説明

消音ヘルメット、これを備えた車両システム、およびヘルメット内騒音消音方法

【課題】ヘルメット装着者の発話の影響を抑制して消音効果の劣化を抑制または防止することができる消音ヘルメットを提供する。
【解決手段】ヘルメット本体30内の騒音はマイクロフォン102によって検出される。このマイクロフォン102によって検出される騒音を打ち消すための制御音が、スピーカ104から発生される。このスピーカ104には、制御信号生成回路106からの制御信号が与えられる。ヘルメット本体30には、使用者Pの発話を検出する発話検出マイクロフォン1,2が設けられている。これらの出力信号に基づき、発話検出器3は、発話の有無を検出する。発話が検出されていない非発話時には、非発話時ゲイン調節回路121によって制御信号生成回路106のゲインが調節される。発話が検出されている発話時には、発話時ゲイン調節回路122によって制御信号生成回路106のゲインが調節される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、消音ヘルメット、これを備えた車両システム、およびヘルメット内騒音消音方法に関する。
【背景技術】
【0002】
左右両側の耳元にマイクロフォンおよびスピーカを配置し、マイクロフォンによって検出される騒音を打ち消す制御音をスピーカから発生させることによって、能動的に騒音を除去するアクティブ消音ヘルメットが知られている(特許文献1)。これにより、運転者が感じる騒音(主として風切音)を低減でき、快適な運転環境を実現することができる。
【特許文献1】特開2000−54219号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、ヘルメットの装着者が発話すると、その音声が騒音検出用マイクロフォンによって検出される。これによって、制御音の適切なボリューム調節が妨げられる。その結果、消音効果が劣化するおそれがある。
この発明の目的は、装着者の発話の影響を抑制して消音効果の劣化を抑制または防止することができる消音ヘルメット、これを備えた車両システム、およびヘルメット内騒音消音方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
この発明の一実施形態に係る消音ヘルメットは、ヘルメット本体内の騒音を検出する騒音検出手段と、この騒音検出手段によって検出された騒音を打ち消すための制御音を発生する発音手段と、前記騒音検出手段の出力信号を演算処理して前記制御音に対応した制御信号を生成して前記発音手段に与えるための制御信号生成手段と、前記ヘルメット本体を装着した装着者の発話を検出する発話検出手段と、この発話検出手段によって発話が検出されていない期間に前記制御信号生成手段のゲインを調節する非発話時ゲイン調節手段と、前記発話検出手段によって発話が検出される直前に前記非発話時ゲイン調節手段によって設定されるゲインを記憶する非発話時ゲイン記憶手段と、前記発話検出手段によって発話が検出されている期間に、前記非発話時ゲイン記憶手段に記憶されているゲインに基づいて前記制御信号生成手段のゲインを調節する発話時ゲイン調節手段とを含む。
【0005】
この構成によれば、騒音検出手段によって検出された騒音に応じた制御信号が制御信号生成手段によって生成されて発音手段に与えられることにより、この発音手段から騒音を打ち消す制御音が発生される。こうして、消音が行われる。
一方、発話検出手段によって、ヘルメット本体の装着者の発話の有無が検出される。発話が検出されていない期間には、非発話時ゲイン調節手段によって制御信号生成手段のゲインが調節される。発話が検出されている期間には、非発話時と同様なゲイン調節を行っても適切な消音を期することはできず、発振(ハウリング)を起こしてしまうおそれもある。そこで、発話時には、発話時ゲイン調節手段によって、別のゲイン調節制御が行われる。
【0006】
より具体的には、発話が検出される直前のゲインが非発話時ゲイン記憶手段に記憶される。これを用いて、発話時ゲイン調節手段は、制御信号生成手段のゲインを調節する。したがって、発話の影響を大きく受けずにゲイン調節が行われることになるので、消音効果の不所望な劣化を抑制または防止できる。
非発話時ゲイン記憶手段は、発話時ゲイン調節手段によって記憶データが参照されるときに、直前の非発話時のゲインを記憶していればよい。すなわち、たとえば、非発話時ゲイン記憶手段の記憶データを、非発話期間中において非発話時ゲイン調節手段が随時設定するゲインによって更新するとともに、前記発話検出手段による発話の検出に応答して、その記憶データの更新を停止する記憶データ更新手段が備えられていてもよい。これにより、発話が検出されると、非発話時ゲイン記憶手段には、その直前の非発話時のゲインが記憶されていることになる。
【0007】
前記騒音検出手段は、ヘルメット本体装着時に使用者の耳元に配置されるように、ヘルメット本体内に配置されていることが好ましい。これにより、使用者が聞く音に近い音に基づいて消音が行われるから、消音の精度を向上することができる。
また、前記制御信号生成手段は、騒音検出手段の出力信号の位相を反転して前記制御信号を生成するものであることが好ましい。
【0008】
前記発話時ゲイン調節手段は、前記騒音検出手段の出力信号および前記非発話時ゲイン記憶手段に記憶されているゲインに応じて、前記制御信号生成手段のゲインを調節するものであることが好ましい。
また、前記発話時ゲイン調節手段は、前記騒音検出手段の出力信号に基づいて、前記ヘルメット本体内の騒音の周波数スペクトルを求めるスペクトル演算手段と、前記発話検出手段によって発話が検出される直前に前記スペクトル演算手段によって演算された周波数スペクトルを記憶する非発話時騒音スペクトル記憶手段と、前記発話検出手段によって発話が検出されている期間に前記スペクトル演算手段によって演算される騒音の周波数スペクトルと、前記非発話時騒音スペクトル記憶手段に記憶されている周波数スペクトルとを比較するスペクトル比較手段と、このスペクトル比較手段による比較結果と、前記非発話時ゲイン記憶手段に記憶されているゲインとに基づいて前記制御信号生成手段のゲインを調節するゲイン制御手段とを含むことが好ましい。
【0009】
この構成によれば、発話が検出される直前の騒音の周波数スペクトルが非発話時騒音スペクトル記憶手段に記憶される。この非発話時の騒音の周波数スペクトルと、発話中における騒音の周波数スペクトルとが比較され、その比較結果を加味して、制御信号生成手段のゲインが調節される。これにより、発話期間中にも、騒音状況の変化に応じて、制御信号生成手段のゲインを調整することができ、優れた消音効果を得ることができる。
【0010】
周波数スペクトルは、振幅スペクトルおよび位相スペクトルからなる。
前記スペクトル比較手段は、1つ以上の特定周波数に対する振幅スペクトルまたはその相当値を、非発話時と発話時とで比較するものであってもよい。振幅スペクトルまたはその相当値の比較は、発話の影響の小さい周波数域(たとえば数十ヘルツの帯域)で行われることが好ましい。より具体的には、発話時振幅スペクトルにおいて発話に起因するピークが実質的に現れない周波数帯域で比較を行うことが好ましい。
【0011】
前記特定周波数は、複数の異なる周波数を含むことが好ましい。
前記ゲイン制御手段は、前記非発話時ゲイン記憶手段に記憶されているゲインに対して、前記スペクトル比較手段による比較結果に応じた補正を施すことにより、前記制御信号生成手段のゲインを求めるものであってもよい。
前記非発話時ゲイン調節手段は、前記騒音検出手段の出力信号を用いて、互いに異なる周波数帯の音圧の比を取得する音圧比取得手段と、この音圧比取得手段によって取得された前記音圧比を用いて、前記騒音検出手段の出力信号のスペクトルが所定の目標スペクトルに近づくように前記制御信号生成手段のゲインを制御するゲイン制御手段とを含むものであってもよい。なお、「音圧」とは、音の大きさの指標となるものを意味し、具体的には、音波形の振幅の平均値であってもよいし、振幅の二乗平均などであってもよい。
【0012】
この構成によれば、騒音検出手段の出力信号を用いて互いに異なる周波数帯の音圧の比を取得し、得られた音圧比を用いて騒音検出手段の出力信号のスペクトルの形状が最適となるように制御信号生成手段のゲインが調節される。これにより、装着者とヘルメット内壁との空間形状に依存する耳元伝達関数の個人差に対応することができ、ヘルメットの装着者によらず十分な消音効果を得ることができる。
【0013】
