説明

消臭・抗菌効果をもつ洗濯糊

【課題】洗濯時に繊維製品に用いる洗濯糊には完全無害でかつ持続的に消臭、抗菌効果を付与させる機能はなかった。
【解決手段】消臭、抗菌効果を発揮させる成分に微粒子状光触媒を採用し、それを洗濯糊に配合することにより強力な効果を繊維製品に付与できる。表面処理がなされていない微粒子状光触媒でも洗濯糊が劣化するまで30日以上の日数の日光照射を要するため、洗濯糊として期待されているおおむねそれ以内の耐用期間の間は完全無害で優れた効果を発揮し続けることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は完全無害かつ持続的な消臭・抗菌効果を洗濯物に付与できる洗濯糊に関する
【背景技術】
【0002】
洗濯糊に期待される機能としては風合いの改善や汚れの落としやすさ更にはアイロンの当てやすさが挙げられる。(例えば非特許文献)近年ではそれに加えてより付加価値の高い、例えば蛍光で白さを増感させるタイプ、抗菌機能を付加したタイプ(例えば特許文献1)や痒みを防ぐ効果を付加したタイプ(例えば特許文献2)等が提案され市販されている。このようなより付加価値の高い機能を付加した洗濯糊は、すべてそれぞれの薬効成分を水溶性樹脂からなる糊成分と混合して製品にしていてその薬効成分の溶出や揮発で効果が現れるようになっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
配合した薬効成分の溶出や揮発で効果を出す方法では原理的に「化学成分の溶出や揮発でアレルギー等の副作用が起きないか」と「効果がごく短時間しか持続しないのではないか」という2つの問題が生じる。また、介護問題が深刻化する中でとくに求められている消臭機能については溶出や揮発して十分な効果のある薬効成分がないためか製品にも特許にもみられない。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明では、有効成分に微粒子状光触媒を顔料として採用することで上記のとくに抗菌と消臭効果を完全無害かつ持続的に洗濯糊に付与するという点で問題を一挙に解決した。顔料としての微粒子状光触媒は溶出も揮発もしないため効果は長く持続する。
【0005】
酸化チタンに代表される光触媒は著しい抗菌や消臭効果を示すことでつとに有名であり、とくにその微粒子状のものは反応が非常に激しい上に表面積が大きいので有機物をごく短期間に分解するとされてきた。従ってそれを膜中に配合するコーティング剤として仕上げるためには樹脂成分が有害物質と一緒に分解されぬよう化学的に非常に安定なフッ素樹脂や(アクリル)シリコン樹脂等の難分解性結着剤に分散させることが必須であるとされてきた。(例えば特許文献3)繊維製品に適用する試みもなされてはいるがそのまま繊維の樹脂と混練すれば脆化を起こすので表面を上記の難分解性結着剤近似の物質で被覆した光触媒が推奨されていたり(例えば特許文献4)繊維表層自体を難分解性結着剤類似の樹脂で構成する方法も提案されていたり(例えば特許文献5)しているが、あまねく一般的な繊維製品に日常的に適用できうる技術はいまだ提案されていない。
【0006】
本発明者は繊維自体ではなくその仕上げ剤に着目した。既述のようにとくに洗濯後も相当量が繊維中に残留する洗濯糊についてである。洗濯糊の薬効成分には消臭や抗菌で持続的に有効なものがないので是非とも微粒子状光触媒をその有効成分として添加したい。しかし洗濯糊に採用されている樹脂は澱粉やポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニルあるいはその変性物といった水によく溶け化学的に不安定なものばかりであり、微粒子状光触媒を分散担持させるための樹脂成分としては論外とされてきた。しかし半面、洗濯糊は一般的な塗膜と根本的に異なり洗濯の機会毎に洗い流されて再塗布されることを前提にしているものであるから長い耐久性はそもそも要求されない。逆に汚物付着等の何らかの不具合があっても水溶性樹脂であるため容易に洗浄や水拭きで除去できる。
【0007】
このことに着目して本発明者は洗濯糊の薬効成分に微粒子状光触媒を採用することを前提に、洗濯糊に採用されている樹脂がどの程度の期間微粒子状光触媒の著しい酸化反応に耐えうるのかを確認し、それが洗濯糊に求められている一般的な耐久性を十分に凌駕するものであることを見出した。その結果、微粒子状光触媒を公知慣用の洗濯糊に配合するだけで洗濯糊に期待されている期間の間は極めて優れた消臭と抗菌効果を示すことを見出した。また、役目を終えた洗濯糊は水洗で容易に除去もできる。この際の微粒子状光触媒は有機物の分解を抑えるべく表面を難分解性結着剤類似物質で被覆したものではなく、もっとも反応性の高い表面無被覆かつ無処理の微粒子状光触媒を当然ながら指称する。理論上、光触媒の根源的な反応は水の光電気分解であるため光触媒の表面に水が絶えず供給されることが必須であり、その意味からも水に簡単に溶けて吸湿性に富む洗濯糊とは実に好適な組み合わせとみなせる。
【先行技術文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−226204
【特許文献2】特開平8−49172
【特許文献3】特許第3027739号
【特許文献4】特許第4196658号
【特許文献5】特許第4428510号
【非特許文献】
【非特許文献】花王ホームページhttp://www.kao.com/jp/keeping/index.html
【発明を実施するための形態】
以下、本発明の実施の形態を実施例に基づいて説明する。
【実施例】
【0009】
澱粉糊の例として「不易糊」(不易糊工業(株)製品)50gに表面処理がされていない微粒子状光触媒の例である「ST−01」(石原産業(株)製品)14gをよく混練して本発明品の実施例1を調製した。「不易糊」の不揮発分を測定すると28質量%だったのでこれは顔料濃度50質量%に相当する。また「ST−01」は一次粒子径7nmの典型的な微粒子状光触媒である。
【0010】
実施例1の微粒子状光触媒の代わりに可視光応答型光触媒「クリヤーキャット」(東邦チタニウム(株)製品)を用いた以外は実施例1と同じ手順で実施例2を調製した。
【0011】
実施例1の澱粉糊の代わりにPVA(ポリビニルアルコール)を主成分とする洗濯糊「洗濯のり液体P.V.A.」(コーナン商事(株)製品)を用い更に「ST−01」の量を8.5gとしその他は同じ手順で実施例3を調製した。「洗濯のり液体P.V.A.」は不揮発分13質量%なのでこれは顔料濃度約57質量%に相当する。
【0012】
実施例1の澱粉糊の代わりに酢酸ビニル系樹脂を主成分とする洗濯糊「乳液状洗濯のり」(コーナン商事(株)製品)を用い更に「ST−01」の量を13.5gとしその他は同じ手順で実施例4を調製した。「乳液状洗濯のり」は不揮発分33質量%なのでこれは顔料濃度約45質量%に相当する。
【0013】
別に、実施例1で「ST−01」をまったく使わない、つまり微粒子状光触媒を含まない単なる通常の洗濯糊により仕上げたサンプルも用意し、これを比較例とした。
(劣化試験)黒色平板にこれを塗って乾燥させ晴天日中に天然曝露してチョーキング他の劣化現象が現れるまでの日数を測定すると共に消臭実験と抗菌実験を以下の要領で行った。
(実験片の用意)6畳間に猫(生後4年、体重5.5kg)を飼い排泄場所も設けて実験室とした。広さ3.5mのレースカーテン、部屋中央部のテーブルに広さ1.2mのテーブルクロスを用意してそれらを消臭実験用とし別に20cm×40cmのふきんを用意してそれを抗菌実験用とした。日常の手順に従いこれらを洗濯し最後に20lの水を溜めて実施例50gを投入してすすぎと脱水の後晴天時に4時間の天日干しにした。
【0014】
(消臭実験)部屋を完全に締め切り、設えられている1.7m×1.4mのガラス窓辺にレースカーテンを掛け、テーブルにテーブルクロスを広げて室内を蛍光灯(合計70W)で点灯して1時間後にそれまで部屋に充満していた猫の排泄臭がするか否かの官能試験を行い◎(まったく臭わない)○(ほとんど臭わない)△(あまり臭わない)×(臭う)の4段階で評価した。
【0015】
(抗菌試験)暑さ1cmの食パン「超熟」(敷島製パン(株)製品)をすっぽりと包み、常温で保持してカビが生えてくるまでの日数を測定した。

