説明

消臭剤による衣類の加工方法及び加工した消臭衣類

【課題】加齢臭の消臭性能、洗濯耐久性に優れ、かつ、他の消臭製剤の性能を阻害しない衣類を得る。
【解決手段】アルキルポリアミン誘導体の乳化物と、アミノ変性ジメチルポリシロキサンを混合した溶液を、織物、編地に付着させノネナール消臭性能を有する衣料素材を得、更に、メタクリル酸グラフト重合綿と通常綿、あるいはメタクリル酸グラフト重合綿と通常綿と合成繊維を混紡した糸に、アルキルポリアミン誘導体の乳化物と、アミノ変性ジメチルポリシロキサンを混合した溶液を付着させて、アンモニア及びノネナール消臭性能を有する衣料素材を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノネナール及びアンモニアの消臭性能に優れ、かつ、黄変の発生、風合いの硬化が起きない衣類の消臭加工方法及び加工した消臭衣類に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、快適な生活を求めるため、消臭剤が注目されている。特に、高齢化に伴う加齢臭の消臭機能を有する衣類が求められている。加齢臭としては、ノネナールが、その原因物質の一つであると考えられている。特許第3629871号では、基材表面に、ポリアミン化合物およびヒドラジド化合物から選ばれた少なくとも1種と無機系化合物とを少なくとも含む消臭剤が合成樹脂バインダーを介して付着しており、かつ、その表面に撥水剤が付着していることを特徴とする着臭防止材料が開示されている(特許文献1)。
特許第3885326号では、比表面積が400〜900m2 /gであり且つ平均細孔径が0.1〜10nmである多孔質二酸化ケイ素の1g当たり、ポリアミン化合物を0.02〜2.0mmol担持させたアルデヒドガス吸収剤を含有することを特徴とする消臭性繊維が開示されている(特許文献2)。
【0003】
更に、国際公開番号WO2009−101995号(特許文献3)では、ノネナールを消臭するポリウレタン系樹脂、ポリウレタンウレア系繊維を含有することを特徴とする消臭材が開示され、特許第2852898号(特許文献4)、特公平7−363号(特許文献5)では柔軟剤としてシリコン含有化合物であるアミノ変性ジメチルポリシロキサンを使用することが開示されている。
【0004】
特許第3629871号、特許第3885326号は、ともに無機物を付着させるため風合い等の低下の問題があった。また、ノネナール消臭性能が充分なものとは言えなかった。
国際公開番号2009−101995号では、風合いの硬化や通気性の問題のほか、ポリウレタン弾性繊維を含有した布帛は加工工程中のシワ等のトラブルが発生しやすく、加工が難しいという問題点があった。また、特許第2852898号、特公平7−363号では柔軟剤としてシリコン含有化合物であるアミノ変性ジメチルポリシロキサンを使用することが開示されているが、消臭剤としての用途は記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3629871号公報
【特許文献2】特許第3885326号公報
【特許文献3】国際公開番号2009−101995号公報
【特許文献4】特許第2852898号公報
【特許文献5】特公平7−363号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、加齢臭の消臭性能、洗濯耐久性に優れ、黄変の発生、風合いの硬化を起こさず、かつ、他の消臭製剤の性能を阻害しない衣類の消臭加工に関する。
【0007】
従来、ポリアミン化合物は繊維製品の柔軟剤として使用されてきた成分であり、シリコン系薬剤も繊維製品の柔軟剤として使用されてきている。
しかしながら、この2つを組み合わせて使用することによって、消臭性能を高めることが可能であることは、知られていなかった。本発明者は、ポリアミン化合物であるアルキルポリアミン誘導体とシリコン系薬剤であるアミノ変性ジメチルポリシロキサンを併用することで、衣類に付着するノネナールに対する優れた消臭性能を付与することが可能であることを見出して本発明に至った。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明は、アルキルポリアミン誘導体の乳化物と、アミノ変性ジメチルポリシロキサンを混合した溶液を、織物、編地に付着させてなるノネナール消臭性能を有する衣料素材に関する。
