が発泡の程度に正確かつ適正に依存した量になる。また、検知部40が液面から離間して位置するので、検出を連続的に行っても泡や泡沫等で汚染されにくく、これにより検出精度及び消泡剤の添加量の調節精度が低下する事態が予防される。よって、消泡剤の添加量に対して得られる発泡抑制の程度を向上することができる。
【0021】
本実施形態では、レベル計41は、液体Lの液面に関する後述の測定対象の測定値を、水位計43は、液体Lの液面の高さの測定値を、それぞれ制御部50へと送信し、この制御部50は測定値から発泡の程度を定量的に把握する。例えば、レベル計41がレベル計41から液面までの距離を測定し、制御部50がその測定値から、その最大値等(詳細は後述する)を算出し、その算出値によって発泡の程度を定量的に把握し、またその算出値を水位計43から送信される液面の高さの変化によって補正する。本明細書において、測定及び把握を検出と総称する。制御部50は、補正された発泡の程度に基づいて添加系30を制御し、消泡剤の添加量を調節する。制御部50による添加系30の制御の具体的態様は後述する。
【0022】
レベル計41による測定対象は、発泡の程度を反映するものである限りにおいて、特に限定されない。中でも、レベル計41から液面までの第1距離は容易に測定できる点で好ましく、その測定値から算出される第1距離の最大値は、発泡の程度の反映精度が高い。
【0023】
図2は、液面の高さの最小値の説明図である。液体Lの発泡の程度が軽い場合、液面の高さの最小値は、極小型の気泡の箇所又は液面の露出箇所の高さに該当する(図2(A)では後者である)。液体Lの発泡の程度が重くなるにつれ、液面の高さの最小値は、図2(B)に示されるように、小型又は中型の気泡の箇所の高さに該当するようになる。このように、液面の高さの最小値は、液体Lの発泡の程度の増減に応じて、増減する傾向を有する。ここで、液面の高さの最小値は、第1距離の最大値と同じ傾向を有するので、消泡剤の添加量の調節は、第1距離の最大値が補正された値の増減に基づいて、減増させることで行うことが好ましい。
【0024】
液体Lの発泡が極めて高度に抑制されると、液面に大型の気泡すら存在しなくなる。このため、この程度にまで発泡を抑制すべき場合には、非接触型検出手段から前記液面までの距離の最小値又は平均値等の補正値に基づいて添加量を調節することが好ましい。ただし、費用対効果や環境負荷の観点から、僅少量の発泡が許容されるのが一般的であるため、非接触型検出手段から前記液面までの距離の最大値の補正値に基づく調節は汎用性に優れる。
【0025】
また、本実施形態では、液面よりも下の位置に配置された水位計43によって、その位置から液面への第2距離を測定する工程を更に有する。第2距離は、液面の下方(つまり気泡が存在しない側)から測定されるため、発泡の程度に影響されない。従って、第2距離の変化は、液面の高さの変化を正確に反映するため、第1距離を第2距離によって補正することが好ましい。
【0026】
その補正のしかたは特に限定されないが、レベル計41と水位計43との間隔を固定した場合、レベル計41と水位計43との間隔は一定である一方、第1距離は発泡の程度に応じて変化し、第2距離は液面の高さに変動に応じて変化する。このため、レベル計41と水位計43との間隔から第1距離及び第2距離の和を差し引くことで、液面の高さにかかわらず、泡の高さが正確に算出されることになる。本実施形態では、レベル計41と水位計43との間に固定部45が介在し、その間隔を一定化させている。なお、レベル計41と水位計43との間隔が固定される限りにおいて、レベル計41及び水位計43が物理的に低位置に固定される必要はない。また、レベル計41と水位計43との間隔を固定しない場合には、その間隔を計測し、その変化を更に考慮して補正を行う必要がある。
【0027】
本発明において、補正値の増減又は減増に基づく添加量の増減は、補正値の値に完全又は不完全に依存すればよい。即ち、パラメータの値の変化に対し、完全に連続して添加量を変化させてもよいが、補正値の範囲を1又は2以上に区画化し、補正値の値が異なる区画に移った場合にのみ、添加量を変化させてもよい。例えば、補正値の値が所定範囲の下限を下回り又は上限を超えた場合にのみ、添加量を増加又は減少させ、補正値の値が所定範囲内にある場合には添加量を一定にしてもよい。このような区画化は、添加量の調節制御を簡素化できる点で好ましい。
【0028】
レベル計41として使用する機器は、所望の測定対象を非接触で測定できるよう適宜選択されてよい。例えば、測定対象が第1距離である場合には、レベル計41は超音波レベル計、レーザー距離計等であってよい。
【0029】
水位計43として使用する機器は、発泡の程度に影響を受けずに液面の高さを測定できるよう適宜選択されてよい。例えば、測定対象が第2距離である場合には、水位計43は圧力式水面計等であってよい。
【0030】
用いる消泡剤は1種又は2種以上のいずれであってもよい。消泡剤は、添加系30の簡素化の観点では1種であることが好ましいが、発泡抑制をより完全に行う観点では2種以上であることが好ましい。後者の場合、成分が異なる消泡剤を用いればよく、好ましくは作用の異なる消泡剤を用いる。例えば、自己乳化型の消泡剤と、エマルション型の消泡剤との併用が挙げられる。
【0031】
自己乳化型の消泡剤は、それ自体が界面活性剤であって、親油基及び親水基を同一分子内に有し、水に希釈分散(乳化)してエマルションを形成する薬剤である。例えばポリオキシエチレンポリオキシプロピレンジステアリン酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンモノステアリルエーテルのようなポリオキシエチレンポリオキシプロピレンモノアルキルエーテル等のポリオキシアルキレンエーテル等の1種又は2種以上であってよい。
【0032】
