説明

消耗性疾患の予防または治療用薬剤

【課題】悪液質、とくに癌悪液質を治療するための薬剤または薬剤組成物の提供。
【解決手段】有効成分として、次式(I)


[式中、Rは、−Hまたは−CHであり;Rは、−OCOCH、=Oまたは−OHであり;Rは、−Hまたは−OHであり;Rは、−C(=CH)−C(CH等であり;Rは、−Hまたは−OHであり;Rは、−CHまたは−CHOHである]で示されるラノスタン化合物またはその薬理上許容される塩を含む、哺乳動物における消耗性疾患を予防または治療するための薬剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消耗性疾患を予防および/または治療するための薬剤または薬剤組成物に関する。詳細には、本発明は、悪液質や拒食症等の消耗性疾患、特に癌によって引き起こされる悪液質(癌悪液質)を予防および/または治療するための薬剤または薬剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
悪液質は、健康によくない疲労状態であり、一般的に、内分泌系や免疫系の病気や変化からの拒食症によって生じ、これにより、体が消耗したり、筋肉や内臓タンパク質が減少したり、最終的には体重が減少する。
【0003】
悪液質は、慢性疾患の患者または救急患者で見受けられる症状である。特に、癌患者の中でも、胃癌や膵臓癌の患者では、約70%の患者でこの症状を発症するであろう。癌の末期では、約80%の患者が、癌の種類にかからわず、悪液質を発症するであろう。悪液質は、たとえ、食べ物の量を増やして、患者の栄養素の摂取量を増やしても、患者の体重の低下を防止したりあるいは終わらせる方法がないという特徴がある。ホルモン食欲増進剤(hormonal appetite enhancer)(メゲストロール、酢酸メドロキシプロゲステロンなど)が、一般的に治療に使用される。しかし、このような処置では、体重が一時的増加する(水や脂肪が増加するのみである)が、体筋は増加せず、活動能や身体活動は改善されない人もいる。逆に、血栓、浮腫、出血、高血糖症や高血圧症などの、薬の副作用が見受けられることがある。
【0004】
異化亢進(catabolic wasting)または悪液質は、自然的に進行する骨格筋および脂肪の消費、栄養の補給を増加させているにも関らず体重が減少してしまう難治性の体重減少、安静時エネルギー消費量(REE)の増加、タンパク質合成の減少、炭水化物代謝変化(Coriサイクル活性の増加)、タンパク質溶媒(protein solvent)によるATP−ユビキチン依存性プロテアソーム経路の過剰な異化、および脂肪溶媒(adipose solvent)による脂肪組織の過剰な異化に特徴付けられる症候群である(非特許文献1)。一般的に、患者は、少なくとも5%または5ポンドの体重減少が見られるまでは悪液質と診断されない。癌患者の約半分が、一定レベルで異化亢進(catabolic wasting)を経験し、肺、膵臓および胃腸悪性疾患の症例で高い発病率が見られる(非特許文献2)。かかる症候群は、AIDSなどの免疫不全症の患者や細菌性・寄生虫性疾患、リウマチ性関節炎ならびに腸、肝臓、肺および心臓に関連する慢性疾患の患者で見られる。悪液質はまた、拒食症に関連し、老化の状況あるいは身体の損傷または火傷の結果となりうる。悪液質症候群は、患者の機能的能力や生活の質を低くし、薬効(potent situation)を低下させ、薬剤耐性を抑制する。悪液質のレベルは、患者の寿命に反比例して、それは、大抵、予後不良を意味する。近年では、高齢・障害に関連する疾患は、健康管理において、大きな問題となってきている。
【0005】
拒食症(食欲不振の医学的用語)は、多くの悪性疾患を悪化させ、癌、感染症、慢性臓器不全および心的外傷を有する患者においてよく見られる。拒食症は、カロリー摂取の低下や栄養失調を引き起こすという点で、重篤な症候群である。拒食症の症状としては、妊娠期間(gestation)の短縮、嗅覚の低下、早期の満腹感、空腹感の低下、完全なる食物嫌悪や吐き気があり、嘔吐も見られることがある。拒食症の原因はよく分かっておらず、効果的な治療として使用できる選択肢が限られている。ある研究によれば、ホルモン、社会的要因および心理的要因が、この症候群の開始と進行の重要な要因なのではないかと言及されている。
【0006】
悪液質は通常(実際)癌と関連しているものの、悪液質の開始と、腫瘍のサイズ、病期、悪性疾患の型と期間と、の一定の関係は、明確になっていない。癌悪液質は、大抵、カロリー摂取の減少、安静時エネルギー消費量の増加、タンパク質、脂肪および炭水化物の代謝性変化に関連している。例えば、炭水化物の明らかな異常としては、総グルコース変換(率)の増加、グルコース新生の増加、耐糖能異常および高血糖症がある。脂肪溶媒(fat solvent)の増加、遊離脂肪酸およびグリセロールの変換(率)の増加、脂質異常症ならびにリポタンパク質リパーゼ活性の減少が一般的に見られる。悪液質に関連する体重減少は、体脂肪貯蔵損失によるものであるだけでなく、身体のタンパク質総重量の損失および広範的な骨格筋消耗にも起因すると考えられる。上記症候群の悪化の重要因子は、タンパク質変換(率)の増加およびアミノ酸酸化の調節障害にある可能性がある。さらに、催炎症性(pro-inflammatory)サイトカイン(例えば、腫瘍壊死因子α(TNF−α)、インターロイキン−1、インターロイキン−6およびγ−インターフェロン)、急性期タンパク質(例えば、C反応性タンパク質)ならびに特有のプロスタグランジンのような癌に関連して生産される特有の主たる影響要因は、癌悪液質に関連しているようである。
【0007】
一方、漢方薬において、高齢者は毎日ポリア本草薬(Poria galenical)を飲むことが推奨され、それは、老化を遅らせ、病気になりにくくなり、寿命を延ばすと言われている。
【0008】
本願発明者は、特許文献1において、人体で免疫を増強する薬剤組成物を開示しており、かかる薬剤組成物は、潜在的成分(有効成分)としてラノスタン化合物を含む。かかる組成物は、免疫を増強させることができ、ウイルス感染症の予防および治療に有効であることが記載されている。一方で、ポリア抽出物およびこれから精製されたラノスタン/ラノスタン化合物は、免疫に阻害効果を示し、IgE−介在性アレルギー(喘息)の予防および治療に用いられる。かかる阻害効果は、特許文献2および特許文献3に開示されている。これらの公報は、ポリア抽出物およびラノスタン/ラノスタン化合物が免疫を調節できることを示唆している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】欧州特許出願公開第1535619号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2009−0318399号明細書
【特許文献3】国際公開第2009/155730号パンフレット
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Body JJ, Curr Opin Oncol 11:255−60,1999, Muscaritoli M, et al:Eur J Cancer 42:31−41,2006
【非特許文献2】Dewys WD, et al:Am J Med 69:491−7,1980
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、消耗性疾患(悪液質および拒食症など)、特に癌に起因する悪液質の予防または治療のための薬剤または薬剤組成物を提供することである。
【0012】
本発明の別の目的は、消耗性疾患(悪液質および拒食症など)、特に癌に起因する悪液質の予防または治療において、マツホド(Polia cocos(Schw) Wolf)から準備されるポリア抽出物の使用を提供することである。
【0013】
本発明のさらに別の目的は、消耗性疾患(悪液質および拒食症など)、特に癌に起因する悪液質の予防または治療のためのラノスタン/ラノスタン化合物の新たな用途を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本願出願人は、米国特許出願公開第2009−0247496号明細書および国際公開第2009/124420号パンフレットにおいて、ポリア抽出物およびこれから精製されたラノスタン/ラノスタン化合物が、ヒトの腸において有効で、栄養の摂取、即ち、グルコース、アミノ酸およびビタミン(葉酸)の吸収を向上することを開示している。当該知見をさらに検討した結果、本発明者は、ポリア抽出物成分、特にラノスタン化合物が、栄養および免疫に関連する悪液質を向上させ、治療の助けとなる可能性があると、考えた。そこで、本発明者は、ポリア抽出物成分およびラノスタン化合物が悪液質の治療効果があるか否かを、ヒト肺癌細胞を移植したマウスの実験を行うことによって評価して、かかるヒト肺癌細胞が移植されたマウスが、正常な食欲を示すかどうか、また、正常なマウスと比較して、徐々に体重が減少することなく、正常な体重を有するかどうかを、観察した。その結果、ポリア抽出物成分およびラノスタン化合物が、徐々に体重を減少させることなく、正常な体重を有する効果を有し、ゆえに、悪液質や拒食症等の消耗性疾患、特に癌によって引き起こされる悪液質(癌悪液質)を予防および/または治療するのに有効であることを知得した。上記知見に基づいて、本発明を完成した。
【0015】
すなわち、上記目的は、以下によって達成される。
【0016】
(1)有効成分としての下記式(I):
【0017】
【化1】

