説明

消臭組成物および消臭方法

【課題】本発明は、悪臭の原因となる不飽和アルデヒド化合物を化学的に変換することにより不活性化し、悪臭を低減することができる消臭組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明に係る消臭組成物は、下記式(1)で表される塩基性アミノ酸またはその塩を含有することを特徴とする。


[式中、Xは、メチレン、エチレン、トリメチレン、テトラメチレン、またはこれら基における何れかの−CH2−基が−O−もしくは−S−で置換されている基を示す]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消臭組成物、および消臭方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
trans−2−ノネナール(以下、単に「ノネナール」という)は、いわゆる加齢臭の原因化合物の一つである。また、2−オクテナールや2−ヘキセナールも加齢臭の原因であるといわれている。この2−ヘキセナールは、カメムシが発する悪臭成分である。さらにノナジエナールは、足や履きふるした靴下の悪臭の原因物質の一つであるといわれている。このように不飽和アルデヒド化合物は、悪臭の原因となることが知られている。
【0003】
ヒトの嗅覚は臭いの変化に対して非常に敏感であり、上記不飽和アルデヒド化合物に限られず、悪臭化合物がわずかでも存在すると悪臭と認識し、不快感を覚える。よって、悪臭化合物を低減して悪臭を抑制するための技術につき研究が進められている。
【0004】
例えば、活性炭やゼオライトなどの多孔質物質により空気中の悪臭物質を吸着除去する技術や、シクロデキストリンにより悪臭物質を包接する技術が知られている。また、Ag+などの金属イオンやミョウバンには、消臭効果があるといわれている。さらに、香料により悪臭に対する感応性を和らげるということも行われている。
【0005】
通常、消臭製品では、複数の消臭手段が組合わされている。例えば特許文献1に記載の水性芳香剤組成物は、金属イオンと共に香料を含んでおり、ゼオライトなどの多孔質物質を含んでいてもよいとされている。
【0006】
しかし、従来技術には何らかの欠点がある。例えば、ゼオライトなどの多孔質物質は溶媒に溶解できないので、噴霧剤に添加することが難しく、また、悪臭物質を吸着除去するものであることから悪臭が消失するまで時間がかかる。また、一般的に金属イオンは有害であり、ヒトに作用させると肌荒れを起こしたり、環境に悪影響を及ぼすおそれもある。さらに、シクロデキストリンやミョウバンの消臭効果は十分ではない。
【0007】
その他、特許文献2には、縮合型カキタンニンを含む消臭剤が記載されている。しかし、カキタンニンは柿の実から抽出する必要があり、その手間に加え、季節によっては原材料である柿の実が入手できず、製造が困難になる場合がある。
【0008】
また、特許文献3には、ナフタレンスルホン酸を必須成分とし、緩衝作用を有する酸を含んでいてもよい消臭剤組成物が開示されている。かかる酸としてはアミノ酸が挙げられているが、具体的に例示されているのはグリシンやアラニンなどであり、リジンは添加成分として記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−130083号公報
【特許文献2】特開2001−302483号公報
【特許文献3】特開2008−148907号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述したように、従来、不飽和アルデヒド化合物を原因とする悪臭を抑制する手段としては様々なものが知られていた。
【0011】
しかし、不飽和アルデヒド化合物を吸着したり酸化するものであるなど、悪臭が感じられなくなるまで時間がかかるものが多かった。それに対して、不飽和アルデヒド化合物を速やかに化学変換して不揮発化すれば、悪臭を顕著かつ迅速に低減できると考えられる。
