消泡剤
【課題】
食品の製造時の起泡を効果的に抑制し、また持続的な消泡効果を有する消泡剤を提供する。
【解決手段】
平均粒子径が0.1〜0.5μmの乳化物からなる消泡剤であって、当該乳化物が(A)HLBが2〜8の乳化剤、及び(B)ポリグリセリン脂肪酸エステル、レシチン及びショ糖脂肪酸エステルから選ばれる1種以上を含有する。
食品の製造時の起泡を効果的に抑制し、また持続的な消泡効果を有する消泡剤を提供する。
【解決手段】
平均粒子径が0.1〜0.5μmの乳化物からなる消泡剤であって、当該乳化物が(A)HLBが2〜8の乳化剤、及び(B)ポリグリセリン脂肪酸エステル、レシチン及びショ糖脂肪酸エステルから選ばれる1種以上を含有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の界面活性剤、レシチン等を組み合わせてミセル化して得られる乳化物からなる消泡剤に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、様々な飲食品が加工・製造されている。その製造には多種多様な原材料が用いられ、システム化された製造工程下で飲食品が作られている。
【0003】
そのような飲食品には原材料としてタンパク質や糖分が含まれており、これらの成分が濃縮や撹拌等の製造工程中の操作において気泡を生じる場合がある。このような気泡は、例えば飲料の製造工程中では、噴きこぼれ(オーバーフロー)を生じたり、配管ポンプの消耗を早めたり、缶や瓶への充填を妨げる場合がある。また、煮物等の加工食品では、煮くずれやコゲの原因となり、加工食品の商品価値を低下させてしまう。更には発酵食品や豆腐の製造時に生じる気泡が問題となっている。
【0004】
消泡剤としては、シリコーンが知られている。しかしシリコーンは水不溶性であり、飲食品製造に使用した際に製造容器に付着し、その効果を奏しないことがある。また、飲食品の調製直後は消泡効果を有しているが、経時的に効果が低下していくため、飲食品の製造中(添加直後)には消泡効果があるが、製造工程終盤には消泡効果が失われ、再度気泡を生じてしまうという問題があった。また、飲食品の製造直後は消泡効果があるが、飲食品の流通過程や販売過程での経時変化により消泡効果が失われ、消費者の手元に届いた段階では気泡が生じやすくなってしまうという問題があった。
【0005】
このような食品製造時から飲食品の完成後における持続的な気泡の発生を防止するために、様々な消泡剤が検討されている。
【0006】
具体的には、低級脂肪酸ジグリセリドの他、レシチンおよび/または無機質担体を含有するものであることを特徴とする食品用液状消泡剤(特許文献1)、HLB値が7以下の乳化剤を、HLB値が10以上の乳化剤を用いて乳化分散し水分散エマルジョン液とし、次いでこの水分散エマルジョン液を80℃よりも高い温度領域に於いて熱処理することを特徴とする飲料用消泡剤の製造方法(特許文献2)、グリセリンの重合度が6以上、かつHLB値が7以下であるポリグリセリン脂肪酸エステルを1種以上含有してなることを特徴とする飲料用消泡剤(特許文献3)、特定の性質を有するポリグリセリン脂肪酸エステルを有効成分とする消泡剤(特許文献4)、油溶性ショ糖脂肪酸エステルを乳化分散したO/W型エマルジョンにオイル成分を添加することを特徴とする、水に易分散性のオイル配合製剤の製造方法(特許文献5)、構成脂肪酸の炭素数が14〜24のジグリセライドの1種又は2種以上と、蔗糖脂肪酸エステルまたは/およびポリグリセリン脂肪酸エステルとを必須成分として配合してなることを特徴とする食品用消泡剤(特許文献6)、ポリグリセリン脂肪酸エステルを有効成分とする消泡剤であって、該ポリグリセリン脂肪酸エステルを構成するポリグリセリンの平均重合度が4〜12、構成脂肪酸の60重量%以上が炭素数16〜22の飽和脂肪酸、鹸化率が130〜190であるポリグリセリン脂肪酸エステルであることを特徴とする消泡剤(特許文献7)、食品用乳化剤を有効成分とし、粒度分布が5〜40μmであるコロイダル粒子が食品用乳化剤の70%以上占有することを特徴とする食品用消泡剤組成物(特許文献8)、乳化剤を有効成分とし、糖類、水および/または油脂類からなる消泡剤組成物(特許文献9)、(1)主構成脂肪酸が炭素数12〜18の飽和脂肪酸であってHLB値が7以下であるものと、(2)主構成脂肪酸が炭素数6〜10の飽和脂肪酸もしくは炭素数12〜22の不飽和脂肪酸であってHLB値が7以下である脂肪酸エステルの組み合わせを含む缶入り飲料(特許文献10)、グリセリンの重合度が6以上、かつHLB値が7以下であるポリグリセリン脂肪酸エステルを1種以上含有してなることを特徴とする飲料用消泡剤(特許文献11)、ポリグリセリン脂肪酸エステルを有効成分とする消泡剤であって、該ポリグリセリン脂肪酸エステルが特定の群から選ばれる一つ又は二つ以上のものであることを特徴とする飲料用消泡剤(特許文献12)、飲料の主原料を混合し、均質機により均質化を行う均質化工程と、均質化後の主原料に消泡剤を添加する消泡剤添加工程とを有し、前記消泡剤が(A)炭素数が6〜12の飽和脂肪酸トリグリセライド、(B)エタノール及びプロピレングリコールよりなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする飲料の製造方法(特許文献13)等の技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平04−228040号公報
【特許文献2】特開平06−217715号公報
【特許文献3】特開平08−70827号公報
【特許文献4】特開平09−187257号公報
【特許文献5】特開2000−61289号公報
【特許文献6】特開平06−245718号公報
【特許文献7】特開平09−224620号公報
【特許文献8】特開平09−248140号公報
【特許文献9】特開平06−31111号公報
【特許文献10】特開平06−14713号公報
【特許文献11】特開平08−70827号公報
【特許文献12】特開平09−187257号公報
【特許文献13】特開2008−99609号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】「食品開発と界面活性剤 −その基礎と応用」 (株)光琳1990年3月発行 渡辺隆夫 著
【0009】
これらの技術で利用されている消泡剤は、何れも界面活性効果を有する成分が利用されている。一般には水に難溶性の低HLB値の活性剤が使用されるが、必ずしも低HLB値の活性剤であれば消泡作用があるとはいえず、どのような活性剤を使用するかについては、対象となる気泡の性質によって選択する必要があることが指摘されている(非特許文献1)。
【0010】