【0018】
ただし、Rは、−Hまたは−CHであり;Rは、−OCOCH、=Oまたは−OHであり;Rは、−Hまたは−OHであり;Rは、−C(=CH)−C(CH(この際、Rは、−Hまたは−OHである)または−CH=C(CH)R(この際、Rは、−CHまたは−CHOHである)である;Rは、−Hまたは−OHであり;およびRは、−CHまたは−CHOHである、
で示されるラノスタン化合物(本明細書中、「ラノスタン化合物(I)」または単に「ラノスタン」とも称する)、またはその薬理上許容される塩を、消耗性疾患(悪液質および拒食症など)を予防または治療の予防または治療のために有効な量を含む、哺乳動物における消耗性疾患を予防または治療するための薬剤または薬剤組成物。
【0019】
(2)上記ラノスタン化合物(I)は、下記式:
【0020】
【化2】

【0021】
【化3】

【0022】
【化4】

【0023】
または、
【0024】
【化5】

【0025】
である、上記(1)に記載の薬剤または薬剤組成物。
【0026】
(3)ラノスタン化合物(I)またはその薬理上許容される塩を1〜60重量%含む、上記(1)または(2)に記載の薬剤または薬剤組成物。
【0027】
(4)有効成分(活性成分)として単離されたラノスタン化合物(I)またはその薬理上許容される塩を含む、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の薬剤または薬剤組成物。
【0028】
(5)経口投与される、上記(1)〜(4)のいずれかに記載の薬剤または薬剤組成物。
【0029】
(6)前記ラノスタン化合物(I)の供給源として、ポリア抽出物(Poria extract)を含む、上記(1)〜(5)のいずれかに記載の薬剤または薬剤組成物。
【0030】
(7)前記ポリア抽出物は、ポリア抽出物の重量に対して、1〜60重量%の前記式(I)のラノスタン化合物を含む、上記(6)に記載の薬剤または薬剤組成物。
【0031】
(8)前記ポリア抽出物は、実質的にセコラノスタン(secolanostane)を含まない、上記(6)または(7)に記載の薬剤または薬剤組成物。
【0032】
(9)前記ポリア抽出物は、下記の工程:
a)水、メタノール、エタノールまたはこれらの混合溶媒によって、マツホド(Poliacocos(Schw) Wolf)の代謝産物、発酵産物または菌核粒子(sclerotium)を抽出する工程と、
b)前記a)工程から得られた液体抽出物を濃縮する工程と、
c)前記b)工程から得られた濃縮物をシリカゲルカラムに導入する工程と、
d)極性の低い溶離液で前記シリカゲルカラムを溶出し、溶出液を集める工程と、
e)前記溶出液を濃縮して、溶出濃縮物を形成する工程と、
を含む方法によって準備される、上記(6)〜(8)のいずれかに記載の薬剤または薬剤組成物。
【0033】
(10)前記e)工程で得られた溶出濃縮物は、薄層クロマトグラフィーのRf値が少なくとも0.1であり、この際、薄層クロマトグラフィーは、ジクロロメタン:メタノール=96:4(体積比)の混合溶媒で展開し、紫外線ランプとヨード蒸気で検出する、上記(9)に記載の薬剤または薬剤組成物。
【0034】
(11)前記a)工程における抽出は95%水性エタノール(95%エタノール水溶液)を用いることによって行われる、上記(9)または(10)に記載の薬剤または薬剤組成物。
【0035】
(12)前記a)工程における抽出は、マツホド(Poliacocos(Schw) Wolf)の代謝産物、発酵産物または菌核粒子を熱湯または沸騰水で抽出して抽出物水溶液を得;pHが9〜11になるまで、得られた抽出物水溶液に塩基を添加して塩基性水溶液を得;かかる塩基性水溶液を回収し、pHを好ましくは4〜7、より好ましくは4〜6になるまで、この塩基性水溶液に酸を添加して沈殿物を形成し;かかる沈殿物を回収して、必要であれば噴霧乾燥し;エタノールまたはエタノール水溶液で沈殿物を抽出し;抽出物溶液を回収することを有する、上記(9)〜(11)のいずれかに記載の薬剤または薬剤組成物。
【0036】
(13)前記b)工程で得られる濃縮物は、メタノールとn−ヘキサンを体積比1:1で含む二相の溶媒でさらに抽出し、メタノール層を二相の溶媒による抽出混合物から分離し、メタノール層を濃縮することによって濃縮物を形成し、当該濃縮物を前記c)工程におけるシリカゲルカラムにフィードとして用いる、上記(9)〜(11)のいずれかに記載の薬剤または薬剤組成物。
【0037】
(14)前記d)工程における極性の低い溶離液は、ジクロロメタンとメタノールを体積比96.5:3.5で含む混合溶媒である、上記(9)〜(12)のいずれかに記載の薬剤または薬剤組成物。
【0038】
(15)前記ポリア抽出物は、ポリア抽出物の重量に対して、5〜35%重量のラノスタン化合物(I)を含む、上記(6)〜(14)のいずれかに記載の薬剤または薬剤組成物。
【0039】
(16)さらに栄養素を含む、上記(1)〜(15)のいずれかに記載の薬剤または薬剤組成物。ここで栄養素としては、特に制限されないが、例えば、グルコース、アミノ酸、ビタミンまたはそれらの組み合わせなどが挙げられる。
【0040】
(17)前記哺乳動物は、ヒトである、上記(1)〜(16)のいずれかに記載の薬剤または薬剤組成物。
【0041】
(18)前記消耗性疾患は、悪液質である、上記(1)〜(17)のいずれかに記載の薬剤または薬剤組成物。より好ましくは、かかる悪液質は、肺癌、胃癌、膵臓癌、大腸癌、乳癌、口腔癌または鼻咽腔癌などの癌によって引き起こされる。
【0042】
(19)前記消耗性疾患は、癌、拒食症、老化(aging)、体の損傷(body injury)もしくは火傷(body burn)によって引き起こされる、上記(1)〜(17)のいずれかに記載の薬剤または薬剤組成物。
【0043】
(20) 式(I)のラノスタン化合物またはその薬理上許容される塩は、体重1kgあたり、8.4mg/日以上の量で哺乳動物(特にヒト)に投与される、上記(1)〜(19)のいずれかに記載の薬剤または薬剤組成物。
【0044】
(21)薬理上許容される賦形剤または希釈剤をさらに含む、上記(1)〜(20)のいずれかに記載の薬剤または薬剤組成物。すなわち、当該形態の本発明の薬剤または薬剤組成物は、活性成分として、単離されたラノスタン化合物(I)またはその薬理上許容される塩、および製薬上許容できる担体または希釈剤を含む。
【発明の効果】
【0045】
本発明の薬剤または薬剤組成物によれば、消耗性疾患、例えば、悪液質や拒食症等の消耗性疾患、特に癌によって引き起こされる悪液質(癌悪液質)を予防または治療することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】図1は、実施例7の1回目の試験におけるそれぞれの群におけるマウスの体重変化を示すものである。図中、「+」はブランクの群を示し;丸はコントロール群を示し;ダイヤモンド型、四角および三角は、それぞれ、マウスの体重1kg当たり、17.6mg、8.8mgおよび4.4mgのラノスタンを投与された薬剤投与群、PC−A、PC−BおよびPC−Cを示す。
【図2】図2は、実施例7の2回目の試験におけるそれぞれの群におけるマウスの体重変化を示すものである。図中、ダイヤモンド型はブランクの群を示し;四角は、コントロール群を示し;三角は、マウスの体重1kg当たり、8.8mgのラノスタンを投与された薬剤投与群、PC−Dを示す。
【図3】図3は、実施例7の2回目の試験におけるそれぞれの群におけるマウスの食糧摂取量(食物消費量)変化を示すものである。図中、ダイヤモンド型はブランクの群を示し;三角は、コントロール群を示し;丸はマウスの体重1kg当たり、8.8mgのラノスタンを投与された薬剤投与群、PC−Dを示す。
【図4】図4は、実施例7の第22日の1回目の試験におけるマウスの血中アルブミン濃度(g/dL)を示す。
【図5】図5は、実施例7の第22日の2回目の試験におけるマウスの血中アルブミン濃度(g/dL)を示す。
【図6】図6は、実施例8におけるI群の癌患者(化学療法+ポリア抽出物カプセル1個)の全体的な栄養状態を示す図である。この際、患者は、臨床医により使用されているPG−SGA評価法(PG-SGA assessment)(Patient-Generated Subjective Global Assessment)に従って評価された。
【図7】図7は、実施例8におけるII群の癌患者(化学療法+ポリア抽出物カプセル2個)の全体的な栄養状態を示す図である。この際、患者は、臨床医により使用されているPG−SGA評価法(PG-SGA assessment)に従って評価された。
【図8】図8は、実施例8におけるコントロール群の癌患者(化学療法)の全体的な栄養状態を示す図である。この際、患者は、臨床医により使用されているPG−SGA評価法(PG-SGA assessment)に従って評価された。
【発明を実施するための形態】
【0047】
本発明は、下記式(I):
【0048】
【化6】

