説明

消臭性多層シートおよびこれを使用した履物の中敷

【課題】 履物類、帽子類、手袋類、あるいは各種の防具やサポーター類などに用いられる、肌に直接、あるいは薄布を介して長時間触れる素材として好適に使用できる、従来の消臭性シートに比べて実用上優れた消臭性を有する消臭性多層シートおよびこの消臭性多層シートを用いた履物の中敷を提供すること。
【解決手段】 0.1〜10μm径の極細繊維が5〜5000本収束した極細繊維束を10〜100質量%含む繊維質シート(A)、木炭を主成分とする消臭性微粉末をバインダー樹脂で担持した消臭層(B)および繊維集合体または多孔質樹脂からなるベースシート(C)が順次積層一体化されてなる消臭性多層シート、およびこの消臭性多層シートを用いた履物の中敷である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消臭性多層シートおよびこれを使用した履物の中敷に関し、さらに詳しくは、消臭性に優れ、履物類、帽子類、手袋類、あるいは各種の防具やサポーター類などのように、肌に直接的にあるいは薄布を介して間接的に長時間触れ、肌からの発汗や老廃物、その他汚れ等の付着によって悪臭の原因である臭い物質が発生してしまうことの多い製品の素材として好適な消臭性多層シート、および特に好適な用途としてこの消臭性多層シートを使用した履物の中敷に関するものである。
【背景技術】
【0002】
消臭性を有するシートの用途としては、上記の例のほかにも衣類や寝具類、家具や建具などの建材類、車両内装類など、凡そ人が接することのある製品をほぼ全てを挙げることができるが、取り分け悪臭による不快感の解決が強く望まれている用途としては、履物類が挙げられる。履物類、特に屋内外を問わず長時間着用する履物類、例えば紳士靴、婦人靴、ブーツ、スポーツ靴などは、時には激しい足の動きに対して、用途に適した追従性と保形性とをバランス良く発揮するのはもちろんのこと、屋外で着用する履物であれば雨や土砂等の外的環境などから、履物を着用した足を保護することが最優先されるべき機能である。従って、履物の製造に使用される素材自体は比較的厚くしっかりとしたものであり、しかも履物の形状は袋状であるので、履物着用時に外気に触れることがない爪先や足の裏では発汗によって蒸れが生じる。また、爪先や足の裏は、履物を着用した足からの老廃物や着用時に外的環境から付着する汚れの存在によって、雑菌の繁殖に極めて適した環境であり、個人差等はあっても、悪臭の発生は避けられない。
【0003】
消臭性を有するシート、あるいは消臭性を有するシートを使用した製品として、従来、多種多様の提案がなされてきており、その中でも、上記の理由から履物の中敷に関する提案が比較的多くなされてきた。例えば、銀や銅などの金属イオンを溶出し得る多孔質担体からなる金属系抗菌剤を、通気性、通水性のある基材、例えば天然繊維や合成繊維の織物、編物、不織布などの間に挟持して外周部を縫製、あるいは接着、溶着したタイプの消臭性シートが種々提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、このような消臭性シートでは、抗菌・消臭作用の元となる金属イオンが効果的に溶出し得る条件が限定されており、また金属イオンを消費し切ってしまうと全く効果がなくなってしまうなど、実用上は抗菌・消臭効果の安定性、持続性に問題があった。
【0004】
酸化チタンや炭、サラシ粉等を抗菌剤、あるいは消臭剤としてフィルム、フォームあるいは不織布等のシート状物に含浸、あるいは練り込み等の方法により担持させたタイプの抗菌性・消臭性シートも種々提案されている(例えば、特許文献2〜4参照)。しかしながら、このような抗菌性・消臭性シートは、その表面に露出している機能性微粒子等の効果自体は発現し易いものの、シート状物の内層に存在するような微粒子の効果は発現しにくく、機能性微粒子の担持量に対して実際に発現する効果のレベルが低いので実用上有効な効果を得るためには微粒子の担持量は多くならざるを得ず、また何れも表面の耐摩耗性や機能性微粒子等の脱落性に難がある構成なので着用による接触を必須とする用途には向かないものであり、やはり実用上は効果の安定性、持続性にも問題があった。
上記の特許文献2〜4に記載の構成による抗菌性・消臭性シートの耐摩耗性や脱落性を解消し得る構成として、パウダー状の竹炭や木炭を練り込んだ合成樹脂フォームの表面に皮革や合成樹脂などの保護表面層を設けた防臭性中敷シートが提案されている(例えば、特許文献5参照)。しかしながら、このような防臭性中敷シートは、微粒子の使用量に対する効果のレベルは依然低いままであり、加えて表面を覆うことにより効果発現が阻害されるので、実用上必要な効果を得るためには機能性微粒子の担持量は一層多くならざるを得ないものであった。
上記の特許文献1〜5に記載されるような種々の脱臭剤や乾燥剤などの機能性微粉末、さらにはバインダー樹脂粉末などを、必要に応じて組み合わせた後、これを2枚、あるいはそれ以上の枚数の通気性シート間に挟持して融着や縫製等の手段により一体化した脱臭・吸湿シートが種々提案されている(例えば、特許文献6〜9参照)。しかしながら、このような脱臭・吸湿シートは、通気性シートが水分を能動的に吸収する構成ではないので実用上の触感自体は使用した通気性シートそのものに過ぎず、また、脱臭・乾燥の効果は脱臭剤や乾燥剤の使用量に応じた容量が飽和してしまうとなくなってしまい、使用不可となる、いわゆる短期使用の使い捨てタイプのシートであり、やはり実用上は効果の安定性、持続性に問題があった。
【0005】
上記の特許文献6〜9に記載される脱臭・吸湿シートなどが抱える種々の問題点を解決し得る脱臭シートとして、ポリエステル不織布などの通気性表面シート、木炭と接着剤の混合物を不織布等に塗布したシート本体、および粘着剤を塗布するなどして形成した粘着層からなる脱臭シートが提案されている(例えば、特許文献10参照)。しかしながら、このような脱臭シートは、上記の特許文献6〜9に記載される技術と同様に通気性表面シート自体は水分を能動的に吸収する構成ではないので、脱臭シートとしての実用上の表面触感や吸湿性能は、単独では吸水性や吸湿性を有しないポリエステル繊維からなる不織布そのものに過ぎない。また、木炭と接着剤の混合物を塗布するためのシート本体が単に不織布のみからなり、塗布した混合物の殆どは不織布の厚さ方向に速やかに浸透してしまうため、混合物の大半を表面に存在させるのは困難である。結果として目的とする脱臭効果レベルを発現させるためには、混合物の塗布量を過剰に増やさねばならず、使用した混合物の塗布量に見合った脱臭効果を発現させることは到底できないものであった。
【0006】
また、上記のようなシート状物表面に消臭性微粉末とバインダー樹脂とを含む処理液を塗布することにより消臭性微粉末を担持させた消臭性を有するシートを得る方法において、シート状物表面に塗布するために最適化、即ち処理液中で消臭性微粉末が均一に拡散して、塗布後の被膜に色ムラ等の問題が発生せず、かつ消臭性微粉末の性能をより有効に発揮し得る処理液として、木炭粉末と低融点型ナイロン樹脂、または高融点型ナイロン樹脂とナイロン樹脂の溶剤とを含有する塗料組成物が提案されている(例えば、特許文献11参照)。この塗料組成物は、上述した塗料としての課題の中の均一拡散性、均一被膜形成性は達成されており、また木炭粉末自身が有する性能をより有効に発揮し得る塗料組成物であるが、この提案自体は建築用を主目的とする塗料組成物に関するものであり、塗布して担持させるシート状物としてはスレート板、木板、ALC板といった建築材料が具体的に挙げられるに過ぎず、消臭性を有するシートを得るためのシート状物の最適化に関する提案はなされていない。
