消音器
【課題】 消音器のシェル内に溜まった残留水の排出能率を向上させ、シェルの面剛性を高めてその変形を防止し、振動音の低減を図る。
【解決手段】
消音器M内の消音空間を第1、第2、第3の消音室5,6,7に仕切る第1、第2の仕切板3,4の外周全部をシェル2の内周に接触させると共に仕切板3,4の嵌合孔12d,16dのシェル底部側周囲の第1、第2の仕切板3,4に、シェル底部に貯留する残留水Wが流通する流通孔17,18を設けた。
【解決手段】
消音器M内の消音空間を第1、第2、第3の消音室5,6,7に仕切る第1、第2の仕切板3,4の外周全部をシェル2の内周に接触させると共に仕切板3,4の嵌合孔12d,16dのシェル底部側周囲の第1、第2の仕切板3,4に、シェル底部に貯留する残留水Wが流通する流通孔17,18を設けた。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの排気系に接続される消音器に関し、特に、剛性が高く、振動音を低減できるようにした新規な消音器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用エンジンの排気系に接続される消音器においは、排気ガス中に含まれる水分が消音器の底部に残留水として貯留することがあるため、アウトレットパイプを消音器の底部近くに配置し、アウトレットパイプの入口からアウトレットパイプ内に残留水を引き込み排気ガスと共に大気に排出するもの(後記特許文献1参照)やアウトレットパイプに形成した水抜孔からアウトレットパイプ内に残留水を引き込み、排気ガスと共に大気に排出するもの(後記特許文献2、3参照)が知られている。
【特許文献1】特開2005−330829号公報
【特許文献2】特開2006−2612号公報
【特許文献3】特開2005−140101公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、消音器は、車両の走行中の消音器後部の接地を防止するため、後方を持ち上げた前傾姿勢で車体に取り付けられている。
【0004】
そこで、かかる消音器では、その内部を複数の消音室に仕切る仕切板の最下面に凹み部を形成し、この凹み部により仕切板の下面と消音器の外殻を構成するシェル底部との間に、わずかな隙間を形成し、残留水がこの隙間を通って消音器の前部に集まるようにすると共に、アウトレットパイプ入口や水抜孔も消音器の前方寄りに配置して、アウトレットパイプを介しての残留水の排出が効率良くなされるようにしている。
【0005】
ところが、仕切板の凹み部が形成される箇所では、シェルに対する仕切板の押し付けが無いことから下記(1) (2) の問題を生じることがあった。
【0006】
(1) 多層薄板からなるシェルの、シェル薄板間に隙間(浮き)が発生。
【0007】
(2) シェルの面剛性低下によるシェルの変形や、放射音の増加(シェル膜面振動の振幅増加による振動音の増加)。
【0008】
また、生産上の観点からは、スチールプレートなどのブランク材から凹み部が無い状態の仕切板をプレス成形した後に、仕切板の最下面に側方から凹み部を形成する追加加工が必要となり、生産工程が増えるという問題もあった。
【0009】
本発明は、かかる実情に鑑みてなされたもので、前記問題をすべて解消した、新規な消音器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、請求項1の発明は、シェル本体と、このシェル本体の両端面を塞ぐ前、後部端板よりなるシェルと、シェル内に形成される消音空間に、エンジンから排出される排気ガスを導入するインレットパイプと、シェル内のシェル底部に近接して配置され、消音空間に導入された排気ガスを大気に排出するアウトレットパイプと、消音空間を複数の消音室に仕切ると共に、アウトレットパイプを嵌合支持する嵌合孔が形成された仕切板とを備える消音器において、
仕切板の外周全部をシェルの内周に接触させると共に嵌合孔のシェル底部側周囲の仕切板に、シェル底部に貯留する残留水が流通する流通孔を設けたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本請求項1の発明によれば、仕切板にシェル底部に貯留する残留水が流通する流通孔を設けたので、シェル底部に貯留する残留水は流通孔を通って移動でき、残留水を消音器の前部に集めてアウトレットパイプ内に残留水を引き込み、残留水を効率良く排出することができる。また、仕切板の外周全部をシェルの内周に接触させたので、仕切板の押し付けが部分的に無くなることによる生じる前記(1) (2) の問題が解決される。
【0012】