しかし、低HLB値の界面活性剤とは、油溶性であることを意味し、このような界面活性剤をそのまま食品原料と混合して製造すると、製造容器やラインに界面活性剤が付着する、食品自体の見た目が悪い、風味や食感に影響を及ぼすなど問題視されていた。
【0011】
この点を改良するために、特許文献10〜12では、水性溶媒への分散性を考慮して、HLB値が10以上の親水性乳化剤を用いてエマルジョンとして使用することが好ましいとされている。
【0012】
これら従来技術で開示されている消泡剤は、いずれも食品製造工程における一時期に限った起泡を抑制するものである。実際の食品製造においては、原料の混合・撹拌を経て加熱殺菌、充填等を経るものがあり、これらはその都度気泡を生じる可能性があるため、継続的に効果のある消泡剤を飲食品の製造当初に添加するか、気泡を生じがちな工程毎に消泡剤を添加する必要があった。しかし、消泡効果を有する界面活性剤は一度加熱処理を行うことで、その効果が失われてしまったり、油脂の分離や凝集を生じ、食品製造における起泡への対応としては十分な効果を奏しているとはいえなかった。
【0013】
また、特許文献10〜12は、缶入り飲料を対象とした消泡剤であり、従来問題とされていた低HLB値の乳化剤を水に分散させるために別の乳化剤でエマルジョンとされているものである。従って、非特許文献1に指摘のあるように、気泡の原因となる成分によって使用する活性剤を選択しなければならない状況を勘案すると、特許文献10〜12には他の加工食品における効果は開示されていないに等しい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本願発明は、食品の製造工程中及び飲食品の完成後における起泡という問題を解決することを目的として、鋭意検討され得られた知見に基づくものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本願発明者は、上記課題を解決するために検討を行った結果、低HLB値の界面活性剤を高HLB値の界面活性剤でミセル化し乳化物とすることにより、飲食品の製造工程中及び完成後の消泡効果に優れた消泡剤とすることができるとの知見を得て、本願発明を完成した。
【0016】
即ち本願発明は、平均粒子径が0.1〜0.5μm未満の乳化物からなることを特徴とする消泡剤に関する。更には当該乳化物が(A)HLBが3〜8である乳化剤、(B)ポリグリセリン脂肪酸エステル、レシチン、及びショ糖脂肪酸エステルから選ばれる1種以上を含有するものであることを特徴とする消泡剤を提供するものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によって得られる消泡剤によれば、食品の製造中及び完成後においても効果的に飲食品への消泡効果を有する消泡剤を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】消泡剤無添加の加熱後の果汁入り糖液
【図2】消泡剤を0.05部添加した加熱後の果汁入り糖液
【図3】消泡剤を0.1部添加した加熱後の果汁入り糖液
【図4】消泡剤を0.2部添加した加熱後の果汁入り糖液
【図5】シリコーン製剤を添加した加熱後の果汁入り糖液
【図6】消泡剤無添加の加熱後の豆乳
【図7】消泡剤を0.1部添加した加熱後の豆乳
【図8】シリコーン製剤を添加した加熱後の豆乳
【図9】消泡剤無添加の調製直後の脱脂粉乳水
【図10】消泡剤無添加で5℃1日保存後に攪拌した脱脂粉乳水
【図11】消泡剤0.1部添加した調製直後の脱脂粉乳水
【図12】消泡剤0.1部添加して5℃1日保存後に攪拌した脱脂粉乳水
【図13】シリコーン製剤を添加した調製直後の脱脂粉乳水
【図14】シリコーン製剤を添加して5℃1日保存後に攪拌した脱脂粉乳水
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本発明を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0020】
本発明は、平均粒子径が0.1〜0.5μmに調製された乳化物からなる消泡剤に関するものである。好ましくは、次の乳化剤(A)及び(B)を構成成分として調製される乳化物であり、当該乳化物は従来ない優れた効果を有する消泡剤として利用できる技術に関する。
【0021】
本発明にかかる消泡剤は、特定の乳化剤、更には食用油脂を構成成分として、平均粒子径が0.1〜0.5μmになるように調製された乳化物からなるものである。かかる乳化物の平均粒子径が0.1μm以下、或いは0.5μmを超えると、消泡効果が十分に発揮されず、或いは消泡効果が得られても溶液に油浮き等が生じ、好ましくない。尚、乳化物の平均粒子径は、既存の測定装置、例えばレーザー回折式粒度分布計SALD−1100(株式会社島津製作所製)にて求めることができる。
【0022】
本発明で乳化剤(A)として使用する乳化剤は、従来飲食品製造に利用されているものであり、HLBが2〜8、好ましくは5〜7であるものが好適に例示できる。具体的にはショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリド等を例示することができ、脂肪酸の種類としては特に制限されるものではないが、構成脂肪酸の炭素数が12〜22の飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸のものが挙げられ、ベヘニン酸、オレイン酸が好適に例示できる。これらを1種又は2種以上組み合わせて利用することができる。具体的な例としてはポリグリセリンエルカ酸エステル、ショ糖オレイン酸エステルが挙げられる。
【0023】
また、乳化剤(B)として利用するポリグリセリン脂肪酸エステルは、飲食品製造に一般的に利用できるものであれば制限無く利用可能であり、好ましくはHLBが10以上のものである。具体的には、HLBが10以上であり、構成脂肪酸の炭素数が10〜18の飽和脂肪酸、若しくは炭素数12〜22の不飽和脂肪酸を構成脂肪酸とするポリグリセリン脂肪酸エステルであればよい。
【0024】
本発明で用いるレシチンは、大豆レシチン、卵黄レシチンの様な天然由来の他、合成レシチン及びこれらを組み合わせて使用してもよい。好ましくは、酵素分解レシチン等の親水性の高いリゾレシチンがよい。
【0025】
また、本発明で利用可能なショ糖脂肪酸エステルは、上述のポリグリセリン脂肪酸エステルで利用可能な構成脂肪酸からなる、HLB10以上のものが好ましい。
【0026】
本発明は、これら乳化剤(A)及び(B)を組み合わせて使用することで得られる消泡剤であり、その配合割合は乳化剤(A)1質量部に対して乳化剤(B)が0.02〜0.5質量部、好ましくは0.02〜0.2質量部が例示できる。配合割合がこの範囲にない場合、消泡効果が不十分となり本発明の目的を達成することができない。
【0027】