このような構成の非発話時ゲイン調節手段では、ヘルメット内壁と装着者の耳周辺との間に形成される耳元空間で風切音に装着者音声が混ざり合って周波数スペクトルが乱れると、必ずしも適切なゲイン調節を行うことができない。そこで、この発明では、発話時には、非発話時とは異なる処理によって制御信号生成手段のゲインを定めるようにしている。これにより、発話の影響を抑制しつつ、かつ、個人差に対応した良好な消音制御が可能となる。
【0014】
前記音圧比取得手段は、前記騒音検出手段の出力信号を互いに異なる周波数特性でフィルタリングする複数のフィルタと、前記複数のフィルタの各出力信号を処理して互いに異なる複数の周波数帯の音圧を算出する音圧算出手段と、この音圧算出手段によって算出された複数の周波数帯の音圧を用いて制御用の指標となる音圧比を算出する音圧比算出手段と、を有することが好ましい。これにより、比較的簡単な回路で制御用の指標となる音圧比を取得することができる。
【0015】
また、前記音圧比取得手段は、前記騒音検出手段の出力信号を用いて共振周波数帯の音圧を獲得する第1獲得手段と、前記騒音検出手段の出力信号を用いて比較の基準となる基準音圧を獲得する第2獲得手段と、これらの第1および第2獲得手段によってそれぞれ獲得された共振周波数帯の音圧と比較用の基準音圧との比を算出する音圧比算出手段とを有する構成としてもよい。この構成により、比較的簡単に制御用の指標となる音圧比を取得することができる。
【0016】
前記第2獲得手段は、前記発音手段によって発音される音によって消音される消音域および前記共振周波数帯よりも消音による影響が少ない基準周波数域の音圧を前記基準音圧として獲得するものであることが好ましい。これにより、音圧比算出手段によって算出される音圧比は、共振周波数帯の音圧の増減に対応する値となる。したがって、制御信号生成手段のゲインの調整によって共振周波数帯の音圧レベルを調整でき、これにより、所望のスペクトルを得ることができる。
【0017】
前記基準周波数域は、全周波数域であってもよい。すなわち、全周波数域の音圧レベルを基準としてもよい。これは、全周波数域の音圧レベルはスペクトルの形状にほとんど依存しないと考えられるからである。
前記非発話時ゲイン調節手段は、前記音圧比取得手段によって取得される音圧比が前記所定の目標スペクトルに対応する目標音圧比に近づくように前記制御信号生成手段のゲインを調節するものであることが好ましい。これにより、簡単な制御で、騒音検出手段の出力信号のスペクトルを目標スペクトルに近づけることができ、良好な消音効果が得られる。
【0018】
前記非発話時ゲイン調節手段は、無騒音時、前記ゲインをゼロに設定することが好ましい。この構成によれば、無騒音時に、ゲインをゼロに設定するため、不必要にゲインを上げることがなくなり、不要な消音の実施を回避することができる。
前記消音ヘルメットは、前記ヘルメット本体の装着者が発した音声をヘルメット本体内の異なる位置でそれぞれ検出して音声信号を出力する第1および第2の音声検出手段をさらに含んでいてもよい。また、前記発話検出手段は、前記第1および第2の音声検出手段が出力する音声信号の相関性を表す相関性値を演算する相関性演算手段と、この相関性演算手段によって演算された相関性値に応じて、前記装着者が発話中か否かを判定する発話判定手段とを含んでいてもよい。
【0019】
この発明の他の実施形態に係る消音ヘルメットは、ヘルメット本体内の騒音を検出する騒音検出手段と、この騒音検出手段によって検出された騒音を打ち消すための制御音を発生する発音手段と、前記騒音検出手段の出力信号を演算処理して前記制御音に対応した制御信号を生成して前記発音手段に与えるための制御信号生成手段と、前記ヘルメット本体の装着者が発した音声をヘルメット本体内の異なる位置でそれぞれ検出して音声信号を出力する第1および第2の音声検出手段と、この第1および第2の音声検出手段が出力する音声信号の相関性を表す相関性値を演算する相関性演算手段、ならびにこの相関性演算手段によって演算された相関性値に応じて、前記ヘルメット本体を装着した装着者が発話中か否かを判定する発話判定手段を含む発話検出手段と、この発話検出手段によって発話が検出されていない期間に前記制御信号生成手段のゲインを調節する非発話時ゲイン調節手段と、前記発話検出手段によって発話が検出されている期間に、前記非発話時ゲイン調節手段とは異なる態様で前記制御信号生成手段のゲインを調節する発話時ゲイン調節手段とを含む。
【0020】
このような構成によれば、ヘルメット本体内の異なる位置に配置した第1および第2の音声検出手段の出力信号の相関性値を用いることによって、装着者が発話中か否かを正確に判定することができる。そして、発話中と非発話中とで異なる態様で制御信号生成手段のゲインが調節されることによって、発話中における消音効果の不所望な劣化を抑制または防止できる。
【0021】
なお、音声検出手段は3個以上設けてもよく、この3個以上の音声検出手段の出力信号の相関性値に基づいて、装着者が発話中か否かを判定するようにしてもよい。
前記第1および第2の音声検出手段は、前記ヘルメット本体を装着する装着者の口元からほぼ等距離の位置にそれぞれ配置されていることが好ましい。
この構成により、装着者の発話をより確実に検出できる。すなわち、装着者の口元からほぼ等距離の位置において第1および第2の音声検出手段によって装着者が発した音声を検出すると、これに対応した出力信号には大きな相関性が認められる。一方、騒音もまた第1および第2の音声検出手段によって検出されることになるが、騒音に関しては、第1および第2の音声検出手段の出力信号に大きな相関性が現れない。このようにして、第1および第2の音声検出手段の出力信号の相関性に基づいて、装着者が発話しているか否かを検出することができる。
【0022】
前記第1および第2の音声検出手段は、前記相関性演算手段によって演算される相関性値が、前記ヘルメット本体の装着者の発話時には所定のしきい値以上となり、当該装着者の非発話時には前記しきい値未満となるように、前記ヘルメット本体内にそれぞれ配置されていることが好ましい。
この構成により、第1および第2の音声検出手段の出力信号の相関性に基づく発話期間の検出をより確実に行うことができる。
【0023】
本件発明者の検討によれば、第1および第2の音声検出手段は、ヘルメット本体内において、装着者のこめかみ付近や耳元付近に配置するよりも、口元付近に配置する方が、好結果が得られている。すなわち、第1および第2の音声検出手段を装着者の口元付近に配置することによって、装着者の発話音声に関しては第1および第2の音声検出手段の出力信号(発話周波数帯の音声信号)間に大きな相関性が得られ、騒音に関しては、いずれの周波数域においても、第1および第2の音声検出手段の出力信号間に大きな相関性は得られなかった。したがって、第1および第2の音声検出手段を装着者の口元に対応するヘルメット本体内の位置に配置することにより、装着者の発話と騒音とを良好に分離することができ、装着者の発話の有無を正確に検出できる。
【0024】
消音ヘルメットの構成部分は、その全てがヘルメット本体に取り付けられていてもよいが、必ずしもその必要があるわけではない。たとえば、前記騒音検出手段および発音手段(さらに必要に応じてヘルメット装着者が発した音声を検出する音声検出手段)をヘルメット本体に取り付け、その他の部分の少なくとも一部は、ヘルメット本体とは別の装置として構成してもよい。
【0025】
この発明の一実施形態に係る車両システムは、車体と、上述の消音ヘルメットとを含み、少なくとも前記騒音検出手段および発音手段(さらに必要に応じてヘルメット装着者が発した音声を検出する音声検出手段)は、前記消音ヘルメットのヘルメット本体に備えられ、前記消音ヘルメットの前記騒音検出手段および発音手段(さらに必要に応じて前記音声検出手段)を除く残余の構成部分の少なくとも一部が前記車体に備えられて車体側装置を形成しており、前記車体側装置と前記騒音検出手段および発音手段(さらに必要に応じて前記音声検出手段)との間で信号を授受するための通信手段をさらに含む。この構成により、消音ヘルメットの構成部分の一部を車体に配置することができる。
【0026】
この発明の他の実施形態に係る車両システムは、車体と、上述の消音ヘルメットと、前記車体に備えられ、音情報を発生する音情報発生手段と、この音情報発生手段が発生する音情報を前記消音ヘルメットのヘルメット本体に伝達する伝達手段と、前記ヘルメット本体に備えられ、前記伝達手段によって伝達される音情報を音響化する音情報発音手段とを含む。
【0027】
この構成により、個人差によらずにヘルメット本体内の騒音が消音されている状態で、車体側の音情報発生手段からの音情報をヘルメット装着者に提供することができる。これにより、ヘルメット装着者は、提供される音情報を快適に聞き取ることができる。
音情報発生手段の例としては、音声案内情報を生成するナビゲーションシステム、携帯電話のような移動電話機、ラジオ、オーディオ装置などを挙げることができる。
