説明

消音用グリース組成物

【課題】広範囲の温度条件下でも被潤滑部品をスムーズに作動させることができ、かつ、被潤滑部品の消音効果に優れるグリース組成物を提供する。
【解決手段】増ちょう剤及び基油を含むグリース組成物において、基油がポリ−α−オレフィン及びエチレン−α−オレフィンオリゴマーから選ばれる少なくとも1種の第1基油と、ポリブテン、ポリイソブチレン、ポリメタクリレート及びスチレン系共重合体から選ばれる少なくとも1種の第2基油を含み、基油全体に対する第1基油の含有量が65質量%超であり、第2基油の含有量が1質量%以上35質量%未満であり、基油の40℃における動粘度が350〜1400mm/sであり、第1基油の40℃における動粘度が300〜1200mm/sであり、第2基油の40℃における動粘度が1500〜200000mm/sであることを特徴とするグリース組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消音性及び低温性に優れるグリース組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の高級化に伴い、自動車部品に対しても高品質化が求められている。これらの部品の消音化もその課題の一つとして取り上げられるようになった。自動車部品の消音化のために、グリースにも性能向上が求められている。また同時に広範囲(高温から低温まで)での温度特性についても要求されている。
消音性対策としては、ポリマーの添加によってあるレベルまで消音化を実現している。例えば、超高分子量ポリオレフィン粉末を添加して消音性を付与したグリース組成物も開示されている(特許文献1)。
しかし、高粘度の基油やポリマーは低温での流動性に劣り(流動点が高い)、使用できる温度領域が限られてしまう。従って、基油やポリマーの選定次第では両方の性能を満足することは出来ない。
また、上述のようなポリマー粉末を添加したグリースは、加熱によって硬化する場合があるため、寿命が短いという欠点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−173483
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、広範囲の温度条件下でも被潤滑部品をスムーズに作動させることができるグリース組成物を提供することである。
本発明の他の目的は、被潤滑部品の消音効果に優れるグリース組成物を提供することである。
本発明のさらに他の目的は、良好な低温性を維持しつつ、優れた消音効果を有するグリース組成物を提供することである。
本発明の他の目的は、上記グリース組成物を封入した被潤滑部品、特に車両用空調用装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、低粘度の第1基油に高粘度の第2基油を所定量添加することにより、良好な低温性を維持しつつ、被潤滑部品の消音性を改善できることを見いだし本発明を完成するに至った。本発明は下記のグリース組成物及びこれを封入した被潤滑部品を提供するものである。
1.増ちょう剤及び基油を含むグリース組成物において、
基油がポリ−α−オレフィン、及びエチレン−α−オレフィンオリゴマーからなる群から選ばれる少なくとも1種の第1基油と、ポリブテン、ポリイソブチレン、ポリメタクリレート、及びスチレン系共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種の第2基油を含み、
基油全体に対する第1基油の含有量が65質量%超であり、第2基油の含有量が1質量%以上35質量%未満であり、
基油の40℃における動粘度が350〜1400mm2/sであり、
第1基油の40℃における動粘度が300〜1200mm2/sであり、
第2基油の40℃における動粘度が1500〜200000mm2/sであることを特徴とするグリース組成物。
2.第2基油がポリブテンを含むことを特徴とする上記1記載の消音用グリース組成物。
3.増ちょう剤がシリカを含む上記1又は2記載の消音用グリース組成物。
4.ポリブテンの数平均分子量が600〜4000である上記1〜3のいずれか1項記載の消音用グリース組成物。
5.上記1〜4のいずれか1項記載の消音用グリース組成物を含む車両用空調用装置。
【発明の効果】
【0006】
本発明のグリース組成物は低温性に優れ、かつ被潤滑部品、特に車両用空調用装置等の消音性に優れている。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明のグリース組成物に使用する増ちょう剤は、特に限定されず、全ての増ちょう剤が使用可能である。例えば、Li石けんやLiコンプレックス石けんに代表される石けん系増ちょう剤、ジウレアに代表されるウレア系増ちょう剤、有機化クレイやシリカに代表される無機系増ちょう剤、PTFEに代表される有機系増ちょう剤などが挙げられる。特に好ましくはシリカであり、これは、消音性及び低温性に優れた増ちょう剤である。シリカとしては、平均粒子径が好ましくは0.1μm以下、さらに好ましくは0.05μm以下のものが望ましい。
増ちょう剤の添加量は目的のちょう度が得られれば特に制限はないが、通常は、グリース組成物全体に対して、好ましくは3〜20質量%、さらに好ましくは5〜15質量%である。
