説明

消臭組成物

【課題】口臭予防のため、唾液中における硫化水素及びメチルメルカプタンの産出を抑制すること。そのためには、特にFusobacterium nucleatumやPorphyromonas gingivalisに対する抗菌作用、Fusobacterium nucleatumやPorphyromonas gingivalisに対する代謝阻害作用を有する物質を発見することが望ましい。さらには、そのような口臭抑制効果を有する物質として、望ましくは体内に摂取しても安全性に問題のない物質であることが望ましい。
【解決手段】あした葉の葉又は茎からの抽出物を有効成分とする口腔用組成物。あした葉抽出物としては、あした葉黄汁を使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
近年、口臭への関心が高まっている。口臭の原因物質としては硫化水素やメチルメルカプタン等の揮発性硫黄化合物(VSC)が知られている。口腔内からより多く検出されるのは硫化水素だが、メチルメルカプタンは少量でも強い悪臭を持つ。そのため、これらの物質の産出量を抑制することが口臭を予防する上で重要となる。
【0002】
VSCは、脱落した粘膜上皮細胞、血清中のタンパク質、食物の残渣及び食物中の含硫アミノ酸などを基質とした口腔内の嫌気性細菌の代謝によって産出される。このような嫌気性細菌としてはFusobacterium nucleatum及びPorphyromonas gingivalisが知られており、これらの細菌は硫化水素産生酵素によってシステインから硫化水素を、メチオニナーゼによってメチオニンからメチルメルカプタンを産出する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
口臭の抑制には唾液中における硫化水素及びメチルメルカプタンの産出を抑制することが重要であり、これは、特にFusobacterium nucleatum及びPorphyromonas gingivalisに対する抗菌作用、Fusobacterium nucleatum及びPorphyromonas gingivalisに対する代謝阻害作用、硫化水素産生酵素及びメチオニナーゼに対する酵素阻害作用、並びに硫化水素及びメチルメルカプタンへの直接作用(これらの物質の分解等)によって達成することができると考えられる。そのため、これらの作用を有する物質の発見が望まれる。また、そのような口臭抑制効果を有する物質としては、口腔内に摂取しての作用が望まれることから、体内に摂取しても安全性に問題のない物質であることが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0004】
発明者は上記課題に鑑みて鋭意研究した結果、あした葉の葉、茎又は根の抽出物に口臭抑制効果があることを見出し、もって本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、あした葉の葉、茎又は根の抽出物を有効成分とする口腔用組成物に関する。
【発明の効果】
【0005】
本発明の口腔用組成物によれば、唾液中の硫化水素及びメチルメルカプタンの産出を抑制し、口臭を予防することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】実施例1において産出された硫化水素の量を示すグラフ(唾液培養法による)。
【図2】実施例1において産出されたメチルメルカプタンの量を示すグラフ(唾液培養法による)。
【図3】実施例2において産出された硫化水素の量を示すグラフ(菌代謝阻害試験による)。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明は、あした葉の葉、茎又は根の抽出物を有効成分とする口腔用組成物に関する。
あした葉はセリ科シシウド属の多年生草本で、学名をAngelica keiskeiという。あした葉は、根、茎、葉に多量の黄色物質を含んでおり、その破切面から黄汁が滲出する。本発明において、あした葉抽出物にはこのあした葉黄汁も含まれる。この黄汁の主成分はカルコン類で、この中で特に多く含まれているのが「キサントアンゲロール」と「4-ヒドロキシデリシン」の2種類である。
【0008】
実施例に詳述するように、本発明者らは、あした葉抽出物には唾液中の悪臭物質である硫化水素及びメチルメルカプタンの産出量を抑制する効果があること、特にあした葉黄汁にはFusobacterium nucleatumに対する代謝阻害効果及び抗菌効果を有することを発見した。