さらに本発明では、食用油脂(C)を上記乳化剤(A)及び(B)に加えて使用することができる。当該食用油脂を併用することにより、消泡効果の増強を見込むことができる。食用油脂の添加量は、上述の乳化物100質量部中2〜20質量部含まれるように添加すれば良い。食用油脂(C)の添加量がこの範囲より少ないと消泡効果が充分に得られず、多くなると調製後の飲食品において油分量の多さが目立つようになる。本発明で使用可能な食用油脂の例としては、一般に入手できるものであれば利用でき、例えば、魚油、卵黄油、牛脂、豚油、ラード、ナタネ油、コーン油、大豆油、綿実油及びこれらを精製したサラダ油などが挙げられる。
【0028】
本発明にかかる消泡剤は、上記乳化剤を用いて常法により乳化物として調製することにより得ることができる。当該乳化物の調製には特別な製造装置や条件は必要でなく、常法により調製できる。一例を挙げると、乳化剤(B)をイオン交換水に添加・加熱溶解し、別途乳化剤(A)及び食用油脂(C)を加熱溶解したものと混合、イオン交換水にて全量補正後、高圧乳化装置にて所定の粒子径になるように調製して乳化物とすることにより、本願発明に係る消泡剤を得ることができる。
【0029】
かくして得られた乳化物を飲食品の消泡剤として使用することにより、従来の消泡剤では得られなかった効果を享受することができる。対象となる飲食品は、加熱調理を経て製造される飲食品が対象であり、例えば加工食品の製造段階における起泡を防止し、噴きこぼれや製造設備の消耗を抑える効果を発揮する。また、加熱処理時における噴きこぼれを抑えるため、煮物の煮くずれを防ぐことで商品価値の低下を防止し、噴きこぼれによる歩留まりを向上させ、製造設備の汚れを効果的に防止することができる。
【0030】
本発明にかかる消泡剤を利用できる飲食品として、具体的には液糖、シロップ、ジャム、フルーツソース、フルーツフィリングといった製造時に加熱工程を経て製造される食品の他、大豆タンパク含有食品(豆乳、豆腐)、ゼリーやプリンなどのデザート類、飲料(お茶、炭酸飲料、果汁飲料、清涼飲料など)、アルコール類(チューハイ、リキュール)、乳製品(乳飲料、ヨーグルト、ドリンクヨーグルトなど)、乳タンパクを含んだ飲食品(パスタソース、クリームソースなど)、電子レンジ等の加熱調製器を使用し調理する食品などが例示できる。
【実施例】
【0031】
以下に、本発明を実施例にて説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。尚、下記処方中の単位は特に言及しない限り「%」は「質量%」であることを意味する。
【0032】
<乳化物の調製>
下記各試験にて定めた所定の乳化剤(A)及び(B)、食用油脂(C)を用いて、本発明に係る乳化物を調製し、消泡剤とした。得られた消泡剤を用いて下記試験1〜4を行い、消泡効果と調製後の溶液の状態を目視により確認した。
【0033】
<調製方法>
1 所定量の乳化剤(B)を60部のイオン交換水に添加し、加熱溶解した。
2 所定量の乳化剤(A)と食用油脂(C)を加熱・混合溶解した後、1と混合した。
3 2で混合した溶液が100部になるように、イオン交換水にて全量補正した。
4 得られた溶液を高圧乳化装置にて所定の粒子径になるように処理し、試料とした。
得られた乳化物の平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布SALD−1100(株式会社島津製作所製)にて体積換算で得られた粒度分布よりメジアン径を求めた。
【0034】
<消泡効果の確認方法>
100mlメスフラスコに4%脱脂粉乳水溶液69.93部と、上記調製方法にて得られた消泡剤0.07部を添加し、全体で70部とした。これを縦型振とう機にて振とうし、泡立ち量と消泡時間を評価し、消泡効果について評価した。また、振とう後の溶液の状態について、目視にて評価した。
【0035】
<評価基準>
・消泡効果
◎ ・・・ 消泡効果高い
○ ・・・ 消泡効果あり
△ ・・・ 消泡効果低い
× ・・・ 消泡効果なし
・溶液の状態
◎ ・・・ 状態良好(析出物なし)
○ ・・・ 状態やや良好(少し析出物あり)
△ ・・・ 析出物あり
× ・・・ 析出物多く、油浮きあり
【0036】
試験1
下記の乳化剤(A)及び(B)、食用油脂(C)を用いて所定の平均粒子径を有する消泡剤を調製し、消泡効果と溶液の状態を確認した。
A : ポリグリセリンエルカ酸エステル(HLB 5.0) 20部
B : ショ糖ステアリン酸エステル(HLB 16) 2部
酵素分解レシチン 0.5部
C : 食用油脂(サラダ油) 10部
【0037】
【表1】
【0038】
上記結果より、平均粒子径を0.05μmとなるように調製した消泡剤では、消泡効果が不十分であったとの結果が得られた。また、平均粒子径を0.7μm、1.0μmとした消泡剤では、消泡効果は得られたものの溶液に析出や油浮きが生じ、好ましくない状態となっていた。
【0039】
一方、平均粒子径を0.1〜0.5μmとして調製した消泡剤では、消泡効果、溶液の状態ともに良好な結果が得られた。
【0040】
試験2
表2に記載の乳化剤(A)及び(B)、食用油脂(C)の所定量を組み合わせて試験1と同様の方法で乳化物を調製し、本発明にかかる消泡剤(平均粒子径0.1μm)として、消泡効果と溶液の状態を確認した。
【0041】
【表2】
【0042】
※使用した乳化剤
<乳化剤A>
HLB 2.0 モノグリセリン脂肪酸エステル:モノグリセリンステアリン酸エステル
HLB 5.1 ポリグリセリン脂肪酸エステル:ポリグリセリンエルカ酸エステル
HLB 7.3 ポリグリセリン脂肪酸エステル:ポリグリセリンオレイン酸エステル
HLB 3.3 ショ糖脂肪酸エステル:ショ糖脂肪酸ベヘニン酸エステル
HLB 11.0 ショ糖脂肪酸エステル:ショ糖脂肪酸ステアリン酸エステル
HLB 13.0 ショ糖脂肪酸エステル:ショ糖脂肪酸ステアリン酸エステル
<乳化剤B>
ポリグリセリン脂肪酸エステル:ポリグリセリンオレイン酸エステル(HLB16)
レシチン:酵素分解レシチン
ショ糖脂肪酸エステル:ショ糖ステアリン酸エステル
【0043】
上記試験2の結果より、テスト区1〜6においては、HLBが11.0、13.0の乳化剤Aを使用したテスト区5及び6で、充分な消泡効果が得られなかった。
この結果より、乳化剤(A)のHLBが2.0〜8のものを利用することにより、消泡効果と良好な状態の溶液を得られることが明らかとなった。
【0044】
また、乳化剤(A)のみのテスト区7、乳化剤(B)のみのテスト区8及び食用油脂(C)のみのテスト区9では、いずれも消泡効果、溶液状態の何れかが満足できる結果ではなかった。次いで乳化剤(B)と食用油脂(C)を併用したテスト区10、乳化剤(A)と食用油脂(C)を併用したテスト区11でも充分な効果は得られなかった。
