説明

消費電力測定装置及び消費電力測定システム

【課題】電気機器の使用状態を高精度または確実に測定できる消費電力測定装置及び消費電力測定システムを提供する。
【解決手段】被測定対象となる電気機器が接続されるコンセントと、外部電源に接続されるプラグと、コンセント及びプラグの間を接続する導体と、導体に印加される電圧を測定する電圧測定手段と、導体を流れる電流を測定する電流測定手段と、電圧測定手段から得られる電圧値と電流測定手段から得られる電流値とに基づいて、電気機器の消費電力を求める電力取得手段とを備え、電流測定手段は、導体を流れる被測定電流の流れ方向を別の方向に変更する電流方向変更領域と、電流方向変更領域により電流方向が変更された被測定電流によって生じる磁気を検知する磁気検知素子と、磁気検出素子の出力から被測定電流の電流値を求める電流値取得手段とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気機器の消費電力を測定する消費電力測定装置及び消費電力測定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
電気機器の消費電力を測定する技術としては、コンセントに接続されるプラグと、測定対象である電気機器と接続されるコンセントプラグと、プラグ及びコンセントを接続する電力線と、この電力線における電圧値及び電流値に基づいて電気機器の消費電力を演算する演算部とを備え、電気機器の消費電力に関する情報を外部機器に無線送信する電力計測システムが知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−137782号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載の電力計測システムでは、電気機器の消費電力を演算し、パーソナルコンピュータ等の外部装置に無線送信する技術が開示されている。
【0005】
近年では、上述したようなシステムを用いて、電気機器の消費電力を高精度または確実に計測したいという要望がある。
【0006】
そこで、本発明は、電気機器の使用状態を高精度または確実に測定できる消費電力測定装置及び消費電力測定システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の消費電力測定装置は、被測定対象となる電気機器が接続されるコンセントと、外部電源に接続されるプラグと、前記コンセント及びプラグの間を接続する導体と、前記導体に印加される電圧を測定する電圧測定手段と、前記導体を流れる電流を測定する電流測定手段と、前記電圧測定手段から得られる電圧値と前記電流測定手段から得られる電流値とに基づいて、前記電気機器の消費電力を求める電力取得手段とを備え、前記電流測定手段は、前記導体を流れる被測定電流の流れ方向を別の方向に変更する電流方向変更領域と、前記電流方向変更領域により電流方向が変更された被測定電流によって生じる磁気を検知する磁気検知素子と、前記磁気検出素子の出力から前記被測定電流の電流値を求める電流値取得手段とを有することを特徴とする。
【0008】
また、上記本発明は、前記コンセントの使用時刻又は使用時間を計る計時手段と、前記コンセントの使用時刻又は使用時間に対応する前記電気機器の消費電力情報を記憶する記憶手段とを備えることが好ましい。
【0009】
さらに、上記本発明に係る記憶手段は、不揮発性メモリであることが好ましい。
【0010】
また、上記本発明は、前記電力取得手段により求めた前記電気機器の消費電力に基づく消費電力情報を外部端末に無線により送信する送信手段を更に備えることが好ましい。
【0011】
さらに、上記本発明に係る前記送信手段は、前記外部端末との接続が切断状態から接続状態に移行後に、前記外部端末に未送信の前記電気機器の消費電力情報を送信することが好ましい。
【0012】
さらに、本発明の消費電力測定装置は、被測定対象となる電気機器が接続されるコンセントと、外部電源に接続されるプラグと、前記コンセント及びプラグの間を接続する導体と、前記導体に印加される電圧を測定する電圧測定手段と、前記導体を流れる電流を測定する電流測定手段と、前記電圧測定手段から得られる電圧値と前記電流測定手段から得られる電流値とに基づいて、前記電気機器の消費電力を求める電力取得手段と、前記コンセントの使用時刻又は使用時間を計る計時手段と、前記コンセントの使用時刻又は使用時間に対応した前記電気機器の消費電力に基づく消費電力情報を記憶する記憶手段と、前記電気機器の消費電力情報を外部端末に送信する送信手段とを備え、前記送信手段は、前記記憶手段内から前記電気機器の消費電力情報を前記外部端末に送信することを特徴とする。なお、上記本発明に係る記憶手段は、不揮発性メモリであることが好ましい。
【0013】
また、上記本発明に係る前記送信手段は、前記外部端末との接続が切断状態から接続状態に移行後に、前記外部端末に未送信の前記電気機器の消費電力情報を送信することが好ましい。
【0014】
さらに、上記本発明に係る前記計時手段は、前記送信手段と前記外部端末との接続が切断状態に移行後から前記コンセントの使用時刻又は使用時間を計りはじめることが好ましい。
【0015】
また、本発明の消費電力計測システムは、被測定対象となる電気機器の消費電力を測定する消費電力測定装置と、前記消費電力測定装置に接続されて当該消費電力測定装置から送信される前記電気機器の消費電力に基づく消費電力情報を表示する表示装置とを備えた消費電力計測システムであって、前記消費電力測定装置は、被測定対象となる電気機器が接続されるコンセントと、外部電源に接続されるプラグと、前記コンセント及びプラグの間を接続する導体と、前記導体に印加される電圧を測定する電圧測定手段と、前記導体を流れる電流を測定する電流測定手段と、前記電圧測定手段から得られる電圧値と前記電流測定手段から得られる電流値とに基づいて、前記電気機器の消費電力を求める電力取得手段と、前記コンセントの使用時刻又は使用時間を計る計時手段と、前記コンセントの使用時刻又は使用時間に対応した前記電気機器の消費電力に基づく消費電力情報を記憶する記憶手段と、前記電気機器の消費電力情報を前記表示装置に送信する送信手段とを備えており、前記電力測定装置は、前記送信手段と前記表示装置との接続が接続状態に移行後に、前記記憶手段内から前記電気機器の消費電力情報を前記表示装置に送信することを特徴とする。なお、上記本発明に係る記憶手段は、不揮発性メモリであることが好ましい。
【0016】
さらに、上記本発明に係る前記表示装置は、ディスプレイを有する携帯型端末装置であることが好ましい。
【0017】
なお、上述した本発明は、以下の各要素を含む方法または装置に適用可能であり、例えば、電気機器への電力供給中継装置(テーブルタップ等)において電気機器への供給電力(消費電力)を管理(監視)するにあたり当該電気機器の消費電力を測定するのに用いる電流測定方法にも適用可能であり、当該電流測定方法は、被測定電流が流れる導体の一部に前記被測定電流の流れる方向を主方向から別の方向に変更する方向変更領域を設けるステップと、前記導体に対して少なくとも1つの磁気検知素子を配置するステップと、前記方向変更領域によって流れる方向を変更された前記被測定電流によって生じた磁界を前記磁気検知素子によって検知するステップと、前記磁気検知素子の出力から前記被測定電流の電流量を推定するステップとを有することを特徴とする。
【0018】
また、本発明を電流測定方法とした場合、前記被測定電流が流れる導体の一部に前記被測定電流の流れる方向を主方向から別の方向に変更する方向変更領域を設けるステップは、前記方向変更領域として、前記被測定電流が流れない非導電領域を設けるステップを含むことが好ましい。
【0019】
さらに、本発明を電流測定方法とした場合、前記方向変更領域によって流れる方向を変更された前記被測定電流によって生じた磁界を前記磁気検知素子によって検知するステップは、前記磁気検知素子によって、前記非導電領域の外側を流れる迂回電流の前記被測定電流の主方向を向く磁界成分の検知するステップを含むことが好ましい。
【0020】
また、本発明を電流測定方法とした場合、前記導体に対して少なくとも1つの磁気検知素子を配置するステップは、一方向にのみ磁界検知感度を有した磁気検知素子を、前記非導電領域の近傍で、かつ、前記磁界検知感度の方向が前記被測定電流の主方向を向くように配置するステップを含むことが好ましい。
【0021】
また、本発明を電流測定方法とした場合、前記方向変更領域によって流れる方向を変更された前記被測定電流によって生じた磁界を前記磁気検知素子によって検知するステップは、前記主方向の軸に対して直交した軸であって、前記非導電領域の中心を通る軸に関して対称に配置された少なくとも2個の磁気検知素子により、極性が異なる前記迂回電流の前記主方向の磁界成分を、それぞれ検知するステップを含むことが好ましい。
【0022】
さらに、本発明を電流測定方法とした場合、前記方向変更領域によって流れる方向を変更された前記被測定電流によって生じた磁界を前記磁気検知素子によって検知するステップは、前記主方向の軸と平行な軸であって、前記非導電領域の中心を通る軸に関して対称に配置された少なくとも2個の磁気検知素子により、極性が異なる前記迂回電流の前記主方向の磁界成分を、それぞれ検知するステップを含むことが好ましい。
【0023】
また、本発明を電流測定方法とした場合、前記方向変更領域によって流れる方向を変更された前記被測定電流によって生じた磁界を前記磁気検知素子によって検知するステップは、前記主方向の軸に対して直交した軸であって、前記非導電領域の中心を通る軸に関して対称に配置された少なくとも2個の磁気検知素子と、前記主方向の軸と平行な軸であって、前記非導電領域の中心を通る軸に関して対称に配置された少なくとも2個の磁気検知素子とにより、極性が異なる前記迂回電流の前記主方向の磁界成分を、それぞれ検知するステップを含むことが好ましい。
【0024】
さらに、本発明を電流測定方法とした場合、前記導体に対して少なくとも1つの磁気検知素子を配置するステップは、前記非導電領域の中心を原点とし、前記被測定電流の主方向をY軸、該Y軸に直交する幅方向をX軸とし、前記磁気検知素子の検知部を、前記非導電領域の中心から前記X軸と、前記Y軸とでそれぞれ0.5ないし2.5mmの距離だけ離した範囲に配置するステップを含むことが好ましい。
【0025】
また、本発明を電流測定方法とした場合、前記被測定電流が流れる導体の一部に前記被測定電流の流れる方向を主方向から別の方向に変更する方向変更領域を設けるステップは、前記方向変更領域として、前記被測定電流が流れる導体の、前記被測定電流が流れる主方向における前方に前記導体の主要部の幅よりも狭い幅の出口を設け、前記導体の後方に前記導体の幅よりも狭い幅の入口を設けるステップを含むことが好ましい。
【0026】
さらに、本発明を電流測定方法とした場合、前記導体に対して少なくとも1つの磁気検知素子を配置するステップは、前記導体の中心から、前記磁気検知素子を前記主方向からオフセットして配置するとともに、前記主方向と直交した方向からもオフセットして配置するステップを含むことが好ましい。
【0027】
また、本発明を電流測定方法とした場合、前記導体に対して少なくとも1つの磁気検知素子を配置するステップは、前記導体において、前記出口と前記入口とを結ぶ線を挟んで少なくとも2個の磁気検知素子を配置するステップを含むことが好ましい。
【0028】
さらに、本発明を電流測定方法とした場合、前記導体に対して少なくとも1つの磁気検知素子を配置するステップは、前記導体において、前記主方向に対して直交した線を挟んで少なくとも2個の磁気検知素子を配置するステップを含むことが好ましい。
【0029】