【0007】
【特許文献1】特開平5―68604号公報
【特許文献2】特開平5―76404号公報
【特許文献3】特開平9―206105号公報
【特許文献4】特開2002−114904号公報
【特許文献5】特開2001―112508号公報
【特許文献6】特開平7―125072号公報
【特許文献7】実用新案登録第3054968号公報
【特許文献8】特開2000―158419号公報
【特許文献9】実用新案登録第3083772号公報
【特許文献10】特開2003―334104号公報
【特許文献11】特開平11―29742号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、人肌に直接的にあるいは薄布を介して間接的に長時間触れることで、肌から排出されて付着する汗や老廃物、あるいは肌や周囲の環境から付着する汚れ等によって、種々の悪臭の原因物質が発生してしまうことの多い各種の製品の表面素材として好適に使用可能な、従来の技術では得られなかった実用的な吸水・吸湿性と消臭性とを発揮する消臭性多層シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、特定の極細繊維束を特定量含む繊維質シート(A)、特定の消臭性微粉末を担持した消臭層(B)および特定のベースシート(C)が順次積層一体化されてなる消臭性多層シートにより上記目的が達成されることを見出した。本発明はかかる知見に基づいて完成したものである。
すなわち、本発明は、以下の消臭性多層シートおよび履物の中敷を提供するものである。
【0010】
1. 0.1〜10μm径の極細繊維が5〜5000本収束した極細繊維束を10〜100質量%含む繊維質シート(A)、木炭を主成分とする消臭性微粉末をバインダー樹脂で担持した消臭層(B)および繊維集合体または多孔質樹脂からなるベースシート(C)が順次積層一体化されてなることを特徴とする消臭性多層シート。
2. 繊維質シート(A)を構成する繊維の10〜100質量%が光触媒微粒子を含有する繊維である上記1に記載の消臭性多層シート。
3. 繊維質シート(A)において、極細繊維束を構成する極細繊維の内、本数基準で30〜100%がポリエステル系極細繊維である上記1または2に記載の消臭性多層シート。
4. 繊維質シート(A)を構成する繊維が、エチレン−ビニルアルコール系繊維10〜100質量%を含み、かつ繊維質シート(A)の表面に露出している繊維が少なくとも該エチレン−ビニルアルコール系繊維を含む上記1〜3のいずれかに記載の消臭性多層シート。
5. エチレン−ビニルアルコール系繊維が、少なくともエチレン−ビニルアルコール系樹脂成分を含み、かつ該エチレン−ビニルアルコール系樹脂成分が繊維表面積の1/3以上露出している複合繊維である上記4に記載の消臭性多層シート。
6. 消臭層(B)において、木炭が、1000℃以下で焼成された木炭の微粉末を含み、消臭性微粉末の粒径が0.01〜30μmであり、バインダー樹脂がポリアミド系樹脂を主成分とするものである上記1〜5のいずれかに記載の消臭性多層シート。
7. 消臭層(B)における消臭性微粉末の担持量が、消臭性多層シートの単位面積当たり1〜100g/m2である上記1〜6のいずれかに記載の消臭性多層シート。
8. 消臭層(B)の一部がベースシート(C)の内部に浸透して一体化しており、繊維質シート(A)が消臭層(B)の表面に接着剤により接着されている上記1〜7のいずれかに記載の消臭性多層シート。
9. ベースシート(C)が、繊維集合体の内部に繊維集合体基準で5〜200質量%の樹脂を含浸させたものである上記1〜8のいずれかに記載の消臭性多層シート。
10. ベースシート(C)を構成する繊維集合体が、繊維絡合不織布であり、かつ極細繊維を繊維集合体基準で10〜100質量%含むものである上記9に記載の消臭性多層シート。
11. 上記1〜10のいずれかに記載の消臭性多層シートを、繊維質シート(A)を表面として使用した履物の中敷。
12. ベースシート(C)の履物と接する側に樹脂フォームシートを貼り合わせた上記11記載の履物の中敷。
【発明の効果】
【0011】
本発明の消臭性多層シートは、優れた消臭性能を有し、その消臭性能が繰り返しの使用においても著しく低下することがないので、この消臭性多層シートを使用した履物類、帽子類、手袋類、あるいは各種の防具やサポーター類などは、日常的な使用においても快適な着用感が得られる。特に好適な用途として、この消臭性多層シートを使用した履物類の中敷は、従来の消臭性を有する中敷に比べて優れた消臭効果を有しており、毎日のように着用しても快適な使用感が持続する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明において、繊維質シート(A)を構成する繊維としては、従来公知の何れの繊維も使用することができる。具体的には、木綿、麻、絹、羊毛などの天然繊維、ビスコースレーヨン、アセテート、キュプラなどの半合成繊維、ポリアミド、ポリエステル、アクリル、ビニロン、ポリプロピレン、ポリウレタン、ポリ塩化ビニリデンなどの合成繊維などが挙げられる。これらは一種を単独でまたは複数種を組み合わせて使用することができる。
これらの繊維からなる繊維質シートの構造としては、織編物、不織布、織編物と不織布とを複合化したもの、それらにバインダー樹脂を含浸したもの、あるいはさらにそれらの表面に非連続状態の樹脂コーティング、あるいは多数の開孔を有する樹脂コーティングを施したものなどが挙げられる。これらの繊維質シートは一種を単独でまたは複数種を積層して使用することができる。このような構造の繊維質シート(A)は、その下層として存在する消臭層(B)まで速やかに空気中の臭い物質が移動可能な性能、即ち通気性に優れている必要がある。繊維質シート(A)の通気性の目安は、JIS P8117に規定されているガーレ試験機法(B形)により測定される通気度が5cc/cm2・秒以上であることであり、この値であれば、上記の何れの構造のものも用いることができる。この通気度は、好ましくは10cc/cm2・秒以上である。
【0013】
本発明で用いる繊維質シート(A)は、上記の何れかの構造の繊維質シートであって、繊維質シートを構成する繊維の内、0.1〜10μm径の極細繊維が5〜5000本収束した極細繊維束を10〜100質量%含むことを要する。このような極細繊維束を含む繊維質シートを消臭性多層シートの表面層に使用することで、極細繊維束の毛管現象により吸水・拡散性能が発揮される。また、極細繊維束自体の表面積により得られる極めて大きな単位体積当りの表面積により臭い物質の物理的な吸着性能が顕著に発揮されるので、極めて優れたレベルの吸湿・吸水性能と消臭性能とを有する消臭性多層シートとすることができ、従来にない実用的な消臭性能を得ることができる。
【0014】
極細繊維の繊維径とは、単繊維断面が丸形状、正方形や五角形、六角形など点対称の形状に近い多角形状、中心角が30度を超える扇形、鋭角が30度を超える三角形、あるいはこれに類する断面形状の極細繊維であれば、その断面積を円に換算したときの直径のことであり、単繊維断面が楕円、長方形、菱形、台形、あるいはこれに類する断面形状の極細繊維であれば、その短径または短辺のことである。極細繊維の繊維径が0.1μm以上であると、毛管現象により吸い取った水分を極細繊維間に過度に保持することがないので適度の吸水性能が得られ、また、消臭性多層シートとして十分なレベルの拡散性能が得られる。一方、極細繊維の繊維径が15μm以下であると、消臭性多層シートとして十分なレベルの毛管現象を得ることができる。
【0015】