【0045】
テスト区7〜11の結果より、乳化剤(A)及び(B)、食用油脂(C)のいすれかを単独で使用しただけでは充分な消泡効果、良好な溶液状態を得ることができず、乳化剤(A)または乳化剤(B)のいずれかと食用油脂(C)の組み合わせでも良好な結果は得られなかった。
【0046】
テスト区12は乳化剤(A)と乳化剤(B)を併用したものであるが、消泡効果、溶液の状態ともに良好であったが、さらに食用油脂(C)を併用したテスト区13では、消泡効果が向上していた。このことから、乳化剤(A)と乳化剤(B)の組み合わせでも本発明の効果を得ることが可能であるが、さらに食用油脂(C)を併用することによって、効果の向上が確認された。
【0047】
さらにテスト区14〜17では、乳化剤(B)がレシチン、ショ糖脂肪酸エステルそれぞれ単独で使用した場合の効果と、ポリグリセリン脂肪酸エステルを含む併用の場合でも、充分な効果が得られることが明らかとなった。
【0048】
試験3
試験2におけるテスト区16の乳化剤(A)及び(B)、食用油脂(C)をもとに、表3に記載の乳化剤(A)及び(B)の所定量を組み合わせて消泡剤(平均粒子径0.1μm)を調製し、乳化剤(B)の添加量を変化させた場合の消泡効果と溶液の状態を確認した。
【0049】
【表3】
【0050】
本試験により、乳化剤(A)の添加量1に対し、乳化剤(B)の添加量を0.02〜0.5とすることで、消泡効果が充分に発揮され、溶液の状態も良好となることが判明した。
【0051】
試験4
試験3と同様に、試験2のテスト区16の乳化剤(A)及び(B)、食用油脂(C)の組合せにおいて、表4に記載の食用油脂(C)の所定量を組み合わせて消泡剤(平均粒子径0.1μm)を調製し、食用油脂(C)の添加量を変化させた場合の消泡効果と溶液の状態を確認した。
【0052】
【表4】
【0053】
本試験の結果、食用油脂(C)を乳化物100質量部中2〜20部含むように添加することで、消泡効果が得られた。食用油脂(C)の添加量が25部添加すると、溶液に析出物が多くなった。尚、添加しない場合(テスト区1)でも、消泡効果が得られ溶液の状態も良好であったが、併用することにより消泡効果が向上することが明らかとなった。
【0054】
以下に、実際の飲食品を調製して本発明に係る消泡剤の効果を確認した。
【0055】
試験5 果汁入り糖液での試験
下記処方に基づき、本発明に係る消泡剤を含む果汁入り糖液を調製し、消泡剤の効果を確認した。
【0056】
<消泡剤 処方>
A : ポリグリセリン脂肪酸エステル(HLB5.1) 20部
B : ポリグリセリン脂肪酸エステル(HLB16) 2部
レシチン 0.2部
C : 食用油脂 10部
【0057】
<果汁入り糖液 処方>
グラニュー糖 20部
パイナップル5倍濃縮果汁 2部
消泡剤 所定量
イオン交換水 残部
合計 100部
【0058】
<調製方法>
1 イオン交換水にグラニュー糖と濃縮果汁を添加し溶解した後、消泡剤を所定量添加した。
2 この溶液200部をステンレス製の手鍋(直径16cm)にて加熱し煮詰め、水分が蒸発してきた段階での泡立ちについての評価を行った。比較例として従来消泡剤として使用されているシリコーンを添加したものについて同様の操作を行った。結果を表5に示し、評価時の手鍋の写真を図1〜5に示す。
【0059】
【表5】
【0060】
上記試験より、本願発明に係る消泡剤を使用することにより、加熱時の気泡の発生を効果的に抑制できていることが明らかとなった。その効果は従来消泡剤として使用されているシリコーンよりも優れたものであることもわかった。
【0061】
試験6
続いて、豆乳を加熱した際の泡立ちの抑制について試験を行った。
【0062】
<消泡剤 処方>
A : ポリグリセリン脂肪酸エステル(HLB5.1) 20部
B : ポリグリセリン脂肪酸エステル(HLB16) 2部
レシチン 0.2部
C : 食用油脂 10部
【0063】
<豆乳処方及び試験方法>
市販されている豆乳99.9部に消泡剤0.1部添加し、これを100℃まで加熱した際の泡立ちを評価した。比較例として従来消泡剤として使用されているシリコーンを添加したものについて同様の操作を行った。その結果を表6に示し、評価時の写真を図6〜8として示す。
【0064】
【表6】
【0065】
本試験の結果より、消泡剤無添加の豆乳は、加熱により容器から溢れるほどの気泡を生じたが、本発明に係る消泡剤とシリコーンを添加した豆乳では、効果的に気泡の発生を押さえていた。
【0066】
試験7
脱脂粉乳水に本発明にかかる消泡剤を添加した際の、消泡効果の持続性試験を行った。
【0067】
<消泡剤 処方>
A : ポリグリセリン脂肪酸エステル(HLB5.1) 20部
B : ポリグリセリン脂肪酸エステル(HLB16) 2部
レシチン 0.2部
C : 食用油脂 10部
【0068】
<脱脂粉乳水の調製及び試験方法>
脱脂粉 5部
消泡剤 0.1部
交換水 94.9部
合計 100部
【0069】
1 5%脱脂粉乳水94.9部に消泡剤0.1部を添加し、撹拌機にて3,000rpmで1分間撹拌する。
2 この溶液を5℃の恒温器にて1日保管し、1日後再び撹拌機にて3,000rpmで1分間撹拌し、その状態を評価した。比較例として従来消泡剤として使用されているシリコーンを添加したものについて同様の操作を行った。その結果を表7に示し、評価時の写真を図9〜14として示す。
【0070】
【表7】
【0071】
本試験の結果より、消泡剤無添加の脱脂粉乳水では調製直後、5℃1日後ともに、攪拌により多量の気泡が生じていた。シリコーンを添加した脱脂粉乳水では、調製直後には消泡効果が発揮されていたが、5℃1日後では効果が認められず、気泡が生じていた。
【0072】
一方の本発明にかかる消泡剤を使用した脱脂粉乳水では、調製直後、5℃1日後ともに、優位な消泡効果が認められた。これにより、本発明により得られる消泡剤は、調製直後だけでなく持続して消泡効果を有していることが示された。
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の界面活性剤、レシチン等を組み合わせてミセル化して得られる乳化物からなる消泡剤に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、様々な飲食品が加工・製造されている。その製造には多種多様な原材料が用いられ、システム化された製造工程下で飲食品が作られている。
【0003】
そのような飲食品には原材料としてタンパク質や糖分が含まれており、これらの成分が濃縮や撹拌等の製造工程中の操作において気泡を生じる場合がある。このような気泡は、例えば飲料の製造工程中では、噴きこぼれ(オーバーフロー)を生じたり、配管ポンプの消耗を早めたり、缶や瓶への充填を妨げる場合がある。また、煮物等の加工食品では、煮くずれやコゲの原因となり、加工食品の商品価値を低下させてしまう。更には発酵食品や豆腐の製造時に生じる気泡が問題となっている。
