説明

消霧ネット

【課題】遠赤外線輻射装置と併用しなくても十分な消霧効果を有し、その効果が持続する消霧ネット及び該消霧ネットの製作に用いる消霧ネット用樹脂組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】熱可塑性樹脂に、その2〜15質量%の遠赤外線放射物質を含有することを特徴とする消霧ネット用樹脂組成物及び該樹脂組成物から製作される消霧ネット。また、上記消霧ネット用樹脂組成物は、上記熱可塑性樹脂がポリエステル樹脂であり、上記遠赤外線放射物質がシリカを主成分としていることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消霧装置に関するものであり、より詳細には、車道、線路、滑走路または航路等に発生した霧を通過させてその霧を消失または減少させることのできる消霧ネット及び該消霧ネットの製作に用いる消霧ネット用樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高速道路、線路、滑走路または航路等に発生する霧は、車両、船舶または航空機等の視界を遮り、交通機関の重大な運行障害をもたらす。このため、霧対策に関し、霧の発生を予測する気象学的研究、霧中の車両等の安全運行を目的とした運行制御システムまたは光学的制御システム等の研究、更には、霧を人為的に除去する消霧方法の研究等が、多様な観点より過去数十年前間に亘って行われてきた。
【0003】
消霧方法に関する過去の研究は、人為的手段によって自然界の霧を積極的に除去することを意図としたものであり、これまでに研究された消霧方法は、主として、(1)
加熱・乾燥装置を用いて大気の相対湿度を人為的に低下させ、霧粒の蒸発を促進する消霧方式と、(2)上空から氷晶核を空中撒布し、大気中の霧粒を自由落下可能な水滴に成長させる消霧方式とがあった。例えば、前者の消霧方式として、加熱装置の熱風を霧に吹付けて霧を蒸発させる形式の消霧装置、或いは、霧を吸引して加熱・乾燥した後に大気に還流する形式の消霧装置などが提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
また、他の形式の消霧方法として、コロナ放電を誘発して霧を水滴化して捕捉する消霧方式、霧を攪拌しまたは遠心分離して大気から霧粒を除去する消霧方法(特許文献2参照)、更には、エアカーテンを車道上部に形成して霧の進入を阻止する消霧方法(特許文献3参照)など、多種多様な消霧方法が、今日までに提案されてきたが、これらの消霧方法は、依然として実用化されておらず、今後の継続的研究または実用化の可能性すら明確ではない。これは、従来の消霧方法を現実の自然環境に適用する場合に、非現実的な高額投資を要する実情、或いは、消霧効果の再現性または確実性を期待し難い事情などに起因するものと考えられる。
【0005】
そこで、特許文献4には過大な熱エネルギーの供給を要することなく、比較的軽量且つ小型の機器類の使用により、効率的な霧の消失効果を現実の自然環境下に発揮し得る消霧装置及び消霧方法が開示されている。
【0006】
上記装置は、加熱時に特定波長の遠赤外線を照射可能な遠赤外線輻射体と、輻射体の遠赤外線を反射する遠赤外線反射手段と、輻射体を遠赤外線放射温度に加熱する加熱手段とを備える消霧装置であるが、さらに遠赤外線放射ネットを備えている。この遠赤外線放射ネットが上記遠赤外線輻射体からの遠赤外線に感応して遠赤外線を放射し、ネットを通過する霧はその遠赤外線の作用により小粒子化されることにより消霧作用を表すとしている。
【0007】
【特許文献1】特開平7−317039号公報公報
【特許文献2】特開平5−287717号公報
【特許文献3】特開平7−224414号号公報
【特許文献4】特開2002−30632号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記遠赤外線放射ネットは、当該ネットの芯材が遠赤外線放射素子を含む被覆層により被覆されているだけで、上記遠赤外線輻射装置と共に使用しなければ効果がなく、また上記被覆層が剥がれやすいため消霧効果が持続しない欠点があった。
【0009】
本発明は、前記課題を解決することを鑑みてなされたものであり、遠赤外線輻射装置と併用しなくても十分な消霧効果を有し、その効果が持続する消霧ネット及び該消霧ネットの製作に用いる消霧ネット用樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、熱可塑性樹脂にシリカを主成分とする遠赤外線放射物質を混練して得られる樹脂組成物が50℃以下の低温域において遠赤外線放射効果が高く、当該樹脂組成物を紡糸、織り上げて製作したネットがそこを通過する霧の濃度を低下させる効果の高いことを見出して本発明を完成した。
【0011】