さらに、仕切板を成形するときに流通孔を同時に成形することができるため、仕切板に凹み部を追加加工しないですみ、生産工程が増えることもなく、生産上の問題も解決される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を、添付図面に示した本発明の実施例に基づいて具体的に説明する。
【0014】
本実施例は、本発明消音器を自動車用エンジンの排気系に実施した場合であって、図1は、本発明消音器を備えたエンジンの排気系の概略側面、図2は、図1の2矢視の消音器の斜視図、図3は、図2の3−3線に沿う断面図、図4は、図3の4−4線に沿う断面図、図5は、図4の5−5線に沿う断面図、図6は、図5の6−6線に沿う断面図、図7は、図5の7−7線に沿う断面図、図8は、図4の8−8線に沿う断面図、図9は、図4の9−9線に沿う断面図、図10は、図7の10−10線に沿う断面図、図11は、図7の11−11線に沿う断面図である。
【0015】
図1において、全体を符号Eで示す自動車用のエンジンには、その運転により排出される排気ガスを大気に排出するための排気系Exが接続されており、この排気系Exは、エンジンEの排気ポートに接続される排気ガス排出パイプ1に、その上流側から下流側に触媒C、プリチャンバPが接続され、排気ガス排出パイプ1の下流側に消音器Mの入口に接続される排気ガス導入パイプ1Eがジョイントを介して連結される。。
【0016】
前記排気系Exがエンジンに接続されるとき、消音器Mのシェル2は水平面に対して傾斜角θをもって前傾姿勢に配置される。
【0017】
そして、エンジンEの運転により、そこから排出された排気ガスは、触媒CによりHC、NOxなどの有害成分が浄化され、プリチャンバPにより一次消音され、さらに消音器Mにより二次消音されて大気に排出される。
【0018】
つぎに、本発明にかかる消音器Mの構造を、図2〜11を参照して詳細に説明する。
【0019】
消音器Mの外殻を構成するシェル2は、ステンレス製の板材を筒状に巻曲し、その両端縁同志を一体に接合して構成されるシェル本体2aと、その左右開口端に、気密にかしめ固定される前、後部端板2b,2cとにより密閉状に形成されている。図3,5,6に示すように、前記密閉状シェル2の縦断面形状は、その下半部が下側に向けてなだらかな凸の湾曲面に、またその上半部が上側に向けて下半部よりも急峻な凸の湾曲面に形成されて概略楕円形状をなしており、シェル2は、その短径側を上下方向に向けて排気ガス導入パイプ1Eの下流部に接続される。そして、このシェル2の前部端板2bには、排気ガス排出パイプ1に接続される排気ガス導入パイプ1Eおよび大気に開口されるテールパイプ40が共にの気密に接続され、テールパイプ40はシェル2の一側を迂回してその後方へと延長されている。
【0020】
図4,7に示すように、前記シェル2内の消音室は、第1、第2の仕切板3,4により3つの消音室、すなわち第1、第2および第3の消音室5,6および7とに仕切られている。具体的には、シェル2の内周には、その長手方向に間隔をあけて第1の仕切板3および第2の仕切板4の外周全部が接触して、シェル2の内周に前、後部端板2b,2cと略平行に圧入固定(溶接しない)されている。この場合、第1の仕切板3および第2の仕切板4の外周全部がシェル2の内周に接触してそこに圧入固定されることにより、シェル2の内周と第1の仕切板3および第2の仕切板4の外周間に隙間が形成されることがない。シェル2の長手方向の前部には、前部端板2bと第1の仕切板3とによって第1の消音室5が区画され、また、第1の消音室5の後側には、第1の仕切板3と第2の仕切板4とにより第2の消音室6が区画され、さらに、前記第2の消音室6の後側には、第2の仕切板4と後部端板2cとにより第3の消音室7が区画される。
【0021】
図4,5に示すように、第1の仕切板3には、複数(4つ)の連通孔8,9,10,11が形成されており、これらの連通孔8,9,10,11を通して第1、第2の消音室5,6が相互に連通されている。また、図4,6に示すように、第2の仕切板4にも、複数(3つ)の連通孔13,14,15が形成されており、これらの連通孔13,14,15を通して第2、第3の消音室6,7が相互に連通されている。
【0022】
図3,4に示すように、排気ガス導入パイプ1Eの後端(下流端)には、シェル2内に配設されるインレットパイプ20の前端(上流端)が連通して接続される。このインレットパイプ20は、その全長にわたり直状をなし、シェル2の一側において、前記前部端板2bおよび第1の仕切板3に嵌合支持されて、シェル2内を長手方向に延びており、その後端(下流端)は、拡開されて第2の消音室6に開口されている。図4,8,9に示すように、インレットパイプ10の、第1の消音室5に対応する部分には、複数の小孔よりなる、排出孔22が形成され、これらの排出孔22を通してインレットパイプ10内は、第1の消音室5内に連通される。