【0028】
また、伝達手段には、音情報発生手段とヘルメット本体との間をケーブルで接続する有線通信手段のほか、赤外線通信や電波通信による無線通信手段も適用できる。
音情報発音手段の典型例は、ヘルメット本体内に装備されるスピーカである。たとえば、ヘルメット本体内に装備されたスピーカを音情報発音手段と消音のための発音手段とに共用してもよいし、音情報発音手段および消音用の発音手段として各別のスピーカをヘルメット本体内に設けてもよい。
【0029】
この発明の一実施形態に係るヘルメット内騒音消音方法は、ヘルメット本体内の騒音を騒音検出手段によって検出する騒音検出ステップと、検出された騒音を打ち消すための制御音を発音手段から発生させるステップと、前記騒音検出手段の出力信号を演算処理して得られた制御信号を増幅手段によって増幅して前記発音手段に与えるステップと、前記ヘルメット本体を装着した装着者の発話を検出する発話検出ステップと、前記装着者の発話が検出されていない期間に、前記増幅手段のゲインを調節する非発話時ゲイン調節ステップと、前記装着者の発話が検出されている期間に、直前の非発話時ゲイン調節ステップにおいて設定されたゲインに基づいて前記増幅手段のゲインを調節する発話時ゲイン調節ステップとを含む。
【0030】
この方法により、発話時には、直前の非発話時のゲインに基づいて増幅手段のゲインが調節されるので、発話の影響を大きく受けることなく、ヘルメット内の騒音を良好に消音できる。
また、この発明の他の実施形態に係るヘルメット内騒音消音方法は、ヘルメット本体内の騒音を騒音検出手段によって検出する騒音検出ステップと、検出された騒音を打ち消すための制御音を発音手段から発生させるステップと、前記騒音検出手段の出力信号を演算処理して得られた制御信号を増幅手段によって増幅して前記発音手段に与えるステップと、前記ヘルメット本体の装着者が発した音声を、第1および第2の音声検出手段によって、ヘルメット本体内の異なる位置で検出する音声検出ステップと、前記第1および第2の音声検出手段が出力する音声信号の相関性を表す相関性値を演算する相関性演算ステップと、前記演算された相関性値に応じて、前記ヘルメット本体を装着した装着者が発話中か否かを判定する発話判定ステップと、前記装着者が発話中でないと判定された期間に、前記増幅手段のゲインを調節する非発話時ゲイン調節ステップと、前記装着者が発話中であると判定された期間に、前記非発話時ゲイン調節ステップとは異なる態様で前記増幅手段のゲインを調節する発話時ゲイン調節ステップとを含む。
【0031】
この方法により、ヘルメット装着者の発話を正確に検出できる。そして、発話時と非発話時とでゲイン調節の態様を異ならせるようにしているから、発話の影響を最小限に抑制しつつ、ヘルメット内の騒音を消音できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下では、この発明の実施の形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1Aは、本発明の一実施形態に係るアクティブ消音ヘルメットのシステム構成を示すブロック図であり、図1Bは、そのアクティブ消音ヘルメットの外観図である。
このアクティブ消音ヘルメット100は、ヘルメットに適用されたフィードバック型のアクティブ消音装置であって、ヘルメット内の騒音(風切音など)を検出する騒音検出手段としてのマイクロフォン102と、検出された騒音を能動的に打ち消す制御音(2次音)を発生する発音手段としてのスピーカ104と、マイクロフォン102の出力信号を演算処理して、消音用の制御音(2次音)を発生させるための制御信号を生成する制御信号生成回路106(制御信号生成手段)と、この制御信号生成回路106の制御ゲインを調節するゲイン調節回路120とを備えている。制御信号生成回路106は、消音制御フィルタ回路107と、ゲインの変更が可能な増幅手段としてのアンプ108とを備え、アンプ108が出力する制御信号がスピーカ104に供給されるようになっている。ゲイン調節回路120は、アンプ108のゲイン(制御ゲイン)を調節する。
【0033】
マイクロフォン102およびスピーカ104は、ヘルメット本体30の外郭31内の適切な所定位置に配置される。具体的には、図1Aに示すように、マイクロフォン102とスピーカ104とは、使用者(装着者)Pがヘルメット本体30を装着した状態で、使用者Pの耳元空間に位置するようにそれぞれ配置される。特にマイクロフォン102は、使用者Pが聞く音に近い音を検出できるよう、使用者Pの耳元とスピーカ104との間にあって、使用者Pの耳元に位置するように配置される。このマイクロフォン102の位置が消音点となる。なお、図1Bにおいて、符号33はカバーを示し、符号35はシールドを示す。
【0034】
消音制御フィルタ回路107は、マイクロフォン102によって測定されたヘルメット内の耳元空間の所定位置(消音点)の音波形の瞬時値を取り込み、耳元空間内の消音点の音圧レベルが最小になるように、スピーカ104を駆動する制御信号を算出する。この制御信号がアンプ108によって増幅されてスピーカ104に与えられることにより、スピーカ104から制御音が耳元空間に放射される。これにより、使用者Pの耳元の騒音が相殺される。こうして、制御信号生成回路106は、マイクロフォン102の位置で音が最小となるようにスピーカ104の出力を適応制御する。
【0035】
図2は、本実施形態に係るアクティブ消音ヘルメットが対象とする制御系の構成を示す図である。図2中、「P」は制御対象の周波数伝達関数(耳元伝達関数)、「C」は消音制御フィルタ回路107の周波数伝達関数、「K」は制御ゲイン(アンプ108のゲイン)、「y」はマイクロフォン102の出力、「w」は騒音(風切音)である。
このアクティブ消音ヘルメット100においては、マイクロフォン102の出力yが、使用者Pが聞く音に近いため、この値を小さくすることを目的とする。周知の自動制御理論によれば、消音制御フィルタ回路107の周波数伝達関数Cを耳元伝達関数Pの負の逆関数(すなわち、C=−P-1)に設計した場合、制御ゲインKを大きくすれば、マイクロフォン出力yはゼロ(0)に近づくはずである。しかし、全周波数域で制御フィルタCを耳元伝達関数Pの負の逆関数に設計するのは困難であり、制御ゲインKを大きくすると、ある周波数(共振周波数)において、次第に増音し、ついには発散(ハウリング)してしまう。このように消音と増音とは表裏一体であり、増音を適度に抑えながら消音の効果を十分発揮するためには、制御ゲインKを適切な値に調節する必要がある。
【0036】
例えば、実験の結果、消音対象の周波数域である100〜400Hzの領域(消音域)では、アクティブ消音の効果があり、制御ゲインKを大きくすればするほど消音量も大きくなることがわかっている。これに対し、2.5kHz付近には共振周波数が存在し、制御ゲインKを大きくすればするほど増音量が大きくなることがわかっている。このように、制御量(ここではマイクロフォン出力y)をある周波数帯で下げようとすると別の周波数帯で上がってしまう現象は、一般に、「ウォータベット効果」として知られている。
【0037】
一方、耳元伝達関数には個人差があることがわかっている。具体的には、耳元伝達関数の位相には個人差が少なく、そのゲインの形状(周波数依存性)にも個人差が少ないが、ゲインの大きさが使用者によって全体的にシフトしている。よって、個人差を考慮せずに制御ゲインを一律に調節すると、前述のように、使用者によっては制御ゲインKが効き過ぎて発散してしまったり、逆に、制御ゲインKが効かずに、発散はしなくても消音量が期待していたよりも小さくなってしまったりすることがある。したがって、制御対象のゲインに個人差がある場合にも、それに応じた制御ゲインKの調節が必要になる。
【0038】
図1Aおよび図1Bを再び参照する。ヘルメット本体30の内部において、使用者Pの口元の近傍には、この使用者Pの口元からの距離が等しくなるように一対の発話検出マイクロフォン1,2(第1および第2の音声検出手段)が配置されている。アクティブ消音ヘルメット100は、さらに、発話検出マイクロフォン1,2の出力信号が入力され、使用者Pが発話しているかどうかを検出する発話検出器3(発話検出手段)を備えている。
【0039】
一方、ゲイン調節回路120は、使用者Pが発話していない非発話時における制御ゲインの調整のための非発話時ゲイン調節回路121(非発話時ゲイン調節手段)と、使用者Pが発話している発話時における制御ゲインの調節のための発話時ゲイン調節回路122(発話時ゲイン調節手段)と、非発話時ゲイン調節回路121が生成する制御ゲインと発話時ゲイン調節回路122が生成する制御ゲインとのいずれか一方を選択してアンプ108に入力するゲイン調節切り換え回路123と、このゲイン調節切り換え回路123を、発話検出器3の検出結果に基づいて制御する切り換え制御回路124とを備えている。
