説明

消臭布帛及びその製造方法

【課題】例えば室内の空気中の、塩基性ガス、酸性ガス、中性ガス、硫黄系ガスのいずれの種類の臭気も効率良く除去することができる上に、タバコ臭の主な原因であるアセトアルデヒドの臭気を長期間にわたって十分に除去することのできる消臭布帛及びその製造方法を提供する。
【解決手段】多孔質無機物質と、金属酸化物と、ポリアミン化合物を担持した無機ケイ素化合物と、分子量150以下のヒドラジン誘導体と、を含有してなる消臭組成物が、布帛の少なくとも一部に付着された構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば室内における空気中の、塩基性ガス(アンモニア、トリメチルアミン等)、酸性ガス(酢酸等)、中性ガス(アセトアルデヒド、ホルムアルデヒド等)、硫黄系ガス(硫化水素、メルカプタン類等)のいずれの種類の臭気も効率良く除去することのできる消臭布帛及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の新築住宅は、気密性が著しく向上しており、室内空気が入れ替わるのに従来の住宅の数倍の時間を要するとも言われている。このように気密性が高いと、室内に臭いがこもりやすく、これにより不快感をおぼえる等、このような生活臭の問題は現代人にとって大きな関心事となっている。また、最近では、自動車、電車、旅客機等の室内空間の様々な臭いに対する消臭の要求も高まってきている。
【0003】
このような室内生活臭を消臭するものとして、消臭機能を付与したカーテン、カーペット等の布帛が提案されている(特許文献1〜3参照)。
【0004】
即ち、特許文献1には、アジピン酸ジヒドラジド等のヒドラジド化合物をパイル部や基布部に塗布付着せしめてなる消臭カーペットが記載されている。また、特許文献2には、チタンとケイ素を含む複合酸化物及びヒドラジド化合物を樹脂で繊維表面に付着せしめてなるカーテン、カーペット、乗物用内装材等の繊維構造物が記載されている。また、特許文献3には、ヒドラジン誘導体及び光触媒を樹脂で表面繊維層に付着せしめると共にバッキング樹脂層に椰子柄活性炭及びヒドラジン誘導体を混入せしめてなる消臭カーペットが記載されている。
【特許文献1】特開平11−46965号公報
【特許文献2】特開2003−336170号公報
【特許文献3】特開2005−198684号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、室内の生活臭としては、塩基性ガス(アンモニア、トリメチルアミン等)、酸性ガス(酢酸等)、中性ガス(アセトアルデヒド、ホルムアルデヒド等)、硫黄系ガス(硫化水素、メルカプタン類等)など様々な種類のガスがあるが、上記従来の消臭布帛では、いずれにおいても、これら4種類(塩基性ガス、酸性ガス、中性ガス、硫黄系ガス)の全ての臭気についてこれを効率良く除去することはできなかった。
【0006】
また、一般的に、タバコ臭は、特に敬遠される臭気であり、このようなタバコ臭の消臭を特に長期にわたって十分に行うことのできる消臭布帛の開発が望まれていたところである。
【0007】
この発明は、かかる技術的背景に鑑みてなされたものであって、例えば室内の空気中の、塩基性ガス、酸性ガス、中性ガス、硫黄系ガスのいずれの種類の臭気も効率良く除去することができる上に、タバコ臭の主な原因であるアセトアルデヒドの臭気も長期間にわたって十分に除去することのできる消臭布帛及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
【0009】
[1]多孔質無機物質と、
金属酸化物と、
ポリアミン化合物を担持した無機ケイ素化合物と、
分子量150以下のヒドラジン誘導体と、
を含有してなる消臭組成物が、布帛の少なくとも一部に付着されてなることを特徴とする消臭布帛。
【0010】
[2]前記消臭組成物が、バインダー樹脂によって布帛の少なくとも一部に付着されてなる前項1に記載の消臭布帛。
【0011】