【0004】
消泡剤としては、シリコーンが知られている。しかしシリコーンは水不溶性であり、飲食品製造に使用した際に製造容器に付着し、その効果を奏しないことがある。また、飲食品の調製直後は消泡効果を有しているが、経時的に効果が低下していくため、飲食品の製造中(添加直後)には消泡効果があるが、製造工程終盤には消泡効果が失われ、再度気泡を生じてしまうという問題があった。また、飲食品の製造直後は消泡効果があるが、飲食品の流通過程や販売過程での経時変化により消泡効果が失われ、消費者の手元に届いた段階では気泡が生じやすくなってしまうという問題があった。
【0005】
このような食品製造時から飲食品の完成後における持続的な気泡の発生を防止するために、様々な消泡剤が検討されている。
【0006】
具体的には、低級脂肪酸ジグリセリドの他、レシチンおよび/または無機質担体を含有するものであることを特徴とする食品用液状消泡剤(特許文献1)、HLB値が7以下の乳化剤を、HLB値が10以上の乳化剤を用いて乳化分散し水分散エマルジョン液とし、次いでこの水分散エマルジョン液を80℃よりも高い温度領域に於いて熱処理することを特徴とする飲料用消泡剤の製造方法(特許文献2)、グリセリンの重合度が6以上、かつHLB値が7以下であるポリグリセリン脂肪酸エステルを1種以上含有してなることを特徴とする飲料用消泡剤(特許文献3)、特定の性質を有するポリグリセリン脂肪酸エステルを有効成分とする消泡剤(特許文献4)、油溶性ショ糖脂肪酸エステルを乳化分散したO/W型エマルジョンにオイル成分を添加することを特徴とする、水に易分散性のオイル配合製剤の製造方法(特許文献5)、構成脂肪酸の炭素数が14〜24のジグリセライドの1種又は2種以上と、蔗糖脂肪酸エステルまたは/およびポリグリセリン脂肪酸エステルとを必須成分として配合してなることを特徴とする食品用消泡剤(特許文献6)、ポリグリセリン脂肪酸エステルを有効成分とする消泡剤であって、該ポリグリセリン脂肪酸エステルを構成するポリグリセリンの平均重合度が4〜12、構成脂肪酸の60重量%以上が炭素数16〜22の飽和脂肪酸、鹸化率が130〜190であるポリグリセリン脂肪酸エステルであることを特徴とする消泡剤(特許文献7)、食品用乳化剤を有効成分とし、粒度分布が5〜40μmであるコロイダル粒子が食品用乳化剤の70%以上占有することを特徴とする食品用消泡剤組成物(特許文献8)、乳化剤を有効成分とし、糖類、水および/または油脂類からなる消泡剤組成物(特許文献9)、(1)主構成脂肪酸が炭素数12〜18の飽和脂肪酸であってHLB値が7以下であるものと、(2)主構成脂肪酸が炭素数6〜10の飽和脂肪酸もしくは炭素数12〜22の不飽和脂肪酸であってHLB値が7以下である脂肪酸エステルの組み合わせを含む缶入り飲料(特許文献10)、グリセリンの重合度が6以上、かつHLB値が7以下であるポリグリセリン脂肪酸エステルを1種以上含有してなることを特徴とする飲料用消泡剤(特許文献11)、ポリグリセリン脂肪酸エステルを有効成分とする消泡剤であって、該ポリグリセリン脂肪酸エステルが特定の群から選ばれる一つ又は二つ以上のものであることを特徴とする飲料用消泡剤(特許文献12)、飲料の主原料を混合し、均質機により均質化を行う均質化工程と、均質化後の主原料に消泡剤を添加する消泡剤添加工程とを有し、前記消泡剤が(A)炭素数が6〜12の飽和脂肪酸トリグリセライド、(B)エタノール及びプロピレングリコールよりなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする飲料の製造方法(特許文献13)等の技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平04−228040号公報
【特許文献2】特開平06−217715号公報
【特許文献3】特開平08−70827号公報
【特許文献4】特開平09−187257号公報
【特許文献5】特開2000−61289号公報
【特許文献6】特開平06−245718号公報
【特許文献7】特開平09−224620号公報
【特許文献8】特開平09−248140号公報
【特許文献9】特開平06−31111号公報
【特許文献10】特開平06−14713号公報
【特許文献11】特開平08−70827号公報
【特許文献12】特開平09−187257号公報
【特許文献13】特開2008−99609号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】「食品開発と界面活性剤 −その基礎と応用」 (株)光琳1990年3月発行 渡辺隆夫 著
【0009】
これらの技術で利用されている消泡剤は、何れも界面活性効果を有する成分が利用されている。一般には水に難溶性の低HLB値の活性剤が使用されるが、必ずしも低HLB値の活性剤であれば消泡作用があるとはいえず、どのような活性剤を使用するかについては、対象となる気泡の性質によって選択する必要があることが指摘されている(非特許文献1)。
【0010】
しかし、低HLB値の界面活性剤とは、油溶性であることを意味し、このような界面活性剤をそのまま食品原料と混合して製造すると、製造容器やラインに界面活性剤が付着する、食品自体の見た目が悪い、風味や食感に影響を及ぼすなど問題視されていた。
【0011】
この点を改良するために、特許文献10〜12では、水性溶媒への分散性を考慮して、HLB値が10以上の親水性乳化剤を用いてエマルジョンとして使用することが好ましいとされている。
【0012】
これら従来技術で開示されている消泡剤は、いずれも食品製造工程における一時期に限った起泡を抑制するものである。実際の食品製造においては、原料の混合・撹拌を経て加熱殺菌、充填等を経るものがあり、これらはその都度気泡を生じる可能性があるため、継続的に効果のある消泡剤を飲食品の製造当初に添加するか、気泡を生じがちな工程毎に消泡剤を添加する必要があった。しかし、消泡効果を有する界面活性剤は一度加熱処理を行うことで、その効果が失われてしまったり、油脂の分離や凝集を生じ、食品製造における起泡への対応としては十分な効果を奏しているとはいえなかった。
【0013】
