説明

消泡方法及び消泡装置

【課題】レーザー誘起ブレークダウンの衝撃によって発生するパルス状音波を、音響導波管を用いて液体表面方向に向けることにより、効果的な消泡効果が得ること。
【解決手段】レーザー誘起ブレークダウンの衝撃によって発生するパルス状音波の音響導波管の内周面における反射波が、液体表面に対向する音響導波管の開口部方向に向けられ、進行する各方向の前記反射波の開口部に達する時間差を少なくしたこと。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、液体表面上の泡の消去、特に、金属缶、プラスチック製カップ、トレー状容器、PETボトル、ボトル缶或いはガラス瓶などの各種容器に飲料などの内容物を充填する際に発生する泡を消泡するのに好適な消泡方法及び消泡装置に関する。
【背景技術】
【0002】
各種容器入り飲料(缶詰飲料、PETボトル詰め飲料、瓶詰め飲料など)の充填工程は、一般に充填機において正立した容器に上方から飲料を充填し、次に密封装置(巻締機・キャッパーなど)で蓋、或いはキャップにより密封する。そして、飲料の品質を保持し、フレーバーを向上させる重要な因子として、密封容器内の残存酸素量の低減があり、特に、容器内のヘッドスペースから酸素を除去することが重要である。これを実現するため、密封直前のアンダーカバーガッシングなどのガス置換による脱酸素技術が開発され用いられている。一方、容器入り飲料は大量に消費される製品であることから充填工程の高速化が追及され、缶詰飲料の場合、毎分1000缶〜2000缶を製造する高速ラインが実用化されており、このような高速ラインの飲料の充填において容器内に泡が発生する。この泡の発生挙動、及び発生した泡の消滅挙動は、個々の飲料の性質や充填条件によって異なるが、一般的に、生産速度が速くなるほど、泡が多く発生し、かつ、泡が消滅するまでに十分な時間がとれず、泡が残った状態で密封が行われることになる。
【0003】
また、泡内の酸素はヘッドスペースのガス置換では除去できないのでヘッドスペースの酸素量低減を妨げる。特に、ガス置換による脱酸素技術が向上した現在では、残存酸素量の主因となっている。現状では泡を抑制するために、飲料処方に消泡剤を混合する手法が用いられるが、飲料等の内容物の味に影響を与える場合があり、このため、充填から密封までの間に泡を消滅させる有効な消泡技術が求められている。
【0004】
そこで、この要求に対する解決策として、外部エネルギーであるレーザー光を照射する消泡技術が提案され、例えば、レーザー光の光ビームで、泡膜を形成している分子間結合と膜内の水分子或いは有機分子を振動励起させ、分子間結合を切断して消泡する消泡技術が提案されている。(特許文献1)
また、本出願人は、パルス状レーザー光のレーザー誘起ブレークダウンの衝撃によって発生するパルス状音波が消泡に対して優れた効果を発揮することを見出し、「パルス状音波を用いて泡沫を破壊して消泡する消泡方法」を提案した(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭63−252509号公報
【特許文献2】国際公開2007−086339号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の前記特許文献1による消泡技術は、レーザー光の光ビームで各泡を照射するため、消泡に長時間を要して高速で消泡することができず、また、容器内周面近傍の泡も効果的に消泡することができない。
一方、前記特許文献2による消泡技術は、レーザー誘起ブレークダウンの衝撃によってパルス状音波を発生させ、音源から強い圧力変化を伴うパルス状音波が球面波として伝播して泡を破壊して消泡するため、容器の内周面までパルス状音波が伝播し、従来の方法では消泡が困難であった容器内周面近傍の泡も効果的に消泡することができる。
しかし、飲料等の液体表面の衝撃が大きく、液滴が飛散して装置、或いは集光レンズなどの集光光学系等に付着して汚染を生じる。
このため、レーザー光発振装置、集光レンズなどの集光光学系等を液体表面からの蒸気や、破泡した泡の雫などによる汚染を防ぐため、その位置を前記液体表面から離さなければならず、レーザー光の集光性が低下して消泡性を高めることができない。
