説明

消臭性繊維布帛及びその製造方法

【課題】
酢酸、アンモニア、イソ吉草酸を主たる臭気とする汗臭に対する抜群の消臭性能と洗濯耐久性を兼ね備え、かつ吸水性に優れる消臭性繊維布帛を提供する。
【解決手段】
高分子組成物からなる皮膜で被覆されてなる繊維を含む消臭性繊維布帛であって、高分子組成物が、(a)1万以上の重量平均分子量を有するキトサンと、(b)フラボノイド類及び/又は加水分解型タンニン類とを含み、かつ生地pHが6.0以上であることを特徴とする消臭性繊維布帛。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた洗濯耐久性を有する汗臭に有効な消臭性繊維布帛及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人は生活の中で様々な不快臭にさらされている。不快臭の代表的なものとして、汗臭、加齢臭、排泄臭、タバコ臭、生ゴミ臭等があるが、着用者を臭気元とする臭気として汗臭、加齢臭、排泄臭等がある。特に、汗臭は多種の臭い成分の複合臭であり、その主成分は一般に酢酸、イソ吉草酸、アンモニアとされている。この複合臭を消臭するため、従来から様々な消臭加工が提案されているが、この複合臭の全てに即効性と高い消臭力を兼ね備えた消臭加工は難しいのが現状である。
【0003】
一方、体に優しい消臭加工の技術の一つとして、キチン、キトサン、又はキトサンとその他の消臭剤を組み合わせる方法が提案されている。例えば、特許文献1、特許文献2では、キチン系物質の合成重合体とバインダー樹脂等との混合溶液を含浸若しくはコーティングすることによって、ポリエステル繊維布帛にキチン系物質を付与する方法が開示されている。このようなバインダーを用いる加工法は、加工した布帛の風合いが硬くなって、高品質の繊細な加工布帛製品を得る上で好ましくなく、また、所望の加工効果を得るのに必要なキチン系物質の使用量が多くなり、加工費が高くなりがちである。
【0004】
また、特許文献3では、290nm以下(近紫外線)の波長を含む紫外線をポリエステル繊維布帛に照射した後、水溶性キトサンを有機酸又は無機酸で第4級アンモニウム化してポリエステル繊維布帛に結合させる方法が提案されている。この方法で使用するキトサンは水溶性のため水に溶けやすく、洗濯すると、ポリエステルと強く結合できていない大部分のキトサンが脱落してしまう問題があった。
【0005】
さらに、特許文献4では、キトサンと他の消臭剤を併用した例として、キトサン及び/又は修飾キトサン、カルボン酸ポリマー、酢酸亜鉛及びバインダー樹脂を含む処理液で繊維を処理する消臭繊維の製造方法が提案されている。この方法はキトサン微粒子をエマルジョン化して、バインダーで固着する方式のため、風合が硬くなりやすく、消臭剤をマスキングして消臭効果を抑制してしまう。また、併用する酸化亜鉛は多種類の臭気を消臭できるが、即効性が低い問題があった。
【0006】
また、特許文献5には、キトサンとサイクロデキストリン包接したアルドキシム系消臭剤とを併用することにより、消臭性能が相乗的に高まり、耐水性の高い消臭加工ができることが述べられている。しかし、この方法はキトサンを酸で水に可溶化させるが、使用する酸が生地上に残っているため、繊維上に形成したキトサン皮膜の耐水性は必ずしも高いものではなく、この方法で得た加工布の洗濯耐久性は十分とは言えなかった。また、サイクロデキストリン包接したアルドキシム系消臭剤とキトサンの組合せでは汗臭の主な3成分の全てに十分な効果が得られない問題があった。
【0007】
一方、特許文献6では、フラボノイド類を繊維の消臭加工に用いた例として、エステル結合を介してフラボノイド類が結合されたセルロース繊維製品であって、更に水不溶性無機金属化合物を把持してなるセルロース繊維製品が提案されている。しかし、この製品は、架橋剤にポリカルボン酸を用いるためセルロースの強度低下や黄変が起こることや、処理のコントロールが難しく、後で中和処理を行う等の作業面での問題があった。また、セルロース繊維にしか使えないという問題があった。
