説明

消臭剤

【課題】乳酸菌Lactobacillus paracaseiから、臭気成分を効果的かつ持続的に分解する有用な消臭剤を提供すること。
【解決手段】Lactobacillus paracasei菌体を培養し、培地を除いたあと、該菌体を破砕して調製される酵素(群)を消臭剤として用いる。該消臭剤は、代表的な臭気成分であるトリメチルアミン、硫化水素に対し、高い分解活性を有し、また120℃×20分の処理でも消臭活性を失わなかった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Lactobacillus paracaseiの菌体を破砕して得た酵素を含む消臭剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的かつ日常的な人間の活動空間において、塵芥や腐敗物、汗、糞尿、家畜・家禽・ペット、汚水・汚泥などに起因する不快な臭気を抑える努力がなされてきたが、多くは天然物由来の、または人工合成された強い芳香により、不快な臭気を感じにくくするものであった。また、活性炭や高分子ゲル剤など固形物により臭気を吸着させる方法も使われている。あるいは、微生物を利用した悪臭低減方法も提案されており、バチルス属やエンテロバクター属等の微生物を用いた生ゴミや活性汚泥等に対する消臭剤(例えば特許文献1、2、3、4)、ラクトバチルス・ファーメンタムおよびピキア・クルイベリの醗酵産物を用いた糞尿、厨房排水、生ゴミ等に対する消臭剤(特許文献5)、キャンディダ属、イサチェンキア属またはピヒア属の微生物を用いた生ゴミ等の悪臭低減方法(特許文献6)、家畜の尿を原料として有用微生物群およびその代謝産物をトイレなどの消臭液(特許文献7)、ラクトバチルスパラカゼイviro−01を用いた消臭剤(特許文献8)などが見られる。
【0003】
また、酵素の利用技術に関しては、パパインやペプシンなど天然物から抽出された酵素の活性を利用し、ペプチド合成に活用するなど、実用的な利用方法が開示されている(非特許文献1〜3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−222789号公報
【特許文献2】特開平7−222790号公報
【特許文献3】特開平7−222791号公報
【特許文献4】特開平8−59418号公報
【特許文献5】特開平11−104222号公報
【特許文献6】特開平11−346761号公報
【特許文献7】特開2001−187126号公報
【特許文献8】特表2005−512591号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】有機合成化学協会誌、vol36、p195(1978)
【非特許文献2】蛋白質核酸酵素、vol26、p1979(1981)
【非特許文献3】発酵と工業、vol41、p656(1983)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、強い芳香により不快な臭気を抑える方法では、臭気はそのまま存在するので根本的な解決とは言えず、また香りに関する嗜好の個人差もあるため、強い芳香そのものが不快感を与えかねないという欠点がある。また、市販の消臭剤でよく見られる活性炭や高分子ゲル剤、あるいはマイクロカプセル技術の応用に関しても、臭気をトラップするだけであり、臭気の分解除去ではないため、その効果の程度・持続性にはどうしても限度がある。また、微生物を用いる消臭効果については、臭気の原因分子を微生物が有する酵素活性により分解していると思われるが、微生物をそのまま、あるいは培養した後の培地、あるいはその両方を用いる方法がほとんどであり、そうした状態では微生物の産生する酵素の大部分は菌体内に保持されたまま通常不安定な酵素活性の維持には有効かもしれないが、基質である該原因分子との効率的な接触が制限されるため、そうした酵素により十分な効果が発揮されているとはいいがたい。さらには、生ゴミを含む塵芥集積・処理場や家畜・家禽の屎尿など臭気のことさら強いものに対しては、有効かつ持続性のある消臭剤が見出されていないのが現状である。
【0007】