このように、本出願人が提案した特許文献2の消泡技術は、従来の特許文献1等の消泡技術に対して優れた技術であるが、その後の研究により、1.パルス状のレーザー光が液体表面を向いて照射され、レンズなどの光学素子が液体表面からの蒸気や、破泡した泡の雫などで汚染するのを防ぐには焦点距離を長くしなければならず、前記焦点距離を短くしてレーザー光の集光性を高める改良、2.パルス状音波が自由空間で発生して球面波で伝播し、前記パルス状音波の一部しか消泡に関与しないことから消泡効率が低下するため、前記消泡効率を高める改良、といった更なる改良が望まれている。
【0007】
従って、本発明は、前記した消泡技術における問題点を解決するものであり、パルス状レーザー光のレーザー誘起ブレークダウンの衝撃によって発生するパルス状音波を利用した消泡技術において、前記パルス状音波の消泡時における利用効率を高め、集光光学系等の汚染を防止し、効果的な消泡効果が得られる消泡方法及びこれらを具現化する消泡装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、パルス状レーザー光のレーザー誘起ブレークダウンの衝撃によって発生するパルス状音波を、音響導波管を用いて液体表面方向に向けることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達したものである。
【0009】
本請求項1に係る発明は、パルス状レーザー光によるパルス状音波で液体表面の泡沫を破壊させる消泡方法であって、前記パルス状音波の音響導波管の内周面における反射波が、前記液体表面に対向する音響導波管の開口部方向に向けられ、進行する各方向の反射波の前記開口部に達する時間差を少なくすることにより、前記課題を解決するものである。
【0010】
本請求項2に係る発明は、請求項1に係る消泡方法の構成に加え、前記反射波の進行方向を、音響導波管の軸心方向に対して40°以下とすることにより、前記課題を解決するものである。
【0011】
本請求項3に係る発明は、パルス状レーザー光によるパルス状音波で液体表面の泡沫を破壊させる消泡装置であって、パルス状レーザー光発振装置、該パルス状レーザー光発振装置より発振されたパルス状レーザー光を集光する集光光学系、集光されたレーザー光の焦点が内部空間に位置し開口部が液体表面に対向するよう配置された音響導波管とを備え、前記音響導波管が、前記パルス状レーザー光の通過するレーザー光入射孔を有するとともに、少なくとも前記焦点或いはその近傍から前記開口部に向かって内周面の内径が増加するように形成されていることにより、前記課題を解決するものである。
【0012】
本請求項4に係る発明は、請求項3に係る消泡装置の構成に加え、前記音響導波管の内周面が、開口部に向かってテーパ部を有することにより、前記課題を解決するものである。
【0013】
本請求項5に係る発明は、請求項4に係る消泡装置の構成に加え、前記テーパ部が一段のテーパ部から成り、テーパ角度が軸心方向に対して25°乃至60°に形成されていることにより、前記課題を解決するものである。
【0014】
本請求項6に係る発明は、請求項4に係る消泡装置の構成に加え、前記テーパ部が、前記開口部に向かって徐々にテーパ角度が小さくなる二段のテーパ部から成り、それぞれのテーパ角度が軸心方向に対して60°乃至80°、30°乃至50°に形成されていることにより、前記課題を解決するものである。
【0015】
本請求項7に係る発明は、請求項4に係る消泡装置の構成に加え、前記テーパ部が、前記開口部に向かって徐々にテーパ角度が小さくなる三段のテーパ部から成り、それぞれのテーパ角度が軸心方向に対して60°乃至80°、30°乃至50°、10°乃至20°に形成されていることにより、前記課題を解決するものである。
【0016】
本請求項8に係る発明は、請求項4乃至7のいずれかに係る消泡装置の構成に加え、前記テーパ部の下方に、前記開口部に向かうストレート部を有することにより、前記課題を解決するものである。
【0017】