上記の繊維径の極細繊維が収束した極細繊維束とは、元が1本の繊維から分割等により発生した繊維束はもちろんのこと、元々は別の極細繊維、あるいは繊維から発生した極細繊維であっても、繊維質シート(A)の状態において繊維長さ方向にほぼ平行に並んで密着するような近接状態をいい、消臭性多層シートとして実質的に十分な吸水・拡散性能が発揮されるような状態であれば、本発明でいう収束の状態にある極細繊維束である。極細繊維の収束本数が5本以上であると、本発明で目的とする毛管現象による吸水性能が発揮され易くなり、一方、極細繊維の収束本数が5000本以下であると、吸水性能が良好に発揮されるとともに、極細繊維自体が密集し過ぎることがないので、消臭性多層シートとして十分なレベルの拡散性能が得られる。
【0016】
本発明の消臭性多層シートにおいて、繊維質シート(A)を構成する繊維の10〜100質量%が光触媒微粒子を含有する繊維であるのが、消臭層(B)による実用上の消臭効果レベルを向上、長寿命化させる上で好ましい。即ち、消臭性多層シートの表面に近い部分を構成する繊維として、光触媒微粒子を含む繊維を上記の割合で使用することにより、紫外線から可視光線程度の波長を含む電磁波が照射され、このため繊維質シート(A)内に吸着等にて存在する臭い物質が分解されると共に、消臭性多層シートにおいて消臭性能を受け持っている消臭層(B)から放出されてしまう臭い物質をも同様に分解され、消臭層(B)の消臭性能をサポートする効果が期待できる。
光触媒微粒子は、紫外線照射によりその表面で電子と正孔が発生し、周囲の水や酸素から強力な酸化力を有する活性酸素を発生させる物質である。具体的には、Se、Ge、Si、Ti、Zn、Cu、Al、Sn、Ga、In、P、As、Sb、C、Cd、S、Te、Ni、Fe、Co、Ag、Mo、Sr、W、Cr、Ba、Pb等の酸化物などの化合物であって水に不溶のものが挙げられる。これらの中でも二酸化チタン、酸化亜鉛及び酸化タングステンから選ばれる一種を単独で又は複数種を組み合わせたものが好適である。例えば市販品として入手し得る二酸化チタン光触媒微粒子としては、石原産業(株)製のタイペークST−01(商品名)、多木化学(株)製の酸化チタンゾルが用いられる。上記光触媒微粒子は、その一次粒子径が0.001〜0.3μm、好ましくは0.003〜0.2μmの範囲である。光触媒微粒子の一次粒子径が大きすぎると、光触媒の機能が発揮されにくい場合がある。
【0017】
光触媒微粒子を含有する繊維としては、光触媒微粒子を混練した合成樹脂を紡糸して得た繊維、合成繊維あるいは天然繊維などに光触媒微粒子を付着させたものなどが挙げられる。これらの繊維は一種を単独でまたは複数種を組み合わせて使用することができる。これらの繊維の内、光触媒微粒子を混練した合成樹脂から得られる合成繊維を主とするものが好ましい。光触媒微粒子を混練する合成樹脂としては、例えば、ナイロン6、ナイロン66などのポリアミド系樹脂、ポリエチレンテレフタレート(以下、略してPETと記載することがある。)、ポリプロピレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル系樹脂、エチレン−ビニルアルコール系樹脂、アクリル系樹脂、ビニロン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂などが挙げられ、光触媒微粒子を混練して紡糸した場合に繊維性能の劣化や光触媒微粒子性能の劣化などが著しくなく、消臭性多層シートとして十分な効果が得られるものであれば、それらの何れであってもよい。
【0018】
また、本発明でいう光触媒微粒子を含有する繊維とは、繊維断面において全体的に均一に光触媒微粒子が存在する繊維はもちろんのこと、繊維断面において複数の繊維成分が複合状態にある、いわゆる複合繊維であって、その一つあるいは複数の繊維成分中に光触媒微粒子が存在する繊維であってもよい。光触媒微粒子を含む複合繊維としては、例えば、芯鞘タイプや海島タイプの複合繊維において、芯成分(島成分)または鞘成分(海成分)のみに光触媒微粒子が存在する繊維、多層貼り合わせタイプまたは花弁様貼り合わせタイプの複合繊維において、光触媒微粒子が存在する繊維成分と存在しない繊維成分とが交互に配置されるような繊維などが挙げられる。
【0019】
繊維質シート(A)における極細繊維束を構成する極細繊維の内、本数基準で30〜100%がポリエステル系極細繊維であるのが、消臭性多層シート表面の耐摩耗性などの耐久物性や極細繊維束の毛細管現象を利用した吸水・拡散性能がバランスよく得られる点で好ましい。すなわち、消臭性多層シート表面としてポリエステル系樹脂が本来有する耐摩耗性などの耐久物性を得ることができるだけでなく、シート表面に接触・付着する汗、湿気などの水分を極細繊維束の構成により素早く吸水・拡散させつつ、いわゆる公定水分率が比較的低いことで知られるポリエステル系繊維が多く存在するシート表面には水分が殆ど残存しないような状態とすることが可能であり、耐久性と吸水性とが非常にバランスの良いものとなる。
【0020】
上記ポリエステル系極細繊維とは、上述したPET、ポリプロピレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル系樹脂からなる極細繊維であり、直接紡糸法、複合紡糸法、混合紡糸法などの公知の溶融紡糸法により得ることができる。このポリエステル系極細繊維を極細繊維束にする方法としては、直接紡糸法により得られた繊維であれば従来公知の方法にて収束する方法が挙げられる。紡糸方法として複合紡糸法、あるいは混合紡糸法を採用すれば、極細繊維発生型繊維を紡糸した後、これを分割、あるいは1成分の分解・溶解などの方法により極細化することで同時に極細繊維束が比較的容易に得られるので好ましい方法である。
極細繊維束を構成する極細繊維の内、ポリエステル系極細繊維の比率が本数基準で30%以上であると、耐久性および吸水性について優れた性能を有するシート表面が得られることはもちろんのこと、それら性能のバランスが、消臭性多層シートとして十分なレベルとなる。
【0021】
さらには、上記の極細繊維束との併用、あるいは極細繊維束を構成する繊維成分として、エチレン−ビニルアルコール系繊維を10〜100質量%含み、かつ繊維質シート(A)表面に露出している繊維が少なくともエチレン−ビニルアルコール系繊維を含むものが、消臭性多層シート表面として天然繊維様の風合い、サラサラ感といった優しい感触が得られる点で好ましい。エチレン−ビニルアルコール系繊維とは、少なくともエチレン−ビニルアルコール系樹脂を含む繊維をいい、エチレン−ビニルアルコール系樹脂単独からなる繊維であっても他の熱可塑性樹脂と複合された繊維であってもよい。複合繊維の場合は、繊維表面積の1/3以上でエチレン−ビニルアルコール系樹脂成分が露出していることが必要である。
【0022】
本発明に係るエチレン−ビニルアルコール系樹脂は、例えばエチレン−酢酸ビニル系共重合体を水酸化ナトリウムで鹸化することにより得ることができ、エチレンからなる繰り返し単位の割合は、通常25〜75モル%程度、好ましくは30〜50モル%であり、それ以外の部分がビニルアルコール単独、またはビニルアルコールとその他のビニル系モノマーの繰り返し単位からなり、数平均分子量が5000〜25000程度のエチレン−ビニルアルコール系共重合体である。
エチレンからなる繰り返し単位の割合が25モル%以上であると、耐熱性が十分であるため溶融紡糸の際にゲル化することがなく、紡糸・延伸時の単糸切れや断糸が生じることがなく、得られた繊維が柔軟性を有するものとなる。エチレンからなる繰り返し単位の割合が75モル%以下であると、水酸基の割合が大きいので吸湿性、吸水性が低下することがなく、消臭性多層シートとして好ましい触感であるドライ感を得ることができる。