【0008】
キトサンは、それ自身抗菌及び消臭効果を有し、安全性も高いものであるが、前述のように従来の方法では汗臭に対して十分な効果がなかったり、繊維布帛に十分な洗濯耐久性を持たせることができなかった。また、他の消臭剤による消臭加工の場合には、バインダーや架橋剤で固着させる必要があり、風合い硬化や吸水性の低下、更にはバインダーのマスキング効果により消臭剤の性能を十分に引き出すことができないものが多かった。
【特許文献1】特開平3−76871号公報
【特許文献2】特開平3−51369号公報
【特許文献3】特開平9−291478号公報
【特許文献4】特開2000−303360号公報
【特許文献5】特開平8−199478号公報
【特許文献6】特開2001−234470号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、かかる従来技術の問題点に鑑み創案されたものであり、その目的は、酢酸、アンモニア、イソ吉草酸を主たる臭気とする汗臭に対する抜群の消臭性能と洗濯耐久性を兼ね備え、かつ吸水性に優れる消臭性繊維布帛を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、高分子量のキトサンを揮発酸で溶解した水溶液を繊維布帛に付着し、次いで熱処理することによって、水不溶性の強固なキトサン皮膜を形成させ、キトサン自身の洗濯耐久性を実現するとともに、キトサン皮膜に担持させたフラボノイド類やタンニン類の洗濯耐久性を大きく向上できることを見出した。さらに、本発明者らは、検討を重ねた結果、キトサン皮膜とフラボノイド類及び/又は加水分解型タンニン類との相乗効果により、どちらか一方のみでは得られなかった汗臭に対する優れた消臭効果と抗菌性を発現できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明は、高分子組成物からなる皮膜で被覆されてなる繊維を含む消臭性繊維布帛であって、高分子組成物が、(a)1万以上の重量平均分子量を有するキトサンと、(b)フラボノイド類及び/又は加水分解型タンニン類とを含み、かつ生地pHが6.0以上であることを特徴とする消臭性繊維布帛である。
【0012】
本発明の消臭性繊維布帛の好ましい態様は以下の(i)〜(iv)に記載のものである。
(i)フラボノイド類が、縮合型タンニンを含む植物抽出物である。
(ii)加水分解型タンニン類が、ピロガロールタンニン、没食子酸、及びm−ガロイル没食子酸からなる群から選択される少なくとも1種を含む植物抽出物、または合成タンニンである。
(iii)加水分解型タンニン類がカルボン酸アミドとヒドロキシアリルスルホンのメチレン環縮合物である。
(iv)酢酸及びイソ吉草酸の初期消臭性が80%以上でありかつ家庭洗濯10洗後の消臭性が70%以上であり、アンモニアの初期消臭性が90%以上でありかつ家庭洗濯10洗後の消臭性が80%以上であり、黄色ブドウ球菌の初期菌数増減値差が2.2以上でありかつ家庭洗濯10洗後の菌数増減値差が2.2以上であり、滴下吸水性が10秒以下である。
【0013】
また、本発明は、消臭性繊維布帛の製造方法であって、
(1)1万以上の重量平均分子量を有するキトサンを揮発酸で溶解させながら、キトサンと、フラボノイド類及び/又は加水分解型タンニン類とからなる水溶液を作り、この水溶液を繊維布帛に付与する工程;そして
(2)熱処理によりキトサンを皮膜化させて、生地pHを6.0以上にする工程;
を含むことを特徴とする消臭性繊維布帛の製造方法である。
【0014】
また、本発明は、消臭性繊維布帛の製造方法であって、
(1)フラボノイド類及び/又は加水分解型タンニン類の水溶液を作り、この水溶液を繊維布帛に付与する工程;
(2)1万以上の重量平均分子量を有するキトサンを揮発酸で溶解させてキトサンの水溶液を作り、この水溶液を繊維布帛に付与する工程;そして