【0009】
本発明の口腔用組成物は、好ましくは、有効成分としてあした葉抽出物を50重量%〜0.05重量%の割合で含有し、さらに好ましくは、10重量%〜0.1重量%の割合で含有する。
抽出条件としては、高温、室温又は低温のいずれかの温度で抽出することが可能であるが、エタノール等で1時間程度還流抽出するのが好ましい。得られた抽出物は、濾過し、抽出溶媒を留去した後、減圧下において濃縮または凍結乾燥してもよい。また、これらの抽出物を有機溶剤、カラムクロマトグラフィ等により分画精製したものも使用することができる。
また、本発明の口腔用組成物は、好ましくは、有効成分としてあした葉黄汁を50重量%〜0.05重量%の割合で含有し、さらに好ましくは、10重量%〜0.1重量%の割合で含有する。
また、本発明の口腔用組成物は、好ましくは、有効成分としてあした葉由来のカルコン類を5重量%〜0.005重量%の割合で含有し、さらに好ましくは、1重量%〜0.01重量%の割合で含有する。
【0010】
本発明の口腔用組成物によれば、唾液中の硫化水素及びメチルメルカプタンの産出を抑制し、口臭を予防することが可能になる。また、本発明の口腔用組成物はFusobacterium nucleatumに対する代謝阻害効果及び抗菌作用を有する。
また、本発明の消臭組成物は、安全性が高いことから、例えば、含そう剤、練り歯磨き、消臭スプレー等の消臭組成物、或いはチューインガム、キャンディ、錠菓、グミゼリー、チョコレート、ビスケット、スナック等の菓子、アイスクリーム、シャーベット、氷菓等の冷菓、飲料、パン、ホットケーキ、乳製品、ハム、ソーセージ等の畜肉製品類、カマボコ、チクワ等の魚肉製品、惣菜類、プリン、スープ並びにジャム等の飲食品に配合し、日常的に利用することが可能である。
【0011】
なお、あした葉抽出物以外の成分に関しても、上記に限定されることはなく、本発明は公知のいかなる成分をも任意に含有していてもよい。
本発明のあした葉抽出物を含有する口腔用組成物は、それぞれの技術分野において公知の任意の方法により製造することができる。その製造過程において、あした葉抽出物を公知のいかなる方法で添加してもよい。
なお、本発明のあした葉抽出物を含有する口腔用組成物は、ヒトだけでなく、ヒト以外の動物(以下、非ヒト動物と略す)に対しても使用することができる。非ヒト動物としては、ほ乳類、は虫類、両生類、魚類等、ヒト以外の動物をあげることができる。
また、本発明は従来より食品として利用されていたあした葉を使用しているため、体内に摂取してもその安全性については問題ない。
【0012】
以下に、実施例を用いて本発明についてさらに説明するが、これらの実施例はなんら本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0013】
試料について
以下の実施例で用いた以下の各試料は、すべて株式会社日本生物.科学研究所より入手した。
・あした葉黄汁:カルコン含量10.53%(キサントアンゲロール 66.3 mg/g, 4-ヒドロキシデリシン 39.0 mg/g)、あした葉の茎より採取した樹液
・あした葉ポリフェノール CHALSAP-P8(以下、単にCHALSAP-P8と記載する):あした葉エキス20-30%(総カルコン含量8%以上)、分岐サイクロデキストリン80-70%配合品。あした葉黄汁と分岐サイクロデキストリンを混合後、凍結乾燥させた粉末製剤。
・分岐サイクロデキストリン:CHALSAP-P8に使用しているもの
・4-ヒドロキシデリシン
・キサントアンゲロール
【0014】
[実施例1]唾液培養試験
1) 唾液の採取
各パネラーは、唾液採取0.5-1.0時間前より飲食・喫煙を禁止した。パラフィルムを咀嚼させて唾液を採取し、ボルテックスを十分行った後3名の唾液を等量混合した。
2) 試験方法
キャップ付試験管に、混合唾液1.0 ml、試験試料溶液(1%エタノール) 1.0mlを入れ、37℃で約20時間嫌気培養した。その後、氷冷し、37℃で20分間振とうした後、ヘッドスペースガスをFPD検出器付ガスクロマトグラフに注入し、得られたピークの高さから硫化水素およびメチルメルカプタン量を算出した。試験試料にはCHALSAP-P8(0.2mg/ml及び0.1mg/ml)、キサントアンゲロール(0.2mg/ml及び0.1mg/ml)、4-ヒドロキシデリシン(0.2mg/ml及び0.1mg/ml)を用い、対照には1%エタノールを使用した。