【0012】
そこで本発明は、悪臭の原因となる不飽和アルデヒド化合物を速やかに化学変換することにより不揮発化し、悪臭を低減することができる消臭組成物と、当該消臭組成物を利用する消臭方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、リジン等の塩基性アミノ酸が不飽和アルデヒド化合物と速やかにイミン化合物を形成して不揮発化し、さらにオリゴマー化することにより悪臭を顕著に低減できることを見出し、本発明を完成した。なお、本発明に係る塩基性アミノ酸は、不飽和アルデヒド化合物をその重合体に導き、不活性化するものと考えられる。
【0014】
本発明に係る消臭組成物は、下記式(1)で表される塩基性アミノ酸またはその塩を含有することを特徴とする。
【0015】
【化1】

[式中、Xは、メチレン、エチレン、トリメチレン、テトラメチレン、またはこれら基における何れかの−CH2−基が−O−もしくは−S−で置換されている基を示す]
【0016】
本発明の消臭組成物としては、さらに、水、または水とエタノールとの混合溶媒を含むものが好適である。一般的に、悪臭の原因となる不飽和アルデヒド化合物は比較的低分子であり且つ極性が高いために水溶性を示すことから、水やエタノールを含む組成物は不飽和アルデヒド化合物を吸収し、上記塩基性アミノ酸(1)による不活性化をさらに促進すると考えられる。さらに、水やエタノールを含む液状の組成物は、噴霧剤とすることができる。
【0017】
その他、本発明の消臭組成物としては、粉末状の塩基性アミノ酸(1)またはその塩を含むものや、軟膏基剤を含むものとすることができる。本発明に係る塩基性アミノ酸(1)等は、固体の粉末であっても消臭効果を発揮できることが実証されており、例えば、設置型の消臭剤とすることが可能である。また、本発明の消臭組成物は軟膏剤としても消臭効果を示し、本発明に係る塩基性アミノ酸(1)等は安全性に優れることから、人体に塗布することも可能である。
【0018】
本発明に係る消臭方法は、悪臭の原因となる不飽和アルデヒド化合物と、請求項1〜4のいずれかに記載の消臭組成物とを接触させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明の消臭組成物は、悪臭の原因となる不飽和アルデヒド化合物を速やかに化学変換して不揮発化し、悪臭を顕著に低減することができる。また、本発明の有効成分である塩基性アミノ酸は、天然のアミノ酸およびその誘導体であることから極めて安全性に優れ、金属イオンなどとは異なり、ヒトや環境に悪影響を及ぼすおそれもない。従って、本発明に係る消臭組成物は、安全性と消臭効果に極めて優れたものである。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、固体粉末状の本発明組成物のノネナールに対する消臭効果を示す円グラフである。
【図2】図2は、液状の本発明組成物のノネナールに対する消臭効果を示す円グラフである。
【図3】図3は、軟膏剤である本発明組成物のノネナールに対する消臭効果を示す円グラフである。
【図4】図4は、液状の本発明組成物のヘキセナールに対する消臭効果を示す円グラフである。
【図5】図5は、液状の本発明組成物のノナジエナールに対する消臭効果を示す円グラフである。
【図6】図6は、ノネナール、ノネナールの二量体、およびノネナールから誘導される高極性化合物の混合物の悪臭作用を比較するための円グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明に係る消臭組成物の有効成分である塩基性アミノ酸は、下記式(1)で表されるものである。
【0022】
【化2】

