説明

液中の微粒子数の測定方法及び装置

【課題】微粒子含有液を効率よく濃縮液と希釈液とに分離することができる試料液濃縮装置と、この試料液濃縮装置を用いた液中の微粒子数の測定方法及び装置を提供する。
【解決手段】試料液濃縮装置1は、基板積層体2と、この基板積層体2の一方の端面に設けられた原水ヘッド3と、他方の端面に設けられた希釈水ヘッド4及び濃縮水ヘッド5とを備えている。基板6には、櫛形電極15,17が設けられている。微粒子Pは櫛形電極15,17に沿って下流方向へ流れ、チャンバ9内を流れる間に次第に濃縮水流出口10側へシフトし、濃縮水流出口10からは微粒子濃度の高い濃縮水が流出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料液濃縮装置と、この試料液濃縮装置を用いた、超純水などの液中の微粒子濃度を測定する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超純水中の微粒子数を測定する方法及び装置として、特開平7−120454、特開平10−63810には、超純水をフィルタで濾過し、フィルタに付着した微粒子数を顕微鏡で計数するものが記載されている。
【0003】
特開2006−205092には、液の導入部と、該導入部から分岐した微粒子回収部及び希釈液排出部とを有した流路の該分岐部に電気泳動用電極を配置した微粒子分散液の濃縮装置が記載されている。
【0004】
該電極に直流電圧を印加した状態で導入部に液を流すと、微粒子は一方の電極に引き付けられて主に回収部へ流れるようになり、微粒子分散液が濃縮液と希釈液とに分離される。
【0005】
同号広報の0055〜0057段落には、このようにして得られた濃縮液中の微粒子量をコールターカウンターで測定することが記載されている。
【特許文献1】特開平7−120454号公報
【特許文献2】特開平10−63810号公報
【特許文献3】特開2006−205092号広報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
超純水中の微粒子数は少ないため、上記文献1,2の方法によって超純水中の微粒子数を精度よく測定するためには、多量の超純水を濾過する必要があり、濾過に時間がかかる。また、顕微鏡観察作業員の計数誤差により、精度が低くなるおそれもある。
【0007】
また、上記文献3の濃縮装置にあっては、電極の液流れ方向に沿う長さが小さいため、通液速度を大きくしたときには微粒子の分離効率が低下する。
【0008】
本発明は、微粒子含有液を効率よく濃縮液と希釈液とに分離することができる試料液濃縮装置と、この試料液濃縮装置を用いた液中の微粒子数の測定方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明(請求項1)の試料液濃縮装置は、微粒子を含んだ試料液が流入口から流入するチャンバと、該チャンバ内に設けられた少なくとも1対の電極を備え、該電極間に試料液が流通され、該電極に電圧が印加されることによって試料液中の微粒子を誘電泳動させ、該試料液を微粒子濃度の高い濃縮液と微粒子濃度の低い希釈液とに分けるための誘電泳動装置と、該誘電泳動装置で生成した濃縮液及び希釈液をそれぞれ流出させるための濃縮液流出口及び希釈液流出口とを有する試料液濃縮装置であって、該電極は、該チャンバ内の該試料液の流れ方向と交差方向に延在し、かつ下流側ほど濃縮液流出口に近づくように配向していることを特徴とするものである。
【0010】
請求項2の試料液濃縮装置は、請求項1において、前記電極は櫛形電極であることを特徴するものである。
【0011】
請求項3の試料液濃縮装置は、請求項1又は2において、前記電極は、前記チャンバ内の平均的な液の流れ方向に対する交差角度が10〜60°となるように延在していることを特徴とするものである。
【0012】
請求項4の試料液濃縮装置は、請求項1ないし3のいずれか1項において、相互間に通液スペースをあけて積層配置された複数枚の板体を備え、該通液スペースが前記チャンバとされ、該板体上に前記電極が設けられていることを特徴とするものである。