【0040】
切り換え制御回路124は、使用者Pの発話が検出されていない非発話時には、非発話時ゲイン調節回路121が出力する制御ゲインがアンプ108に設定されるようにゲイン調節切り換え回路123を制御する。また、切り換え制御回路124は、発話検出器3によって使用者Pの発話が検出されている発話時には、発話時ゲイン調節回路122が出力する制御ゲインがアンプ108に設定されるようにゲイン調節切り換え回路123を制御する。
【0041】
発話時ゲイン調節回路122は、非発話時ゲイン調節回路121が出力するゲインを保存するためのゲイン保存メモリ5(非発話時ゲイン記憶手段)と、非発話時ゲイン調節回路121が出力する制御ゲインによってゲイン保存メモリ5に保存されている制御ゲインを更新するか、このような更新を禁止するかを切り換えるためのゲイン更新切り換えスイッチ6と、このゲイン更新切り換えスイッチ6を発話検出器3による検出結果に応じて制御するゲイン更新制御回路7とを含む。このように、ゲイン更新切り換えスイッチ6およびゲイン更新制御回路7は、ゲイン保存メモリ5の記憶データを更新する記憶データ更新手段を構成している。
【0042】
発話時ゲイン調節回路122は、さらに、マイクロフォン102の出力信号の周波数スペクトルを生成するスペクトル演算手段としての高速フーリエ変換回路(FFT:Fast Fourier Transform)8と、この高速フーリエ変換回路8が出力する周波数スペクトルを記憶するためのスペクトル保存メモリ9(非発話時騒音スペクトル記憶手段)と、高速フーリエ変換回路8が出力する周波数スペクトルによるスペクトル保存メモリ9の記憶内容の更新を許可する状態とその更新を禁止する状態とで切り換わるスペクトル更新切り換えスイッチ10と、発話検出器3による検出結果に応じてスペクトル更新切り換えスイッチ10を制御するスペクトル更新制御回路11とを備えている。周波数スペクトルは、振幅スペクトルおよび位相スペクトルからなる。
【0043】
発話時ゲイン調節回路122は、さらに、高速フーリエ変換回路8が演算する周波数スペクトルと、スペクトル保存メモリ9に保存されている周波数スペクトルとを比較して、その比較結果に対応した比較値を演算するスペクトル比較回路12(スペクトル比較手段)と、このスペクトル比較回路12が生成する比較値およびゲイン保存メモリ5に保存されている制御ゲインに基づいて、発話時にアンプ108に与えるべき制御ゲインを生成する制御ゲイン生成回路13(ゲイン制御手段)とを備えている。この制御ゲイン生成回路13が生成する制御ゲインが、ゲイン調節切り換え回路123に入力されるようになっている。
【0044】
ゲイン更新制御回路7は、非発話時には、ゲイン更新切り換えスイッチ6を更新許可状態に制御する。これにより、非発話時ゲイン調節回路121が生成する制御ゲインは、ゲイン保存メモリ5に与えられ、ゲイン保存メモリ5に保存される制御ゲインは刻々と更新されていく。その一方で、発話検出器3によって使用者Pによる発話が検出されると、ゲイン更新制御回路7は、ゲイン更新切り換えスイッチ6を更新禁止状態に切り換える。これによって、ゲイン保存メモリ5には、発話が検出される直前に非発話時ゲイン調節回路121が出力していた制御ゲインが保持されることになる。
【0045】
一方、スペクトル更新制御回路11は、発話検出器3によって発話が検出されていない非発話時には、スペクトル更新切り換えスイッチ10を更新許可状態に制御する。これにより、高速フーリエ変換回路8が生成する周波数スペクトルは、スペクトル保存メモリ9に与えられ、このスペクトル保存メモリ9の記憶内容を刻々と更新する。一方、発話検出器3によって使用者Pの発話が検出される発話時には、スペクトル更新制御回路11は、スペクトル更新切り換えスイッチ10を、スペクトル保存メモリ9の記憶内容の更新を禁止する更新禁止状態に制御する。その結果、スペクトル保存メモリ9には、発話が検出される直前の非発話時における周波数スペクトルが保存されることになる。
【0046】
したがって、発話時には、スペクトル比較回路12は、直前の非発話時における周波数スペクトルと、発話中における周波数スペクトルとを比較し、その比較結果に対応した比較値を生成することになる。そして、制御ゲイン生成回路13は、前記比較値とゲイン保存メモリ5に保存されている直前の非発話時における制御ゲインとに応じて、制御ゲインを生成することになる。その結果、たとえば、使用者Pの発話が検出される直前の非発話時における制御ゲイン(ゲイン保存メモリ5に保存されている制御ゲイン)に対して、直前の非発話時における周波数スペクトルとヘルメット本体30内における現在の騒音状況を表わす周波数スペクトルとの比較結果に応じた補正を施して、制御ゲインが生成されることになる。制御ゲイン生成回路13は、ゲイン保存メモリ5に保存されている制御ゲインとスペクトル比較回路12が生成する比較値との入力を受けて、アンプ108に与えるべき制御ゲインを出力するゲインマップによって構成してもよい。
【0047】
このようにして、使用者Pの発話による影響を抑制しつつ、刻々と変化する騒音状況に対応したゲイン制御を行うことができ、非発話時および発話時を問わず、優れた消音効果を得ることができる。
図3は、発話検出器3の構成例を説明するためのブロック図である。発話検出器3は、発話検出マイクロフォン1,2が出力する音声信号間のコヒーレンス(相関性)を演算するコヒーレンス演算部21(相関性演算手段)と、このコヒーレンス演算部21によって演算されるコヒーレンスに対応したしきい値を記憶したしきい値メモリ22と、コヒーレンス演算部21が演算するコヒーレンスとしきい値メモリ22に格納されたしきい値とを比較するコヒーレンス比較部23と、このコヒーレンス比較部23による比較結果に基づいて発話の有無を判定する発話判定部24(発話判定手段)とを備えている。
【0048】
図4は、コヒーレンス演算部21によって演算されたコヒーレンスの一例を示す図である。図4のグラフの横軸は音声信号の周波数であり、縦軸はコヒーレンスの値である(ただし、「m」は、ミリ(1/1000)を表す。そして、曲線L1は、使用者Pが発話しておらず、マイクロフォン102によって検出される主要な騒音が風切音のみである場合について求めたコヒーレンスを示す。また、曲線L2は、使用者Pが発話をしているときにおけるコヒーレンスの演算結果を示す。
【0049】
この図4から理解されるように、発話時には、使用者Pが発する音声の周波数帯域(700Hz〜1.5kHz)においてコヒーレンスが大きな値をとり、しきい値THを超える。これに対して、風切音は、ランダムなノイズであるため、発話検出マイクロフォン1,2によって検出される騒音の間に相関性が少なく、いずれの周波数においてもコヒーレンスは小さな値となる。
【0050】
そこで、コヒーレンス比較部23(図3参照)は、発話検出マイクロフォン1,2の出力信号のコヒーレンスを所定のしきい値THと比較する。そして、所定の周波数帯においてコヒーレンスがしきい値THを超える場合には、発話判定部24(図3参照)は、使用者Pが発話中であると判定する。また、コヒーレンスがしきい値TH以下であれば、発話判定部24は、使用者Pが発話していない非発話時であると判定する。
【0051】
図5(a)および図5(b)は、ヘルメット本体内における発話検出マイクロフォン1,2の他の配置例を示す図である。図5(a)に示すように、発話検出マイクロフォン1,2を使用者Pの左右の耳元にそれぞれ配置すると、非発話時(風切音のみのとき)における発話検出マイクロフォン1,2の出力信号のコヒーレンスは、図6(a)に示す例のようになる。一方、図5(b)に示すように、発話検出マイクロフォン1,2を使用者Pのこめかみ付近(頭部付近)に配置した場合には、非発話時(風切音のみのとき)において、図6(b)に例を示すようなコヒーレンスが得られる。
【0052】
いずれの場合も、非発話時であるにもかかわらず、いずれかの周波数で、大きなコヒーレンスのピークが現れる。したがって、発話検出マイクロフォン1,2は、図1Aに示すように、使用者Pの口元に配置するのが適切であることが理解される。
換言すれば、発話検出マイクロフォン1,2の配置は、発話時(発話音および風切音のある状況)において所定の周波数帯において所定のしきい値を超えるコヒーレンスのピークが現れ、非発話時(風切音のみの状況)においては、当該しきい値を超えるコヒーレンスのピークが現れないように選択することが好ましい。
【0053】
