説明

消防活動支援システム

【課題】火災側の温度情報を把握し、消防活動が安全かつ迅速に行える。
【解決手段】火災時に避難経路となる付室1に設けた給気加圧設備10と、複数の防火扉4を有する居室2及び廊下3のそれぞれの排煙を行うための排煙設備20と、居室2及び廊下3での煙の発生を検知する煙検知装置5と、第1防火扉4A及び第2防火扉4Bのそれぞれに設けられ、各防火扉4A、4Bの温度情報を付室1側の非火災室側扉面4sに表示する温度表示部6とを備え、煙検知装置5で居室2の煙を検知したときに、給気加圧設備10により付室1の加圧給気を行うとともに、排煙装置20により居室2の排煙を行い、付室1から居室2への消防隊の進入を支援するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、火災現地において火災室に安全に進入することを可能とする消防活動支援システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、消防士の活動を支援するシステムとして、消防士に加速度センサーを装着させ、消防士の姿勢データを無線により所定の遠隔地へ送信し、その遠隔地にて消防士の作業異常の有無を確認するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
ところで、建物における火災時の消防活動として、主に付室、廊下、居室にわたる進入経路を通じて行われており、一般的には、消火だけではなく、避難者の探索や救助などがあり、防火区画やスプリンクラーと同等以上に重要な役割を担っている。とくに、超高層ビルや病院等の建物では、消防活動の迅速性が在館者の救助に大きく影響することから、その重要性が一段と増している。そして、消防活動の迅速性を左右する要因として火災室の情報把握がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−318187号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の消防活動では、以下のような問題があった。
すなわち、建物における一般的な室は、扉や壁によって囲まれていて室内の状態が見え難くなっているので、室内の燃焼状況が室外からは確認しにくく、室内のどの位置で盛んに燃えていて消防活動をする上での進入が困難であるかが分からないといった問題があった。とくに、防火区画の壁や鉄扉の防火扉といった防火設備からなる火災外力に強い室ほど、内部の正確な火災情報が捉え難い状態となっている。
そのため、火災発生箇所に近い火災室の扉を開放してしまうと、開放した途端に高温熱気流が室外へ噴出し、消防隊が暴露されるおそれがあった。そこで、消防隊は、火災室内の火災位置や高熱発生箇所の情報を火災室への進入に先だって収集し、十分に検討してから進入を開始しており、これに伴う時間を要することから、消防活動の迅速性が低下するといった問題があった。
【0005】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、火災側の温度情報を把握し、消防活動が安全かつ迅速に行える消防活動支援システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明に係る消防活動支援システムでは、火災時に避難経路となる非火災室から複数の防火性扉を有する火災室への消防隊の進入を支援するための消防活動支援システムであって、非火災室に設けた給気加圧手段と、火災室に設けた排煙手段と、火災室で発生した煙を検知する煙検知手段と、複数の防火性扉のそれぞれに設けられ、防火性扉の温度情報を非火災室側扉面に表示する温度表示手段と、を備え、煙検知手段で火災室の煙を検知したときに、給気加圧手段により非火災室の加圧給気が行われるとともに、排煙手段により火災室の排煙が行われる構成としたことを特徴としている。
【0007】
本発明では、火災室で火災が発生し、煙検知手段で煙が検出されたとき、この検知情報に基づいて給気加圧手段により非火災室の加圧給気が行われ、排煙手段により火災室の排煙が行われ、これにより非火災室から火災室へ向けて強制的な空気の流れが形成される。
そして、火災室の複数の防火性扉の非火災側扉面にはそれぞれ温度表示手段が設けられているので、消防隊員は各防火性扉の温度情報を目視により確認することができる。ここで、温度表示手段で表示する温度は防火性扉の温度であり、火災室の防火性扉の周囲温度を示すものとなる。そのため、非火災室側から各防火性扉の温度表示手段を目視確認し、温度の低い防火性扉を選択して火災室へ進入することにより、火災室内の火災発生箇所から離れた位置へ進入することができ、安全な消防経路を確保することができる。さらにこのとき、前述したように非火災室から火災室へ強制的な給気によって加圧されているので、消防活動に伴い非火災室側から火災室の防火性扉が開放されても、火災室から非火災室へ煙が流出することがない。