本発明は、Lactobacillus paracasei菌体を破砕して得られる酵素(群)を用いて、臭気成分を効果的かつ持続的に分解する消臭剤を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の消臭剤は、乳酸菌の一種であるLactobacillus paracaseiを培養し、その菌体を破砕して得られる酵素(群)を用いた消臭剤である。すなわち、本発明は次の構成を有する。
【0009】
[1]
Lactobacillus paracaseiの菌体を破砕して得られる酵素を含有することを特徴とする消臭剤。
【0010】
[2]
前記酵素が、硫化水素の分解活性を有する酵素を含むことを特徴とする[1]に記載の消臭剤。
【0011】
[3]
前記酵素が、トリメチルアミンの分解活性を有する酵素を含むことを特徴とする[1]に記載の消臭剤。
【0012】
[4]
前記Lactobacillus paracaseiの菌体が、Lactobacillus paracasei種菌を、酵素または酸またはアルカリによるタンパク質の加水分解物、糖類および酵母エキスを含む液体培地で、25℃〜40℃の温度条件下で培養することによって得られることを特徴とする[1]〜[3]いずれかの項に記載の消臭剤。
【0013】
[5]
前記Lactobacillus paracaseiの菌体が、Lactobacillus paracasei種菌を、脱脂粉乳および酢酸を含む液体培地で、25℃〜40℃の温度条件下で培養することによって得られることを特徴とする[1]〜[3]いずれかの項に記載の消臭剤。
【0014】
[6]
前記液体培地が、pH5.0〜6.5に調整されていることを特徴とする[4]または[5]に記載の消臭剤。
【0015】
[7]
前記培養を、培養液中での菌体増殖が静止期となるまで行うことを特徴とする[4]〜[6]いずれかの項に記載の消臭剤。
【0016】
[8]
菌体と培地を分離し、該菌体を破砕することを特徴とする[1]〜[7]いずれかの項に記載の消臭剤。
【0017】
[9]
前記した菌体の破砕が、高圧乳化装置を用いて行われることを特徴とする[8]に記載の消臭剤。
【0018】
[10]
前記消臭剤が、pH4.5〜5.5に調整されていることを特徴とする[1]〜[9]いずれかの項に記載の消臭剤。
【0019】
[11]
前記菌体を破砕して得られる酵素が、酵素(群)液であることを特徴とする[1]〜[10]いずれかの項に記載の消臭剤。
【0020】
[12]
前記Lactobacillus paracaseiが、Lactobacillus paracasei HAK−Niotwo(FERM AP−21474)であることを特徴とする[1]〜[11]いずれかの項に記載の消臭剤。
【0021】
以下、本発明について説明する。本発明で用いられる微生物菌体は、乳酸菌の一種である、Lactobacillus paracaseiであれば、特に限定されない。該菌種において、入手・取り扱い等が容易な菌株を選択し、本発明に用いれば問題ないが、特に好ましいものは、Lacobacillus paracasei HAK−Niotwo(FERM AP−21474)である。菌株の取得は、当業者が通常行う単離方法によって天然のものを得るほかに、ATCCや独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターなどから所定の手続を経て入手しても良い。なお、同じLactobacillus paracaseiに属する菌株であれば、混合培養してもよい。また、Lactobacillus paracaseiの増殖が阻害されない範囲において、酵母等の他微生物と混合培養したものを、本発明に用いることもできる。
【0022】