このようなエチレン−ビニルアルコール系樹脂は、エチレンと酢酸ビニルからラジカル重合等により製造したエチレン−酢酸ビニル共重合体を鹸化するか、あるいは(株)クラレ製のエバール(商品名)や、日本合成化学工業(株)製のソアノール(商品名)など、市販の合成樹脂をそのまま、あるいは必要に応じてさらに鹸化等することにより得ることができる。
【0023】
上記のエチレン−ビニルアルコール系繊維による感触がより一層効果的に得られ、また、繊維質シート(A)の機械的強度に大きな影響を与えることなく、繊維強度としては比較的弱いエチレン−ビニルアルコール系繊維を繊維質シート(A)の構成繊維としてより多く含ませるために、本発明においては、少なくともエチレン−ビニルアルコール系樹脂を含み、消臭性多層シートを製造するまでの何れかの段階で上記のように繊維表面積の1/3以上でエチレン−ビニルアルコール系樹脂成分が露出した状態になるような複合繊維を使用することが好ましい。そのような複合繊維としては、サイドバイサイドタイプの複合繊維、芯鞘タイプの複合繊維、海島タイプの複合繊維、多層貼り合わせタイプの複合繊維、花弁様貼り合わせタイプの複合繊維、あるいはそれらを組み合わせた複合状態のものなど、従来公知の複合繊維が挙げられる。
【0024】
例えば、芯鞘タイプや海島タイプの複合繊維であれば鞘成分(海成分)にエチレン−ビニルアルコール系樹脂を採用するのはもちろんのこと、芯成分(島成分)に採用しても消臭性多層シートを製造するまでの何れかの段階で鞘成分(海成分)の一部を分解、溶解等によって除去して芯成分(島成分)を合計繊維表面積の1/3以上露出させればよく、また多層貼り合わせタイプや花弁様貼り合わせタイプであれば分解、溶解による露出のみならず、異成分間界面での分割によって合計繊維表面積の1/3以上露出させればよい。このようなエチレン−ビニルアルコール系複合繊維は、エチレン−ビニルアルコール系樹脂と他の熱可塑性樹脂、例えばナイロン6、ナイロン66などのポリアミド類、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートなどのポリエステル類などと、任意の紡糸口金を使用して溶融紡糸により製造してもよいし、本発明の目的を達成できる繊維であれば(株)クラレ製のソフィスタ(商品名)などの市販の合成繊維を使用してもよい。
【0025】
本発明の消臭性多層シートにおいて、消臭層(B)は、木炭を主成分とする消臭性微粉末をバインダー樹脂で担持したものである。ここで、主成分とは、消臭性微粉末中に、木炭を50質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、特に好ましくは100質量%含むことを意味する。消臭性微粉末の主成分である木炭は、カシ、ナラ、マツ、クヌギ等の木材を、密閉した状態で600℃以上の温度で焼成した後、粉砕して得られる多孔質微粉末であり、本発明では、1000℃以下の比較的低い温度で焼成した後、粉砕して得られる多孔質微粉末を少なくとも含むものが、本発明が目的とする消臭性能上好ましい。
【0026】
さらに、焼成する木材の種類や焼成温度、あるいは粒径が異なる複数種の木炭の混合物を用いると、異種の臭い物質に対する消臭性能を補完することができるのでより好ましい。木炭を主成分とする消臭性微粉末とは、上記木炭に、竹炭、多孔質セラミック粉末などの公知の消臭性微粉末を、上記木炭が有する消臭効果を阻害しない範囲、即ち目安として全体量の50質量%程度までの範囲で混在させたものである。消臭性多層シートの製造および使用に大きな支障をきたさないのであれば、消臭性微粉末中に100μmから1mm弱程度の大きさの微粉末が微量混入しても構わないが、消臭性微粉末の全体的な粒径としては0.01〜30μm程度が好ましい。本発明でいう消臭性微粉末の粒径とは、消臭層(B)に担持された状態での消臭性微粉末の平均的な粒径のことであり、消臭層(B)を形成させるための処理剤等の段階では粒径0.01μm未満のものが大半を占める微粉末であっても、微粉末同士が凝集したり、あるいは粒径0.01μm未満の微粉末がベースシート(C)に担持されずに脱落するなどにより実質的には粒径が上記範囲になった場合も含まれる。
使用する消臭性微粉末の粒径を0.01μm未満にまで粉砕してしまっても、主成分である木炭の特性上からか消臭性多層シートとして発揮される消臭性能が向上するものでもなく、一方、消臭性微粉末の粒径が30μm以下であると、消臭性微粉末の担持量に対する消臭性微粉末の表面積が十分であるため、良好な消臭性能が得られ、また、消臭性微粉末を担持するために必要なバインダー樹脂の量が増加することがない。
【0027】
このような消臭性微粉末を担持するためのバインダー樹脂としては、消臭性多層シートの用途毎に要求される耐久性を満足できる樹脂であれば特に限定されるものではないが、吸水率が高い樹脂を採用すると、空気中の水分との良好な親和性により悪臭の元となる臭い物質の吸着性能が向上すると共に、消臭性微粉末の大半を覆っているバインダー樹脂中の臭い物質の拡散性が向上するため、より効果的な消臭性能を発揮できるので好ましい。
このような性質を発揮し得る樹脂としては、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12、ナイロン610などのポリアミド系樹脂の単独、複数種の混合物、あるいは複数種の共重合物を主体とした樹脂が挙げられる。取り分け複数種の混合物、例えばナイロン6、ナイロン66、ナイロン12の混合物や、さらにナイロン610を加えた混合物などが、上述の消臭性能をより効果的に発揮させることができる点で好ましい。
【0028】
消臭層(B)の厚さは、10〜300μm程度が好ましい。本発明における消臭層(B)の厚さとは、消臭性微粉末が存在する層の厚さのことであり、特に後述するように消臭層(B)自体がベースシート(C)の内部に浸透して一体化している場合には、消臭性微粉末の大部分、目安としては80質量%以上程度が存在する層の厚さのことである。
消臭層(B)の厚さが10μm以上であると、実質的に消臭性微粉末の単位面積当たりの量が十分となり、一方、300μm以下であると、消臭性微粉末の単位面積当たりの量が十分であると共に、消臭性多層シートの表面側から厚さ方向へ臭い物質等がより確実に満遍なく拡散できる範囲で消臭層(B)が形成されていることになるので、消臭性能が実用的に十分発揮できるものとなり、さらには繊維質シート(A)が上述の光触媒微粒子を含有する繊維を構成繊維として含む場合に期待される臭い物質の分解による消臭性能のサポートが、より効果的に得られやすいものとなる。
従って、消臭性微粉末を担持させる厚さとしては、厚さ方向へ無駄に分布を広げるよりは、300μm以下程度の厚さの消臭層とすることで、担持させた消臭性微粉末の量に応じた消臭性能を安定的に発揮することが可能になり、例えば目的とする消臭性能を発揮するのに必要な最低限の量の消臭性微粉末による消臭層を形成させることが可能になる。
【0029】
本発明の消臭性多層シートにおいて、消臭層(B)により担持された消臭性微粉末の担持量は、消臭性多層シートの単位面積当たり1〜100g/m2が好ましく、2〜50g/m2がより好ましく、3〜30g/m2がさらに好ましい。この担持量が1g/m2以上であると、本発明で目的とする十分な消臭性能が発揮され、一方、担持量が100g/m2以下であると、担持量に見合った消臭性能が発揮されるので、効果と経済性とのバランスが良好となる。なお、担持量が100g/m2を超えると、担持量に見合った消臭性能どころか、数分の1や十数分の1の担持量のものよりも消臭性能が劣ってしまう傾向すらも見られる。これは、消臭性微粒子を担持するためのバインダー樹脂の付与量も必然的に多くなることで消臭性微粒子自体がバインダー樹脂に埋没してしまうためではないかと考えられる。また、担持量が増えるに従って、消臭性多層シートとしての質量、易屈曲性、耐屈曲性などの商品性に与える影響も大きくなるので、目的とする消臭性能が得られる範囲で、担持量はできるだけ少なくするのが好ましい。