【0023】
したがって、排気ガス導入パイプ1Eからインレットパイプ10に流入した排気ガスは、その大部分がその下流端より第2の消音室6に流入し、またその一部が、排出孔22を通って第1の消音室5に流入し、排気ガスの膨張、干渉作用により排気音の減衰がなされ、排気音の消音が行われる。そして、第1,2消音室5,6内の排気ガスは、第2の仕切板4の連通孔13,14,15を通って第3の消音室7内にも流入したのち、第1の仕切板3の複数の連通孔8,9、10,11を通って第1の消音室5に合流し、そこから後述するアウトレットパイプ30に流入する。
【0024】
前記シェル2内には、前記インレットパイプ20に並列してアウトレットパイプ30が配設されている。このアウトレットパイプ30は、図4,7に示すように、シェル2内を前後方向にU字状に屈曲して長く形成されていて、直状の排気ガス進入パイプ部31と、同じく直状の排気ガス排出パイプ部33と、それら両パイプ部31,33を1本に連結する円弧状の方向変換パイプ部32とで構成されている。
【0025】
前記排気ガス進入パイプ部31は、シェル2の上部に配置されて、シェル2内を前後方向に延びて、第1、第2の消音室5,6とに跨がって設けられており、第1、第2の仕切板3,4に形成した嵌合孔12u,16uに嵌合支持されてそこに溶接されている。そして、排気ガス進入パイプ部31の前端(上流端)は、末広状に拡開され第1の消音室5に開口されており、排気ガスの排気ガス進入1パイプ部31内への流入量を増やすようにされている。また、排気ガス進入1パイプ部31の途中には排気干渉孔35が開口されている。
【0026】
一方、前記排気ガス排出パイプ部33は、前記排気ガス進入パイプ部31よりも下方の、シェル2の下部に配置されていて、そのシェル2の軸線と略平行に延びており、第1、第2の仕切板3,4に形成した嵌合孔12d,16dに嵌合支持されてそこに溶接されており、さらに排気ガス排出パイプ部33の後端(下流端)は前部端板2bに嵌合支持されている。そして、その前端(上流端)は前記第3の消音室7内の方向変換パイプ部32に接続され、またその後端(下流端)は、大気に開口されるテールパイプ40に接続されている。排気ガス排出パイプ部33の後端、テールパイプ40の前端および前部端板2bは同時溶接される。図7,10,11に示すように、排気ガス排出パイプ部33の、第1の消音室5に対応する部分には、排気干渉孔35の外に、その下部に、水抜孔36が開口されており、さらにその第2消音室6に対応する部分にも排気干渉孔35が開口されている。
【0027】
図4,7に示すように、シェル2内の上方に位置する、前記排気ガス進入パイプ部31の下流端と、シェル2内の下方に位置する、前記排気ガス排出パイプ部33の上流端は、シェル2の後部に位置する第3の消音室7に配置される前記方向変換パイプ部32により連通接続される。この方向変換パイプ部32は、排気ガス進入パイプ部31を流れる排気ガスを下向きに方向変換させながら排気ガス排出パイプ部33へと導く。また、この方向変換パイプ部32の途中には、排気干渉孔35が開口されている。
【0028】
図5,6,7に示すように、アウトレットパイプ30の排気ガス排出パイプ部33を嵌合支持する嵌合孔12d,16dのシェル底部側周囲の、第1および第2の仕切板3,4の底部には、複数(4つ)の流通孔17,18がそれぞれがシェル2の横方向に間隔をあけて形成されており、これらの流通孔17,18は、シェル2の底部に貯留する残留水W(図7参照)が自由に流通するようにされている。シェル2は、前傾姿勢に傾斜されていることから、シェル2内に残留する残留水Wは、前記流通孔17,18を通ってシェル2内の前部に集められる。
【0029】
つぎに、この実施例の作用について説明する。
【0030】
いま、エンジンEが運転され、そこから排出した排気ガスは、排気系Exへと導かれる。そして排気系Exを流れる排気ガスは、消音器M内に入り、ここで排気音の主たる消音が行われる。
【0031】
図4に矢印Aで示すように、排気ガス導入パイプ1Eよりインレットパイプ10に流入した排気ガスは、その大部分が第2の消音室5へ流れ、またその一部が複数の排出孔22を通って第1の消音室5へと流れ、第1,2の消音室5,6に流入した排気ガスは第1の仕切板3の連通孔8〜11および第2の仕切板の連通孔13〜15を通って第3の消音室7に流れたのち、第1の消音室5に合流する。そして、その間に排気ガスの膨張、干渉の複合作用により、排気音の効果的な減衰が行われ、排気音の消音がなされる。
【0032】