【0049】
ただし、Rは、−Hまたは−CHであり;Rは、−OCOCH、=Oまたは−OHであり;Rは、−Hまたは−OHであり;Rは、−C(=CH)−C(CH(この際、Rは、−Hまたは−OHである)または−CH=C(CH)R(この際、Rは、−CHまたは−CHOHである)である;Rは、−Hまたは−OHであり;およびRは、−CHまたは−CHOHである、
で示されるラノスタン化合物またはその薬理上許容される塩を哺乳動物における消耗性疾患を予防または治療するのに有効な量含む、哺乳動物における消耗性疾患を予防または治療するための薬剤または薬剤組成物を提供する。本発明によると、ラノスタン化合物(I)もしくはその薬理上許容される塩または上記ラノスタン化合物(I)もしくはその薬理上許容される塩を含むポリア抽出物を使用することによって、拒食症患者や癌患者における重篤な体重減少を治療できる。また、当該使用によって、栄養分摂取を向上できる。
【0050】
本発明において、消耗性疾患は、悪液質であることが好ましく、肺癌、胃癌、膵臓癌、大腸癌、乳癌、口腔癌または鼻咽腔癌などの癌によって引き起こされる悪液質(癌悪液質)であることがより好ましい。または、消耗性疾患は、癌、拒食症、老化(aging)、体の損傷(body injury)もしくは火傷(body burn)によって引き起こされる消耗性疾患であることもまた好ましい。なお、悪液質に関連する疾患としては、癌に加えて、AIDS、老化リウマチ性関節炎、肺結核、線維性嚢胞、クローン病、感染症などによって引き起こされる悪液質などがある。手術後または化学療法もしくは放射線治療を受けた癌患者の消耗状態(wasting state)を改善するために、栄養素補給(アミノ酸、グルコース、ビタミンなど)が摂取される必要がある場合がある。本発明の有効成分(活性成分)は、栄養補給のために粉乳、飲料または食物に添加されることができる。また、医療用途のため、錠剤、カプセル、顆粒、液体、注射などの形態にすることもできる。
【0051】
「悪液質」は、人体が疲労状態であることを意味する。悪液質を引き起こす理由は多くの理論があるが、このようなメカニズムは解明されていない。癌に関しては、癌細胞放出因子または癌細胞に対する人体の免疫反応により、直接的または間接的に様々な要因を放出し、これにより拒食症となり、人体における内分泌系および免疫システムに変化をもたらし、その結果、患者は食物の摂取を嫌がりはじめ、筋肉中の脂肪やタンパク質が徐々に減少し、これにより、身体が脆くなったり、体重が減少していくという現象が徐々に起こることが知られている。
【0052】
悪液質に関連する疾患は、癌、感染症(肺結核、AIDSなど)、自己免疫疾患(リウマチ性関節炎)、老化、線維性嚢胞およびクローン病を含む。
【0053】
癌患者の約70%が悪液質を発症し、胃癌や膵臓癌患者でより頻繁に見られる。癌の末期では、癌の種類にかかわらず約80%の癌患者の悪液質を発症する。栄養素をより多く摂取させるためにチューブによる栄養補給(gavage)(経管栄養)や静脈注射による食物摂取または他の方法を治療に適用しても、患者の体重の低下を防止したりあるいは終わらせることができない。
【0054】
ホルモン食欲増進剤(hormonal appetite enhancer)(メゲストロール、酢酸メドロキシプロゲステロンなど)が、一般的に治療に使用される。しかし、このような処置では、体重が一時的増加する(水や脂肪が増加するのみである)が、体筋は増加せず、活動能や身体活動は改善されない人もいる。逆に、血栓、浮腫、出血、高血糖症や高血圧症などの、薬の副作用が見受けられることがある。
【0055】
本発明で使用される哺乳動物(例えば、ヒト)による哺乳動物における消耗性疾患を予防または治療するためのラノスタン化合物(I)は、下記式(I)で示される。
【0056】
【化7】