また、本発明を電流測定方法とした場合、前記導体に対して少なくとも1つの磁気検知素子を配置するステップは、前記導体において、前記主方向に対して直交した線を挟んで少なくとも2個の磁気検知素子を配置し、前記主方向に対して直交した線を挟んで少なくとも2個の磁気検知素子を配置するステップを含むことが好ましい。
【0030】
さらに、本発明を電流測定方法とした場合、前記導体に対して少なくとも1つの磁気検知素子を配置するステップは、前記磁気検知素子として、磁気インピーダンス素子又は直交フラックスゲート素子を配置するステップを含むことが好ましい。
【0031】
また、本発明の消費電力測定装置に好適に搭載される電流測定装置は、被測定電流が流れる導体と、前記導体の一部に設けられ、前記被測定電流の流れる方向を主方向から別の方向に変更する方向変更領域と、前記導体に対して配置された少なくとも1つの磁気検知素子と、前記方向変更領域によって流れる方向を変更された前記被測定電流によって生じた磁界を検知した前記磁気検知素子の出力から前記被測定電流の電流量を推定する推定回路とを有することが好ましい。
【0032】
さらに、本発明の消費電力測定装置に搭載される電流測定装置は、前記方向変更領域は、前記被測定電流が流れない非導電領域であることが好ましい。
【0033】
また、本発明の消費電力測定装置に搭載される電流測定装置は、前記磁気検知素子は、前記非導電領域の外側を流れる迂回電流の前記被測定電流の主方向を向く磁界成分の検知する磁気検知素子であることが好ましい。
【0034】
さらに、本発明の消費電力測定装置に搭載される電流測定装置は、前記磁気検知素子は、一方向にのみ磁界検知感度を有し、前記非導電領域の近傍で、かつ、前記磁界検知感度の方向が前記被測定電流の主方向を向くように配置された磁気検知素子であることが好ましい。
【0035】
また、本発明の消費電力測定装置に搭載される電流測定装置は、前記磁気検知素子は、前記主方向の軸に対して直交した軸であって、前記非導電領域の中心を通る軸に関して対称に配置された少なくとも2個の磁気検知素子であり、前記少なくとも2個の磁気検知素子は、それぞれ極性が異なる前記迂回電流の前記主方向の磁界成分を検知することが好ましい。
【0036】
さらに、本発明の消費電力測定装置に搭載される電流測定装置は、前記磁気検知素子は、前記主方向の軸と平行な軸であって、前記非導電領域の中心を通る軸に関して対称に配置された少なくとも2個の磁気検知素子であり、前記少なくとも2個の磁気検知素子は、それぞれ極性が異なる前記迂回電流の前記主方向の磁界成分を検知することが好ましい。
【0037】
また、本発明の消費電力測定装置に搭載される電流測定装置は、前記磁気検知素子は、前記主方向の軸に対して直交した軸であって、前記非導電領域の中心を通る軸に関して対称に配置された少なくとも2個の磁気検知素子と、前記主方向の軸と平行な軸であって、前記非導電領域の中心を通る軸に関して対称に配置された少なくとも2個の磁気検知素子であることが好ましい。
【0038】
さらに、本発明の消費電力測定装置に搭載される電流測定装置は、前記磁気検知素子は、前記非導電領域の中心を原点とし、前記被測定電流の主方向をY軸、該Y軸に直交する幅方向をX軸とし、前記磁気検知素子の検知部を、前記非導電領域の中心から前記X軸と、前記Y軸とでそれぞれ0.5ないし2.5mmの距離だけ離した範囲に配置するステップを含むことが好ましい。
【0039】
また、本発明の消費電力測定装置に搭載される電流測定装置は、前記方向変更領域は、前記被測定電流が流れる導体において、前記被測定電流が流れる主方向における前方に設けられた前記導体の主要部の幅よりも狭い幅の出口と、前記導体の後方に設けられた前記導体の幅よりも狭い幅の入口とを含むことが好ましい。
【0040】
さらに、本発明の消費電力測定装置に搭載される電流測定装置は、前記磁気検知素子は、前記導体の中心から、前記主方向からオフセットして配置されているとともに、前記主方向と直交した方向からもオフセットして配置されていることが好ましい。
【0041】
また、本発明の消費電力測定装置に搭載される電流測定装置は、前記磁気検知素子は、前記導体において、前記出口と前記入口とを結ぶ線を挟んで配置された少なくとも2個の磁気検知素子を含むことが好ましい。
【0042】
さらに、本発明の消費電力測定装置に搭載される電流測定装置は、前記磁気検知素子は、前記導体において、前記主方向に対して直交した線を挟んで配置された少なくとも2個の磁気検知素子を含むことが好ましい。
【0043】
また、本発明の消費電力測定装置に搭載される電流測定装置は、前記磁気検知素子は、前記導体において、前記主方向に対して直交した線を挟んで配置された少なくとも2個の磁気検知素子と、前記主方向に対して直交した線を挟んで配置された少なくとも2個の磁気検知素子とを含むことが好ましい。
【0044】
さらに、本発明の消費電力測定装置に搭載される電流測定装置は、前記磁気検知素子は、磁気インピーダンス素子又は直交フラックスゲート素子であることが好ましい。
【発明の効果】
【0045】
本発明によれば、電気機器の使用状態を高精度または確実に測定できる消費電力測定装置及び消費電力測定システムを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本実施形態に係る消費電力測定装置の一例であるテーブルタップの外観図である。
【図2】本実施形態に係る消費電力測定装置の一例であるテーブルタップの内部における各部品の配置を表す部品配置図である。
【図3】図2のテーブルタップの内部基板の構成を表したブロック図である。
【図4】マイコンに入力されるアナログ信号の変換におけるサンプリングを示す図である。
【図5】マイコンでの処理フローを示すチャート図である。
【図6】マイコンでの処理フローを示すチャート図である。
【図7】マイコンでの処理フローを示すチャート図である。
【図8】マイコンでの処理フローを示すチャート図である。
【図9】マイコンでの処理フローを示すチャート図である。
【図10】静電容量の変化に応じて発振周波数を制御するDCO回路を示す図。
【図11】各コンセント(チャンネル)ごとの電流値、皮相電力、有効電力を測定順に格納されるデータ例である。
【図12】被測定電流に対する電流測定を行う実施例1の構成図である。
【図13】一次導体内の電流と磁場の様子の説明図である。
【図14】一次導体と磁気検知素子の関係の断面図である。
【図15】検知回路の構成図である。
【図16】直径2mmの貫通孔を用いたY軸方向磁界成分の分布等高線図である。
【図17】直径3mmの貫通孔を用いたY軸方向磁界成分の分布等高線図である。
【図18】貫通孔の直径とY軸方向磁界成分のピーク位置との関係図である。
【図19】貫通孔の直径とY軸方向磁界成分のピーク値との関係図である。
【図20】被測定電流に対する電流測定を行う変形例の構成図である。
【図21】被測定電流に対する電流測定を行う変形例の構成図である。
【図22】被測定電流に対する電流測定を行う変形例の構成図である。
【図23】被測定電流に対する電流測定を行う変形例の構成図である。
【図24】被測定電流に対する電流測定を行う実施例2の構成図である。
【図25】磁気インピーダンス素子の特性図である。
【図26】検知電流と測定誤差のグラフ図である。
【図27】被測定電流に対する電流測定を行う変形例の構成図である。
【図28】被測定電流に対する電流測定を行う実施例3の電流センサの基本的な構成の斜視図である。
【図29】一次導体内の電流との磁場の様子の説明図である。
【図30】一次導体と磁気検知素子の関係の断面図である。
【図31】検知回路の構成図である。
【図32】被測定電流に対する電流測定を行う変形例の構成図である。
【図33】被測定電流に対する電流測定を行う実施例4の構成図である。
【図34】被測定電流に対する電流測定を行う変形例の構成図である。
【図35】被測定電流に対する電流測定を行う他の変形例の構成図である。
【図36】被測定電流に対する電流測定を行う実施例5の構成図である。
【図37】被測定電流に対する電流測定を行う変形例の構成図である。
【図38】実施例6の電流センサの基本的な構成の斜視図である。
【図39】一次導体内の電流との磁場の様子の説明図である。
【図40】一次導体と磁気検知素子の関係の断面図である。
【図41】電流の出入口の幅を変えたY軸方向磁界成分の分布等高線図である。
【図42】電流の出入口の幅を変えたY軸方向磁界成分の分布等高線図である。
【図43】電流の出入口の幅を変えたY軸方向磁界成分の分布等高線図である。
【図44】電流の出入口の幅を変えたY軸方向磁界成分の分布等高線図である。
【図45】電流の出入口の幅とY軸方向磁界成分のピーク値の関係図である。
【図46】被測定電流に対する電流測定を行う変形例の構成図である。
【図47】被測定電流に対する電流測定を行う変形例の構成図である。
【図48】被測定電流に対する電流測定を行う変形例の構成図である。
【図49】被測定電流に対する電流測定を行う実施例7の構成図である。
【図50】電流の出入口の位置とY軸方向磁界成分(固定点)の関係図である。
【図51】被測定電流に対する電流測定を行う実施例8の構成図である。
【図52】出入口の幅を変えた際の測定電流と出力の関係のグラフ図である。
【図53】被測定電流に対する電流測定を行う変形例の構成図である。
【図54】センサ基板の詳細な回路図である。
【図55】本発明の他の実施形態におけるテーブルタップの内部基板の構成を表したブロック図である。
【図56】各コンセント(チャンネル)ごとの消費電力に関する測定時刻、電流、電力等のデータ例である。
【図57】本発明の他の実施形態におけるテーブルタップの内部基板の構成を表したブロック図である。
【図58】本発明の他の実施形態におけるテーブルタップの内部基板の構成を表したブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
以下、本発明を実施するための形態について図面を用いて説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものでなく、また実施形態で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須のものとは限らない。
【0048】
[実施形態1]
図1には、本実施形態に係る消費電力測定装置の一例であるテーブルタップの外観図を示す。図2には、本実施形態に係る消費電力測定装置の一例であるテーブルタップの内部における各部品の配置を表す部品配置図を示す。図3には、図2のテーブルタップの内部基板の構成を表したブロック図を示す。
【0049】
図1に示すように、消費電力測定装置である本実施形態のテーブルタップ100は、電気機器が接続される複数のコンセント200a,200b,200c,200dを有するコンセントプラグ200と、外部電源に接続されるプラグ(不図示)を有する電源コード300から構成される。
【0050】
ここで、図2に示すように、220はテーブルタップ内に実装されるコンセント基板であり、以下に述べる部品がそれぞれ実装される。
【0051】
コンセント基板220の長手方向一端部側には、電源コード300からの配線が接続される。また、この電源コード300からの配線は、AC+ 201、AC− 202に接続され、コンセント基板220上の配線パターン210、211にそれぞれ接続される。24は電流センサ(電流測定装置)であり、コンセント基板220上の配線パターン210と各コンセント200a,200b,200c,200dとの間に配置される。なお、この電流センサ24については、様々な変形例があるため、その詳細は後述する。
【0052】