また、特許文献10〜12は、缶入り飲料を対象とした消泡剤であり、従来問題とされていた低HLB値の乳化剤を水に分散させるために別の乳化剤でエマルジョンとされているものである。従って、非特許文献1に指摘のあるように、気泡の原因となる成分によって使用する活性剤を選択しなければならない状況を勘案すると、特許文献10〜12には他の加工食品における効果は開示されていないに等しい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本願発明は、食品の製造工程中及び飲食品の完成後における起泡という問題を解決することを目的として、鋭意検討され得られた知見に基づくものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本願発明者は、上記課題を解決するために検討を行った結果、低HLB値の界面活性剤を高HLB値の界面活性剤でミセル化し乳化物とすることにより、飲食品の製造工程中及び完成後の消泡効果に優れた消泡剤とすることができるとの知見を得て、本願発明を完成した。
【0016】
即ち本願発明は、平均粒子径が0.1〜0.5μm未満の乳化物からなることを特徴とする消泡剤に関する。更には当該乳化物が(A)HLBが3〜8である乳化剤、(B)ポリグリセリン脂肪酸エステル、レシチン、及びショ糖脂肪酸エステルから選ばれる1種以上を含有するものであることを特徴とする消泡剤を提供するものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によって得られる消泡剤によれば、食品の製造中及び完成後においても効果的に飲食品への消泡効果を有する消泡剤を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】消泡剤無添加の加熱後の果汁入り糖液
【図2】消泡剤を0.05部添加した加熱後の果汁入り糖液
【図3】消泡剤を0.1部添加した加熱後の果汁入り糖液
【図4】消泡剤を0.2部添加した加熱後の果汁入り糖液
【図5】シリコーン製剤を添加した加熱後の果汁入り糖液
【図6】消泡剤無添加の加熱後の豆乳
【図7】消泡剤を0.1部添加した加熱後の豆乳
【図8】シリコーン製剤を添加した加熱後の豆乳
【図9】消泡剤無添加の調製直後の脱脂粉乳水
【図10】消泡剤無添加で5℃1日保存後に攪拌した脱脂粉乳水
【図11】消泡剤0.1部添加した調製直後の脱脂粉乳水
【図12】消泡剤0.1部添加して5℃1日保存後に攪拌した脱脂粉乳水
【図13】シリコーン製剤を添加した調製直後の脱脂粉乳水
【図14】シリコーン製剤を添加して5℃1日保存後に攪拌した脱脂粉乳水
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本発明を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0020】
本発明は、平均粒子径が0.1〜0.5μmに調製された乳化物からなる消泡剤に関するものである。好ましくは、次の乳化剤(A)及び(B)を構成成分として調製される乳化物であり、当該乳化物は従来ない優れた効果を有する消泡剤として利用できる技術に関する。
【0021】
本発明にかかる消泡剤は、特定の乳化剤、更には食用油脂を構成成分として、平均粒子径が0.1〜0.5μmになるように調製された乳化物からなるものである。かかる乳化物の平均粒子径が0.1μm以下、或いは0.5μmを超えると、消泡効果が十分に発揮されず、或いは消泡効果が得られても溶液に油浮き等が生じ、好ましくない。尚、乳化物の平均粒子径は、既存の測定装置、例えばレーザー回折式粒度分布計SALD−1100(株式会社島津製作所製)にて求めることができる。
【0022】
本発明で乳化剤(A)として使用する乳化剤は、従来飲食品製造に利用されているものであり、HLBが2〜8、好ましくは5〜7であるものが好適に例示できる。具体的にはショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリド等を例示することができ、脂肪酸の種類としては特に制限されるものではないが、構成脂肪酸の炭素数が12〜22の飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸のものが挙げられ、ベヘニン酸、オレイン酸が好適に例示できる。これらを1種又は2種以上組み合わせて利用することができる。具体的な例としてはポリグリセリンエルカ酸エステル、ショ糖オレイン酸エステルが挙げられる。
【0023】
また、乳化剤(B)として利用するポリグリセリン脂肪酸エステルは、飲食品製造に一般的に利用できるものであれば制限無く利用可能であり、好ましくはHLBが10以上のものである。具体的には、HLBが10以上であり、構成脂肪酸の炭素数が10〜18の飽和脂肪酸、若しくは炭素数12〜22の不飽和脂肪酸を構成脂肪酸とするポリグリセリン脂肪酸エステルであればよい。
【0024】
本発明で用いるレシチンは、大豆レシチン、卵黄レシチンの様な天然由来の他、合成レシチン及びこれらを組み合わせて使用してもよい。好ましくは、酵素分解レシチン等の親水性の高いリゾレシチンがよい。
【0025】
また、本発明で利用可能なショ糖脂肪酸エステルは、上述のポリグリセリン脂肪酸エステルで利用可能な構成脂肪酸からなる、HLB10以上のものが好ましい。
【0026】
本発明は、これら乳化剤(A)及び(B)を組み合わせて使用することで得られる消泡剤であり、その配合割合は乳化剤(A)1質量部に対して乳化剤(B)が0.02〜0.5質量部、好ましくは0.02〜0.2質量部が例示できる。配合割合がこの範囲にない場合、消泡効果が不十分となり本発明の目的を達成することができない。
【0027】
さらに本発明では、食用油脂(C)を上記乳化剤(A)及び(B)に加えて使用することができる。当該食用油脂を併用することにより、消泡効果の増強を見込むことができる。食用油脂の添加量は、上述の乳化物100質量部中2〜20質量部含まれるように添加すれば良い。食用油脂(C)の添加量がこの範囲より少ないと消泡効果が充分に得られず、多くなると調製後の飲食品において油分量の多さが目立つようになる。本発明で使用可能な食用油脂の例としては、一般に入手できるものであれば利用でき、例えば、魚油、卵黄油、牛脂、豚油、ラード、ナタネ油、コーン油、大豆油、綿実油及びこれらを精製したサラダ油などが挙げられる。
【0028】
本発明にかかる消泡剤は、上記乳化剤を用いて常法により乳化物として調製することにより得ることができる。当該乳化物の調製には特別な製造装置や条件は必要でなく、常法により調製できる。一例を挙げると、乳化剤(B)をイオン交換水に添加・加熱溶解し、別途乳化剤(A)及び食用油脂(C)を加熱溶解したものと混合、イオン交換水にて全量補正後、高圧乳化装置にて所定の粒子径になるように調製して乳化物とすることにより、本願発明に係る消泡剤を得ることができる。
【0029】
かくして得られた乳化物を飲食品の消泡剤として使用することにより、従来の消泡剤では得られなかった効果を享受することができる。対象となる飲食品は、加熱調理を経て製造される飲食品が対象であり、例えば加工食品の製造段階における起泡を防止し、噴きこぼれや製造設備の消耗を抑える効果を発揮する。また、加熱処理時における噴きこぼれを抑えるため、煮物の煮くずれを防ぐことで商品価値の低下を防止し、噴きこぼれによる歩留まりを向上させ、製造設備の汚れを効果的に防止することができる。