本請求項8に係る発明は、請求項3乃至8のいずれかに係る消泡装置の構成に加え、前記集光されたレーザー光の焦点より反開口部側には、前記焦点から反開口部方向に進行する各方向のパルス状音波を開口部方向に反射する後方反射壁を備えていることにより、前記課題を解決するものである。
【発明の効果】
【0018】
本請求項1に係る消泡方法によれば、従来自由空間におけるパルス状音波のエネルギーを、音響導波管の開口部方向に集中させることができ、飲料等の液体表面に作用するパルス状音波の時間あたりのエネルギーの減少を小さくできる。
また、前記パルス状音波の反射波が、飲料等の内容液の液体表面に到達するまでの反射回数も減少するため、この反射によるエネルギーの減衰も減少し、よりエネルギーの利用効率が向上し、低いレーザー出力で効果的に消泡することができる。
さらに、このため、レーザー光発振装置、集光光学系を液体表面から離すことが可能となり、その配置の自由度が高まり、前記レーザー光発振装置、集光光学系の汚染を防止することができ、且つ、効率的な集光光学系等を構築できる。
【0019】
本請求項2に記載の構成によれば、進行する各方向のパルス状音波の反射波が開口部に達するまでの時間差を、実質的に反射波が同時に開口部に達した場合と同様の消泡効果を得るレベルまで少なくすることができ、さらにエネルギーの利用効率が向上し、低いレーザー出力でも効果的に消泡することができる。
【0020】
本請求項3に係る消泡装置によれば、請求項1に係る消泡方法を具現化して、前述の効果を奏する消泡装置とすることができレーザー光路とパルス状音波の進行路とを分離できるため、レーザー光発振装置や集光光学系等の配置の自由度がさらに高まり、汚染を防止することができるとともに、より効率的な集光光学系等を構築して消泡することできる。
【0021】
本請求項4に記載の構成によれば、音響導波管の内周面を単純な形状として、パルス状音波の音響導波管の内周面における反射波を開口部方向に向けることが可能となり、また、音響導波管の構造が単純となり製造が容易でコストが低減されるとともに、設備への配置も容易となり自由度も向上する。
【0022】
本請求項5に記載の構成によれば、パルス状音波の反射波進行方向を、音響導波管の軸心方向に対して40°以下となるように設定できるため、進行する各方向の前記反射波の開口部に達するまでの時間差を、実質的に反射波が同時に開口部に達した場合と同様の消泡効果を得るレベルまで少なくすることができ、また、エネルギーの利用効率が向上し、低いレーザー出力でも効果的に消泡することができる。
【0023】
本請求項6に記載の構成によれば、パルス状音波の反射波の進行方向を音響導波管の軸心方向に対してさらに小さくすることが可能となるため、進行する各方向の前記反射波の開口部に達するまでの時間差をさらに少なくすることができ、さらにエネルギーの利用効率が向上し、低いレーザー出力でも効果的に消泡することができる。
【0024】
本請求項7に記載の構成によれば、パルス状音波の反射波の進行方向を音響導波管の軸心方向に対してさらにより小さくすることが可能となるため、進行する各方向の前記反射波の開口部に達するまでの時間差をさらにより少なくすることができ、さらによりエネルギーの利用効率が向上し、より低いレーザー出力でも効果的に消泡することができる。
【0025】
本請求項8に記載の構成によれば、ストレート部を設けることによって、音響導波管の長さにかかわらず開口部の面積を一定とし、反射波を一定の面積の開口部に集中させることができるため、レーザー光の焦点と液体表面との距離を自由に設定することが可能となり、レーザー光発振装置や集光光学系の配置の自由度がさらに高まり、汚染を防止することができるとともに、より効率的な集光光学系を構築できる。
【0026】
本請求項9に記載の構成によれば、パルス状音波を開口部方向に反射させて利用できるため、さらにエネルギーの利用効率が向上し、低いレーザー出力でも効果的に消泡することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施形態に係る消泡装置の断面概略図。
【図2】本発明の他の実施形態に係る消泡装置の断面概略図。
【図3】本発明の他の実施形態に係る消泡装置の断面概略図。
【図4】本発明の他の実施形態に係る消泡装置の断面概略図。
