消音器用吸音材

【課題】 熱劣化や繊維の飛散がなく、消音性能を長期にわたって維持可能の消音器用吸音材を提供する。
【解決手段】 α−アルミナ結晶化率:5%以下およびムライト結晶化率:80%以下の結晶質アルミナファイバーから主としてなる吸音材、またさらに、その他の繊維やその他の無機材料や有機化合物の混合物からなる吸音材を提供する。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消音器に用いられる吸音材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
内燃機関、例えば自動車用エンジン等は、排気管の途中に消音器を設けることにより、排気系で発生する騒音成分を減衰させる消音処理をするのが一般的である。
このような排気系で発生する騒音成分を減衰させる消音器としては、従来、各種の構造のものがあり、それらはエンジンの大きさ等の種々の条件に合った構造のものが採用されている。例えば、排気中に含まれる騒音成分のうち、高い周波数の騒音成分を減衰させる消音器には、複数の小孔が穿設された金属筒の周囲を繊維状の吸音材で覆ったものが用いられている。
【0003】
この種の消音器においては、金属筒の小孔に高温排気の流動に伴う衝撃圧力が集中する。従って、吸音材としてガラス繊維などを使用すると、とくに近年のように排気ガス温度が上昇すると、耐熱性の低いガラス繊維が溶融収縮してビーズ状になったり、熱間での繊維強度の劣化から、振動や排気ガスの脈動によってガラス繊維が小孔より外気中へ飛散し、吸音効果が著しく減少することが、問題になっていた。
【0004】
この問題を解決する消音器として、特許文献1および特許文献2には、小孔が穿設された金属筒と吸音材との間にステンレスウールや金網製のクッション材を介在させたものが、提案されている。
【0005】
しかしながら、これらのステンレス鋼製ウールや金網製クッション材は、騒音成分を減衰させるために、気孔が連続するような構造にしてあることから、ガラス繊維層を熱的に保護する機能が小さく、また、金属製のクッション材は熱間において軟化し易く、クッション材としての効果が極めて低い。従って、長期間にわたり騒音成分を減衰させることは、困難であった。
【0006】
一方、無機質吸音材に、シリカ−アルミナセラミックファイバーや、結晶質アルミナファイバーを用いて、耐熱性を向上させることが提案されている。しかしながら、シリカ−アルミナセラミックファイバーはショットとよばれる粒子状物を50mass%近く含むため、このショットが振動により吸音材内部で運動すると、吸音材に穴が開くという問題がある。また、汎用の結晶質アルミナファイバーは、従来1400℃前後の高温窯炉の断熱材として使用される耐火断熱材であり、強度的に極めて脆く、振動により繊維が破断し、金属筒の小孔を介して外気中へ飛散し吸音効果が著しく減少してしまう不利がある。さらには、大気中に無機繊維が飛散して大気汚染を招来することにもなる。
【特許文献1】実開昭61−59819号公報
【特許文献2】実公平6−19785号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、吸音材が金属筒の小孔を介して外気中へ飛散することなく、優れた消音性能を長期にわたって維持可能な消音器用吸音材を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は、複数の小孔を有する金属筒の周囲に吸音材を設け、さらにこの吸音材の外側を金属シェルで被覆してなる内燃機関の消音器用吸音材において、α−アルミナ結晶化率:5%以下およびムライト結晶化率:80%以下の結晶質アルミナファイバーからなることを特徴とする消音器用吸音材である。
【0009】
本発明はまた、α−アルミナ結晶化率:5%以下およびムライト結晶化率:80%以下の結晶質アルミナファイバーからなるアルミナと、シリカ−アルミナおよびガラスから選ばれる1種以上の繊維材料およびその他の無機材料及び有機材料と、の複合物からなることを特徴とする消音器用吸音材である。
【0010】