この後排気ガスは、第1の消音室5より、図4矢印Bで示すように、排気ガス進入パイプ部31の開口端よりアウトレットパイプ30内に流入する。このとき、アウトレットパイプ30の上流端(流入端)は、末広状に拡開されていることにより、排気ガスのアウトレットパイプ30への流入量が増加する。また、アウトレットパイプ30は、前述したように、U字状に屈曲させて長く延長したことにより、アウトレットパイプ30内の排気ガスは、該パイプ30内を流れる間に、排気音がさらに減衰されて、その消音が効果的に行われる。そして充分に消音された排気ガスは、排気ガス排出パイプ部33の後端より、図4に矢印Cで示すように、テールパイプ40を通って大気に排出される。
【0033】
前記排気ガスの消音過程において、消音器M内には、高温の排気ガスがシェル2内で冷却されて、そこに含まれる水分が露化し凝縮した水や、洗車時にアウトレットパイプ30からシェル2内に進入した水が残留する。
【0034】
ところで、シェル2内に残留した残留水Wは、シェル2が水平面に対して前傾姿勢に傾斜(図1,7参照)されていることにより、第1、第2仕切板3,4を通ってシェル2内を前方に移動して、シェル2の前部に集められる。そして、その残留水Wは、アウトレットパイプ30に形成した水抜孔36(図10,11参照)からアウトレットパイプ30内に引き込まれて、アウトレットパイプ30内を流れる排気ガスと共にテールパイプ40を通って外部に効率良く排出することができる。
【0035】
ところで、本発明に従うこの実施例では、第1、第2の仕切板3,4は、その全周全部がシェル2の内周に接触していることにより、このシェル2は、それらの仕切板3,4の押し付けが部分的に無くなることがなく、その全周にわたり均等な面剛性が確保されるので、前記(1) (2) の問題を解決することできる。また、スチールプレートなどのブランク材から第1、第2の仕切板3,4をプレス成形するときに前記流通孔17,18も同時に形成できるため、プレス成形後の第1、第2の仕切板3,4の追加加工が不要となり.生産性の向上を図ることができる。
【0036】
以上、本発明の実施例について説明したが、本発明はその実施例に限定されることなく、本発明の範囲内で種々の実施例が可能である。たとえば、前記実施例では、シェル内の消音空間を第1、第2すなわち2枚の仕切板で仕切る消音器に本発明を実施した場合を説明したが、本発明を前記消音空間を1枚あるいは3枚以上の仕切板で仕切る消音器に本発明を実施できることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明消音器を備えた内燃機関の排気系の概略側面図
【図2】図1の2矢視の消音器の斜視図
【図3】図2の3−3線に沿う断面図
【図4】図3の4−4線に沿う断面図
【図5】図4の5−5線に沿う断面図
【図6】図4の6−6線に沿う断面図
【図7】図5の7−7線に沿う断面図
【図8】図4の8−8線に沿う断面図
【図9】図4の9−9線に沿う断面図
【図10】図7の10−10線に沿う断面図
【図11】図7の11−11線に沿う断面図
【符号の説明】
【0038】
2・・・・・・・・・・シェル
2a・・・・・・・・・シェル本体
2b・・・・・・・・・前部端板
2c・・・・・・・・・後部端板
3・・・・・・・・・・仕切板(第1の仕切板)
4・・・・・・・・・・仕切板(第2の仕切板)
5・・・・・・・・・・消音室(第1の消音室)
6・・・・・・・・・・消音室(第2の消音室)
7・・・・・・・・・・消音室(第3の消音室)
12d,16d・・・・嵌合孔
17,18・・・・・・流通孔
20・・・・・・・・・インレットパイプ
30・・・・・・・・・アウトレットパイプ
E・・・・・・・・・・内燃機関
W・・・・・・・・・・残留水
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの排気系に接続される消音器に関し、特に、剛性が高く、振動音を低減できるようにした新規な消音器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用エンジンの排気系に接続される消音器においは、排気ガス中に含まれる水分が消音器の底部に残留水として貯留することがあるため、アウトレットパイプを消音器の底部近くに配置し、アウトレットパイプの入口からアウトレットパイプ内に残留水を引き込み排気ガスと共に大気に排出するもの(後記特許文献1参照)やアウトレットパイプに形成した水抜孔からアウトレットパイプ内に残留水を引き込み、排気ガスと共に大気に排出するもの(後記特許文献2、3参照)が知られている。
【特許文献1】特開2005−330829号公報
【特許文献2】特開2006−2612号公報