【図5】本発明の他の実施形態に係る消泡装置の断面概略図。
【図6】消泡の各実験の比較実験図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の消泡方法は、パルス状レーザー光によるパルス状音波で液体表面の泡沫を破壊させる消泡方法であって、前記パルス状音波の音響導波管の内周面における反射波が、前記液体表面に対向する音響導波管の開口部方向に向けられ、進行する各方向の反射波の前記開口部に達する時間差を少なくしたものである。
また、本発明の消泡装置は、前記消泡方法を具現化する装置であって、パルス状レーザー光発振装置、該パルス状レーザー光発振装置より発振されたパルス状レーザー光を集光する集光光学系、集光されたレーザー光の焦点が内部空間に位置し開口部が液体表面に対向するよう配置された音響導波管とを備え、前記音響導波管が、前記パルス状レーザー光の通過するレーザー光入射孔を有するとともに、少なくとも前記焦点近傍から前記開口部に向かって内周面の内径が増加するように形成されているものである。
【0029】
図1はその基本的な形態における消泡原理を模式的に示している。
図中、100は消泡装置であり、パルス状の光Lを発生するパルス状レーザー光発振装置110、該パルス状レーザー光発振装置110より発振されたパルス状レーザー光Lを焦点Sに集光する集光光学系120、及び音響導波管130とから構成され、該音響導波管130の開口部131が消泡対象物の飲料等の液体表面に対して、鉛直方向上方に面するように配置されている。
図1に示す実施形態では、容器Aへの内容物Cの密封充填ラインにおいて、内容物Cが充填された容器Aを密封装置に搬送するコンベヤの上方、または密封装置内の封止前の容器通過位置の上方に音響導波管130を垂直に配置し、該音響導波管130の軸心方向からパルス状レーザー光Lを照射するように、パルス状レーザー光発振装置110及び集光光学系120が配置されている。
【0030】
前記パルス状レーザー光発振装置110としては、レーザー媒質に蓄えられていたエネルギーを光パルスとして一気に放出させることができるパルス状レーザー光を発振するものが好適である。パルス状レーザーとしては、Qスイッチ発振が可能なYAGレーザー、YVO4レーザー、YLFレーザーや、TiSレーザーなどのフェムト秒レーザーが挙げられる。これらのパルス状レーザーは、数Hz〜数十kHzの繰返し周期を持つが、この繰返し周期の間蓄えられたエネルギーを数フェムト秒(fs)乃至数十ナノ秒(ns)という極めて短い時間幅で放出する。そのため、少ない入力エネルギーから高いピークパワーを効率的に得ることができる。パルス状レーザー光発振装置としては、このほかに、CO2レーザー、エキシマレーザー、半導体レーザーなど、各種のレーザー光を発振するパルス状レーザー光発振装置を用いることもできる。また、これらのレーザー光の基底波から波長変換素子により生成した高調波光も用いることができる。これらのパルス状レーザー光には、連続発振(CW)パルス状レーザー光も含まれるが、この場合においても、シャッターなどの光制御部材を用いて、パルス状の光を生成することができる。
【0031】
本実施形態における集光光学系120は、パルス状レーザー光発振装置110と音響導波管130との間に配置される1枚の集光レンズ121を図示しているが、必ずしもそれに限定されるものではない。
また、集光光学系120は、パルス状レーザー光発振装置110と別体に形成してもよいが、パルス状レーザー光発振装置110に一体に設けることも可能である。また、図2に示すように、集光光学系120にプリズム122や反射鏡等を設けてパルス状レーザー光Lを屈曲させて集光し、パルス状レーザー光発振装置110の照射方向が音響導波管130の軸心方向以外の方向となるように配置しても良い。
【0032】
音響導波管130は、レーザー光入射孔134側のテーパ部132と開口部131側のストレート部133からなり、前記テーパ部132はパルス状レーザー光の少なくとも焦点S或いはその近傍から前記開口部131に向かって内周面の内径が増加するように形成されている。そして、集光光学系120により集光されたパルス状レーザー光Lは、音響導波管130の前記テーパ部132の内部空間に前記焦点Sが位置するようにレーザー光入射孔134から内部に照射される。