図7は、ゲイン調節回路120の全体の動作をまとめて示すフローチャートである。非発話時ゲイン調節回路121は、マイクロフォン102の出力信号に基づいて、非発話時に適合した処理によって制御ゲインを求める(ステップS1)。一方、高速フーリエ変換回路8は、マイクロフォン102の出力信号の周波数スペクトルを演算する(ステップS2)。
【0054】
発話検出器3は、発話検出マイクロフォン1,2の出力信号に基づき、使用者Pが発話中であるか否かを判断する(ステップS3)。
使用者Pの発話が検出されていない非発話時には、ゲイン保存メモリ5に非発話時ゲイン調節回路121が生成する制御ゲインが保存され(ステップS4)、スペクトル保存メモリ9に高速フーリエ変換回路8が演算する周波数スペクトル(風切音のみのスペクトル)が保存される(ステップS5)。そして、非発話時ゲイン調節回路121が生成する制御ゲインが、アンプ108に与えられる(ステップS6)。
【0055】
一方、発話検出器3によって使用者Pの発話が検出されると(ステップS3のYES)、スペクトル比較回路12において、スペクトル保存メモリ9に保存されている周波数スペクトル(風切音のスペクトル)と高速フーリエ変換回路8によって演算される周波数スペクトルとが比較されて、その比較結果に対応した比較値が算出される(ステップS7)。この比較値は、たとえば、いずれかの周波数(1つでも複数でもよい)における振幅またはパワーの比であってもよい。
【0056】
そして、制御ゲイン生成回路13は、ゲイン保存メモリ5に保存されている制御ゲインと、前記比較値とに基づき、制御ゲインを求める(ステップS8)。制御ゲイン生成回路13は、予め定めたゲインマップに基づいて制御ゲインを定めるものであってもよいし、ゲイン保存メモリ5に保存されている制御ゲインに対して、スペクトル比較回路12によって演算された比較値に基づく補正を施して非発話時に対応した制御ゲインを求めるものであってもよい。
【0057】
こうして求められた非発話時の制御ゲインが、アンプ108に与えられることになる(ステップS9)。
このような処理が、所定の周期で繰り返し実行される。
図8は、スペクトル比較回路12の具体的な機能の一例を説明するための図であり、発話時騒音の振幅スペクトルと非発話時騒音の振幅スペクトルとの各例が重ねて描かれている。発話時騒音の振幅スペクトルには風切音成分と発話ピークとが重なっている。また、この例では、非発話時に比べて風切音成分が小さくなっている。
【0058】
発話の影響の小さい周波数帯域(発話ピークが現れない周波数帯域)における特定の数個の周波数f1、f2、f3が予め選択されている。各周波数での発話時騒音の振幅スペクトルをLN1、LN2、LN3と表し、非発話時騒音の振幅スペクトルをLS1、LS2、LS3と表すことにする。
この場合、スペクトル比較回路12は、たとえば、各周波数での振幅スペクトルの比をとることにより、次の比較値C1,C2,C3を求める。
【0059】
1=LN1/LS1
2=LN2/LS2
3=LN3/LS3
図9は、バンドパスフィルタを用いてスペクトル比較回路12を構成する例を示すブロック図である。この例では、前記の周波数f1、f2、f3をそれぞれ中心とした所定幅の通過帯域を有する複数個(この例では3個)のバンドパスフィルタ61,62,63がスペクトル比較回路12に備えられている。これらのバンドパスフィルタ61,62,63は、発話時と非発話時の各騒音波形から各周波数成分の波形を抽出して出力する。
【0060】
その各々の波形について、絶対値平均、RMS(Root Mean Square)その他の平均値をとることによって、振幅スペクトル相当値LN1、LS1、LN2、LS2、LN3、LS3が得られる。これらに基づいて、各周波数での振幅スペクトル相当値の比をとることにより、比較値C1=LN1/LS1、C2=LN2/LS2、C3=LN3/LS3が求められる。
周波数f1、f2、f3は発話の影響の小さい周波数帯に含まれているので、これらの周波数での比較値C1,C2,C3は、風切音の変動成分のみを表す。また、比較値C1,C2,C3は、非発話時に対する発話時の風切音の振幅割合を表すから、風切音の変動を知るための適当な指標となる。
【0061】
比較値はひとつでも良いが、複数個取った方が風切音の変動を精度良く判断できる。
次に、制御ゲイン生成回路13によって制御ゲインを求める処理の一例について説明する。たとえば、制御ゲイン生成回路13は、以下のような算出式に従って制御ゲインKを算出する。
(a) K=Kold11(単一周波数から算出の場合)
(b) K=Kold(W11+W22+W33)(複数周波数から算出の場合)
ここで、Koldは、ゲイン保存メモリ5に保存されている制御ゲインであり、W1、W2、W3は複数の周波数f1、f2、f3に対応した重み付け係数である。すなわち、比較値と重み付け係数とを掛け合わせることにより、保存された制御ゲインKoldが補正され、発話時に対応した制御ゲインKが求められる。
【0062】
ある程度の車速レンジにおいては、風切音の全体のレベルが上がるほど、風切音中に占める低周波域騒音の割合が大きくなり、風切音全体のレベルが下がるほど低周波域騒音の割合が小さくなる。したがって、後述するように、低周波域騒音の割合が大きいほど制御ゲインKを大きくし、低周波域騒音の割合が小さいほど制御ゲインKを小さくするのが効果的である。算出式(a)または(b)によって算出される制御ゲインKは、そのように振舞うようになっており、妥当性がある。
【0063】
制御ゲインKをゲインマップによって算出する場合には、たとえば、図10に例示するゲインマップが適用される。このゲインマップは、単一の周波数f1での振幅スペクトル(またはバンドパスフィルタ出力の絶対値平均等の振幅スペクトル相当値)に基づいて比較値C1を求め、これを用いて制御ゲインKを求めるためのものである。
ほとんどのセルの値(制御ゲインK)は、前記の算出式(a)による算出結果と同じ数値(ただし、W1=1.0の場合)であり、したがって、前述のような妥当性がある。しかし、網掛けで示したセルでは、制御ゲインKがいずれも「8」に設定してある。制御ゲインKを大きくしすぎるとハウリングが発生してしまう。そこで、網掛け部では、制御ゲインKを強制的に頭打ちとすることで(所定の上限値に制限することで)、ハウリングの発生を防ぐように考慮されている。
【0064】
図11は、非発話時ゲイン調節回路121の構成例を説明するためのブロック図であり、図12は、図11の回路によって実現されるアクティブ消音制御を説明するための図である。図11には、非発話時における回路構成が示されており、この構成例では、アンプ108はデジタルアンプからなっていて、消音制御フィルタ回路107が生成する制御信号は、A/D変換器202を介してデジタルアンプ108に入力される。デジタルアンプ108は、消音制御フィルタ回路107で生成された制御信号を制御ゲインKで増幅した後、D/A変換器204を介してスピーカ104に出力する。スピーカ104は、増幅後の制御信号を入力として、消音用の音を耳元空間に放射して騒音を相殺する。
【0065】
非発話時ゲイン調節回路121は、フィルタ206−1,206−2と、音圧算出部210−1,210−2(音圧算出手段)と、音圧比算出部212(音圧比算出手段)と、ゲイン制御手段としての調節部214とを備えている。
マイクロフォン102の出力信号(マイクロフォン位置の音圧値)は、フィルタ206−1,206−2に入力される。フィルタ206−1は、ある特定の周波数帯(例えば、中心周波数fr)の信号を選択して通過させるフィルタであり、フィルタ206−2は、別の特定の周波数帯(例えば、中心周波数fw)の信号を選択して通過させるフィルタである。周波数frは、アクティブ消音(ANC)による影響が少ない周波数帯域の中心周波数であり、周波数fwは、共振周波数である(図12参照)。なお、図12中、「N1」は、ヘルメット内のANCオフ時の騒音のスペクトルを示し、「N2」は、ヘルメット内のANCオン時の騒音のスペクトルを示す。
【0066】
各フィルタ206−1,206−2を通過した信号Xr,Xwは、それぞれ、A/D変換器208−1,208−2を介して音圧算出部210−1,210−2に入力される。音圧算出部210−1は、フィルタ206−1を通過した信号Xrの振幅の平均値(音圧)Lrを算出し、音圧算出部210−2は、フィルタ206−2を通過した信号Xwの振幅の平均値(音圧)Lwを算出する(図12参照)。このように、フィルタ206−2および音圧算出部210−2は、共振周波数帯の音圧を獲得する第1獲得手段に相当し、フィルタ206−1および音圧算出部210−1は、比較の基準となる基準音圧を獲得する第2獲得手段に相当する。フィルタ通過信号の平均値の算出方法は、例えば、実効値(RMS)でも絶対値平均でもよい。