(3)熱処理によりキトサンを皮膜化させて、生地pHを6.0以上にする工程;
を含むことを特徴とする消臭性繊維布帛の製造方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の消臭性繊維布帛は、水不溶性の強固なキトサン皮膜でフラボノイド類及び/又は加水分解型タンニン類を担持することによって、これらの相乗効果で、汗消臭性に非常に優れ、かつ洗濯耐久性にも優れるという顕著な効果が得られる。また、本発明の消臭性繊維布帛は、架橋剤やバインダーを併用せず、肌に優しく安全性の高いキトサンの皮膜で繊維を覆っているため、肌に直接触れる衣料用途でも安心して使用することができる。さらに、汗消臭性に加えて、布帛に吸水性と保湿性及び抗菌性も同時に付与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の消臭性繊維布帛及びその製造方法を以下に具体的に説明する。
本発明の消臭性繊維布帛は、特定のキトサンと、フラボノイド類及び/又は加水分解型タンニン類とを含む高分子組成物からなる皮膜で被覆されてなる繊維を含むことを特徴とする。
【0017】
本発明で用いられるキトサンは、例えば、カニやエビ等の甲殻類から得られたキチンを脱アセチル化して得られるものを用いることができる。キチンはエビ、カニの甲羅をはじめとして、昆虫、貝、キノコに至るまで、極めて多くの生物に含まれている天然の素材であり、その構造はN−アセチル−D−グルコサミンが鎖状に多数(数百から数千)つながったアミノ多糖である。キチンをアルカリで処理するとアセチル基が除かれ、主としてD−グルコサミン単位からなるキトサンに変換される。1回のアルカリ処理により、D−グルコサミン単位の割合は70〜95%程度までになる。本発明におけるキトサンとはこのようなキトサンである。
【0018】
キトサンは、その分子量の違いによって物性、化学的性質、及び機能性が著しく異なるが、本発明では、1万以上の重量平均分子量を有するキトサンを使用する。キトサンの分子量は、好ましくは3万〜50万、より好ましくは3万〜30万である。上記範囲未満の低分子量キトサンでは水に容易に溶けて洗濯耐久性に優れる皮膜を作ることができず、上記範囲を超えるとキトサンを溶解したときの粘度が高すぎて加工に不適である。なお、本発明では、キトサンの重量平均分子量は、LC−10ADポンプ、Showdex RI detector,C−4AクロマトパックからなるGPC装置により測定され、カラムには、水系のTSK−GEL PWを、移動相には酢酸−酢酸ナトリウム緩衝溶液を用い、カラム温度40℃、流速0.6mm/minとする。
【0019】
キトサンの脱アセチル化度は、好ましくは70%以上、より好ましく80〜90%の範囲である。アセチル化度90%を超えるものでも問題なく用いることができるが、アセチル化度を上げるために工程が複雑になりコストアップの要因となる。なお、本発明では、脱アセチル化度は、0.5%酢酸水溶液にキトサンを0.5%濃度になるように溶解し、指示薬としてトルイジンブルー溶液を用い、ポリビニル硫酸カリウム水溶液でコロイド滴定して求められる。
【0020】
このようなキトサンは種々の分子量、脱アセチル化度のものが市販されており、これらの中から用途に応じて適宜選択して用いることができる。市販品としては、例えば、商品名「キトサンPSH−80」(焼津水産化学工業株式会社製)、商品名「ダイキトサン100D」(大日精化工業株式会社製)、商品名「ダイキトサンM」(大日精化工業株式会社製)、商品名「キミカキトサンS」(株式会社キミカ製)等が挙げられる。
【0021】
本発明で用いられるフラボノイド類は、天然に存在する有機化合物群で、フラバンの誘導体である。アントシアニンやカテキン類など、抗酸化力をもたらすフェノール部位を持ち、ポリフェノールにも分類されるフラボノイド類も多い。最近では、生理機能に関する研究の進展によって、フラボノイド類が抗酸化性、抗菌・抗ウィルス作用、抗変異原生、抗ガン性、血圧上昇抑制作用、抗アレルギー作用を有することもわかってきている。
