説明

液中プラズマ発生装置、これを用いた清掃装置、補修装置、清掃方法および補修方法

【課題】高周波や超音波をより効率的に供給でき、生体内や配管内など狭い場所でも使用することができる液中プラズマ発生装置や清掃装置、補修装置、清掃方法、補修方法を提供する。
【解決手段】液中プラズマ発生装置は、延在する同軸ケーブルと、同軸ケーブルの第1端部側の先端にて同軸ケーブルの内導体12に接続された液中プラズマ用電極3と、第1端部とは反対の第2端部側に接続された高周波供給装置を有し、同軸ケーブルを介して高周波を液中プラズマ用電極3に供給し、液中プラズマ用電極3より液中に電磁波を照射して液中プラズマを発生させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、液体中において、高エネルギーのプラズマを発生するためのプラズマ発生装置およびプラズマ発生方法に関するものであり、特に、配管内や人体内など大きな装置を送り込みにくい場所での適用に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1〜3などには、液体中でプラズマを発生させることが記載されている。高周波(マイクロ波を含む)を液体に照射し、液中で高エネルギーのプラズマを発生させるものである。液体は気体に比べて物質密度が高いので、プラズマの密度も高く、表面蒸着や各種化学反応に適用した場合、気相プラズマに比べて処理速度が格段に高い。プラズマ温度は高いが、熱容量の大きい液体中であるのでマクロ的には低温であり、精密な装置や生体など熱に対して繊細な対象への利用にも適している。
【0003】
また、特許文献4には、生体内の媒体中に電磁波を照射する装置と超音波を照射する装置をそれぞれ生体外に配置し、高周波用電極と超音波振動エネルギーの伝達としての2つの役割を兼用する金属製のワイヤーを生体内に挿入することによって、超音波振動を生体内に伝達させるとともに、生体内にプラズマを発生させる医療用治療装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3624238号特許公報
【特許文献2】特許第3624239号特許公報
【特許文献3】特許第4370378号特許公報
【特許文献4】特開2006−263419号公開公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1〜3などに記載されているような液中に電磁波を照射してプラズマを発生する方法によると、高エネルギーでありながらマクロ的には低温である安全な液中プラズマが得られ、生体や精密な装置内部などへの利用に適している。しかし、生体内や配管内など狭い場所では、大型の装置を設置できない。
【0006】
特許文献4の発明は、高周波用電極と超音波振動エネルギーの伝達としての2つの役割を兼用する金属製のワイヤーを生体内に挿入することによって、超音波振動を生体内に伝達させるとともに、生体内にプラズマを発生させる。しかし、より深部でプラズマを使用する場合、高周波や超音波をより効率的に供給することが望まれる。また、複雑な配管や、消化管・血管などの屈曲部にも柔軟に対応できることが好ましい。
【0007】
この発明は、高周波や超音波をより効率的に供給でき、生体内や配管内など狭い場所でも使用することができる液中プラズマ発生装置、清掃装置、補修装置、清掃方法および補修方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、この発明の液中プラズマ発生装置は、延在する同軸ケーブルと、同軸ケーブルの第1端部側の先端にて同軸ケーブルの内導体に接続された液中プラズマ用電極と、第1端部とは反対の第2端部側に接続された高周波供給装置を有し、同軸ケーブルを介して高周波を液中プラズマ用電極に供給し、液中プラズマ用電極より液中に電磁波を照射して液中プラズマを発生させる。同軸ケーブルの内導体が銅線であり、内導体の第1端部側の先端に電極ソケットが設けられており、電極ソケットにタングステンの液中プラズマ用電極が着脱可能に取り付けられることが好ましい。また、同軸ケーブルの第1端部側の先端部に超音波振動子が設けられており、第2端部側には超音波用電源が接続されており、超音波振動子より液中に超音波を照射することが好ましい。同軸ケーブルに沿って設けられたチューブと、チューブの第2端部側に接続されたポンプを備えてもよい。
【0009】
上述の液中プラズマ発生装置は、清掃装置または補修装置として使用することもできる。同軸ケーブルを配管内に挿入し、配管内で液中プラズマを発生させて清掃したり、配管内の損傷箇所を補修することができる。
【発明の効果】
【0010】
この発明に係る液中プラズマ発生装置、これを用いた清掃装置、補修装置、清掃方法および補修方法は、同軸ケーブルを介して高周波を液中プラズマ用電極に効率的に供給する。屈曲部にも容易に追随することができる。また、低い電力でも音圧の高い超音波を発生させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】液中プラズマ発生装置を示す概念図である。
【図2】液中プラズマ用電極の例を示す断面図である。
【図3】液中プラズマによる発光スペクトルを示すグラフである。
