説明

消臭剤組成物

【課題】 口臭、冷蔵庫内の臭い、ペットや家畜の臭いなどの消臭効果に優れ、地球環境に優しい消臭剤組成物を提供すること
【解決手段】 ローズマリー、ヒマワリ種子、生コーヒー豆、茶、ブドウの果皮、ブドウの種子、リンゴの各抽出物からなる群から選ばれる一種または二種以上の天然抽出物と、ポリフェノールオキシダーゼなどのフェノール性化合物を酸化する酵素とを少なくとも含有する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は消臭剤組成物に関し、さらに詳しくは口臭、冷蔵庫内の臭い、ペットや家畜に由来する臭い、工場内の臭い、あるいは工業廃液中の悪臭など、人にとって悪臭と感じられる環境の臭いを消去するために使用される消臭剤組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】例えば、冷蔵庫内の臭い、口臭、家畜の臭いなど、私達の周りにはいろいろな臭いが存在し、その臭いが人に不快感を与えるものの場合はその臭いを消去する工夫がいろいろとなされており、その消臭方法の一つとして、悪臭をもたらす原因である物質を吸着除去する方法が知られている。このような消臭用物質として、例えば、活性炭、カテキンを含有するお茶が知られている。
【0003】しかし、活性炭は微量な物質を十分に除去することができないうえに、食品など人の口に含ませるものには使用できず、さらに多量の物質を吸着した後の活性炭を廃棄すると地球環境の悪化を招く原因となるという、不都合がある。その点、カテキン等の天然に存在する物質は地球環境に優しく、チューインガムなどに配合し、口臭を除去することが可能であるが、消臭効果の点では十分ではないという欠点がある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】そこで、口臭、冷蔵庫内の臭い、ペットや家畜の臭いなどの消臭効果に優れ、地球環境に優しい消臭剤組成物を開発することが本発明の課題である。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、カテキン類等のフェノール性化合物が消臭効果を有する点に着目し、鋭意研究した結果、これらの化合物にポリフェノールオキシダーゼを共存させると、消臭効果が驚くほど向上するという知見を得、先に出願した(特願平7−212999号)。しかし、この発明に用いられる素材は化学合成品であり、化学合成品の人への影響が危惧されている昨今では需要者は使用を警戒する。そこで、天然物、特に食品添加物、または食品として使用されているフェノール性化合物を含有する天然抽出物に注目して検討し、本発明に到達したものである。
【0006】すなわち、本発明はローズマリー、ヒマワリ種子、生コーヒー豆、茶、ブドウの果皮、ブドウの種子、リンゴの各抽出物からなる群から選ばれる一種または二種以上の天然抽出物とフェノール性化合物を酸化する酵素とを少なくとも含有することを特徴とする消臭剤組成物である。
【0007】天然抽出物中のフェノール性化合物の消臭作用は、それらの化合物がその環境中の酸素によって酸化されて反応性の高いキノン構造になり、それらがさらに悪臭物質と反応して消臭効果を奏するものと推定されるが、本発明においては、ポリフェノールオキシダーゼを積極的に共存させることにより、この自動酸化を促進させ、短時間で、しかも高い消臭率で悪臭を消去できると推定される。
【0008】
【発明の実施の形態】以下、本発明を詳細に説明する。本発明の消臭剤組成物の一方の成分である天然抽出物は一種あるいは二種以上のローズマリー、ヒマワリ種子、生コーヒー豆、茶、ブドウの果皮、ブドウの種子、リンゴの各抽出物であり、本発明にいう抽出物としては、水、アルコール、有機溶媒またはこれらの混合物により抽出されるフェノール性化合物を含有するものであればどのようなものでもよい。抽出溶媒は消臭剤組成物の使用目的により選択される。
【0009】食品用消臭剤に用いられる場合、溶媒も食品に許容されるものが選ばれる。このような溶媒としては、例えば、水、エタノール、プロパノール、ブタノール、アセトン、ヘキサン、プロピレングリコール、含水エタノール、含水プロピレングリコール等が挙げられるが、熱水、含水エタノール、含水プロピレングリコールがより好ましい。
【0010】天然物としては、ローズマリー、ヒマワリ種子、生コーヒー豆、茶、ブドウの果皮、ブドウの種子、リンゴが選択されるが、これらの天然物は、二種類以上を併用してもよい。抽出条件は通常の抽出条件でよく、抽出液を減圧下に濃縮して濃縮物として保存し、使用時に適当な消臭に適した濃度に希釈して用いるとよい。
【0011】本発明の消臭剤組成物のもう一方の成分であるフェノール性化合物を酸化する酵素は、前記フェノール性化合物をキノン構造を有する化合物に酸化する作用を有する酵素、あるいは当該作用と共に、フェノール性水酸基を付加させ、キノンに酸化させる作用を有する酵素を意味する。
【0012】この作用を有する酵素であれば、どのようなものでもよいが、例えば、ポリフェノールオキシダーゼ、モノフェノールオキシダーゼ、過酸化水素を生成するオキシダーゼおよびパーオキシダーゼを挙げることができる。より具体的には、ラッカーゼ、チロシナーゼ、グルコースオキシダーゼ、パーオキシダーゼを好ましく挙げることができ、天然物より得られるゴボウ酵素、ナシ酵素等も用いることができる。これらの酵素も二種以上共存させることができる。
【0013】また、本発明においては、前記作用を有する限り、前記酵素を含有する物質または組成物も本発明のフェノール性化合物を酸化する酵素の範囲内のものである。その例として、前記酵素を含む植物からの抽出物、前記酵素を含む菌類からの抽出物、あるいはそれら抽出物を含む粉末、例えばアセトンパウダーを例示することができる。
【0014】前記酵素を含む植物としては、リンゴ、ナシ、ゴボウなどの果物や野菜が好ましく、同様な菌類としては、マッシュルームやイロガワリなどのハラタケ属やヤマドリタケ属のきのこも用いることができる。
【0015】これらの酵素としては、市販されているものを使用することができるが、公知の方法を用いて調製することもできる。
【0016】本発明の消臭剤組成物には、前記二成分の他に、担体、安定剤、増量剤など常用の配合剤が添加・混合されていてもよい。