請求項2に記載の発明は、メタクリル酸グラフト重合綿と通常綿、あるいはメタクリル酸グラフト重合綿と通常綿とポリエステル等の合成繊維を混紡した糸よりなる織物又は編地に、アルキルポリアミン誘導体の乳化物と、アミノ変性ジメチルポリシロキサンを混合した溶液を付着させてなる衣料素材であって、メタクリル酸グラフト重合綿のアンモニア消臭性能を阻害せず、かつ、ノネナールに対する消臭性能を有する衣料素材とすることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明においては、無機物を使用しないため、繊維製品の風合いの低下が起きない。また、薬剤による黄変の発生もない。アルキルポリアミン誘導体単独、あるいはアミノ変性ジメチルポリシロキサン単独では十分なノネナール消臭性能および洗濯耐久性に優れた性能は付与することが出来ない。しかし、この2つを混合して使用することにより優れたノネナール消臭性能を付与し、洗濯耐久性を向上させた衣料素材とすることが可能となった。また、メタクリル酸グラフト重合綿と通常綿、あるいはメタクリル酸グラフト重合綿と通常綿とポリエステル等の合成繊維を混紡した糸に、アルキルポリアミン誘導体の乳化物と、アミノ変性ジメチルポリシロキサンを混合した溶液を付着させると、メタクリル酸グラフト重合綿の有するアンモニア消臭性能を阻害することがないので、ノネナールのみならずアンモニア消臭性能をも有する衣料素材を得ることが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明で使用する衣料素材としては、綿、麻、絹、羊毛などの天然繊維やレーヨンなどのセルロース系再生繊維、ナイロン6やナイロン66などのポリアミド系合成繊維、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリテトラメチレングリコールテレフタレートあるいは、これらの構成単位を主体とし、他の共重合成分を共重合したポリエステル系樹脂から得られたポリエステル系合成繊維等を使用することができる。また、綿やレーヨン等の再生セルロース繊維をメタクリル酸グラフト重合したものを使用することもできる。
【0011】
本発明においては、アルキルポリアミン誘導体の乳化物と、アミノ変性ジメチルポリシロキサンを混合した溶液を、織物、編地に付着させる。
アルキルポリアミン誘導体の乳化物としては、例えば、松本油脂製薬(株)製、ブリアンGS−9(商品名)、ゾンデス603A(商品名)、ゾンデス707(商品名)等がある。
アミノ変性ジメチルポリシロキサンとしては、北広ケミカル(株)製、ライトシリコーンEM−55(商品名)、松本油脂製薬(株)製、シリコンソフナーN―800(商品名)、シルコートSP(商品名)等が挙げられる。これらの製品の中からアルキルポリアミン誘導体とアミノ変性ジメチルポリシロキサンとを含有する任意の製品をそれぞれ選択使用し、溶媒として水を用いて両成分を溶解混合した溶液を織物、編地等に塗布、浸漬等により付着させて適宜乾燥する。付着量は、処理素材の総重量に対して1重量%以上の薬剤を付着させる。
このように処理した織物、編地は、以下の実施態様において示すようにノネナール消臭性能および洗濯耐久性に優れた性能を有し、優れた性能を有する素材及び製品を得ることができる。
更に、メタクリル酸グラフト重合糸を衣料素材として使用した場合には、上記の処理をすることにより、ノネナール消臭性能および洗濯耐久性に優れた性能を有するばかりでなく、アンモニア消臭性能を有する素材、及び製品とすることも可能である。
【0012】
本発明による消臭のメカニズムは、アミノ変性ジメチルポリシロキサンがノネナールを吸着する。さらにアルキルポリアミン誘導体とアミノ変性ジメチルポリシロキサンが立体構造を形成し、その部分にもノネナールを吸着することで優れた消臭性能を発揮する。また、アルキルポリアミン誘導体のアミノ基がセルロース及びアミノ変性ジメチルポリシロキサンとイオン結合し洗濯耐久性を向上させるものと考えられる。
次に、実施例によって本発明を説明するが、この記載は、本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0013】
測定試料の組成
試料1: 綿100% 30/1フライス
試料2: DW(メタクリル酸グラフト重合加工綿)30%+通常綿70%混合の
40/1糸フライス編地
消臭加工条件
以下の処理浴に、晒または染色した試料をアルキルポリアミン誘導体(固形分30%)40g〜120g/l、及びアミノ変性ジメチルポリシロキサン(固形分30%)40g〜120g/l含有液に浸漬後、マングルにて絞り(絞り率90%)、110℃で2分間乾燥を行った。得られた試料は、繊維重量に対して2重量%の薬剤が付着されてなるものであった。
あるいは、処理浴に晒又は染色した試料をアルキルポリアミン誘導体(固形分30%)10〜50%o.w.f、及びアミノ変性ジメチルポリシロキサン(固形分30%)10〜50%o.w.f含有する溶液に浸漬し、浴比1:10〜1:20、40℃〜60℃×30〜60分間循環させた後、遠心脱水(絞り率90%)し、110℃で2分間乾燥を行った。得られた試料は、繊維重量に対して2重量%の薬剤が付着されてなるものであった。
【0014】
上記試料の性能測定方法、及び洗濯処理方法について述べる。
消臭性能測定方法は、(社)繊維評価技術協議会 消臭加工繊維製品認証基準
機器分析実施マニュアル(検知管法、ガスクロマトグラフイー法)により測定した。
洗濯処理方法は、JIS L0217 103法、10回繰り返し、吊干しにて行った。
【0015】
上記の測定試料1,2を用いて処理を行った。
【表1】