【0030】
本発明にかかる消泡剤を利用できる飲食品として、具体的には液糖、シロップ、ジャム、フルーツソース、フルーツフィリングといった製造時に加熱工程を経て製造される食品の他、大豆タンパク含有食品(豆乳、豆腐)、ゼリーやプリンなどのデザート類、飲料(お茶、炭酸飲料、果汁飲料、清涼飲料など)、アルコール類(チューハイ、リキュール)、乳製品(乳飲料、ヨーグルト、ドリンクヨーグルトなど)、乳タンパクを含んだ飲食品(パスタソース、クリームソースなど)、電子レンジ等の加熱調製器を使用し調理する食品などが例示できる。
【実施例】
【0031】
以下に、本発明を実施例にて説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。尚、下記処方中の単位は特に言及しない限り「%」は「質量%」であることを意味する。
【0032】
<乳化物の調製>
下記各試験にて定めた所定の乳化剤(A)及び(B)、食用油脂(C)を用いて、本発明に係る乳化物を調製し、消泡剤とした。得られた消泡剤を用いて下記試験1〜4を行い、消泡効果と調製後の溶液の状態を目視により確認した。
【0033】
<調製方法>
1 所定量の乳化剤(B)を60部のイオン交換水に添加し、加熱溶解した。
2 所定量の乳化剤(A)と食用油脂(C)を加熱・混合溶解した後、1と混合した。
3 2で混合した溶液が100部になるように、イオン交換水にて全量補正した。
4 得られた溶液を高圧乳化装置にて所定の粒子径になるように処理し、試料とした。
得られた乳化物の平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布SALD−1100(株式会社島津製作所製)にて体積換算で得られた粒度分布よりメジアン径を求めた。
【0034】
<消泡効果の確認方法>
100mlメスフラスコに4%脱脂粉乳水溶液69.93部と、上記調製方法にて得られた消泡剤0.07部を添加し、全体で70部とした。これを縦型振とう機にて振とうし、泡立ち量と消泡時間を評価し、消泡効果について評価した。また、振とう後の溶液の状態について、目視にて評価した。
【0035】
<評価基準>
・消泡効果
◎ ・・・ 消泡効果高い
○ ・・・ 消泡効果あり
△ ・・・ 消泡効果低い
× ・・・ 消泡効果なし
・溶液の状態
◎ ・・・ 状態良好(析出物なし)
○ ・・・ 状態やや良好(少し析出物あり)
△ ・・・ 析出物あり
× ・・・ 析出物多く、油浮きあり
【0036】
試験1
下記の乳化剤(A)及び(B)、食用油脂(C)を用いて所定の平均粒子径を有する消泡剤を調製し、消泡効果と溶液の状態を確認した。
A : ポリグリセリンエルカ酸エステル(HLB 5.0) 20部
B : ショ糖ステアリン酸エステル(HLB 16) 2部
酵素分解レシチン 0.5部
C : 食用油脂(サラダ油) 10部
【0037】
【表1】
【0038】
上記結果より、平均粒子径を0.05μmとなるように調製した消泡剤では、消泡効果が不十分であったとの結果が得られた。また、平均粒子径を0.7μm、1.0μmとした消泡剤では、消泡効果は得られたものの溶液に析出や油浮きが生じ、好ましくない状態となっていた。
【0039】
一方、平均粒子径を0.1〜0.5μmとして調製した消泡剤では、消泡効果、溶液の状態ともに良好な結果が得られた。
【0040】
試験2
表2に記載の乳化剤(A)及び(B)、食用油脂(C)の所定量を組み合わせて試験1と同様の方法で乳化物を調製し、本発明にかかる消泡剤(平均粒子径0.1μm)として、消泡効果と溶液の状態を確認した。
【0041】
【表2】
【0042】
※使用した乳化剤
<乳化剤A>
HLB 2.0 モノグリセリン脂肪酸エステル:モノグリセリンステアリン酸エステル
HLB 5.1 ポリグリセリン脂肪酸エステル:ポリグリセリンエルカ酸エステル
HLB 7.3 ポリグリセリン脂肪酸エステル:ポリグリセリンオレイン酸エステル
HLB 3.3 ショ糖脂肪酸エステル:ショ糖脂肪酸ベヘニン酸エステル
HLB 11.0 ショ糖脂肪酸エステル:ショ糖脂肪酸ステアリン酸エステル
HLB 13.0 ショ糖脂肪酸エステル:ショ糖脂肪酸ステアリン酸エステル
<乳化剤B>
ポリグリセリン脂肪酸エステル:ポリグリセリンオレイン酸エステル(HLB16)
レシチン:酵素分解レシチン
ショ糖脂肪酸エステル:ショ糖ステアリン酸エステル
【0043】
上記試験2の結果より、テスト区1〜6においては、HLBが11.0、13.0の乳化剤Aを使用したテスト区5及び6で、充分な消泡効果が得られなかった。
この結果より、乳化剤(A)のHLBが2.0〜8のものを利用することにより、消泡効果と良好な状態の溶液を得られることが明らかとなった。
【0044】
また、乳化剤(A)のみのテスト区7、乳化剤(B)のみのテスト区8及び食用油脂(C)のみのテスト区9では、いずれも消泡効果、溶液状態の何れかが満足できる結果ではなかった。次いで乳化剤(B)と食用油脂(C)を併用したテスト区10、乳化剤(A)と食用油脂(C)を併用したテスト区11でも充分な効果は得られなかった。
【0045】
テスト区7〜11の結果より、乳化剤(A)及び(B)、食用油脂(C)のいすれかを単独で使用しただけでは充分な消泡効果、良好な溶液状態を得ることができず、乳化剤(A)または乳化剤(B)のいずれかと食用油脂(C)の組み合わせでも良好な結果は得られなかった。
【0046】
テスト区12は乳化剤(A)と乳化剤(B)を併用したものであるが、消泡効果、溶液の状態ともに良好であったが、さらに食用油脂(C)を併用したテスト区13では、消泡効果が向上していた。このことから、乳化剤(A)と乳化剤(B)の組み合わせでも本発明の効果を得ることが可能であるが、さらに食用油脂(C)を併用することによって、効果の向上が確認された。
【0047】
さらにテスト区14〜17では、乳化剤(B)がレシチン、ショ糖脂肪酸エステルそれぞれ単独で使用した場合の効果と、ポリグリセリン脂肪酸エステルを含む併用の場合でも、充分な効果が得られることが明らかとなった。
【0048】
試験3
試験2におけるテスト区16の乳化剤(A)及び(B)、食用油脂(C)をもとに、表3に記載の乳化剤(A)及び(B)の所定量を組み合わせて消泡剤(平均粒子径0.1μm)を調製し、乳化剤(B)の添加量を変化させた場合の消泡効果と溶液の状態を確認した。
【0049】
【表3】
【0050】
本試験により、乳化剤(A)の添加量1に対し、乳化剤(B)の添加量を0.02〜0.5とすることで、消泡効果が充分に発揮され、溶液の状態も良好となることが判明した。
【0051】