【0017】本発明の消臭剤組成物は、悪臭を除去することができるが、その悪臭物質の例としては、メルカプタンなどの含硫黄化合物あるいはインドール、スカトール、アンモニア、尿素、アミン類その他の含チッ素化合物がある。
【0018】本発明の消臭剤組成物を用いて消臭するには、該組成物を悪臭下に接触反応させることにより達成されるが、通常は反応を容易に進行させるために混合することが望ましい。この際、水を共存させると反応が円滑に進行し、有利である。
【0019】その際の温度は、酵素反応が進行する範囲内であればどのような温度でもよく酵素の種類により異なるが、通常、室温乃至40℃で混合すると反応が速やかに進行し、好ましい。また、所要時間は、同様に酵素の種類及び使用量により異なるが、通常、数分から数十時間までで十分である。その他の条件は前記酵素反応が進行する環境に設定されるものであれば特に限定されるものではない。
【0020】
【実施例】以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。
〔参考例1〕
(フェノール性化合物を酸化する酵素の調製)植物あるいはきのこ100gに−20℃アセトン400lを入れてミキサーで磨砕した後、吸引濾過する。残渣は5℃の80%アセトン含水溶液500mlで十分洗浄し、濾液と合わせてアセトン溜去後、凍結乾燥して粉末にした。ゴボウの場合、収率20%。
【0021】(使用植物由来酵素抽出物の比活性の測定)L−ドーパ(ナカライテスク(株)製)を基質として3ml燐酸緩衝液(pH6.5)中で25℃、1分間反応させて、紫外線の吸収265nmでの吸光度を0.001増加させる酵素を1単位(units)と定義した。
ゴボウ抽出物(10mg)=644unitsナシ抽出物(10mg)=130unitsリンゴ抽出物(10mg)=530unitsその他、酵素製品として、市販のマッシュルーム由来ポリフェノールオキシダーゼ(PPO)(SIGMA Chemical Co.製) を用いた。
【0022】〔参考例2〕
(天然物の抽出物の調製)
1)ローズマリー抽出物(東京田辺製薬(株)製)
ローズマリーの葉および花100gに含水率40乃至60%のエタノール1Lを加えて3時間加熱還流し、温時濾過して抗酸化成分を含む濾液を得る(以下、これを「処理抽出」という)。残渣を同じ溶媒で同様に抽出する操作をさらに2回繰り返し、得られた濾液を合わせる。この抽出液に水500mlを加えて非水溶性抗酸化成分を析出させ、さらに活性炭10gを加えて攪拌し、この溶液を1夜、冷所に放置した後、濾過して濾液を得る。この濾液を減圧下、濃縮して水溶性抗酸化成分区分(固体)を得る(特開昭55−18435号公報参照)。
【0023】2)ヒマワリ種子抽出物(第日本インキ化学工業(株)製)
機械粉砕したヒマワリ種子に60%(v/v)含水エタノールを添加し、60℃で7時間抽出する。冷却濾過後、減圧下に濃縮乾固してヒマワリ種子抽出物とする(特開平7−132073号公報参照)。
【0024】3)生コーヒー豆抽出物生コーヒー豆を粉砕機で粉砕後(メッシュ5mm)、水を加えて85〜95℃で2時間抽出する。抽出物を濾過後、濾液をXAD−2(オルガノ(株)製)カラムに吸着させる。水で洗浄した後、メタノールで溶出させたものを濃縮乾固し、生コーヒー豆抽出物とする。
【0025】4)茶抽出物(三井農林(株)製)
煎茶1kgを90℃の熱水10Lで1時間攪拌しながら抽出し、茶葉を濾過により除き、8.3Lの抽出液を得た。この液を1Lまで濃縮し、これにアセトン1Lを加えて攪拌し、生じた不溶物を遠心分離により除いた。上清液に酢酸エチル1Lを加えて攪拌し、30分間静置した。得られた酢酸エチル層を減圧下に濃縮し、水層に転換した後凍結乾燥して、純度60%の茶フェノールを97g得た(特開平4−20589号公報参照)。これを茶抽出物として用いた。
【0026】5)ブドウ果皮抽出物ブドウ果皮(品種:キャンベル種)にエタノールを加えた後、70℃、2時間攪拌抽出した。抽出液を濃縮乾固したものをブドウ果皮抽出物とした。
6)ブドウ種子抽出物(キッコーマン(株)製)
ブドウ種子をそのまま水で70℃以上で10分〜4時間抽出したもの(特開平3−200781号公報参照)。
【0027】7)リンゴ抽出物(ニッカウイスキー(株)製)
リンゴを破砕、圧搾後、清澄化のためのペクチン分解酵素処理、遠心分離、濾過を経て得られた果汁をカラム精製して製造する(特開平8−259453号公報参照)。
【0028】8)減カフェイン茶の製法緑茶抽出物(カフェイン含有量8.7重量%、ポリフェノール含有量23.0重量%)10gを水200mlに溶解し、酢酸エチル200mlを加えて2回抽出した。得られた酢酸エチル抽出液を約50mlまで減圧濃縮した後、4℃の冷蔵庫にてカフェインを析出させ、濾別して結晶体200mgを得た。濾液は抽出に用いた水相と合わせて減圧濃縮乾固し、脱カフェイン分画分として9.8gを得た(カフェイン含有量6.7重量%、ポリフェノール含有量23.0重量%)。
【0029】なお、カフェイン含有量およびポリフェノール含有量の測定は下記に従った。
(カフェイン含有量の測定法)高速液体クロマトグラフィーにて純品とのピーク面積比による検量線から算出した。
カラム:5C−18MS(ナカライテスク社製)
展開溶媒:0.5%THFアセトニトリル溶液検出:UV273nm流速:1ml/分
【0030】(ポリフェノール含有量の測定法)Folin-ciocalteu 法(Am. J. Enol. Vitic., 16, 144 (1965)参照) 。
【0031】〔実施例1〜8〕100mlのバイアル瓶に前記参考例1記載のナシ酵素調製品50mg、水1ml及び悪臭物質であるメチルメルカプタンナトリウム(CH3 SNa)の約15%水溶液を2μl入れ、さらに参考例2で調製された表1記載の天然抽出物(フェノール性化合物含有量2mg)の水溶液0.5mlを加え、手で振盪した。10分間、振盪あるいは放置すると反応液の色が変化した。このバイアル瓶内のガス50mlを検知管〔ガステック(株)〕に通して、ガス内に残存する悪臭物質の濃度を測定した。結果を表1に示す。表中、コントロールは天然抽出物を用いなかった例である。
【0032】
【表1】