尚、アルキルポリアミン誘導体としては、ゾンデス707(商品名)を使用し、アミノ変性ジメチルポリシロキサンとしては、シリコンソフナーN−800(商品名)を使用した。
【0016】
次に、上記表1に示した実施例及び比較例における処理によって達成される消臭機能結果を測定して表2に示す。
【0017】
【表2】

【0018】
表2の結果から明らかなように、実施例1、2で得られた各織物は、洗濯前も10回洗濯後も、ノネナールに対して良好な消臭機能を発揮する。即ち、実施例で使用した物質がノネナールに対して良好な消臭機能を発揮し、しかも、洗濯後においても、これらの物質が脱落しにくく、良好な消臭機能を維持していることが分かる。比較例2、3はアルキルポリアミン誘導体、アミノ変性ジメチルポリシロキサンをそれぞれ単独で処理したものである。単独での加工では初期の消臭性能は低く、また、洗濯耐久性も低く満足できる性能ではなかった。
また、実施例2と比較例4を比べると、メタクリル酸グラフト重合加工綿を使用している比較例4においてアンモニア消臭性能が低下していた。これにより薬剤の組み合わせによってメタクリル酸グラフト重合加工綿のアンモニア消臭性能が阻害されることがわかる。原因としてはカチオン系薬剤がメタクリル酸グラフト重合加工綿の反応基を封鎖することによりアンモニア消臭性能が阻害された可能性が考えられる。
【0019】
黄変試験
ポリアミン等の薬剤の使用によりBHTや酸化窒素ガス等と反応して黄変が発生することがある。このため、黄変試験を実施した。
試験方法は、(1)窒素酸化物 JIS-L-0855 弱 (2)ジャングルテストの2点である。
ジャングルテストは室温70℃、湿度95%以上で72時間放置して黄変の度合いを確認する。どちらの試験も1〜5級の5段階で評価する。1級が悪く、5級が最も良い判定となる。一般的には4級以上であれば問題ないと判断される。尚、前記実施例2に記載の処理を施した試料2についても本発明品の耐黄変性の効果を確認するため、比較例5乃至比較例7と同様の試験を行い、実施例3として記載した。
【0020】
【表3】

比較例6、比較例7では黄変の発生が確認されたのに対して、本発明品の実施例3では黄変の発生は確認できなかった。
【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明による衣料用素材は、優れたノネナールに対する消臭性能を有し、しかも洗濯耐久性を有し、無機化合物を使用することもないので、本発明による処理により布地、編地等の肌触りを損なうこともなく、着用感にも優れた消臭衣料を得ることが出来る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルキルポリアミン誘導体の乳化物と、アミノ変性ジメチルポリシロキサンを混合した溶液を、織物、編地に付着させてなるノネナール消臭性能を有する衣料素材。
【請求項2】
メタクリル酸グラフト重合綿と通常綿、あるいはメタクリル酸グラフト重合綿と通常綿と合成繊維を混紡した糸に、アルキルポリアミン誘導体の乳化物と、アミノ変性ジメチルポリシロキサンを混合した溶液を付着させてなるアンモニア及びノネナール消臭性能を有する衣料素材。

【公開番号】特開2012−140731(P2012−140731A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−361(P2011−361)
【出願日】平成23年1月5日(2011.1.5)
【出願人】(000005359)富士紡ホールディングス株式会社 (180)
【Fターム(参考)】