【図4】超音波の音圧を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
この発明を実施するための形態について、図面に基づいて説明する。図1は液中プラズマ発生装置を示す概念図であり、図2は液中プラズマ用電極の例を示す断面図である。この液中プラズマ発生装置1は、延在する同軸ケーブル2を有する。この同軸ケーブル2の一端部には液中プラズマ用電極3が設けられており、この側の端部を第1端部と呼ぶことにする。一方、第1端部とは反対の端部にはマッチングボックス4と電磁波用高周波供給装置5が設けられており、この側の端部を第2端部と呼ぶことにする。
【0013】
同軸ケーブル2に沿って、超音波用の電線6とチューブ7が設けられている。同軸ケーブル2の第1端部側の先端部外周に筒状の超音波振動子8が設けられており、第2端部にはマッチングボックス9と超音波用高周波供給装置10が設けられている。そして、超音波用高周波供給装置10は、マッチングボックス9および超音波用の電線6を介して超音波振動子8と電気的に接続されている。また、第1端部側において、チューブ7にはポンプ11が接続されている。
【0014】
同軸ケーブル2は、中心に内導体12を有し、内導体12の外周には外導体13が同心円状に設けられている。内導体12と外導体13の間には絶縁体14が設けられてあり、また外導体13の外周にはビニールなどの絶縁体15による被覆がなされている。この同軸ケーブル2の太さおよび長さは、用途や消費電力に合わせて適宜選択される。内導体12は導電性が高く、柔軟性がある銅線が好ましい。また、外導体13も細い銅線で編みあげられたものが使用できる。このような同軸ケーブル2は工業的に規格化されたものもあり、清掃用として用いる場合などは、通常の規格品を使用してもよい。ここでは、外径2.3mmのものを使用した。
【0015】
液中プラズマ用電極3について説明する。液中プラズマ用電極3としては、耐久性の高い金属が好ましく、ここではタングステン線を使用する。内導体14の第1端部側の先端に電極ソケット16が設けられており、この電極ソケット16にタングステンの液中プラズマ用電極3が着脱可能に取り付けられる。電極ソケット16の素材には導電性が高く、接触抵抗が小さくて柔らかい金属が適しており、銅や金などが使用できる。プラズマの発生によって液中プラズマ用電極3が消耗したときは、液中プラズマ用電極3のみを交換すればよい。
【0016】
液中プラズマ用電極3の外周には銅製の対向電極(外部電極)17が設けられており、同軸ケーブル2の外導体13に接続されている。液中プラズマ用電極3と対向電極17の間にはフッ素樹脂18と碍子19が絶縁体として設けられている。そして、液中プラズマ用電極3は、外部電極17や絶縁体18,19よりもやや突出している。また、外部電極17の外周も、ビニールなどの絶縁体20により覆われている。
【0017】
電磁波用高周波供給装置5は、マッチングボックス4、同軸ケーブル2の内導体12および電極ソケット16を介して液中プラズマ用電極3に高周波を供給する。同軸ケーブル2の外導体13は接地されている。電磁波用高周波としては、たとえば20kHz〜10GHzの周波数が使用できる。
【0018】
超音波振動子9は、筒状のピエゾ素子で形成されており、その内径は同軸ケーブル2の外径とほぼ同じである。超音波振動子9の電極は筒の両端部に設けてもよいが、ここでは、外周面と内周面に電極を設けている。超音波としては、たとえば10kHz〜100MHzの周波数が使用できる。
【0019】
チューブ7は第1端部側において開放している。また、第2端部側においてポンプ11に接続されているので、チューブ7を介して流体の吸引または吐出を行うことができる。
【0020】
同軸ケーブル2およびその第1端部の直径は小さいので、狭い場所に挿入することができる。また、同軸ケーブル2は柔軟に変形することができるので、細管xに沿って深部へ送り込むこともできる。
【0021】
たとえば、この液中プラズマ発生装置は、人や動物の治療装置として生体内で使用することができる。たとえば、同軸ケーブル2をカテーテル内に取り付けて血管(細管x)に挿入し、第1端部の液中プラズマ用電極3を血栓yなどがあるところまで送り込む。電磁波用高周波供給装置5を作動させて高周波を液中プラズマ用電極3に供給する。これにより、血液中でプラズマが発生し、血栓を破砕する。超音波振動子9より超音波を同時に照射してもよい。また、ポンプ11を作動させて、細かくされた血栓の破片をチューブで吸引しながら取り除くこともできる。
【0022】
また、この液中プラズマ発生装置は、排水管の内部などを清掃する清掃装置や配管内の損傷箇所を清掃する清掃装置として使用することができる。挿入すべき管の大きさによっては、より太い同軸ケーブル2を使用することもできる。同軸ケーブル2を介して高周波を供給するので、長い同軸ケーブル2を配管内に挿入して遠くまで液中プラズマ用電極3を送り込んでも、効率的に液中プラズマを発生させることができる。高圧洗浄などでは除去しにくい汚れも、液中プラズマの作用によって破砕したり、分解することができる。また、配管内の損傷箇所などに液中プラズマ用電極3を到達させ、液中プラズマを発生させて炭素膜などの強固な膜を形成したり、溶接のように金属を付着させてクラック等を埋めたりすることにより、損傷箇所を補修することができる。さらに、配管以外にも、大きな装置の入りにくい狭い場所で使用して、清掃や補修を行うことができる。