[式中、Xは、メチレン、エチレン、トリメチレン、テトラメチレン、またはこれら基における何れかの−CH2−基が−O−もしくは−S−で置換されている基を示す]
【0023】
Xがエチレンである塩基性アミノ酸(1)はオルニチンであり、Xがトリメチレンである塩基性アミノ酸(1)はリジンであって、いずれも天然アミノ酸であり、容易に入手することができる。また、その他の塩基性アミノ酸(1)も比較的シンプルな構造を有することから、当業者であれば公知化合物から容易に合成することができる。
【0024】
本発明者らによる知見によれば、重合反応とは別の反応ではあるが、不飽和アルデヒド化合物を基質とする反応において、Xがテトラメチレンである塩基性アミノ酸(1)や、何れかの−CH2−基が−S−で置換されている塩基性アミノ酸(1)の触媒能を評価したところ、リジンと同様の触媒効果が得られた。一方、リジンとアラニンからジペプチドを合成してその触媒能を評価したが、その触媒効果は大きく低下した。その原因は、末端カルボキシ基と末端アミノ基との距離が大きくなったことによると考えている。よって、上記一般式(1)に含まれる化合物であれば、本発明においても、リジンと同様の作用効果を発揮できると考えられる。
【0025】
塩基性アミノ酸(1)は、塩であってもよい。当該塩を構成する酸は、特に制限されないが、例えば、塩酸、臭化水素酸、硫酸、リン酸などの無機酸や;酢酸、マロン酸、酒石酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、ギ酸、トルエンスルホン酸塩、トリフルオロ酢酸などの有機酸を用いることができる。但しこの場合には、酸を中和するために、等モルの塩基を加えることが好ましい。かかる塩基としては、炭酸カリウムや炭酸ナトリウム;炭酸水素カリウムや炭酸水素ナトリウムなどを挙げることができる。
【0026】
塩基性アミノ酸(1)は不斉炭素を有するので、光学異性体が存在する。本発明方法ではD体とL体或いはラセミ体の何れも用いることができるが、光学活性体を用いれば、不飽和アルデヒド化合物の悪臭をより一層効率的に低減できる可能性があり得る。
【0027】
本発明に係る消臭組成物は、塩基性アミノ酸(1)を含むものであればその剤形は特に制限されない。剤形としては、例えば、噴霧剤、化粧水、乳液などの液状剤;軟膏剤;硬膏剤;粉末剤、散剤、顆粒剤などを挙げることができる。
【0028】
本発明の消臭組成物を液状剤とする場合、溶媒としては水が好適である。悪臭を発する不飽和アルデヒド化合物は、一般的に比較的低分子であり且つ極性が高いために水溶性を示す。よって、水を含む組成物は不飽和アルデヒド化合物を吸収すると共に、不飽和アルデヒド化合物のオリゴマー化の溶媒となることから、塩基性アミノ酸による不揮発化をさらに促進すると考えられる。また、液状の消臭組成物は、噴霧剤として、空気中や人体に噴霧することにより、空気中の悪臭不飽和アルデヒドや、足や脇から発せられる悪臭飽和アルデヒドの消臭に用い得る。
【0029】
本発明で用いる水の種類は特に制限されず、蒸留水、純水、超純水、水道水などいずれも用いることができる。
【0030】
また、本発明の消臭組成物へは、水に加えて或いは水の代わりに有機溶媒を添加してもよい。かかる有機溶媒としては、例えば、メタノールやエタノールなどのアルコール;テトラヒドロフランなどのエーテル;アセトンなどのケトン;ジメチルホルムアミドやジメチルアセトアミドなどのアミドを挙げることができる。当該有機溶媒としては、アルコールが好ましく、エタノールがより好ましい。エタノールは水よりも揮発し易く、例えば、対象物へ噴霧した場合には乾燥を容易にし、また、ヒトへ噴霧した場合には爽快感を与える。また、エタノールの毒性は有機溶媒の中でも低く、安全に使用できる。
【0031】