【0022】
本発明で用いられるフラボノイド類は、例えば、下記の化学式(I)〜(X)で示される、[C−C−C]を基本構造とする一群の化合物をいう。化学式(I)〜(X)で示される化合物は、それぞれ順に、フラバン、フラバノン、フラボン、カルコン、フラバノール(カテキン)、フラバノール、フラボノール、オーロン、フラバン−3,4−ジオール、イソフラボンである。
【0023】
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】

【化5】

【化6】

【化7】

【化8】

【化9】

【化10】

【0024】
また、フラバンの誘導体を有効成分とするものであれば、本発明のフラボノイド類として使用することができる。例えば、フラバノール骨格を持つ化合物が重合した縮合型タンニン類が好適に用いられる。
【0025】
本発明で用いられる加水分解型タンニン類は、1個以上の没食子酸とグルコース等の糖がエステル結合した可溶性タンニンであり、前述のフラボノイド類とともに又はその代わりに使用される。加水分解型タンニン類は、フラボノイド類に属さないので縮合型タンニンとは明確に区別される。加水分解型タンニン類は、ピロガロールタンニン、没食子酸、及びm−ガロイル没食子酸からなる群から選択される少なくとも1種を含む植物抽出物、または合成タンニンであることができる。
【0026】
合成タンニンの例としては、フェノール、クレゾール、安息香酸、ナフトール、ビスフェノール等フェノール性水酸基を含むものを原料とするノボラック型あるいはレゾール型フェノール系合成タンニン、フェノール、o−クロルフェノール等のフェノール類と硫黄の加硫による縮合物を原料とするチオフェノール系合成タンニン、ジヒドロキシジフェニルスルホン系合成タンニン、ナフタリン系合成タンニン、スルホンアミド系合成タンニン、カルビジイミド系合成タンニン等を挙げることができる。これらのうち、カルボン酸アミドとヒドロキシアリルスルホンのメチレン環縮合物が好ましく用いられる。これらの合成タンニンはそれぞれ単独でまたは任意の割合の混合物として使用できる。
【0027】
本発明で用いられるフラボノイド類及び/又は加水分解型タンニン類は、これらを含む天然の植物抽出物を使用することができる。植物抽出物の例としては、カキタンニンや茶カテキン、赤ワインのポリフェノール等が代表される。カキタンニンはカテキン類のうちエピカテキン、カテキンガレート、エピガロカテキン、ガロカテキンガレートが1:1:2:2の比率で12〜30分子縮合した分子量15,000程度に達する高分子化合物である。茶葉に含まれるタンニンとしては、エピカテキン、エピガロカテキンなどのカテキン類とその没食子酸エステル誘導体が良く知られている。
【0028】
フラボノイド類及び/又は加水分解型タンニン類の繊維布帛への付着量としては、繊維布帛中に0.1〜20%owf(on the weight of fablic)、好ましくは1〜10%owf含有されているのがよい。上記範囲未満では、十分な消臭性を得ることができず、上記範囲を超えると、繊維布帛の着色が強くなったり、風合が硬くなって好ましくない。
【0029】
本発明における繊維布帛とは、織物や編物や不織布のような布帛状のものである。使用される繊維としては、木綿、麻、ビスコースレーヨン、溶剤紡糸セルロース等のセルロース系繊維、羊毛や絹等の動物性繊維、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、アクリル系繊維、ビニロン繊維、ポリ乳酸繊維等の合成繊維等が挙げられる。これらの繊維は混紡、合撚、交織、交編等の手段で混用されていてもよい。
【0030】