[3]前記ヒドラジン誘導体は、水100gに対する溶解度が25℃において25g以上である前項1または2に記載の消臭布帛。
【0012】
[4]前記ヒドラジン誘導体がカルボジヒドラジドである前項3に記載の消臭布帛。
【0013】
[5]前記ヒドラジン誘導体がコハク酸ジヒドラジドである前項3に記載の消臭布帛。
【0014】
[6]前記多孔質無機物質の付着量が0.5〜25g/m2、前記金属酸化物の付着量が1〜25g/m2、前記ポリアミン化合物を担持した無機ケイ素化合物の付着量が0.5〜10g/m2、前記ヒドラジン誘導体の付着量が5〜50g/m2であり、
前記消臭組成物の付着量が9〜55g/m2である前項1〜5のいずれか1項に記載の消臭布帛。
【0015】
[7]前記消臭組成物が、布帛の裏面側に設けられたバッキング樹脂層に付与されている前項1〜6のいずれか1項に記載の消臭布帛。
【0016】
[8]車両用の椅子張り地用布帛として用いられる前項1〜7のいずれか1項に記載の消臭布帛。
【0017】
[9]溶媒に対して、多孔質無機物質、金属酸化物、ポリアミン化合物担持無機ケイ素化合物を分散質として含有し、分子量150以下のヒドラジン誘導体を溶質として含有してなるエマルジョン液を布帛の少なくとも一部に塗布した後、乾燥することを特徴とする消臭布帛の製造方法。
【0018】
[10]前記エマルジョン液の溶媒が水である前項9に記載の消臭布帛の製造方法。
【0019】
[11]前記多孔質無機物質の平均粒径が10nm〜100μmである前項9または10に記載の消臭布帛の製造方法。
【0020】
[12]前記金属酸化物の平均粒径が10nm〜100μmである前項9〜11のいずれか1項に記載の消臭布帛の製造方法。
【0021】
[13]前記ポリアミン化合物担持無機ケイ素化合物の平均粒径が10nm〜100μmである前項9〜12のいずれか1項に記載の消臭布帛の製造方法。
【発明の効果】
【0022】
[1]の発明では、多孔質無機物質と、金属酸化物と、ポリアミン化合物を担持した無機ケイ素化合物と、ヒドラジン誘導体とが、布帛の少なくとも一部に付与されているので、例えば室内における空気中の、塩基性ガス(アンモニア、トリメチルアミン等)、酸性ガス(酢酸等)、中性ガス(アセトアルデヒド、ホルムアルデヒド等)、硫黄系ガス(硫化水素、メルカプタン類等)のいずれの種類の臭気も効率良く除去することができる。また、ヒドラジン誘導体として分子量150以下の低分子量のヒドラジン誘導体を用いているから、タバコ臭の主な原因であるアセトアルデヒドの消臭を長期間にわたって十分に行うことができる。従って、この消臭布帛によれば、塩基性ガス、酸性ガス、中性ガス、硫黄系ガスのいずれの種類の臭気も十分に消臭できる上に、タバコ臭についても長期間にわたって十分に消臭することができる。
【0023】
[2]の発明では、消臭組成物が、バインダー樹脂によって布帛の少なくとも一部に付着されているから、布帛から消臭組成物が離脱するのを十分に防止できる。
【0024】
[3]の発明では、ヒドラジン誘導体は、水100gに対する溶解度が25℃において25g以上であるから、より多くのヒドラジン誘導体をバインダー樹脂に極めて均一状態に含有せしめることができ、これによりタバコ臭の主な原因であるアセトアルデヒドの消臭をより長期間にわたって十分に行うことができる。
【0025】
[4]の発明では、ヒドラジン誘導体としてカルボジヒドラジドを用いているから、タバコ臭の主な原因であるアセトアルデヒドの消臭をより一層長期間にわたって十分に行うことができる。
【0026】
[5]の発明では、ヒドラジン誘導体としてコハク酸ジヒドラジドを用いているから、タバコ臭の主な原因であるアセトアルデヒドの消臭をより一層長期間にわたって十分に行うことができる。
【0027】
[6]の発明では、コストを抑制しつつ、各臭気(塩基性ガス、酸性ガス、中性ガス、硫黄系ガス、タバコ臭)に対する消臭効率をさらに向上させることができる。
【0028】