焦点Sでは、レーザー誘起ブレークダウンによりパルス状音波Pが発生し、その強さは、焦点Sにおける単位面積あたり光パワー密度により変化する。従って、集光光学系120を最適化して集光性を高めることによって、同じレーザー出力から効率よくレーザー誘起ブレークダウンを発生させることができる。一般に、集光性を高めるには、レンズの開口数(NA)が大きいほうが有利である。このことは、大口径で焦点距離の短いレンズほど集光性が高まることを意味する。しかしながら、集光効率の良い焦点距離の短いレンズを使用すると、液体表面との距離が狭まり、液滴の飛散などによって集光光学系が汚染される。また、集光性を高めるためには、波面が揃っているほうが有利である。このため、複数のレンズの組合せにより収差を補正した組合せレンズ(アプラナートレンズ)や、レンズ面の形状を波面の状態に合わせて設計した非球面レンズなどを用いるのが好ましい。
【0033】
レーザー誘起ブレークダウンの衝撃により発生したパルス状音波Pは球面波として伝播するので、自由空間でパルス状音波Pを発生させると、単位面積当たりの音波強度は距離の二乗に反比例して急激に減衰する。このため、従来は、レーザー光の焦点Sを、液体表面からの距離を長くすることができなかった。
本発明では音響導波管130を採用し、パルス状音波Pの音響導波管130の内周面における反射波が、液体表面に対向する音響導波管130の開口部131方向に向けられ進行する各方向の反射波のパルス状音波Pが開口部131に達するまでの時間差を少なくしたものである。
【0034】
すなわち、レーザー光の焦点S側に音響導波管130のテーパ部132を設けることにより、音響導波管130の内周面に向かうパルス状音波Pは、音響導波管130の軸心方向との角度が小さくなるように反射されて開口部131側に向けて進行し、パルス状音波Pの進行する各方向の前記反射波がほとんど時間差を生じることなく開口部131向けて進行する。このため、反射波の開口部131に到達する反射回数が減少し、反射によるエネルギーの減衰も低減できる。また、音響導波管130の内周面に向かうパルス状音波Pは一部が直射波となり、音響導波管130の開口部131側に向けて直接進行するが、前記反射波と直射波とにおいても時間差が少なくなる。
このため、自由空間でパルス状音波Pを発生させた場合と比較して、相対的に長い距離を音響導波管130により、前記パルス状音波Pの単位面積当たりのエネルギーを減衰させずに伝えることができ、かつ、進行する各方向の反射波の開口部131に達するまでの時間差を少なくすることによって、液体表面に作用するパルス状音波Pの時間あたりのエネルギーの減少も小さいものとなる。そして、レーザー光の焦点Sの液体表面からの距離を長くすることが可能になり、また、前記音響導波管130を用いることにより、前述した汚染を防止し、集光効率の良い焦点距離の短いレンズを用いて集光性を高めることが可能となる。
【0035】
理論的には、直接開口部131に達する直射波以外のパルス状音波Pが、音響導波管130の内周面で1回だけ反射して開口部131方向に向かう内周面形状とするのが理想的である。
しかしながら、実質的には、音響導波管130の内周面で数回反射しても近似的に十分な効果を得ることが可能で、そのために、音響導波管130が、少なくとも焦点P近傍において開口部131に向かって内周面の内径が増加するように形成されていることで十分に効果を奏する。具体的には、製作が簡単で、容易に効果が得られる形状として、音響導波管130の内周面が、開口部131に向かってテーパ部132を有していれば良い。
特に、反射波の進行方向を音響導波管130の軸心方向に対して40°以下とすることで顕著な効果が認められ、そのためには、前記音響導波管130の内周面のテーパ部が一段のテーパ部132から成り、テーパ角度が軸心方向に対して25°乃至60°に形成されていることが望ましい。
【0036】
そして、音響導波管130の内周面を全長にわたってテーパとすると、焦点Pから開口部131までの距離が長くなるにつれて開口部131の面積が大きくなるため、開口部131を容器Aの上面のみにパルス状音波Pのエネルギーを集中させるように、ストレート部133が設けられるのが好適である。