231は、AC+ 201に接続されるバスバーであり、バスバー232は、各コンセントの片方側に接続される。各コンセントのもう片方側は、AC− 202に接続される。233は、電流センサ12の内部へ電源・GNDを供給し、電流センサ12から参照電圧、測定電圧が出力される端子である。
【0053】
また、AC+ 201、AC− 202はコモンモードチョークコイル240に入力されその出力はAC−DC電源250に入力される。このAC−DC電源250では、電圧測定・CPU等用の電源+3.3Vが生成される。さらに、AC+ 201、AC− 202は、コンデンサ260(図1参照)によりそれぞれ分圧される。なお、各々のコンセントの参照電圧・測定電圧は、アナログマルチプレクサ270に入力され、マイコン280によりその出力が選択されマイコン280にアナログ信号が入力される。また、マイコン280では、後述するように、連続に入力されたアナログ信号をデジタル信号に変換する。このマイコン280は、送信手段の一例である通信モジュール290と、例えば、シリアル信号等で接続される。通信モジュール290は、無線LAN、又はUSB等のインターフェースをそなえ、外部装置に対して測定された電流、電力等を送信することが可能である。勿論、通信モジュールは、USB等の有線接続モジュールであってもよい。
【0054】
ここで、図3には、上述したコンセント基板220のブロック図を示す。230は、容量分圧回路であり、コンデンサ260a(C1)とコンデンサ260b(C2)の容量により分圧されたAC+ 201、AC− 202の分圧電位がオペアンプ261に入力される。分圧電位V+ 261a、V− 261bは以下の式1及び式2で表される。
【0055】
V+ 261a =AC+ *(C1/(C1+C2))・・・式1
V− 261b =AC− *(C1/(C1+C2))・・・式2
【0056】
また、オペアンプ262は、バイアス電位を供給する。図3においては、+3.3Vの中間電位である+1.65Vがバイアス電位となり、オペアンプ261の出力はこのバイアス電位+1.65Vを中心として分圧電位を出力することとなる。こうして分圧電位である、V+ 261a、V− 261b、バイアス電位(Vref2)262aはマイコン280に入力され、デジタル信号に変換される。
【0057】
各コンセントの電流センサ24の出力Vout 124a、124b、124c、124d、及びバイアス電位Vref1 125a、125b、125c、125dはアナログマルチプレクサ270に入力される。マイコン280はアナログマルチプレクサ270に対して選択信号281,282を制御して各コンセントの電流センサの出力Voutをマイコン280に入力する。EEPROM285には、図11にしめされるように、各チャンネルごとの電流値、皮相電力VA、有効電力Wを測定順にテーブルとして格納する。外部装置に送信されたデータは消去され、新たな測定データが上書きされる。
【0058】
図4は、マイコン280に入力されるアナログ信号Vout、V+、V−、Vref1、Vref2のアナログデジタル変換のサンプリングを表すものである。各アナログ信号は、サンプリング周期を例えば32μsecとした場合、32μsec毎に同時にアナログデジタル変換される。なお、AC電源周波数50Hzにおける1周期では、1000msec/50=20msec、20msec/32μsec=625となる。即ち、625個のサンプリングデータが取得されることになる。また、同様に、AC電源周波数60Hzにおける1周期では、約521個サンプリングデータが取得される。即ち、(1000msec/60)/32μsec≒521となる。さらに、アナログデジタル変換(以下AD変換)においては、24ビットのデジタルデータ(最大0xFFFFFFh)に変換される。ここでバイアス電位であるVref1、2は、中間値、即ち、0x800000)をとる。
【0059】
図5〜図9は、本実施例に示される電流、電圧、電力測定におけるマイコン280のフローチャートを表す。
【0060】
図5においては、電源コード300に接続されたAC電源の周波数を測定するフローチャートである。上述したように、周波数が異なると、1周期分でサンプリングデータ量が異なってくるため、周波数を測定しなければならない。
【0061】
まず、ステップS201では、AC電源がプラスからマイナス、マイナスからプラスへ移行するクロスポイントを発見する。図4において、AD変換後のデジタル値が、0x800000を横切るときがクロスポイントである。クロスポイントを見つけると、AC電源が60Hzである場合は、3周期分のデータを取得するのには、521*3=1563±αのサンプリングデータを取得する(ステップS202)。この3周期分でサンプリングデータにはクロスポイントが6回観測される(ステップS203でYES)。クロスポイントが6回観測されない場合(ステップS203でNO)、ステップ201と同様にクロスポイントを発見する(ステップS204)。クロスポイントを見つけると、AC電源が50Hzである場合は、3周期分のデータを取得するのには、625*3=1875±αのサンプリングデータを取得する(ステップS205)。この3周期分でサンプリングデータにはクロスポイントが6回観測される(ステップS206でYES)。周波数が決定されない場合(ステップS206でNO)、上述のステップを複数回繰返し、それでも決定されない場合は測定エラーとして終了する。
【0062】
ここで、マイコン280は、本実施形態では、DCO(ディジタルコントロールドオシレーター)を採用する。DCO回路は、デジタル入力で制御されたLC発振回路であり、多数並列接続されたMOSバラクタのそれぞれに対して"0"か"1"の制御電圧を個別に印加することで、静電容量をデジタル的に変化させる。静電容量の変化に応じて発振周波数を制御する(図10)。水晶発振と異なり、温度、電圧による変動が、例えば、最大3%になる。これら変動を上記したサンプリング数に反映させることが望ましい。AC電源が60Hzの場合には、1563に対して±3%、即ち、1563±47のサンプリングで6回目のクロスポイントが観測される事になる。同様に、AC電源が50Hzの場合は、1875±57のサンプリングで6回目のクロスポイントが観測されることになる(図4)。
【0063】
図6は、10周期分の電流データを取得するためのフローチャートである。周波数によりこの10周期分のサンプリング数もかわり、50Hzでは625*10=6250±188、60Hzでは521*10=5210±157αとなる。まず、クロスポイントを発見(ステップS301)し、データ収集を開始する。アナログデジタル変換されたデータには、システム全体のオフセットが含まれているため、オフセットをとりのぞくことが望ましい。オフセットの値はシステムに何も機器が接続されていない時には、そのデジタル値は、0x800000hとなる。しかしシステム全体から見るとその値は異なり、接続されていない時のデジタル値をYとすると、オフセット値=(0x800000−Y)となる。測定電流の最大を例えば15Aとした時、15Aを流すことできる抵抗負荷を接続したときのデジタル値をXとすると、ゲイン値=(0xffffff−0x800000)/Xとなる。ステップS302で、測定されたVoutに対して、前述で求められたオフセット調整、ゲイン調整を行う。なお、調整後の値 Voutadjは以下の計算式3で求められる。
【0064】
Voutadj=(Vout+オフセット値)*ゲイン値 ・・・式3
【0065】
なお、ステップS303では、計算されたVoutadjの2乗累積加算を行う。
【0066】
また、Voutadjのべき乗累積加算値 Voutadj2SUMは以下の式で求める。
【0067】
Voutadj2SUM=Σ(Voutadj*Voutadj) ・・・式4
【0068】
次いで、これを10周期分の2乗累積加算を行う(ステップS304)。
【0069】
図7は、図6と同様に、10周期分の電圧データを取得するためのフローチャートである。
【0070】
まず、クロスポイントを発見(ステップS401)し、データ収集を開始する。電流測定と同様に、無負荷時のオフセットを計測する。また、電源コード3から基準AC100Vを入力して、そのピーク値Zを測定し、ゲイン値=(0xffffff−0x800000)/Zを求める。
【0071】
次いで、ステップS402で、測定されたV+、V−に対して、前述で求められたオフセット調整、ゲイン調整を行う。なお、調整後の値 V+adj、V−adjは、以下の計算式5及び式6で求められる。
【0072】
V+adj=((V+)+オフセット値)*ゲイン値 ・・・式5
V―adj=((V−)+オフセット値)*ゲイン値 ・・・式6
【0073】
ステップS403で、AC電源の波高値Vadjを以下の式7で計算する。
【0074】
Vadj=(V+adj)+(0x800000− V−adj) ・・・式7
【0075】
ステップS404では、計算されたVadjの2乗累積加算を行う。Vadjの2乗累積加算値 Vadj2SUMは以下の式8で求める。
【0076】
Voutadj2SUM=Σ(Voutadj*Voutadj) ・・・式8
【0077】
次いで、これを10周期分の2乗累積加算を行う(ステップS405)。
【0078】
次に、図8に示すフローチャートによる皮相電力を求める手順に関する説明の前に、図9に示す有効電力を求める点について説明する。図9は、有効電力を求めるためのフローチャートである。ステップS403で得られた電圧VadjとステップS302で得られた電流Voutadjを乗算して電力を計算する(ステップS601)。これを10周期分求めて累積加算を行う(ステップS602、603)。前述したように、周波数によりこの10周期分のサンプリング数もかわり、50Hzでは625*10=6250+α、60Hzでは521*10=5210+αであり、累積加算値VAadjSUMをサンプリング数で割る(ステップS604)。
【0079】
こうして得られたVAadjSUMに変換係数を乗算して有効電力Wを求める(ステップS605)。ここで変換係数は、たとえば、抵抗負荷を実際し接続したときの値を測定し(WL)、抵抗負荷が100Ωのときの有効電力は、100V*100V/100Ω=100Wであるため、WL/100が変換係数となる。
【0080】
図8は皮相電力を求めるためのフローチャートである。ステップS304で得られた10周期分の電流2乗積算値Voutadj2SUMをサンプル数で割ってVoutadj2SUMSAMPを求める(ステップS501)。同様に、ステップS406で得られた10周期分の電圧2乗積算値Vadj2SUMをサンプル数で割ってVadj2SUMSAMPを求める(ステップS503)。Voutadj2SUM、SAMPVadj2SUMSAMの平方根を求めて、変換係数を乗算することにより、電流実効値、電圧実効値を求めることができる(ステップS502、ステップS504)。ここで電流変換係数であるが、抵抗負荷、例えば10Ωを接続した場合の値を測定し、測定された値をISとすると、100V/10Ω=10Aであることから、IS/10が電流変換係数となる。電圧変化係数は、無負荷時に測定された値をVSとするとVS/100が電圧変換係数となる。電流実効値と電圧実効値を乗算することで皮相電力VAを求めることができる(ステップS505)。
【0081】
なお、上述した消費電力測定装置としての図1等に示すテーブルタップ100は、例えば、図示しないが、パーソナルコンピュータや携帯端末等の外部端末(情報処理装置)に直接又は中継装置を経由して通信可能に接続されて消費電力測定システム(消費電力管理システムを含めてもよい)を構成する。即ち、消費電力測定装置によって測定された消費電力に基づく消費電力情報(消費電力又はそれに関する情報、消費電力に基づく消費電力量に関する消費電力量情報を含む)は、消費電力測定装置内の通信モジュールより外部端末へ送信される。一方、消費電力情報を受け取った外部端末側では、その消費電力情報をディスプレイ等の表示手段に表示する。これにより、ユーザは、消費電力測定機能を備えたテーブルタップ100に接続されている1つ又は複数の電気機器の消費電力を効率的に管理することができる。なお、本実施形態のテーブルタップ100は、コンセントを4口設けた例を説明したが、1口でもよいし、2〜3口、あるいは5口以上設けてもよい。