[7]の発明では、消臭組成物が、例えば着座等による摩擦(による脱落)の影響のないバッキング樹脂層に付与されているから、より長期間にわたって十分な消臭性能を維持できる。
【0029】
[8]の発明では、室内の空気中の、塩基性ガス、酸性ガス、中性ガス、硫黄系ガスのいずれの種類の臭気も効率良く除去できると共に、タバコ臭についても長期間にわたって十分に消臭することのできる、車両用の椅子張り地用布帛が提供される。
【0030】
[9][10]の発明(製造方法)では、多孔質無機物質、金属酸化物、ポリアミン化合物担持無機ケイ素化合物、ヒドラジン誘導体を含有したエマルジョン液を布帛の少なくとも一部に塗布した後、乾燥するので、例えば室内における空気中の、塩基性ガス(アンモニア、トリメチルアミン等)、酸性ガス(酢酸等)、中性ガス(アセトアルデヒド、ホルムアルデヒド等)、硫黄系ガス(硫化水素、メルカプタン類等)のいずれの種類の臭気も効率良く除去することのできる消臭布帛を製造できる。更に、ヒドラジン誘導体として分子量150以下のものを用いているが、この分子量150以下のヒドラジン誘導体は、そもそもアセトアルデヒドに対する消臭性能が非常に高い上に、水溶性が高く、水系樹脂エマルジョン液中に溶解状態で含有せしめることができるので、乾燥後のバインダー樹脂中により多くのヒドラジン誘導体を極めて均一な微分散状態に含有せしめることができるものと考えられ、これらの相乗的作用によって、製造された消臭布帛は、タバコ臭の主な原因であるアセトアルデヒドを長期間にわたって十分に消臭することができる。
【0031】
なお、分子量150を超える非水溶性のヒドラジン誘導体を分散質として(粉体状態で)水系樹脂エマルジョン液に多量に含有せしめた場合にはエマルジョン液の粘度が顕著に上昇するために消臭布帛の製造が困難になるという難点があるし、また分散質として多量含有せしめた構成としてもタバコ臭を長期間にわたって十分に消臭することはできない(比較例4参照)。
【0032】
[11]〜[13]の発明では、布帛の風合いがより良好なものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
この発明に係る消臭布帛は、(a)多孔質無機物質と、(b)金属酸化物と、(c)ポリアミン化合物を担持した無機ケイ素化合物と、(d)分子量150以下のヒドラジン誘導体と、を含有してなる消臭組成物が、布帛の少なくとも一部に付着されてなることを特徴とする。
【0034】
上記構成の布帛では、(a)(b)(c)及び(d)の4成分が、布帛の少なくとも一部に付与されているので、例えば室内における空気中の、塩基性ガス(アンモニア、トリメチルアミン等)、酸性ガス(酢酸等)、中性ガス(アセトアルデヒド、ホルムアルデヒド等)、硫黄系ガス(硫化水素、メルカプタン類等)のいずれの種類の臭気も効率良く除去することができる。また、ヒドラジン誘導体として分子量150以下の低分子量のヒドラジン誘導体を用いているから、タバコ臭の主な原因であるアセトアルデヒドの消臭を長期間にわたって十分に行うことができる。従って、この消臭布帛によれば、塩基性ガス、酸性ガス、中性ガス、硫黄系ガスのいずれの種類の臭気も十分に消臭できる上に、タバコ臭についても長期間にわたって十分に消臭することができる。
【0035】
なお、前記(a)(b)(c)及び(d)の4成分が、布帛の少なくとも一部に固着された構成であるのが好ましい。
【0036】
前記多孔質無機物質は、多孔質であるので表面積が非常に大きく、これにより臭気に対して優れた吸着能力を発揮する。前記多孔質無機物質としては、特に限定されるものではないが、例えば活性炭、ゼオライト、シリカゲル、麦飯石等が挙げられる。これらの中でも、酢酸やアンモニア等に対して優れた吸着能を発揮するゼオライトを用いるのが好ましい。また、ゼオライトは白色であるので、布帛に付着せしめた場合に布帛の色彩に影響が少なく、この点からも好ましく用いられる。
【0037】