次に、本発明の消臭性繊維布帛の製造方法を説明する。本発明の消臭性布帛は、(A)キトサンとフラボノイド類及び/又は加水分解型タンニン類とを含む高分子組成物を同時に繊維布帛に付与した後、熱処理によりキトサンを皮膜化させる方法、又は(B)フラボノイド類及び/又は加水分解型タンニン類を含む高分子組成物をまず繊維布帛に付与し、次にキトサンを繊維布帛に付与し、その後、熱処理によりキトサンを皮膜化させる方法によって製造することができる。
【0031】
(A)の製造方法では、まず1万以上の重量平均分子量を有するキトサンを揮発酸で溶解させながら、キトサンと、フラボノイド類及び/又は加水分解型タンニン類とを含む高分子組成物からなる水溶液(処方液)を調製する。これは、例えばキトサンを、キトサンの50〜100倍量の常温水に分散させて、揮発性の有機酸(例えば酢酸や蟻酸)でpH3以下に調整して攪拌することで水に溶解させ、そこにフラボノイド類及び/又は加水分解型タンニン類を添加して溶解させることによって行うことができる。フラボノイド類及び/又は加水分解型タンニン類の添加時期は、キトサンの後である必要はなく、キトサンより前に又はキトサンと同時に水に添加してもよい。なお、実際は、キトサンを最初から50〜100倍量の水に溶解させるのではなく、約20倍量の水に溶解させて粘調な元液を調製しておき、繊維布帛に加工する加工液を作製する際、この元液から必要量を加工液に添加することが好都合である。キトサンはpH6を超えると不溶性となるため、処方液を作製する際に、pH6未満の範囲に維持する必要がある。なお、本発明の加工と他の機能加工を併用することは何ら問題ないが、他の機能加工が酸性域(pH3以下)での液安定性が悪い等の問題がある場合は、キトサン溶解後にpH調整剤を用いて、処方液のpHを3より大きく6未満の範囲で調整しても良い。その場合の調整剤としては、一般的に用いられているアルカリや塩でよく、例えば重曹や炭酸ソーダ等を用いることができる。
【0032】
次に、処方液を繊維布帛に付与した後、熱処理により乾燥させてキトサンを皮膜化させる。処方液の繊維布帛への付与方法は、浸漬法、噴霧法、ローラー法、パッドドライ法等の従来公知の方法を用いることができる。熱処理は、通常の熱風乾燥機、ドラム乾燥機等を用いて行い、水分を蒸発させると共に揮発酸を揮発させて除去して、強固なキトサン皮膜を繊維表面に形成し、フラボノイド類及び/又は加水分解型タンニン類を固定化させる。
【0033】
(B)の製造方法では、まず、フラボノイド類及び/又は加水分解型タンニン類を含む高分子組成物の水溶液を作り、この水溶液を繊維布帛に付与する。次に、(A)の製造方法で説明したのと同様の方法で1万以上の重量平均分子量を有するキトサンを揮発酸で溶解させてキトサンの水溶液を作り、この水溶液を繊維布帛に付与する。その後、(A)の製造方法と同様に、熱処理によりキトサンを皮膜化させる。なお、本発明では、フラボノイド類及び/又は加水分解型タンニン類をキトサンで繊維表面に担持するため、キトサンより後に処理するのはフラボノイド類及び/又は加水分解型タンニン類の洗濯耐久性の点から好ましくない。
【0034】
本発明の消臭性繊維布帛は、生地pHが加工上りで6.0以上であることを特徴とし、これにより洗濯耐久性を有する強固な皮膜にすることができる。生地pHは好ましくは6.0〜9.0の範囲で調整される。本発明において、加工上りの生地pHを6.0以上にする方法としては、例えば、キトサン溶解液を作る際に揮発酸を用いて、乾燥・キュアリング時に酸を放散させて、生地pHを中性付近に調整する方法が挙げられる。なお、本発明の繊維布帛のキトサンが、繰り返し洗濯の後も繊維基質に強固に固着されていることを確かめる簡単な方法として、ニンヒドリン反応により呈色反応でキトサンを紫色に着色させて確認する方法が挙げられる。
【0035】