本発明において、前記のLactobacillus paracasei菌体を培養するための培地は、該菌体が増殖するものであれば、特に限定されない。該菌体の良好な増殖のために、培地成分として含有することが好ましいものとして、酵素または酸またはアルカリによるタンパク質の加水分解物(ペプトン・ポリペプトン・トリプトンなど)、肉エキス、ブドウ糖・蔗糖・果糖・麦芽糖などから選択される1種または2種以上の糖類、酵母エキス、クエン酸ナトリウム・クエン酸アンモニウム・酢酸ナトリウム・硫酸マグネシウム・硫酸マンガン・リン酸一カリウム・リン酸二カリウム、硫酸第一鉄などから適宜選択される塩類を挙げることができる。Lactobacillus paracaseiを含む乳酸菌の培地例としては、GYP培地、MRS培地、GAM培地、Rogosa培地、LBS培地、ブルセラ培地、RAKA−RAY培地などが一般的に知られており、これらの培地をそのまま、あるいは改良して用いてもよい。
【0023】
以下に、GYP培地、MRS培地、GAM培地の各組成を例示する。
GYP培地;ブドウ糖10g、酵母エキス10g、ポリペプトン5g、酢酸ナトリウム三水和物2g、硫酸マグネシウム七水和物0.02g、硫酸マンガン四水和物0.001g、硫酸鉄七水和物0.001g、塩化ナトリウム0.001g、Tween80 0.05gを精製水または蒸留水1Lに溶かす。
MRS培地;ブドウ糖20g、酵母エキス4g、ペプトン10g、肉エキス8g、リン酸水素二カリウム2g、酢酸ナトリウム三水和物5g、クエン酸三アンモニウム2g、硫酸マグネシウム七水和物0.2g、硫酸マンガン四水和物0.05g、Tween80 1gを精製水または蒸留水1Lに溶かす。
GAM培地;ブドウ糖3g、酵母エキス5g、ペプトン10g、ダイズペプトン3g、プロテオースペプトン10g、肉エキス2.2g、消化血清末13.5g、肝臓エキス1.2g、リン酸二水素カリウム2.5g、塩化ナトリウム6g、可溶性デンプン5g、L−システイン塩酸塩0.3g、チオグリコール酸ナトリウム0.3gを精製水または蒸留水1Lに溶かす。
【0024】
または、脱脂粉乳(スキムミルク)および酢酸からなる培地を用いてもよい。該培地に、酢酸ナトリウム、クエン酸アンモニウム、酵母エキスを加えてもよい。脱脂粉乳は、牛や羊、山羊、ヒトなど各種哺乳動物から得られた乳を原材料としたものであれば、特に制約されないが、牛の乳を原材料としたものが入手し易く、量・品質も安定している。
【0025】
以下に、脱脂粉乳培地の組成を例示する。
脱脂粉乳培地;脱脂粉乳70g、酢酸ナトリウム三水和物15g、クエン酸三アンモニウム2g、氷酢酸1.32mLを精製水または蒸留水1Lに溶かす。
【0026】
培地の形態は、菌体が増殖するものであれば、液体培地、あるいは寒天等を用いた固形培地・半流動培地などに特に限定されないが、該菌体の増殖効率や菌体回収などの処理の面から、液体培地が好ましい。また、雑菌の混入増殖の抑制のため、培地に、酢酸タリウム、ソルビン酸、酢酸、亜硝酸ナトリウム、シクロヘキシミドおよびポリミキシン等から適宜選択したものを適量培地に加えてもよい。
【0027】
培地のpHは、選択した培地組成において該菌体が増殖可能なpHであれば特に限定されないが、該菌体にとって好適で、かつ雑菌等の混入増殖が抑制されるpH5.0〜6.5が好ましく、pH5.5〜6.0が特に好ましい。
【0028】
培地は、高圧蒸気滅菌、あるいはフィルター滅菌など通常用いられる滅菌方法を用いて滅菌し、菌体培養に用いればよい。培養容器は、フラスコ、シャーレ、ジャーファメンター、大型培養槽など、選択した培地の組成・形態や、培養する規模に応じて適宜選択して用いればよい。
【0029】
培養条件は、選択した培地において前記菌体が好適に増殖する条件であれば、特に限定されないが、培養温度としては25〜40℃が好ましく、30〜37℃が特に好ましい。また、乳酸菌は一般的に微好気性だが、菌株によっても程度が異なるので、使用する菌株が好適に増殖できる通気条件を適宜選択するのが好ましい。また、培養方法は、培養容器・培養規模などに合わせて静置培養、振盪培養、攪拌培養などの培養方法を適宜選択することができる。
【0030】
培地に種菌を接種し、培養を行う。培養は、任意の菌体数・密度に達するまで行えばよいが、効率的な菌体取得に好適な菌体密度は、培養条件によって異なるが、培養液中で菌体増殖が静止期となるおよそ10〜10cfu/mLである。前記MRS培地を用い、37℃で液体静置培養を行った場合、通常20〜48時間で好適な菌体密度に達する。好適な菌体密度に達した後、死滅期に入る恐れがあるので、培養終了後は、速やかに増殖した菌体を回収し処理するほうが好ましい。
【0031】
