説明

消泡剤組成物

【課題】固形化しやすいとされてきた高級脂肪酸残基、なかでもラウリン酸を含有することにより強塩基性の条件下であっても即座に優れた消泡効果を発揮する消泡剤組成物、好ましくは製糖工程用の消泡剤組成物を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明者らは、ラウリン酸を脂肪酸全体の20質量%以上含有し、かつ炭素数8〜12の脂肪酸と炭素数14〜22の脂肪酸の質量比が95:5〜40:60である多価アルコール脂肪酸エステルを含有させることで課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は安全かつ有効な消泡剤組成物に関するもので、詳しくは製糖工程用の消泡剤組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
多くの産業の生産工程、処理工程において起泡によるトラブルが数多く報告されており、泡の発生による生産効率の低下、歩留まりの減少、品質の低下等製造に著しく影響を与える事がある。(例えば製糖工程において、原料の甜菜には糖分以外に有機酸、タンパク質、繊維成分等の不純物を含むため、製造工程中で起泡、発泡が問題となることがある。)
【0003】
製糖工程について甜菜糖を例にとって説明する。甜菜の製造工程は付着土砂や夾雑物を洗浄除去した後、裁断機により細かく切断し、浸出塔で70−80℃の温水中にて糖分を抽出する。糖分抽出液には有機酸、タンパク質、ペクチン、繊維物等の不純物が多く含まれる為、生石灰を添加し凝集させる。次に炭酸ガスを吹き込み、生じた炭酸カルシウムに非糖分凝集物を吸着させ、ろ過機で除去する(この工程を清澄工程又は清浄工程という)。その後糖液をイオン交換樹脂に通液させ更に精製を進め、濃縮、分蜜、結晶化等の工程を経て、製品化される。分密工程で生じる濾液(廃糖蜜)には、まだ多量の糖分が含まれているため、クロマト分離やステフェン法により残存スクロースを回収している。(生石灰を加え、溶存スクロースとカルシウムを反応させ、カルシウムサッカレートとして濾別、回収)
【0004】
清浄工程や残存スクロース回収工程に用いる処理液は糖分以外にも多くの不純物を含むため、工程中で堅固な泡沫が生じる。作業の効率化や生産性の向上を目的に消泡剤が使用されることがある。
【0005】
従来、食品の製造工程用消泡剤として大豆油、菜種油などの植物油や、食品添加物として認められているポリジメチルシロキサンとニ酸化ケイ素とからなるシリコーン樹脂が広く使用されているが、シリコーン樹脂単独では、水系への分散性が低いため消泡効果が発揮されない。そこで、通常は、食品添加物として認可された乳化剤を用いてシリコーン樹脂を乳化し水系への分散性を高めたものが使用されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0006】
製糖工程においてもシリコーン樹脂からなる消泡剤組成物が使用されているが、生石灰を用いる清澄工程や、ステフェン法によるショ糖回収工程では、生石灰の作用により被処理液が強塩基性となっているため、シリコーン樹脂の乳化粒子は安定性が低下して凝集及び析出するので、消泡効果が低下する問題が発生している。
【0007】
また、所定のプロピレングリコール脂肪酸エステル及びグリセリン脂肪酸エステルを含有し、強塩基下でも消泡効果を発揮する消泡剤が使用されている(例えば、特許文献2又は3参照。)が、これは消泡剤が室温以下の温度で固化することを避けるために、構成する脂肪酸がカプリル酸及びオレイン酸を主に含むことを特徴とするものであり、本来消泡効果を発現しやすいカプリル酸及びオレイン酸以外の高級脂肪酸、例えば、やし油系脂肪酸、牛脂系脂肪酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸等に由来する高級脂肪酸残基を含有していないため、その抑泡、消泡効果は十分でない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公昭58−7335号公報
【特許文献2】特許第4347307号公報
【特許文献3】特許第4588683号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記問題を解決するためになされたもので、固形化しやすいとされてきた高級脂肪酸残基、なかでもラウリン酸を含有することにより強塩基性の条件下であっても即座に優れた消泡効果を発揮する消泡剤組成物、好ましくは製糖工程用の消泡剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記目的を達成するために鋭意検討を行った結果、ラウリン酸を脂肪酸残基として含有する多価アルコール脂肪酸エステルに非常に高い抑泡、消泡効果を有することを見出した。ラウリン酸は従来、室温以下の温度で固形化しやすいと考えられていたが、所定の脂肪酸からなる多価アルコール脂肪酸エステルであれば室温以下の温度で固形化が抑えられ、かつ強塩基性の条件下であっても優れた消泡効果を即座に発揮することを見出し、本発明を成すに至った。
【0011】
即ち本発明は、ラウリン酸を脂肪酸全体の20質量%以上含有し、かつ炭素数8〜12の脂肪酸と炭素数14〜22の脂肪酸の質量比が95:5〜40:60であることを特徴とする多価アルコール脂肪酸エステルを含んでなる消泡剤組成物を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の消泡剤組成物は清浄工程(清澄工程)や、残存スクロース回収工程等における処理液が強塩基性条件下でも優れた消泡効果を発揮することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明につき詳細を説明する。本発明は食品用消泡剤の製造方法及び該食品用消泡剤組成物を使用した食品に関するものである。