上記のように作製された本発明の消臭性繊維布帛は、単に消臭性が良いだけでなく、30分程度の短時間での消臭力が高く即効性があり、かつ洗濯耐久性にも優れる。その消臭性能は、酢酸及びイソ吉草酸の初期の消臭性が30分後75%以上、2時間後80%以上でありかつ家庭洗濯10洗後の消臭性が2時間後70%以上であり、アンモニアの初期消臭性が30分後で80%以上、2時間後90%以上であり、かつ家庭洗濯10洗後の2時間後消臭性が80%以上である。また、黄色ブドウ球菌の菌数増減値差は、初期及び家庭洗濯10洗後のいずれも2.2以上である。更に、滴下吸水性が10秒以下と吸水性も高い。なお、本明細書で言及する初期とは未洗濯のことであり、家庭洗濯10洗後とは、以下の実施例の洗濯試験の欄で規定する条件で10回繰返し洗濯を行ったものをいう。
【実施例】
【0036】
次に、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。なお、実施例における加工繊維布帛の性能は以下の方法により評価した。
(1)洗濯試験
JIS−L−0217、103号に準拠して行った。洗剤は市販の中性洗剤(P&G製、商品名:モノゲンユニ)を使用した。乾燥方法はつり干しで行った。
【0037】
(2)滴下吸水性試験
JIS−L−1096 A法に準拠して行った。滴下吸水性は、吸水時間が短いほど吸水性が高いことを示す。
【0038】
(3)キトサンの検出方法
0.25%ニンヒドリンのホルマリン溶液(一級試薬)をスポイドで一滴(0.05cc)滴下して、滴下部に生蒸気を30秒吹き付けた後の紫色の呈色有無を判定する。(○:有り、×:なし)
【0039】
(4)抗菌性試験
JIS−L−1092(繊維製品の抗菌性試験方法・抗菌効果)の定量試験方法(菌液吸収法)に準拠して行った。培養後の菌数増減値差は混釈平板培養法(コロニー法)とした。
試験菌:黄色ブドウ状菌
培養温度:37°C
菌数増減値差=Mb−Mc 但しMc=0なら再試験する。
Mbは無加工布(又は標準布)の18時間培養後の3検体の生菌数の常用対数値の平均値であり、Mcは抗菌加工布の18時間培養後の3検体の生菌数の常用対数値の平均値である。因みに、繊維評価技術協議会(JAFET)の抗菌防臭基準では、菌数増減値差が2.2以上である場合に合格である。
【0040】
(5)各臭気の消臭率
所定濃度に調整した各ガスを個別に用意した(臭気濃度:アンモニア20ppm、酢酸15ppm、イソ吉草酸15ppm)。消臭性能容量5リットルのポリフッ化エチレン製の袋内に試料10.0gと所定の初期濃度の1種類のガスを注入して密閉し、密封直後(1分以内)、2時間後のガス濃度をGASTEC社製検知管により測定した。これらのガス濃度から以下の式により消臭率(%)を算出した。また、消臭の即効効果の指標として、30分の短い時間の消臭性も測定し、以下の式により消臭性(即効性)(%)を算出した。
消臭性(%)={(初期ガス濃度:ppm−2時間後のガス濃度:ppm)/初期ガス濃度:ppm}×100
消臭性(即効性)(%)={(初期ガス濃度:ppm−30分後のガス濃度:ppm)/初期ガス濃度:ppm}×100
【0041】
(6)生地pH
JIS−L1096.6.40に準拠し、抽出液のpHから生地のpHを求めた。
【0042】
実施例で使用したキトサン水溶液は、以下のようにして調製した。
粉体であるキトサンの必要量を別容器にとって、そこに50〜100倍の水を加えて攪拌しながらpH2.5〜3になるように酢酸を添加して、キトサンが溶解した粘調性のある水溶液を作成した。
【0043】
(実施例1)
ポリエチレンテレフタレートホモポリマーと艶消剤としてアナターゼ型二酸化チタン微粒子を0.5重量%混合させた後、公知の溶融紡糸法によって未延伸糸として巻取り、延伸処理を実施し、56デシテックス108フィラメントの丸断面のポリエステルフィラメント糸を得た。このフィラメントを用いて経密度189本/2.54cm、緯密度114本/2.54cmの平織物を製織し、織物を加工する一般的な条件で加工した。
【0044】