前記金属酸化物としては、特に限定されるものではないが、例えばアルミナ、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄等が挙げられる。この金属酸化物は、主に光触媒として機能するものであり、その強い酸化力で有機物を酸化分解する。
【0038】
前記ポリアミン化合物を担持した無機ケイ素化合物としては、特に限定されるものではないが、例えば、ポリアミン化合物を担持した多孔質二酸化ケイ素、ポリアミン化合物を担持したケイ酸アルミニウム等が挙げられる。
【0039】
前記ポリアミン化合物としては、特に限定されるものではないが、例えば脂肪族ポリアミン、芳香族ポリアミン、脂環式ポリアミン等が挙げられる。具体的には、例えば、ジエチレントリアミン、テトラエチレンペンタミン等が挙げられる。
【0040】
前記無機ケイ素化合物にポリアミン化合物を担持する方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、ポリアミン化合物の水溶液を作成し、この水溶液中に無機ケイ素化合物を浸漬した後、取り出した無機ケイ素化合物を加熱焼成することによって、ポリアミン化合物を担持した無機ケイ素化合物を得る方法等が挙げられる。
【0041】
前記ポリアミン化合物は、特にアルデヒドガスの消臭に有効であり、また無機ケイ素化合物は塩基性ガスの消臭に有効であり、これに多孔質無機物質及び金属酸化物並びにヒドラジン誘導体を併用することにより、消臭布帛と接する様々な臭気を効果的に消臭することができる。
【0042】
前記ヒドラジン誘導体としては、分子量150以下のものを用いる。分子量150以下のものを用いることにより、タバコ臭の主な原因であるアセトアルデヒドの消臭を長期間にわたって十分に行うことができる。中でも、水100gに対する溶解度が25℃において25g以上である水溶性ヒドラジン誘導体を用いるのが、タバコ臭の主な原因であるアセトアルデヒドの臭気をより一層長期間にわたって十分に除去することが可能になる点で、好ましい。水100gに対する溶解度が25℃において25g以上である水溶性ヒドラジン誘導体としては、特に限定されるものではないが、例えば、カルボジヒドラジド(分子量が90であり、水100gに対する溶解度が25℃において32gである)、コハク酸ジヒドラジド(分子量が146であり、水100gに対する溶解度が25℃において33.5gである)などが挙げられる。これら例示したヒドラジン誘導体の中でも、タバコ臭の主原因であるアセトアルデヒドの臭気をさらに一層長期にわたって十分に除去できる点で、カルボジヒドラジドを用いるのが特に好ましい。
【0043】
前記消臭組成物を構成する多孔質無機物質、金属酸化物、ポリアミン化合物を担持した無機ケイ素化合物の平均粒径は、いずれも10nm〜100μmの範囲であるのが好ましい。このような粒径範囲であれば、これら物質が布帛に担持された時に、ざらつき感を生じることがないし、布帛の風合いも良好なものとなる。中でも、10nm〜10μmの範囲であるのがより好ましく、特に好ましい範囲は10nm〜5μmである。
【0044】
前記各消臭成分の布帛への付着量は次のような範囲に設定されるのが好ましい。即ち、多孔質無機物質:0.5〜25g/m2、金属酸化物:1〜25g/m2、ポリアミン化合物を担持した無機ケイ素化合物:0.5〜10g/m2、分子量150以下のヒドラジン誘導体:5〜50g/m2に設定されるのが好ましい。分子量150以下のヒドラジン誘導体の付着量が5g/m2未満である場合にはアセトアルデヒドの耐久消臭能力が低下するので好ましくない。中でも、分子量150以下のヒドラジン誘導体の布帛への付着量は10〜50g/m2に設定されるのが特に好ましい。
【0045】
また、前記消臭組成物の付着量(バインダー樹脂は含まない)は9〜55g/m2(乾燥質量)に設定されるのが好ましい。9g/m2未満では十分な消臭性能が得られ難くなるので好ましくないし、55g/m2を超えてもこれ以上の消臭性能の向上はあまりなく徒にコストを増大させるので好ましくない。中でも、前記消臭組成物の付着量(バインダー樹脂は含まない)は15〜55g/m2(乾燥質量)に設定されるのがより好ましい。