いずれも通常の洗濯糊を使った場合に比べて格段に優れた消臭、抗菌効果を示す。とくに実施例2では室内用光触媒を採用したため、日中のみならず室内照明の影響で夜間も光触媒反応が惹起されそれが事由でとくに優れた性能を示したものと考えられる。劣化試験の結果、洗濯糊層は30日を越えても劣化の兆候が見られないため通常数日しか必要のない洗濯糊としての耐久性は十分に満たしているものと考えられる。抗菌効果は1回の日光照射で1週間以上持続することが確認されているが消臭効果も光の照射で洗濯糊層が劣化するまで持続するので従来の洗濯糊には想定されないほど超長期に効果を発揮し続けることが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0016】
洗濯糊を用いて繊維製品に高度な光触媒機能を付与できることになったことから、安価かつ簡便に身の回りのごく一般的な繊維製品に優れた消臭・抗菌効果を持たせることが可能になる。光触媒がそれ自身溶出も揮発もなく完全無害であることは公知の事実であり医療、介護、教育施設のみならず広く集客施設一般の公衆衛生の向上に格段の寄与が可能になる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
澱粉、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニルの群より選ばれる1種以上の樹脂あるいはその変性物である水溶性樹脂を必須の樹脂成分とし、表面処理がなされていない微粒子状光触媒を必須の顔料成分として含むことを特徴とする消臭および抗菌効果を有する洗濯糊

【公開番号】特開2011−252262(P2011−252262A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−139914(P2010−139914)
【出願日】平成22年6月1日(2010.6.1)
【出願人】(510171092)
【Fターム(参考)】