【0008】
また、防火性扉の温度表示手段を確認する作業のみとなるので、火災室へ進入する際に、経路を選択するための検討にかかる時間を低減することができ、消防隊による迅速な進入を促進することが可能となる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の消防活動支援システムによれば、防火性扉の温度表示手段により火災室側の温度情報を目視確認することで、温度の低い適切な防火性扉を開放して火災室へ進入することが可能な最適な経路を消防隊に示唆することができ、また給気加圧手段と排煙手段とに基づく気流を形成することで防火性扉の開放時にも非火災室側への煙の流出を抑えることができ、これにより安全で迅速な消防活動を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施の形態による消防活動支援システムの一例を示した側面図である。
【図2】図1に示す消防活動支援システムの適用する建物の平面図である。
【図3】温度表示部を備えた防火扉の正面図である。
【図4】消防活動支援システムによる消防活動状態を説明するための図である。
【図5】変形例による消防活動支援システムを示す側面図であって、図1に対応する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態による消防活動支援システムについて、図面に基づいて説明する。
【0012】
図1に示すように、本実施の形態による消防活動支援システムは、火災時に避難経路となる階段の付室1(非火災室)から火災が発生した居室2(火災室)への消防隊の進入を支援するためのものであり、消防隊が使用する進入経路の防煙性を高め、先に進入可能か否か、また進入可能な場合のより安全な進入経路がどれかを提示することを可能としたものである。
【0013】
ここで、本消防活動支援システムを適用する建物は、廊下3(火災室)を挟んで居室2と付室1とが配置されている。具体的は、図2に示す平面図において、建物中心部に2つの付室1(1A、1B)を備え、この中心部を囲うようにして廊下3が設けられ、さらに廊下3の周囲に居室2が配置されている。
そして、居室2には廊下3に面した防火性能を有する複数(図2では符号4a〜4hの8つ)の防火扉4(第1防火扉4A)が設けられ、各付室1A、1Bには廊下3に面して同じく防火性能を有する防火扉(第2防火扉4B)が設けられている。
【0014】
図1に示すように、消防活動支援システムは、付室1に設けた給気加圧設備10(給気加圧手段)と、居室2及び廊下3のそれぞれの排煙を行うための排煙設備20(排煙手段)と、居室2及び廊下3での煙の発生を検知する煙検知装置5(煙検知手段)と、第1防火扉4A及び第2防火扉4Bのそれぞれに設けられ、各防火扉4A、4Bの温度情報を付室1側の扉面(以下、非火災室側扉面4sという)に表示する温度表示部6(温度表示手段)と、から構成されている。
そして、煙検知装置5で居室2或いは廊下3の煙を検知したときに、給気加圧装置10により付室1の加圧給気が行われるとともに、排煙装置20により居室2或いは廊下3の排煙が行われるようになっている。
【0015】
給気加圧設備10は、給気ファン11から給気ダクト12を介して付室1へ加圧給気を行うものである。給気ファン11は、前記煙検知装置5の検知情報に基づいてオンオフ制御されている。
さらに、付室1から廊下3への給気は、図示しないガラリ等の第2防火扉4B以外の開口を通して行うことも可能である。この場合、開口部には、廊下3で消防活動ができないような高温になると、例えば熱感知器などによって自動的に閉鎖する機構を備えておくことが好ましい。
【0016】
排煙設備20は、居室2及び廊下3のそれぞれに設けられた排煙口21A、21Bから排煙ダクト22(22A、22B、22C)を介して排煙ファン23に接続され、さらに排煙口21A、21Bに接続される排煙ダクト22A、22Bのそれぞれには切替えダンパー24A、24Bが設けられている。
ここで、図1において、居室2に対応する部材には符号Aを付し、廊下3に対応する部材には符号Bを付している。
【0017】
排煙ダクト22は、居室2の排煙口21Aと廊下3の排煙口21Bのそれぞれに第1ダクト22A、第2ダクト22Bが接続され、各ダクト22A、22Bの下流側で第3ダクト22Cに合流し、さらに第3ダクト22Cが下流側で排煙ファン23に繋がれている。