【0030】
消臭層(B)を形成させる方法としては、消臭性微粉末を混合したバインダー樹脂から溶融成形したフィルム、あるいはバインダー樹脂と消臭性微粉末とを所定の溶剤に分散させた処理液を離型シート上に塗布、乾燥して得たフィルムを、繊維質シート(A)とベースシート(C)の間に挟持して一体化する方法、バインダー樹脂、消臭性微粉末、および溶剤あるいは分散剤を配合した処理液を繊維質シート(A)の裏面、あるいはベースシート(C)の表面へ塗布、乾燥する方法などが挙げられる。
中でも上記した好ましい厚さの消臭層(B)が容易に得られる点から、バインダー樹脂、消臭性微粉末、および溶剤あるいは分散剤を配合した処理液を繊維質シート(A)の裏面、あるいはベースシート(C)の表面へ塗布、乾燥する方法が好ましく、通気性が要求されるために処理液自体の浸透性が制御しにくい繊維質シート(A)よりは、容易に浸透性を制御することのできるベースシート(C)に処理液を塗布するのがより好ましい方法である。この場合、繊維質シート(A)は消臭層の表面に接着剤により接着する。接着剤としては、公知のものを用いることができる。
【0031】
処理液をベースシート(C)の表面へ塗布する方法としては、ナイフコート法、バーコート法、リバースロールコート法、グラビアロールコート法、スプレーコート法などの公知のコーティング方法が何れも採用可能であるが、大凡の目安としては、消臭性微粉末の担持量が消臭性多層シートの単位面積当たり50〜100g/m2程度である場合には、ナイフコート法やリバースロールコート法などが、また1〜50g/m2程度である場合には、グラビアロールコート法やスプレーコート法などが、処理液の塗布量、塗布の均一性などの制御面で好ましい方法である。尚、後者の方法、特にスプレーコート法を塗布方法として採用すると、ベースコート(C)の表面での消臭性微粉末の担持状態として、バインダー樹脂によって消臭性微粉末を埋没させてしまうことなく消臭性微粉末が粒状態を保ったままで担持された状態とすることが比較的容易に可能であり、消臭性微粉末の担持量に見合った消臭性能が得られ易いので、好ましい塗布方法であるといえる。
【0032】
処理液に配合するバインダー樹脂と消臭性微粉末との質量割合は、通常90:10〜30:70であり、好ましくは75:25〜45:55である。バインダー樹脂の割合が90質量%以下であると、消臭層(B)における消臭性微粉末の担持割合が大きくなり、消臭層(B)の厚さとして上記の好ましい範囲にすることが容易となる。一方、バインダー樹脂の割合が30質量%以上であると、消臭層(B)において消臭性微粉末を担持する強さや消臭層自体の強さが十分なものとなる。
処理液に使用する溶剤または分散剤としては、水やアルコール類、ケトン類などの有機溶剤を単独でまたは複数種を混合して用いることができる。アルコール類としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノールなどの低級脂肪族アルコールが挙げられ、これらのアルコールを含む溶剤が好ましい。また、乾燥速度の調節を目的として、上記溶剤とは異なる揮発性の溶剤、例えばエチルセロソルブ、トルエン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジエチルエーテル、n−ヘキサン、シクロヘキサンなどをバインダー樹脂の溶解性、分散性に悪影響を与えない範囲で適宜配合した混合溶剤も用いることができる。
【0033】
本発明のベースシート(C)は繊維集合体または多孔質樹脂からなるものであって、それらの単独からなるものであっても、繊維集合体と多孔質樹脂とを交互に積層させるか、あるいは繊維集合体の繊維間に多孔質樹脂を存在させるなどの方法により複合一体化されたものであってもよい。また、形態安定性や形態回復性、または変形による形態適合性、あるいは保温・断熱性、遮音性、高反発性または低反発性、吸水・吸湿性、吸塵・吸着性などの用途や目的に応じた性能が十分に発揮できれば何れの形態であってもよい。
ベースシート(C)における繊維集合体を構成する繊維としては、木綿、麻、絹、羊毛などの天然繊維、ビスコースレーヨン、アセテート、キュプラなどの半合成繊維、ポリアミド、ポリエステル、アクリル、ビニロン、ポリプロピレン、ポリウレタン、ポリ塩化ビニリデンなどの合成繊維など、従来公知の繊維を用いることができ、これらは一種を単独でまたは複数種を組み合わせて用いることができる。繊維集合体としては、繊維長が1〜100mm程度の短繊維、あるいはそれ以上の繊維長を有する長繊維を使用した織編物、不織布、織編物と不織布とを複合化したもの、あるいは所定量の繊維を押し固めて樹脂等で固着させたものなどの何れも使用することができる。
【0034】
また、ベースシート(C)における多孔質樹脂としては、天然ゴム、ネオプレン、スチレンブタジエンゴムなどのゴム類、ポリウレタン、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリシリコーン、ポリ塩化ビニル、ポリアセタール、ポリカーボネートなどの各種プラスチック類など、従来公知の樹脂の何れも使用することができる。これらの樹脂を多孔質化させる方法としては、熱あるいは溶剤等により可塑化、流動化させた樹脂に強制的にガスを微分散させた状態で固化させることにより多孔質状にする方法、可塑化、流動化させた樹脂に微分散させた発泡剤から加熱、加圧、減圧、化学反応等により発生したガスにより多孔質状にする方法、樹脂中に微小な中空球を微分散させて多孔質状にする方法、樹脂中に微分散させた可溶性物質を溶出させて多孔質状にする方法など、従来公知の方法が挙げられる。
【0035】
上述したように、消臭層(B)の形成方法として、ベースシート(C)の表面に消臭性微粉末とバインダー樹脂からなる処理液を塗布する方法を採用することにより、本発明の好ましい態様である、ベースシート(C)の内部に消臭層(B)を浸透一体化させた状態を得る上では、処理剤が低粘度であっても必要以上に浸透せず浸透性を容易に制御でき、得られる消臭層(B)は消臭性微粉末を高濃度の状態で層状に存在させることができる点から、ベースシート(C)としては繊維集合体の内部に繊維集合体基準で5〜200質量%の樹脂を含浸させたものが好ましい。この樹脂比率が5質量%以上であると、消臭層(B)が浸透し過ぎることがなく、上述した消臭層(B)の厚さとして好ましい範囲が容易に達成される。一方、200質量%以下であると、ベースシート(C)の内部への浸透が適度に抑制され、浸透一体化の状態にさせ易い。
【0036】
含浸させる樹脂としては、本発明の目的や効果が得られるものであればよく、例えばポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂など種々の樹脂が挙げられる。樹脂の選択は、変形性、反発性、嵩高性、物理的強度、耐久性などの消臭性多層シート自体に求める性質、あるいは工業的にはコストなどの観点を含めて総合的なバランスに基づいて行えばよいが、本発明で目的とする履物類、帽子類、手袋類、あるいは各種の防具やサポーター類などの用途においては、ポリウレタン系樹脂、あるいはアクリル系樹脂を主成分とする樹脂が好ましい。