なお、本発明において、前記シリカ−アルミナ系無機質繊維は、アルミナ含有率を85mass%以下で、α−アルミナ結晶化率:5%以下およびムライト結晶化率:80%以下の結晶質アルミナファイバーを含むものであること、また、結晶質アルミナファイバー中には、径が44μm以上の粒子状物を10mass%以下含有すること、結晶質アルミナファイバー含有層と他の耐熱性の低い無機繊維材料の層とを組み合わせてなり、該結晶質アルミナファイバー含有層の厚みを、耐熱性の低い無機繊維質材料の耐熱温度を超えないような厚みにしてなることが、有利である。
【発明の効果】
【0011】
本発明にかかる消音器用吸音材は、金属筒内筒側面に取付けられるものであって、結晶化率を制御した結晶質アルミナファイバーを用いることにより、高温排気ガスによる吸音材の熱劣化を防ぐとともに、振動や排気ガスの脈動による無機繊維の飛散を防げるため、安定した消音性能を長期間にわたって維持することができる。
また、結晶質アルミナファイバーにおいては、径が44μm以上の粒子状物含有率を10%以下とすることにより、結晶質アルミナファイバー層内部の振動による劣化を防ぐことが可能となり、特に大気中への繊維状物の飛散のない優れた内燃機関の消音器を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の消音器用吸音材は、とくに、金属筒に接してその周囲に設ける無機繊維質の材料であって、α−アルミナ結晶化率:5%以下およびムライト結晶化率:80%以下である結晶質アルミナファイバーを用いるところに特徴がある。なお、この無機繊維質吸音材を全て結晶質アルミナファイバーにて形成することも可能である。
【0013】
ここで、前記結晶質アルミナファイバーは、低温でプリカーサーと呼ばれる前駆体を紡糸した後、1400℃前後で焼成して製造するのが通例である。そして、従来の一般的用途である、高温窯炉の断熱材として結晶質アルミナファイバーを使用する場合には、再加熱時の、熱収縮による目地開き等の抑制が重要な課題となるため、製造時の焼成条件を制御し、通常は、α−アルミナ結晶を20%程度析出させたり、ムライト結晶化率が100%近くに制御したものが生産されている。
【0014】
しかし、結晶質アルミナファイバーにおける結晶化率とその繊維強度とは、負の相関にある。従って、高温窯炉の断熱材のように、静止した状態で使用されるものでは特に問題はないが、自動車部品等の振動下で使用される部品へ供する材料としては、強度が不足し、長時間の使用には耐えられないものである。
【0015】
一方、自動車排気系部品用吸音材としては、せいぜい1000℃までの耐熱性があれば十分であり、むしろ強度の方が要求される。そこで、必要な強度を維持するために、本発明では、結晶質アルミナファイバーにおける、α−アルミナ結晶化率を5%以下とし、かつムライト結晶化率を80%以下とし、このことにより強度不足を解消するようにした。すなわち、α−アルミナ結晶が5%をこえて析出したり、ムライト結晶化率が80%をこえると、繊維強度が劣化する。というのは、本発明において用いられる結晶質アルミナファイバーを、プリカーサーを焼成して製造するときに、Al−Si型スピネル構造のファイバー中に結晶格子間距離の小さいムライト結晶,α−アルミナ結晶が一定量以上析出すると、繊維強度の劣化を招くからである。
【0016】
なお、ムライト結晶化率は、上述した理由により、繊維強度を高くするためには、できる限り小さいことが望ましいが、自動車排気系部品用吸音材として用いる場合、80%以下であればよい。
【0017】
ところで、α−アルミナ結晶およびムライト結晶以外の結晶、例えばθ−アルミナ、γ−アルミナ、δ−アルミナ等の結晶が進んでいるものについては使用に十分に耐えるため、α−アルミナ結晶およびムライト結晶以外の結晶については特に規制しない。
【0018】
また、アルミナ含有率が高いと、前述したAl−Si型スピネル構造からα−アルミナ結晶への転移が促進される。特にアルミナ含有率が80mass%をこえると繊維強度が著しく減少してしまう。このことから、アルミナ含有率は85mass%以下、より好ましくは60〜80mass%とする。
【0019】