なお、本排煙設備20では、居室2と廊下3の排煙に共通の排煙ファン23を使用する構成であるが、この排煙ファン23の代わりに自然排煙口による開口部を用いることも可能である。
【0018】
切替ダンパー24A、24Bは、居室2及び廊下3のそれぞれに設けられる煙検知装置5の検知信号に応じて、排煙を行うダクト内空間の開閉の切り替えを行うものである。
【0019】
図3に示すように、第1防火扉4Aおよび第2防火扉4Bに備えた温度表示部6は、比較的に温度が高くなり易い扉上部に横長に配置され、例えば温度感応型の塗料を扉面の所定位置に塗布することにより形成される温度感応膜が採用されており、その塗料が瞬時に色変化することを利用したものとなっている。つまり、温度表示部6は、防火扉4自体が所定温度(例えば600℃程度)に達したときに塗料が変色するものであり、付室1側の扉面(非火災室側扉面4s)に目視可能に表示されている。
【0020】
すなわち、居室2の第1防火扉4Aの場合、この扉4A近傍の居室2内の温度(正確には第1防火扉4A自体の温度)を廊下3側の扉面(非火災室側扉面4s)より目視により確認できる。また、付室1の第2防火扉4Bの場合、この扉4B近傍の廊下3内の温度(正確には第2防火扉4B自体の温度)を付室1側の扉面(非火災室側扉面4s)より目視により確認できるようになっている。
【0021】
次に、上述した消防活動支援システムを用いた火災現地における消防活動について、図面に基づいて詳細に説明する。
ここで、図2に示すように、防火扉4は、居室2の第1防火扉4Aが8箇所(符号4a〜4h)設けられ、付室1の第2防火扉4Bが2箇所(符号4i、4j)設けられている。
そして、煙検知装置5は、居室2において符号5a、5b、5c、5dの4箇所設けられ、廊下3において符号5e、5f、5g、5hの4箇所設けられている。
また、居室2の排煙口21A及び廊下3の排煙口21Bは、それぞれ前記煙検知装置5a〜5hに対応して設けられ、図2において符号21a〜21hで示している。
【0022】
先ず、居室2で発生した煙が廊下3側へ漏出しない場合について説明する。
消防活動支援システムでは、図2に示すように、居室2の火災発生箇所P(図3で右上)で火災が発生し、煙検知装置5aで煙が検出されたとき、この検知情報に基づいて図1に示す給気加圧装置10により付室1の加圧給気が行われ、排煙装置20により居室2の排煙が行われ、これにより付室1から廊下3を介して居室2へ向けて強制的な空気の流れが形成される。このとき、図1に示すように、廊下3側の煙検知装置5では煙を検出せず、廊下3側の第2ダクト22Bが切替ダンパー24Bで閉鎖され、居室2側の第1ダクト22Aが開放される。
また、このときの排煙は、火災発生箇所Pに直近の排煙口21aが選択されて排煙が行われ、これにより火災箇所の煙の拡大を防止することが可能な効果的な気流を形成することができる。そして、この気流は、前述のように火災発生箇所Pより離れた防火扉4を開放することで維持することが可能となっている。
【0023】
そして、図1に示すように、居室2の複数の防火扉4の非火災側扉面4sにはそれぞれ温度表示部6(図3参照)が設けられているので、消防隊員は各防火扉4の温度を目視により確認することができる。ここで、温度表示部6で表示する温度情報は防火扉4の温度であり、居室2及び廊下3の防火扉4の周囲温度を示すものとなる。そのため、非火災室側から各防火扉4の温度表示部6を目視確認し、温度の低い防火扉4を選択して火災室となる居室2へ進入することにより、居室2内の火災発生箇所Pから離れた位置へ進入することができ、安全な消防経路を確保することができる。
【0024】
さらに具体的に説明する。ここで、図4は、消防隊員の進入経路の一例を示している。
図2及び図4に示すように、付室1から廊下3へ進入する場合には、2つの防火扉4i、4jの温度表示部6を目視確認し、そのうち火災発生箇所Pより離れていて温度の低い防火扉4jを選択して廊下3に進入する。ここで、温度の低い防火扉4とは、温度感応膜において所定温度に達していない状態で、高温を示す色に変化していないものをいう。
【0025】
続いて、廊下3から居室2へ進入する際には、複数の防火扉4a〜4hの温度表示を確認し、そのうち火災発生箇所Pより離れていて温度の低い例えば符号4fの防火扉を選択して居室2に進入することができる。
つまり、図4に示すように、符号4jの防火扉を使って付室1から廊下3へ進入し、符号4fの防火扉を使って廊下3から居室2へ進入する消防経路Sを選択することで、より安全な消防活動を行うことができる。