試験4
試験3と同様に、試験2のテスト区16の乳化剤(A)及び(B)、食用油脂(C)の組合せにおいて、表4に記載の食用油脂(C)の所定量を組み合わせて消泡剤(平均粒子径0.1μm)を調製し、食用油脂(C)の添加量を変化させた場合の消泡効果と溶液の状態を確認した。
【0052】
【表4】
【0053】
本試験の結果、食用油脂(C)を乳化物100質量部中2〜20部含むように添加することで、消泡効果が得られた。食用油脂(C)の添加量が25部添加すると、溶液に析出物が多くなった。尚、添加しない場合(テスト区1)でも、消泡効果が得られ溶液の状態も良好であったが、併用することにより消泡効果が向上することが明らかとなった。
【0054】
以下に、実際の飲食品を調製して本発明に係る消泡剤の効果を確認した。
【0055】
試験5 果汁入り糖液での試験
下記処方に基づき、本発明に係る消泡剤を含む果汁入り糖液を調製し、消泡剤の効果を確認した。
【0056】
<消泡剤 処方>
A : ポリグリセリン脂肪酸エステル(HLB5.1) 20部
B : ポリグリセリン脂肪酸エステル(HLB16) 2部
レシチン 0.2部
C : 食用油脂 10部
【0057】
<果汁入り糖液 処方>
グラニュー糖 20部
パイナップル5倍濃縮果汁 2部
消泡剤 所定量
イオン交換水 残部
合計 100部
【0058】
<調製方法>
1 イオン交換水にグラニュー糖と濃縮果汁を添加し溶解した後、消泡剤を所定量添加した。
2 この溶液200部をステンレス製の手鍋(直径16cm)にて加熱し煮詰め、水分が蒸発してきた段階での泡立ちについての評価を行った。比較例として従来消泡剤として使用されているシリコーンを添加したものについて同様の操作を行った。結果を表5に示し、評価時の手鍋の写真を図1〜5に示す。
【0059】
【表5】
【0060】
上記試験より、本願発明に係る消泡剤を使用することにより、加熱時の気泡の発生を効果的に抑制できていることが明らかとなった。その効果は従来消泡剤として使用されているシリコーンよりも優れたものであることもわかった。
【0061】
試験6
続いて、豆乳を加熱した際の泡立ちの抑制について試験を行った。
【0062】
<消泡剤 処方>
A : ポリグリセリン脂肪酸エステル(HLB5.1) 20部
B : ポリグリセリン脂肪酸エステル(HLB16) 2部
レシチン 0.2部
C : 食用油脂 10部
【0063】
<豆乳処方及び試験方法>
市販されている豆乳99.9部に消泡剤0.1部添加し、これを100℃まで加熱した際の泡立ちを評価した。比較例として従来消泡剤として使用されているシリコーンを添加したものについて同様の操作を行った。その結果を表6に示し、評価時の写真を図6〜8として示す。
【0064】
【表6】
【0065】
本試験の結果より、消泡剤無添加の豆乳は、加熱により容器から溢れるほどの気泡を生じたが、本発明に係る消泡剤とシリコーンを添加した豆乳では、効果的に気泡の発生を押さえていた。
【0066】
試験7
脱脂粉乳水に本発明にかかる消泡剤を添加した際の、消泡効果の持続性試験を行った。
【0067】
<消泡剤 処方>
A : ポリグリセリン脂肪酸エステル(HLB5.1) 20部
B : ポリグリセリン脂肪酸エステル(HLB16) 2部
レシチン 0.2部
C : 食用油脂 10部
【0068】
<脱脂粉乳水の調製及び試験方法>
脱脂粉 5部
消泡剤 0.1部
交換水 94.9部
合計 100部
【0069】
1 5%脱脂粉乳水94.9部に消泡剤0.1部を添加し、撹拌機にて3,000rpmで1分間撹拌する。
2 この溶液を5℃の恒温器にて1日保管し、1日後再び撹拌機にて3,000rpmで1分間撹拌し、その状態を評価した。比較例として従来消泡剤として使用されているシリコーンを添加したものについて同様の操作を行った。その結果を表7に示し、評価時の写真を図9〜14として示す。
【0070】
【表7】
【0071】
本試験の結果より、消泡剤無添加の脱脂粉乳水では調製直後、5℃1日後ともに、攪拌により多量の気泡が生じていた。シリコーンを添加した脱脂粉乳水では、調製直後には消泡効果が発揮されていたが、5℃1日後では効果が認められず、気泡が生じていた。
【0072】
一方の本発明にかかる消泡剤を使用した脱脂粉乳水では、調製直後、5℃1日後ともに、優位な消泡効果が認められた。これにより、本発明により得られる消泡剤は、調製直後だけでなく持続して消泡効果を有していることが示された。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径が0.1〜0.5μm未満の乳化物からなる消泡剤。
【請求項2】
乳化物が下記(A)と(B)を含有する、請求項1に記載の消泡剤;
(A)HLB2〜8の乳化剤
(B)ポリグリセリン脂肪酸エステル、レシチン及びショ糖脂肪酸エステルから選ばれる1種以上
【請求項3】
(A)と(B)の配合割合が(A)1質量部に対して(B)が0.02〜0.5質量部である、請求項2に記載の消泡剤。
【請求項4】
乳化物が、更に(C)食用油脂を含有する、請求項1又は2に記載の消泡剤。
【請求項5】
乳化物100質量部中の(C)食用油脂の配合割合が2〜20質量部である請求項4に記載の消泡剤。
【請求項1】
平均粒子径が0.1〜0.5μm未満の乳化物からなる消泡剤。
【請求項2】
乳化物が下記(A)と(B)を含有する、請求項1に記載の消泡剤;
(A)HLB2〜8の乳化剤
(B)ポリグリセリン脂肪酸エステル、レシチン及びショ糖脂肪酸エステルから選ばれる1種以上
【請求項3】
(A)と(B)の配合割合が(A)1質量部に対して(B)が0.02〜0.5質量部である、請求項2に記載の消泡剤。
【請求項4】
乳化物が、更に(C)食用油脂を含有する、請求項1又は2に記載の消泡剤。
【請求項5】
乳化物100質量部中の(C)食用油脂の配合割合が2〜20質量部である請求項4に記載の消泡剤。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2011−103842(P2011−103842A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−264601(P2009−264601)
【出願日】平成21年11月20日(2009.11.20)
【出願人】(000175283)三栄源エフ・エフ・アイ株式会社 (429)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年11月20日(2009.11.20)
【出願人】(000175283)三栄源エフ・エフ・アイ株式会社 (429)
【Fターム(参考)】
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