【特許文献3】特開2005−140101公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、消音器は、車両の走行中の消音器後部の接地を防止するため、後方を持ち上げた前傾姿勢で車体に取り付けられている。
【0004】
そこで、かかる消音器では、その内部を複数の消音室に仕切る仕切板の最下面に凹み部を形成し、この凹み部により仕切板の下面と消音器の外殻を構成するシェル底部との間に、わずかな隙間を形成し、残留水がこの隙間を通って消音器の前部に集まるようにすると共に、アウトレットパイプ入口や水抜孔も消音器の前方寄りに配置して、アウトレットパイプを介しての残留水の排出が効率良くなされるようにしている。
【0005】
ところが、仕切板の凹み部が形成される箇所では、シェルに対する仕切板の押し付けが無いことから下記(1) (2) の問題を生じることがあった。
【0006】
(1) 多層薄板からなるシェルの、シェル薄板間に隙間(浮き)が発生。
【0007】
(2) シェルの面剛性低下によるシェルの変形や、放射音の増加(シェル膜面振動の振幅増加による振動音の増加)。
【0008】
また、生産上の観点からは、スチールプレートなどのブランク材から凹み部が無い状態の仕切板をプレス成形した後に、仕切板の最下面に側方から凹み部を形成する追加加工が必要となり、生産工程が増えるという問題もあった。
【0009】
本発明は、かかる実情に鑑みてなされたもので、前記問題をすべて解消した、新規な消音器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、請求項1の発明は、シェル本体と、このシェル本体の両端面を塞ぐ前、後部端板よりなるシェルと、シェル内に形成される消音空間に、エンジンから排出される排気ガスを導入するインレットパイプと、シェル内のシェル底部に近接して配置され、消音空間に導入された排気ガスを大気に排出するアウトレットパイプと、消音空間を複数の消音室に仕切ると共に、アウトレットパイプを嵌合支持する嵌合孔が形成された仕切板とを備える消音器において、
仕切板の外周全部をシェルの内周に接触させると共に嵌合孔のシェル底部側周囲の仕切板に、シェル底部に貯留する残留水が流通する流通孔を設けたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本請求項1の発明によれば、仕切板にシェル底部に貯留する残留水が流通する流通孔を設けたので、シェル底部に貯留する残留水は流通孔を通って移動でき、残留水を消音器の前部に集めてアウトレットパイプ内に残留水を引き込み、残留水を効率良く排出することができる。また、仕切板の外周全部をシェルの内周に接触させたので、仕切板の押し付けが部分的に無くなることによる生じる前記(1) (2) の問題が解決される。
【0012】
さらに、仕切板を成形するときに流通孔を同時に成形することができるため、仕切板に凹み部を追加加工しないですみ、生産工程が増えることもなく、生産上の問題も解決される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を、添付図面に示した本発明の実施例に基づいて具体的に説明する。
【0014】
本実施例は、本発明消音器を自動車用エンジンの排気系に実施した場合であって、図1は、本発明消音器を備えたエンジンの排気系の概略側面、図2は、図1の2矢視の消音器の斜視図、図3は、図2の3−3線に沿う断面図、図4は、図3の4−4線に沿う断面図、図5は、図4の5−5線に沿う断面図、図6は、図5の6−6線に沿う断面図、図7は、図5の7−7線に沿う断面図、図8は、図4の8−8線に沿う断面図、図9は、図4の9−9線に沿う断面図、図10は、図7の10−10線に沿う断面図、図11は、図7の11−11線に沿う断面図である。
【0015】
図1において、全体を符号Eで示す自動車用のエンジンには、その運転により排出される排気ガスを大気に排出するための排気系Exが接続されており、この排気系Exは、エンジンEの排気ポートに接続される排気ガス排出パイプ1に、その上流側から下流側に触媒C、プリチャンバPが接続され、排気ガス排出パイプ1の下流側に消音器Mの入口に接続される排気ガス導入パイプ1Eがジョイントを介して連結される。。
【0016】
前記排気系Exがエンジンに接続されるとき、消音器Mのシェル2は水平面に対して傾斜角θをもって前傾姿勢に配置される。
【0017】
そして、エンジンEの運転により、そこから排出された排気ガスは、触媒CによりHC、NOxなどの有害成分が浄化され、プリチャンバPにより一次消音され、さらに消音器Mにより二次消音されて大気に排出される。