また、より理想的な内周面形状に近い形状とするためには、前記テーパ部132が、音響導波管130の開口部に向かって徐々にテーパ角度が小さくなる二段のテーパ部から成り、それぞれのテーパ角度が軸心方向に対して60°乃至80°、30°乃至50°に形成されていることがより望ましい。
さらに、より一層、理想的な内周面形状に近い形状とするために、図3に示すように、
前記テーパ部132が、音響導波管130の開口部131に向かって徐々にテーパ角度が小さくなる三段のテーパ部132a、132b及び132cから成り、それぞれのテーパ角度が軸心方向に対して60°乃至80°、30°乃至50°、10°乃至20°に形成されているのがより一層望ましい。
【他の実施形態】
【0037】
図4は、本発明の他の実施形態を示すものである。
本実施形態では、音響導波管230のテーパ部232の側方にレーザー光入射孔234を設け、パルス状レーザー光発振装置210及び集光光学系220を側方に設けて、パルス状レーザー光Lを側方から照射して焦点Sに集光するように構成されている。
そして、音響導波管230の焦点Sより反開口部側に後方反射壁235を設けることにより、焦点Sより反開口部方向に進行するパルス状音波Pを後方反射壁235によって開口部231方向に反射させて消泡のためのエネルギーとして利用する。
このことにより、さらにエネルギーの利用効率が向上し、低いレーザー出力でも効果的に消泡することができる また、レーザー光路とパルス状音波Pの進路とを分離できるので、集光光学系220の制約が少なく、集光効率の高い集光光学系を構築できる。
【0038】
さらに、図5に示すように、レーザー光入射孔234を反対側方にレーザー光通過孔236を設け、該レーザー光通過孔236の外側に反射鏡223を設けることにより、反射鏡223によって反射されたレーザー光も焦点Sに向かうため、焦点Sでのエネルギー密度が向上し、少ないレーザー出力で大きなパルス状音波Pを発生させることができる。
なお、音響導波管230の内部に反射鏡を設ける場合は、該レーザー光通過孔236は形成する必要はない。
また、音響導波管230の周壁にガス導入口を設け、外部より音響導波管230内にガス(例えば窒素ガス等の不活性ガスや空気等)を導入してもよい。
この場合、例えば、内容物充填後、直ちに消泡を行う際に、容器内の飲料等の充填内容液から発する蒸気が音響導波管に侵入して汚染するのを防ぐことができ、ブレークダウンにより発生するオゾンが開口部231から流出して容器内に入ることを防ぐことができる。なお、ガス導入口を設ける場合、レーザー光の焦点Sと開口部231の間に位置するのが好ましい。
また、音響導波管の開口部231は、開口部におけるパルス状音波の伝播損失を抑制するためにホーン形状に形成してもよい。
【0039】
音響導波管の長さは、長くても短くても良く、特に限定されない。また、音響導波管の内部において、焦点Sの位置は、パルス状音波Pの波面を均等に開口部に伝達するために、前記音響導波管の中心軸上とするのが好ましい。
また、音響導波管の反開口部側に後方反射壁235を設ける場合は、図5に示したテーパ部232の延長部を閉塞する平面形状に限定されず、前記音響導波管内部のパルス状音波Pの進行方向を考慮した適宜の形状で良い。
【実験】
【0040】
1.レーザー光の集光条件
レーザー発振装置:Quantel社製YAGレーザー発振装置(Brilliant
B)、(レーザー光の波長:1064nm)
集光レンズ:シグマ光機製集光レンズ(NYTL−30−50PY1)
2.音響導波管
(1)長さ
レーザー光入射孔の中心に焦点を結ぶように長さ100mm。
(2)レーザー光入射孔内径、開口部内径
実験1:レーザー光入射孔内径、開口部内径φ40mm。
実験2乃至7:レーザー光入射孔内径φ10mm、開口部の内径φ40mm。
(3)内周面形状
実験1:ストレート管。
実験2:レーザー光入射孔からテーパ角度150°(高さ4mm)のテーパ部を
形成したテーパ管。
実験3:レーザー光入射孔からテーパ角度120°(高さ8.7mm)のテーパ