菌体の回収方法としては、遠心分離、フィルター濾過など、微生物菌体を回収するために当業者が通常行う方法を用いることができる。遠心分離で回収を行う場合、3000G〜4500Gの遠心力で10〜30分間遠心を行い、遠心後上澄を静かに捨て、遠沈した菌体を回収する。得られた菌体は、緩衝液(pH5.0〜5.5)に懸濁するのが好ましい。緩衝液の組成としてはクエン酸とクエン酸ソーダからなる緩衝液を例示することができる。必要に応じて、該菌体の遠沈と生理食塩水による懸濁を複数回繰り返し、最終的に該緩衝液に懸濁してもよい。
【0032】
次に、得られた菌体を破砕し、消臭効果を有する酵素(群)を調製する。破砕方法は、Lactobacillus paracasei菌体が破砕できる方法であれば、特に限定されないが、菌体粉砕の機器として、(1)湿式粉砕器、たとえばサンドグラインダー(五十嵐機械製造(株))、ダイノミル((株)シンマルエンタープライゼス)、マイクロス((株)奈良機械製作所)、SHAKE MASTER((株)バイオメディカルサイエンス)、(2)凍結粉砕装置、たとえば凍結粉砕器((株)マイクロテック・ニチオン)、(3)高圧乳化装置、たとえば、nano3000((株)美粒)、ナノマイザー(吉田機械興業(株))、などを用いることができる。このうち、高圧乳化装置を用いると、粉砕効率が高く好ましい。
【0033】
上記の破砕機器を用いて破砕する場合、菌体密度が1×1010cfu/mL程度になるよう上記緩衝液に懸濁し、破砕機器で処理するほうが、作業効率の点などで好ましい。破砕の程度が十分か否かは、たとえば光学顕微鏡による確認、あるいは後述するポリアクリルアミドゲル電気泳動法などによるタンパク質量の測定などで判断することができる。
【0034】
菌体の破砕により酵素(群)液を調製し、該酵素(群)液を消臭剤として用いる。該酵素(群)液は、そのままで消臭剤として用いてもよく、あるいは水もしくは上記緩衝液等で希釈して消臭剤として用いてもよい。希釈は、10万倍までの範囲で行うのが好ましく、より好ましくは1万倍までの範囲である。pHは、特に制限はないが、雑菌等の混入・増殖を抑制するうえでpH4.5〜5.5に調製することが好ましい。また、破砕後に、不溶物を、濾紙等で濾し分けたり、遠心により沈殿させ除いて、用いてもよい。該消臭剤の消臭効果は、臭気を含む空気中に噴霧し、または臭気源に直接噴霧あるいは散布すれば発揮させることができる。消臭効果を阻害しない範囲で、制菌剤や防カビ剤など種々の機能性化合物や芳香性化合物などと併用してもよい。
【0035】
前記の消臭剤を、臭気を含む空気中や、あるいは臭気源に噴霧する場合、噴霧の方法は特に限定されず、一般的な方法であれば支障なく用いることができる。容器としても、一般的なスプレー容器、あるいはトリガー式などの噴霧器に充填して用いてもよく、大気中に直接噴霧し、あるいは臭気源に直接撒布することもできる。また、布・スポンジ等に含ませて、臭気物が付着した箇所をふき取ると同時に消臭してもよい。ある程度の規模で臭気を含む空気を処理する方法として、該消臭剤液中に該空気をバブリングし、あるいは該空気を、消臭剤液をシャワー状に散布させる処理装置中を通過させるなどして、効率的に消臭剤液と接触させて処理しても良い。
【0036】
または、設備・装置的な使用方法として、前記酵素(群)液をゼオライト・不織布等に吸着させ、あるいは含水ゲルに吸収させて該酵素(群)を担持し、それと臭気を含む空気を接触させて臭気を処理することもできる。また、該酵素(群)をシリカ粒子の表面に結合させ、該シリカ粒子を液相または気相中で臭気(物質)に接触させ、消臭用途に使用することもできる。
【0037】
本発明の消臭剤は、長期間にわたって消臭効果が安定しており、また、120℃×20分間の熱処理でも失活しないことから、長く常温で保存することが可能であるが、冷蔵保存、もしくは冷暗所にて保管するのが好ましい。また、タンパク質分解酵素等の影響も受けるので、そうした酵素や、あるいはそうした酵素を産生・分泌するバクテリア・カビなどの微生物のコンタミを避けて保管することが望ましい。
【0038】