【0023】
ここで、この発明の液中プラズマ発生装置による液中プラズマの発生例について説明する。図3は、液中プラズマによる発光スペクトルを示すグラフである。ここでは、直径2.3mmの同軸ケーブルを使用し、液中プラズマ用電極としては、直径0.3mmのタングステン線を使用した。供給する高周波の周波数は27MHzである。液体としては純水を使用し、大気圧下でプラズマを発生させた。
【0024】
図3の分光データより、OHとHα,Hβなどの典型的な水プラズマの発生が確認できる。また、銅製の対向電極17に基づくCuの発光も観察できる。Hα,Hβのスペクトル比から計算される電子温度は平均3600Kである。
【0025】
ついで、この発明の液中プラズマ発生装置による超音波照射の例について説明する。図4は、超音波の音圧を示すグラフである。ここでは、筒状の超音波振動子として、内径2mm、外径3mm、長さ20mmの圧電セラミックを使用した。周波数79kHz〜151kHzの電気信号をアンプで増幅し、印加電力1Wで筒状の超音波振動子に供給して水中で超音波を発生させた。超音波の音圧は、Process Equipment社のハイドロホンを使用して測定した。その結果は、図4の二重丸で示されている。また、直径3mm、厚さ10mmの円盤状の圧電セラミックの超音波振動子についても、同一条件で超音波を発生させ、音圧を測定した。この円盤状の超音波振動子の結果は、黒塗りの丸で示す。
【0026】
さらに、比較例として、特許文献4に記載された装置による超音波の発生も行った。これは、ステンレスワイヤーを使用した装置であり、挿入される側とは逆の端部(この発明の第2端部に相当する側)にて超音波を発生させ、その超音波をステンレスワイヤーで伝達させて、液中に照射するものである。この比較例による音圧データを正方形の点で示す。
【0027】
図4の縦軸は音圧であり、横軸は距離Lと直径Dに比L/Dである。これより、筒状の超音波振動子の音圧が高いことが確認できる。この発明の液中プラズマ発生装置は、電磁波照射によっても液中プラズマを発生させることができるが、特許文献1等に示されるように、超音波を畳重することによってより効果的に液中プラズマが発生できるようになる。
【符号の説明】
【0028】
1.液中プラズマ発生装置
2.同軸ケーブル
3.液中プラズマ用電極
5.電磁波用高周波供給装置
6.超音波用電線
7.チューブ
8.超音波振動子
10.超音波用高周波供給装置
11.ポンプ
12.内導体
13.外導体
14.絶縁体
16.電極ソケット
17.対向電極(外部電極)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
延在する同軸ケーブルと、同軸ケーブルの第1端部側の先端にて同軸ケーブルの内導体に接続された液中プラズマ用電極と、第1端部とは反対の第2端部側に接続された高周波供給装置を有し、同軸ケーブルを介して高周波を液中プラズマ用電極に供給し、液中プラズマ用電極より液中に電磁波を照射して液中プラズマを発生させる液中プラズマ発生装置。
【請求項2】
同軸ケーブルの内導体が銅線であり、内導体の第1端部側の先端に電極ソケットが設けられており、電極ソケットにタングステンの液中プラズマ用電極が着脱可能に取り付けられる請求項1に記載の液中プラズマ発生装置。
【請求項3】
同軸ケーブルの第1端部側の先端部に超音波振動子が設けられており、第2端部側には超音波用電源が接続されており、超音波振動子より液中に超音波を照射する請求項1または請求項2に記載の液中プラズマ発生装置。
【請求項4】
同軸ケーブルに沿って設けられたチューブと、チューブの第2端部側に接続されたポンプを有する請求項1から請求項3のいずれかに記載の液中プラズマ発生装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の液中プラズマ発生装置を備えた清掃装置。
【請求項6】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の液中プラズマ発生装置を備えた補修装置。
【請求項7】
請求項5に記載の清掃装置を使用し、同軸ケーブルを配管内に挿入し、配管内で液中プラズマを発生させて清掃する清掃方法。
【請求項8】
請求項6に記載の補修装置を使用し、同軸ケーブルを配管内に挿入し、配管内で液中プラズマを発生させて配管内の損傷箇所を補修する補修方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−210453(P2011−210453A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−75478(P2010−75478)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年2月17日 愛媛大学工学部発行の「平成21年度卒業論文概要集」に発表
【出願人】(504147254)国立大学法人愛媛大学 (214)
【Fターム(参考)】