但し、本発明に係る塩基性アミノ酸は有機溶媒に溶け難い場合があるので、有機溶媒を用いる場合には、水混和性有機溶媒と水との混合溶媒とすることが好ましい。この場合、本発明に係る塩基性アミノ酸を溶解するために、混合溶媒における水混和性有機溶媒の割合は、80v/v%以下が好ましく、70v/v%以下がより好ましく、50v/v%以下がより好ましく、40v/v%以下がさらに好ましい。一方、より揮発性の高い有機溶媒の性質を利用する観点からは、水混和性有機溶媒の添加量を5v/v%以上とすることが好ましく、10v/v%以上とすることがより好ましく、20v/v%以上とすることがより好ましく、30v/v%以上とすることがより好ましく、50v/v%以上とすることがより好ましい。
【0032】
液状剤における塩基性アミノ酸(1)の配合量は特に制限されず、適宜調整すればよいが、例えば、0.1質量%以上、10質量%以下程度とすることができる。0.1質量%以上であれば、不飽和アルデヒド化合物の悪臭をより確実に低減することができる。また、かかる悪臭低減効果は、塩基性アミノ酸(1)の配合量が多いほど高まると考えられるが、通常、悪臭の原因となる不飽和アルデヒド化合物の量は極めてわずかであるため、配合量が10質量%程度であれば十分である。
【0033】
本発明に係る液状の消臭組成物には、液状剤へ一般的に配合される成分を添加してもよい。かかる添加成分としては、例えば、非イオン界面活性剤などの界面活性剤;エチレングリコールなどの保湿剤;パラオキシ安息香酸エステルなどの防腐剤;顔料;香料;pH調整剤;紫外線吸収剤;抗酸化剤;ビタミンCやビタミンEなどその他の薬効成分を挙げることができる。
【0034】
本発明に係る消臭組成物を軟膏剤とする場合には、上記液状剤において溶媒量を減らし且つ増粘剤を適量配合すればよい。かかる増粘剤としては、例えば、ポリエチレングリコール、キサンタンガム、流動パラフィン、ワセリン、プラスチベースなどを挙げることができる。
【0035】
本発明に係る消臭組成物を硬膏剤とする場合には、ゲル状の消臭組成物を基材に適量塗布すればよい。
【0036】
本発明者らの実験的知見によれば、本発明に係る塩基性アミノ酸(1)等は、固体状でも不飽和アルデヒドの悪臭を低減することが可能である。但し、不飽和アルデヒドとの接触面積を大きくして効果をより一層高めるために、塩基性アミノ酸(1)等を固体状で利用する場合には、粉末状や顆粒状にすることが好ましい。その場合の粒径は、適宜調整すればよい。
【0037】
本発明に係る消臭組成物の使用方法、即ち、不飽和アルデヒドによる悪臭の消臭方法では、悪臭の原因となる不飽和アルデヒド化合物と、本発明に係る消臭組成物とを接触させればよい。その具体的な方法は、その剤形などに応じて適宜選択することができる。例えば、首筋、脇の下、足の裏といった、不飽和アルデヒドを発すると考えられる部位に噴霧や塗布したり、貼り付けるといったことが考えられる。また、液状剤であれば、枕や布団、衣服、悪臭を発する昆虫などへ噴霧することも可能である。また、液状剤へ繊維や布を含浸した上で乾燥し、衣服などの素材として使うこともできる。その他、本発明に係る塩基性アミノ酸(1)等を粒状や顆粒状などにした上で、設置型の消臭剤として利用することも可能である。
【0038】
本発明に係る消臭組成物であれば、悪臭の原因となる不飽和アルデヒド化合物を化学的に分解し、その量を絶対的に低減することにより悪臭を抑制することが可能となる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0040】
実施例1 粉末結晶状リジンによる消臭試験
ノネナールの0.0045mol/Lジエチルエーテル溶液(20μL)を、2つの50mL容ナスフラスコにそれぞれ入れ、ドライヤーで加熱してジエチルエーテルを蒸発させた。当該50mL容ナスフラスコ中にはノネナールが15×10-6mL存在していることになるので、ノネナールの濃度は0.3ppmに相当する。次いで、一方のナスフラスコに粉末結晶状のリジン(25.4mg)を加えた。両ナスフラスコを密栓した上で、常温で10分間静置した。その後、栓を外し、20〜24歳の男性10名、女性1名からなる11名に臭いを嗅いでもらい、下記基準に従って悪臭を5段階で評価した。