【0067】
そして、音圧算出部210−1,210−2で算出された音圧Lr,Lwは、それぞれ、音圧比算出部212に入力される。音圧比算出部212は、入力された音圧Lr,Lwの比J(=Lw/Lr)を算出する。
そして、音圧比算出部212で算出された音圧比Jは、調節部214に入力される。調節部214は、入力された音圧比Jを用いて、積分制御(I制御)によって制御ゲインK(デジタルアンプ108のゲイン)を調節する。
【0068】
具体的には、次の(式1)に示すように、音圧比Jの目標値Jd(目標音圧比)を予め定めておき、この目標値Jdに対する音圧比Jの偏差(Jd−J)を時間積分し、その絶対値をとって制御ゲインKが定められる。
【0069】
【数1】

要するに、このデジタル回路によって実現されるアクティブ消音制御では、フィルタリングと音圧算出処理によって特定の周波数帯fr,fwの音圧Lr,Lwを算出し、両者の比J(=Lw/Lr)を用いて制御ゲインKを調節する。
【0070】
なお、図11の回路では、一例として、例えば、デジタルアンプ108、音圧算出部210−1,210−2、音圧比算出部212、および調節部214は、デジタル信号プロセッサ(DSP:Digital Signal Processor)216によって構成されている。
制御用の指標となる音圧比Jを構成する音圧の周波数帯は、上記の周波数帯fr、fwに限定されない。例えば、下記の(式2)〜(式5)を用いて制御ゲインKを調節してもよい。
【0071】
【数2】

【0072】
【数3】

【0073】
【数4】

【0074】
【数5】

ここで、「L1」はマイクロフォン102の出力信号yにハイパスフィルタ(中心周波数fw)をかけて得た信号の絶対値平均(共振周波数域の音圧レベルに相当する。)であり、「L2」はマイクロフォン102の出力信号yをそのまま通過させた場合のその信号yの絶対値平均(基準周波数域としての全周波数域の音圧レベルに相当する。)である。両者の比J(=L1/L2)は、風切音全体の中で高周波成分(共振周波数を含む)が占める割合を意味する。また、Jdは音圧比Jの最適値(目標値)であり、kpは適当な定数である。また、(式2)中のF1は、前記ハイパスフィルタに対応する演算子を表す。すなわち、信号y(t)をハイパスフィルタによってフィルタリングした結果が「F1y(t)」と表されている。
【0075】
制御ゲインを定める(式1)および(式5)には2つの機能がある。第1の機能は、音圧比Jが目標値Jdに近づくように制御ゲインKを調節することであり、第2の機能は、制御ゲインKをゼロ(0)以上の値にとどめることである。第1の機能は、積分制御(I制御)によって実現され、第2の機能は、(式1)および(式5)中の絶対値計算によって実現される。ここで、積分制御を行う理由は、音圧比Jと目標値Jdの間に、比例制御(P制御)や微分制御(D制御)では除去しきれない定常偏差が発生するのを防ぐためである。よって、少なくとも積分制御を含めばよく、積分制御に比例制御および/または微分制御を組み合わせることは可能である。
【0076】
また、絶対値計算を行う理由は、制御ゲインKをデジタルで調節する場合はKの値が負になる可能性があり、これによる誤動作(発散現象)を防止するためである。
より具体的に説明すると、制御ゲインKに対して音圧比Jが単調増加することはあらかじめわかっているため、(Jd−J)に時間を掛けて積分した値をゲインKとすることにより、音圧比Jが目標値Jdよりも小さいときは、ゲインKが徐々に大きくなり、同時に音圧比Jも大きくなる。逆に、音圧比Jが目標値Jdよりも大きいときには、ゲインKが徐々に小さくなり、同時に音圧比Jも小さくなる。こうして、音圧比Jは目標値Jdへと収束していき、マイクロフォン102の出力信号のスペクトルが最適化されていく。
【0077】
一方、制御ゲインKが小さくなっていって負の値をとると発振(ハウリング)が生じるので、これを防止するために積分値の絶対値を制御ゲインKとしている。これにより、制御ゲインKの下限値を「0」に制限できる。
よって、(式1)または(式5)の積分制御によって制御ゲインKを最適な値に調節することができる。
【0078】
図13A、図13Bおよび図13Cは、前述のような非発話時ゲイン調節回路121の働きによるアクティブ消音制御による効果を説明するための図であって、図13Aは、風切音が大きい状態での効果を示す図、図13Bは、風切音が小さい状態での効果を示す図、図13Cは、風切音がない状態での効果を示す図である。
非発話時ゲイン調節回路121の働きによるアクティブ消音制御は、耳元伝達関数の個人差を解消することができるとともに、風切音の大小によらない最適制御を可能にすることができる。すなわち、このアクティブ消音制御は、騒音(風切音)のスペクトル形状をある目標のスペクトル形状に収束させることを、目標の一つとしている。目標のスペクトル形状の一例としては、例えば、音圧L2が音圧L1の10倍(音圧レベルでは+20dB)、つまり、(式5)における目標値Jd=1/10と設定することになる。そして、現在の音圧L1,L2の比J(=L1/L2)が目標値Jdと一致するように、(式5)により制御ゲインKを調節する。すなわち、異なる周波数帯の音圧の比を用いるため、マイクロフォン出力信号の絶対値に依存しない制御を行うことができる。
【0079】
さらに説明すると、アクティブ消音(ANC)によって共振周波数帯の音圧L1が増音されるとき、使用者Pは、その「やかましさ」をANC前の音圧L1との比較によって認識する。これは、ANCによる影響が少ない周波数帯f3での音圧をL3とすると、ANC後の音圧L3を同じくANC後の音圧L1と比較することによって認識すると言い換えることができる。音圧L3は、ANCによってその音圧がほとんど変化しないからである(全体の騒音レベルの大小には影響される)。このことから、消音域(ANCによる消音対象の周波数域。主要な風切音の周波数域)の音がほどよく消音され、かつ、共振周波数帯の音があまり「やかましく」感じられない、適度な、音圧L3とL1との相対関係(ANC後の音圧比)が存在するはずである。このような適度な相対関係は、ある特定の周波数帯の音圧L3とL1に限ったことではなく、すべての周波数の間に存在する。したがって、一般に、ANC後のスペクトル形状として、快適さの点で適当なスペクトル形状が存在すると言える。
【0080】
全周波数域の音圧レベルを表す前述の音圧L2は、ANC前後でほとんど変化しない値として用いることができるから、音圧比J=L1/L2は、制御ゲインKに依存するスペクトル形状を表す値である。そこで、この音圧比Jを目標値Jdに近づけるように制御ゲインKを調整することで、適切なスペクトルを実現できる。
例えば、図13Aおよび図13Bにおいて、低周波域(消音域)の騒音が大きい場合(音圧比Jが小さい場合)は制御ゲインKを高くする。これにより、同図中の矢印Aで示すように、低周波域の騒音が低下する。一方、高周波域(共振周波数域)の騒音が大きい場合(音圧比Jが大きい場合)は制御ゲインKを小さくする。これにより、同図中の矢印Bで示すように、高周波域の騒音が低下する。制御ゲインKのこのような制御が、前記(式1)または(式5)による積分制御によって自動的に行われ、これによって、適度な目標スペクトル形状に収束していくことになる。
【0081】
しかも、図13Aおよび図13Bに示すように、目標スペクトル形状は全体の騒音レベルの大小によらない。つまり、風切音の大小により目標スペクトルの形状が変わることはなく、この目標スペクトルを代表する目標値Jdは一定値として差し支えない。したがって、音圧比Jを用いた前述の積分制御によって制御ゲインKを調整することで、風切音の大小によらない最適制御が可能になる。
【0082】
風切音にアクティブ消音をかけることの最終目標は、上記のように、風切音のスペクトル形状を、快適さの点で適当なスペクトル形状に収束させることである。どの使用者Pであっても制御ゲインKを調節すればその目標スペクトル形状に収束させることができるが、耳元伝達関数の個人差のために、収束させるための制御ゲインKの値が使用者Pによって異なる。したがって、個人差解消のためには、ただ単に制御ゲインを調節するのではなく、スペクトルの形状を直接監視しながら適当な形状に収束するように制御ゲインKを調節するべきである。このこともまた、前述の音圧比Jを用いた積分制御によって実現されることになる。
【0083】