【0018】
つぎに、本発明にかかる消音器Mの構造を、図2〜11を参照して詳細に説明する。
【0019】
消音器Mの外殻を構成するシェル2は、ステンレス製の板材を筒状に巻曲し、その両端縁同志を一体に接合して構成されるシェル本体2aと、その左右開口端に、気密にかしめ固定される前、後部端板2b,2cとにより密閉状に形成されている。図3,5,6に示すように、前記密閉状シェル2の縦断面形状は、その下半部が下側に向けてなだらかな凸の湾曲面に、またその上半部が上側に向けて下半部よりも急峻な凸の湾曲面に形成されて概略楕円形状をなしており、シェル2は、その短径側を上下方向に向けて排気ガス導入パイプ1Eの下流部に接続される。そして、このシェル2の前部端板2bには、排気ガス排出パイプ1に接続される排気ガス導入パイプ1Eおよび大気に開口されるテールパイプ40が共にの気密に接続され、テールパイプ40はシェル2の一側を迂回してその後方へと延長されている。
【0020】
図4,7に示すように、前記シェル2内の消音室は、第1、第2の仕切板3,4により3つの消音室、すなわち第1、第2および第3の消音室5,6および7とに仕切られている。具体的には、シェル2の内周には、その長手方向に間隔をあけて第1の仕切板3および第2の仕切板4の外周全部が接触して、シェル2の内周に前、後部端板2b,2cと略平行に圧入固定(溶接しない)されている。この場合、第1の仕切板3および第2の仕切板4の外周全部がシェル2の内周に接触してそこに圧入固定されることにより、シェル2の内周と第1の仕切板3および第2の仕切板4の外周間に隙間が形成されることがない。シェル2の長手方向の前部には、前部端板2bと第1の仕切板3とによって第1の消音室5が区画され、また、第1の消音室5の後側には、第1の仕切板3と第2の仕切板4とにより第2の消音室6が区画され、さらに、前記第2の消音室6の後側には、第2の仕切板4と後部端板2cとにより第3の消音室7が区画される。
【0021】
図4,5に示すように、第1の仕切板3には、複数(4つ)の連通孔8,9,10,11が形成されており、これらの連通孔8,9,10,11を通して第1、第2の消音室5,6が相互に連通されている。また、図4,6に示すように、第2の仕切板4にも、複数(3つ)の連通孔13,14,15が形成されており、これらの連通孔13,14,15を通して第2、第3の消音室6,7が相互に連通されている。
【0022】
図3,4に示すように、排気ガス導入パイプ1Eの後端(下流端)には、シェル2内に配設されるインレットパイプ20の前端(上流端)が連通して接続される。このインレットパイプ20は、その全長にわたり直状をなし、シェル2の一側において、前記前部端板2bおよび第1の仕切板3に嵌合支持されて、シェル2内を長手方向に延びており、その後端(下流端)は、拡開されて第2の消音室6に開口されている。図4,8,9に示すように、インレットパイプ10の、第1の消音室5に対応する部分には、複数の小孔よりなる、排出孔22が形成され、これらの排出孔22を通してインレットパイプ10内は、第1の消音室5内に連通される。
【0023】
したがって、排気ガス導入パイプ1Eからインレットパイプ10に流入した排気ガスは、その大部分がその下流端より第2の消音室6に流入し、またその一部が、排出孔22を通って第1の消音室5に流入し、排気ガスの膨張、干渉作用により排気音の減衰がなされ、排気音の消音が行われる。そして、第1,2消音室5,6内の排気ガスは、第2の仕切板4の連通孔13,14,15を通って第3の消音室7内にも流入したのち、第1の仕切板3の複数の連通孔8,9、10,11を通って第1の消音室5に合流し、そこから後述するアウトレットパイプ30に流入する。
【0024】
前記シェル2内には、前記インレットパイプ20に並列してアウトレットパイプ30が配設されている。このアウトレットパイプ30は、図4,7に示すように、シェル2内を前後方向にU字状に屈曲して長く形成されていて、直状の排気ガス進入パイプ部31と、同じく直状の排気ガス排出パイプ部33と、それら両パイプ部31,33を1本に連結する円弧状の方向変換パイプ部32とで構成されている。
【0025】
前記排気ガス進入パイプ部31は、シェル2の上部に配置されて、シェル2内を前後方向に延びて、第1、第2の消音室5,6とに跨がって設けられており、第1、第2の仕切板3,4に形成した嵌合孔12u,16uに嵌合支持されてそこに溶接されている。そして、排気ガス進入パイプ部31の前端(上流端)は、末広状に拡開され第1の消音室5に開口されており、排気ガスの排気ガス進入1パイプ部31内への流入量を増やすようにされている。また、排気ガス進入1パイプ部31の途中には排気干渉孔35が開口されている。