【0082】
ここで、上述したテーブルタップ100に実装される電流測定手段の少なくとも一部を構成する電流センサ24としては、例えば、本実施形態では、詳細は後述するが、コンセント基板220上の各パターン210と各コンセントプラグ200a,200b,200c,200dとの間を流れる被測定電流の流れ方向を別の方向に変更する電流方向変更領域と、電流方向変更領域により電流方向が変更された被測定電流によって生じる磁気を検知する磁気検知素子とを備えるものを用いることが好ましい。
【0083】
以下、本発明の消費電力測定装置において、電気機器の消費電力を測定するにあたり、コンセントとプラグとを接続した導体(具体的には、基板上の接続配線であって、例えば、図1における配線パターン210等)を流れる電流値を測定するのに最適な電流測定装置において詳細に説明するが、本発明は以下の構成に限定されるものではない。
【0084】
導体を流れる電流から発する周回磁界を磁気検知素子で直接検知する場合には、次のような課題がある。即ち、被測定電流が流れる導体に隣接して、異なる相の電流が流れる導体が平行に配置されている場合に、電流が流れる方向と直角方向の成分となる周回磁界を対象にすると、隣接する電流線からの磁界が加わり、十分な測定精度が得られないことがある。これらの干渉を磁気シールドで防止するとしても、被測定電流からの磁束が磁場自体を乱してしまう虞れや、シールド部材の磁気飽和の心配があり、効果的な対策を施すことは難しくなる。
【0085】
そこで、上述の課題を解消し、異なる相の電流が平行して流れる設置環境であっても、磁気シールドに頼らず、被測定電流の測定精度を安定して確保できる電流測定方法及び電流測定装置であれば、本発明の消費電力測定装置に好適である。
【0086】
以下、本発明の消費電力測定装置において好適に実装される電流測定装置を図示の実施例に基づいて詳細に説明する。なお、本発明では、被測定電流が流れる導体の一部に被測定電流の流れる方向を主方向から別の方向に変更する電流方向変更領域を設けることに1つの特徴がある。さらに、本発明では、電流方向変更領域によって流れる方向を変更された被測定電流によって生じた磁界を磁気検知素子によって検知することに特徴がある。
【0087】
<実施例1>
図12は被測定電流に対する電流測定を行う実施例1の基本的な構成図である。一次導体1には検知対象の被測定電流Iが流れ、一次導体1は例えばプリント基板上の銅箔パターン又は銅板で形成されたバスバー等の形態とされている。
【0088】
一次導体1のほぼ中央には、電流の遮断を部分的に行うために、非導電領域である円形の貫通孔2が設けられており、このため被測定電流Iの一部は図13に示すようにこの貫通孔2の両側において外側を対称的に回り込む迂回電流Iaとなっている。説明の便宜のために、一次導体1に座標軸を設定し、貫通孔2の中心を原点Oとして、被測定電流Iが流れる主方向をY軸、その直交軸である幅方向をX軸、厚み方向をZ軸とする。
【0089】
一次導体1上には、一方向にのみ磁界検知感度を有する磁気検知素子3が配置されている。磁気検知素子3の検知部4をY軸方向が磁界検知方向となるようにし、検知部4の中心位置は、貫通孔2の中心よりもX軸方向に距離dx、Y軸方向にはX軸を挟んで距離dyずらした個所に配置されている。
【0090】
本来、電流により発生する磁束は電流方向と直交する方向を向くので、一次導体1の貫通孔2の影響がない個所では、被測定電流Iは主方向であるY軸方向に流れる。従って、図13に示す磁界ベクトル成分Hc0のように、一次導体1の幅w内ではX軸方向のベクトル成分Hxしか持たない磁場となる。
【0091】
しかし貫通孔2の近傍では、迂回電流IaはY軸方向に対し傾くことから、この迂回電流Iaにより貫通孔2の両側で磁場が歪んだ磁界ベクトル成分Hc1が発生する。つまり、迂回電流Iaの傾き部分においては、Y軸方向のベクトル成分Hy及びX軸方向のベクトル成分Hxが発生する。ベクトル成分Hyとベクトル成分Hxのベクトル和は被測定電流Iの大きさに比例し、貫通孔2のY軸の正負両側では電流方向が対称形のため、ベクトル成分HyはX軸を挟んで対称となり、極性は逆になる。
【0092】
また図12に示すように、異なる相の電流が流れる一次導体1’が近接し、近接電流I’の方向が被測定電流Iと平行していても、近接電流I’による磁界ベクトル成分はX軸方向のみの成分であり、Y軸方向成分を持たない。検知部4の磁界検知方向をY軸方向とすると、磁気検知素子3は近接電流I’による磁界による干渉は受けず、迂回電流Iaのベクトル成分Hyのみを検知できる。従って、このベクトル成分Hyを校正して換算すれば、被測定電流Iの電流量を求めることができる。
【0093】
使用する磁気検知素子3として、X軸方向の磁界ベクトル成分Hxを検知することは望ましくない。従って、指向性の高い磁気インピーダンス素子や直交フラックスゲート素子が好適であり、実施例1では磁気インピーダンス素子を用い、Y軸方向にのみ磁界検知が可能とされている。検知部4として磁性薄膜のパターンが磁界検知方向のY軸方向につづら折りにより並列され、両端の電極5にMHz帯の高周波パルスを印加し、磁界の変化による検知部4の両端からの電圧振幅変化をセンサ信号として得ている。図示は省略しているが、検知部4の動作には、バイアス磁界が必要となるものがあり、必要に応じて近くにバイアス磁石の設置又はバイアスコイルを巻き付けて電流を流して設定する。
【0094】
図14に示すように、一次導体1に対する磁気検知素子3の検知部4の高さhは、一次導体1と磁気検知素子3の位置関係を保持する構造上、必要なスペースと空間距離、沿面距離等の絶縁耐圧の関係で決められる。
【0095】
図15は電流測定装置として機能する検知回路100Aの構成図を示す。CRパルス発振回路30に対しブリッジを構成する抵抗Rに、磁気検知素子3の検知部4が接続されている。検波回路31は、検知部4の検知信号である両端電圧からの振幅変化を取り出して増幅回路32へ出力する。増幅回路32は、振幅変化を増幅して出力する。推定回路33は、増幅回路32の出力から被測定電流の電流量を推定する回路である。
【0096】
図16、図17は貫通孔2による迂回電流Iaに係わるY軸方向の磁界成分Hyのシミュレーションの結果を示している。一次導体1はX軸方向の幅w=10mm、Z軸方向の厚さt=70μmの断面で、Y軸方向に計算上は無限長とした十分に長い銅板であり、X軸方向の中央に貫通孔2を穿けてある。検知部4は一次導体1から1.6mmの高さhに固定し、Y軸方向に被測定電流Iを1アンペア(A)流した際のY軸方向の磁界ベクトル成分Hyの変化を調べた。
【0097】
図16は貫通孔が2mmの場合、図17は3mmの場合におけるY軸方向磁界のベクトル成分Hyの磁界分布の計算結果を等高線の分布として示している。座標はX≧0、Y≧0の第1象限で、ベクトル成分Hyの頂点を100%として、10%刻みで等高線を描いている。他の象限ではX軸又はY軸に関し対称な磁界分布が形成され、第3象限は第1象限と同一極性で、第2、第4象限は第1象限と逆極性の磁場が形成される。
【0098】
図16、図17から磁界が最大となるピーク位置は、貫通孔2から約45度方向にあり、直径2mmの貫通孔2では(X、Y)=(1.5mm、1.625mm)、3mmの貫通孔2では(X、Y)=(1.75mm、1.75mm)辺りにある。これらの磁界のピーク位置での磁界成分Hyは、それぞれ電流1アンペア(A)に対して、Hy=25.6mガウス(G)、Hy=47.9mガウス(G)となっている。
【0099】
図18は貫通孔2の直径とY軸方向の磁界ベクトル成分Hyのピーク位置の関係のグラフ図である。図16、図17に示す等高線図では図示を省略しているが、直径1mm、4mmでの結果も併せて記載している。図18から分るように、貫通孔2の直径の大きさはピーク部の位置に殆ど依存することはない。幅w=5mmでの貫通孔2の直径1mmの結果も併せて考えると、実用的な一次導体1の使用範囲では、ベクトル成分Hyのピークの範囲は、X、Y軸方向共に1〜2mm程度であると云える。
【0100】
また、ピーク位置から10%下がった90%の範囲が、半径0.5mm程度のサークルとなっていることから、設計的には図1の距離dx、dyは共に0.5〜2.5mmの範囲で、この範囲に磁気検知素子3の検知部4が掛かるようにすればよい。
【0101】
図19は一次導体1の貫通孔2の径とY軸方向のベクトル成分Hyのピーク値とのグラフ図であり、径が大となるにつれて、2次関数的にベクトル成分Hyが大きくなってゆくことが分かる。つまり、図12で示す距離dx=1.5mm、dy=1.5mm辺りに、磁気検知素子3の検知部4を固定し、貫通孔2の径の大きさを変えるだけで、数倍もの測定レンジを選択できることが可能となる。
【0102】
図12においては、磁気検知素子3はXY平面上の第1象限に設けているが、対称性から当然のことながら、その他の象限に配置することもできる。
【0103】
図20は変形例を示し、貫通孔2’を貫通孔2のある原点OからX軸方向に対して45度方向に設けて、その中間位置に磁気検知素子3を配置することで、両貫通孔2、2’による迂回電流Iaによる効果を重ねY軸方向成分の磁界を増加し、感度を上げている。2つの貫通孔2、2’は同一の大きさである必要はなく、更に貫通孔2の数を増やすこともできるし、設置する角度位置は電流の検知仕様に応じて設計すればよい。
【0104】
電流を迂回させる手段としては、貫通孔2だけではなく切欠孔を用いることにより非導電領域を形成し、大小の電流に対応させることができる。例えば、図21に示すように、一次導体1の幅方向の端部に切欠孔8を設けることでも迂回電流を生成できる。大電流により迂回電流による磁界を抑制したい場合には、この構成が好適である。
【0105】
また、逆に図22に示すように切欠孔8を深くし、迂回電流を集中させ、Y軸方向成分の磁界を大きくし、小電流に対応させることも可能である。更に、図23に示すように反対側からの端部からも切欠孔8をずらして設けることで、更に迂回電流を強めて、より小さな電流にも対応させることができる。
【0106】
<実施例2>
図24は実施例2の構成図である。例えば、厚さ1.6mmのガラスエポキシ材のセンサ基板11の片面に、X軸方向の幅10mm、Z軸方向の厚さ70μm、Y軸方向の長手方向50mmの銅パターンから成る一次導体12が設けられている。そして、一次導体12のX軸方向の中央に例えば直径2mmの貫通孔13がエッチングにより形成されている。センサ基板11の他面には、図25と同様の位置に、一体型の磁気検知ユニット14が配置され、半田付けのための電極15a〜15bがセンサ基板11上に引き出されている。
【0107】
磁気検知ユニット14には磁気インピーダンス素子が用いられ、Fe−Ta−C系の磁性薄膜から成る検知部16は、それぞれ例えば幅18μm、厚さ2.65μm、長さ1.2mmの細長い11本のパターンが並列に配置されている。そして、検知部16の磁界検知方向はY軸方向のみとされている。
【0108】
検知部16の位置は、貫通孔13の中心からX軸及びY軸方向に距離dx=1.5mm、dy=1.5mmだけオフセットされて配置されている。検知部16の複数本の磁性薄膜パターンは、図示は省略しているが電気的にはつづら折りで直列につながれて、両端はそれぞれの電極に接続され、センサ基板11上の電極15a、15bに半田接合され、図示しないセンサ回路に接続されている。図24では、電極15a→15bの流れにより高周波パルスを印加する。