【0008】
本発明のグリース組成物に使用される基油は、ポリ−α−オレフィン、及びエチレン−α−オレフィンオリゴマーからなる群から選ばれる少なくとも1種の第1基油と、ポリブテン、ポリイソブチレン、ポリメタクリレート、及びスチレン系共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種の第2基油を含む。
基油全体に対する第1基油の含有量が65質量%超、好ましくは90質量%以上であり、第2基油の含有量が1質量%以上35質量%未満、好ましくは1〜10質量%である。
基油の40℃における動粘度は350〜1400mm2/sであり、好ましくは400〜600mm2/sである。
第1基油の40℃における動粘度は300〜1200mm2/sであり、好ましくは350〜550mm2/sである。
第2基油の40℃における動粘度は1500〜200000mm2/sであり、好ましくは2000〜180000mm2/sである。
【0009】
第1基油のポリ−α−オレフィン及びエチレン−α−オレフィンオリゴマーはいずれも良好な低温特性を有する。
第2基油のポリブテン、ポリイソブチレン、ポリメタクリレート、スチレン系共重合体の中で、特に好ましくはポリブテンである。
【0010】
第1基油の粘度−圧力係数(α)は、好ましくは10〜20GPa-1であり、第2基油の粘度−圧力係数(α)は、好ましくは25GPa-1以上である。
第2基油は、粘度−圧力係数(α)が高く、優れた消音効果を発揮する。特に、ポリブテンは、粘度−圧力係数(α)が約30GPa-1と高いため(村木正芳:粘度-圧力特性, 潤滑, 33, 1 (1988) 36)、特に優れた消音効果を発揮する。
第2基油、特に、ポリブテンの数平均分子量は、好ましくは600〜4000、さらに好ましくは750〜3000である。第2基油、特に、ポリブテンは低温性が劣るため添加量を調節する必要がある。
第2基油の含有量は、基油全体の質量に対して、1質量%以上35質量%未満であり、好ましくは1〜30質量%、さらに好ましくは2〜10質量%である。
【0011】
本発明に使用される基油は上記以外の基油(第3基油)を含んでいても良い。このような基油としては、エステル、ジエステル、ポリオールエステルに代表されるエステル系合成油、アルキルジフェニルエーテル、ポリプロピレングリコールに代表されるエーテル系合成油、シリコーン油、フッ素油などが挙げられる。第3基油の含有量は基油全体の質量に対して好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下であり、第3基油は含まれないことが最も好ましい。
【0012】
基油の40℃における動粘度は、350〜1400mm2/s、好ましくは500〜1000mm2/sである。350mm2/sより低い場合、期待される消音効果が得られず、逆に1400mm2/sより高い場合、低温性が悪化する傾向がある。
【0013】
本発明のグリース組成物には、必要に応じて種々の添加剤を含有させることができる。例えば、フェノール系、アミン系に代表される酸化防止剤、カルシウムスルホネートに代表される錆止め剤、ベンゾトリアゾールに代表される金属腐食防止剤、ひまし油に代表される油性剤、モリブデンジチオカーバメート、亜鉛ジチオホスフェートに代表される極圧剤、PTFE、MCAに代表される固体潤滑剤などが挙げられる。
【0014】
前述の通り、消音性の対策にはポリマーの添加により動粘度を増加させることが有効である。低温性との兼ね合いから、高分子量且つ、粘度−圧力係数(α)の高いポリブテン等の第2基油を少量添加することにより、消音性と低温性の両方を満足することが可能となったと考えられる。
【0015】
実施例1−6及び比較例1−6
表1及び表2に示す処方の試験グリースを調製した。
増ちょう剤としては、シリカ(平均粒子径0.012μm)、Li石けん(Li−(12OH)St)の二種を使用した。
基油は、第1基油としてポリ−α−オレフィン(A〜B)、エチレン−α−オレフィンオリゴマー、第2基油としてポリブテン(A〜C)を使用した。それぞれの40℃における動粘度を以下に示す。第2基油のポリブテンA及びBの粘度−圧力係数(α)は25GPa-1以上であるが、ポリブテンCの粘度−圧力係数(α)は25GPa-1未満である。グリース組成物全体の質量から、増ちょう剤及び他の添加剤の総量を差し引いたものが基油全体の使用量である。表1及び表2中、第1基油と第2基油の数値は両者の総量に対する質量%を示す。
【0016】
第1基油
ポリ−α−オレフィンA(比較例):30.5mm2/s
ポリ−α−オレフィンB(本発明):ポリ−α−オレフィン:390mm2/s
エチレン−α−オレフィンオリゴマーC(本発明):380mm2/s
第2基油
ポリブテンA(本発明):160000mm2/s(数平均分子量:2900)
ポリブテンB(本発明):2300mm2/s(数平均分子量:750)
ポリブテンC(比較例):205mm2/s(数平均分子量:500)
極圧添加剤:モリブデンジチオカーバメート(グリース全体に対して1.5質量%)
錆止め剤:ベンゾトリアゾール系(グリース全体に対して0.05質量%)
酸化防止剤:フェノール系(グリース全体に対して1.0質量%)
【0017】
混和ちょう度(JIS K2220 7.)