【0026】
一方、前記排気ガス排出パイプ部33は、前記排気ガス進入パイプ部31よりも下方の、シェル2の下部に配置されていて、そのシェル2の軸線と略平行に延びており、第1、第2の仕切板3,4に形成した嵌合孔12d,16dに嵌合支持されてそこに溶接されており、さらに排気ガス排出パイプ部33の後端(下流端)は前部端板2bに嵌合支持されている。そして、その前端(上流端)は前記第3の消音室7内の方向変換パイプ部32に接続され、またその後端(下流端)は、大気に開口されるテールパイプ40に接続されている。排気ガス排出パイプ部33の後端、テールパイプ40の前端および前部端板2bは同時溶接される。図7,10,11に示すように、排気ガス排出パイプ部33の、第1の消音室5に対応する部分には、排気干渉孔35の外に、その下部に、水抜孔36が開口されており、さらにその第2消音室6に対応する部分にも排気干渉孔35が開口されている。
【0027】
図4,7に示すように、シェル2内の上方に位置する、前記排気ガス進入パイプ部31の下流端と、シェル2内の下方に位置する、前記排気ガス排出パイプ部33の上流端は、シェル2の後部に位置する第3の消音室7に配置される前記方向変換パイプ部32により連通接続される。この方向変換パイプ部32は、排気ガス進入パイプ部31を流れる排気ガスを下向きに方向変換させながら排気ガス排出パイプ部33へと導く。また、この方向変換パイプ部32の途中には、排気干渉孔35が開口されている。
【0028】
図5,6,7に示すように、アウトレットパイプ30の排気ガス排出パイプ部33を嵌合支持する嵌合孔12d,16dのシェル底部側周囲の、第1および第2の仕切板3,4の底部には、複数(4つ)の流通孔17,18がそれぞれがシェル2の横方向に間隔をあけて形成されており、これらの流通孔17,18は、シェル2の底部に貯留する残留水W(図7参照)が自由に流通するようにされている。シェル2は、前傾姿勢に傾斜されていることから、シェル2内に残留する残留水Wは、前記流通孔17,18を通ってシェル2内の前部に集められる。
【0029】
つぎに、この実施例の作用について説明する。
【0030】
いま、エンジンEが運転され、そこから排出した排気ガスは、排気系Exへと導かれる。そして排気系Exを流れる排気ガスは、消音器M内に入り、ここで排気音の主たる消音が行われる。
【0031】
図4に矢印Aで示すように、排気ガス導入パイプ1Eよりインレットパイプ10に流入した排気ガスは、その大部分が第2の消音室5へ流れ、またその一部が複数の排出孔22を通って第1の消音室5へと流れ、第1,2の消音室5,6に流入した排気ガスは第1の仕切板3の連通孔8〜11および第2の仕切板の連通孔13〜15を通って第3の消音室7に流れたのち、第1の消音室5に合流する。そして、その間に排気ガスの膨張、干渉の複合作用により、排気音の効果的な減衰が行われ、排気音の消音がなされる。
【0032】
この後排気ガスは、第1の消音室5より、図4矢印Bで示すように、排気ガス進入パイプ部31の開口端よりアウトレットパイプ30内に流入する。このとき、アウトレットパイプ30の上流端(流入端)は、末広状に拡開されていることにより、排気ガスのアウトレットパイプ30への流入量が増加する。また、アウトレットパイプ30は、前述したように、U字状に屈曲させて長く延長したことにより、アウトレットパイプ30内の排気ガスは、該パイプ30内を流れる間に、排気音がさらに減衰されて、その消音が効果的に行われる。そして充分に消音された排気ガスは、排気ガス排出パイプ部33の後端より、図4に矢印Cで示すように、テールパイプ40を通って大気に排出される。
【0033】
前記排気ガスの消音過程において、消音器M内には、高温の排気ガスがシェル2内で冷却されて、そこに含まれる水分が露化し凝縮した水や、洗車時にアウトレットパイプ30からシェル2内に進入した水が残留する。
【0034】
ところで、シェル2内に残留した残留水Wは、シェル2が水平面に対して前傾姿勢に傾斜(図1,7参照)されていることにより、第1、第2仕切板3,4を通ってシェル2内を前方に移動して、シェル2の前部に集められる。そして、その残留水Wは、アウトレットパイプ30に形成した水抜孔36(図10,11参照)からアウトレットパイプ30内に引き込まれて、アウトレットパイプ30内を流れる排気ガスと共にテールパイプ40を通って外部に効率良く排出することができる。
【0035】