【0037】
また、上記繊維集合体としては、繊維絡合不織布であって、かつ繊維集合体基準で極細繊維を10〜100質量%含むものであるのが、消臭性微粉末とバインダー樹脂との混合物により消臭層(B)を形成する際に、ベースシート(C)表面におけるバインダー樹脂の接着面積を、通常の繊度を有する繊維に比べてはるかに大きくすることができるので好ましい。
このように接着面積を大きくすると、比較的少量のバインダー樹脂でもベースシート(C)の表面に十分な接着強力で消臭性微粉末を担持させることができ、また、通常の繊度を有する繊維のみを使用したシートに比べてより平滑な表面状態であって、平面方向により均一に繊維が分布したベースシート(C)を得ることができる。従って、比較的少量の混合物でも十分に均一な厚さで消臭層(B)を安定的に形成することができる。このように、極細繊維を10〜100質量%含むものを用いると、消臭層(B)を形成する基体としてのベースシート(C)の適性が優れたものとなり、消臭性多層シートの単位面積当たりの消臭性微粉末担持量が僅かでも実用上有効な消臭性能を得ることができる消臭層(B)を形成することができる。
繊維集合体における上記極細繊維の含有量が10質量%以上であると、上記効果が得られる。極細繊維の繊度としては、2デシテックス以下であれば特に限定されないが、0.0001〜0.8デシテックスであるのが上記したベースシート(C)としての適性が安定的に得られやすい点で好ましい。
【0038】
本発明の履物の中敷は、消臭性多層シートを繊維質シート(A)側を表面として使用したものであり、履物の中敷としての快適性、具体的には、すべりにくくすることと中敷自体の足裏へのフィット感の点で、ベースシート(C)の履物と接する側に樹脂フォームを貼り合わせたものが好ましい。ベースシート(C)の裏面に貼りあわせる樹脂フォームシートとは、見かけ密度が0.01〜0.2g/cm3程度、厚さが0.5〜20mm程度のシート状樹脂フォームのことである。
樹脂フォームシートの見かけ密度が0.01g/cm3以上であると、中敷の上に足を乗せたときに樹脂フォームシートが極度に潰れることがないので、フィット感などの目的とする効果を得ることができる。見かけ密度が0.2g/cm3以下であると、足裏の形にフィットし、また、樹脂フォームシートの質量が嵩むことがないので一般的に軽量化が望まれる靴の中敷として好ましい。樹脂フォームシートの厚さが0.5mm以上であると、樹脂フォームシートにおいて足の裏の形にフィットするための潰れ代が十分である。厚さが20mm以下であると、足裏の形に樹脂フォームシートが十分にフィットすると共に、中敷としての厚さが嵩むこともないので、着用時に違和感がなく、また靴の中敷として質量が嵩むこともない。
【0039】
樹脂フォームとしては、天然ゴム、ネオプレンゴム、スチレンブタジエンゴムなどからなるいわゆるゴムスポンジや、ポリウレタン系、ポリエステル系、オレフィン系、スチレン系、塩化ビニル系などの各種の熱可塑性エラストマーからなるプラスチックフォームなどが挙げられる。これらの中で、ポリウレタンフォームやポリエステルフォームなどのプラスチックフォームが好ましい。例えばポリウレタンフォームは、ポリオール、ポリイソシアネート、および必要に応じてポリアミンや触媒、整泡剤、発泡剤、着色剤などを含む組成物を種々の方法により発泡させて硬化させる方法などにより得られる従来公知のものを用いることができ、上記見かけ密度や厚さを満足し、本発明の目的が達成されるものであれば市販のものも使用することができる。
【実施例】
【0040】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。尚、以下において、部、%およびppmはことわりのない限り質量部、質量%および質量ppmを表す。各例において得られた消臭性多層シートを下記の方法により評価した。
【0041】
<消臭性能の測定による評価方法>
作製した消臭性多層シートを10cm×10cmに切り出して、容量5Lのテドラーバッグに入れ、100ppmに調整した酢酸ガスを3L注入して、2時間後、24時間後それぞれの酢酸ガス濃度を検知管(酢酸用No.81(株式会社ガステック製))により測定した。このようにして、消臭性多層シートを入れずにブランクの状態での測定濃度と、消臭性多層シートを入れた測定濃度とを比較することによって、測定した消臭性多層シートの消臭性能を評価した。
【0042】
<消臭性能、快適性能の実着用による評価方法>
作製した消臭性多層シートを足型に切り出して、10名のモニターが10日間に渡って連続4日以上で1日当たり4時間以上着用し、消臭性能については靴を脱いだとき、あるいは靴を履くときの臭いの強さを、また快適性能については靴の中の蒸れ感を下記の5段階で評価し、10名の評価を平均して消臭性多層シートの消臭性能、快適性能の評価結果とした。
【0043】
5:靴脱着時に不快な臭いが全く、あるいは殆ど感じられず、また、靴着用時の蒸れ感も全く、あるいは殆ど感じられない。
4:靴脱着時に不快な臭いは全く、あるいは殆ど感じられないが、靴着用時の蒸れ感は少し感じられる。または、靴脱着時に不快な臭いが少し感じられるが、靴着用時の蒸れ感は全く、あるいは殆ど感じられない。
3:靴脱着時に不快な臭いは殆ど感じられないが、靴着用時の蒸れ感が明らかに感じられる。または、靴脱着時に不快な臭いが明らかに感じられるが、靴着用時の蒸れ感は殆ど感じられない。
2:靴脱着時に不快な臭い、靴着用時の蒸れ感共に明らかに感じられるが、中敷未使用の状態に比べると消臭効果、快適性能共に認められる。
1:靴脱着時に不快な臭い、靴着用時の蒸れ感共に明らかに感じられ、中敷未使用の状態に比べた消臭効果、あるいは快適性能が全く認められない、あるいは中敷未使用の状態に比べて効果、性能が劣っている。
【0044】
このようにして評価した消臭性能、快適性能の評価結果が3以上であれば、個々人の感じ方が非常に多様でばらつきが大きいにも関わらず、実用上の消臭性能、快適性能として少なくとも半数以上の人が明確な効果を認めるレベルであると判断できる。参考までに、消臭効果、快適性能を謳っていない市販の中敷を購入し、モニター10名には市販品であることを明かさずに実着用評価したところ、評価結果は1.7であった。
【0045】
実施例1
糸A(レギュラーPET繊維束,167デシテックス−26フィラメント,繊維径23〜26μm程度,(株)クラレ製)、糸B(PET極細繊維束,56デシテックス−72フィラメント,繊維径8.0〜9.0μm程度,(株)クラレ製)、糸C(レギュラーPET繊維束,167デシテックス−48フィラメント,繊維径16〜19μm程度,(株)クラレ製)、糸D(レギュラーPET繊維束,330デシテックス−96フィラメント,繊維径16〜19μm程度,(株)クラレ製)を使用し、丸編み(組織:鹿の子)で糸Aと糸Bが表面側、糸Cと糸Dが裏面側を主として構成するような繊維質シートAを作製した。得られた繊維質シートAの通気度は50cc/cm2・秒を大きく超えており、JIS P8117法では正確な測定ができないほどに高い通気性を有するものであった。
【0046】