対照として試験試料を添加せずに同様の実験を行い、試料を添加した際の硫化水素及びメチルメルカプタン量( MS )と無添加時の硫化水素及びメチルメルカプタン量( MB )を求め、次式により阻害率を算出した。
阻害率(%)=( MB − MS )/ MB × 100
3) 結果
CHALSAP-P8(0.2mg/ml及び0.1mg/ml)、キサントアンゲロール(0.2mg/ml及び0.1mg/ml)、4-ヒドロキシデリシン(0.2mg/ml及び0.1mg/ml)において産生された硫化水素量を図1に、メチルメルカプタン量を図2に示す。また、それぞれの阻害率を表1に示す。CHALSAP-P8、キサントアンゲロール、4-ヒドロキシデリシンにより濃度依存的に唾液中のメチルメルカプタン及び硫化水素量が減少し、これらの物質の産生を阻害していることが確認された。
【0015】
【表1】

【0016】
[実施例2]菌代謝阻害試験
1) 試験方法
Fusobacterium nucleatum JCM8532を培養後、遠心し、菌体をPBSに懸濁させて、OD550 = 0.3とした。システイン2 mMと試験試料を含むPBS 1 mlに、菌懸濁液1 mlを加え、嫌気条件下37℃で90分間反応させた後、ヘッドスペース50 μlをFPD検出器付ガスクロマトグラフに注入し、得られたピーク高さより硫化水素量を求めた。試験試料にはあした葉黄汁1.0mg/mlを用いた。
対照として試験試料を添加せずに同様の実験を行い、阻害率を実施例1と同様にして算出した。
2) 結果
図3に産生された硫化水素量を示す。このときの硫化水素産出阻害率は30%だった。あした葉黄汁にFusobacterium nucleatumの代謝を阻害する効果があることが確認された。
【0017】
[実施例3]抗菌性試験
1) 試験方法
Fusobacterium nucleatum JCM8532を培養後、2倍濃度のTSB培地において希釈し試験菌液とした。96穴プレートに、試験試料を2倍段階希釈系列で調製し、そこに試験菌液を添加し、嫌気培養を行った。4日後、目視判定およびマイクロプレートリーダーにてOD660値の測定を行った。試験試料には、あした葉黄汁、CHALSAP-P8、分岐サイクロデキストリン、4-ヒドロキシデリシン及びキサントアンゲロールの量をそれぞれ1000ppmから15.625ppmまで2倍段階希釈していき、抗菌作用が見られるかを目視及び吸光度判定により判定した。その際、コントロールと比較してOD660値が同程度のもの、かつ目視で菌の発育が認められない濃度をMIC(最小発育阻止濃度)とした。
同様の方法で、口臭関連菌であるPorphyromonas gingivalis W83、Porphyromonas gingivalis FDC381及びPorphyromonas gingivalis ATCC33277に対するCHALSAP-P8の抗菌性試験を、3回繰り返して実施した。
2) 結果
分岐サイクロデキストリン以外でFusobacterium nucleatum JCM8532に対する抗菌効果が確認された。その際のMIC(最小発育阻止濃度)は、あした葉黄汁は125ppm、4-ヒドロキシデリシン、キサントアンゲロールおよびCHALSAP-P8は250ppmであった。
CHALSAP-P8のPorphyromonas gingivalisに対する抗菌効果も確認された。その際のMICは、Porphyromonas gingivalis W83に対しては31.25〜125ppm(1回目125ppm, 2回目62.5ppm, 3回目31.25ppm)、Porphyromonas gingivalis FDC381に対しては62.5〜125ppm(1回目125ppm, 2回目62.5ppm, 3回目62.5ppm)、Porphyromonas gingivalis ATCC33277に対しては31.25〜125ppm(1回目125ppm, 2回目31.25ppm, 3回目31.25ppm)であった。
【0018】
[実施例4]酵素阻害試験
1) 硫化水素産生酵素阻害試験