ところで、本発明に従うこの実施例では、第1、第2の仕切板3,4は、その全周全部がシェル2の内周に接触していることにより、このシェル2は、それらの仕切板3,4の押し付けが部分的に無くなることがなく、その全周にわたり均等な面剛性が確保されるので、前記(1) (2) の問題を解決することできる。また、スチールプレートなどのブランク材から第1、第2の仕切板3,4をプレス成形するときに前記流通孔17,18も同時に形成できるため、プレス成形後の第1、第2の仕切板3,4の追加加工が不要となり.生産性の向上を図ることができる。
【0036】
以上、本発明の実施例について説明したが、本発明はその実施例に限定されることなく、本発明の範囲内で種々の実施例が可能である。たとえば、前記実施例では、シェル内の消音空間を第1、第2すなわち2枚の仕切板で仕切る消音器に本発明を実施した場合を説明したが、本発明を前記消音空間を1枚あるいは3枚以上の仕切板で仕切る消音器に本発明を実施できることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明消音器を備えた内燃機関の排気系の概略側面図
【図2】図1の2矢視の消音器の斜視図
【図3】図2の3−3線に沿う断面図
【図4】図3の4−4線に沿う断面図
【図5】図4の5−5線に沿う断面図
【図6】図4の6−6線に沿う断面図
【図7】図5の7−7線に沿う断面図
【図8】図4の8−8線に沿う断面図
【図9】図4の9−9線に沿う断面図
【図10】図7の10−10線に沿う断面図
【図11】図7の11−11線に沿う断面図
【符号の説明】
【0038】
2・・・・・・・・・・シェル
2a・・・・・・・・・シェル本体
2b・・・・・・・・・前部端板
2c・・・・・・・・・後部端板
3・・・・・・・・・・仕切板(第1の仕切板)
4・・・・・・・・・・仕切板(第2の仕切板)
5・・・・・・・・・・消音室(第1の消音室)
6・・・・・・・・・・消音室(第2の消音室)
7・・・・・・・・・・消音室(第3の消音室)
12d,16d・・・・嵌合孔
17,18・・・・・・流通孔
20・・・・・・・・・インレットパイプ
30・・・・・・・・・アウトレットパイプ
E・・・・・・・・・・内燃機関
W・・・・・・・・・・残留水
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シェル本体(2a)と、このシェル本体(2a)の両端面を塞ぐ前、後部端板(2b,2cb)よりなるシェル(2)と、
シェル(2)内に形成される消音空間に、エンジン(E)から排出される排気ガスを導入するインレットパイプ(20)と、
シェル(2)内のシェル底部に近接して配置され、消音空間に導入された排気ガスを大気に排出するアウトレットパイプ(30)と、
消音空間を複数の消音室(5,6,7)に仕切ると共に、アウトレットパイプ(30)を嵌合支持する嵌合孔(12d,16d)が形成された仕切板(3,4)と、
を備える消音器において、
仕切板(3,4)の外周全部をシェル(2)の内周に接触させると共に嵌合孔(12d,16d)のシェル底部側周囲の仕切板(3,4)に、シェル底部に貯留する残留水(W)が流通する流通孔(17,18)を設けたことを特徴とする、消音器。
【請求項1】
シェル本体(2a)と、このシェル本体(2a)の両端面を塞ぐ前、後部端板(2b,2cb)よりなるシェル(2)と、
シェル(2)内に形成される消音空間に、エンジン(E)から排出される排気ガスを導入するインレットパイプ(20)と、
シェル(2)内のシェル底部に近接して配置され、消音空間に導入された排気ガスを大気に排出するアウトレットパイプ(30)と、
消音空間を複数の消音室(5,6,7)に仕切ると共に、アウトレットパイプ(30)を嵌合支持する嵌合孔(12d,16d)が形成された仕切板(3,4)と、
を備える消音器において、
仕切板(3,4)の外周全部をシェル(2)の内周に接触させると共に嵌合孔(12d,16d)のシェル底部側周囲の仕切板(3,4)に、シェル底部に貯留する残留水(W)が流通する流通孔(17,18)を設けたことを特徴とする、消音器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−92033(P2009−92033A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−265431(P2007−265431)
【出願日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【出願人】(000175766)三恵技研工業株式会社 (50)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【出願人】(000175766)三恵技研工業株式会社 (50)
【Fターム(参考)】
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