まず、オープンソーパーを用いて連続精練・脱水を行った後に、ピンテンターを用いてプレセット(190℃×60秒)行った。続いて、日阪製作所製の液流染色機サーキュラーNSを用いて、分散染料スミカロンスカーレットSE−3GL(住友化学製)で淡色に染色(130℃×30分)を行った。その後ショートループドライヤーで拡布乾燥を行った。
【0045】
脱アセチル化度85%で分子量25万のキトサンと68%酢酸を使用して、上述のようにしてキトサン水溶液を調製した。水浄洗中のキトサン濃度は0.3%であり、酢酸濃度は0.2%であった。そこに精製縮合型タンニン含有加工剤(タナテックスケミカルズジャパン製PRODUCT DEO)を5.0%の濃度になるように添加して処方1液を作成し、生地を処方1液に液付けしてマングルで絞り、ピンテンターで120℃×30秒で乾燥し、続いてピンテンターで熱処理(150℃×120秒)を行った。この処方液の絞り率は60%であった。
【0046】
得られた加工生地の生地pHは6.0で中性を示し、滴下吸水性が8秒と吸水性の良い生地であった。
【0047】
加工生地は10洗後でもニンヒドリン呈色反応で強く紫色に呈色し、キトサン皮膜の高い洗濯耐久性が確認された。この生地の性能を表1に示す。表1からわかるように、加工生地の消臭性はアンモニア臭が初期100%(10洗後で95%)と抜群の性能を示した。酢酸臭は初期95%(10洗後90%)、イソ吉草酸は初期95%(10洗後90%)と優れた性能を示した。抗菌性試験の菌数増減値差は初期3.0(10洗後2.6)であった。
【0048】
(実施例2)
綿100%の綿番手40番双糸を福原精機製丸編機(34“−22G)により編成糸長340mmの天竺編地を作成した。得られた編地の密度はインチ当たり27コース、32ウェールであった。この編地を常法により精練、漂白、シルケット加工を行い、拡布乾燥を行った。
【0049】
この繊維布帛を実施例1と同様にして加工を行った。但し、キトサンは脱アセチル化度90%、分子量4万のものを0.5%soln.で使用した。この生地の絞り率は80%であった。またマングルで絞った後、120℃×2分乾燥後、熱処理(150℃×120秒)を行った。仕上がった加工生地の生地pHは6.1と中性を示し、編地密度はインチ当たりコース数31、ウェール数36であった。この生地の性能を表1に示す。
【0050】
(実施例3)
PRODUCT DEOに代えて松尾薬品産業(株)製の柿渋抽出液(主成分 柿タンニン)PANCIL FG−50を同量使用した以外は実施例2と同様に行った。この生地の性能を表1に示す。
【0051】
(実施例4)
PRODUCT DEOに代えて、柿渋抽出液PANCIL FG−50を2.5%soln.(付着量1.5%owf)使用し、更に太陽化学株式会社製の茶カテキン抽出物サンフェノン90Sを2.5%soln.(付着量1.5%owf)使用した以外は実施例1と同様に行った。この生地の性能を表1に示す。
【0052】
(比較例1)
精製縮合型タンニンを用いない以外は全て実施例1と同様に行った。この生地の性能を表1に示す。
【0053】
(比較例2)
キトサンを用いず、共栄社化学工業(株)製シリコーン・アクリルコポリマーの水溶性アクリルバインダーライトエポックS−60NFEを3%soln.用いた以外は実施例1と同様に行った。この生地の性能を表1に示す。
【0054】
(比較例3)
キトサンとして脱アセチル化度90%、分子量4万のものを0.5%soln.で使用し、キトサンを溶解する酸として不揮発酸である塩酸を用いた以外は実施例1と同様に行った。得られた加工生地の生地pHは5.1であった。この生地の性能を表1に示す。
【0055】
(比較例4)
キトサンとして、pH7以上でも水溶性である分子量800のオリゴキトサンを用い、酢酸を用いなかった以外は実施例1と同様に行った。この生地の性能を表1に示す。
【0056】
(比較例5)
キトサンの代わりに水溶性アクリルバインダーS−60NFEを用い、また精製縮合型タンニンの代わりに消臭剤として油脂工業(株)製ライオナイトPC541S(光触媒:アナターゼ型酸化チタン)を用いた以外は実施例2と同様に行った。この生地の性能を表1に示す。