【0109】
磁気検知ユニット14の磁性薄膜にはX軸方向の幅方向に磁化容易軸が設けられており、高周波のパルスを磁性薄膜のパターンに通電することで、外部磁界によりインピーダンスが変化し、磁気検知ユニット14の両端電圧を振幅検波によりセンサ信号に変換する。
【0110】
平行して流れる被測定電流I以外の電流の影響評価では、図24に示すように、一次導体12から10mmの間隔をおいて直径2mmの銅棒18を並行に配置し、10Armsの50Hzの電流I’を流して、一次導体12には電流を流さない条件で測定した。すると、磁気検知ユニット14では銅棒18を流れる電流I’の影響は観測されず、ノイズレベル以下(10mVpp以下)であった。
【0111】
隣接する平行な電流線からの磁界はX軸又はZ軸方向となり、Y軸方向の成分は持たないことと、磁気インピーダンス素子がX軸方向には感度を持たないことが効果的に作用し、隣接の電流による磁界の影響は問題とはならないレベルであることが確認された。
【0112】
この磁気検知ユニット14は5Vの5MHzのパルス駆動では、図25に示すように磁界に対してV字のインピーダンス変化の特性を示し、感度の良い傾きの個所を利用している。そのためには、図24に示すように磁気検知ユニット14の背面にバイアス用磁石17を配置して、検知部16に10ガウス(G)程度のバイアス磁界が掛かるように設定している。直線性の良好な範囲は、この磁気検知ユニット14の場合ではバイアス動作点を挟んで±3ガウス(G)程度である。
【0113】
図26は一次導体1にAC電流(50Hz)を0.1〜40Armsまで可変で通電させて、電流測定したデータを示している。10Armsは28.28Appの正弦波であり、そのときの磁界はシミュレーション結果から、724mGppとなる。図15はこの10Armsを基準に理想値と実測値の誤差を示し、5V電源で10Arms時に1Vppとなるように調整したため、上限は40Armsとした。精度として、0.2Arms以上で±1%以内の誤差が保証される。
【0114】
貫通孔13の直径を2mmとし、磁気検知ユニット14の直線性範囲が6ガウス(G)の特性のものを使用した場合では、80Arms強の個所で越えてしまう。仮に、200Armsまで対応させる場合では、貫通孔13の直径を1mmにするだけで、磁気検知ユニット14に掛かる磁界は1/3になり、270Armsのような大電流にも同じレイアウトで可能になる。また、逆に小電流の仕様には、貫通孔13を大きくするだけで対応できる。
【0115】
実施例2では、一次導体12をセンサ基板11上に配置している例を想定している。しかし、図27の変形例に示すように、一次導体が銅板から成るバスバー19の場合は、図24の形態から一次導体12を除いたものをセンサ基板20の上にモジュール化することもできる。この場合には、バスバー19に穿けた貫通孔21にセンサ基板20を位置合わせして、センサ基板20をバスバー19に貼り合わせなどにより固定して使用することが可能である。なお、22はセンサ基板20上に設けられた回路素子、23は磁気検知ユニット14の信号を引き出す信号線である。
【0116】
このような構成とすることにより、予めバスバー19を布設した後においても、磁気検知ユニット14をモジュール化してバスバー19に組み付けることにより容易に組立てが可能となる。
【0117】
なお、上述の各実施例においては、貫通孔、切欠孔による非導電領域を設けて電流を迂回させたが、必ずしも孔部ではなく、絶縁材料を配置することによっても電流を迂回させることができる。
【0118】
<実施例3>
特開2006−184269号公報によれば、2個の磁気検知素子を使用することで、差動検知により外乱磁界を回避しようとする提案がなされている。この特許文献では、被測定電流による磁界検知を単一の磁気センサで検知する場合の外部磁界の影響を回避するために、一次導体としてのバスバーの中央部に開口部を形成して被測定電流を分流している。そして、開口部内に2つの導体部近傍に電流からの磁界がそれぞれ逆相になるようにそれぞれ磁気検知素子を配し、差動増幅によりバスバーから発生する磁界のみを検知している。
【0119】
しかしながら、この方法でも一様な磁界に対する影響は排除できても、隣接して電流線が平行して流れる場合には、2つの磁気検知素子にはその外乱となる磁界が等しく印加されず、結局は磁気シールドが不可欠となる。この点を解決する方法として、非導電領域を一次導体に設けるとともに、非導電領域の近傍に1つの磁気検知素子を設けることを実施例1、2で提案した。ここで、磁気検知素子は複数であってもよい。そこで、実施例3では、複数の磁気検知素子を設ける案について説明する。
【0120】
図28は被測定電流に対する電流測定を行う実施例3の基本的な電流センサの構成図である。一次導体1には検知対象の被測定電流Iが流れ、一次導体1は例えばプリント基板上の銅箔パターン又は銅板で形成されたバスバー等の形態とされている。
【0121】
一次導体1のほぼ中央には、電流の遮断を部分的に行うため非導電領域である円形の貫通孔2が設けられており、このため被測定電流Iの一部は図29に示すようにこの貫通孔2の両側において外側を対称的に回り込む迂回電流Iaとなっている。説明の便宜のために、一次導体1に座標軸を設定し、貫通孔2の中心を原点Oとして、被測定電流Iが流れる主方向をY軸、その直交軸である幅方向をX軸、厚み方向をZ軸とする。
【0122】
一次導体1上には、2つの磁気検知素子3a、3bがY軸方向に向けて直列的に配置されて差動検知が行われる。磁気検知素子3a、3bの検知部4a、4bをY軸方向が磁界検知方向となるようにし、検知部4a、4bの中心位置は、貫通孔2の中心よりもX軸方向に距離dx、Y軸方向にはX軸を挟んで距離dyずらした個所に配置されている。図28に示すように、異なる相の電流が流れる一次導体1’が近接し近接電流I’の方向が被測定電流Iと平行していても、近接電流I’の磁束Fによる磁界の影響はX軸方向のベクトル成分となり、Y軸方向成分を持たない。検知部4a、4bの磁界検知方向をY軸方向に取ると、磁気検知素子3a、3bは近接電流I’による磁界による干渉は受けず、被測定電流Iのベクトル成分Hyのみを検知できる。従って、このベクトル成分Hyを校正して換算すれば、被測定電流Iの電流量を求めることができる。
【0123】
使用する磁気検知素子3a、3bとして、X軸方向の磁界ベクトル成分Hxを検知することは望ましくないため、指向性の高い磁気インピーダンス素子や直交フラックスゲート素子が好適であり、実施例1では磁気インピーダンス素子を用いている。検知部4a、4bとして磁性薄膜のパターンが磁界検知方向のY軸方向につづら折りにより並列され、両端の電極5にMHz帯の高周波パルスを印加し、磁界の変化による検知部4a、4bの両端からの電圧振幅変化をセンサ信号として得ている。
【0124】
図30に示すように、一次導体1に対する磁気検知素子3a、3bの検知部4a、4bの高さhは、一次導体1と磁気検知素子3a、3bの位置関係を保持する構造上、必要なスペースと空間距離、沿面距離等の絶縁耐圧の関係で決められる。
【0125】
図31は検知回路100Aの構成図を示し、CRパルス発振回路30に対しブリッジを構成する抵抗Rに、磁気検知素子3a、3bの検知部4a、4bが接続されている。検知部4a、4bの両端電圧からの振幅変化を検波回路31により取り出した後に、差動増幅回路32で検知部4a、4bの出力に対し差動増幅が行われて、電流センサとしての出力を得る。
【0126】
この場合に、検知部4a、4bの出力は、感度が同じでX軸を挟んで対称な位置にあれば絶対値は同じになり、極性が異なるため、差動的に検知すると、出力は検知部4a又は4bの絶対値の2倍となる。また、外来の磁界ノイズは狭い範囲にある検知部4a、4bでは同相となり、検知部4a、4bの出力を差動的に捉えることにより、磁界ノイズは相殺されて、電流センサの出力に重畳されることはなく、迂回電流のベクトル成分Hyのみが測定されることになる。なお、磁気検知素子の出力を差動的に検知するには、少なくとも2個の検知部を用いればよい。
【0127】
なお、図31と図15とを比較すれば明らかなように、ブリッジ回路を形成している4つの抵抗が検知部に置き換わることになる。たとえば、3つの検知部を採用するのであれば、4つある抵抗のうちの3つの抵抗が検知部に置換される。さらに、4つの検知部を採用するのであれば、すべての抵抗が検知部に置換されることになる。
【0128】
図28においては、磁気検知素子3a、3bはXY平面上の第1、第4象限にそれぞれ設けているが、対称性から当然のことながら、その他の象限に隣接して配置することもできる。
【0129】
図32はこの場合の変形例を示し、磁気検知素子3aは第1象限に、磁気検知素子3bは第2象限に設け、Y軸に対して対称的に配置した場合においても同様の結果が得られる。迂回電流Iaによる磁界ベクトル成分Hc1は第1象限と第2象限においてY軸に関して対象ともなっている。従って、磁気検知素子3a、3bを第1象限、第2象限にそれぞれ配置し、絶対値が等しく極性が逆のY軸方向のベクトル成分Hyをそれぞれ検知することができる。この場合においては、隣接して平行する電流線の影響は僅かに受けるが、磁気検知素子3同士の間隔が狭いために、ほぼ磁界ノイズを差動検知により相殺することができる。
【0130】
<実施例4>
磁気検知素子である磁気インピーダンス素子や直交フラックスゲートセンサ等のように、磁気飽和や直線性の点で、検知磁界範囲を或る範囲内で管理しなくてはならない場合には、一次導体1の貫通孔2の径だけで測定レンジを調整できることが好ましい。
【0131】
図33は実施例4の電流センサの構成図である。図28における磁気検知素子3、4の検知部4a、4bの距離は短いことから、同一の素子基板6にX軸に関して対称に配置した磁気検知素子3a、3bを一体型として取り付けた磁気検知ユニット7とされ、性能のばらつきが抑制可能となっている。
【0132】
図34の変形例に示すように、一次導体1のX軸の正の領域だけ使う発想で、幅方向の端部に切欠孔8を設けることでも迂回電流を利用できる。この切欠孔8によっても、図28に示すように貫通孔2を設けた場合と同様に測定が可能である。なお、迂回電流をX軸に関して対称的に流すためには、切欠孔8はX軸に関して対称形であることが必要である。
【0133】
図35は他の変形例の構成図である。4個の磁気検知素子3a〜3dを一体化した磁気検知ユニット7において、第1、第2、第3、第4象限にそれぞれ検知部4a、4b、4c、4dを配置し、4素子によりブリッジ構成として動作させると、更にS/Nを向上させることができる。このように、貫通孔2の両側に検知部4a〜4dをX軸、Y軸に対称に配置すると、ベクトル成分HyがX軸、Y軸にそれぞれ対称となる。
【0134】
従って、X軸に関して検知部4aと4dの出力を差動検知、検知部4bと4cの差動検知、Y軸に関して検知部4aと4bの差動検知、検知部4dと4cの差動検知を同時に行うことができ、これらの検知結果の平均を求めれば更に測定精度が向上する。
【0135】
<実施例5>
図36は実施例3の電流センサの構成図である。厚さ1.6mmのガラスエポキシ材のセンサ基板11の片面に、X軸方向の幅10mm、Z軸方向の厚さ70μm、Y軸方向の長手方向50mmの銅パターンから成る一次導体12が設けられている。そして、一次導体12のX軸方向の中央に直径2mmの貫通孔13がエッチングにより形成されている。センサ基板11の他面には、図33と同様の位置に、一体型の磁気検知ユニット14が配置され、半田付けのための電極15a〜15cがセンサ基板11上に引き出されている。
【0136】