【0057】
上記式(I)中、Rは、−Hまたは−CHである。Rは、−OCOCH、=Oまたは−OHである。ここで、Rが=Oであるとは、Rの結合している炭素原子に結合する水素原子が脱離し、Rの結合および前記水素原子の脱離に伴う結合の双方が、C=Oを形成するための二重結合に関与する。すなわち、Rが=Oであるときは、ラノスタン化合物(I)は、下記構造を有する。
【0058】
【化8】

【0059】
また、Rは、−Hまたは−OHである。Rは、−C(=CH)−C(CH(この際、Rは、−Hまたは−OHである)または−CH=C(CH)R(この際、Rは、−CHまたは−CHOHである)である;Rは、−Hまたは−OHである。Rは、−CHまたは−CHOHである。
【0060】
前記式(I)において、Rは、好ましくはHであり、Rは、好ましくはOHであり、Rは、好ましくは−C(=CH)−C(CH(この際、Rは、好ましくはHである)であり、Rは、好ましくはHであり、Rは、好ましくはCHである。すなわち、ラノスタン化合物(I)は、下記式で表わされる化合物が好ましい。
【0061】
【化9】

【0062】
【化10】

【0063】
【化11】

【0064】
または、
【0065】
【化12】

【0066】
上記ラノスタン化合物(I)は、ポリア抽出物(マツホドの抽出物)中に含まれる。このラノスタン化合物(I)は比較的低極性の画分であり、主要な化合物である上記K1、K2、K3およびK4K1〜K6化合物と、微量の化合物K4a、K4b、K5、K6a、およびK6bK1〜K6化合物と、を含む。これらのうち、K1、K2、K3、およびK4K1〜K6化合物が、哺乳動物における消耗性疾患を予防または治療効果を有する。
【0067】
また、微量成分である前記K4a、K4b、K5、K6a、およびK6b化合物の構造は以下の通りである:
【0068】
【化13】