混和ちょう度は280及び300に設定した。
【0018】
鋼球落下試験(消音性評価試験)
消音性を評価するため、下記鋼板にグリースを塗布し、規定の高さから鋼球を落下させ、その際の音圧レベルを測定した。音圧レベルが89.6dB未満を合格(○)とした。
試験条件
グリース塗布厚:0.5mm
グリース塗布面積:2500mm2
鋼板サイズ:200mm×150mm×1.6mm
マイクロフォン高さ:鋼板より200mm
鋼球落下高さ:鋼板より100mm
鋼球直径:12.7mm
測定器:RION製 2ch小型FFT分析器
【0019】
低温トルク試験(JIS K2220 18.)
−30℃の起動トルクが380mN・m未満、回転トルクが320mN・m未満を合格(○)とした。
【0020】
第1基油に40℃の動粘度が390mm2/sのポリ−α−オレフィンBを使用し、40℃の動粘度が160,000mm2/sのポリブテンAを5〜7%添加した実施例1及び2、40℃の動粘度が2,300mm2/sのポリブテンBを32%添加した実施例3、実施例1の混和ちょう度を300にした実施例4、第1基油に40℃の動粘度が380mm2/sのエチレン−α−オレフィンオリゴマーCを使用し、40℃の動粘度が160,000mm2/sのポリブテンAを5%添加した実施例5、及び実施例1において増ちょう剤としてシリカの代わりにLi石けんを使用した実施例6のグリース組成物は、音圧レベルが89.6dB未満、低温トルクが起動トルク:380mN・m未満、回転トルク:320mN・m未満と、比較例に比べて著しい改善が認められる。
【0021】
実施例1において、基油として第1基油のみを使用した比較例1では、基油全体の動粘度が低くなり、低温性は優れているが消音性が劣っている。
実施例3において、第2基油の使用量を32質量%から35質量%に増加させた比較例2では、消音性は優れているが低温性が劣っている。
実施例1において、第2基油の使用量を5質量%から32質量%に増加させ、基油動粘度が1500mm2/sである比較例3では、消音性は優れているが低温性が劣っている。
比較例3において、第1基油として40℃の動粘度が390mm2/sのポリ−α−オレフィンBの代わりに40℃の動粘度が30.5mm2/sのポリ−α−オレフィンAを使用した比較例4では、基油全体の動粘度が低くなり、低温性は優れているが消音性が劣っている。
実施例1において、40℃の動粘度が205mm2/sのポリブテンCを15%添加した比較例5では、基油全体の動粘度が低くなり、低温性は優れているが消音性が劣っている。
比較例1において、第1基油として40℃の動粘度が205mm2/sのポリブテンCのみを使用した比較例6では、基油全体の動粘度が高くなり、消音性は優れているが低温性が劣っている。
【0022】
【表1】

【0023】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
増ちょう剤及び基油を含むグリース組成物において、
基油がポリ−α−オレフィン、及びエチレン−α−オレフィンオリゴマーからなる群から選ばれる少なくとも1種の第1基油と、ポリブテン、ポリイソブチレン、ポリメタクリレート、及びスチレン系共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種の第2基油を含み、
基油全体に対する第1基油の含有量が65質量%超であり、第2基油の含有量が1質量%以上35質量%未満であり、
基油の40℃における動粘度が350〜1400mm2/sであり、
第1基油の40℃における動粘度が300〜1200mm2/sであり、
第2基油の40℃における動粘度が1500〜200000mm2/sであることを特徴とするグリース組成物。
【請求項2】
第2基油がポリブテンを含むことを特徴とする請求項1記載の消音用グリース組成物。
【請求項3】
増ちょう剤がシリカを含む請求項1又は2記載の消音用グリース組成物。
【請求項4】
ポリブテンの数平均分子量が600〜4000である請求項1〜3のいずれか1項記載の消音用グリース組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項記載の消音用グリース組成物を含む車両用空調用装置。

【公開番号】特開2010−185042(P2010−185042A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−31496(P2009−31496)
【出願日】平成21年2月13日(2009.2.13)
【出願人】(000162423)協同油脂株式会社 (165)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】