【0013】
請求項5の液中の微粒子数の測定方法は、請求項1ないし4のいずれか1項の試料液濃縮装置によって微粒子濃度の高い濃縮液と微粒子濃度の低い希釈液とに分離する濃縮工程と、濃縮液中の微粒子数を測定する微粒子数測定工程と、濃縮倍率と微粒子数測定値とに基づいて前記試料液に含まれる微粒子数を算出する演算工程と、を有することを特徴とするものである。
【0014】
請求項6の液中の微粒子数の測定装置は、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の試料液濃縮装置と、該試料液濃縮装置からの濃縮液中の微粒子数を測定する微粒子数測定手段と、濃縮倍率と微粒子数測定値とに基づいて前記超純水に含まれる微粒子数を算出する演算手段と、を有することを特徴とするものである。
【0015】
請求項7の超純水中の微粒子数の測定装置は、請求項6において、前記微粒子数測定手段は光散乱による微粒子数測定装置であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明の試料液濃縮装置にあっては、電極間に電圧を印加した状態で流入口からチャンバに試料液を流入させる。この試料液中の微粒子は、誘電泳動によって電極に沿って移動し、濃縮液流出口に導かれる。これにより、濃縮液流出口からは微粒子濃度の高い濃縮液が流出する。一方、希釈液流出口からは微粒子濃度の低い希釈液が流出する。
【0017】
この電極として櫛形電極を用いることにより、効率よく微粒子を濃縮液流出口に導くことができる。
【0018】
請求項4の試料液濃縮装置にあっては、板体の枚数を多くすることにより濃縮処理液量を多くすることができる。また、板体間の間隔を小さくすることにより、微粒子を効率よく濃縮液流出口に導くことができる。
【0019】
本発明の液中の微粒子数の測定方法及び装置にあっては、この試料液濃縮装置によって液を微粒子濃度の高い濃縮液と、微粒子濃度の低い希釈液とに分離し、この濃縮液中の微粒子数を測定し、この測定値と濃縮倍率とから液中の微粒子数を算出する。従って液をフィルタで濾過し、顕微鏡によってフィルタ表面を観察して微粒子数を測定する場合には、予め濃縮しているため、濾過の測定時間を短縮することが可能である。また、濃縮液中の微粒子数の測定には光散乱式微粒子数測定装置などを用いることが可能であり、顕微鏡によってフィルタ表面を観察して微粒子数を測定することに比べて測定の手間を省き、また誤差の少ない測定が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図面を参照して実施の形態について説明する。
【0021】
第1図は実施の形態に係る試料液濃縮装置を示す斜視図、第2図は1組の基板及びスペーサの斜視図、第3図は微粒子の濃縮原理を示す模式図である。
【0022】
第1図の通り、試料液濃縮装置1は、基板積層体2と、この基板積層体2の一方の端面に設けられた原水ヘッド3と、他方の端面に設けられた希釈水ヘッド4及び濃縮水ヘッド5とを備えている。
【0023】
基板積層体2は、複数枚(好ましくは3枚以上、例えば5〜10枚程度)の基板6を電極面が同じ側になるようにして相互間にスペーサ7を介して基板、スペーサ、基板、…、基板の順になるように積層したものである。この実施態様では、基板積層体2を構成する基板6のうち、電極面が基板積層体2の外側になる最端の1枚については、電極面を持たない基板6’とした。第2図の通りスペーサ7は、基板6の周縁を周回しているが、基板積層体2の前記一方の端面に臨む辺と他方の端面に臨む面とで途切れ、これによって原水の流入口8と、濃縮水流出口10と、希釈水流出口11とが設けられている。基板6,6とスペーサ7とで囲まれた領域がチャンバ9となっている。基板とスペーサを一体型としても構わない。
【0024】
基板6の一方の板面には、第1の端子14に導通した第1の櫛形電極15と、第2の端子16に導通した第2の櫛形電極17とが設けられている。櫛形電極15,17は例えばクロムなどの耐食性金属材料のメッキや金属箔の貼着などによって形成されるが、その形成手段は特に限定されない。