本発明の消臭剤は、強力な臭気分解能を有するため、広範囲な目的に使用可能である。トイレ、冷蔵庫、自動車の車内といった比較的狭くかつ密閉的な空間だけでなく、開放空間における臭気除去にも効果を発揮する。また、本発明の消臭剤は、各種の臭気、たとえば人、動物、タバコ等による臭気、トイレ、家庭の生ゴミなど塵芥汚物からの臭気、ペットや養豚・養鶏などの家畜の排泄物による臭気などに有効である。さらに、本発明の消臭剤は、たとえば臭気源に噴霧または散布すると、短時間で消臭効果を示すだけでなく、その効果が持続するという特徴を有する。また、本発明の消臭剤に含まれる酵素(群)は、臭気原因となる化学物質の少なくとも二つ、硫化水素とトリメチルアミンに対し、それらの分解活性を有する。なお、本発明の消臭剤は、人体、ペット、家畜、植物に接触し、あるいは摂取されても、毒性を示さない。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、実施例をもって本発明を説明するが、これらは本発明の実施の形態をなんら限定するものではない。
【実施例1】
【0040】
[培養例1]標準培地法
酵母エキス0.25g、トリプトン0.5g、グルコース1.0gを蒸留水100mLに溶解して標準培地を調製し、300mL三角フラスコに入れ、オートクレーブで120℃×20分の滅菌処理を行った。次に、室温まで冷却し、Lactobacillus paracasei HAK−Niotwo(FERM AP−21474)の凍結乾燥菌体粉末(種菌)10mgをクリーンベンチ内にて加え、37±1℃のインキュベーターに入れて24時間静置培養した。培養後、その培養液から1mLをとり、段階的に滅菌水で希釈し、BCP加プレートカウント寒天培地(BCP加プレートカウント寒天培地(商品名、栄研化学(株)製)24.6gを蒸留水1Lに溶解し、オートクレーブで120℃×20分処理し、50℃まで冷却した後、100ppmとなるようシクロへキシミドを加えてシャーレに分注し、固化させたもの)に、各希釈段階の液それぞれ100μLをコランジ棒で塗布し、37℃×72時間培養して菌数を確認した。結果、標準培地法により、3.0×10cfu/mLの当該菌体を得た。
【実施例2】
【0041】
[培養例2]低臭気培養法1
トリプトン0.5g、グルコース1.0gを蒸留水100mLに溶解し、300mL三角フラスコに入れ、オートクレーブで120℃×20分の滅菌処理を行った。次に、室温まで冷却し、Lactobacillus paracasei HAK−Niotwo(FERM AP−21474)の凍結乾燥菌体粉末10mgをクリーンベンチ内にて加え、37±1℃のインキュベーターに入れて24時間静置培養した。培養後、その培養液から1mLをとり、滅菌水で段階的に希釈し、BCP加プレートカウント寒天培地に各稀釈段階の液100μLをコランジ棒で塗布し、37℃×72時間培養し、菌数を確認した。結果、低臭気培養法で1.0×10cfu/mLの当該菌体を得た。
【実施例3】
【0042】
[培養例3]低臭気培養法1+ミネラル添加法1
トリプトン0.5g、グルコース1.0g、硫酸マグネシウム0.15g、炭酸カルシウム0.04gを蒸留水100mLに溶解し、300mL三角フラスコに入れ、オートクレーブで120℃×20分の滅菌処理を行った。次に、室温まで冷却し、Lactobacillus paracasei HAK−Niotwo(FERM AP−21474)の凍結乾燥菌体粉末10mgをクリーンベンチ内にて加え、37±1℃のインキュベーターで、24時間静置培養した。培養後、その培養液から1mLをとり、滅菌水で段階的に希釈し、BCP加プレートカウント寒天培地に各稀釈段階の液100μLをコランジ棒で塗布し、37℃×72時間培養し、菌数を確認した。結果、低臭気培養法+ミネラル添加法で4.3×10cfu/mLの当該菌体を得た。
【実施例4】
【0043】
[培養例4]低臭気培養法1+ミネラル添加法2