評価4: かなり臭い(4ポイント)
評価3: 臭い(3ポイント)
評価2: 少し臭い(2ポイント)
評価1: ほとんど臭わない(1ポイント)
評価0: 全く臭わない(0ポイント)
【0041】
各評価の人数と評価ポイントの平均値を表1に、また、得られた結果の円グラフを図1に示す。図1中、(1)は粉末結晶状リジンで処理した場合の結果を示し、(2)は未処理の場合の結果を示す。
【0042】
【表1】

【0043】
上記結果のとおり、特定のリジンなど特定の塩基性アミノ酸を用いれば、たとえ固体状のままであっても、ノネナールなどの不飽和アルデヒドの悪臭を顕著に低減できることが明らかとなった。
【0044】
実施例2 リジン水溶液による消臭試験
リジン(74.1mg,0.507mmol)、水(1.0mL)およびノネナール(72.2mg,0.515mmol)を10mLフラスコに順次加え、室温で1時間攪拌した。当該溶液を100μL量り取り、水(3.4mL)を加えて攪拌し、ノネナールの濃度を0.2w/w%とした。別途、対照サンプルとして、ノネナール(4.8mg)をメタノール(3mL)に溶解し、0.2w/w%溶液を調製した。各サンプルを短冊状濾紙に浸し、21〜23歳の男性8名に臭いを嗅いでもらい、上記実施例1と同様の基準に従って悪臭を5段階で評価した。各評価の人数と評価ポイントの平均値を表2に、また、得られた結果の円グラフを図2に示す。図2中、(1)はリジン水溶液で処理した場合の結果を示し、(2)は未処理の場合の結果を示す。
【0045】
【表2】

【0046】
上記結果のとおり、特定のリジンなど特定の塩基性アミノ酸の溶液を用いれば、ノネナールなどの不飽和アルデヒドの悪臭を顕著に低減できることが明らかとなった。
【0047】
実施例3 リジン含有軟膏剤による消臭試験
ノネナールの0.0045mol/Lジエチルエーテル溶液(20μL)を、2つの50mL容ナスフラスコにそれぞれ入れ、ドライヤーで加熱してジエチルエーテルを蒸発させることにより、0.3ppmに相当するサンプルを調製した。別途、メノウ乳鉢を用い、リジン(434.8mg,2.974mmol)とワセリン(730.0mg)を均一混合し、リジン含有軟膏剤を得た。当該リジン含有軟膏剤(311.3mg)を、一方のナスフラスコの底に薄く塗った。両ナスフラスコを密栓した上で、常温で10分間静置した。その後、栓を外し、22〜24歳の男性6名に臭いを嗅いでもらい、上記実施例1と同様の基準に従って悪臭を5段階で評価した。各評価の人数と評価ポイントの平均値を表3に、また、得られた結果の円グラフを図3に示す。図3中、(1)はリジン含有軟膏剤で処理した場合の結果を示し、(2)は未処理の場合の結果を示す。
【0048】
【表3】

【0049】
上記結果のとおり、特定のリジンなど特定の塩基性アミノ酸を含む軟膏剤でも、ノネナールなどの不飽和アルデヒドの悪臭を顕著に低減できることが明らかとなった。
【0050】
実施例4 リジン水溶液による消臭試験
カメムシの悪臭成分といわれているヘキセナールに対する消臭効果についても確認した。リジン(75.3mg,0.515mmol)、水(1.0mL)およびヘキセナール(51.1mg,0.520mmol)を10mLフラスコに順次加え、室温で1時間攪拌した。当該溶液を100μL量り取り、水(6.2mL)を加えて攪拌し、ノネナールの濃度を0.1w/w%とした。別途、対照サンプルとして、ヘキセナール(5.0mg)をメタノール(6.2mL)に溶解し、0.1w/w%溶液を調製した。各サンプルを短冊状濾紙に浸し、22〜23歳の男性6名に臭いを嗅いでもらい、上記実施例1と同様の基準に従って悪臭を5段階で評価した。各評価の人数と評価ポイントの平均値を表4に、また、得られた結果の円グラフを図4に示す。図4中、(1)はリジン水溶液で処理した場合の結果を示し、(2)は未処理の場合の結果を示す。