【0069】
なお、前記式(I)には、連続する4個の炭素原子にわたる、点線で示される3本の結合が示されているが、これは、上記K1およびK2のそれぞれの主成分のように、前記連続する4個の炭素原子の2番目と3番目の炭素原子、すなわち2つの六員の縮合に関与している2個の炭素原子間に二重結合が存在する形態と、K1およびK2の微量成分並びにK3〜K6(K6bを除く)のように、前記連続する4個の炭素原子の、1番目および2番目の炭素原子間、並びに3番目および4番目の炭素原子間に二重結合が存在する形態との双方を含む概念である。
【0070】
本発明の薬剤または薬剤組成物は、有効成分(活性成分)として、ラノスタン化合物(I)を含む。適当なラノスタン化合物(I)源としては、ポリア抽出物がある。または、当該ラノスタン化合物(I)は、冬虫夏草(Cordyceps sinensis)、樟芝(Antrodia cinnamomea)またはマンネンタケ(Granodema lucidum)から得てもよい。以下では、本発明に係るラノスタン化合物(I)をポリア抽出物から得る方法について説明する。しかし、本発明は、下記形態に限定されない。
【0071】
本発明のラノスタン化合物(I)(K1〜K6化合物)は、粗抽出物を得る、従来の抽出工程を利用することにより、ポリア(例えば、マツホド)から得られる。すなわち、ラノスタン化合物(I)の供給源として、ポリア抽出物(Poria extract)が使用されることが好ましい。また、この際、ポリア抽出物中のラノスタン化合物(I)の含有量は、特に制限されないが、ポリア抽出物は、ポリア抽出物の重量に対して、1〜60重量%の前記式(I)のラノスタン化合物を含むことが好ましく、より好ましくは5〜60重量%、さらに好ましくは7〜40重量%、特に好ましくは10〜20重量%の前記式(I)のラノスタン化合物を含む。ここで、ポリア抽出物は、例えば、US 2004/0229852A1および特開2004−339220号公報に記載されるのと同様の方法により調製できる。具体的には、一般的な抽出方法によりマツホド(Polia cocos(Schw) Wolf)を抽出して粗抽出物を得る。ここで、粗抽出物は、必要であれば濃縮されて濃縮物を得てもよい。この粗抽出物または濃縮物をクロマトグラフィーによってラノスタンの低極性画分(ジクロロメタン:メタノールが96:4の溶離液使用)およびセコラノスタンの高極性画分(ジクロロメタン:メタノールが90:10または0:100の溶離液使用)に分離する。ここで、ジクロロメタン:メタノール=96:4(体積比)の混合溶媒によって薄層クロマトグラフィーで展開したときに、ラノスタン画分はクロマトグラフィー値(Rf)が0.1以上のところで検出され、また、セコラノスタン画分はRfが0.1未満のところで検出される。ジクロロメタン:メタノール=97:3〜95:5の体積比(より好ましくは97:3〜96:4、特に好ましくは96.5:3.5の体積比)である極性の低い溶離液を使用し、ラノスタン画分をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで溶出することにより、いくつかのラノスタンをラノスタン画分から分離する。
【0072】
すなわち、ラノスタン化合物(I)またはポリア抽出物の調製方法の好ましい実施形態は、a)水、メタノール、エタノールまたはこれらの混合溶媒によって、マツホド[Poria cocos(Schw)Wolf]の代謝産物、発酵産物または菌核粒子(sclerotium)を抽出し;b)前記a)工程から得られた液体抽出物を濃縮し;c)前記b)工程から得られた濃縮物をシリカゲルカラムに導入し;d)極性の低い溶離液で前記シリカゲルカラムを溶出し、溶出液を集め;e)前記溶出液を濃縮して、溶出濃縮物を形成することを含む。
【0073】
ここで、上記e)工程で得られた溶出濃縮物は、薄層クロマトグラフィーのRf値が少なくとも0.1(Rf値=0.1以上)であり、この際、薄層クロマトグラフィーは、ジクロロメタン:メタノール=96:4の混合溶媒で展開し、紫外線ランプとヨード蒸気で検出することが好ましい。
【0074】
前記a)工程における抽出は95%エタノールを用いることによって行われることが好ましい。また、前記a)工程における抽出は、Poria cocos (Schw) Wolfの代謝産物、発酵産物または菌核粒子を熱湯または沸騰水で抽出して抽出物水溶液を得;pHが9〜11になるまで、得られた抽出物水溶液に塩基を添加して塩基性水溶液を得;かかる塩基性水溶液を回収し、pHを好ましくは4〜7、より好ましくは4〜6になるまで、この塩基性水溶液に酸を添加して沈殿物を形成し;かかる沈殿物を回収して;エタノールで沈殿物を抽出し;抽出物溶液を回収することを有することが好ましい。
【0075】
前記b)工程で得られる濃縮物は、メタノールとn−ヘキサンを体積比1:1で含む二相の溶媒でさらに抽出し、メタノール層を二相の溶媒による抽出混合物から分離し、メタノール層を濃縮することによって濃縮物を形成し、当該濃縮物を前記c)工程におけるシリカゲルカラムにフィードとして用いることが好ましい。
【0076】
上記方法によって得られるポリア抽出物中のラノスタン化合物(I)の含有量は、消耗性疾患の予防・治療効果を達成できる程度であれば特に制限されないが、ポリア抽出物が、ポリア抽出物の重量に対して、5〜35%重量のラノスタン化合物(I)を含むことが好ましい。
【0077】
また、上記方法によって得られるポリア抽出物は、実質的にセコラノスタン(secolanostane)を含まないことが好ましい。ここで、「実質的にセコラノスタン(secolanostane)を含まない」とは、本発明の薬剤または薬剤組成物が、ラノスタン化合物(I)またはポリア抽出物による消耗性疾患の予防・治療効果を損なわない程度であることを意味し、具体的には、セコラノスタンの含有量は、ラノスタン化合物(I)の含有量の5重量%未満であることが好ましい。より好ましくは、ポリア抽出物は、セコラノスタン(secolanostane)を含まない。
【0078】
本発明に係る薬剤または薬剤組成物は、上記ラノスタン化合物(I)もしくはその薬理上許容される塩、または当該ラノスタン化合物(I)もしくはその薬理上許容される塩を含むポリア抽出物を含む。好ましくは、本発明に係る薬剤または薬剤組成物は、有効成分(活性成分)として、単離されたラノスタン化合物(I)またはその薬理上許容される塩を含む。ここで、ラノスタン化合物(I)もしくはその薬理上許容される塩は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物として使用されてもよい。
【0079】
本発明において、ラノスタン化合物(I)の薬理上許容される塩の形態は、消耗性疾患の予防・治療効果を発揮でき、また、哺乳動物に悪影響を与えない形態であれば特に制限されない。具体的には、塩酸、臭化水素酸、リン酸、硫酸、メタンスルホン酸、酢酸、酒石酸、乳酸、コハク酸、クエン酸、リンゴ酸、マレイン酸、ソルビン酸、アコニット酸、サリチル酸、フタル酸、エンボニックアシッド(embonic acid)、エナント酸などの有機及び無機酸から誘導される塩;ナトリウム塩、カリウム塩、アルミニウム塩などの塩基から誘導される塩などの、生理学的に許容できる無毒な塩が挙げられる。
【0080】
また、本発明に係る薬剤または薬剤組成物中の、上記ラノスタン化合物(I)もしくはその薬理上許容される塩、または当該ラノスタン化合物(I)もしくはその薬理上許容される塩を含むポリア抽出物の含有量は、消耗性疾患の予防・治療効果を発揮でき、また、哺乳動物に悪影響を与えない程度であれば特に制限されない。好ましくは、本発明に係る薬剤または薬剤組成物は、薬剤または薬剤組成物の全量に対して、前記ラノスタン化合物(I)またはその薬理上許容される塩を、1〜60重量%含有する。また、本発明の薬剤または薬剤組成物において、好ましくは、セコラノスタンの含有量は、前記ラノスタン化合物(I)の含有量の5重量%未満である。かような形態によれば、毒性を示す虞のあるセコラノスタンの含有量が低減されているため、ラノスタン化合物(I)もしくはその薬理上許容される塩による消耗性疾患の予防・治療効果がより一層向上しうる。
【0081】
本発明に係る薬剤または薬剤組成物は、上記ラノスタン化合物(I)もしくはその薬理上許容される塩、または当該ラノスタン化合物(I)もしくはその薬理上許容される塩を含むポリア抽出物に加えて、薬理上許容される賦形剤または希釈剤をさらに含んでもよい。ここで、薬理上許容される賦形剤または希釈剤は、特に制限されず、従来公知の形態が適宜採用されうる。担体としては、例えば、乳糖、白糖、塩化ナトリウム、ブドウ糖、尿素、澱粉、炭酸カルシウム、カオリン、結晶セルロース、ケイ酸等の賦形剤;水、エタノール、プロパノール、単シロップ、ブドウ糖液、澱粉液、ゼラチン溶液、カルボキシメチルセルロース、セラック、メチルセルロース、リン酸カリウム、ポリビニルピロリドン等の結合剤;乾燥澱粉、アルギン酸ナトリウム、寒天末、ラミナラン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、澱粉、乳糖等の崩壊剤、白糖、ステアリン、カカオバター、水素添加油等の崩壊抑制剤;第4級アンモニウム塩基、ラウリル硫酸ナトリウム等の吸収促進剤;グリセリン、澱粉等の保湿剤;澱粉、乳糖、カオリン、ベントナイト、コロイド状ケイ酸等の吸着剤;精製タルク、ステアリン酸塩(ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸ナトリウム等)、硼酸末、ポリエチレングリコール等の潤沢剤等が挙げられる。また、希釈剤としては、例えば、水、エタノール、プロピレングリコール、エトキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類等が挙げられる。なお、これらの担体および希釈剤はあくまでも例示であり、これらには全く制限されない。