【0046】
また、前記消臭組成物における各消臭成分の混合質量比は、特に限定されないが、多孔質無機物質100質量部に対して、金属酸化物20〜1000質量部、ポリアミン化合物を担持した無機ケイ素化合物20〜900質量部、ヒドラジン誘導体50〜500質量部の範囲とするのが好ましい。
【0047】
前記バインダー樹脂としては、どのような樹脂でも使用することができ、例えば自己架橋型アクリル樹脂、メタアクリル樹脂、ウレタン樹脂、シリコン樹脂、グリオキザール樹脂、酢酸ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ブタジエン樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル−シリコン共重合体樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂、イソブチレン無水マレイン酸共重合体樹脂、エチレン−スチレン−アクリレート−メタアクリレート共重合体樹脂などが挙げられる。これら樹脂を2種類以上混合してバインダー樹脂としても良い。
【0048】
前記バインダー樹脂の付着量(消臭組成物は含まない)は0.5〜50g/m2(乾燥質量)に設定されるのが好ましい。
【0049】
この発明の消臭布帛(1)において、前記消臭組成物が付与される部位は、特に限定されず、例えば布帛の全体であっても良いし、その一部であっても良い。カーペットを例に挙げれば、消臭組成物は、パイル糸(2)に付着されていても良いし、基布(3)に付着されていても良いし、或いは基布(3)の裏面のバッキング樹脂層(4)中に含有せしめられていても良い(図1参照)。
【0050】
次に、この発明の消臭布帛の製造方法の好適例について説明する。本製造方法は、多孔質無機物質、金属酸化物、ポリアミン化合物担持無機ケイ素化合物を分散質として含有し、分子量150以下のヒドラジン誘導体を溶質として含有した水系樹脂エマルジョン液を布帛の少なくとも一部に塗布した後、乾燥することを特徴とする。
【0051】
前記水系樹脂エマルジョン液を調製する際の混合順序は、特に限定されないが、予め多孔質無機物質、金属酸化物、ポリアミン化合物担持無機ケイ素化合物を水に分散せしめておき、次いでバインダー樹脂を配合した後、最後に分子量150以下のヒドラジン誘導体を溶解せしめるのが、多孔質無機物質、金属酸化物、ポリアミン化合物担持無機ケイ素化合物を水により均一に分散できる点で、好ましい。
【0052】
前記水系樹脂エマルジョン液には、前記消臭組成物と前記バインダー樹脂のほかに、難燃剤、分散剤、増粘剤等の各種添加剤を含有せしめても良い。なお、難燃剤も含有せしめる場合には、バインダー樹脂100質量部に対して難燃剤を50〜150質量部含有せしめるのが好ましい。このような構成とすれば十分な難燃性能を確保できる。
【0053】
前記水系樹脂エマルジョン液を布帛に塗布する際の塗布手法としては、特に限定されるものではないが、例えばスプレー法、浸漬法、コーティング法、パディング法等が挙げられる。布帛におけるエマルジョン液の塗布部位は、特に限定されず、例えば布帛の全体に塗布しても良いし、その一部に塗布するようにしても良い。カーペットを例に挙げれば、パイル糸(2)に塗布しても良いし、基布(3)に塗布しても良いし、或いはバッキング層(4)に塗布含有せしめても良い(図1参照)。また、基布(3)にパイル(2)を植設した表皮層に前記エマルジョン液を塗布しても良いし、或いは接着層を介して表皮層とバッキング層が積層一体化されたものに前記エマルジョン液を塗布しても良い。また、カーテンを例に説明すれば、カーテン生地の状態で前記エマルジョン液を塗布しても良いし、或いは縫製した後のカーテン生地に前記エマルジョン液を塗布しても良い。
【0054】
前記水系樹脂エマルジョン液を布帛に塗布した後に乾燥させるが、この乾燥は、加熱処理によって行うのが好ましい。この時の加熱処理温度は100〜180℃に設定するのが好ましい。このような温度範囲での加熱処理によって、消臭組成物の付着性を高めることができ、ひいては消臭性能の持続耐久性を一層向上させることができる。