【0033】〔実施例9〕ローズマリー抽出物36.4mgを用いてポリフェノール含有量を調整した試料とゴボウ酵素10mgを用いて実施例1に準じる方法で消臭率を測定した。結果を表2に示す。
【0034】
【表2】


【0035】〔実施例10〜16〕一定量の量の表3記載の天然抽出物(フェノール性化合物含有量2mgで特定)の入った100mlのバイアル瓶に燐酸緩衝液(PH 7,0.05M)1.5mlを入れた後、さらに下記表3記載の酵素調製品各々ゴボウ酵素10mg、ナシ酵素50mg、PPO1mgを加え、CH3 SNaの約15%水溶液2μlを加えてパラフィルムで栓をする。24℃または40℃で10分間振盪した。続いて、バイアル瓶内のガス50mlを検知管〔ガステック(株)〕に通して、ガス内に残存する悪臭物質の濃度を測定した。結果を表3に示す。
【0036】なお、燐酸緩衝液は下記のようにして調製した。すなわち、燐酸二水素ナトリウムー2水和物3.9g、燐酸一水素ナトリウム・無水3.55gをそれぞれ蒸留水に溶解し500mlとした。燐酸二水素ナトリウム溶液に燐酸一水素ナトリウム溶液を加えてPH7あるいはPH6.5に調整した。
【0037】
【表3】