【0025】
櫛形電極15,17は、それぞれ流入口8から流出口10,11に向う平均的な水の流れに対し斜交する方向に長く延在している。櫛形電極15,17は互いに平行に且つ互い違いに配列されている。即ち、櫛形電極15には櫛形電極17が隣接するように配列されている。
【0026】
超純水を濃縮処理する場合、スペーサ7の厚み即ちチャンバ9の厚みは10〜500μm程度が好適であり、チャンバ9の幅(第2図の左右方向幅)は10〜100mm程度が好適である。また、隣接する櫛形電極15,17間の距離は5〜100μm特に10〜60μm程度が好適である。1本の櫛形電極15,17の幅は5〜50μm程度が好適である。
【0027】
チャンバ9内の水の平均的な流れ方向は、この実施の形態では流入口8が臨む基板積層体2の一方の端面と、流出口10,11が臨む他方の端面とに垂直な直線L(第3図)の方向に合致する。各櫛形電極15,17は、流入口8から離れるほど濃縮水流出口10側に近づくように配向している。この実施の形態では、この直線Lと各櫛形電極15,17との交差角度θは10〜60°程度であることが好ましい。
【0028】
櫛形電極15,17間に印加する電圧は直流電圧であってもよく、交流電圧であってもよく、半波整流電圧などであってもよい。超純水の濃縮処理を行う場合、印加電圧としては、櫛形電極15,17間の電位勾配が50〜200V/mm程度となる電圧が好ましい。
【0029】
この電圧を印加した状態で、チャンバ9内に平均線速度が5〜100mm/sec程度で超純水を流通させた場合、超純水中の微粒子が各櫛形電極15,17に引き付けられて捕捉される。
【0030】
即ち、櫛形電極15,17の間に電圧をかけると、両極の間隙の部分には電位勾配の高い場が形成される。このような電場に粒子が流れ込んで来ると、粒子が分極し、電位勾配の高い方に引力が働く。従って、櫛形電極15,17を形成した板面に沿って微粒子を含む流体を流すと、電極に粒子が弱く結合して電気力線に沿って鎖状につながる現象(パールチェイン)によって微粒子が捕捉される。
【0031】
各微粒子には、原水の流れによる力も作用するので、第3図の通り、微粒子Pは櫛形電極15,17に沿って下流方向へ流れる。その結果、微粒子はチャンバ9内を流れる間に次第に濃縮水流出口10側へシフトし、濃縮水流出口10からは微粒子濃度の高い濃縮水が流出することになる。一方、希釈水流出口11からは、微粒子濃度の低い希釈水が流出する。
【0032】
この濃縮水流出口10から流出した濃縮水は、微粒子計数装置(図示略)に導入され、微粒子数が測定される。
【0033】
この微粒子数計数装置としては、レーザーなどを用いた光散乱式微粒子計数装置が好適である。この微粒子計数装置は、単位体積当りの水中の微粒子数を測定値として出力する。この出力値の単位は、例えば(個/mL)などとして表される。
【0034】
微粒子計数装置の測定値を濃縮倍率で除算することにより、超純水などの原水の単位体積中の微粒子数が演算される。
【0035】
濃縮倍率は、[原水の流量(L/Hr)]/[濃縮水の流量(L/Hr)]である。
【0036】
なお、定期的に電極15,17間に印加している電圧を取り去るか、低下させることによって、粒子の捕捉状態を解放し、流れによって下流側に流出させることで濃縮液を取り出すようにしてもよい。
【実施例】
【0037】
実施例1
50mm角のガラス板にCrを用いて線幅30μm、間隔10μm、最大長さ60mm、角度θ=30°の第2図に示す櫛形電極を形成した。厚さ30μmのスペーサ3枚をこのガラス板4枚で互い違いになるように挟み、第1図に示す誘電泳動濃縮装置を作成した。チャンバ9内の横幅は50mmである。
【0038】
純水に直径0.5μmのポリスチレンラテックス粒子を懸濁させた液を小型のチューブポンプを用いて流入口8より1mL/minの流量で供給し、流出口10,11から流出する液をそれぞれ別の容器に受けた。通水中に、電極15,17に電圧2V、周波数1kHzの電圧を印加した。
【0039】