【0082】
また、本発明に係る薬剤または薬剤組成物は、栄養素をさらに含んでもよい。ここで、栄養素としては、医薬の製剤分野において通常使用し得る公知の栄養素を使用でき、特に制限されない。例えば、グルコース、アミノ酸、ビタミンまたはそれらの組み合わせなどが挙げられる。
【0083】
さらに、本発明に係る薬剤または薬剤組成物は、常法に従い、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、矯味矯臭剤、溶解補助剤、懸濁剤、着色剤、pH緩衝剤、防腐剤、ゲル化剤、界面活性剤、コーティング剤等、医薬の製剤分野において通常使用し得る公知の補助剤を用いて製剤化されうる。また、必要に応じて着色剤、保存剤、香料、風味剤、甘味剤、他の医薬等と混合されてもよい。
【0084】
本発明に係る薬剤または薬剤組成物は、ヒトを含む哺乳動物に対し、経口または非経口により安全に投与され、また、当該投与により、消耗性疾患を予防または治療できる。好ましくは、例えば錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、シロップ剤等の形態で経口投与されうる。ただし、経皮投与や皮下投与の形態で非経口により投与されてもよい。また、従来公知の手法により徐放剤の形態とされてもよい。
【0085】
本発明において、「哺乳動物」としては、特に制限されず、例えばヒト、サル、マウス、ウマ、ウシ、ブタ、イヌ、ネコ、モルモット、ウサギおよびラット等が例示される。なかでも、ヒト、サル並びに、イヌおよびネコ等の愛玩動物、モルモット、ウサギおよびラット等の実験動物がより好ましく、ヒトが特に好ましい。
【0086】
本発明に係る薬剤または薬剤組成物の投与量は、患者の年齢、体重及び症状、目的とする投与形態や方法、治療効果、および処置期間等によって異なり、正確な量は医師により決定されるものである。通常、式(I)のラノスタン化合物またはその薬理上許容される塩が、体重1kgあたり、好ましくは5〜40mg/日、より好ましくは7〜35mg/日、さらにより好ましくは8.4mg/日以上、特に好ましくは8.4〜33.6mg/日の量で哺乳動物(特にヒト)に投与される。
【0087】
後述する実施例は、本発明をさらに詳細に説明するために提供するものであり、本発明の範囲を限定するために使用してはならない。
【0088】
本明細書においてパーセンテージおよびその他の量は、特に指摘しない限り重量基準である。パーセンテージは、全体が100%となる任意の範囲から選択される。
【実施例】
【0089】
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。
【0090】
実施例1
雲南で成長させたポリア(Poria)26kgを、加熱しながら75%水性アルコール(エタノール)溶液260リットルで抽出した。抽出は3回繰り返し、得られた3つの抽出溶液を合わせて、真空濃縮して、抽出物(アルコール抽出物)225.2gを得た。続いてその抽出物について定量分析を行ったところ、1グラムあたり、ラノスタン76.27mgが得られたことが分かった。ここで、K1(パキム酸(pachymic acid))は33.4mg、K1−1(デヒドロパキム酸(dehydropachymic acid))は9.59mg、K2−1(ツムロス酸(tumulosic acid))は19.01mg、K2−2(デヒドロツムロス酸(dehydrotumulosic acid))は6.75mg、K3(ポリポレン酸C(polyporenic acid C))5.06mg、およびK4(3−エピデヒドロツムロス酸(3-epidehydrotumulosic acid))は2.46mgを占めた。
【0091】
実施例2
実施例1で得られたアルコール抽出物125gを、さらにジクロロメタン1.3リットルで6回抽出し、得られた6つの抽出溶液を合わせて濃縮して、抽出物(ジクロロメタン抽出物)22.26gを得た。このジクロロメタン抽出物を、加熱した95%水性アルコール(エタノール)溶液に溶解し、放置して冷却し、次いでろ過し、不溶物を廃棄した。ろ液に少量の水を、ろ液中のアルコール濃度が45%になるまで加えて、沈殿させ、遠心分離により沈殿物17.4gを得た。続いて、この沈殿物を定量分析したところ、沈殿物1グラムあたり、ラノスタン264.78mgが含まれることが分かった。ここで、K1−1は159.7mg、K1−2は56.96mg、K2−1は24.43mg、K2−2は8.8mg、K3は9.84mg、およびK4は5.05mgを占めた。なお、K1−1、K1−2、K2−1、K2−2、K3、およびK4の構造は下記のとおりである。シリカゲルを使用した薄層クロマトグラフィー法(TLC)により、沈殿物はセコラノスタンを全く含んでいないことを確認した。
【0092】
実施例3
ポリア(Poria)100kgを水800kg中で3時間煮沸し、50℃になるまで放置して冷却し、5N NaOH溶液を用いて、pH値を11になるように調整し、次いで得られた溶液を3時間攪拌した。遠心分離機を使用して、固形物から液体を分離し、分離した固形物にさらに水800kgを加えた。pH値をNaOHで11に調整すること、攪拌すること、遠心分離により固形物を取り除くことを含む、上記の手順を繰り返した。得られた2つの液体を合わせて、真空濃縮し50℃の溶液100kgとし、次いで、3N HClを用いてpH値を6.5になるように調整して、沈殿物を生成した。この沈殿物を溶液から分離し、続いてHO 40Lで洗浄し、沈殿物を回収するために遠心分離した。沈殿物は水8Lを用いて噴霧乾燥し、粉末380gを得た。その後、粉末はアルコール(エタノール)4Lを用いて3回抽出し、抽出溶液は合わせて濃縮し、アルコール抽出物(エタノール抽出物)238.9gを得た。このアルコール抽出物238.9gは、TLC分析によりセコラノスタン化合物を全く含まないことが証明された。次いで、アルコール抽出物238.9gは、HPLCにより分離し、抽出物1グラムにつき、K2が214mg、K3が23mg、K4が24mgおよびK1が4.52mgとなることが分かった。言い換えれば、抽出物1グラムにつき約265mgのラノスタン化合物が含まれている。
【0093】
また、粉末を50%水性アルコール(エタノール)溶液4Lを用いて抽出し、その50%水性アルコール溶液を除き、不溶性粉末を得た。抽出は三回繰り返し、50%水性アルコール溶液に不溶性の物質245.7gを得た。この不溶性物質はTLC分析によりセコラノスタン化合物を全く含まないことが確認された。その後、HPLCによる分離および精製プロセスを行い、抽出物1グラムにつき、K2を214mg、K3を23mg、K4を24mgおよびK1を4.52mg得た。これは、抽出物1グラムにつきラノスタン化合物約261mgが得られたことと同等である。
【0094】
実施例4
ポリア粉末を中国で成長させたPoria cocos(Schw) Wolf 30kgから製造した。このポリア粉末は、95%アルコール(エタノール)溶液120Lで24時間抽出した。混合物をろ過し、ろ液を得た。残渣はさらに3回抽出しかつろ過した。ろ液を合わせて濃縮し、265.2gの量の乾燥抽出物を得た。乾燥抽出物は、二相抽出剤(n−ヘキサン:95%メタノール=1:1(体積比))を用いた分配抽出を行い、そこからメタノール相を除き、その後、濃縮して246.9gの量の乾燥した固形物を得た。乾燥固形物は、乾燥固形物の10〜40倍の重量のシリカゲルを充填したシリカゲルカラムを用いて分離した。70〜230メッシュの直径を有するシリカゲルは、Merck社製シリカゲル60を用いて準備した。カラムは以下の溶離液を順に用いて溶出した:ジクロロメタン:メタノール=96:4(体積比)の混合溶媒;ジクロロメタン:メタノール=90:10(体積比)の混合溶媒;および純粋メタノール。溶出液は、薄層クロマトグラフィー(TLC)によって試験した。ここで、検出には紫外線ランプおよびヨウ素蒸気を用い、ジクロロメタン:メタノール=96:4(体積比)の混合溶媒を展開液として使用した。TLCにおいて類似の組成を有する溶出液は混合した。
【0095】
ジクロロメタン:メタノール=96:4(体積比)の混合溶媒を用いた溶出により、78gの量のPCM部分を得た。PCMは薄層クロマトグラフィーにおいて6つのスポット跡を示した。ジクロロメタン:メタノール=90:10(体積比)および純粋メタノールの溶離液を用いた溶出により得られた溶出液を混合し、168gの量のPCW部分を得た。
【0096】
PCM部分は、ジクロロメタン:メタノール=96.5:3.5(体積比)の溶離液および同様のシリカゲルカラムを使用してさらに分離し、K1(K1−1およびK1−2)、K2(K2−1およびK2−2)、K3、K4、K4a、K4b、K5、K6aおよびK6bの精製ラノスタン成分を得た。なお、分離工程および同定分析データの詳細については、US2004/0229852A1公報に記載されるのと同様である。
【0097】
前記K1〜K6b化合物は下記の構造を有する:
【0098】
【化14】