なお、本明細書において「室温」とは25℃を意味する。
【0014】
本発明はラウリン酸を脂肪酸全体の20質量%以上含有し、かつ炭素数8〜12の脂肪酸と炭素数14〜22の脂肪酸の質量比率が95:5〜40:60であることを特徴とする多価アルコール脂肪酸エステルを含んでなる消泡剤組成物である。
【0015】
本発明における多価アルコール脂肪酸エステルは脂肪酸と多価アルコールのエステル化、もしくは油脂と多価アルコールのエステル交換により得ることができる。また製造方法を短縮する目的でエステル化とエステル交換を同時に進行させて多価アルコール脂肪酸エステルを得てもよい。
【0016】
多価アルコール脂肪酸エステルを構成する脂肪酸は特に限定されないが、炭素数6以上、好ましくは8〜22の飽和あるいは不飽和脂肪酸であり、その例としては、やし油系脂肪酸、牛脂系脂肪酸、カプロン酸、カプリル酸、オクチル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、パルミトオレイン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ベヘニン酸、エルカ酸の他、分子中に水酸基を有するリシノール酸及びこれらの縮合物等が挙げられるが、なかでも消泡剤組成物の性能と低温の安定性を考慮するとカプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、パルミトオレイン酸、ステアリン酸、オレイン酸が好ましい。これらは1種又は2種以上組合せて用いてもよい。
【0017】
なお、本発明の消泡剤組成物に使用される多価アルコール脂肪酸エステルの構成脂肪酸は高い消泡性を得る観点から、ラウリン酸を20質量%以上、好ましくは30質量%以上、さらに好ましくは45質量%以上含有することがよい。一方、室温以下の温度での固形化を防ぐために上限は80質量%未満、好ましくは70質量%未満であることがよい。また炭素数8〜12の脂肪酸と炭素数14〜22の脂肪酸の質量比率は幅広い液性の媒体に対して消泡効果を発揮するという点で95:5〜40:60、好ましくは95:5〜50:50、さらに好ましくは95:5〜60:40であることがよい。
【0018】
多価アルコールは2〜8価のものが挙げられる。2価アルコールとしては例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサメチレングリコール、ソルバイト等が挙げられる。
【0019】
また3価以上のアルコールとしては、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン等の3価アルコール、ペンタエリスリトール、ジグリセリン、ソルビタン等の4価アルコール、アドニトール、アラビトール、キシリトール、トリグリセリン等の5価アルコール、ジペンタエリスリトール、ソルビトール、マンニトール、イジトール、イノシトール、ダルシトール、タロース、アロース等の6価アルコール、蔗糖等の8価アルコール等が挙げられる。
【0020】
これらのうち、多価アルコールとしては安定的に入手可能で安価なものであり、食品添加物に適合するという点でプロピレングリコール及び/又はグリセリンであることが好ましい。またその質量比率は消泡剤組成物の室温以下での安定性を有するという点で100:0〜50:50、好ましくは100:0〜60:40、さらに好ましくは100:0〜65:35がよい。
【0021】
本発明のプロピレングリコール脂肪酸エステル中に含まれるジエステル含量は、高い消泡効果を発揮するという点で60質量%未満、好ましくは45質量%未満、さらに好ましくは30質量%未満であることがよい。
【0022】
また、本発明に使用される多価アルコール脂肪酸エステルの構成脂肪酸は消泡の持続性の面でカプリル酸とオレイン酸残基の合計が脂肪酸全体の50mol%未満好ましくは45mol%未満、更に好ましくは40mol%未満であることがよい。前記割合が50mol%以上であると、消泡効果の持続性が損なわれる。
【0023】
[用途]
本発明の消泡剤組成物は、その用途が特に限定されるものではなく、広い用途に用いることができるが、好ましくは生体への安全性が要求される工程、例えば、食品、医薬品、飼料、肥料、衣料品、紙、塗料等の製造工程に用いることができ、より好ましくは食品製造工程用、更により好ましくは製糖工程用である。該製糖工程としては、例えば、生石灰を用いる清澄工程(即ち、粗製糖液に生石灰を加え、該粗製糖液から該不純物を析出させて分散液を得、次いで該分散液に炭酸ガスを通じて中和することにより析出した炭酸カルシウムに該不純物を吸着させ、該不純物を吸着させた該炭酸カルシウムを該吸着後の該分散液から沈殿等により分離することにより該不純物を除去する工程)、ステフェン法によるショ糖回収工程(即ち、廃糖蜜に生石灰を加え、該廃糖蜜中のショ糖と該生石灰とを反応させることによりショ糖三石灰を析出させて分散液を得て、該分散液から該ショ糖三石灰を沈殿等により分離することにより該ショ糖を回収するショ糖回収工程)等が挙げられる。
【0024】
本発明の消泡剤組成物の添加量は、例えば、上記被処理液100質量部に対して、0.0001〜1質量部、好ましくは0.0005〜0.1質量部である。該添加量がこの範囲内であると、良好な消泡効果が得やすく、得られるショ糖の品質を良好に保ちやすい。
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0025】
[実施例1〜32及び比較例1〜14]
エステル化及び/又はエステル交換により表1〜3(実施例)並びに表4及び5(比較例)に示した配合比(質量部)の消泡剤組成物を得た。
【0026】
【表1】