トリプトン0.5g、グルコース1.0g、硫酸マグネシウム0.1gを蒸留水100mLに溶解し、300mL三角フラスコに入れ、オートクレーブで120℃×20分の滅菌処理を行った。次に、室温まで冷却し、Lactobacillus paracasei HAK−Niotwo(FERM AP−21474)の凍結乾燥菌体粉末10mgをクリーンベンチ内にて加えて、37±1℃のインキュベーターで、24時間静置培養した。培養後、その培養液から1mLをとり、滅菌水で段階的に希釈し、BCP加プレートカウント寒天培地に各稀釈段階の液100μLをコランジ棒で塗布し、37℃×72時間培養し、菌数を確認した.結果、低臭気培養法1+ミネラル添加法2により、7.4×10cfu/mLの当該菌体を得た。
【実施例5】
【0044】
[培養例5]スキムミルク培養法
スキムミルク(和光純薬(株)製)0.5g、トリプトン0.5g、グルコース1.0gを蒸留水100mLに溶解し、300mL三角フラスコに入れ、オートクレーブで120℃×20分の滅菌処理を行った。次に、室温まで冷却し、Lactobacillus paracasei HAK−Niotwo(FERM AP−21474)の凍結乾燥菌体粉末10mgをクリーンベンチ内にて加え、37±1℃のインキュベーターで、36時間静置培養した。培養後、スキムミルクの固化・沈殿したものを、水酸化ナトリウムで中和・溶解した。次に、その培養液から1mLをとり、段階的に滅菌水で希釈し、BCP加プレートカウント寒天培地に各稀釈段階の液100μLをコランジ棒で塗布し、37℃×72時間培養し、菌数を確認した。結果、スキムミルク培養法で3.0×10cfu/mLの当該菌体を得た。
【実施例6】
【0045】
[培養例6]MRS培地法
MRS(ブイヨン)(関東化学(株)製)50gを蒸留水1Lに溶解し、3L三角フラスコに入れ、オートクレーブで120℃×20分の滅菌処理を行った。次に、室温まで冷却し、Lactobacillus paracasei HAK−Niotwo(FERM AP−21474)の凍結乾燥菌体粉末100mgをクリーンベンチ内にて加えた。その後、37℃±1℃のインキュベーターに入れ、36時間静置培養した。培養後、その培養液から1mLをとり、段階的に希釈し、BCP加プレートカウント寒天培地に各稀釈段階の液100μLをコランジ棒で塗布し、37℃×72時間培養し、菌数を確認した。結果、MRS培地法で8.2×10cfu/mLの当該菌体を得た。
【実施例7】
【0046】
[抽出例1]高圧乳化装置法1
培養例6で得られた培養液約1000mLを遠心し(遠心機;KR−20000T((株)久保田製作所)、ローター;RA−8、遠心管;500mLポリプロピレンボトル、4000rpm×20分)、上澄みを除き、生理食塩水900mLを加えて懸濁分散し、再度遠心した。次に、上澄みを除き、クエン酸バッファー(0.1Mクエン酸ナトリウム水溶液に15%クエン酸水溶液を添加し、pH5.0になるよう調製したもの)に懸濁して100mLとし、これを、ナノマイザー/衝突型ジェネレーターを用いて、200MPa、10PASSにて処理し、菌体破砕抽出液を得た。この抽出液および基準サンプルをポリアクリルアミドのゲル電気泳動にかけ、画像解析装置GS−800(BIO RADラボラトリーズ(株)製)にてタンパク質量を比較し、本方法により基準サンプルと同等のタンパク質が抽出されたことを確認した。
【0047】
なお、基準サンプルは、培養例6の培養液10mLから得た菌体ペレットを1%SDS溶液1mLに溶解し、ナノマイザー/衝突型ジェネレーターを用いて、200MPa、10PASSにて処理調製したものであり、ほぼすべての菌体が破砕溶解していると考えられた。また、ゲル電気泳動用のサンプルは、それぞれの菌体破砕液から100μLを取って遠心し、その上澄み25μLとSDSPAGE用サンプルバッファー25μLを混和し、95℃×5分煮沸して調製した。
【実施例8】
【0048】
[抽出例2]高圧乳化装置法2
培養例6と同じ条件の培養で得られた培養液約1000mLを遠心し、上澄みを除き、生理食塩水を900mL加えて懸濁分散し、再び遠心した。次に、上澄みを除き、クエン酸バッファー(pH5.0)に懸濁して100mLとし、ナノマイザー/貫通型ジェネレーターを用いて、150MPa、2PASSにて処理し、菌体破砕抽出液を得た。この抽出液および基準サンプルをポリアクリルアミドのゲル電気泳動にかけ、画像解析装置GS−800にてタンパク質量を比較し、本方法により基準サンプルと同等のタンパク質が抽出されたことを確認した。なお、基準サンプルは、前記抽出例1に記載した基準サンプルの調製方法に準じて調製した。