【0099】
PCM部分から分離したラノスタン化合物K1〜K6bの量は下記表1に列記した。PCM部分は、ラノスタン化合物K1〜K6bを約15wt%含む。
【0100】
【表1】

【0101】
実施例5
実施例4で調製したPCM部分を有するカプセルを下記表2に示される組成に基づいて準備した。
【0102】
【表2】

【0103】
PCM部分およびケイアルミン酸ナトリウムは、#80メッシュを使用してふるい分けし、ジャガイモデンプンは#60メッシュを使用してふるい分けし、マグネシウムステレート(Sterate)は#40メッシュを使用してふるい分けした。続いて、上記成分はミキサーで均一に混合し、次いで得られた混合物はNo.1の空カプセルに充填した。各カプセルは、有効成分K1〜K6を約1.68mg(0.42wt%)含んでいる。
【0104】
実施例6
実施例2および3で調製したポリア抽出物を下記表3に示される薬剤に調剤し、これを試験材料として使用した。当該試験材料について、癌を患う動物の、ポリア抽出物投与後の体重、食物摂取量(食物消費量)および血清中タンパク質レベルの変化、並びに、癌に起因する悪液質を有する動物全体の栄養状態を評価した。
【0105】
【表3】

【0106】
実施例7
本実施例は、癌に起因する悪液質を治療するための上記表3に示される薬剤を使用する動物試験である。ヒト肺癌細胞を移植したマウスをポリア抽出物が悪液質への治療効果を有するかどうかを明らかにするために使用した。ヒト肺癌細胞を移植したマウスおよび正常マウスの体重、食物摂取量および血清アルブミンレベルの変化を観察し、癌悪液質の治療における薬の有効性を評価した。
【0107】
試験動物
CB−17 SCID マウス(6〜8週齢)は、国立台湾大学研究動物センター(Laboratory Animal Center of the National Taiwan University)(台湾、タイペイ)から入手した。動物は、室温25±2℃、湿度40〜70%、昼夜12時間ずつ、水の制限なしで、ステンレススチールケージ内で飼育した。動物は、購入後は、動物飼育舎で適応させ、動物の体重を無作為に測定した。近似する体重の動物は、乱数により同じ群に分類し、統計分析により、群間に有意な体重差がないことを確認した。
【0108】
ヒト肺癌H460株の培養
H460株は、液体窒素容器から取り出し、37℃の水浴で解凍した。10%FBSを追加したDMEM培地8mLを取り、1200rpmで10分遠心分離した。上澄みを回収し、これに細胞を加えた。細胞は、所望の細胞量に達するまで、37℃、5%COの培養オーブン(culture oven)内で培養した。
【0109】
マウスへの肺癌H460株の同所移植(Orthotopic transplantation)
マウスを、ペントバルビタールを用いて深麻酔し、No.29ゲージの0.5mLインシュリン針を用いて、マウスの胸腔内へ、H460細胞株(1×10細胞/mL)0.1mLを移植した。マウスは、細胞の移植後は、元のかごへ収容し、回復させた。
【0110】
薬の調製
実施例2で調製したポリア抽出物67.7mgを秤量し、滅菌水10mLを加えて、その後、超音波処理を行い、抽出物を水に懸濁させた(「PC−A」剤と称する)。「PC−B」剤は、「PC−A」剤 5mLに滅菌水を加えて10mLとした。また、「PC−C」剤は、「PC−B」剤 5mLに滅菌水を加えて10mLとした。上記表3に示される投与量が行われるまで、チューブによる食物摂取により、体重25gm当たり0.25ccの薬剤(薬剤0.25cc/体重25gm)で体重に応じて、マウスに投与した。試験は2回行った。ブランク群のマウスには、蒸留水を与えた(H460の代わりに、PBS(cultivation PBS)を用いて、マウスの胸腔中に注射した)。コントロール群の肺癌マウスには、蒸留水を用いて食事を与えた。食事は、No.18(5cm長さ)のスチール管が接続された注射針(1cc)を用いて与えた。経管栄養(チューブによる食物摂取)を行う場合には、左手を用いてマウスの口腔を開き、経管栄養用のスチール管を注意深く胃の中へセットして、薬剤または蒸留水をチューブを通して与えた。この際のそれぞれの投与量は0.3ccに制限した。
【0111】
1回目の試験では、全体で5つの群(1つのブランク群、1つのコントロール群、3つの投与群)で行い、各群9匹のマウスを用いた。実施例2のポリア抽出物を用いて調製されたPC−A、PC−BおよびPC−C剤を、3つの投与群の肺癌マウスに投与し、それぞれの群のマウスには、表3に示すように、kg体重当たり、17.6mg、8.8mgおよび4.4mgのラノスタンが投与された。
【0112】
2回目の試験では、全体で3つの群(1つのブランク群、1つのコントロール群、1つの投与群)で行い、各群3匹のマウスを用いた。実施例3のポリア抽出物を用いて調製されたPC−D剤を、投与群の肺癌マウスに投与し、それぞれのマウスは、表3に示すように、kg体重当たり、8.8mgのラノスタンが投与された。
【0113】
血清アルブミンサンプルの収集
22日目の全血を眼角から採取し、全血を室温で1時間放置した。3,000rpmの遠心分離を2回行った後、血清を回収し、血清アルブミンの含量分析を後に行うときまで、−20℃で保存した。
【0114】
血清アルブミンの濃度測定
マウスアルブミンELISAキット(Bethyl Laboratories Inc.製、テキサス、US)を用いて分析した。抗マウスアルブミンを、TBSで10倍に希釈し、100μL/ウェルでマイクロタイタープレート(micro titer plate)を被覆した。このプレートを1時間室温でインキュベートした後、TBSTで3回、続いて、ブロッキングのために1%BSA 200μL/ウェルで洗浄した。室温で1時間のインキュベーション後、プレートをTBSTで3回洗浄した。試料または標準物質を添加し、プレートを室温で1時間インキュベートし、続いてTBSTで5回洗浄を行った。100μL/ウェルのヤギの抗マウスアルブミン−HRP接合体希釈液(conjugate dilution)(1%BSAおよび0.05%ツィーン20を含むTBSにより10,000倍希釈を行った)を加えて、室温で1時間インキュベートした。TBSTで5回洗浄後、基質TMB(3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン) 100μLを加えて、暗所で室温で15分間反応させた。100μL/ウェルの2N HClを加えて反応をクエンチした(quench)。A450nmの吸光度を測定した。
【0115】
統計的方法
データは、平均値±標準偏差(Mean±SD.)として示した。最初に、一方向(one−way)ANOVAを用いて群間の差異を試験した。p<0.05である場合、デネットの多重比t検定(Dennett’s multiple range t-test)を用いて、群間の差異の有意性を試験した。この際、各群は、コントロール群と比較した。
【0116】
体重と食物摂取量(食物消費量)の変化
食物摂取量(食物消費量)および体重の変化を、1回目の試験および2回目の試験で各群のマウスで観察した。
【0117】
結果
マウスの体重の変化
1回目の試験において、ポリア抽出物の経管栄養中の肺癌マウスの体重変化を図1に示す。コントロール群のマウスの体重は、H460肺癌細胞を移植した後に大きく減少した。肺癌細胞移植マウスと比較すると、少ない用量である、ポリア抽出物PC−C(4.4mg/kg)およびPC−B(8.8mg/kg)のさらなる投与とは、大きな違いがなく、悪液質症候群の改善が見られない。多い用量の群(PC−A 17.6mg/kg)において、体重の減少の有意な減退が見られた。よって、ポリア抽出物は、H460肺癌の移植によって生じる体重の減少を改善することがわかる。
【0118】
2回目の試験において、異なるポリア抽出物 抽出物PC−D(8.8mg/kg)を用いた肺癌マウスの体重の変化を、図2に示す。図2に示すように、H460肺癌細胞の移植後のコントロール群では、体重は大きく減少している。正常なマウス(H460細胞を移植していないブランク群)のみで、若干の体重の増加が見られた。投与群(PC−D群)のマウスは、試験の開始時と同等の体重で、体重の変動がないことがわかる。よって、ポリア抽出物が悪液質の治療に用いることができることが示唆される。
【0119】
癌を有するマウスの食物摂取量(食物消費量)の変化
ポリア抽出物の経管栄養後の肺癌マウスの食物摂取量(食物消費量)の変化を図3に示す。H460肺癌細胞の移植後、コントロール群におけるマウスの食物摂取量が徐々に減少した。これに反して、肺癌細胞を移植後のポリア抽出物投与群(PC−D群)のマウスは、ブランク群(H460肺癌細胞の移植なし)の正常なマウスと同じように、食物摂取量の経時的な減少が見られなかった。これらの2つの群間には食物摂取量の差異がない。よって、ポリア抽出物は、悪液質によって引き起こされる、食物摂取の低下を改善または治療する。
【0120】
肺癌マウスの血清アルブミン量の変化
1回目の試験および2回目の試験におけるそれぞれの群のマウスの血清アルブミン量の変化を、図4および図5に示す。ブランク群(H460移植なし)と比較して、H460肺癌細胞の移植したコントロール群のマウスは、血清アルブミン量が減少する傾向が見られる。ポリア抽出物投与群(PC−A、PC−B、PC−C)では、ラノスタン量が増加するにつれて、血清アルブミン量も増加し、ラノスタン量17.6mg/kgであるPC−A群において、アルブミン量の大きな増加が観察される。また、ポリア抽出物投与群PC−D(8.8mg/kg用量)において、有意な結果が観察される。
【0121】
動物の体は、肺癌細胞に対して炎症反応を生じ、この反応は肝細胞タンパク質の産生を変化させる。産生が抑制されるタンパク質もあれば、産生が増加するタンパク質(タンパク質の誘導)もある。よって、悪液質を評価するひとつの方法としては、体重と食物摂取量の変化に加えて、血清アルブミンをモニターすることがある。血清アルブミンの減少は、肝細胞中のアルブミン産生に肺癌細胞が影響を及ぼし、結果として、血液へのアルブミンの放出が減少することを意味する。図4および5に示されるように、血中アルブミン量は、悪液質を有するマウスにおいて減少するが、悪液質を有するがポリア抽出物が投与されたマウスでは減少していない。すなわち、ポリア抽出物は悪液質を治療する機能を有する。
【0122】
実施例8
本実施例では、癌によって引き起こされる悪液質を治療する場合のポリア抽出物のヒトの臨床実験を以下のようにして行う:
(1)患者の全体的な栄養状態の改善の観察、および
(2)患者の体重の改善の観察。
【0123】
(A)癌患者の群分けおよび薬の投与
体重が減少し続けている15人の癌患者(内訳:胃癌患者3人、膵臓癌患者3人、結腸直腸癌患者3人、乳癌患者4人、口腔癌患者1人、鼻咽腔癌患者1人)をランダムに、ひとつの群が5人になるように、3つの群に分けた。群Iでは、ポリア抽出物(実施例3で調製された抽出物、16.8mg/カプセル)を、1日に1カプセルの少ない用量で、投与した。群IIでは、ポリア抽出物(実施例3で調製された抽出物、16.8mg/カプセル)を、1日に2カプセルと、より多い用量で、投与した。群IIIでは、ポリア抽出物を投与せず、コントロール群として化学療法薬を投与した。
【0124】
(B)治療セグメント(segment)
6週間の化学療法を受けた15名の患者において、群IおよびIIの患者には4週間ポリア抽出物を投与し(5週間目、6週間目は化学療法のみ)、体重および栄養評価を毎週記録した。
【0125】
(C)結果(1):体重の維持/改善効果
体重の改善が観察され、治療完了時(6週間または42日目)と、治療後1日目と、の体重を比較し、結果を下記表4に示す:
【0126】
【表4】