また、風切音がない状態では、制御ゲインKはゼロ(0)に設定され、図13Cに示すように、アクティブ消音は行われず、不必要にノイズ信号を増音してしまうこともない。すなわち、風切音が無い状態では、風切音のある状態に比べて、マイクロフォン出力信号において暗騒音(主として高周波域の音)が支配的となる。そのため、全騒音の中で高周波成分が占める割合は、風切音が有る状態と比較して大きくなる。よって、音圧比J(=L1/L2またはLw/Lr)の値は目標値Jdを超え、例えば、(式5)に従って制御ゲインKは減少し続ける。ただし、絶対値計算のためKの値が負になることが防止されるから、最終的にはK=0へと収束し、スピーカ104の出力がゼロ(0)になる。つまり、アクティブ消音は行われない。
【0084】
このように、図11に示された構成の非発話時ゲイン調節回路121は、マイクロフォン102によって検出された風切音周波数スペクトルを目標スペクトル形状に収束させることにより、消音を図っている。そのため、マイクロフォン102の出力信号の周波数スペクトルが使用者Pの発話の影響を受けると、非発話時ゲイン調節回路121は、消音のための適切な制御ゲインを設定できなくなるおそれがある。
【0085】
そこで、この実施形態では、使用者Pの発話が検出されると、非発話時ゲイン調節回路121に代わって、発話時ゲイン調節回路122によってアンプ108の制御ゲインを設定するようにしている。これにより、非発話時および発話時を問わず、良好な消音動作が可能となる。
図14は、この発明の他の実施形態を説明するための図であり、前述のようなアクティブ消音ヘルメットを備えた車両システムの全体構成が示されている。また、図15は、この車両システムの電気的構成を示すブロック図である。これらの図14および図15では、前述の図1Aおよび図1Bに示された各部に対応する部分は、同一の参照符号で示す。
【0086】
この実施形態では、アクティブ消音ヘルメットの構成要素のうち、マイクロフォン102、スピーカ104(たとえば平板スピーカ)および発話検出マイクロフォン1,2のみがヘルメット本体30に取り付けられており、制御信号生成回路106などの残余の構成部分は、車両の一例としての二輪車両の車体40に取り付けられた車体側装置としてのANCコントローラアンプ41に備えられている。そして、このANCコントローラアンプ41とマイクロフォン102およびスピーカ104との間は、複数本のケーブルを束ねたワイヤハーネス42を介して有線接続されている。
【0087】
ワイヤハーネス42は、マイクロフォン102の出力信号をANCコントローラアンプ41に入力するためのマイク信号ライン43と、ANCコントローラアンプ41からの消音のための制御信号をスピーカ104に供給するための音声信号ライン44と、発話検出マイクロフォン1,2の出力信号をANCコントローラアンプ41に入力するための発話検出マイク信号ライン45とを備えた通信手段を形成している。
【0088】
音声信号ライン44には、さらに、車体40に備えられた音情報発生装置50(音情報発生手段)が接続されている。この音情報発生装置50は、音声信号を生成する音源部51と、この音源部51が生成した音声信号を増幅して制御信号生成回路106に送出するプリアンプ52とを備えている。
制御信号生成回路106は、この実施形態では、ANC制御ゲイン変更部108−1と、加算回路109と、パワーアンプ108−2とを備えている。ANC制御ゲイン変更部108−1は、消音制御フィルタ回路107からの制御信号を、ゲイン調節回路120が生成する制御ゲインに応じて増幅する前置増幅回路である。このANC制御ゲイン変更部108−1が出力する制御信号と、音情報発生装置50のプリアンプ52の出力信号とが、加算回路109において加算される。この加算後の信号が、パワーアンプ108−2によって一定のゲインで増幅されて、音声信号ライン44に送出される。
【0089】
したがって、音声信号ライン44は、音情報発生装置50が生成する音声信号をヘルメット本体30に伝達する伝達手段としての機能をも担っている。
こうして、ヘルメット本体30内に備えられたスピーカ104からは、常時、消音のための制御音が発音されるとともに、音情報発生装置50から発生された音声信号が必要時に音響化されて出力されることになる。つまり、スピーカ104は、音情報を音響化する音情報発音手段としても機能することになる。このようにして、ヘルメット本体30の装着者は、風切音が良好に消音された状況下で、音情報発生装置50が発生する音情報を聴取できる。
【0090】
音情報発生装置50は、音声案内を行うナビゲーション装置であってもよいし、ラジオやオーディオプレーヤ等のオーディオ装置であってもよいし、携帯電話機(たとえば、会話のための基本機能のほかにメール読み上げ機能を有するもの)であってもよい。
ANCコントローラアンプ41および音情報発生装置50とヘルメット本体30との間は、必ずしも有線接続する必要はなく、赤外線通信等の無線通信によって、それらの間の信号の授受を行うようにしてもよい。
【0091】
むろん、この実施形態は、ヘルメットが必要とされる限りにおいて、四輪車両にも適用可能である。
その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1A】本発明の一実施形態に係るアクティブ消音ヘルメットのシステム構成を示すブロック図である。
【図1B】前記アクティブ消音ヘルメットの外観図である。
【図2】前記実施形態に係るアクティブ消音ヘルメットが対象とする制御系の構成を示す図である。
【図3】発話検出器の構成例を説明するためのブロック図である。
【図4】コヒーレンス演算部によって演算されたコヒーレンスの一例を示す図である。
【図5】図5(a)および図5(b)は、ヘルメット本体内における発話検出マイクロフォンの配置例を示す図である。
【図6】図6(a)および図6(b)は、図5(a)および図5(b)の発話検出マイクロフォンの配置に対応したコヒーレンスの例をそれぞれ示す図である。
【図7】ゲイン調節回路の全体の動作をまとめて示すフローチャートである。
【図8】スペクトル比較回路の具体的な機能の一例を説明するための図である。
【図9】バンドパスフィルタを用いてスペクトル比較回路を構成する例を示すブロック図である。
【図10】制御ゲインを算出するためのゲインマップの例を示す図である。
【図11】非発話時ゲイン調節回路の構成例を説明するためのブロック図である。
【図12】図11の回路によって実現されるアクティブ消音制御を説明するための図である。
【図13】図13A、図13Bおよび図13Cは、非発話時ゲイン調節回路の働きによるアクティブ消音制御による効果を説明するための図であって、図13Aは、風切音が大きい状態での効果を示す図、図13Bは、風切音が小さい状態での効果を示す図、図13Cは、風切音がない状態での効果を示す図である。
【図14】この発明の他の実施形態を説明するための図であり、前記アクティブ消音ヘルメットを備えた車両システムの全体構成が示されている。
【図15】前記車両システムの電気的構成を示すブロック図である。
【0093】
1,2 発話検出マイクロフォン
3 発話検出器
5 ゲイン保存メモリ
6 ゲイン更新切り換えスイッチ
7 ゲイン更新制御回路
8 高速フーリエ変換回路
9 スペクトル保存メモリ
10 スペクトル更新切り換えスイッチ
11 スペクトル更新制御回路
12 スペクトル比較回路
13 制御ゲイン生成回路
21 コヒーレンス演算部
22 しきい値メモリ
23 コヒーレンス比較部
24 発話判定部
30 ヘルメット本体
31 外郭
33 カバー
35 シールド
40 車体
41 コントローラアンプ
42 ワイヤハーネス
43 マイク信号ライン
44 音声信号ライン
45 発話検出マイク信号ライン
50 音情報発生装置
51 音源部
52 プリアンプ
61〜63 バンドパスフィルタ
100 アクティブ消音ヘルメット
102 マイクロフォン
104 スピーカ
106 制御信号生成回路
107 消音制御フィルタ回路
108 アンプ
108−1 ANC制御ゲイン変更部
108−2 パワーアンプ
109 加算回路
120 ゲイン調節回路
121 非発話時ゲイン調節回路
122 発話時ゲイン調節回路
123 ゲイン調節切り換え回路
124 切り換え制御回路
202 A/D変換器
204 D/A変換器
206−1,206−2 フィルタ
208−1,208−2 A/D変換器
210−1,210−2 音圧算出部
212 音圧比算出部
214 調節部
P 使用者

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘルメット本体内の騒音を検出する騒音検出手段と、
この騒音検出手段によって検出された騒音を打ち消すための制御音を発生する発音手段と、
前記騒音検出手段の出力信号を演算処理して前記制御音に対応した制御信号を生成して前記発音手段に与えるための制御信号生成手段と、