Fusobacterium nucleatum JCM8532菌体破砕液(0.3mg protein/ml)、30mM L-システイン、50μMピリドキサールリン酸、0.2Mリン酸緩衝液(pH7.5)および試料の混合液を、37℃で振とうした。1時間後、6%過塩素酸0.5 mlを加え反応を停止し、遠心分離(3,000×g、10分間、4℃)後、上清を回収した。上清0.4 mlに、MBTH反応溶液1.2 mlを添加し、50℃で30分間反応させた。反応液は酢酸ナトリウム緩衝液で3倍希釈し335 nmにて吸光度を測定し、ピルビン酸量を算出した。試験試料にはあした葉黄汁(濃度:1.0mg/ml)を用いた。
対照として試験試料を添加せずに同様の実験を行い、阻害率を実施例1と同様にして算出した。
2) メチオニナーゼ阻害試験
Fusobacterium nucleatum JCM8532菌体破砕液(0.3mg protein/ml)、30mM L-メチオニン、50μMピリドキサールリン酸、0.2Mリン酸緩衝液(pH7.5)および試料の混合液を、37℃で振とうした。1時間後、6%過塩素酸0.5 mlを加え反応を停止し、遠心分離(3,000×g、10分間、4℃)後、上清を回収した。上清0.4 mlに、MBTH反応溶液1.2 mlを添加し、50℃で30分間反応させた。反応液は酢酸ナトリウム緩衝液で3倍希釈し335 nmにて吸光度を測定し、α-ケト酪酸量を算出した。試験試料にはあした葉黄汁(濃度:1.0mg/ml)を用いた。
【0019】
対照として試験試料を添加せずに同様の実験を行い、阻害率を実施例1と同様にして算出した。
3) 結果
硫化水素産生酵素阻害試験の阻害率は8%、メチオニナーゼ阻害試験の阻害率は9%であり、あした葉黄汁に酵素活性阻害効果が認められた。
【0020】
[実施例5]
あした葉抽出物を用いて、以下の処方により、チューインガム、キャンディ、グミゼリー、トローチ、歯磨剤、洗口剤を製造した。
【0021】
(実施例5−1)
チューインガムの処方
キシリトール 45.0重量%
マルチトール 33.0
ガムベース 14.0
香料 1.0
あした葉黄汁 0.2
その他 残
100.0
【0022】
(実施例5−2)
キャンディの処方
砂糖 50.0重量%
水あめ 33.0
クエン酸 14.0
香料 1.0
あした葉黄汁 0.5
その他 残
100.0
【0023】
(実施例5−3)
グミゼリーの処方
ゼラチン 67.0重量%
還元水あめ 25.0
植物油脂 5.0
リンゴ酸 2.0
香料 0.5
あした葉黄汁 0.5
100.0
【0024】
(実施例5−4)
トローチの処方
砂糖 76.0重量%
グルコース 19.0
ショ糖脂肪酸エステル 0.2
香料 0.2
あした葉抽出物 0.5
水 残
100.0
【0025】
(実施例5−5)
歯磨剤の処方
炭酸カルシウム 50.0重量%
グリセリン 20.0
カルボキシメチルセルロース 2.0
ラウリル硫酸ナトリウム 2.0
香料 1.0
あした葉抽出物 0.5
サッカリン 0.1
クロルヘキシジン 0.01
水 残
100.0
【0026】
(実施例5−6)
洗口剤の処方
グリセリン 10.0重量%
ラウリル硫酸ナトリウム 1.5
香料 0.8
あした葉抽出物 0.5
サッカリンナトリウム 0.2
水 残
100.0

【特許請求の範囲】
【請求項1】
あした葉の葉、茎又は根からの抽出物を有効成分とする口腔用組成物。
【請求項2】
前記抽出物はあした葉黄汁である、請求項1に記載の口腔用組成物。
【請求項3】
前記抽出物はカルコン類を含む、請求項1又は2に記載の口腔用組成物。
【請求項4】
Fusobacterium nucleatumまたはPorphyromonas gingivalisに対する抗菌作用を有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の口腔用組成物。
【請求項5】
Fusobacterium nucleatumまたはPorphyromonas gingivalisによる硫化水素又はメチルメルカプタンの産出を抑制する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の口腔用組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−67585(P2013−67585A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−207304(P2011−207304)
【出願日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【出願人】(307013857)株式会社ロッテ (101)
【Fターム(参考)】