磁気検知ユニット14には磁気インピーダンス素子が用いられ、Fe−Ta−C系の磁性薄膜から成る検知部16a、16bは、それぞれ幅18μm、厚さ2.65μm、長さ1.2mmの細長い11本のパターンが並列に配置されている。そして、検知部16a、16bの磁界検知方向はY軸方向とされている。
【0137】
検知部16a、16bの位置は、貫通孔13の中心からX軸方向に距離dx=1.5mmだけオフセットされ、検知部16a、16bの中心間隔は、dy=3mmとし、貫通孔13の中心Oから幅方向に延びるX軸に対して対称的に配置されている。
【0138】
検知部16a、16bの複数本の磁性薄膜パターンは、図示は省略しているが電気的にはつづら折りで直列につながれて、両端はそれぞれの電極に接続され、センサ基板11上の電極15a〜15cに半田接合され、図示しないセンサ回路に接続されている。図36では、センサ基板11に引き出された電極15a→15c及び電極15b→15cの流れにより高周波パルスを印加する。
【0139】
磁気検知ユニット14はX軸方向の幅方向に磁化容易軸を設けておき、高周波のパルスを磁性薄膜のパターンに通電することで、外部磁界によりインピーダンスが変化し、磁気検知ユニット14の両端電圧を振幅検波によりセンサ信号に変換する。
【0140】
平行して流れる被測定電流I以外の電流の影響評価では、一次導体12から10mmの間隔を離して直径2mmの銅棒18を並列に配置し、10Armsの50Hzの電流I’を流して、一次導体12には電流を流さない条件で測定した。すると、磁気検知ユニット14では銅棒18を流れる電流I’の影響は観測されず、ノイズレベル以下(10mVpp以下)であった。隣接する平行な電流線からの磁界はX又はZ軸方向となり、Y軸方向の成分は持たないことと、検知部16a、16bと隣接する銅棒18との距離が等しいことで差動除去機能が効果的に働き、ノイズ的な磁界の影響もほぼ完全に除去できていることが確認された。
【0141】
実施例5では、一次導体12をセンサ基板11上に配置している例を想定した。しかし、図37の変形例に示すように一次導体が銅板から成るバスバー19の場合は、図36の形態から一次導体12を除いたものをセンサ基板20の上にモジュール化することもできる。この場合には、バスバー19に穿けた貫通孔21にセンサ基板20を位置合わせして、センサ基板20をバスバー19に貼り合わせなどにより固定して使用することが可能である。なお、22はセンサ基板20上に設けられた回路素子、23は磁気検知ユニット14の信号を引き出す信号線である。
【0142】
このような構成とすることにより、予めバスバー19を布設した後においても、磁気検知ユニット14をモジュール化してバスバー19に組み付けることにより容易に組立てが可能となる。
【0143】
なお、上述の各実施例においては、貫通孔、切欠孔による非導電領域を設けて電流を迂回させたが、必ずしも孔部ではなく、絶縁材料を配置することによっても電流を迂回させることができる。そして、これらの非導電領域はX軸に関しその両側で形状が対称であることが必要である。
【0144】
<実施例6>
実施例1ないし実施例5では、方向変更領域として非導電領域を採用した。つまり、実施例1ないし実施例5は、電流が非導電領域を迂回して流れることで発生する歪み磁界を検知し、検知した磁界から電流量を推定する発明である。実施例1ないし実施例5において共通した概念は、電流が非直線的に流れることを促進する領域を一次導体に設けることである。つまり、電流の流れる方向を曲げることができるのであれば、必ずしも非導電領域である必要はない。そこで、実施例6では、方向変更領域についての他の例について説明する。
【0145】
図38は被測定電流に対する電流測定を行う実施例6の基本的な電流センサの構成図である。一次導体1には検知対象の被測定電流Iが流れる。一次導体1の形態は例えばプリント基板上の銅箔パターン又は銅板で形成されたバスバー等の形態とされている。
【0146】
一次導体1のうち磁界の検知対象とする部分(主要部)は、長さがLで幅がW0で形成された矩形状の部分である。主要部において、電流が流れる後方と前方にはそれぞれ幅W1、W2の入口9a、出口9bが形成されている。幅W1、W2はいずれも幅W0よりも狭い。説明を判りやすくするため、入口9a、出口9bを幅W0に対して中央に設置しておく。
【0147】
一次導体1に座標軸を設定する。ここでは、磁気検知部の中心を原点Oとする。図38および図39が示すように、入口9a、出口9bを結ぶ線であって、磁気検知部の幅W0を2分割する直線と、磁気検知部の長さLを2分割する直線との交点を原点Oとしている。他の実施例と同様に、被測定電流Iが流れる主方向をY軸、その直交軸である幅方向をX軸、厚み方向をZ軸とする。
【0148】
一次導体1上には、2つの磁気検知素子3a、3bがY軸方向に向けて直列的に配置されて差動検知が行われる。なお、実施例1、2と同様に、磁気検知素子は1つでもよい。磁気検知素子3a、3bの構成は実施例1乃至5と同様である。磁気検知素子3a、3bの検知部4a、4bをY軸方向が磁界検知方向となるようにし、磁気検知素子3a、3bが配置される。検知部4a、4bの中心位置は、原点Oの中心よりもX軸方向に距離dx、Y軸方向にはX軸を挟んで距離dy1、dy2ずつずらした個所に配置されている。
【0149】
本来、電流により発生する磁束は電流方向と直交する方向を向く。そのため、一次導体1の幅方向を向く電流成分がない個所、つまり原点Oを通るX軸上ではX軸方向のベクトル成分Hxしか持たない磁場HC1ができる。
【0150】
しかし、原点Oよりもその電流が流れる前後方向でずれた位置での電流は、入口9a、出口9bに向けてY軸方向に対し傾いて流れる電流成分を持っている。これによって、Y軸方向のベクトル成分Hyが発生し、Hc2、Hc3のように磁場が蛇行する。Hc2、Hc3の磁場は、X軸に対して線対称である。ベクトル成分HyはX軸を挟んで逆極性になっている。
【0151】
図38に示すように、異なる相の電流が流れる一次導体1’が近接し近接電流I’の方向が被測定電流Iと平行していても、近接電流I’による磁界の影響はX軸方向のベクトル成分となり、Y軸方向成分を持たない。検知部4a、4bの磁界検知方向をY軸方向に取ると、磁気検知素子3a、3bは近接電流I’による磁界による干渉は受けず、被測定電流Iのベクトル成分Hyのみを検知できる。従って、このベクトル成分Hyを校正して換算すれば、被測定電流Iの電流量を求めることができる。
【0152】
磁気検知素子3a、3bが、X軸方向の磁界ベクトル成分Hxを検知すると電流の推定精度が低下する。そのため、磁気検知素子3a、3bとしては、たとえば、指向性の高い磁気インピーダンス素子や直交フラックスゲート素子がある。実施例6では磁気検知素子3a、3bとして磁気インピーダンス素子を用いている。検知部4a、4bとして磁性薄膜のパターンが磁界検知方向のY軸方向につづら折りにより並列されている。両端の電極5にMHz帯の高周波パルスを印加し、磁界の変化による検知部4a、4bの両端からの電圧振幅変化がセンサ信号として得られる。バイアス磁界が必要な場合は、不図示ではあるが、磁気検知素子3a、3bに近接した磁石または巻回したコイルにより印加する。
【0153】
図40に示すように、一次導体1に対する磁気検知素子3a、3bの検知部4a、4bの高さhは、たとえば、発生する磁界の大小調整、一次導体1と磁気検知素子3a、3bの位置関係を保持する構造上必要なスペース、空間距離、および、沿面距離等の絶縁耐圧の関係で決められる。
【0154】
電流検知装置として機能する検知回路100Aの構成は、図31に示した回路構成を採用できる。なぜなら、電流の流れる方向を変更する領域方向変更領域の具体的な構成が変わったとしても、本発明の電流検知装置の基本的な部分はそのまま使用できるからである。
【0155】
図41,図42,図43及び図44、並びに、図45は狭い出入口からの拡散電流に係わるY軸方向の磁界成分Hyのシミュレーションの結果を示している。一次導体1はX軸方向の幅W0=8mm、Z軸方向の厚さt=0.8mmの断面で、入口9a、出口9bは間隔Lを7.5mmとし、その幅方向の位置を幅W0の中央にする。入口9a、出口9bの幅をW1=W2=dとして、d=0.8、 1.2、 2.4、 3.6mmと振って、一次導体の表面(高さH=1.6mm)で、電流が流れる主方向の磁界Hyを計算した。被測定電流Iは1アンペア(A)とした。
【0156】
図41ないし図41Dは、d=0.8、 1.2、 2.4、 3.6mmのそれぞれにおけるシミュレーション結果である。座標はX≧0、Y≧0の第1象限で、ベクトル成分Hyの頂点を100%として、10%刻みで等高線を描いている。他の象限ではX軸又はY軸に関し対称な磁界分布が形成され、第3象限は第1象限と同一極性で、第2、第4象限は第1象限と逆極性の磁場が形成される。
【0157】
ピーク位置Pは、Y方向が2.5mmでほぼ変わらず、X方向は出入口の幅が広くなるに連れて1.7mmから2.15mmまで緩やかに移動している。
【0158】
出入口からのY方向の距離をLとする。ピーク位置Pは、L=7.5mmで1.25(=L/2−2.5)mmにあるが、L=11.5mmで計算したところでも1.35mmとなり、両者は大きくは変わらない。実用的な距離Lの寸法としては、ピークが明確に形成でき、かつ、隣接の逆相となるピークと干渉しないことを考慮して決定する。たとえば、距離Lは、1.25mmの4倍の5mm以上は確保すべきである。
【0159】
図45はピーク位置での磁界Hyを示したグラフである。図45によれば、入口9a、出口9bの幅W1とW0との比が10%(W0=8mm、d=0.8mm)では、1Aあたり0.08ガウスの磁界を発生していることがわかる。ミリガウス以下を検知できる磁気検知素子では、ピーク位置に置くことで1A以下の小さな被対象電流でも十分なS/Nで検知できる。
【0160】
入口9a、出口9bの幅W1、W2を広げていくと、幅方向に広がる電流成分が減ることで、急激に磁界Hyが下がる。よって、大電流を検知するには幅W1、W2を広げればよい。幅W1とW0との比が100%、つまりd=8mmでは、磁界がゼロになる。これは、大電流に対しての調整範囲を広く取れることを意味する。以上のことより、X=2mm、Y=2.5mmのところに磁気検知素子を固定すれば、幅W1、W2を変えるだけでいろいろな電流検知範囲の仕様に対応できることを意味する。
【0161】
このような特性は、磁気インピーダンス素子や直交フラックスゲートセンサ等のように、磁気飽和や直線性の点で、検知磁界範囲を或る範囲内で管理しなくてはならない素子には極めて都合が良い。生産性でも、素子の位置を固定しておいて、一次導体の出入口の幅を変えたものを数種類用意しておくことで、各種電流仕様に対応でき、電流センサのコスト低減に大きく寄与するだろう。
【0162】
図38においては、磁気検知素子3a、3bはXY平面上の第1、第4象限にそれぞれ設けている。しかし、対称性から当然のことながら、その他の象限に隣接して配置することもできる。図46は、磁気検知素子3aを第1象限に配置し、磁気検知素子3bを第2象限に配置した例を紙滅している。図47は、全ての象限に磁気検知素子を設けた例を示している。
【0163】
図47では、4個の磁気検知素子3a〜3dを一体化した磁気検知素子ユニットにおいて、第1、第2、第3、第4象限にそれぞれ検知部4a、4b、4c、4dを配置している。さらに、図31に示したように検知部4a、4b、4c、4dをブリッジ構成として動作させると、検知回路100AのS/Nを向上させることができる。このように、2原点Oの両側に検知部4a〜4dをX軸、Y軸に対称に配置すると、ベクトル成分HyがX軸、Y軸にそれぞれ対称となる。
【0164】