【0057】
(比較例6)
実施例2のシルケット加工後の拡布乾燥上りの生地に消臭加工を行わず、150℃で熱セットのみ行った。この生地の性能を表1に示す。
【0058】
(比較例7)
実施例1の染色上りの生地に消臭加工を行わず、水に浸漬してマングルで絞ってピンテンターで乾燥(150℃×120秒)した。この生地の性能を表1に示す。
【0059】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の繊維布帛は、繊維基質上にキトサンを強く固定し、更に強固なキトサン皮膜にフラボノイド類及び/又は加水分解型タンニン類を担持させているので、複合臭の汗臭に対して極めて有効な消臭効果を有する。また、キトサンの強固な皮膜は、洗濯耐久性にも優れるので、汗臭に対する消臭効果を持続させることができる。従って、本発明の繊維布帛は、持続的で高い汗消臭性が求められる繊維製品に極めて有効である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子組成物からなる皮膜で被覆されてなる繊維を含む消臭性繊維布帛であって、高分子組成物が、(a)1万以上の重量平均分子量を有するキトサンと、(b)フラボノイド類及び/又は加水分解型タンニン類とを含み、かつ生地pHが6.0以上であることを特徴とする消臭性繊維布帛。
【請求項2】
フラボノイド類が、縮合型タンニンを含む植物抽出物であることを特徴とする請求項1に記載の消臭性繊維布帛。
【請求項3】
加水分解型タンニン類が、ピロガロールタンニン、没食子酸、及びm−ガロイル没食子酸からなる群から選択される少なくとも1種を含む植物抽出物、または合成タンニンであることを特徴とする請求項1に記載の消臭性繊維布帛。
【請求項4】
加水分解型タンニン類がカルボン酸アミドとヒドロキシアリルスルホンのメチレン環縮合物であることを特徴とする請求項1に記載の消臭性繊維布帛。
【請求項5】
酢酸及びイソ吉草酸の初期消臭性が80%以上でありかつ家庭洗濯10洗後の消臭性が70%以上であり、アンモニアの初期消臭性が90%以上でありかつ家庭洗濯10洗後の消臭性が80%以上であり、黄色ブドウ球菌の初期菌数増減値差が2.2以上でありかつ家庭洗濯10洗後の菌数増減値差が2.2以上であり、滴下吸水性が10秒以下である請求項1〜4のいずれか1項に記載の消臭性繊維布帛。
【請求項6】
消臭性繊維布帛の製造方法であって、
(1)1万以上の重量平均分子量を有するキトサンを揮発酸で溶解させながら、キトサンと、フラボノイド類及び/又は加水分解型タンニン類とからなる水溶液を作り、この水溶液を繊維布帛に付与する工程;そして
(2)熱処理によりキトサンを皮膜化させて、生地pHを6.0以上にする工程;
を含むことを特徴とする消臭性繊維布帛の製造方法。
【請求項7】
消臭性繊維布帛の製造方法であって、
(1)フラボノイド類及び/又は加水分解型タンニン類の水溶液を作り、この水溶液を繊維布帛に付与する工程;
(2)1万以上の重量平均分子量を有するキトサンを揮発酸で溶解させてキトサンの水溶液を作り、この水溶液を繊維布帛に付与する工程;そして
(3)熱処理によりキトサンを皮膜化させて、生地pHを6.0以上にする工程;
を含むことを特徴とする消臭性繊維布帛の製造方法。

【公開番号】特開2010−150684(P2010−150684A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−328099(P2008−328099)
【出願日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(508179545)東洋紡スペシャルティズトレーディング株式会社 (51)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】