【0051】
【表4】

【0052】
上記結果のとおり、特定のリジンなど特定の塩基性アミノ酸を用いれば、カメムシの悪臭成分といわれているヘキセナールなどの不飽和アルデヒドの悪臭も顕著に低減できることが明らかとなった。
【0053】
実施例5 リジン水溶液による消臭試験
足の悪臭成分の一つとされているノナジエナールに対する消臭効果についても確認した。リジン(147.1mg,1.01mmol)、水(2.0mL)およびノナジエナール(69.7mg,0.50mmol)を10mLフラスコに順次加え、室温で1時間攪拌した。当該溶液を100μL量り取り、メタノール(2.1mL)を加えて攪拌し、ノナジエナールの濃度を0.2w/w%とした。別途、対照サンプルとして、ノナジエナール(7.0mg)をメタノール(4.4mL)に溶解し、0.2w/w%溶液を調製した。各サンプルを短冊状濾紙に浸し、22〜24歳の男性5名に臭いを嗅いでもらい、上記実施例1と同様の基準に従って悪臭を5段階で評価した。各評価の人数と評価ポイントの平均値を表5に、また、得られた結果の円グラフを図5に示す。図5中、(1)はリジン水溶液で処理した場合の結果を示し、(2)は未処理の場合の結果を示す。
【0054】
【表5】

【0055】
上記結果のとおり、特定のリジンなど特定の塩基性アミノ酸を用いれば、足の悪臭成分といわれているノナジエナールなどの不飽和アルデヒドの悪臭も顕著に低減できることが明らかとなった。
【0056】
実施例6 リジンによるノネナールの消臭機構の検討
(1) 粉末リジンとノネナールの反応
100mL容の三角フラスコにノネナール(141.3mg,1.01mmol)を加え、続いて結晶粉末状のリジン(733.6mg,5.02mmol)を加えた。室温で1時間放置後、クロロホルムと水を加えて分液し、さらに有機層を飽和食塩水で洗浄した。有機層を減圧濃縮し、残渣にヘキサンを加え、よく振り混ぜた。不溶成分を分離し、溶液を減圧濃縮した。残渣を1H−NMRで分析したところ、ノネナール(7.4mg,当初ノネナールの5質量%)が含まれていた。また、不溶成分を1H−NMRで分析したところ、高極性化合物の混合物(161.2mg,当初ノネナールの114質量%)を含んでいた。
【0057】
(2) リジン水溶液とノネナールの反応
リジン(149.6mg,1.02mmol)を水(2.0mL)に溶解した溶液にノネナール(140.6mg,1.00mmol)を加え、室温で1時間攪拌した。当該反応液にクロロホルムと水を加えて分液し、有機層をさらに飽和食塩水で洗浄した。有機層を減圧濃縮した後、残渣を少量のクロロホルムに溶解した。当該溶液をフラッシュカラムクロマトグラフィ(溶離溶媒:酢酸エチル/ヘキサン=1/15)に付したところ、ノネナールの二量体(9.0mg,当初ノネナールの7質量%)が得られた。さらに溶離溶媒をメタノールに変更することにより、高極性化合物の混合物(147.3mg,当初ノネナールの105質量%)が得られた。
【0058】
(3) リジン含有軟膏剤とノネナールの反応
メノウ乳鉢を用い、リジン(734mg,5.02mmol)とワセリン(1223mg,1.5mL)を均一混合し、リジン含有軟膏剤を得た。当該リジン含有軟膏剤をシャーレに移し、薄く延ばした。その上にノネナール(141.3mg,1.01mmol)を垂らし、蓋をして35℃で1時間静置した。その後、シャーレにクロロホルムを加えてよく振り混ぜて得られた溶液を分液ロートに写し、さらに飽和食塩水を加えて分液した。有機層を減圧濃縮し、得られた残渣をフラッシュカラムクロマトグラフィ(溶離溶媒:酢酸エチル/ヘキサン=1/20)に付したところ、ノネナールとその二量体の混合物(20.1mg)が得られた。当該混合物を1H−NMRで分析したところ、ノネナール(18.5mg,当初ノネナールの13質量%)とノネナール二量体(1.6mg,当初ノネナールの1質量%)が含まれていることが分かった。さらに溶離溶媒をメタノールに変更することにより、高極性化合物の混合物(118.3mg,当初ノネナールの84質量%)が得られた。