【実施例9】
【0049】
[評価1]トリメチルアミン消臭力評価
抽出例2で得た菌体破砕抽出液を、クエン酸バッファー(pH5.0)で、100倍、1000倍、1万倍、10万倍に希釈した液を調製した。次に、1L褐色ガラス瓶に、トリメチルアミンを70ppmとなるよう添加したものを用意し、各希釈した抽出液をそれぞれ噴霧して、ガス検知管(検知管型番:No.180、(株)ガステック)により経時的にトリメチルアミンの濃度を測定した。結果を、表1に示す。10万倍希釈液を噴霧したものでも、トリメチルアミンが速やかに分解された。
【0050】
【表1】

【実施例10】
【0051】
[評価2]硫化水素消臭力評価
抽出例2で得た菌体破砕抽出液を、クエン酸バッファー(pH5.0)で、100倍、1000倍、1万倍、10万倍に希釈した液を調製した。次に、1L褐色ガラス瓶に、硫化水素を2ppmとなるよう添加したものを用意し、各希釈した抽出液をそれぞれ噴霧して、ガス検知管(検知管型番:No.4LT、(株)ガステック)により経時的に硫化水素の濃度を測定した。結果を、表2に示す。10万倍希釈液を噴霧したものでも、硫化水素が速やかに分解された。
【0052】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明のLactobacillus paracasei菌体粉砕物から得られる酵素(群)を用いれば、臭気成分を効果的かつ持続的に分解する消臭剤を提供することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Lactobacillus paracaseiの菌体を破砕して得られる酵素を含有することを特徴とする消臭剤。
【請求項2】
前記酵素が、硫化水素の分解活性を有する酵素を含むことを特徴とする請求項1に記載の消臭剤。
【請求項3】
前記酵素が、トリメチルアミンの分解活性を有する酵素を含むことを特徴とする請求項1に記載の消臭剤。
【請求項4】
前記Lactobacillus paracaseiの菌体が、Lactobacillus paracasei種菌を、酵素または酸またはアルカリによるタンパク質の加水分解物、糖類および酵母エキスを含む液体培地で、25℃〜40℃の温度条件下で培養することによって得られることを特徴とする請求項1〜3いずれかの項に記載の消臭剤。
【請求項5】
前記Lactobacillus paracaseiの菌体が、Lactobacillus paracasei種菌を、脱脂粉乳および酢酸を含む液体培地で、25℃〜40℃の温度条件下で培養することによって得られることを特徴とする請求項1〜3いずれかの項に記載の消臭剤。
【請求項6】
前記液体培地が、pH5.0〜6.5に調整されていることを特徴とする請求項4または5に記載の消臭剤。
【請求項7】
前記培養を、培養液中での菌体増殖が静止期となるまで行うことを特徴とする請求項4〜6いずれかの項に記載の消臭剤。
【請求項8】
菌体と培地を分離し、該菌体を破砕することを特徴とする請求項1〜7いずれかの項に記載の消臭剤。
【請求項9】
前記した菌体の破砕が、高圧乳化装置を用いて行われることを特徴とする請求項8に記載の消臭剤。
【請求項10】
前記消臭剤が、pH4.5〜5.5に調整されていることを特徴とする請求項1〜9いずれかの項に記載の消臭剤。
【請求項11】
前記菌体を破砕して得られる酵素が、酵素(群)液であることを特徴とする請求項1〜10いずれかの項に記載の消臭剤。
【請求項12】
前記Lactobacillus paracaseiが、Lactobacillus paracasei HAK−Niotwo(FERM AP−21474)であることを特徴とする請求項1〜11いずれかの項に記載の消臭剤。

【公開番号】特開2011−30737(P2011−30737A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−179349(P2009−179349)
【出願日】平成21年7月31日(2009.7.31)
【出願人】(000005315)保土谷化学工業株式会社 (107)
【Fターム(参考)】