すなわち、請求項1に係る発明は、熱可塑性樹脂に、その2〜15質量%の遠赤外線放射物質を含有することを特徴とする消霧ネット用樹脂組成物である。
【0012】
また、請求項2に係る発明は、遠赤外線放射物質がシリカを主成分としていることを特徴とする請求項1記載の消霧ネット用樹脂組成物である。
【0013】
また、請求項3に係る発明は、熱可塑性樹脂がポリエステル樹脂であることを特徴とする請求項1または2記載の消霧ネット用樹脂組成物である。
【0014】
また、請求項1〜3のいずれかに記載の消霧ネット用樹脂組成物を紡糸し、織り上げて製作される消霧ネットである。
【0015】
また、請求項5に係る発明は、請求項4記載の消霧ネットの網目の大きさが1〜5mm目であることを特徴とする消霧ネットである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によると、人工的なエネルギーを投入しなくても、霧が動いてさえいれば簡単な装置(消霧ネット)のみで高速道路、線路、滑走路または航路等に発生する霧の濃度を減少させることができるため、車両、航空機等の運転に支障がない程度に視野を確保することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本実施形態に係る消霧ネット及びその製作に用いる消霧ネット用樹脂組成物について詳細に説明する。
【0018】
本発明の消霧ネットは、熱可塑性樹脂に遠赤外線放射物質を添加、混練して樹脂組成物となし、得られた樹脂組成物を紡糸し、織り上げることによって製作される。
【0019】
本発明で使用する熱可塑性樹脂は、特に、限定されるものではなく繊維として加工可能なものであれば使用できる。例えば、ポリエチレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリプロピレン樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド樹脂等及びこれらの共重合体が挙げられるが、特にポリエステル樹脂が、強度が高く、適度な柔軟性を有するため消霧ネット用の樹脂として適している。
【0020】
上記熱可塑性樹脂に遠赤外線放射物質を混合して、消霧ネット用樹脂組成物を製造する。該樹脂組成物の製造法には特に制限はないが、熱可塑性樹脂と遠赤外線放射物質、必要に応じて他の添加剤とを混合、混練することにより製造できる。例えば、リボンブレンダー、ヘンシェルミキサー、スーパーミキサー、タンブラーミキサー等を用いて室温またはその近傍の温度において混合した後、ストランドダイが装着された一軸または二軸押出機を用いて混練・溶融押出して、溶融ストランドとし、冷却した後、切断してペレット状に成形する方法が挙げられる。また、熱可塑性樹脂に遠赤外線放射物質を高濃度に含有させたマスターバッチを製造し、それを熱可塑性樹脂で希釈する方法も可能である。
【0021】
上記遠赤外線放射物質は、熱を与えたとき遠赤外線を放射する物質である。殆ど全ての物質が遠赤外線を放射するが、特に金属酸化物は放射能力が大きく、金属は小さい。本発明者らは、熱可塑性樹脂に、主成分としてシリカを混合し混練した樹脂組成物が、50℃以下の低温域で遠赤外線放射効果が高く、水分子と共振現象を起こしやすいことを見出した。本発明においては、シリカに他の遠赤外線放射物質、例えば、アルミナ、グラファイト等の炭素粉末を混合して用いることもできる。また、シリカを主成分として含んだ鉱物を用いることも可能である。これらの遠赤外線放射物質の添加量は、用いる熱可塑性樹脂に対し2〜15質量%である。2質量%未満では効果が不足し、15質量%を超えると紡糸等の成形が難しくなるばかりでなく、特に、アルミナは硬度が高く成形機のダイスを傷つけるため高濃度では使用できない。
【0022】
上記消霧ネット用樹脂組成物には、本発明の目的を妨げない範囲内で、酸化防止剤、光安定剤、熱安定剤、滑剤、分散剤、紫外線吸収剤、白色顔料、蛍光増白剤等の他の添加剤を添加しても良い。
【0023】
上記の消霧ネット用樹脂組成物を紡糸、織り上げて本発明の消霧ネットを製作するが、紡糸方法や織り上げる方法には特に制限はなく、目的や使用する消霧ネット用樹脂組成物に応じた加工方法を採用すればよい。紡糸した糸の状態はマルチフィラメントであってもモノフィラメントであっても良い。この糸を織り上げてネットに加工するが、その加工方法にも制限はない。例えば、ラッセル織り、平織り等の方法により本発明の消霧ネットを製作できる。また、紡糸した糸を熱融着させて網状にして消霧ネットとすることもできる。
【0024】
本発明の消霧ネットは上記消霧ネット用樹脂組成物を紡糸、織り上げて製作するため遠赤外線放射物質を単に被覆しただけのものと比べて剥がれ落ちることがなく効果が持続する。また、遠赤外線輻射装置と併用しなくても十分な消霧効果を有する。