【0055】
前記エマルジョン液を構成する溶媒としては、水に限定されるものではなく、例えばアルコール等の有機溶媒等が挙げられる。
【0056】
なお、上記製造方法は、その例を示したものに過ぎず、この発明の消臭布帛は、このような製造方法で製造されたものに限定されるものではない。
【0057】
この発明において、前記布帛としては、特に限定されるものではないが、例えば織物、編物、不織布、立毛布帛(タフテッドカーペット、モケット等)が挙げられる。具体的な用途としては、特に限定されるものではないが、例えば椅子張り地、カーテン、カーペット、壁紙、乗物用内装材(鉄道車輌用内装材、自動車用内装材、旅客機用内装材等)などが挙げられる。室内空気が自然対流している中で含有臭気が布帛に付着された消臭組成物と十分に接触するように前記布帛は通気性を有しているのが好ましい。
【0058】
前記布帛を構成する繊維としては、特に限定されるものではないが、例えばポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリプロピレン繊維、アクリル繊維、レーヨン繊維等の他、麻、綿、羊毛等の天然繊維などが挙げられる。
【実施例】
【0059】
次に、この発明の具体的実施例について説明するが、本発明はこれら実施例のものに特に限定されるものではない。
【0060】
<実施例1>
平均粒径5μmのゼオライト10質量部、平均粒径10nmの酸化亜鉛10質量部、ジエチレントリアミンを担持した平均粒径10μmの二酸化ケイ素7質量部、平均粒径3μmの難燃剤80質量部を500質量部の水に加えた後、攪拌機を用いて攪拌を行うことにより、各粒子が均一に分散された水性液を得た。この水性液にアクリル樹脂100質量部を加えて攪拌機で攪拌を行い、さらにカルボジヒドラジド(分子量:90)67質量部を添加攪拌して溶解せしめることによって、水系樹脂エマルジョン液(処理水性液)を得た。
【0061】
次に、ポリエステル製のモケット生地(目付450g/m2)の裏面に前記処理水性液を塗布した後、130℃で10分間乾燥させることによって、バッキング樹脂層を形成せしめて、車両用の椅子張り地用消臭布帛を得た。
【0062】
なお、各消臭成分の布帛への付着量は、カルボジヒドラジド:20g/m2、ゼオライト:3g/m2、酸化亜鉛:3g/m2、ジエチレントリアミン担持二酸化ケイ素:2g/m2であった。また、難燃剤の布帛への付着量は24g/m2であり、アクリル樹脂の布帛への付着量は30g/m2であった。
【0063】
<実施例2〜7>
水系樹脂エマルジョン液(処理水性液)の組成を表1に示す組成にすると共に、布帛への各成分の付着量を表1に示す条件に設定した以外は、実施例1と同様にして車両用の椅子張り地用消臭布帛を得た。
【0064】
<実施例8〜9、比較例1〜4>
水系樹脂エマルジョン液(処理水性液)の組成を表2に示す組成にすると共に、布帛への各成分の付着量を表2に示す条件に設定した以外は、実施例1と同様にして車両用の椅子張り地用消臭布帛を得た。
【0065】
なお、比較例4では、セバシン酸ジヒドラジド(分子量:230)は、非水溶性であるので、水系樹脂エマルジョン液中に(溶質ではなく)分散質として含有されている。
【0066】
【表1】

【0067】
【表2】

【0068】
【表3】

【0069】
【表4】

【0070】
上記のようにして作製された各消臭布帛に対し、下記試験法に従い、消臭性能等の評価を行った。これらの結果を表3、4に示す。
【0071】
<消臭性能試験法>
(アンモニア消臭性能)
各消臭布帛から切り出した試験片(10×10cm角)を、内容量500mLの袋内に入れた後、袋内において濃度が200ppmとなるようにアンモニアガスを注入した。注入してから1時間経過後にアンモニアガスの残存濃度を測定し、この測定値より各試験片がアンモニアガスを分解除去した総量を算出し、これよりアンモニアガスの除去率(%)を計算した。