従って、X軸に関して検知部4aと4dの出力を差動検知、検知部4bと4cの差動検知、Y軸に関して検知部4aと4bの差動検知、検知部4dと4cの差動検知を同時に行うことができ、これらの検知結果の平均を求めれば更に測定精度が向上する。
【0165】
入口9a、出口9bが一次導体1の幅方向の中央にある場合は、素子の感度を同等に調整した素子をX軸又はY軸に対称に設置して差動動作させることで、一次導体1からの磁界による出力は2倍となり、同相の外部磁界はキャンセルされることになる。
【0166】
図48は変形例を示している。入口9aに至る導体の幅や、出口9b以降の導体の幅が細すぎると、大電流印加時に発熱の問題が発生するかもしれない。そこで、図48が示すように、電流の出入口をスリット溝7a、7b、7c、7dで規制することで、発熱自体を抑えることができるとともに、熱拡散も良くすることができるだろう。なお、図48から、一次導体1にスリット溝7a、7b、7c、7dを入れることで、上述した主要部、入口9a、および、出口9bが形成されていることを理解できよう。
【0167】
<実施例7>
実施例6では、座標位置で(2, 2.5)と(2, −2.5)の付近にそれぞれ磁気検知素子3a、3bの検知部4a、4bを置けば、入口9a、出口9bの幅W1、W2を変えることだけで被測定電流の仕様に対応できることを示した。別の方法としては入口9a、出口9bの配置位置を一次導体1の幅方向にオフセットさせても良い。図49にそのレイアウトを示す。図39のレイアウトから、入口9a、出口9bを幅方向にdwだけずらしたものである。これにより、電流の広がりが変わるため、磁気検知素子3a、3bの検知部4a、4bが配置された位置での磁界の方向を変えることができる。
【0168】
図50は、実施例7についてY軸方向の磁界成分Hyのシミュレーションの結果を示している。一次導体1のX軸方向の幅W0=8mm、Z軸方向の厚さt=0.8mmである。入口9a、出口9bは幅W1、W2ともに1.2mmである。磁気検知部である一次導体1のY軸方向の長さLを7.5mmとしている。実施例6のように入口9a、出口9bの位置が幅W0の中央にした状態では、オフセット量dw=0である。実施例7ではオフセット量dw=−2、 −1、 0、 1、 2mmのそれぞれについてシミュレーションを行った。
【0169】
磁気検知素子3aの座標位置をX=2、Y=2.5mmに固定している。電流が主に流れる方向の磁界成分Hyの磁界は、図50が示すとおり、オフセット量がマイナスになると調整シロが少ない。一方、オフセット量がプラスになると、つまり入口9a、出口9bと磁気検知素子との距離が縮まると、急激に磁界が低下し、反対の極性にまでいたる。よって、オフセット量がプラスになる領域では、磁界成分Hyを大幅に調整可能である。
【0170】
<実施例8>
図51は実施例8の電流センサの構成図である。センサ基板11は、ガラスエポキシ材であり、その厚さ1.6mmである。センサ基板11の片面に一次導体12が設けられている。一次導体12は、X軸方向の幅8mm、Y軸方向の長さが7.5mmで、Z軸方向の厚さ70μmの銅パターンである。X、Y軸の原点Oは一次導体12の中心に設定する。
【0171】
一次導体12の入口9a、出口9bは、X軸方向の幅Wの中央から幅W1=W2=1.2mmでY軸に沿って引き出されている。入口9a、出口9bを1.2mmの幅のままで長く引き出すと、大電流側では発熱が発生するかもしれない。そこで、実験では入口9a、出口9bの直ぐ近くで、芯線径1.6mmのケーブル線を半田付けして、被測定電流を印加した。
【0172】
センサ基板11の他面には、2つの磁気検知素子が一体化された磁気検知ユニット14が配置されている。磁気検知ユニット14からは半田付けのための電極15a〜15cがセンサ基板11上に引き出されている。
【0173】
磁気検知ユニット14には磁気インピーダンス素子が用いられている。Fe−Ta−C系の磁性薄膜から成る検知部16a、16bは、それぞれ幅18μm、厚さ2.65μm、長さ1.2mmの細長い並列に配置された11本のパターンにより構成されている。そして、検知部16a、16bの磁界検知方向はY軸方向とされている。
【0174】
図51が示すように、検知部16a、16bの位置は、貫通孔13の中心からX軸方向に距離dx=2mmだけオフセットされている。検知部16a、16bの中心間隔dyは5mmとしている。このように、磁気検知ユニット14はX軸に対して対称的に配置されている。
【0175】
検知部16a、16bの複数本の磁性薄膜パターンは、図示は省略しているが電気的にはつづら折りで直列につながれている。直列につながれた磁性薄膜パターンの両端はそれぞれの電極に接続されている。図51が示すように、磁性薄膜パターンの端部は、センサ基板11上の電極15a〜15cに半田接合され、検知回路100Aに接続されている。図51では、センサ基板11に引き出された電極15aから電極15cと、電極15bから電極15cとをペアとして高周波パルスを印加する。
【0176】
磁気検知ユニット14にはX軸方向(幅方向)に磁化容易軸を設けておく。高周波のパルスを磁性薄膜のパターンに通電することで、外部磁界によりインピーダンスが変化し、磁気検知ユニット14の両端電圧を振幅検波によりセンサ信号に変換する。それぞれの素子のバイアス磁界や回路ゲインを、相対的に差が出ないよう合わせておくと、差動検知の効果が高まる。
【0177】
平行して流れる被測定電流I以外の電流の影響評価では、一次導体12の端から10mmの間隔を離して直径2mmの銅棒18を並列に配置した。10Armsの50Hzの電流I’を銅棒18に流して、一次導体12には電流を流さない条件で測定を行った。磁気検知ユニット14では銅棒18を流れる電流I’の影響は、ノイズレベル以下(10mVpp以下)であった。隣接する平行な電流線からの磁界はX又はZ軸方向となり、Y軸方向の成分は持たないことと、検知部16a、16bと隣接する銅棒18との距離が等しいことで、差動除去機能が効果的に働き、ノイズ的な磁界の影響もほぼ完全に除去できていることが確認された。
【0178】
図52には、一次導体1の入口9a、出口9bの幅W1(=W2)を1.2mmと4.8mmとしたときの測定電流と出力電圧との関係を示す。なお、検知回路100Aを5Vの単電源で駆動したため、測定電流0Aに対する出力電圧を2.5Vに合わせてある。
【0179】
図45で示したように素子に掛かるY方向の磁界Hyは、1Aあたり0.078ガウスであり、前述の直線性が±3ガウスの範囲で確保されたセンサでは、±38.5Aを越えると直線性が低下することになる。図52に示した実測データでも40Aを越えたあたりから直線精度が低下していることが判る。この条件では、±40Aの仕様となる。
【0180】
直線性の良い範囲を広げるためには、入口9a、出口9bの幅を大きくすれば良い。幅W1、W2を4.8mmにしたものは、磁界Hyは1Aあたり0.038ガウスとなり、±79Aまでは直線精度が確保されることになり、実測のデータでも±80Aで直線精度が確保されていることが判る。感度の差は、差動増幅のゲインで調整すればよい。
【0181】
このことは使用する磁気検知素子や回路構成を同じにして、電流の出入口の幅だけを変えることで、所望の測定電流範囲で直線精度を確保することができることを意味する。
【0182】
実施例8では、一次導体12をセンサ基板11上に配置している例を想定した。しかし、図53の変形例に示すように一次導体が銅板から成るバスバー19の場合は、磁気検知素子と処理回路の電気部品や端子とを実装したセンサ基板20とを位置合わせてしてモジュール化をしておくことができる。バスバー19は相手の基板に挿して半田付けして使えるよう、先端が細く加工されている。磁気検知ユニット14の保持は、簡単な図示ではあるが、樹脂モールド部材のような非導電部材24に組み付けて、位置精度と絶縁性の両方を確保しておくことができる。なお、22はセンサ基板20上に設けられた回路素子、23は磁気検知ユニット14の信号を他の回路基板と接続する端子である。
【0183】
このような構成により、バスバー19には電流検知部の出入口21となる切り欠き部分の幅や位置を変えたものを何種類か用意するだけで、幅広い電流仕様に対応でき、製品の自由度が確保できる。
【0184】
なお、図53に示す電流センサ24においては、例えば、図1におけるテーブルタップ100に対して実装されると、バスバー19の各端子がコンセント基板22に接続される。また、バスバー19上には、センサ基板20が配置され、このセンサ基板20上には磁気検知ユニット14、及びロジック回路・オペアンプ、ロジック回路・オペアンプの電源+3.3V、GND、電流センサの出力電圧Vout、バイアス電位Vref1が端子23に接続される。
【0185】
図54は、図53におけるセンサ基板20の詳細な回路図である。CRパルス発振回路150に対しブリッジを構成する抵抗153に、磁気検知ユニット14が接続されている。検波回路151は、検知部の検知信号である両端電圧からの振幅変化を取り出して増幅回路152へ出力する。オペアンプ154は、振幅変化を増幅して出力する。
【0186】
以上で説明したように、本発明によれば、被測定電流が流れる導体の一部に被測定電流の流れる方向を主方向から別の方向に変更する方向変更領域を設けることに1つの特徴がある。さらに、本発明では、方向変更領域によって流れる方向を変更された被測定電流によって生じた磁界を磁気検知素子によって検知することに特徴がある。これにより、電流の測定対象である一次導体と平行に配置された別の導体に流れる電流が発生する磁界の影響を受けにくくなる。つまり、電流の測定精度を向上させることができる。したがって、このような電流センサ24を図1のテーブルタップ100に用いることで、電気機器の消費電力を正確に検知することができる。
【0187】
なお、方向変更領域としては、電流の流れを妨げる非導電領域がある。上述した実施例では非導電領域として孔を採用したが、当該孔に絶縁体などの非導電性の部材が挿入されていてもよい。また、貫通した孔ではなく、底のある穴であってよい。孔に代わりに穴を形成する場合は、穴の底を形成する部分の厚さは、磁界の方向を十分に変更できるよう、穴の深さに対して十分に薄くなければならない。
【0188】
電流は非導電性領域を迂回する迂回電流になるため、非導電性領域の近傍では磁界がひずむ。とりわけ、電流の主方向(Y軸方向)にのみ磁界検知感度を有した磁気検知素子を配置すれば、X軸方向など他の方向の磁界の影響を受けないため、測定精度が向上する。
【0189】
測定精度を向上させるために、磁気検知素子の数は複数であってもよい。たとえば、一次導体の中心を通るY軸に対して線対称となるように2個の磁気検知素子を配置したり、X軸に対して線対称となるように2個の磁気検知素子を配置したりしてもよい。さらに、これらを組み合わせて、合計で4個の磁気検知素子を配置してもよい。
【0190】
なお、実験結果から、磁気検知素子の検知部を、非導電領域の中心からX軸と、Y軸とでそれぞれ0.5ないし2.5mmの距離だけ離した範囲に配置すると、測定精度が向上する。
【0191】
また、方向変更領域としては、電流が流れる一次導体の主要部に対して、主要部の幅W0よりも狭い幅W2の出口9bと、主要部の後方に主要部の幅W0よりも狭い幅W2の入口9aを設けてもよい。なお、精度は低下するが、入口9aと出口9bとのうちいずれか一方のみを主要部に配置してもよい。なお、磁気検知素子の配置位置や数は、非導電領域についての配置位置や数と実質的に同様であってよい。
【0192】
また、被測定電流の検知範囲も、非導電領域の大きさを変えるだけで、容易に調整できるため、設計の自由度も大きい。
【0193】
本発明は上記実施の形態に制限されるものではなく、本発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。