【0038】〔実施例17〜23】一定量の表4記載の天然抽出物(フェノール性化合物2mg含有)を100mlのバイアル瓶に蒸留水1.5mlと共に入れた後、アンモニアあるいはトリメチルアミンを最終濃度100ppmで加えてパラフィルムで栓をする。室温、10分間振とうした後、バイアル瓶内のガス50ml分を検知管にてアンモニア量あるいはトリメチルアミン量を測定した。結果を表4に示す。なお、植物酵素(ゴボウ、ナシ)、PPOのいずれを用いても同一結果であった。
【0039】
【表4】


【0040】〔実施例24〜27〕生活悪臭として下記悪臭を用いて消臭力を測定した。
悪臭溶液;
1)ニンニク溶液−ニンニク一塊をすりおろした後、蒸留水1Lを加えて抽出濾過する。濾液をニンニクの悪臭溶液とした。
2)煙草臭溶液−煙草臭のマルオーダ(キャスターマイルド10箱分の主流煙を直接クエン酸トリエチル400mlに吸収させた溶液)の50倍希釈水溶液を煙草の悪臭溶液とした。
3)熟柿香−熟柿香のマルオーダを悪臭溶液とした。熟柿香のマルオーダ(特公平8−16048号公報参照)
アセトアルデヒド 362ppm イソブチルアルコール 327ppm アセトン 93ppm イソアミルアルコール 263ppm 酢酸エチル 263ppm エタノールアミン 82ppm エチルアルコ−ル 45400ppm イソビチルアミン 60ppm n-プロピルアルコール205ppm 上記の水溶液4)悪臭溶液−ラット糞尿の10倍希釈水溶液
【0041】悪臭に対する消臭力の測定は下記のように行った。
(測定法)100ml用バイヤル瓶に、生コ−ヒ−豆抽出物7.2mg(ポリフェノ−ル含有2mg)とゴボウ粗酵素抽出物を17.2mg、ローズマリー抽出物36.4mgとナシ粗酵素50mg、ヒマワリ種子抽出物38.5mgとナシ粗酵素50mg、茶抽出物2.9mgとナシ粗酵素50mgを入れ、それに前記悪臭液1.5mlを加えて手で10分間振盪した。ついでバイアル瓶内のガスの臭いを専門パネラー12名で実際にかいだ。比較のために、粗酵素抽出物を欠いたもの、天然物抽出物を欠いたもの、両方とも欠いたものの3種を用意し、同様に操作してガスの臭いを実際に嗅ぎ、それらとの比較で評価した。結果を表5に示す。
【0042】
【表5】


【0043】〔実施例28〕生コーヒー豆抽出物(ポリフェノール含有量2mgとゴボウのアセトンパウダー10mgとを含むチュウイングガム(A)3gを用意した。一方、比較のために生コーヒー豆抽出物(ポリフェノール含有量2mg)を含むチュウイングガム(B)3gも用意した。
【0044】すりおろしたニンニク0.5gを被験者(A)の口に5分間含ませ口の中に臭いをつけた後、口を水ですすいだ。上記チュウイングガム(A)を10分間噛んだ後、ポリエステル製の袋に口からの呼気を集め、袋内の臭いを評価した。被験者(B)に対しチュウイングガム(B)を噛ませる以外は、同様な操作を行った。その結果、被験者(A)の呼気は殆ど臭が消えているが、被験者(B)の呼気にはニンニク臭が残っていた。
【0045】
【発明の効果】本発明の消臭剤組成物は、消臭用基材である天然抽出物(ポリフェノール性化合物含有)とこれを酸化する酵素と共存させることにより、活性化して用いるため、短時間に反応が進行し、優れた消臭効果を奏する。本消臭剤組成物を口臭の消去に用いる場合、酵素として野菜やきのこなどの食物を用いることにより、極めて安全性の高い消臭方法となる。また、環境中の悪臭を消去する場合にも環境汚染の問題を起こすことがない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 ローズマリー、ヒマワリ種子、生コーヒー豆、茶、ブドウの果皮、ブドウの種子、リンゴの各抽出物からなる群から選ばれる一種または二種以上の天然抽出物とフェノール性化合物を酸化する酵素とを少なくとも含有することを特徴とする消臭剤組成物。
【請求項2】 天然抽出物がポリフェノールを2乃至100mg含有する抽出物である請求項1記載の消臭剤組成物。

【公開番号】特開平10−212221
【公開日】平成10年(1998)8月11日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平9−29814
【出願日】平成9年(1997)1月30日
【出願人】(000169466)高砂香料工業株式会社 (194)