前記ヘルメット本体を装着した装着者の発話を検出する発話検出手段と、
この発話検出手段によって発話が検出されていない期間に前記制御信号生成手段のゲインを調節する非発話時ゲイン調節手段と、
前記発話検出手段によって発話が検出される直前に前記非発話時ゲイン調節手段によって設定されるゲインを記憶する非発話時ゲイン記憶手段と、
前記発話検出手段によって発話が検出されている期間に、前記非発話時ゲイン記憶手段に記憶されているゲインに基づいて前記制御信号生成手段のゲインを調節する発話時ゲイン調節手段とを含む、消音ヘルメット。
【請求項2】
前記発話時ゲイン調節手段は、前記騒音検出手段の出力信号および前記非発話時ゲイン記憶手段に記憶されているゲインに応じて、前記制御信号生成手段のゲインを調節するものである、請求項1記載の消音ヘルメット。
【請求項3】
前記発話時ゲイン調節手段は、
前記騒音検出手段の出力信号に基づいて、前記ヘルメット本体内の騒音の周波数スペクトルを求めるスペクトル演算手段と、
前記発話検出手段によって発話が検出される直前に前記スペクトル演算手段によって演算された周波数スペクトルを記憶する非発話時騒音スペクトル記憶手段と、
前記発話検出手段によって発話が検出されている期間に前記スペクトル演算手段によって演算される騒音の周波数スペクトルと、前記非発話時騒音スペクトル記憶手段に記憶されている周波数スペクトルとを比較するスペクトル比較手段と、
このスペクトル比較手段による比較結果と、前記非発話時ゲイン記憶手段に記憶されているゲインとに基づいて前記制御信号生成手段のゲインを調節するゲイン制御手段とを含む、請求項1記載の消音ヘルメット。
【請求項4】
前記スペクトル比較手段は、装着者の発話に対応した発話ピークが実質的に現れない周波数帯域内の特定周波数における振幅スペクトルまたはその相当値を、前記発話検出手段によって発話が検出されている期間に前記スペクトル演算手段によって演算される騒音の周波数スペクトルと、前記非発話時騒音スペクトル記憶手段に記憶されている周波数スペクトルとの間で比較するものである、請求項3記載の消音ヘルメット。
【請求項5】
前記特定周波数が、複数の異なる周波数を含む、請求項4記載の消音ヘルメット。
【請求項6】
前記ゲイン制御手段は、前記非発話時ゲイン記憶手段に記憶されているゲインに対して、前記スペクトル比較手段による比較結果に応じた補正を施すことにより、前記制御信号生成手段のゲインを求めるものである、請求項4または5記載の消音ヘルメット。
【請求項7】
前記非発話時ゲイン調節手段は、
前記騒音検出手段の出力信号を用いて、互いに異なる周波数帯の音圧の比を取得する音圧比取得手段と、
この音圧比取得手段によって取得された前記音圧比を用いて、前記騒音検出手段の出力信号のスペクトルが所定の目標スペクトルに近づくように前記制御信号生成手段のゲインを制御するゲイン制御手段とを含む、請求項1〜6のいずれか一項に記載の消音ヘルメット。
【請求項8】
前記ヘルメット本体の装着者が発した音声をヘルメット本体内の異なる位置でそれぞれ検出して音声信号を出力する第1および第2の音声検出手段をさらに含み、
前記発話検出手段は、
前記第1および第2の音声検出手段が出力する音声信号の相関性を表す相関性値を演算する相関性演算手段と、
この相関性演算手段によって演算された相関性値に応じて、前記装着者が発話中か否かを判定する発話判定手段とを含む、請求項1〜7のいずれか一項に記載の消音ヘルメット。
【請求項9】
ヘルメット本体内の騒音を検出する騒音検出手段と、
この騒音検出手段によって検出された騒音を打ち消すための制御音を発生する発音手段と、
前記騒音検出手段の出力信号を演算処理して前記制御音に対応した制御信号を生成して前記発音手段に与えるための制御信号生成手段と、
前記ヘルメット本体の装着者が発した音声をヘルメット本体内の異なる位置でそれぞれ検出して音声信号を出力する第1および第2の音声検出手段と、
この第1および第2の音声検出手段が出力する音声信号の相関性を表す相関性値を演算する相関性演算手段、ならびにこの相関性演算手段によって演算された相関性値に応じて、前記ヘルメット本体を装着した装着者が発話中か否かを判定する発話判定手段を含む発話検出手段と、
この発話検出手段によって発話が検出されていない期間に前記制御信号生成手段のゲインを調節する非発話時ゲイン調節手段と、
前記発話検出手段によって発話が検出されている期間に、前記非発話時ゲイン調節手段とは異なる態様で前記制御信号生成手段のゲインを調節する発話時ゲイン調節手段とを含む、消音ヘルメット。
【請求項10】
前記第1および第2の音声検出手段は、
前記ヘルメット本体を装着する装着者の口元からほぼ等距離の位置にそれぞれ配置されている、請求項8または9記載の消音ヘルメット。
【請求項11】
前記第1および第2の音声検出手段は、
前記相関性演算手段によって演算される相関性値が、前記ヘルメット本体の装着者の発話時には所定のしきい値以上となり、当該装着者の非発話時には前記しきい値未満となるように、前記ヘルメット本体内にそれぞれ配置されている、請求項8〜10のいずれか一項に記載の消音ヘルメット。
【請求項12】
車体と、
請求項1〜11のいずれか一項に記載の消音ヘルメットとを含み、
少なくとも前記騒音検出手段および発音手段は、前記消音ヘルメットのヘルメット本体に備えられ、
前記消音ヘルメットの前記騒音検出手段および発音手段を除く残余の構成部分の少なくとも一部が前記車体に備えられて車体側装置を形成しており、前記車体側装置と前記騒音検出手段および発音手段との間で信号を授受するための通信手段をさらに含む、車両システム。
【請求項13】
車体と、
請求項1〜11のいずれか一項に記載の消音ヘルメットと、
前記車体に備えられ、音情報を発生する音情報発生手段と、
この音情報発生手段が発生する音情報を前記消音ヘルメットのヘルメット本体に伝達する伝達手段と、
前記ヘルメット本体に備えられ、前記伝達手段によって伝達される音情報を音響化する音情報発音手段とを含む、車両システム。
【請求項14】
ヘルメット本体内の騒音を騒音検出手段によって検出する騒音検出ステップと、
検出された騒音を打ち消すための制御音を発音手段から発生させるステップと、
前記騒音検出手段の出力信号を演算処理して得られた制御信号を増幅手段によって増幅して前記発音手段に与えるステップと、
前記ヘルメット本体を装着した装着者の発話を検出する発話検出ステップと、
前記装着者の発話が検出されていない期間に、前記増幅手段のゲインを調節する非発話時ゲイン調節ステップと、
前記装着者の発話が検出されている期間に、直前の非発話時ゲイン調節ステップにおいて設定されたゲインに基づいて前記増幅手段のゲインを調節する発話時ゲイン調節ステップとを含む、ヘルメット内騒音消音方法。
【請求項15】
ヘルメット本体内の騒音を騒音検出手段によって検出する騒音検出ステップと、
検出された騒音を打ち消すための制御音を発音手段から発生させるステップと、
前記騒音検出手段の出力信号を演算処理して得られた制御信号を増幅手段によって増幅して前記発音手段に与えるステップと、
前記ヘルメット本体の装着者が発した音声を、第1および第2の音声検出手段によって、ヘルメット本体内の異なる位置で検出する音声検出ステップと、
前記第1および第2の音声検出手段が出力する音声信号の相関性を表す相関性値を演算する相関性演算ステップと、
前記演算された相関性値に応じて、前記ヘルメット本体を装着した装着者が発話中か否かを判定する発話判定ステップと、
前記装着者が発話中でないと判定された期間に、前記増幅手段のゲインを調節する非発話時ゲイン調節ステップと、
前記装着者が発話中であると判定された期間に、前記非発話時ゲイン調節ステップとは異なる態様で前記増幅手段のゲインを調節する発話時ゲイン調節ステップとを含む、ヘルメット内騒音消音方法。

【図1A】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図15】
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【図1B】
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【図14】
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【公開番号】特開2007−2393(P2007−2393A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−141869(P2006−141869)
【出願日】平成18年5月22日(2006.5.22)
【出願人】(000010076)ヤマハ発動機株式会社 (3,045)
【Fターム(参考)】