【0059】
(4) 臭気試験
上記実施例6(1)〜(3)で得られたノネナール二量体と高極性化合物をメタノールに溶解し、0.2w/w%とした。対照として、ノネナールの0.2w/w%メタノール溶液も調製した。各サンプルを短冊状濾紙に浸し、22〜23歳の男性7名に臭いを嗅いでもらい、上記実施例1と同様の基準に従って悪臭を5段階で評価した。各評価の人数と評価ポイントの平均値を表6に、また、得られた結果の円グラフを図6に示す。図6中、(1)はノネナール溶液の結果を示し、(2)はノネナール二量体の結果を示し、(3)は高極性化合物混合物の結果を示す。
【0060】
【表6】

【0061】
(5) 結果の考察
上記(1)〜(3)のとおり、固体状リジンを用いた場合、リジン溶液を用いた場合、およびリジン含有軟膏剤を用いた場合のいずれでも、短時間でノネナールが消失または顕著に低減されており、また、わずかにノネナール二量体が生成している他は、高極性化合物の混合物が多く生じていることが分かった。
【0062】
これらの臭気に関しては、ノネナールが強力な臭気を放ち、その二量体では低減はされているもののなお臭気を有するのに対して、高極性化合物混合物ではほぼ無臭であった。人の臭覚は臭いの変化に敏感であり、わずかなノネナールやその二量体により臭気を感じると考えられるところ、上記実施例6(4)における二量体の結果よりも、上記実施例1〜5におけるリジン処理の結果の臭気は明らかに少ない。その理由としては、リジンがノネナールやその二量体と速やかに反応して不揮発性となることが考えられる。実際、ノネナールとリジンの水溶液からは、マススペクトル(FAB−MS)により、リジンによる反応誘導体の存在が確認できている。なお、上記実施例6(1)〜(3)で臭気物質であるノネナールが少量回収されるのは、抽出時にイミンが加水分解されてノネナールが生成するためであると考えられる。
【0063】
以上の結果より、悪臭の原因となるアルデヒドやそのオリゴマーが、本発明に係る塩基性アミノ酸またはその塩と反応してイミンを形成し、当該イミン同士または当該イミンとアルデヒド等とが縮合反応を繰り返し、より高分子の高極性化合物に変化することにより、臭気が顕著に低減されると考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される塩基性アミノ酸またはその塩を含有することを特徴とする消臭組成物。
【化1】

[式中、Xは、メチレン、エチレン、トリメチレン、テトラメチレン、またはこれら基における何れかの−CH2−基が−O−もしくは−S−で置換されている基を示す]
【請求項2】
さらに、水、または水とエタノールとの混合溶媒を含む請求項1に記載の消臭組成物。
【請求項3】
粉末状の塩基性アミノ酸(1)またはその塩を含む請求項1に記載の消臭組成物。
【請求項4】
さらに軟膏基剤を含む請求項1に記載の消臭組成物。
【請求項5】
悪臭の原因となる不飽和アルデヒド化合物と、請求項1〜4のいずれかに記載の消臭組成物とを接触させることを特徴とする消臭方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−156227(P2011−156227A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−21536(P2010−21536)
【出願日】平成22年2月2日(2010.2.2)
【出願人】(504147254)国立大学法人愛媛大学 (214)
【Fターム(参考)】