また、溶融させた50部のポリエチレンと50部のナイロン6を、口金内部で流路が多数に分割しつつ相互に交差したタイプの複合紡糸口金を使用して紡糸し、ポリエチレン成分中にナイロン6が200個程度微分散した断面形態のいわゆる海島タイプの複合繊維を得た。その後、油剤付与、延伸、捲縮、カット等の工程を経てステープルを得た。このステープルをカード、クロスラップによりウェブとしてこれを積層し、次いでニードルパンチングにより絡合させて不織布を得た。この不織布にポリエステル−ポリエーテル系ポリウレタンの15%DMF(ジメチルホルムアミド)溶液を含浸した後、水浴へ導入してポリウレタンを多孔質状態で凝固させ、次いで複合繊維中のポリエチレンを抽出除去してナイロン6極細繊維束を発生させた後、サンドペーパーによるバフィングで表面を研削して、表面層近傍の極細繊維束のフィブリル化および表面の平滑化を行い、さらにポリエステル系ポリウレタンのDMF溶液をシクロヘキサノンとDMFの混合溶剤で希釈したポリウレタンの8%溶液を、150メッシュのグラビアロールで表面に2回塗布し、乾燥させて、ベースシートAを作製した。
このベースシートAは、平均単繊維繊度0.01〜0.02デシテックスの極細繊維からなる繊維集合体と、その内部に繊維集合体基準で約50%のポリウレタンが含浸された、目付け約230g/m2、厚さ約0.7mmのものである。
【0047】
得られたベースシートAの表面に、ナイロン6を主成分とするポリアミド系樹脂のアルコール系混合溶剤(メタノール:n−プロパノール:イソプロパノール=40:45:15(質量比))溶液に、約700℃で焼成し、粉砕して得た楢炭微粉末と、約800℃で焼成し、粉砕して得た赤松炭微粉末とを50:50の質量比で混合した消臭性微粉末を配合した消臭層用の処理液を、消臭性微粉末の担持量が約13g/m2となるようにスプレーコート法により塗布・乾燥して消臭層を形成させ、その消臭層上に繊維質シートAを接着剤により接着して消臭性多層シート1を作製した。
【0048】
得られた消臭性多層シート1の断面を走査型電子顕微鏡にて観察したところ、繊維質シートAとベースシートAとの界面において、ベースシートAの深さ方向に約50μm程度まで浸透しつつ形成された厚さ約70μmの消臭層が見られ、担持された消臭性微粉末の粒径は0.5〜5μm程度のものが大半を占めていた。消臭性多層シート1の消臭性能を上記測定による方法で評価したところ、2時間後でブランクが61ppmだったのに対して2.2ppmまで減少しており、さらに24時間後はブランクが30ppmだったのに対して検出下限(1.0ppm)未満にまで減少していた。また、得られた消臭性多層シート1の消臭性能、快適性能を上記の実着用による方法で評価したところ、モニター10名中評価1が0名、2が1名、3が2名、4が5名、5が2名であり、10名の評価を平均すると3.8であった。
【0049】
実施例2
糸E(PETを芯成分、エチレン−ビニルアルコール系樹脂を鞘成分として使用した芯鞘タイプ複合繊維からなる繊維束,150デシテックス−48フィラメント,繊維径15〜18μm程度,(株)クラレ製)、糸F(PET成分6層、酸化チタン系光触媒微粒子を含有するナイロン6成分5層からなる合計11層の交互積層タイプ複合繊維からなる繊維束,84デシテックス−24フィラメント,複合繊維の断面において各層は1層の厚さが何れも1.0〜3.0μm程度、1層の平均長さが10〜25μm程度でほぼ長方形または長方形に近い台形の形状であり、本発明でいう繊維径が1.0〜3.0μm程度,(株)クラレ製)、糸G(レギュラーPET繊維束,110デシテックス−24フィラメント,繊維径19〜22μm程度,(株)クラレ製)を使用し、丸編み(組織:鹿の子)で糸Eが表面側、糸Fと糸Gが裏面側を主として構成するような繊維質シートBを作製した。得られた繊維質シートBにおいて、光触媒微粒子を含有する繊維の比率は約14%であり、通気度は繊維質シートAと同様に50cc/cm2・秒を大きく超えており、JIS P8117法では正確な測定ができないほどに高い通気性を有するものであった。
【0050】
実施例1と同じようにしてベースシートAの表面に消臭層を形成し、その消臭層上に繊維質シートBを接着剤により接着して消臭性多層シート2を作製した。
消臭性多層シート2の消臭性能を上記測定による方法で評価したところ、消臭性多層シート1と同様の結果であった。また、得られた消臭性多層シート2の消臭性能、快適性能を上記の実着用による方法で評価したところ、モニター10名中評価1が0名、2が1名、3が1名、4が3名、5が5名であり、10名の評価を平均すると4.2であった。
【0051】
実施例3
50部のポリエチレンと50部のナイロン6を口金へ導入する前に溶融混練してポリエチレン成分中にナイロン6成分が250〜450個程度微分散した断面形態のいわゆる海島タイプの複合繊維を紡糸した後、油剤付与、延伸、捲縮、カット等の工程を経てステープルを得た。このステープルをカード、クロスラップによりウェブとしてこれを積層し、次いでニードルパンチングにより絡合させて不織布を得た。この不織布にポリエステル−ポリエーテル系ポリウレタンの12%DMF溶液を含浸した後、水浴へ導入してポリウレタンを多孔質状態で凝固させ、次いで複合繊維中のポリエチレンを抽出除去してナイロン6極細繊維束を発生させて複合シートを得た。
その複合シートに、ヒンダードフェノール系の耐光安定剤を1%含有するポリエステル系ポリウレタンのDMF溶液をさらにシクロヘキサノンとDMFの混合溶剤で希釈したポリウレタンの8%溶液を150メッシュのグラビアロールで表面は3回、裏面は1回塗布、乾燥することで、複合シートの表面にポリウレタンからなる非連続状態の被膜を形成した後、含金染料で茶色に染色することで、平均径が1.0〜1.5μm程度の極細繊維からなる不織布と、その内部に繊維質量基準で約35%含浸されたポリウレタンからなり、目付け約220g/m2、厚さ0.5mmの繊維質シートCを作製した。得られた繊維質シートCの通気度は15cc/cm2・秒で通気性に優れたものであった。
【0052】
実施例1と同じようにしてベースシートAの表面に消臭層を形成したものを作製し、その消臭層上に繊維質シートCを接着剤により接着して消臭性多層シート3を作製した。
消臭性多層シート3の消臭性能を上記測定による方法で評価したところ、消臭性多層シート1と同様の結果であった。また、得られた消臭性多層シート3の消臭性能、快適性能を上記の実着用による方法で評価したところ、モニター10名中評価1が0名、2が2名、3が2名、4が3名、5が2名であり、10名の評価を平均すると3.2であった。
【0053】
実施例4
50部のポリエチレンと50部のポリエチレンテレフタレート(PET)を口金へ導入する前に溶融混練してポリエチレン成分中にPET成分が900〜1200個程度微分散した断面形態のいわゆる海島タイプの複合繊維を紡糸した後、油剤付与、延伸、捲縮、カット等の工程を経てステープルを得た。このステープルをカード、クロスラップによりウェブとしてさらに積層し、次いでニードルパンチングにより絡合させて不織布を得た。この不織布にポリエステル−ポリエーテル系ポリウレタンの12%DMF溶液を含浸した後、水浴へ導入してポリウレタンを多孔質状態で凝固させ、次いで複合繊維中のポリエチレンを抽出除去してPET極細繊維束を発生させて複合シートを得た。
【0054】
その複合シートに、ヒンダードフェノール系の耐光安定剤を1%含有するポリエーテル系ポリウレタンのDMF溶液をシクロヘキサノンとDMFの混合溶剤で希釈したポリウレタンの8%溶液を150メッシュのグラビアロールで表面に1回塗布、乾燥させた後、サンドペーパーにて表面をバフィングし、さらに含金染料で茶色に染色することで、平均径が0.1〜0.5μm程度の極細繊維からなる不織布と、その内部に繊維質量基準で約25%含浸されたポリウレタンからなり、目付け約270g/m2、厚さ0.6mmの繊維質シートDを作製した。得られた繊維質シートDの通気度は12cc/cm2・秒で通気性に優れたものであった。
【0055】
実施例1と同じようにしてベースシートAの表面に消臭層を形成したものを作製し、その消臭層上に繊維質シートDを接着して消臭性多層シート4を作製した。