さらに、結晶質アルミナファイバー層における、粒子状物含有率についても規制することが好ましい。とりわけ、平均粒子径が44μm以上の粒子状物含有率は10mass%以下に抑制することが有利である。なぜなら、この平均粒子径が44μm以上の粒子状物を多く含むと、上述したシリカ−アルミナセラミックファイバーの場合と同様、消音器の振動によって吸音材内の粒子状物が吸音材穴をあけるため、平均粒子径が44μm以上の粒子状物の含有率は10mass%以下に制限することが必要である。特に、径が44μm以上の粒子状物の含有率は、5mass%以下であることが好ましい。
【0020】
上記した結晶質アルミナファイバーは、アルミナ含有率を85mass%以下にし、製造時の焼成条件を制御することによって得られる。
【0021】
また、無機繊維質吸音材を、金属筒側に配置する結晶質アルミナファイバーと、他の耐熱性の低い無機繊維質材料とを組み合わせで使用する場合、結晶質アルミナファイバーを、前記耐熱性の低い無機繊維質材料の耐熱温度以下となるような厚みにする。
【0022】
そして、結晶質アルミナファイバーからなる無機繊維質吸音材は、複数の孔を有する金属筒と金属シェルとの間の空間に設けるのは上述の通りであり、そこでの平均嵩密度は、0.05〜0.30g/cm3 の範囲とすることが好ましい。なぜなら、平均嵩密度が、0.05g/cm3 未満であると耐久性上の問題が生じ、一方、0.30g/cm3 をこえると消音効果をそれほど期待できないからである。なお、無機繊維質吸音材を1%以上の平均圧縮率で上記空間に設けることにより、該空間内に確実に固定することができ、自動車の振動や排気流等により、無機繊維質吸音材の位置がずれたり、粉化することを有効に防止することができる。
【0023】
また、無機繊維質吸音材は、前記結晶質アルミナファイバーからなるアルミナ、前記結晶質アルミナファイバーを含むシリカ−アルミナおよびガラスから選ばれる1種以上の繊維材料を用いて、これらの繊維単独もしくはその他の無機材料及び有機材料との複合材料によりなるものが好適である。すなわち、アルミナ、シリカ−アルミナまたはガラスによる繊維材料は、先に示した密度等の条件を満足する繊維材料の中で、最も一般的で、コストも安価である。繊維材料は、平均繊維径が1.5〜20μm、平均繊維長が5mm以上であるものがとりわけ有利である。
【0024】
なお、金属筒としては、例えば、SUS409、肉厚1.0mm、内径φ60mmのステンレス鋼製であり、φ3mm,ピッチ6mmのパンチング穴を開けたものが用いられる。また、金属シェルとしては、例えば、肉厚 1.5mmのパイプ状物、またはクラムシェル状物等を用いる。また、金属シェルの材質としては、ステンレス鋼板の他、アルミメッキ鋼板等が有利に用いられる。
【実施例】
【0025】
以下、本発明の吸音材についてこれを消音器に取付けた実施例を説明する。
厚さ:0.6mmおよび外径:60mmのSUS304製の筒の外周面に径5mmの孔を複数開口率20%で設けた金属筒の周囲に、下記に示す種々の仕様の無機繊維質吸音材を設け、この無機繊維質吸音材を厚さ:0.6mmのアルミめっき鋼板(SACD80)による金属シェルで被覆して消音器を作製した。
【0026】
(1) 実施例1の無機繊維質吸音材として、アルミナ:80mass%およびシリカ:20mass%の組成になり、α−アルミナ結晶化率:0%およびムライト結晶化率:70%、44μm以上の粒子状物含有率が5mass%の結晶質アルミナファイバーを、厚み:40mmおよび充填嵩密度:0.25g/cm3 で設けた。
(2) 実施例2の無機繊維質吸音材として、Eガラス繊維を厚み:20mmおよび充填嵩密度:0.15g/cm3 で設け、さらにその金属筒側面に、実施例1と同様の結晶質アルミナファイバーを、厚み20mmで設けた。
【0027】
(3) 比較例1の無機繊維質吸音材として、平均繊維径:9μm、充填嵩密度:0.15g/cm3 および厚み:35mmのガラス繊維を使用し、吸音材の飛散防止として、その金属筒側面にステンレスウール(SUS304)を厚み:5mmおよび充填嵩密度:0.56g/cm3 で設けた。