【0072】
(硫化水素消臭性能)
アンモニアガスに代えて硫化水素ガスを用いて袋内において濃度が20ppmとなるように注入した以外は、上記アンモニア消臭性能測定と同様にして硫化水素の除去率(%)を算出した。
【0073】
(メチルメルカプタン消臭性能)
アンモニアガスに代えてメチルメルカプタンガスを用いて袋内において濃度が40ppmとなるように注入すると共に注入してから4時間経過後にガスの残存濃度を測定した以外は、上記アンモニア消臭性能測定と同様にしてメチルメルカプタンの除去率(%)を算出した。
【0074】
(酢酸消臭性能)
アンモニアガスに代えて酢酸ガスを用いて袋内において濃度が100ppmとなるように注入した以外は、上記アンモニア消臭性能測定と同様にして酢酸の除去率(%)を算出した。
【0075】
(アセトアルデヒド消臭性能)
アンモニアガスに代えてアセトアルデヒドガスを用いて袋内において濃度が80ppmとなるように注入すると共に注入してから4時間経過後にガスの残存濃度を測定した以外は、上記アンモニア消臭性能測定と同様にしてアセトアルデヒドの除去率(%)を算出した。
【0076】
(ホルムアルデヒド消臭性能)
アンモニアガスに代えてホルムアルデヒドガスを用いて袋内において濃度が80ppmとなるように注入すると共に注入してから4時間経過後にガスの残存濃度を測定した以外は、上記アンモニア消臭性能測定と同様にしてホルムアルデヒドの除去率(%)を算出した。
【0077】
(トリメチルアミン消臭性能)
アンモニアガスに代えてトリメチルアミンガスを用いて袋内において濃度が60ppmとなるように注入した以外は、上記アンモニア消臭性能測定と同様にしてトリメチルアミンの除去率(%)を算出した。
【0078】
そして、除去率が95%以上であるものを「◎」、除去率が80%以上95%未満であるものを「○」、除去率が70%以上80%未満であるものを「△」、除去率が70%未満であるものを「×」と評価した。
【0079】
<アセトアルデヒドの耐久消臭能力評価法>
各消臭布帛から切り出した試験片(10×10cm角)を、内容量1000mLの袋内に入れた後、袋内において濃度が500ppmとなるようにアセトアルデヒドガスを注入した。注入してから8時間経過後にアセトアルデヒドガスの残存濃度を測定し、この測定値より試験片がアセトアルデヒドガスを分解除去した量を算出する。
【0080】
次に、同試験片に対して同様の操作を消臭できなくなるまで何度も繰り返し行い、消臭できなくなるまでの各操作毎のアセトアルデヒドガス除去量を積算し、アセトアルデヒドガス消臭累計値を求める。このアセトアルデヒドガス消臭累計値が、1440mg/m2を超えるものを「◎」、1080mg/m2を超えて1440mg/m2以下であるものを「○」、720mg/m2を超えて1080mg/m2以下であるものを「△」、720mg/m2以下であるものを「×」と評価した。なお、アセトアルデヒドガス消臭累計値1440mg/m2は、アセトアルデヒドに対する消臭能力をおおよそ3年程度は維持できる目安となる数値である。
【0081】
<バッキング樹脂層の伸びの評価法>
前記処理液(水系樹脂エマルジョン液)を樹脂基板に塗布したのち乾燥させることによって厚さ300μmのフィルムを作成し、これをダンベル1号形に打ち抜いた後、この打ち抜きフィルムの引張伸度をJIS K6251に準拠して測定し、伸びが10%以上であるものを「○」、伸びが8%以上10%未満であるものを「△」、伸びが8%未満であるものを「×」とした。
【0082】
<難燃性評価法>
JIS L1091のA−3法(水平法)に準拠して消臭布帛の燃焼試験を行い、燃焼後の試料(消臭布帛)の燃焼長さを測定し、この燃焼長さが10cm以下であるものを「○」、燃焼長さが10cmを超えるものを「×」とした。
【0083】