【0194】
[他の実施形態]
以上本発明を実施形態1に基づいて詳細に説明したが、本発明は上述した実施形態1に限定されるものではない。例えば、図55に示すように、上述した実施形態1のコンセント基板220にカレンダー機能を持つリアルタイムクロック286を追加してもよい。この場合、マイコン(CPU)280は、図56に示されるように、EEPROM285の不揮発性メモリに測定時刻と共に電流、電力等のデータを格納する。これにより、表示機能を備えたコンピュータ等の外部装置は、図56に示されるデータを受信し、時刻と共に電力等を表示することができる。このとき外部装置で表示されるデータは、受信したデータをそのまま表示してもよいし、適宜、グラフ等のデータに変換した2次データを表示するようにしてもよい。
【0195】
このような図55に示す構成にすることにより、電気機器の使用状態をより確実に測定することができる。具体的には、パーソナルコンピュータ等の外部端末の電源がオンとなっていない場合、測定された電流値、消費電力、消費電力量等については、送信すべき外部機器で電源がオフであるから送信することができず、オフ時の測定データの欠落が生じることが想定される。これに対し、リアルタイムクロックのような、各コンセントの使用時刻又は使用時間を計る計時手段を設けつつ、コンセントの使用時刻又は使用時間に対応した電気機器の消費電力に基づく消費電力情報をEEPROMのような不揮発性の記憶手段に記憶させておくことにより、外部端末にデータ送信できるとき(接続状態のとき)はそのまま消費電力情報を送信し、外部端末に対してデータ送信ができないとき(接続が切断状態のとき)は記憶手段に消費電力情報を記憶させておけるので、データ通信ができる状態となったときに未転送の消費電力情報を確実に送信することができる。なお、マイコン(CPU)は、通信が接続状態のときは、データ送信をリアルタイムに行い、接続状態から切断状態となっても各コンセントの使用時刻又は使用時間のカウントを継続してその後の送信に備えるようにしてもよいし、或いは切断状態となった後に、次の送信のために各コンセントの使用時刻又は使用時間を計りはじめるようにすることも可能である。これにより、転送済みの消費電力情報と未転送の消費電力情報とを区別して管理することができ、後の接続状態において未転送の消費電力情報を送信することで外部端末側にて情報管理を適切に行うことができる。なお、上述した計時手段は、電流センサに設けてもよいし、電流センサを実装する基板に設けてもよいし、外部端末側に設けてもよい。
【0196】
また、本発明は、例えば、図57に示すように、容量分圧による電圧測定を、ステップダウントランス1000に置き換えてもよい。この場合、ステップダウントランス1000は、入力AC電圧を降下させるもので、その出力はオペアンプの入力動作電圧を超えない電圧に設定される。これにより、AC入力電源の絶縁耐圧、絶縁抵抗を、容量分圧方式、抵抗分圧方式に比べ大きくできるため、安全性を増す事ができる。
【0197】
さらに、本発明は、例えば、図58に示すように、図3に示される容量分圧による電圧測定を、抵抗分圧に置き換えている以外は、基本的に図3と同様である。図58に示す回路の場合、+1.65Vを中心として、±100*√2*(3.3/1003.3)=±0.465V、即ち、分圧出力500、501には±0.465Vが出力され、フィルタを通してオペアンプに入力される。
【0198】
また、本発明は、以下の処理を実行することによっても実現される。即ち、上述した実施形態の機能を実現するソフトウェア(プログラム)を、ネットワーク又は各種記憶媒体を介してシステム或いは装置に供給し、そのシステム或いは装置のコンピュータ(またはCPUやMPU等)がプログラムを読み出して実行する処理である。
【符号の説明】
【0199】
100 テーブルタップ
200 コンセントプラグ
201 AC+
202 AC−
210 配線パターン
211 配線パターン
220 コンセント基板
240 コモンモードチョークコイル
250 電源
260 コンデンサ
270 マルチプレクサ
280 マイコン(CPU)
290 通信モジュール
300 電源コード


【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定対象となる電気機器が接続されるコンセントと、
外部電源に接続されるプラグと、
前記コンセント及びプラグの間を接続する導体と、
前記導体に印加される電圧を測定する電圧測定手段と、
前記導体を流れる電流を測定する電流測定手段と、
前記電圧測定手段から得られる電圧値と前記電流測定手段から得られる電流値とに基づいて、前記電気機器の消費電力を求める電力取得手段とを備え、
前記電流測定手段は、前記導体を流れる被測定電流の流れ方向を別の方向に変更する電流方向変更領域と、前記電流方向変更領域により電流方向が変更された被測定電流によって生じる磁気を検知する磁気検知素子と、前記磁気検出素子の出力から前記被測定電流の電流値を求める電流値取得手段とを有することを特徴とする消費電力測定装置。
【請求項2】
前記コンセントの使用時刻又は使用時間を計る計時手段と、
前記コンセントの使用時刻又は使用時間に対応する前記電気機器の消費電力情報を記憶する記憶手段とを備えることを特徴とする請求項1に記載の消費電力測定装置。
【請求項3】
前記記憶手段は、不揮発性メモリであることを特徴とする請求項2に記載の消費電力測定装置。
【請求項4】
前記電力取得手段により求めた前記電気機器の消費電力に基づく消費電力情報を外部端末に無線により送信する送信手段を更に備えることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の消費電力測定装置。
【請求項5】
前記送信手段は、前記外部端末との接続が切断状態から接続状態に移行後に、前記外部端末に未送信の前記電気機器の消費電力情報を送信することを特徴とする請求項4に記載の消費電力測定装置。
【請求項6】
被測定対象となる電気機器が接続されるコンセントと、
外部電源に接続されるプラグと、
前記コンセント及びプラグの間を接続する導体と、
前記導体に印加される電圧を測定する電圧測定手段と、
前記導体を流れる電流を測定する電流測定手段と、
前記電圧測定手段から得られる電圧値と前記電流測定手段から得られる電流値とに基づいて、前記電気機器の消費電力を求める電力取得手段と、
前記コンセントの使用時刻又は使用時間を計る計時手段と、
前記コンセントの使用時刻又は使用時間に対応した前記電気機器の消費電力に基づく消費電力情報を記憶する記憶手段と、
前記電気機器の消費電力情報を外部端末に送信する送信手段とを備え、
前記送信手段は、前記記憶手段内から前記電気機器の消費電力情報を前記外部端末に送信することを特徴とする消費電力測定装置。
【請求項7】
前記送信手段は、前記外部端末との接続が切断状態から接続状態に移行後に、前記外部端末に未送信の前記電気機器の消費電力情報を送信することを特徴とする請求項6に記載の消費電力測定装置。
【請求項8】
前記計時手段は、前記送信手段と前記外部端末との接続が切断状態に移行後から前記コンセントの使用時刻又は使用時間を計りはじめることを特徴とする請求項6又は7に記載の消費電力測定装置。
【請求項9】
前記記憶手段は、不揮発性メモリであることを特徴とする請求項6乃至8のいずれか1項に記載の消費電力測定装置。
【請求項10】
被測定対象となる電気機器の消費電力を測定する消費電力測定装置と、前記消費電力測定装置に接続されて当該消費電力測定装置から送信される前記電気機器の消費電力を表示する表示装置とを備えた消費電力管理システムであって、
前記消費電力測定装置は、被測定対象となる電気機器が接続されるコンセントと、外部電源に接続されるプラグと、前記コンセント及びプラグの間を接続する導体と、前記導体に印加される電圧を測定する電圧測定手段と、前記導体を流れる電流を測定する電流測定手段と、前記電圧測定手段から得られる電圧値と前記電流測定手段から得られる電流値とに基づいて、前記電気機器の消費電力を求める電力取得手段と、前記コンセントの使用時刻又は使用時間を計る計時手段と、前記コンセントの使用時刻又は使用時間に対応した前記電気機器の消費電力に基づく消費電力情報を記憶する記憶手段と、前記電気機器の消費電力情報を前記表示装置に送信する送信手段とを備えており、
前記消費電力測定装置は、前記送信手段と前記表示装置との接続が接続状態に移行後に、前記記憶手段内から前記電気機器の消費電力情報を前記表示装置に送信することを特徴とする消費電力測定システム。
【請求項11】
前記表示装置は、ディスプレイを有する携帯型端末装置であることを特徴とする請求項10記載の消費電力測定システム。
【請求項12】
前記記憶手段は、不揮発性メモリであることを特徴とする請求項10又は11に記載の消費電力測定システム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【図41】
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【図42】
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【図43】
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【図44】
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【図45】
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【図46】
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【図47】
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【図48】
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【図49】
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【図50】
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【図51】
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【図52】
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【図53】
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【図54】
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【図55】
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【図56】
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【図57】
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【図58】
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【公開番号】特開2013−104820(P2013−104820A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−249962(P2011−249962)
【出願日】平成23年11月15日(2011.11.15)
【出願人】(000104652)キヤノン電子株式会社 (876)