一定時間経過後、流出口10,11からの流出液を採取し、光散乱方式によるパーティクルカウンターを用いて液中の粒径0.5μm以下の微粒子濃度を測定した。その結果は、次の通りであった。
給水中の微粒子濃度:250個/mL
濃縮水中の微粒子濃度:1340個/mL
希釈水中の微粒子濃度:32個/mL
【0040】
実施例2
給水として、微粒子濃度が48個/mLのものを用いた他は、実施例1と同一条件にて通水試験を行った。その結果を次に示す。
給水中の微粒子濃度:48個/mL
濃縮水中の微粒子濃度:335個/mL
希釈水中の微粒子濃度:11個/mL
【0041】
これらの実施例1,2より、実施例装置によると微粒子が濃縮されることが認められた。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】実施の形態に係る濃縮装置の斜視図である。
【図2】実施の形態に係る濃縮装置を構成する1組の基板及びスペーサの斜視図である。
【図3】誘電泳動による濃縮作動の説明図である。
【符号の説明】
【0043】
1 濃縮装置
2 基板積層体
6 基板
7 スペーサ
8 流入口
10 濃縮水流出口
11 希釈水流出口
15,17 櫛形電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微粒子を含んだ試料液が流入口から流入するチャンバと、
該チャンバ内に設けられた少なくとも1対の電極を備え、該電極間に試料液が流通され、該電極に電圧が印加されることによって試料液中の微粒子を誘電泳動させ、該試料液を微粒子濃度の高い濃縮液と微粒子濃度の低い希釈液とに分けるための誘電泳動装置と、
該誘電泳動装置で生成した濃縮液及び希釈液をそれぞれ流出させるための濃縮液流出口及び希釈液流出口と
を有する試料液濃縮装置であって、
該電極は、該チャンバ内の該試料液の流れ方向と交差方向に延在し、かつ下流側ほど濃縮液流出口に近づくように配向していることを特徴とする試料液濃縮装置。
【請求項2】
請求項1において、前記電極は櫛形電極であることを特徴する試料液濃縮装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記電極は、前記チャンバ内の平均的な液の流れ方向に対する交差角度が10〜60°となるように延在していることを特徴とする試料液濃縮装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、相互間に通液スペースをあけて積層配置された複数枚の板体を備え、
該通液スペースが前記チャンバとされ、
該板体上に前記電極が設けられていることを特徴とする試料液濃縮装置。
【請求項5】
微粒子を含む試料液を、請求項1ないし4のいずれか1項の試料液濃縮装置によって微粒子濃度の高い濃縮液と微粒子濃度の低い希釈液とに分離する濃縮工程と、
濃縮液中の微粒子数を測定する微粒子数測定工程と、
濃縮倍率と微粒子数測定値とに基づいて前記試料液に含まれる微粒子数を算出する演算工程と、
を有することを特徴とする液中の微粒子数の測定方法。
【請求項6】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の試料液濃縮装置と、
該試料液濃縮装置からの濃縮液中の微粒子数を測定する微粒子数測定手段と、
濃縮倍率と微粒子数測定値とに基づいて前記超純水に含まれる微粒子数を算出する演算手段と、
を有することを特徴とする液中の微粒子数の測定装置。
【請求項7】
請求項6において、前記微粒子数測定手段は光散乱による微粒子数測定装置であることを特徴とする超純水中の微粒子数の測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−249513(P2008−249513A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−91670(P2007−91670)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】