【0027】
【表2】

【0028】
【表3】

【0029】
【表4】

【0030】
【表5】

【0031】
[機能性]
試験液として、甜菜製糖工程中の80℃に保温した清澄工程液200mlを用いた。概液をジューサーミキサーに入れ、上記消泡剤組成物20μlを添加した後、30秒攪拌した。攪拌停止直後からの消泡速度を目視にて確認した後、攪拌停止から15秒後と1分後に、ジューサーミキサーを上方から見たときに泡が残存していない液面の割合を目視で測定し、10段階で評価を行った。(最もよいものを10とした。)
結果を表6〜8に示す。
【0032】
[低温安定性]
消泡剤組成物の0℃3日保存における状態を確認し、5段階で評価を行った。
評価 5:透明液状
4:一部は白濁するが、全体的に流動性がある
3:全体的に白濁するが流動性がある
2:部分的に固体状で流動性がない部分がある
1:全体が固体状で流動性がない
結果を表6〜8に示す。
【0033】
[持続性]
上記記載の消泡剤組成物を甜菜製糖工程中の清澄工程液に20μl添加し、その試験液を24時間静置した後に[機能性]と同様の方法にて消泡試験を実施した。このときの消泡性を5段階で評価した。
評価 [機能性]に準じて行った。
結果を表6〜8に示す。
【0034】
これら3項目を指標に総合評価を行った。なお、消泡剤組成物に求められる効果のうち最も重要なポイントは消泡性である。これにより機能性にかかるポイントを10段階で評価した。また低温安定性については0℃3日保存の状態で流動性があることが最低限の条件とし、評価を行った。
結果を表6〜8に示す。
【0035】
【表6】

【0036】
【表7】

【0037】
【表8】

【0038】
表1及び表2に示す結果の比較から分かるように、本発明の消泡剤組成物は、該液に対して優れた消泡効果を有している。また低温安定性、消泡持続性にも優れる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の消泡剤組成物は、その用途が特に限定されるものではなく、広い用途に用いることができるが、無害であるので好ましくは生体への安全性が要求される工程、例えば、食品、医薬品、飼料、肥料、衣料品、紙、塗料等の製造工程に用いることができ、より好ましくは食品製造工程用である。本発明の消泡剤組成物は、更に、生石灰を用いる清澄工程やステフェン法によるショ糖回収工程等における強塩基性の条件下でも優れた消泡効果を発揮するため、特に好ましくは製糖工程用の消泡剤として使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラウリン酸を脂肪酸全体の20質量%以上含有し、かつ炭素数8〜12の脂肪酸と炭素数14〜22の脂肪酸の質量比率が95:5〜40:60であることを特徴とする多価アルコール脂肪酸エステルを含んでなる消泡剤組成物。
【請求項2】
多価アルコール脂肪酸エステルがプロピレングリコール脂肪酸エステル及び/又はグリセリン脂肪酸エステルであり、プロピレングリコール脂肪酸エステルとグリセリン脂肪酸エステルの質量比率が100:0〜50:50であることを特徴とする請求項1記載の消泡剤組成物。
【請求項3】
プロピレングリコール脂肪酸エステル中のジエステル含量が60質量%未満であることを特徴とする請求項1又は2記載の消泡剤組成物。
【請求項4】
カプリル酸とオレイン酸の合計が脂肪酸全体の50mol%未満であることを特徴とする多価アルコール脂肪酸エステルを含んでなる請求項1〜3いずれか記載の消泡剤組成物。
【請求項5】
食品製造工程用である請求項1〜4いずれか記載の消泡剤組成物。
【請求項6】
製糖工程用である請求項1〜5いずれか記載の消泡剤組成物。
【請求項7】
請求項1〜6いずれか記載の消泡剤組成物を用いることを特徴とする消泡方法。

【公開番号】特開2013−17908(P2013−17908A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−150863(P2011−150863)
【出願日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【出願人】(000204181)太陽化学株式会社 (244)
【Fターム(参考)】