【0025】
上記消霧ネットの網目の大きさは、1〜5mm目である。この大きさでは、霧が網目を通りやすく、霧への作用も十分に大きい。1mm目未満では、その網目を霧が通りにくくなるため効果が不十分となる。また、5mm目を超えると霧への作用が不足するため効果が不十分となる。
【0026】
上記のようにして製作された消霧ネットは、霧の通り道に設置されて通過する霧の濃度を減じることができる。霧の発生時にだけ消霧ネットを広げ使用しない場合には折り畳んでおくようにしても良い。霧発生の予報に合わせて自動的に消霧ネットを広げたり畳んだりするようにすることも可能である。
【実施例】
【0027】
以下に実施例を挙げて、具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0028】
実施例1
ポリエチレンテレフタレート(固有粘度0.80dl/g)92質量部及びシリカ(ミズシカルP527、平均粒径 1.6μm、水澤化学工業株式会社製)8質量部をヘンシェルミキサーに投入し混合攪拌した後に同方向回転型二軸押出機に供給し260℃で溶融混練してストランドとして押出し、これを冷却しカット後120℃で2時間乾燥しペレット状の消霧ネット用樹脂組成物を得た。次に、この樹脂組成物を溶融紡糸後、ラッセル織りして網目2mmの消霧ネットを得た。
【0029】
<消霧試験>
消霧試験は、図1の消霧試験装置を用いて以下のようにして実施した。
幅100cm、奥行き50cm、高さ35cmの透明アクリル板製の実験箱1をつくり、その右端に霧の発生器2(室内噴霧器:最大能力400g/hour)を設置し、その左端から40cmの所に高さ23cm、幅50cmの針金製の枠3を実験箱の奥行き50cmに渡って設置した。この枠にネット4を二重になるように掛けた。
実験箱中の奥のアクリル板には手前から目視で霧の濃さを観察できるように、高さ5cm、15cmのところに指標として白色に塗りつぶされた直径1cmの円5を4cm間隔で描いた。
右側の霧の発生器から発生した霧は、設置された二重のネットを通って左側に流れていく。設置されたネットの上側は10cm程度空いているのでその部分では霧が自由に動くことができる。
霧の発生器から最大能力で霧を発生させて3分後、ネット設置場所から左側での霧の濃度を目視で観察し、以下の基準で評価した。なお、実験箱中の温度は27℃、湿度は90%以上であった。
【0030】
高さ5cmと高さ15cmの指標が見える: ○
高さ5cmの指標は見えないが、高さ15cmの指標が見える: △
高さ5cmと15cmの指標が見えない: ×
【0031】
実施例2及び3
表1に記載の配合及び網目にした以外は、実施例1と同様にして消霧ネット用樹脂組成物を得、それから消霧ネットを製作した。
【0032】
比較例1〜4
表1記載の配合及び網目にした以外は、実施例1と同様にして樹脂製ネットを製作した。
【0033】
実施例1〜3及び比較例1〜3の消霧試験の結果を表1に記載した。
【0034】
【表1】

【0035】
実施例1で製作した消霧ネットを、幅40mの道路の片側に高さ20mで長さ500mに渡って設置した。霧が設置した消霧ネットの外側から道路側にゆっくりと流れている状況下(風速約2m/sec)において消霧ネットの外側では視程距離83mだったが、道路側では146mとなり明らかな視程改善効果を示したことから、実際の条件下においても本発明の消霧ネットの効果を確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】消霧試験装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂に、その2〜15質量%の遠赤外線放射物質を含有することを特徴とする消霧ネット用樹脂組成物。
【請求項2】
遠赤外線放射物質がシリカを主成分としていることを特徴とする請求項1記載の消霧ネット用樹脂組成物。
【請求項3】
熱可塑性樹脂がポリエステル樹脂であることを特徴とする請求項1または2記載の消霧ネット用樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の消霧ネット用樹脂組成物を紡糸し、織り上げて製作される消霧ネット。
【請求項5】
請求項4記載の消霧ネットの網目の大きさが1〜5mm目であることを特徴とする消霧ネット。

【図1】
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【公開番号】特開2008−280774(P2008−280774A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−126553(P2007−126553)
【出願日】平成19年5月11日(2007.5.11)
【出願人】(000219912)東京インキ株式会社 (120)