エマルション型の消泡剤は、水不溶性の消泡成分を乳化剤でエマルション化した薬剤であり、水で希釈可能である。例えばポリオキシアルキレンポリアルキルシロキサン、ポリジメチルシロキサン、高級アルコール、脂肪酸エステル、硬化油等の1種又は2種以上であってよい。
【0033】
2種以上、特に作用の異なる2種以上の消泡剤を用いる場合、その少なくとも1種の消泡剤の添加量を調節すればよいが、各種の消泡剤の添加量を調節することが好ましい。図1に示されるように、本実施形態では、添加系30が第1消泡剤添加部31及び第2消泡剤添加部33を備え、第1消泡剤添加部31及び第2消泡剤添加部33から第1消泡剤及び第2消泡剤が添加される。
【0034】
具体的に、第1消泡剤添加部31は、第1消泡剤を収容する第1消泡剤収容部311を有し、この第1消泡剤収容部311内の第1消泡剤は第1供給路313を通じて液体Lへと添加可能である。第1供給路313の途中には第1ポンプ315が設けられており、この第1ポンプ315の出力に応じた量の第1消泡剤が液体Lへと添加される。同様に、第2消泡剤添加部33は、第2消泡剤を収容する第2消泡剤収容部331を有し、この第2消泡剤収容部331内の第2消泡剤は第2供給路333を通じて液体Lへと添加可能である。第2供給路333の途中には第2ポンプ335が設けられており、この第2ポンプ335の出力に応じた量の第2消泡剤が液体Lへと添加されることになる。
【0035】
制御部50は、前述の補正された発泡の程度に基づいて、第1ポンプ315及び第2ポンプ335の出力を増減する制御を行う。これにより、第1消泡剤及び第2消泡剤の添加量が適切化される。なお、添加量の調節は、第1ポンプ315及び第2ポンプ335の出力の増減に限定されず、例えば図示しない弁の開度の増減等であってよい。
【0036】
2種以上の消泡剤の添加量を調節する場合、各消泡剤の添加量調節の基礎とされる測定対象は同一又は異なってもよく、また調節態様(例えば、添加量の増減の幅及びタイミング、増減の速度)が同一又は異なってもよい。
【実施例】
【0037】
図1の処理系10を製紙工場において用い、具体的に、白水に添加する消泡剤として、高級アルコール系エマルション型消泡剤「クリレス526」(栗田工業社製)のみ、第1ポンプ315としてダイヤフラムポンプ「EHN−C31VH4Y−V」(イワキ社製)を用いた。レベル計41としては超音波レベル計「OM7−1S」(オーミック電子社製)、水位計43としては圧力式水位計「JW−8300−02M」(センシズ社製)を用い、これらを155cmの間隔をあけて固定した。制御部50としてはワンループコントローラ「ABH2」(エム・システム社製)を用いた。
【0038】
レベル計41と水位計43との間隔から、レベル計41による第1距離と、水位計43による第2距離との和を差し引いた値(つまり、泡の高さ)の最小値(つまり、第1距離の最大値を用いたときの算出値)の増減に応じて、消泡剤の添加量を増減させた。具体的には、当該値が1.5cm未満である場合には、消泡剤の添加量を最小値で一定とし、当該値が1.5cmを超えた場合には、その値の大きさに依存して消泡剤の添加量を増加させた。その結果、液面が変動したにもかかわらず、消泡剤の一日あたりの平均使用量は180kg/日であり、目視によって消泡剤の添加量を調節した比較例の230kg/日に比べ、削減された。また、製造された紙において、白水中の気泡に起因する欠点数が比較例に比べて40%低減し、損紙が比較例に比べて20%低減した。更に、比較例では約1回/日の頻度で発生した断紙が、実施例では0.5回/日に低減した。
【符号の説明】
【0039】
10 処理系
20 処理部
21 タンク
23 移送路
30 添加系
31 第1消泡剤添加部
311 第1消泡剤収容部
313 第1供給路
315 第1ポンプ
33 第2消泡剤添加部
331 第2消泡剤収容部
333 第2供給路
335 第2ポンプ
40 検知部
41 レベル計(非接触型検出手段)
43 水位計(液面高さ検出手段)
45 固定部
50 制御部
L 液体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発泡を生じ得る液体に対し消泡剤を添加する方法であって、
前記液体の液面における発泡の程度を、前記液面から離間して位置する非接触型検出手段を用いて定量的に検出し、
定量的に検出された発泡の程度を、前記液面の高さによって補正し、
補正された発泡の程度に基づいて、前記消泡剤の添加量を調節する工程を有する方法。
【請求項2】
前記定量的な検出は、前記非接触型検出手段から前記液面までの第1距離の検出を含む請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記消泡剤の添加量の調節は、前記第1距離が前記補正された値の増減に基づいて、減増させることで行う請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記液面よりも下の位置に配置された液面高さ検出手段によって、前記位置から前記液面への第2距離を測定することで、前記液面の高さを検出する工程を更に有する請求項2又は3記載の方法。
【請求項5】
前記液面高さ検出手段と前記非接触型検出手段との間隔を固定する請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記補正は、前記非接触型検出手段と前記液面高さ検出手段との間隔から、前記第1距離及び前記第2距離の和を差し引くことを含む請求項4又は5記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−27853(P2013−27853A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−167676(P2011−167676)
【出願日】平成23年7月29日(2011.7.29)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】