【0127】
表4の結果から、化学療法/ポリア抽出物投与群において、体重の維持または改善が、III群(ポリア抽出物なしの化学療法のみ)に比べて優れていることがわかる。群IIIでは、治療後1日目よりも低い体重である、体重の減少が観察された。
【0128】
(D)結果(2):患者の全体的な栄養状態の改善効果
患者の全体的な栄養状態の評価は、臨床医に用いられているPG−SGA(Patient−Generated Subjective Global Assessment:患者発症関連全体評価)法に従って行った。I〜III群の患者は、図6、7および8に示されるように、(1)体重の改善、(2)食物摂取量(食物消費量)の改善、(3)症状の軽減および(4)身体的活動の改善、の全体のスコアを加算することで評価した。図6は、I群(化学療法+ポリア抽出物1カプセル)で観察された結果を、図7は、II群(化学療法+ポリア抽出物2カプセル)で観察された結果を、および図8は、III群(コントロール群、化学療法)で観察された結果を、それぞれ、示す。PG−SGAのスコアが低いほど、患者が改善し、全体的な傾向は健康に向かっていることを示す。
【0129】
これらの治療結果から、化学療法薬と併用してポリア抽出物を投与された群は、悪液質患者の健康/生活の質において、化学療法群よりも、有意に改善されており、統計的に有意な意味(有意差)がある。
【0130】
この実施例の結果によれば、ポリア抽出物と化学療法薬とを併用することで、癌患者の体重減少を抑制し、さらに、化学療法のみが行なわれた患者の場合と比べて、患者の全体的な栄養状態の改善が有意に優れていることが分かる。
【0131】
本発明は、明細書中、好ましい実施例を開示したが、後述する請求項に定義された本発明の概念または背景により、開示された実施例を種々の変更および修飾が可能であることは理解されうる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I):
【化1】

ただし、Rは、−Hまたは−CHであり;Rは、−OCOCH、=Oまたは−OHであり;Rは、−Hまたは−OHであり;Rは、−C(=CH)−C(CH(この際、Rは、−Hまたは−OHである)または−CH=C(CH)R(この際、Rは、−CHまたは−CHOHである)である;Rは、−Hまたは−OHであり;およびRは、−CHまたは−CHOHである、
で示されるラノスタン化合物またはその薬理上許容される塩を哺乳動物における消耗性疾患を予防または治療するのに有効な量を含む、哺乳動物における消耗性疾患を予防または治療するための薬剤。
【請求項2】
前記式(I)のラノスタン化合物は、下記式:
【化2】

を有する化合物から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の薬剤。
【請求項3】
ポリア抽出物の重量に対して、1〜60重量%の前記式(I)のラノスタン化合物を含むポリア抽出物(Poria extract)を、前記(I)のラノスタン化合物の供給源として含む、請求項1または2に記載の薬剤。
【請求項4】
さらに製薬上許容できる担体または希釈剤を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の薬剤。
【請求項5】
経口投与される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の薬剤。
【請求項6】
前記消耗性疾患が、悪液質である、
または癌、拒食症、老化(aging)、体の損傷(body injury)もしくは火傷(body burn)によって引き起こされる、請求項1〜5のいずれか1項に記載の薬剤。
【請求項7】
前記哺乳動物がヒトである、請求項1〜6のいずれか1項に記載の薬剤。
【請求項8】
前記ポリア抽出物は、セコラノスタン(secolanostane)を含まない、請求項1〜7のいずれか1項に記載の薬剤組成物。
【請求項9】
前記ポリア抽出物が、ポリア抽出物の重量に対して、5〜35重量%の前記式(I)のラノスタン化合物を含む、請求項3〜8のいずれか1項に記載の薬剤。
【請求項10】
前記消耗性疾患が癌悪液質である、請求項1〜9のいずれか1項に記載の薬剤。
【請求項11】
前記癌が、肺癌、胃癌、膵臓癌、結腸直腸癌、乳癌、口腔癌、または上咽頭癌である、請求項10に記載の薬剤。
【請求項12】
式(I)のラノスタン化合物またはその薬理上許容される塩は、8.4〜33.6mg/日の量でヒトに投与される、請求項1〜11のいずれか1項に記載の薬剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−260859(P2010−260859A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−102400(P2010−102400)
【出願日】平成22年4月27日(2010.4.27)
【出願人】(510118145)杏輝天力(杭州)藥業有限公司 (4)
【Fターム(参考)】