【0026】
さらにこのとき、前述したように付室1から居室2へ強制的な給気によって加圧されているので、消防活動に伴い付室1側の廊下3から居室2の防火扉4が開放されても、居室2から廊下3へ煙が流出することがない。
【0027】
また、防火扉4の温度表示6を確認する作業のみとなるので、廊下3や居室2へ進入する際に、経路を選択するための検討にかかる時間を低減することができ、消防隊による迅速な進入を促進することが可能となる。
【0028】
次に、居室2で発生した煙が廊下3に漏煙した場合について説明する。
この場合、図1に示すように、廊下3の煙検知装置6で煙を検出し、廊下3側の第2ダクト22Bを切替ダンパー24Bによって開放し、居室2側の第1ダクト22Aを切替ダンパー24Aによって閉鎖し、居室2からの排煙を止め、廊下3のみから排煙する。すなわち、付室1に隣接する廊下3で煙が発生しているとき、付室1と廊下3との間で排煙による強制的な気流を形成させることができ、煙の拡散を防止することができる。
【0029】
上述のように本実施の形態による消防活動支援システムでは、防火扉4の温度表示部6により火災室側となる居室2や廊下3の温度情報を目視確認することで、温度の低い適切な防火扉4を開放して居室2や廊下3へ進入することが可能な最適な経路を消防隊に示唆することができ、また給気加圧設備10と排煙設備20とに基づく気流を形成することで防火扉4の開放時にも付室1側への煙の流出を抑えることができ、これにより安全で迅速な消防活動を行うことができる。
【0030】
以上、本発明による消防活動支援システムの実施の形態について説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本実施の形態では防火扉4を採用しているが、これに限定されることはなく、建物に必要な防火性をもった防火性扉であればよい。
また、本実施の形態では居室2と廊下3を火災室とした一例を示しているが、廊下3を省略した建物、すなわち居室2が付室1に直接面している建物であってもかまわない。
【0031】
さらに、本実施の形態では温度表示部6として塗布による温度感応膜を採用しているが、これに限定されることはない。例えば、図1において居室2の第1防火扉4Aで居室2側(火災室側)の扉面に温度センサーを設けておき、この検出値を廊下3側の扉面に表示するような温度表示手段を採用することも可能である。そして、扉面における温度表示部6の位置も、とくに制限されることはなく、消防隊員が目視により確認できる位置であれば良い。
【0032】
さらにまた、給気加圧設備10、排煙設備20の具体的な構成(排煙口の位置、数量など)については、建物の条件に応じて適宜設定することが可能である。
例えば、図5に示す変形例は、排気設備20Aにおいて、居室2と廊下3でそれぞれ別々の排煙ファン23A、23Bで排煙を行う構成としたものである。
【符号の説明】
【0033】
1 付室(非火災室)
2 居室(火災室)
3 廊下(火災室)
4 防火扉(防火性扉)
4s 非火災室側扉面
4A 第1防火扉
4B 第2防火扉
5 煙検知装置(煙検知手段)
6 温度表示部(温度表示手段)
10 給気加圧設備(給気加圧手段)
20 排煙設備(排煙手段)
24A、24B 切替ダンパー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
火災時に避難経路となる非火災室から複数の防火性扉を有する火災室への消防隊の進入を支援するための消防活動支援システムであって、
前記非火災室に設けた給気加圧手段と、
前記火災室に設けた排煙手段と、
前記火災室で発生した煙を検知する煙検知手段と、
複数の前記防火性扉のそれぞれに設けられ、該防火性扉の温度情報を非火災室側扉面に表示する温度表示手段と、
を備え、
前記煙検知手段で前記火災室の煙を検知したときに、前記給気加圧手段により前記非火災室の加圧給気が行われるとともに、前記排煙手段により前記火災室の排煙が行われる構成としたことを特徴とする消防活動支援システム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−85683(P2012−85683A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−232611(P2010−232611)
【出願日】平成22年10月15日(2010.10.15)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)