部を形成したテーパ管。
実験4:レーザー光入射孔からテーパ角度90°(高さ15mm)のテーパ部を
形成したテーパ管。
実験5:レーザー光入射孔からテーパ角度60°(高さ26mm)の一段のテー
パ部を有するテーパ管。
実験6:レーザー光入射孔からテーパ角度75°(高さ5.2mm)、45°
(高さ32mm)の二段のテーパ部を有するテーパ管。
実験7:レーザー光入射孔からテーパ角度71°(高さ4.4mm)、42°
(高さ25mm)、13°(高さ60mm)の三段のテーパ部を有する
テーパ管。
なお、前記テーパ部のテーパ角度、高さは、前記音響導波管の軸心方向に対する角度、高さであり、開口部に向かって残部はストレート部である。
3.飲料缶
内容量200g缶に、65℃のミルク入りコーヒー190gを漏斗により、泡立てながらに充填し、音響導波管の開口部より10mm離した位置に設置した。
図6に各実験の結果を示す。
【0041】
4.音響導波管の内周面形状
各実験1乃至7における音響導波管の内周面形状について、OPHIR社製パワーメーター30A−P−17及びVEGAを用いてパルス状レーザーの1パルスあたりの出力を260mJと390mJに設定し、1回のパルス状音波を発生させた時の消泡結果を写真で確認した。
その結果、レーザー光焦点近傍から音響導波管の開口部に向かって内周面の内径が増加するテーパ部が一段のテーパ部から成り、テーパ角度が60°に形成されていること(実験5)、また、前記テーパ部が、音響導波管の開口部に向かって徐々にテーパ角度が小さくなる二段のテーパ部から成り、それぞれのテーパ角度が75°、45°に形成されていること(実験6)、さらに、前記テーパ部が、音響導波管の開口部に向かって徐々にテーパ角度が小さくなる三段のテーパ部から成り、それぞれのテーパ角度が71°、42°、13°に形成されていること(実験7)で消泡効果が向上した。
【0042】
5.音響導波管におけるパルス状音波の伝播状態
前記各実験1乃至7における音響導波管の内周面形状において、パルス状音波が発生後、294マイクロ秒(μs)経過後のパルス状音波の伝播状態を確認した結果、顕著に消泡効果が上昇する実験5乃至7においては、音響導波管の内周面を進行する各方向のパルス状音波の反射波が、前記音響導波管の軸心方向に対して40°以下の角度ズレを生じていることが判明した。
このように、この40°以下の角度ズレによって、反射波が音響導波管の開口部方向に向かい、前記開口部に直接向かう直射波が到達した時点で反射波も開口部付近に達し、前記反射波と直射波との前記開口部に達する時間差が少なくなり、顕著に消泡効果が上昇する。
従って、この結果から、音響導波管の内周面形状を、前述した40°以下の角度ズレが生じる形状とすること、具体的には、レーザー光の焦点或いはその近傍から前記音響導波管の開口部に向かって内周面の内径が増加する形状とすることが重要である。
そして、音響導波管の内周面の形状は、前述した実験5の音響導波管の開口部に向かって内径が増加する一段のテーパ部、特に、前記開口部に向かって徐々にテーパ角度が小さくなる実験6の二段のテーパ部、或いは実験7の三段のテーパ部に形成することが、パルス状音波の音響導波管の内周面における反射波が、開口部方向に向けられ、進行する各方向の反射波の前記開口部に達する時間差が順次少なくなる。
このため、音響導波管の内周面の形状は、前述したテーパ部とするのが好適である。
【0043】
以上、本発明の消泡方法及び消泡装置の種々の実施形態を示したが、本発明はこれらの実施形態に限るものでなく、音響導波管内で発生するパルス状音波を用いて泡沫を瞬時に破壊することができるものであれば、その具体的手段は特に限定されるものでなく、種々の方法及び装置が採用可能である。