(4) 比較例2として、実施例1と同様の構成で結晶質アルミナファイバーのα−アルミナ結晶化率:5%、ムライト結晶化率:95%のものを使用した。
【0028】
かくして得られた各消音器を、排気量2リットルの6気筒ガソリンエンジンの排気管に連設して、このエンジンを毎分4000回転で運転したときの、排気管からの騒音を、排気管の後方1m離れた位置で測定した。次いで、同じ条件での実車走行を30000km行い、その走行後における排気管からの騒音を上記と同様に測定するとともに、実車走行後の吸音材の重量損失割合も調査した。これらの測定結果を、表1に示す。
【0029】
【表1】

【0030】
その結果、本発明に適合する実施例1、2の場合、走行後の排気騒音値が比較例の吸音材よりも低く、かつ重量減少もほとんど観測されることはなかった。即ち、吸音材の熱劣化を防ぐことができると共に、無機質繊維の飛散がないので、消音性能を長期に亘って維持できることがわかった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
α−アルミナ結晶化率:5%以下およびムライト結晶化率:80%以下の結晶質アルミナファイバーからなることを特徴とする消音器用吸音材。
【請求項2】
α−アルミナ結晶化率:5%以下およびムライト結晶化率:80%以下の結晶質アルミナファイバーからなるアルミナと、シリカ−アルミナおよびガラスから選ばれる1種以上の繊維材料およびその他の無機材料及び有機材料と、の複合物からなることを特徴とする消音器用吸音材。
【請求項3】
前記シリカ−アルミナは、アルミナ含有率が85mass%以下で、α−アルミナ結晶化率:5%以下およびムライト結晶化率:80%以下の結晶質アルミナファイバーを含むものであることを特徴とする請求項1または2に記載の消音器用吸音材。
【請求項4】
結晶質アルミナファイバー中に含まれる、径:44μm以上の粒子状物は、10mass%以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の消音器用吸音材。
【請求項5】
結晶質アルミナファイバー含有層と他の耐熱性の低い無機繊維材料の層とを組み合わせてなり、該結晶質アルミナファイバー含有層の厚みを、耐熱性の低い無機繊維質材料の耐熱温度を超えないような厚みにしてなることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の消音器用吸音材。


【公開番号】特開2006−22817(P2006−22817A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
機械工学;照明;加熱;武器;爆破 | 機械または機関一般;機関設備一般;蒸気機関 | 機械または機関のためのガス流消音器または排気装置一般;内燃機関用ガス流消音器または排気装置 | 消音方法によって特徴づけられた消音装置 | 吸音物質を用いるもの
繊維;紙 | 組みひも;レース編み;メリヤス編成;縁とり;不織布 | 布帛 | 全部または大部分がステープルファイバまたは類似の比較的短い繊維で構成された不織布 | 凝集性または潜在凝集性を有しない繊維で構成されたフリースまたは層からのもの | 特定繊維の使用に特徴があり,その使用がフリースの結合に圧倒的な影響をおよぼさない範囲のもの
【出願番号】特願2005−232989(P2005−232989)
【出願日】平成17年8月11日(2005.8.11)
【分割の表示】特願平8−66613の分割
【原出願日】平成8年3月22日(1996.3.22)
【出願人】(000000158)イビデン株式会社
【Fターム(参考)】
排気消音装置 | 用途 | 自動車機関用
排気消音装置 | 目的、効果
排気消音装置 | 目的、効果 | 消音性能
排気消音装置 | 消音方法 | 吸音(例;ダクト型)
排気消音装置 | 消音方法 | 吸音(例;ダクト型) | フィルタ型
排気消音装置 | 材料 | 繊維状材料
排気消音装置 | 材料 | 金属
排気消音装置 | 材料 | 無機材料
不織物 | 原料の化学的組成 | 無機繊維 | 金属
不織物 | 機能 | 音特性(←防音・吸音性)
不織物 | 機能 | 熱特性 | 耐熱性