表3から明らかなように、この発明に係る実施例1〜9の消臭布帛は、塩基性ガス(アンモニア、トリメチルアミン等)、酸性ガス(酢酸等)、中性ガス(アセトアルデヒド、ホルムアルデヒド等)、硫黄系ガス(硫化水素、メルカプタン類等)のいずれの種類の臭気に対しても優れた消臭効果を発揮した。また、実施例1〜9の消臭布帛は、アセトアルデヒドの耐久消臭能力に優れており、タバコ臭の消臭を長期間にわたって十分に行うことができる。
【0084】
これに対し、分子量150を超えるヒドラジン誘導体であるセバシン酸ジヒドラジドを付与せしめた比較例4の消臭布帛は、アセトアルデヒドの耐久消臭能力が不十分であった。
【産業上の利用可能性】
【0085】
この発明の消臭布帛は、例えば、椅子張り地、カーテン、カーペット、壁紙、乗物用内装材として好適に用いられるが、特にこのような用途に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】この発明に係る消臭布帛の一実施形態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0087】
1…消臭布帛
2…パイル層
3…基布
4…バッキング層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質無機物質と、
金属酸化物と、
ポリアミン化合物を担持した無機ケイ素化合物と、
分子量150以下のヒドラジン誘導体と、
を含有してなる消臭組成物が、布帛の少なくとも一部に付着されてなることを特徴とする消臭布帛。
【請求項2】
前記消臭組成物が、バインダー樹脂によって布帛の少なくとも一部に付着されてなる請求項1に記載の消臭布帛。
【請求項3】
前記ヒドラジン誘導体は、水100gに対する溶解度が25℃において25g以上である請求項1または2に記載の消臭布帛。
【請求項4】
前記ヒドラジン誘導体がカルボジヒドラジドである請求項3に記載の消臭布帛。
【請求項5】
前記ヒドラジン誘導体がコハク酸ジヒドラジドである請求項3に記載の消臭布帛。
【請求項6】
前記多孔質無機物質の付着量が0.5〜25g/m2、前記金属酸化物の付着量が1〜25g/m2、前記ポリアミン化合物を担持した無機ケイ素化合物の付着量が0.5〜10g/m2、前記ヒドラジン誘導体の付着量が5〜50g/m2であり、
前記消臭組成物の付着量が9〜55g/m2である請求項1〜5のいずれか1項に記載の消臭布帛。
【請求項7】
前記消臭組成物が、布帛の裏面側に設けられたバッキング樹脂層に付与されている請求項1〜6のいずれか1項に記載の消臭布帛。
【請求項8】
車両用の椅子張り地用布帛として用いられる請求項1〜7のいずれか1項に記載の消臭布帛。
【請求項9】
溶媒に対して、多孔質無機物質、金属酸化物、ポリアミン化合物担持無機ケイ素化合物を分散質として含有し、分子量150以下のヒドラジン誘導体を溶質として含有してなるエマルジョン液を布帛の少なくとも一部に塗布した後、乾燥することを特徴とする消臭布帛の製造方法。
【請求項10】
前記エマルジョン液の溶媒が水である請求項9に記載の消臭布帛の製造方法。
【請求項11】
前記多孔質無機物質の平均粒径が10nm〜100μmである請求項9または10に記載の消臭布帛の製造方法。
【請求項12】
前記金属酸化物の平均粒径が10nm〜100μmである請求項9〜11のいずれか1項に記載の消臭布帛の製造方法。
【請求項13】
前記ポリアミン化合物担持無機ケイ素化合物の平均粒径が10nm〜100μmである請求項9〜12のいずれか1項に記載の消臭布帛の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−221621(P2009−221621A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−65550(P2008−65550)
【出願日】平成20年3月14日(2008.3.14)
【出願人】(390014487)住江織物株式会社 (294)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】