本発明は、金属缶、プラスチック製カップ、トレー状容器、PETボトル、ボトル缶、ガラス瓶などの各種容器に適用することができる。一般にパルス状レーザー光の繰返し周期及びパルス幅は短いので、容器が搬送されていても実質的には止まっているものとして扱うことができ、一つの容器に対して、1回だけパルス状音波を発生させてもよいし、任意の繰返し周期で複数回発生させてもよい。また、単一の光束を照射してもよいし、複数の光束を照射してもよい。さらに、ガルバノミラーなどの光学素子を用いて、光束を走査しながら複数のパルス状音波を発生させることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の消泡方法及び消泡装置は、各種容器に飲料等の内容物を充填する際に発生する泡の消泡に好適であるが、前記各種容器に飲料等の内容物を充填する場合に限らず、例えば豆腐製造工程等の種々の食品製造工程等において発生する泡の消泡や、種々の産業分野における消泡手段に利用可能である。
【符号の説明】
【0045】
100、200 ・・・ 消泡装置
110、210 ・・・ パルス状レーザー光発振装置
120、220 ・・・ 集光光学系
121、221 ・・・ レンズ
122 ・・・ プリズム
223 ・・・ 反射鏡
130、230 ・・・ 音響導波管
131、231 ・・・ 開口部
132、232 ・・・ テーパ部
133、233 ・・・ ストレート部
134、234 ・・・ レーザー光入射孔
235 ・・・ 後方反射壁
236 ・・・ レーザー光通過孔
A ・・・ 容器
B ・・・ 泡
C ・・・ 内容物
L ・・・ レーザー光
S ・・・ 焦点
P ・・・ パルス状音波

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルス状レーザー光によるパルス状音波で液体表面の泡沫を破壊させる消泡方法であって、前記パルス状音波の音響導波管の内周面における反射波が、前記液体表面に対向する音響導波管の開口部方向に向けられ、進行する各方向の反射波の前記開口部に達する時間差を少なくしたことを特徴とする消泡方法。
【請求項2】
前記反射波の進行方向を、音響導波管の軸心方向に対して40°以下とすることを特徴とする請求項1に記載の消泡方法。
【請求項3】
パルス状レーザー光によるパルス状音波で液体表面の泡沫を破壊させる消泡装置であって、パルス状レーザー光発振装置、該パルス状レーザー光発振装置より発振されたパルス状レーザー光を集光する集光光学系、集光されたレーザー光の焦点が内部空間に位置し開口部が液体表面に対向するよう配置された音響導波管とを備え、
前記音響導波管が、前記パルス状レーザー光の通過するレーザー光入射孔を有するとともに、少なくとも前記焦点或いはその近傍から前記開口部に向かって内周面の内径が増加するように形成されていることを特徴とする消泡装置。
【請求項4】
前記音響導波管の内周面が、開口部に向かってテーパ部を有することを特徴とする請求項3に記載の消泡装置。
【請求項5】
前記テーパ部が一段のテーパ部から成り、テーパ角度が軸心方向に対して25°乃至60°に形成されていることを特徴とする請求項4に記載の消泡装置。
【請求項6】
前記テーパ部が、前記開口部に向かって徐々にテーパ角度が小さくなる二段のテーパ部から成り、それぞれのテーパ角度が軸心方向に対して60°乃至80°、30°乃至50°に形成されていることを特徴とする請求項4に記載の消泡装置。
【請求項7】
前記テーパ部が、前記開口部に向かって徐々にテーパ角度が小さくなる三段のテーパ部から成り、それぞれのテーパ角度が軸心方向に対して60°乃至80°、30°乃至50°、10°乃至20°に形成されていることを特徴とする請求項4に記載の消泡装置。
【請求項8】
前記テーパ部の下方に、前記開口部に向かうストレート部を有することを特徴とする請求項4乃至7のいずれかに記載の消泡装置。
【請求項9】
前記集光されたレーザー光の焦点より反開口部側には、前記焦点から反開口部方向に進行する各方向のパルス状音波を開口部方向に反射する後方反射壁を備えていることを特徴とする請求項3乃至請求項8のいずれかに記載の消泡装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−183521(P2012−183521A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−50068(P2011−50068)
【出願日】平成23年3月8日(2011.3.8)
【出願人】(000003768)東洋製罐株式会社 (1,150)
【Fターム(参考)】