消臭性多層シート4の消臭性能を上記測定による方法で評価したところ、消臭性多層シート1と同様の結果であった。また、得られた消臭性多層シート3の消臭性能、快適性能を上記の実着用による方法で評価したところ、モニター10名中評価1が0名、2が2名、3が2名、4が3名、5が2名であり、10名の評価を平均すると3.2であった。
【0056】
実施例5
実施例2で得られた消臭性多層シート2の裏面側に見かけ比重0.08g/cm3、厚さ1.5mmのポリウレタンフォームを貼りあわせ、上記の実着用による消臭性能、快適性能の評価法と同様の方法により中敷を作製した。
この中敷を消臭性多層シート2を評価したモニター10名が実着用したところ、着用1日で中敷自体が足裏に沿う形状へと変化したので、モニター全員の評価として着用時のフィット感が好評であった。
【0057】
比較例1
繊維質シートAの消臭層上への接着を行わない以外は実施例1と同様にして、ベースシートAの表面に消臭層が形成されただけの消臭性多層シート5を作製した。得られた消臭性多層シート5の消臭性能を上記測定による方法で評価したところ、2時間後が1.1ppm、24時間後は検出下限(1.0ppm)未満にまで減少しており、消臭性多層シート1と同等以上の結果であった。
しかしながら、得られた消臭性多層シート5の消臭性能、快適性能を上記の実着用による方法での評価を試みたところ、10名何れのモニターでも着用期間10日目まで至る間に消臭性多層シート5の表面状態が粗くなり、酷いケースでは部分的にベースシートが露出してしまう程に表面の消臭層自体が摩耗してしまい、着用後の足裏に微粉末様の付着物が少なからず認められたため、10名中9名は、実用性能の評価として、規定の期間10日間の着用がとてもできないという結果となった。
【0058】
比較例2
実施例1において、消臭性微粉末の担持量が約150g/m2となるように消臭層用の処理液をナイフコート法により塗布・乾燥して消臭層を形成させ、その後の繊維質シートAの消臭層上への接着を行わない以外は同様にして、ベースシートAの表面に比較例1より担持量が多い消臭層が形成されただけの消臭性多層シート6を作製した。得られた消臭性多層シート6の消臭性能を上記測定による方法で評価したところ、2時間後が8.9ppm、24時間後は2.3ppmで検出下限を切ることはできず、消臭性多層シート1に対しても、消臭性多層シート5に対しても劣る結果であった。
得られた消臭性多層シート6の消臭性能、快適性能を上記の実着用による方法での評価を試みたが、消臭性多層シート5と同様に10名何れのモニターでも着用期間10日目まで至る間に消臭性多層シート6の表面状態が粗くなり、酷いケースでは部分的にベースシートが露出してしまう程に表面の消臭層自体の摩耗が発生し、着用後の足裏に微粉末様の付着物が少なからず認められたため、10名中7名が、実用性能の評価として、規定の期間10日間の着用がとてもできないという結果となった。
【0059】
比較例3
糸A(レギュラーPET繊維束,167デシテックス−26フィラメント,繊維径23〜26μm程度,(株)クラレ製)、糸C(レギュラーPET繊維束,167デシテックス−48フィラメント,繊維径16〜19μm程度,(株)クラレ製)、糸D(レギュラーPET繊維束,330デシテックス−96フィラメント,繊維径16〜19μm程度,(株)クラレ製)を使用し、丸編み(組織:鹿の子)で糸Aと糸Cが表面側、糸Cと糸Dが裏面側を主として構成するような繊維質シートEを作製した。得られた繊維質シートEの通気度は50cc/cm2・秒を大きく超えており、JIS P8117法では正確な測定ができないほどに高い通気性を有するものであった。
【0060】
実施例1と同じようにしてベースシートAの表面に消臭層を形成したものを作製し、その消臭層上に繊維質シートEを接着剤により接着して消臭性多層シート7を作製した。
消臭性多層シート7の消臭性能を上記測定による方法で評価したところ、2時間後が4.4ppm、24時間後は検出下限(1.0ppm)未満にまで減少しており、消臭性多層シート1に対して短時間での消臭性能が劣る結果であった。また、得られた消臭性多層シート7の消臭性能、快適性能を上記の実着用による方法で評価したところ、モニター10名中評価1が1名、2が6名、3が2名、4が1名、5が0名であり、10名の評価を平均すると2.3であった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.1〜10μm径の極細繊維が5〜5000本収束した極細繊維束を10〜100質量%含む繊維質シート(A)、木炭を主成分とする消臭性微粉末をバインダー樹脂で担持した消臭層(B)および繊維集合体または多孔質樹脂からなるベースシート(C)が順次積層一体化されてなることを特徴とする消臭性多層シート。
【請求項2】
繊維質シート(A)を構成する繊維の10〜100質量%が光触媒微粒子を含有する繊維である請求項1に記載の消臭性多層シート。
【請求項3】
繊維質シート(A)において、極細繊維束を構成する極細繊維の内、本数基準で30〜100%がポリエステル系極細繊維である請求項1または2に記載の消臭性多層シート。
【請求項4】
繊維質シート(A)を構成する繊維が、エチレン−ビニルアルコール系繊維10〜100質量%を含み、かつ繊維質シート(A)の表面に露出している繊維が少なくとも該エチレン−ビニルアルコール系繊維を含む請求項1〜3のいずれか1項に記載の消臭性多層シート。
【請求項5】
エチレン−ビニルアルコール系繊維が、少なくともエチレン−ビニルアルコール系樹脂成分を含み、かつ該エチレン−ビニルアルコール系樹脂成分が繊維表面積の1/3以上露出している複合繊維である請求項4に記載の消臭性多層シート。
【請求項6】
消臭層(B)において、木炭が、1000℃以下で焼成された木炭の微粉末を含み、消臭性微粉末の粒径が0.01〜30μmであり、バインダー樹脂がポリアミド系樹脂を主成分とするものである請求項1〜5のいずれか1項に記載の消臭性多層シート。
【請求項7】
消臭層(B)における消臭性微粉末の担持量が、消臭性多層シートの単位面積当たり1〜100g/m2である請求項1〜6のいずれか1項に記載の消臭性多層シート。
【請求項8】
消臭層(B)の一部がベースシート(C)の内部に浸透して一体化しており、繊維質シート(A)が消臭層(B)の表面に接着剤により接着されている請求項1〜7のいずれか1項に記載の消臭性多層シート。
【請求項9】
ベースシート(C)が、繊維集合体の内部に繊維集合体基準で5〜200質量%の樹脂を含浸させたものである請求項1〜8のいずれか1項に記載の消臭性多層シート。
【請求項10】
ベースシート(C)を構成する繊維集合体が、繊維絡合不織布であり、かつ極細繊維を繊維集合体基準で10〜100質量%含むものである請求項9に記載の消臭性多層シート。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の消臭性多層シートを、繊維質シート(A)を表面として使用した履物の中敷。
【請求項12】
ベースシート(C)の履物と接する側に樹脂フォームシートを貼り合わせた請求項11記載の履物の中敷。


【公開番号】特開2006−15597(P2006−15597A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−195450(P2004−195450)
【出願日】平成16年7月1日(2004.7.1)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【出願人】(301055424)アーテック工房株式会社 (3)
【Fターム(参考)】